『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




猛は気が付くと、木々が茂る場所――どこかの森の中にいた。
日の光が差さない所を見ると既に夜であり、月の光が幻想的な風景。
そして月明かりに照らされた場所に、一人の女性が佇んでいた。

「ここは私の精神世界です、猛様……」

「!?あんたは一体……」

「私の名前は『蔓』……先程猛様と闘っていた、樹木の精霊です」





第二十九話 第一章 夢の中の蔓





「……えっ?悪いんだけど、もう一回言ってくれない?」

――『幻聴に違いない。というか、幻聴であってほしい』――という希望を込めての要望。
猛は自分が寝ぼけているのだと思った……というか、思わせてほしかった。
『ソレ』が真実だと認めてしまった場合、何かが崩れる――ソレは生存本能から来るモノだったのだろう。

「分かりました。私の名前は『蔓』……先程猛様と闘っていた、樹木の精霊です」

先程と、寸分違わぬ自己紹介をする女性。
猛が現実逃避したくなるのも理解できる。整った顔、長く美しい髪、そして緑色系の彩りの着物。
そのどれもが、先程の巨木――人外の化け物と同一のモノとは認識できない。

「じ、冗談……じゃないんだよな?」

「はい、冗談ではありせん」

猛の一縷の期待を込めた投げ掛けは、微笑みを伴った返答によって打ち砕かれた。
なまじ微笑んでいるだけに、そのギャップは激しい。
この差に耐えられる人間は、『あまり』存在しないだろう。

「それで、俺の前に現れた理由は?……まさかリターンマッチか?」

実際は猛が蔓の精神世界にいるのだが、ソレはこの際拘る点ではない。
先程は全員でようやく勝った相手――猛一人では勝敗は見えている。
そう考えながら、自然に自らの得物に手がいく猛。しかし……

「って、オイッ!?刀がないぞっ!!」

ここは蔓の精神世界。
精神だけが抜け出したその世界では、よほどの例外を除き、身一つで訪れることになる。
その事実を認識した時、猛の額から一筋の汗が伝った。

「え〜〜っと、俺は美味しくないぞっ!!」

「くすっ……大丈夫ですよ。先程の報復に来たわけではありませんから」

うろたえる猛を尻目に、優しく受け答える蔓。
その姿はまさに精霊、その名に相応しい姿だった。
だからこそ猛は気が付かなかった――言外に『食べないとはいってませんよ?』と言っていることに……

「私は契約を交わして頂きに――貴方に私の主になって頂きたくて、参上したのです」

「主?」

「はい、私はこの神聖な場所を守護し、草木を操る精霊。故に、先程猛様たちの力を試させて頂きました。
 結果はご存知の通りです。これからの旅のお供に、連れいていってほしい――そういう意味です。
 そして、そのために契約を――契りを交わして頂きたいのです」

「そういうことか……でも何で俺なんだ?蔓を倒したのは、恭也だぞ?」

確かに猛は、他のメンバー同様に死力を尽くして闘ったが、
蔓に二度も大きなダメージを与え、止めを刺したのは恭也である。
そのことに対しての疑問が、猛の中で浮かび上がった。

「猛様……私が普通の木に戻った時に、なんて仰ったか覚えていますか?」

「え?確か……」

過去を回想する猛。
巨木が――蔓が一本の木に戻った時、恭也はそのまま切り倒そうとした。
ソレは巨木が再生するのを防ぐためであり、皆の安全を確保するためという思想から来るモノだった。

「それで俺が……」

恭也のその行いを止めたのは、他ならぬ猛だった。
――『こうなったら、もう危害は加えてこないぜ。もしそうなったら、今度は俺が倒すよ!!』――と言って。
ソレを聞いた恭也は、一瞬驚いた顔をした後で、猛の要望を聞き入れた。

「思い出して頂けましたか?」

「あぁ、思い出したよ!……でも、ソレがどうしたんだ?」

「あの時私は、貴方の猛る魂の中にある、優しさを見せて頂きました。
 そして私は思いました、『この方のお役に立ちたい』――――っと」

「そっか……わかった。契約しよう、蔓」

「はい、ありがとうございます」

「それで、契約ってどうすれば良いんだ?」

猛の頭の中を駆け巡る契約の予想。
『契約書』と描かれた紙面に、判子を押すのか。
それともサインでもするのか――と、様々な予想図が浮かんでは消えた。

「……貴方の気を、私に分けて頂きたいのです」

「『気』?」

「はい。気とは、心身の高ぶりと共に発せられるモノ――その時に身体を重ねることで、
 私と貴方の『気』を交換することが出来るのです」

『身体を重ねる』――その単語が、猛の頭の中で爆発する。
思春期の少年には――特に『エッチな少年』の烙印を芹によって押された猛には、
一つに事象しか思い浮かばなかった。にやける顔――ソレを見た蔓は同意のサインだと勘違いした。

「では……『失礼します』///」

「えっ!!えぇぇぇぇ!?」


◆◇◆◇◆ しばらくお待ち下さい ◆◇◆◇◆


「……あ、あははは……」

『大人の』プロレスが終了し、後に残されたのは『血色の良い』精霊と、
『へっへっへ……もう失うモノは何もないぜ……』と言わんばかりに燃え尽きている猛。
膝を抱えて虚空を眺めているその頭の中は、『今日のことは、皆に知られるわけには……』といったモノだった。

「これで契約は完了しました……今後いつなりと、猛様が望む時に、貴方の為にこの力をお貸し致しましょう」

「あ、あぁ……」

なんとか返事をするものの、猛の精神は『ここに在らず』といった状態だった。
猛はこの時気が付かなかったが、契約の種類は幾つもある。『身体を流れる液体』を相手に摂取させれば良いのだ。
ならば、他にも『血液』による契約などが存在するのである――合掌。








猛が蔓の精神世界で美味しく頂いて――頂かれている時、現実の保健室では、
その猛の身体を揺り動かす存在がいた。
ユサユサと猛を揺すって起こそうとするのは、幼馴染にして今や一つ屋根の下で暮らす芹だった。

「猛……猛、おきてよぉ……(困ったわね……トイレに行くのに、猛について来てもらおうと思ったのに……)」

現在、草木も眠る丑三つ時。
物の怪たちが跋扈し、さらに鼠たちが犇くこの出雲学園を一人でうろつくのは自殺行為。
そうとしか思えない状況だった。

「う〜〜ん、おきそうもないわね」

揺すり続けるものの、一向に起きる気配を見せない猛。
現実にいる芹には分からなくて当然だが、この時猛は蔓の精神世界にいる。
故に、猛が起きることはないのだ。

「……しかたない、恭也にでも頼んでみよう……」

あの朴念仁のことだ。
頼まれれば、断るという選択肢はないだろう。
そんな期待を込めて、芹は保健室の扉を開けた。

「……ん?どうしたんだ、芹?」

「あれ?恭也、おきてたの?」

扉を開けた芹が見たのは、床に座ったままだが、しっかりと起きている恭也。
てっきり寝ていると思っていた芹にとっては、ソレは予想外の出来事であり、
また好都合な事態でもあった。

「いや、扉の裏から人の気配がしたから、起きたのだが……」

「……恭也って、ホントに人間……?」

湧き上がる疑問。
人並みはずれた――芹からすれば『野生のカン』とでも言うべき感覚を持つ恭也は、
完全に人外に仲間入りであった。

「むっ……失礼な。ただ少し、そういったことの敏感なだけだ」

本当は『少し』どころではないのだが、
恭也基準では――『大したことじゃない』――らしい。
一般人である芹と恭也の認識の差がまた開いた――その瞬間であった。

「それで、どうしたんだ?」

「あ、そうだった!……その、トイレに行きたいから、ついてきてほしいんだけど……」

「……俺で良いのか?こういうのは、同性の明日香ちゃんの方が良いのでは?」

「その、明日香ちゃんは寝ちゃってるし、猛もおきそうにないの。もしかして、嫌だったりする……?」

「いや、そんなことはない。ただ、少し気になっただけだ」

そう言いつつ、腰を上げる恭也。
念のために静かに扉を開け、保健室の中を覗き込む。
猛と明日香の二人が寝ているのを確認すると、再び扉を閉めて芹の方に向き直った。

「二人とも、ぐっすり寝ているようだな……」

「……うん。猛なんか、揺すってもおきないくらいね……」

ほんの僅か、口元が緩む恭也。
やや疲れた顔でそれに答える芹。
二人の様子は、正反対だった。

「待たせてしまって、済まない……それでは行くとするか」

恭也が先行し、夜の出雲学園探索ツアーがスタートした。
……とは言っても、その距離は非常に短く、限られたモノ。
すぐに到着してしまい、恭也は外で待っていることとなった。

「……コレが、『勾玉』が填められるグローブか……」

恭也が手にしているのは、芹のグローブ。
芹がトイレに行く際に、『ちょっと、預かっといて!!』と言って、渡された代物である。
戦闘続きでよく見ていなかっただけに、恭也はソレをしげしげと観察していた。

「随分使い込まれたモノだな……前に誰かが使っていたのか?」

芹がしていたグローブは、革製のモノ。
製造されてから結構な月日が経っていると思われるソレは、手の形に皺ができ、
かなり使い込まれたモノであることを証明していた。

「……ん?何か内側に書いてあるな……『美由紀』?そうか、コレは芹の母親の――――」

そこまで言いかけて、恭也の脳裏に再び過去の記憶が映し出される。
今回彼の前にいたのは、一人の少女。長い黒髪をリボンで纏め、活発そうな印象を受ける。
そんな彼女に、恭也は何か話しかけていた。

『美由紀、お前は俺が守ってやる!だからあんなヤツのことなんか、忘れてしまえ!』

『――――。ありがとう……そこまで言ってくれるなんて……
 でも私、貴方の気持ちに応えることはできないの……』

『何故だっ!何故なんだ、美由紀!!』

恭也は、『美由紀』という少女に想いを寄せているようだった。
しかしその思いは伝わらない――伝わることはなかった。
それが何故なのかは、記憶を見ている恭也には分からなかった。









あとがき

まずは一言……蔓ファンの方、ゴメンナサイ!!

元のゲームには、そういった描写があったのですが……サツキには書けませんですばい!!(オイ)
しかし、物語の中での重要なポイントでもあったので、『以下割愛』の方法をとらせて頂きました。
そして蔓に微妙にギャグ属性を追加してしまった……本当に申し訳なかです!!(なぜ方言)

次回は、第二章に突入します。


それでは今回は 、このあたりで失礼します〜




いやいや、書かれたらアップできません(汗)
個人的には受け付けOK……ぶべらっ!
美姫 「さて、おバカは疲れて眠っているから、私一人で感想を。
     蔓は猛を主として、話は進むんですね。それ、恭也の脳裏に浮かぶ美由紀に関する映像。
     これが、今後どう関係してくるのか。次回も楽しみに待ってますね〜」
……ま、待ってます。



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