『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「もう、準備は良い?」

「えぇ……こちらは、いつでも良いですよ」

得物こそ違うが、この場所には剣士が二人いる。
一人は自分。用意された小太刀サイズの木刀のうち、一本を腰に差し、もう一本を手に持っている。

対峙する、もう一人の剣士は『倉島渚』。倉島財閥の代表者にして、元フェンシングのオリンピック代表。
彼女が手にするのは、レイピアと呼ばれる得物。

フェンシングの選手と闘ったことはないが、とにかくスピードに注意しなくてはならない。
フェンシングという西洋剣術は、自分たちが使う東洋剣術と違い、
細身の剣を生かしたスピードと突きが特徴であり、長所だ。

それに対して、こちらは打ち合うことが特徴であり、長所の剣術だ。
普段のままの戦術では、勝ち目は低い。

さて、どう作戦を立てるべきか……





第五話 いざ、出雲学園へ(『剣士たちの闘い』編)





「ルールはどうします?」

作戦を立てる上で、ルールの存在は重要だ。
そう思い、聞いてみた。

「そーねぇ〜……純粋に剣のみの勝負にしましょう!!
 お互い剣以外の隠し玉がありそうだけど、制限しないとキリがないから……」

……そういえばこの人は、新聞やテレビでプロフィールが紹介されると、必ず皆が驚くことになる。
なぜなら、紹介される度に趣味・特技が増えていくからだ。
普通なら冗談だと思われるが、この人の場合は本当である。
難癖をつけたレポーターに、それらの特技を披露して見せたからな。

……つまり、未だにに新しい格闘術や武術を吸収している可能性があるということだ。
いくら御神流が剣以外の暗器・格闘術にまで幅を広げていても、俺はその全てが使えるわけではない。
まして、相手は自分の倍近く生きている人間だ。
仮に同じだけ鍛錬していれば、どうしたってこちらが不利だ。

……ならば、剣のみの勝負の方が闘いやすい。
それに他流と闘る時は、このルールが一番慣れているしな。

「分かりました。では、そのルールでお願いします」

まずは、相手の出方を窺う。つまり様子見に徹する。
最大限の注意を払い、相手のスピードに負けないだけの闘い方をする。
そして、相手の手の内が読めてきたら、本来の闘い方に戻そう。

「そう……じゃあ、始めるわよ!合図はいる?」

「いえ、結構です。うちの流派には、始まりの合図はないですから」

「良い教えね……行くわよっ!」

倉島さんが、言い終わるか否かのタイミングで迫ってきた。



びゅんっ!びゅんっ!

細く鋭い突きが、先ほどから俺を襲ってくる。彼女の得物は細く長いので、よくしなる。
それを上手く利用すれば、とてつもなく速い突きが連続で出せる。
こちらとしても、既に二刀の木刀を用いて、応戦せざるを得ない状況だ。

それに彼女の闘い方は、先ほど思った『突きのみに特化した闘い方』ではなかった。
東洋剣術とは違った払い方や、薙ぎ方をするので、筋肉の付き方が違ったのだ。
稲妻のような怒涛の突きに加え、多彩な薙ぎや払い。こちらは、防戦で手一杯だ。


どうする?速く鋭い突きなら御神流にもあるが、射抜は単発技だ。
仮に次の技に派生させても、射抜以上のスピードを持った技は、持ち合わせていない。

一応策はあるものの、それには針の穴を通すコントロールと、彼女並みのスピードを持った射抜が必要だ。
美沙斗さんならいざ知らす、俺には打つことができない。
神速を使うことにも、躊躇いがある。向こうは技のみで挑んでくるのに、裏技を使うような気がするからだ。


「ちょこまかと……ちょっとは当たりなさいよ!!」

倉島さんが叫んでいる。
そんなことを言われても困る。こちらも必死なのだから。


ぶんっ、ぶんっ!がきっ、がきっ!

防戦のみに徹してきたおかげで、段々目が慣れてきた。
相手の攻撃のタイミングを計り、貫を入れての攻撃が可能になる。
こうなれば、相手に遅れを取ることはなくなる。

「……アンタ、やるわね。正直見くびってたわ……
 その実力に敬意を表して、ここからは裏技ありの全力でいかせてもらうわ!!」

彼女はそう言うと、次の瞬間には距離を取っていた。
恐らく次に来るのは、突進力を上乗せした突きだろう……何故だか分かる。
というか、彼女のこれから繰り出すであろう技が目に浮かんだ。それも鮮明に。

彼女は裏表なしの実力を出すと言った。ならば、こちらもそれに応えるのが礼儀というもの。
神速を使った薙旋。俺の持てる限りを尽くそう。そう思った瞬間、

『はあ〜、くらえっ!フレッシュ!!』

『馬鹿め、そんなモノが効くかっ!くらえ〜っ!!』

見たことがない光景が、頭の中を駆け巡った。
俺が繰り出した太刀は、女の子のフレッシュと呼ばれる刺突技をかき消し、なお勢いが衰えない。
そしてそれは、彼女に到達した。

俺が出したのは、技ではない。力任せの攻撃だ。
下に構えた剣を振り上げる動作で女の子の技をかき消し、振り下ろした剣で衝撃波を出す。
ただそれだけのこと。俺には使えないはずの攻撃が、何故頭に浮かぶんだ?

「くらえっ!フレッシュ!!」

考え込んでいたのは一瞬だった。だがその間にも、現実では倉島さんの技が眼前に迫っていた。
そしてさっき見た光景の、あの女の子と全く同じ技を繰り出していたのだ。

一瞬のうちに身体が動く。気が付くと、俺もさっきの光景での太刀を繰り出そうとしていた。
できるのか、俺に?……いや、できて当たり前のような気がする。
もう目の前に迫っている倉島さんの突きを、振り上げる剣の動作ではじき、そこに剣を振り下ろした。

どんっ!!

俺の攻撃を受けた倉島さんは、すごい勢いで壁まではじき飛ばされた。
……今のは何だ。俺ではない、俺の攻撃。それは凄まじいものだった。

「げほっ、げほっ」

呆けていた俺は、倉島さんの苦しげな声で現実に戻された。

「す、済みません!お怪我はありませんか!?」

「ふ〜、何とかね……アンタ凄いわね〜?こんなに強かった奴は、一人しか知らないわ」

「そんなことないですよ。倉島さんも十分強いですよ。それに今のは、火事場の馬鹿力みたいなものです」

そう、俺が使える技にあんなものはない。というか、あれは御神の技ではない。
一体、なんだったのだろうか?

「それだって実力の内よ……それにしても、今の攻撃はどっかでくらったことがあるような……」

倉島さんの言ったことの後半は聞き取れなかったが、彼女は満足してくれたようだ。
良かった。これで、家が被害に遭うことは避けられたようだ。
そう思って彼女の顔を見ると、いかにも悪巧みを考えています、という顔だった。

「(……惜しいわね〜。コイツが、もう二十年はやく生まれていたら……
 いや私は無理だけど、娘の汀と結婚させれば……)」

のちに知ったことだが、この時倉島さんはそんなことを考えていたらしい。


「おもしろい勝負ができたわ……また仕合ってくれるかしら?」

「……こちらこそ良い経験になりました。ありがとうございます……ぜひまた仕合いたいですね」

仕合に至る過程はとんでもないものだったが、良い勝負ができた。
自分の力以外で勝ったような気もするが、彼女と仕合ったおかげで新しい領域が見えたことも事実だ。
それを自分のものにする。それが新しい目標になりそうだ。

「それじゃあ、さっき言った通り、剣道場に案内してあげるわね」

そうだ。彼女との仕合ですっかり忘れていたが、六介さんに呼ばれていたんだった。
結構長く仕合っていたから、かなり待たせていることになる。急がなければならない。

「ええ、お願いします」

「本当は案内なんていらないくらい近いのよ、剣道場って。
 だけど、私のせいで遅れちゃったでしょ。塔馬先生に事情を説明してあげるわ」

「……助かります。六介さんは時間に厳しそうな方なので……」

「そうよ、感謝しなさい……そういえば、アンタ下の名前はなんて言うの?」

「恭也です。高町恭也と言います。『倉島渚』さん」

「ふ〜ん……じゃあ恭也!さっさと行くわよ!!」

そう言った倉島さんは、部屋の入り口まで走っていった。










あとがき

渚とのバトルでした。
サツキはバトルシーンが苦手なので、大変です。
もっと精進しなければ……がんばります!

今回は渚が登場しましたが、この後にも何人かゲストが控えています。
いつになったらIZUMO2の時間軸行くんだ!と文句の一つも言いたくなるでしょうが、
もう少し温かい目で見守って下さい。

それでは、このあたりで失礼します。




辛くも恭也の勝利〜。
美姫 「恭也が不意に出した技は…」
さてさて、これからどうなるのか。
美姫 「次回も楽しみね」
うんうん。次回も楽しみにしています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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