『チェネレントラ』




          第五幕 大団円


 それから暫く経ちラミーロとチェネレントラの婚礼の儀が執り行われることとなった。指輪が戻ったあの日以来チェネレントラは王宮に留まり婚礼の準備に余念がなかった。そしてその日が遂にやってきたのだ。
「王子様万歳!お妃様万歳!」
 周りの祝う声が木霊する。その中を着飾った二人が進む。
「妃よ」
 ラミーロはうっとりとした顔で横にいる彼女を見た。
「殿下」
 チェネレントラはそれに応えて笑みを彼に返した。清楚な、それでいて優美な笑みであった。
「まだ信じられません、このようなことが起こるとは」
「夢ではないんだ」
 ラミーロは優しい声でそう応えた。
「その証拠に・・・・・・見るんだ」
 彼は彼女の左手をとってそれを彼女自身に見せた。
「この指輪を。今それは貴女の手にある」
「はい」
「これが何よりの証拠だ。今貴女は私の妻となるのだ」
「夢ではなく本当に」
「そうだ」
「私が殿下のお妃に・・・・・・。何ということでしょう」
 チェネレントラは恍惚とした顔でそう呟いた。
「今まで灰にまみれていたというのに」
 二人はそのままゆっくりと進む。皆二人を祝福していた。その中にあの三人もいた。
「あの・・・・・・」
 ティズベが何か言おうとして止めた。三人はマニフィコを中心に俯いて立っていた。
「何か」
 チェネレントラは彼等にその優美な微笑みを見せて応えた。
「いえ、何も」
 ティズベはその言葉を打ち消した。そしてまた俯いた。
「そうですか」
 チェネレントラはそれを聞いて寂しそうに応えた。
「まだ娘と、妹と呼んでは下さいませんのね」
「私達にそのような資格はありません」
 マニフィコは首を横に振ってそう返事を返した。
「今までのことを思えば」
「今までのことをですか」
「はい」
 三人はそれに答えた。
「それでは是非娘と、妹と呼んで下さいませ」
「えっ!?」
「まさか」
「やはりな」
 アリドーロはそれを見てにこりと笑った。見れば彼だけでなくダンディーニもいた。
「今まで私達は貴方達と共に暮らしておりまして」
「使用人としてこき使って」
「歌を下手だと言って」
「それはもう過ぎたことです」
 チェネレントラは笑ってそう言った。
「それよりも私はこれからのことを考えたいのです」
「これからのこと」
「妃よ、それは」
「はい」
 ラミーロもそれを聞いて彼女に問うた。彼女はまた微笑んでそれに応えた。
「私は玉座へと昇ります」
「はい」
「それで私達を・・・・・・」
 三人はそう呟きながら震えていた。だがそれでもチェネレントラはそれを宥めた。
「そんなことはしませんわ」
「そんな馬鹿な」
「今までのことを思えば復讐するのが当然よ」
「そうよね、それが人間ですもの」
「復讐ですか」
 チェネレントラはそれを聞いてまた笑った。
「復讐されることを望まれるのですか?」
「貴女がそう望まれるのなら」
 三人はそう答えた。
「慎んでそれを受けましょう」
「わかりました」
 チェネレントラはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「それでは復讐を致しましょう」
「はい・・・・・・」
「覚悟はできております」
 三人は頭を垂れた。チェネレントラはその三人に前に歩み寄った。そしてその両手を広げた。その手で彼等を包み込んだ。
「え・・・・・・」
 包み込まれた彼等は驚いた顔でその手を見た。白く長い絹の手袋で包まれた、清らかな手であった。
「これが私の復讐です」
 チェネレントラは優美な笑みを保ったままそう言った。
「私はこれからも、そして何時までも貴方達と家族でいたいのです。宜しいでしょうか」
「はい・・・・・・」
 三人はその手の中で頷いた。そして赤い絨毯に一粒の真珠を落とした。それで全てが許された。
「私は確かに今までは恵まれているとは言えませんでした」
 チェネレントラは三人から離れるとそう語りはじめた。
「それに耐える日々が続きました。・・・・・・けれどそれはほんの一瞬のことでした」
「そう、ほんの一瞬のことでした」
 アリドーロがやって来てそう言った。
「全ての苦しみは一瞬のことなのです」
「先生がいつも言われていることですね」
「はい」
 彼はラミーロにそう答えた。
「しかしそれに耐えることこそが肝心なのです。そうですね、お妃様」
「ええ、その通りだと思います」
 優雅に微笑んでそう答える。
「素晴らしい魔法の力で花の歳に私は生まれ変わりました。まるで稲妻の様に」
「それに立ち会えたのは何という幸運だったのでしょう」
 ダンディーニもやって来た。
「私達も共に生まれ変わることができましたから」
「私もですか?」
 マニフィコが小さな声でアリドーロに尋ねた。
「私達もでしょうか」
 ティズベとクロリンデもであった。彼等は不安そうな顔でアリドーロに尋ねていた。
「勿論ですよ」
 彼は笑顔で三人にそう答えた。
「ですから今この場におられるのです。それに先程のあれです」
「あれですか」
「はい」
 彼はここで先程の真珠について言及した。
「あれこそが貴方達の改心の証。これで貴方達はお妃様と本当の意味で家族となったのです」
「本当の意味で」
「はい」
 彼は答えた。
「それは貴方達御自身が最もよくわかっておられると思いますよ」
「確かに」
 三人はそれを聞いて頷いた。
「そう言われればそうだと思います」
「そうでしょう」
「では私達も貴方達の中に入って宜しいでしょうか。お妃様をお祝いする為に」
「当然です」
 アリドーロは我が意を得たとばかりに笑みを作ってそれに応えた。
「その為に貴方達はおられるのですから」
「ならば」
 三人もチェネレントラの周りに来た。そして彼女を取り囲んだ。
「これからも宜しくお願いします」
「喜んで」
「それでは皆さん」
 アリドーロがその場にいる一同に対して言った。
「これから心ゆくまで祝うとしましょう。これから続く永遠の幸せを祝福する為に」
「はい!」
 シャンパンの栓が放たれた。そしてそれで部屋も人も濡らす。
「うわっ!」
 ラミーロにもチェネレントラにも、そしてマニフィコ達にもそれは放たれた。そして皆喜びの美酒を味わうのであった。


チェネレントラ   完



                                     2005・3・26





うんうん。本当に大団円だな。
美姫 「良かったわね〜」
うんうん。原作というのかどうかは分からないけれど、シンデレラって、ハトが目をくり貫くんだよな、確か。
美姫 「童話って、実はそういうの多いわよね」
ブルブル。ともあれ、丸く収まってよかったよ。
美姫 「そうよね〜。物語の中でぐらい、ハッピーエンドが良いわよね」
……もしもし? その剣は?
美姫 「だから、幸せはお話の中で味わったでしょう?」
えっと、ちょっとは現実でも味わいたいかな〜、とか思ったり、したり、してみたり…。
美姫 「アンタの働き次第ね」
う、うぅっ。現実とは、かくも無残なものなんだ。
美姫 「って、既に書く方を諦めてるし!」
じょ、冗談だって。
美姫 「怪しいものね」
ほら、今はこっちの話じゃないだろう。
美姫 「まあ、それもそうね」
坂田さん、素敵な物語をありがとうございました。
美姫 「ございました」
とても面白かったです。
美姫 「それでは、この辺で」
ではでは。



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