『第四夜 誰がために』




             序曲


 解放軍が公表した皇帝アルヴィスの先の大戦における一連の謀略は大陸中の大きな衝撃を与えた。ランゴバルト、レプトール両公等と共謀し大陸各地で反乱を起こさせ周辺諸国を滅ぼすと共にクルト王子を暗殺しその罪をシアルフィのバイロン公、シグルド公子父子に被せる。その後ランゴバルト及びレプトールをシグルドに倒させ彼と友好関係にあるレンスターをトラキアに攻めさせ残ったシグルドを謀反人として消しアズムール王を毒殺し自らが帝位に就くーーーー。以前より密かに噂されていた事が全て事実であったと知ってグランベルの全ての者が激怒した。帝国はこれを反乱軍の虚言だと発表したが誰も信じなかった。既に解放軍の下にあるイザークとレンスターはもとよりかってシグルドと共に戦った者達が率いるシレジアとアグストリア、ヴェルダンでも民衆の反帝国感情は頂点に達し反乱軍の勢いは抑えきれぬ程にまでなった。帝国が送った官吏が虐殺され反乱軍へ参加したり寝返ったりとあからさまな反帝国活動を行なう者が続出した。ここに至り帝国はシレジア、アグストリア、及びヴェルダンからの全面撤退を決定しこれ等の国々が帝国から解放された。
 グランベル帝国本土でも自体は深刻であった。バイロン公、シグルド公子の領地であり先の大戦以降厳しく抑圧されていたシアルフィを筆頭にクロード神父の出身であるエッダ、エーディン、ブリギット両公女のユングヴィ等シグルドと関係の深い地域の他にもフリージ、ドズルで小規模ながら暴動が頻発し帝国はその対処に追われた。帝都バーハラでも旧王家が謀殺された事で帝国に対する嫌悪感が極限にまで達していた。宮廷に出て来る者はヴェルトマーの者以外は殆どおらず貴族や将兵達が次々と反乱軍、とりわけセリス率いる解放軍へ参入していた。最早帝国にそれを防ぐ力も権威もなくただ見ているだけであった。グランベル帝国は完全に瓦解した。
 対する解放軍はトラキア軍との講和を進めると共に盟主セリスの名で『解放令』を発した。
 これは帝国により敷かれていた奴隷制度の全廃、貴族の権限の大幅な縮小、農民や商人の権利の保障、暗黒教団狩りと銘打った異端審問の禁止、残虐な拷問や処刑の厳禁といった今まで解放軍が解放した地で行なっていた政策をユグドラル全土に発しただけであったがこれにより解放軍の名声はさらに高まった。
 同時にセリスはそれまでの呼称であったシアルフィ家シグルドの子であるという『公子』からシグルドとディアドラの子でありグランベルの王位継承者である事を示す『皇子』と変えた。この事によりアルヴィスが簒奪者に過ぎず自らの手で征伐すると宣言したのであった。
 志願兵が殺到し資金や武具、食糧等を提供してくれる。今や解放軍は総兵力四十万を越え知将勇将達を揃えていた。士気は国を多い勢いは大河の流れのようであった。
 だが盟主セリスの顔は晴れなかった。ミーズ城で南に聳え立つトラキア山脈を憂いを含んだ目で見ていた。


第四部、ここに始まる!
美姫 「いよいよ、物語りも山場を迎えつつあるわね」
うんうん。先の大戦の真実が明らかとなり、人民の心は解放軍へと。
美姫 「しかし、セリスの胸中は複雑な思いがありそう」
果たして、どんな出来事が待っているのか!?



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