『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』















「ココが目的地の洞窟なのか?」
「そうよ!ココは青龍の洞窟――――ネノクニを守護する四聖獣の一人、【青龍】が住む洞窟よ!!」

 目の前に現れた洞窟を見て、猛はサクヤに尋ねる。
 その返事は、とても誇らしく言い放たれたモノ。
 サクヤたちネノクニに住む者にとって、四聖獣は尊ぶべき存在。故に説明にも熱が入っていた。

「四聖獣か――――何だか怖そうなヤツだな……」
「……そういった認識は、捨てた方が良いと思うぞ……?(彼女は、一番【マトモ】な存在だからな……)」

 猛と恭也が小声で話し合っている。
 その内容は、『青龍とはどんな存在か?』――というモノ。
 正体を知らない猛はやや恐怖を感じ、正体を知っている恭也は会えるのを楽しみにしている。

 断っておくが、恭也は青龍が美人だから会いたい訳ではない。
 そんなことは彼を知る人間からすればすぐに理解できることである。
 ならば何故。答えは全く別次元にあった。

「(他の四聖獣たち――――【玄武】と【朱雀】は、できれば会いたくない存在だしな……)」

 かつてカグツチたちもまた、青龍たち――四聖獣の力を借りてアシハラノクニへ帰還した。
 よって、その旅の日記ともいえる【出雲物語】にも、その存在は描かれていた。
 だからこそ恭也は知っている――【玄武】と【朱雀】が、どういった存在であるのかも。

 常識人な青龍と【白虎】。……そしてその二人とほぼ対照的な豪放磊落・明朗活発・恐れるモノは殆どない二人の存在。
 かなり言葉を選んで控えめな表現を使ったが、つまり仁村真雪とリスティ・槙原のような二人。
 それが朱雀と玄武である。恭也ができれば会いたくないというのも、無理はない。

「ねぇ、はやく行こうよ〜〜」

 急かす芹。
 それも当然であろう。
 何しろ、自分たちの今後を握っている存在に会うのだから。

「そうだな……では行くとするか」

 恭也はそう切り出して、サクヤの先を促した。
 それを受けて、サクヤは再び先頭に立って歩き出す。
 その深部に青龍が住まう、洞窟に向かって。





 第三十五話 第三章 仲間ハズレは誰?





「ココって……鍾乳洞?」
「……どうやら、そのようね」

 洞窟の中を見た素直な感想を、明日香が口にする。
 それに答えたのは麻衣。
 彼女としても、洞窟と言われて鍾乳洞が出てくるとは思っていなかったようで、その声と表情には分かりにくくあったが困惑が見られた。

「うわぁ〜〜、すごい滑りやすそうね」
「本当にこんな所に青龍が住んでるのか?」
「あのねぇ〜〜、青龍は聖獣なのよ?普通の人が住めくて、人が立ち入りにくい所に住んでても、不思議はないでしょう!?」

 芹が、猛が、それぞれに鍾乳洞についての感想を口にする。青龍という存在はそもそも人間ではない。
 サクヤの言う通り、聖獣――人智を超えた存在なのだ。
 故にそのことを忘れてい話している猛に、サクヤは呆れながら説明した。

「あっ!!そっか……人間じゃないんだったよな〜〜」

 既に一度説明を受けていたコト。
 なのでソレを忘れてしまっていた自分を恥じながら、猛はバツ悪そうにそう言った。
 皆からの――特にサクヤと麻衣からの痛い視線を受けながら。

「本当に滑りやすそ――――って、痛った〜〜〜〜っ!!」

 そんな中、猛を助けようと――この雰囲気を払拭しようとする明日香。
 そして話題を洞窟のことに戻そうとするが、本当に自分が滑ってしまった。
 彼女自身、こうなるとは思っていなかったせいか、余計に痛みが増しているようだ。

「明日香ちゃん!!大丈夫か!?」
「うぅ、頭打った〜〜」
「参ったな……先の戦闘で、和玉を切らしてしまっているからな……」

 駆け寄る猛。素直に自分の痛みを口にする明日香。
 そしてそんな状態の明日香に、どう治療するか考える恭也。
 別に放っておけば治るものなのに、過保護にも和玉を使おうとするあたり、流石は妹系に甘いと言わざるをえない。

「……少し待っててくれ。すぐに悪霊の十匹や百匹……」
「オイオイ。お前は明日香ちゃんのことになると、悪霊の大軍も楽に倒せるのかよ……」
「既に人間業じゃないわね……」

 暴走し始める恭也。どことなくなのはを思いおこさせる明日香には、とことん甘い。
 よって、暴走加減もなのはの時と同じように発揮される。
 結果周囲から――特に猛や芹から、呆れとも驚愕とも取れる感情が向けられた。

「私に任せて…………」
「北河さん……?分かりました、お願いします」
「北河さん、何か薬でもあるの?」

 そんな暴走が実行されようとする前に、麻衣が名乗りをあげる。
 彼女は神社の巫女。故に何かしらの治癒術でも使えるのかもしれない。
 そう思い、彼女に譲る恭也。そして、そんな事情など知らない芹が彼女に尋ねる。

「いいえ、違うわ……ちょっと、やってみるわね……」

 芹の質問に答えながら、明日香に近づいていく麻衣。
 明日香の背後に回り、優しく彼女の頭に手をあてる。
 そうした上で麻衣は、誰もが予想できないことをやってみせた。

「いたいのいたいの、とんでけ――――」
『へっ!?』

 麻衣が実行したこと――それは【おまじない】。
 小さい頃、誰もがやってもらったことが、やってあげたことがあるであろうソレ。
 そしてその場にいた誰もがやるとは思わなかったソレ。ソレは一瞬にして空気を凍結させた。

「とんでけ――」

 反応がなかったからだろうか。麻衣は再びソレを繰り返す。
 そんな彼女の行動に、誰からともなく笑みがこぼれ始めた。
 温かい笑み――隠れ里を脱出してから、皆が忘れてしまっていたモノだった。

「ありがとう、北河先輩♪おかげで、痛みがどっかいっちゃいました!!」
「そう……良かったわね……」

 無邪気な笑顔で礼を言う明日香。少しだけ口元を緩めながらその礼を受け取る麻衣。
 皆が皆、焦りや悲しみを抱えた状況での、心温まるやり取り。
 ソレは皆の心に、余裕と力を取り戻させた。

「良し、明日香ちゃん!ここからは、転ばないように手を繋ごうか!!」

 『最近明日香ちゃんって、恭也にばかり懐いてるからなぁ…………』――心中での声を出さずに、猛は明日香に提案する。
 明日香の『お兄ちゃん』としての復権をかけた第一歩。
 そういった意味合いが込められた、男のジェラシーによる発言でもあった。

「ありがとう、猛お兄ちゃん!!じゃあ、お願いね♪」

 場の雰囲気を払拭し始める面々。
 麻衣の一歩目に続き、猛が二歩目を踏み出す。
 ……もっとも、その動機が不純なのは如何なモノか。

「良いなぁ〜〜、明日香ちゃん」

 心底明日香を羨む芹。
 自分の方が年長者だとはいえ、猛にそう言わせる明日香を羨んでしまう。
 それならばと、猛のジェラシーを誘うために芹はある作戦を頭の中で展開する。

 猛に嫉妬心を植えつけるにはどうしたら良いか。
 猛の立場に自分を置き換えた芹は、その答えを手にした。
 先程猛にやられたことの逆――つまり自分が猛以外の男性に絡めば良いのだ。

「じゃあ、コッチは恭也っ!お願い!!――――って、あれ!?恭也は!?」

 辿り着いた答えを実行するため、芹は恭也に絡もうとする。……が、芹の作戦は不発に終わった。
 猛の嫉妬心を煽るためスケープゴート、恭也の姿が振り向いた先にはなかったのだ。
 周りを見回す芹。恭也の姿は以外にもすぐに発見された。【意外】な展開ついでに発見してしまったが。

「……済まない、芹。既に売約済みだ」
「えへへ――!!私、恭也君みたいな『カッコ良くて、優しい』お兄ちゃんが欲しかったんだ!!」

 そこにいたのは、恭也の腕に纏わりついているサクヤ。
 里に住む人々からは、神の娘として大事にんされてきた彼女、
 同年代の友だちもいない状況で願った、【兄弟】という存在。

「まぁ、俺みたいな奴で良ければ、そう思ってもらっても構わないが……」
「本当――っ!?やったぁ――!!」

 こうして、更に妹分をゲットする恭也。
 しかしサクヤは知らない――自分に本当に兄がいることを。
 そしてその兄が、『カッコ良くて、優しい』という条件は満たしているものの、かなりの問題児であるということも。

「うぅ……あたしたちで、仲間ハズレ同盟を組みましょう!北河さん!!」
「……私にはヤタローがいるのだけど……」
「うわぁぁ――――っ!!どうせ、あたしだけ一人ですよ!!」

 目当ての恭也に袖にされた芹は、麻衣を勧誘して【仲間ハズレ同盟】なるものを組織しようとする。
 しかしそれを阻んだのは、ヤタローという存在。
 かくして皆からあぶれてしまった芹は、本当に【仲間ハズレ】の状態になってしまった。

 そのことに気付いた芹は、思わず声を大にして叫ぶ。
 そしてその声は反響して行き、洞窟中を木霊していく。
 深奥部にいる、ある存在に届くぐらいに……。






 ∬

「――――――――」

 芹が入り口付近で絶叫したのと時同じくして、洞窟の最深部で一つの影が現れる。
 その影は最初巨大な龍を模っていたが、次第に小さくなっていく。
 小さく、小さく――最後には人型、人間と同じサイズまでになる。

「――――来るのですね、再びアシハラノクニの戦士たちが……」

 その影の持ち主は、誰に呟くわけでもなく零す。
 湖のような蒼い色――そんなイメージカラーが目を惹く、風の聖獣。
 恭也たちが会うべき存在――四聖獣【青龍】。

「また、闘いが始まるのですね…………」

 【彼女】は、自分を訪ねてくるであろう存在たちの登場を、喜色を浮かべながらも、複雑な感情を露わにした。
 その脳裏にはかつての闘いが――そして、その闘いで共に闘った者たちの顔が浮かんでいた。









 あとがき

 久々に、ちょっとシリアスパートから外れたお話でした〜

 IZUMO2のストーリーに沿っていくと、恭也を生かしきれない。
 恭也を生かそうとすると、IZUMOキャラが(特に猛が)喰われてしまう。
 そんなジレンマがあったので、シリアスっぽくやってきたけど――――もうダメ(マテ)
 久々に各々のキャラを立てられたかなぁ?――――と思う回でした(要するにギャグティスト)。
 次回は、最後に少し出てきた【青龍】が登場します。

 それでは、失礼します〜




次回はいよいよ青龍の登場〜♪
早く出番が来ないかな〜。
美姫 「今回はほのぼのとした感じだったわね」
だな。こういうのは楽しくて良いよな。
恭也の暴走っぷりも良いし。
美姫 「猛の妹を取られたお兄ちゃんも良いわよね」
うんうん。シリアスに進み、状況もまだシリアスの中だけど、だからこそ、こういったほのぼとしたのは心が和む〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます!



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