『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』















「うぇ〜〜ん!どうして、こうなるのぉ!?」

 ココは、出雲学園を出発してからすぐの林道。
 今そこに存在するのは、身体を魔物の触手で固定された恭也たち。
 人間たちが用意するモノとは異なった罠に、皆が捕らわれてしまった。

「そんなの、コッチが聞きたいくらいだよ……」
「そうよねぇ……って、恭也?何深刻な顔してるの?」

 明日香の叫びに答える猛。
 そしてそれに同意しつつも、隣で捕らわれている人物の顔つきが気になる芹。
 彼女に心配された当の本人は、

「恐らくは魔物か悪霊が仕掛けたモノだろうが……今度の鍛錬に取り入れてみるか」

 などと、怪しげなことを言ってのけた。
 恐らく彼のことだから、自分が対象というよりも義妹がその対象になるのだろう。
 この時海鳴では、悪寒を感じた少女がいたとかいないとか。

「って、ちょっと!!こんな時までそんなこと考えてないで、何か対策はないの!?」
「コレは、恐らく魔物の触手だ。つまり切り裂くしかないのだが……」

 猛からの質問を受けて、罠の解説――自分なりの見解を言い始める恭也。
 一見冷静そうな解説が続き、『その後は皆さん、分かりますよね?』というような振りになる。
 その場にいた皆の顔色が悪くなり、明日香が恐る恐るといった状態で呟く。

「……みんな、腕ごと触手が巻きついてるよね……?」
『…………』

 痛い程の沈黙が続く。
 青ざめるそれぞれの顔。凍っていく空気。
 そして、一筋の風が吹いていった。

『イヤだ〜〜!!こんな所で死にたくない――――っ!!』
「恭也っ!!お前、何とかしろっ!!お前なら、『こんなこともあろうかと!!』とか、ありそうだ!!」

 慌てる面々。猛に至っては、混乱のあまり恭也に無茶なことを言い出す始末であった。
 その様子は、某の○太くんが『ドラ○も〜〜ん!!新しい道具、出してよぁ〜〜!!』と言って、
 縋りつく様に良く似ていた。

「猛、お前は人のことを何だと……。まぁ、そんなモノは用意していないが、多分大丈夫だ」
「何でっ!?根拠はっ!?」
「……あそこの茂みに隠れている人が、助けてくれると思うからだ……」
『えっ!?』

 恭也が差した茂みに目をやる三人。
 一瞬の間を置いて茂みが動き出す。
 そこから出てきたのは、一羽の烏と一人の少女。

「…………やっぱり、分かっていたんですね」
「き、北河っ!?」

 茂みから出てきた少女の存在に、猛は驚きを隠せなかった。
 その少女は、猛たちが通う出雲学園の学生会長にして、猛と芹のクラスメイト。
 北河麻衣――その人だった。





 第三十一話 第二章 再来する少女――――そして……





「北河さんって、強いのね……おとなしそうに見えるから、びっくりしちゃった!」
「……薙刀、習ってたから……」

 魔物の罠にかかった恭也たちを、自らの薙刀で切り裂いていった麻衣。
 その様子は、華麗にして洗練されたモノ。
 無駄がないその動きは、武術を修める者ならば誰もが嘆息するモンだった。

「それにしても……北河はどうしてココに?」
「……八岐くんたちが困っているのを見かけたから……」
「そっか……助かったよ。ありがとう」
「うぅん……当然のこと、しただけだから」

 感謝の気持ちを精一杯ぶつける猛。
 そんな様子に、感情を露わにしない麻衣も僅かに――ほんの僅かだが、頬が緩む。

「北河、俺たちと一緒に、この先の人間たちが住んでいる隠れ里に行かないか?」
「隠れ里……?」
「あぁ。さっきカグツチって人に聞いたんだ。北河も来てくれると、心強いんだけど」
「…………わかったわ」

 先程カグツチに言われたことを思い出し、麻衣を勧誘する猛。
 猛とすれば、自分たちと同じように異世界に来て途方に暮れている麻衣に、
 感謝の気持ちも込めての提案だった。

「決まりっ!!それじゃあ、善は急げって言うし、さっさと行きましょう!!」
「うん!!日が暮れる前には着きたいしね♪」
「よっしゃ!!それじゃあ、出発しようぜ!!」
「…………がんばろう」

 芹、明日香、そして猛が、新たなメンバーの歓迎の意を露わにする。
 そんな三人の言葉に麻衣は、非常に麻衣らしく反応した。
 そして残された一人である恭也はというと、

「ヤタロー、お前も来てくれるか……?」
「クワァ〜〜!クワァ〜〜!!」
「……そうか。そう言って貰えると助かる」

 麻衣に連れである、烏のヤタローと会話をしていた。
 彼の非常識さを理解しているからだろうが、周りの面々は誰も突っ込みと入れない。
 ちなみに返事は色良いモノを貰えたらしい。
 そしてソレを理解できた恭也は、また一段と人間の枠の外の生物になったようだ。






 ∬

 坂道を下りていくこと数時間、今度は林道に差し掛かった。
 新たに加わった麻衣が、あまり積極的な性格ではなかったせいか、
 お互いの親睦を深めるために、芹と明日香が話しかけていた。

「……でね!小さい頃の猛って――――」

 そして話は、何故か芹による猛の昔話になっていた。
 曰く――小さな頃の猛は、野犬に襲われていた芹を助け、その後当馬家に出入りして剣道を覚えた。
 そして芹と猛は、一つの約束を交わした――という記憶。


『うぅ、ぅぅ……』
『どうしたの?どこか痛いの?』

 この頃の猛は、毎日当馬家に訪れては、木の枝を竹刀に見立てて素振りをしていた。
 芹が話しかけても相手にせず、黙々と素振りをする少年。
 それが、その日に限って泣いていた。そんなただ事でない状況に、芹は思わず猛に尋ねたのだ。

『剛が……剛が、もらわれたいっちゃたんだ……』

 当時同じバスの事故で両親を亡くしていた猛と剛は、施設での暮らしを送っていた。
 そしてその日、剛は大斗家に貰われたいった。
 剛しか友人がいなかった猛は、それで泣いていたという。

『ひとりぼっちなんだ……ぼくはもう、ひとりぼっちなんだ……』
『わたしがいるよ。ずっと猛の側にいるよ』

 そんな猛を見て悲しい気持ちになる芹。
 それでも初めて言葉を返してくれたのが嬉しくて、芹は猛の後ろから抱き付いてそう言った。
 そこには少女の優しさが込められていたのだろう。

『おとなになったら、猛のおよめさんになるの!……ずっとずっと、いっしょだよ……』

 芹の記憶ではこの後猛は頷き、ソレを今日まで芹は信じ続けてきた――ということだった。
 その話を聞いた猛は、『こ、子どもの頃の話だよ!!』と言って、忘れていたことを帳消しにしようとした。
 ……が、明日香と麻衣に『それは……』と言われ、あえなく撃沈した。


「えぇぇ〜〜!!信じられない!!わたしの知ってる猛お兄ちゃんと、全然違うよっ!?」
「…………確かに。今の八岐くんからは、想像もできない……」
「って、オイッ!!そんなの、全然覚えてないぞっ!!」
「コレだもんね〜〜!あたしてっきり、猛は恭也みたいになってるんだと思ってたんだけど……」
「う〜〜ん、確かにそのイメージのままで成長したら、恭也お兄ちゃんみたいになるかも……」
「…………確かに」
「へいへい。どうせ俺はお調子者ですよ〜〜」

 散々に言われる猛。
 忘れていたこともあってか、強く出れないの良いことに、その心は既にサンドバックだった。
 そんな会話に恭也は、前方を歩きながら耳だけ参加していた。

「……でも、ちょっと安心しちゃった。小さい頃の猛って、あたし以外に友達がいなかったから、
ちゃんと友達ができるようになったんだ――――って」

 女性陣プラスワンの会話が、恭也の後方で繰り広げら続けている。
 女は三人寄れば姦しいと言うが、麻衣が静かな分を猛が補っていた。
 故にやかましいことには変わりない。

「……………………」

 だから恭也は、口を挟まない。会話に参加しない。
 しかし話には耳を傾けつつ、周囲の警戒を怠らないようにする。
 ……先程のように、魔物の罠にかからないようにするために。

『――!!――――!!』

 そして時々出てくる、妙な魔物たちを倒していく。
 百足が巨大化したような魔物や、大根の先が枝分かれして脚のようになった魔物などを。
 後ろの猛たちが来る前に――特に女子が来る前に倒してしまわないと不味そうな奴らが満載であった。






 ∬

「……ん?済まないが、先に行っててくれないか?」

 出雲学園を出発してから、半日が過ぎようとした。
 魔物が出現しなくなり、『隠れ里はもうすぐではないか』――という雰囲気が漂い始めた頃。
 不意に恭也が後ろを振り向き、そのように言った。

「えっ?どうしたんだ、恭也?」
「いや、靴紐が解けてしまったんだ……すぐに追いつくから、先に行っててくれ」
「そっか。じゃあ、先に行ってるよ」

 その場に恭也を残し、先に行く猛たち。
 恭也の靴は普段から解け難いモノを選んでいる、
 故にこういった事態は初めてであり、恭也には何かの前触れのようにも感じた。

「これで良し――っと。はやく、追いつかなければ……」

 恭也が靴紐を結び終えると、丁度猛たちが視界から消えたところだった。
 『そんなに離されてしまったか』――恭也はそう考えると、脚をはやめた。
 しかし、いつになっても皆の姿が見えない。不審に思ったその時、その答えは頭上から振ってきた。

「きょ、恭也〜〜っ!!助けてくれ〜〜〜〜っ!!」
「そこの悪霊!!私を下ろしなさい!!」

 上を見上げる。するとそこにいたのは、縄で逆さ吊りされている猛たち。
 ……そして同じように吊るされた、巫女装束のような着物を着た少女。
 恭也はその状況を見て一言、

「……コレは一体、どういうことなんだ……?」









 あとがき

 麻衣の再登場の回でした〜

 一章だけで九話も使ってしまったせいか、麻衣の再登場が遅くなってしまいました。
 麻衣のファンの方、ゴメンナサイ!!
 猛と芹の過去が明らかにされ、芹が猛の婚約者宣言したワケが明らかに……
 忘れるなんて、なんてヤツだ!!とか言いたくなりました(マテ)

 次回は、今回最後にちょって出てきた、『五人目のヒロイン』が登場します!


 それでは、失礼します〜




麻衣の登場に怪しげな踊りをしつつ。
美姫 「最後に出てきた巫女装束の少女とは!?」
一体、何がどうなるのか。
美姫 「徐々にお話も加速していく!」
それでは、また次回で!



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