「王手」


パチンッ、と音を立て駒が置かれる。

 

「待て。いや待ってくれ、高町恭也」

 

「待たん」


御神の剣士とベルカの騎士が差し向かいで将棋を打つこの場所は、時空管理局ミッドチルダ本局。
その医務局の外れにある待合室だ。

因みに、足元ではザフィーラ(子犬フォルム)が毛繕いに余念が無い。

「おまたせ、シグナム」

プシュー、という音とともにドアが開き、シグナムの主たる少女『八神はやて』が入って来た。
後には湖の騎士シャマルと鉄槌の騎士ヴィータが控えている。

「あれ、恭也さん?何でここに?」

この疑問は最もだ。
恭也は局員どころか魔導士ですらないのだから。

「と言うか、シグナム。あなたは何をしているの?」

シャマルの疑問も最もだ。

「うむ。高町恭也が『検査の結果待ちで暇だ』と言うから、局員からボードゲームを借りてきて遊んでいた」

ボードを見るとシグナムの駒は圧倒的に少ない。

そして、恭也の横に積まれた菓子類を見る限り、連敗中らしい。

「つーかよ、なんの検査だったんだ?」

 

ヴィータの疑問も(略)

 

「魔導師適正のだ。リンディ提督に拉致られて、無理矢理受けらされた」

 

「「「「「拉致!?」」」」」

 

さらっと言ったが、結構問題発言だったらしく、全員目を丸くして声を揃えて叫んだ。

 

 

 

 

 

高町恭也・魔法剣士化計画 その1

「魔力適正を調べてみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが叫ぶ三時間ほど前……

海鳴市・某マンション

 

 

恭也は、ここに住む時空管理局のお偉いさん、リンディ・ハラオウン提督にお願いに来ていた。

 

 

それは可愛い方の妹「なのは」の進路。

時空管理局の武装隊士官。

目指すは戦技教導隊入り!と宣言するほどの熱の入り様だ。

 

 

つまり、『武装隊という事もあって、危険は避けられまい……』と、お兄ちゃんは心配で仕方がないのだ……。

 

 

「……という訳で、なるべく後方支援に回して欲しいんです」

 

心配で仕方ないが、これは『なのはにとって余計な事』という自覚も在るので、珍しく歯切れが悪い。

 

「恭也さんがなのはさんを心配する気持ちは解りますが……」

 

正直、リンディも恭也と同じ意見なのだ。

確かにミッドチルダは実力主義で、能力さえあれば年齢は問わない。

しかし、子供は元気に遊ぶべきだ、という考えも確かにあるのだから。

 

「なるべく、で良いんです。…実力が在るのかも知れませんが、アレはまだ小学生ですし」

 

しかし、リンディとしては、本人が強く望んでいる以上、口を出すわけにもいかない。

それに、立場上AAAクラス魔導師を遊ばせておく訳にもいかないし、何よりそんな余裕も無い。

 

「うーん、困ったわねぇ………」

 

そんな時だ。

リンディの脳裏に天啓の如く一つのアイディアが生まれた。

 

「そうだわ!恭也さんも魔導師になって、なのはさんを守ってあげればいいのよ!」


突然そんな叫びを上げると、「そうだわ、それが良いわ」などと呟きつつ、机の上の端末からエイミィを呼び出し、用件を告げた。

 

「ああ、エイミィ?悪いんだけど今すぐ本局の医務局に連絡をとって、魔法適正検査用の器材一式スタンバらせておいて!」

 

その発言に恭也が反論しようと口を開いたタイミングで、自室からクロノが出てくる。

 

「母さん。『闇の書事件』の最終報告書が出来たから、本局まで提出に行って来る……、って、恭也さん?いらっしゃい」

 

クロノは一度も訪ねて来たことの無い知人が居る事に驚いたが、気を持ち直し挨拶をする。

そして、礼には礼で帰すのが高町恭也。

 

「ああ、クロノ執務官。お邪魔しています」

 

挨拶をされたら挨拶を返す。

これは何処の世界でも常識(最近は出来ないのも多いらしいが)

しかし、これは致命的な隙を生んでしまった。

 

「ああ、クロノ。私達も本局に用事が在るからゲートの準備お願いね」

 

これに焦った恭也が口を挟もうとした矢先、今度はエイミィからの連絡。

 

「今、はやてちゃんの検査で使ってるから準備の必要は無くて、終わったら何時でも使えるそうです。予約とっときますか?」

 

 

リンディ提督は、指揮官らしい決断力で仰った。

 

 

「おねがいね〜」

 

 

……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳でな…。予約まで取ってしまった以上、来るしかなかったんだ」

 

「………」

 

なんというか、全員、言葉も出ない……

 

「しかし、高町恭也が魔法を使う、か。それは楽しみだな」

 

そんな中、挑戦的な笑みを浮べるバトルマニアが一匹。

 

「期待してるところ悪いんだけど、恭也くんの魔法資質はそんなに高くないわよ」

 

とは、シャマルの発言。

恭也の周囲の菓子類を物色していたヴィータが、「なんで?」と聞くと、

 

「リンカーコアの蒐集をしてた頃、『魔術師、もしくはそれに相当する生命体』を探して、海鳴全域をカバーする形で広域探査魔法を使ったことがあるんですけど、引っ掛かったのはなのはちゃんだけでしたし」

 

との事だった。

シャマルは続けて言う。

 

「もし才能があるとすれば、何かの稀少技能持ちってことになるわね」

 

プシュー、という音と共に、再びドアがスライド。

中に入ってきたのは件のリンディ提督の息子、クロノ・ハラオウン執務官だ。

 

「正解だ、シャマル。恭也さんは確かに稀少技能保持者だ」

 

そう言いつつ、恭也に検査結果が書かれた報告書を渡す。

恭也は黙って受け取るも、内容が理解出来ないので、近くに居たシャマルに丸投げ。

 

「全く解らん。…それから、はやてにヴィータ。欲しい菓子が在るなら持って行け」

 

シャマルは、ヴィータの「やっほーい」という声と、はやての「あ、ありがとーございます」と言う声を聞きながら報告書に目を通す。

 

 

 

 

『魔導適性検査結果』

 

そう書かれた紙の上の方には、総魔力量SSS・圧縮効率SS・飛行適性AA・空間制御SSSなどの極めて高い数値が記されていたが、下が凄かった。

 

なんというか、逆の意味で……。

 

詳しくは語りたくないが、三十数個ある項目の中に、普通にEとかDが並んでいて、偶にCと言った具合。

 

結果、トータルすると総合Bランク。

 

そして、最後の備考の欄に『稀少技能有り・魔力結合阻害特性(Magi-link Jammer)』と記されていた。

 

 

 

 

「マギリンクジャマー?」

 

シャマルは、こんな稀少技能の存在を聞いた事が無い。

ヴォルケンリッターの面々(菓子食ってるヴィータは除く)も同様だ。

 

「他者の魔力結合を阻害する特性をもった魔力パターンの事だな。AMF(Anti Magi-link Field)の特性を持った魔力、と言えば解り易いか」

 

「ええっ!魔力無効化!?それって魔導師相手やったら無敵やん!!」

 

スナック菓子を食べつつ話を聞いていたはやてが叫ぶ。

真っ当な魔導師なら叫ばずにはおられまいが、かけらが飛んでザフィーラ直撃。

ああ、汚い……

そしてヴィータは、我関せずとお菓子をむしゃむしゃ。

 

「いや、さすがにそこまでの効果は無い。フィールドを発生させている訳じゃないから接触しないといけないし、そもそも『魔法』ってカタチを得たなら簡単には無効化できない」

 

「具体的には?」


「恭也さんの魔力の強さにも依るが……、そうだな、例えばなのはのアクセルシューターなら、スフィアに五秒程接触してれば効果が出始めるだろうな」

 

スフィアに五秒。

障壁と拮抗すれば無効化出来なくは無い。

が、突破されては効果が出ない。

微妙な時間だ。

 

「なのはちゃんのアクセルシューターで五秒。…じゃあ、探査魔法に引っ掛からなかったのは……」

 

「まず間違いなく、無効化されたんだろうな」

 

難しい顔で呟くシグナム。

 

「それに、なのはとは最悪の相性だ。なにしろ近くで魔法を使うだけで切り札を封じられる」

 

なのはの切り札、…スターライトブレイカー。

それは周辺の魔力を集束し、自己の魔力に上乗せしして射出する『超』特大の収束型砲撃魔法。

だが、もし、周辺の魔力の中に恭也の魔力が混じればどうなるか?

 

答えは簡単だ。

集束した魔力はマギリンクジャマーによって結束を解かれ、再び霧散する。

それだけではない。

なのは自身の魔力も拡散するだろう。

つまり、スターライトブレイカーは使えない。

 

「つまり、魔導師になってもなのはの力にはなれない…か」

 

このルールは、恭也となのはがコンビを組んだ時にも適応される。

つまり、恭也はただ側に居るだけで、なのはの足を引っ張る事になってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

……と、誰もが思っていた。

 

 

 

 

「君たちは何を聞いていたんだ。……恭也さんのジャミングは魔力の強さに比例するって言っただろう」

 

 

 

「「「「「「あ」」」」」」

 

 

 

クロノの突っ込みに全員が口をあんぐりと開く。

 

というわけで、実際は拡散した魔力にジャミング能力などある訳も無く。

 

「問題無いじゃないか…」

 

ほぅ…、と、安堵の溜息を吐く恭也。

 

「どうします?魔導師になるなら、僕で良ければ魔法を教えましょうか?」

 

恭也にとって、クロノの提案は『渡りに舟』だった。

さすがに、下の妹やその友人に教えてもらうのは避けたかったらしい。

 

「じゃあ、宜しく頼む」

 

躊躇なく頷く恭也。

どうやら剣士から魔導師に転向することに大きな抵抗は無いように見える。

 

「待て。高町恭也は剣士だ。魔導師となっても近接主体となるだろう?ならば学ぶべきはベルカ式の筈だ」

 

シグナムの台詞は、暗に「私の方が適任ではないか?」と言っている様なものだった。

その辺りはクロノも考えていたが、出来ない理由があった。

 

「君達に新人を任す訳には行かない。一応、保護観察中の……犯罪者扱いだし」

 

言い難そうなクロノ。

至極真っ当な理由なので、「そうか、ならば仕方無い」と、シグナムも大人しく引き下がる。

 

「だが、恭也さんにベルカ式というのは良い判断だと思う。僕も近代ベルカ式を教えるつもりだったし」

 

「近代……ベルカ式?」

 

「ああ、君達が使うのは古代ベルカ式と呼ばれていて、今では殆ど稀少技能扱いになってるんだ」

 

クロノは「おかげで始めて戦ったとき、術式が解析出来なくて困った…」と呟き、話を続ける。

 

「近代ベルカ式と言うのは、ミッド式をベースに古代ベルカ式をエミュレートして再現したモノで、一般にベルカ式といえばこっちだな」

 

そう言って、一息。

恭也の前の菓子山からオレンジジュース(果汁100%)を取り出し、勝手に一口飲む。

 

「次はデバイス。恭也さんは剣士だそうですから、僕としてはアームドデバイスをお勧めします」

 

「考えておこう。では、クロノ執務官、指導の件、宜しく頼む」

 

こうして高町恭也は、魔導師の道を歩き始めた。

 

 

 

 

「あと、クロノ執務官。…この件はなのはには伏せて置いてくれ」

 

普段は見せない悪戯っぽい眼をした恭也に違和感を覚えたクロノは、

答えを考える事無く「何故です?」と聞き返してしまった。

 

その問いに、恭也は「吃驚させようと思ってな」と笑っていた。

 

 

 

 


あとがき

 

ども、ジャガイモ男爵です

今回は対話式のあとがきに挑戦です。

 

「相方を務めさせて戴く、準主役級のオリキャラ『???』です……って、『???』なんだっ!?」

 

いや、お前アームドデバイスだし……、つーか、この時点だと存在しないから。

それと、名前が『???』なのは、まだ決まってないから。

いくつか候補はあるんだが、決め手に欠けるんだよね。

それにStrikerS編書かないと出番無いかもだし。

 

「書かないのか?」

 

書きたいけど、書けるかどうか解らない。

もう一本のほうも在るし。

 

「ならば、書けば良い」

 

いや、気楽に言うなよ。

徒でさえ筆が遅いってのに。

それにStrikerSは映らないからDVD待ちだし

 

「ならば名前だ。候補はどんなのがあるのだ?」

 

ん、『シュベルトティーゲル』『フェンリル』『黒獅子』『八咫烏』『鳳凰』『麒麟』『輝刃』『八景』『逆鱗』とかな…

ちなみに最後のふたつは苦し紛れだ。

 

「ん?『シュベルトティーゲル』ってなんだ?」

 

ああ、なんか二刀流からサーベルタイガーが思い浮かんでさ。

サーベルタイガーって名前にしようかと思ったんだけど、アームドデバイスだしドイツっぽい(ベルカっぽい?)ほうが良いかな?って。

たしか「サーベル」は「シュヴェールト」で、「タイガー」は「ティーガー」もしくは「ティガー」だったはずなんで、『シュヴェールトティーガー』『シュヴェールトティガー』。

どっちも呼び難いので、ちょっともじって『シュベルトティーゲル』にした。

因みに第一候補はこれだった。

 

「さっさと絞り込むように」

 

了解!

とりあえず君のスペック紹介…一応こっちは確定してるんだが、先のネタバレになるか?

 

「だな。では『魔導適性検査結果』についてだが…、なにやらバランスが悪くはないか?」

 

悪いよ。

砲撃特化のなのはよりバランスが悪い。

あと補足すると、SとかAとかは現在のランクじゃなくて、普通に訓練すれば到達するだろうって言う「推定到達ランク」だから。

頑張ればここまでは行けますよ、って訳だ。

死ぬほど努力すれば、もうひとつかふたつくらい上も狙えるかも。

それ以上を目指すなら、魔法以外の要素に頼るしかない。

 

「魔法以外?」

 

そう、魔法以外。

つまり、状況判断とか戦術とか決断力とか。

 

「なるほど。『魔導師の強さは魔力の大きさじゃない』というヤツだな」

 

そういうコト。

まあ、こんな感じで。

 

次は何時になるか不明ですが、また次回で。

お相手は、ジャガイモ男爵と…。

 

「『???』」

 

でした〜

「でした」

 

 

 

「名無しだと締まらんなぁ…





おお、恭也が魔導師に。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
なのはには秘密だそうだが、知った時の反応が楽しみだな。
美姫 「黙ってた事を拗ねそうだけれどね」
続きがかなり気になる〜〜。
美姫 「次回を楽しみにしてますね」
待ってます。



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