このSSはとらハ3のALLエンド後、高町恭也大学一年のお話です。クロスオーバーSSですので、違和感だらけですが、気にしたら負けです(爆
















 観客の一人だった男子生徒は後にこう語った。

「いや、なんつーの? 瞬間的に道場ん中に冷房でも入れたんじゃねーかと思ったよ。道場にエアコンなんて付いてるワケねーのに」

 この時実況席にいた放送部員は後にこう語った。

「今まで何度も〈Kファイト〉の実況をしてきましたけど、あんな感覚は初めてですよ〜。寒気を感じて、喉はからから。まるで瞬間的に風邪を引いたのかと思ったくらいでした」

 そして、解説席にいたグラサンは、

「実は私が高町君の実力を直に見るのはこれが初めてだったんだがね。やはり私の目に狂いはなかったということだよ。はっはっはっ……って、待ちたまえ! まだ語ることはいくらでも──っ」

 なんて言って笑っていたそうだ。
 しかし、当の本人──道場内の空気を一変させた男は、表情には出さなかったが内心では苦笑いをしていたという。

(こんなにわかりやすい殺気を出すとは……美由希に見られたら笑われそうだな)



















『とらいあんぐる・リアルバウト 黒の剣士、乱入』

七の太刀






















 
 二人の勝負で審判役を買って出た、剣道部顧問の弥永源太郎はこの時迷っていた。
 かつて古流剣術を学んでいた彼は、恭也の放つ殺気から危険を感じていたからだ。
 自分に降りかかる危険ではなく、自分の教え子である御剣涼子への危険である。

(校長も……とんでもない人間を連れてきてくれたな。このままじゃ確実に血が流れるぞ……)

 恭也が放つ殺気の密度に、弥永は薄ら寒いモノを感じ、この〈Kファイト〉を中止すべきなのでは、と考えている。これでもし二人が闘いを再開して、涼子が窮地に追い込まれた時、涼子は十中八九致命傷を負いかねない迫力が恭也にあるし、その寸前で自分が割って入って闘いを止められるかどうかの自信はまったくなかったからである。
 剣道五段の弥永が、だ。
 それほどまでに、恭也の剣腕と殺気は常軌を逸していた。
 しかし、不意に恭也の視線が一瞬だけ弥永の方を向いた。
 その瞬間、

「──っ」

 弥永の中の迷いは消えた。
 時間にすれば一秒もないくらいの間。弥永は恭也の瞳の奧にある光を見て、

(なるほどな……まったく、ビビらせないでくれよ)

 苦笑混じりに安堵するのであった。

















 そんな、恭也と弥永の無言のやりとりなど気づくことなく、御剣涼子は自分──心の底から湧いてくる恐怖感──と闘っていた。
 足はすくみ上がりそうに。
 腕は震えそうに。
 歯がかちかちと鳴りそうに。
 目を逸らしてしまいそうに。
 全身が殺気への恐怖に屈してしまいそうになるのを涼子は精神力で必死に抗っていたのだ。

(ビビんじゃないわよ! 剣術は殺人術なんだからっ、こーゆーやばいのだってあるに決まってるじゃない!)

 その叱咤は自分に向けている。
 恭也の視線──そして、恭也の殺気はこの道場内で、ただ一人。涼子にだけ向いている。その殺気は今まで涼子が感じたことがないほどの“洗練された”殺気だった。
 涼子は今まで殺気を向けられたことがないワケではない。剣道でも、ストリートファイトでも、殺気を放つ輩はいたし、それにも対峙出来てきた。しかし、今まで涼子に向けられてきた殺気は、青臭い未熟なモノばかりだった。それに比べたら、今の恭也の殺気はもはや種類が違う。

(これが、達人クラスの殺気ってワケね。確かにチンピラどもとは質が違うわね……でも、ここで怯んじゃ負けになる。怖くない……アレは怖くない!)

 涼子は恐怖を精神的な力業で押さえ込んで、木刀を握る手に力を込め、再び構えに力感を込めた。強引に、心身の臨戦態勢を整えたのだ。







 そして、そんな涼子の様子を見ていた恭也は、心の中で一つ息を吐いた。

(恐怖を誤魔化して押さえ込んだか。まあ、ここで逃げ出さずに戦える心理状況を作ったのは評価出来るが、誤魔化しでは……メッキが剥がれるぞ)

 恭也はすでに、涼子の心理状況が手に取るようにわかっていた。
 自分の殺気に怯えていたことも。
 そして、その怯えを強引に押さえ込んだことも。
 それは、かつて……恭也が士郎亡き後、美由希に御神流を教えた時の経験からわかることだった。
 などと、懐かしいことを瞬間的に思い出しながら、恭也は再び気を引き締め、

「では……今度はこちらから行かせてもらう」

 無機質な声で、そう告げたのと同時に、動いた。

「っっ!?」

 涼子に息を飲むヒマすら与えず、恭也は前傾姿勢でダッシュをかけ、一瞬で間合いを潰し涼子の懐に入った。

「速いっ!?」
「ふっっっ」

 裂帛の呼吸と同時に、恭也の小太刀型木刀が涼子に襲いかかる。下段からの切り上げ。涼子は自らの木刀でそれを迎撃──したが、インパクトの瞬間、予想外の“威力”に内心舌を巻いた。

(嘘っ!? なんで片手の小太刀でこんなに重いのよっ!?)

 小太刀の二刀流なのだから、涼子は恭也の剣撃はそれほど重くないと踏んでいた。小太刀は普通の木刀に比べ短い分、遠心力による威力の増加もそれほどなく、しかも二刀流ということもあって片手で打つので両手で木刀を持って打つ自分より威力はないはず、と目算していたのだ。
 しかし、現実は違った。
 恭也の小太刀の一撃は、涼子の手を痺れさせるほどの威力を持っていた。これがもし、恭也が慶一郎ばりのガタイのある大男ならまだ納得出来るのかも知れないが、恭也は175センチ前後の身長の涼子とほとんど差がない身長だし、見た目だけで言えば細身の優男なのだ。
 しかも──

「はあっ!」

 下段の攻撃を抑えている間に、逆の上段から恭也のもう一刀が涼子の脳天目がけて襲いかかる。
 涼子の一刀と違って、恭也は二刀。つまり手数は倍となるのだ。
 しかし涼子の木刀は一本だけで、上段の攻撃を防ぐモノは何もない。

「ちぃっ!?」

 涼子はなりふり構わず、無理な体勢のまま後方に飛んで間一髪で攻撃を回避した。

(ここはこのまま間合いを取って落ち着かないと……って!?)

 そんな涼子の考えはお見通しだった恭也は涼子に落ち着けるヒマなど与えないと言わんばかりに、後方に飛んだ涼子に襲いかかっていく。

(剣術には、相手にも全力を出してもらった上で決着を……なんてスポーツマンシップはない。相手が弱みを見せれば、そこをついていく。相手が混乱しているのなら、それに乗じて相手を倒す。それだけだ)

 恭也は二刀の小太刀型木刀を容赦なく涼子に振るっていく。
 そして涼子は、先ほどまでとは全く逆に、防戦一方になっていくのだった。













 道場内は再び静寂に包まれていた。
 恭也が殺気を放って静かになった道場内だったが、それでもやはり〈Kファイト〉でバトルに慣れた大門の生徒だけあって、恭也が涼子に攻撃を仕掛けた時には歓声が上がり、盛り上がりかけたのだ。
 しかし、それもすぐに静寂へと戻ってしまった。
 剣道とはまるで種類の違う、所々にアクロバチックな動きを含んだ身のこなし。
 離れた場所からでも、目で追うのがやっとなくらいの速い動き。
 そして流麗と表現出来るような連続の打突。
 それはまるで──

『高町の息もつかせぬ連続攻撃が御剣を襲う! 御剣は断続せずに向かってくる攻撃の嵐を必死に防ぎかわしているが、これはもう時間の問題か!?』
『御剣君の表情を見るに、高町君の一撃はそれぞれがかなり重いようだね。それにしても、高町君のあの動き……実にいい。達人の動きはまるで舞踊のように流麗で美しいと言うが、あの歳でこれほどの動きを見せるとはな』

 ──藤堂の言うとおり、踊りを舞っているかのような動きだったのだ。
 その動きの美しさを前に、これが闘いであることを忘れてしまうくらい、見とれてしまったのだ。










 しかし、闘ってる本人──御剣涼子に、恭也の動きに見とれる余裕は微塵もない。
 威力は両手打ちの自分と同等かそれ以上。
 手数は自分の二倍……いや、三倍以上。
 打ち込んでくるリズムにパターンはなく変則的で、打ち込んでくる小太刀型木刀は正面からだけでなく、死角を狙って打ち込んでくるのも多い。
 そのため、涼子はまるで一対一の闘いのはずなのに、多対一の変則的な闘いを強いられているような錯覚を感じるほどだった。そして何より、

(どうしてこうも息継ぎをするヒマもなく攻撃を繰り出すワケ!? どこかで一拍おくとかすればいいのに……どういうスタミナしてんのよ!?)

 恭也の攻撃の持続性に舌を巻いていた。
 恭也の連続攻撃は休むヒマがなく続き、防いでいる涼子の木刀を持つ腕にダメージも蓄積する。そんな中で、ここまで木刀の攻撃が直撃することだけは“まだない”という事実は、涼子からすれば奇跡に等しかった。
 しかし、それは奇跡でもなんでもない、と考えている人間もいる。
 それが恭也だった。

(防御の技術はまだまだ未熟。すでに両腕は“徹”のダメージで握力に限界が来ているはずだ)

 涼子からすれば苛烈極まりない攻撃を──そしてギャラリーからすれば美しいとすら表現出来る動きを見せ続けながら、恭也は冷静に涼子の実力を分析していた。
 恭也は今回、攻撃は全て御神流の“徹”で打ち込むことであえて涼子の腕にじわじわとダメージを与えていた。多角的な攻撃に加え、徐々に溜まっていくダメージでさらに涼子を追い込もうとしたのだが、その効果はやや薄くなっていた。

(しかし、ここまでよく防ぎ、よくかわしている。彼女自身がここまで保っている事を驚いているかも知れないが、ここまで直接的なダメージがないのは偶然じゃない。これは言うなれば──)

 いくつかの連続攻撃を布石として、恭也はここまでの間に何度か涼子に攻撃を当てようとはしているのだ。しかし、それらは涼子が“無意識”の中でかわしている。それを恭也は、

(──センス、というものだろうな)

 そう評した。
 恭也はその点を認めざるを得なかった。
 御剣涼子という少女は、剣にまつわる事に関してのセンスは素晴らしいモノを持っている、と。
 そしてもう一つ。
 恭也はある誤算に気づく。
 それは……いつしか涼子が自分の殺気に怯えていないこと。
 いや、むしろ──

(怯えるヒマがない、ということか。今はもう攻撃を防ぎ、かわすことに集中していて、殺気に関する恐怖感を忘れてしまっている。これでは目的が果たせないな……)

 恭也が今回、涼子とこうして打ち合う本来の理由は、剣術の怖さを実感させた上で、涼子の言う“覚悟”を見定める事だ。
 ここでこのまま、涼子が木刀が持てなくなるまで打ち込み続け、涼子に負けを認めさせても、涼子はあらためて剣術が凄いと興味を抱くだけの結果になりかねない。
 それは恭也の本意ではない。
 だからこそ、恭也は──

「……えっ!?」
「…………」

 ──攻撃の手を止め、後方に飛び退いて間合いを取ったのだ。
















『おおっとぉぉぉ! どうしたことだ高町!? 突然攻撃の手を休め後方に飛んで間合いを取った。やはりこれほどの連続攻撃だ。疲れが来たのか!?』
『いや、それはないね。見てみればわかるが、高町君はあれほどの動きを見せておきながら、息一つ乱していない。むしろ疲労とダメージは御剣君の方が深刻だろう。さて、あのまま攻め続けていれば高町君は確実に御剣君を撃破出来たはずだが……何を仕掛けるつもりかな?』

 解説席の藤堂はもっともらしい解説をしながらも、次の展開がどうなるのかが楽しみで、教育者としては致命的なほどに浮かれていた。















(どうして──?)

 肩で息をし、腕に蓄積されたダメージのため木刀を握っていられず、その木刀を杖代わりにして立っているのがやっとの涼子は、突然の恭也の行動が不可解だった。
 あの状況では、どう見たって自分がジリ貧だったから。
 どう考えても、この展開は自分にとって都合がいいだけのモノだ。
 なのに、

(どうしてあたしは……嫌な予感しか感じないんだろう?)

 さっきまでの追い詰められていた状況よりも、現状の方が不気味でしょうがなかった。
 そんな中で、実況席の声以外は静かだった道場に、男の声が響く。

「御剣さん」

 誰あろう、涼子と対峙している恭也である。

「え……?」
「まず、ここまでは称賛に値します。あなたの力量は俺が思っていた以上でした。剣道と我流でのトレーニングでここまでの力を発揮しているあなたに敬意を表します」

 恭也の馬鹿丁寧とも言える、涼子への賛辞。
 さきほどまで殺気をぶつけ、圧倒的なスタミナと技量で自分を追い詰めていた男の、手のひらを返したような言葉に、涼子は目を丸くして戸惑うしかなかった。
 しかし、そこでもう一度恭也は涼子に確認を取る。

「ですが、それでも俺はまだ、あなたは剣道で満足すべきだという考えは変わりません」
「…………」
「ですので、もう一度伺います。剣術……諦めるつもりは?」
「──ありません。微塵も」

 しかし涼子は即答。
 その答えに、恭也は大きく息をついた。
 そして、

「わかりました。では……」

 恭也はゆっくりと……ここで初めて構えらしい構えを取った。
 半身になり、右の小太刀を肩越しに構えるそれは、あからさまな“突き”を放つための態勢。

「その甘い考え……身をもって後悔してもらおう」
「──っ!」

 瞬間、涼子の体中を電気が走るかのように、恐怖が駆けめぐった。
 先ほどまでの殺気とは段違いである。道場内の音を消し去った時の露骨な殺気ではない。今回は、その殺気がすべて涼子にだけ向けられているのだ。だからこそ、他の人間はその変化には気づかない。気づくのは──殺気を向けられた涼子だけ。
 涼子はまるで、撃鉄を起こした拳銃を鼻先に向けられたような──そんな絶望感に襲われていた。
 圧倒的な死の予感。
 いや違う。
 小太刀型木刀を構えた恭也の姿が、まさに“死”の象徴だった。

(嘘……でしょ? だって、これは単なる打ち合いであって……殺し合いなんかじゃ……)

 最初に殺気を向けられた時は、強引に恐怖を押さえ込んだ涼子。しかし、今回はその殺気の質が違いすぎる。
 涼子はあらためて気づく。先ほど、最初に見せた殺気はあくまで脅しだったのだと。
 あの、一昨日の夜に拳銃が出てきた時よりも死の予感が強かったのが、ただの脅しだったのだ。
 では、今のこの殺気はなんなのか?

「あ…………あ………………っ」

 気がつけば、涼子は木刀を構えていた。
 それはさっきのように恐怖を押さえ込んでの虚勢なんかじゃない。
 体力も握力も限界が来ている涼子に、そんな虚勢を張る余裕はまったくないのだ。
 今の涼子を支配していたのは、純粋な恐怖。
 自らの人生に終止符を打とうとする脅威への。
 それに抗う手段が、こうして木刀を構えることしかないのだと、涼子は無意識のうちにそう悟っている。逃げようとして背後を見せれば、その瞬間に自分は殺されるのだから。
 完全に怯えきっている涼子を相変わらずの無機質な瞳で捉えていた恭也は、わずかに呼吸を大きくした。
 周囲に悟られぬように、それでいて大きく息を吸った。
 そして、

 御神流裏・奥義之参──

 ついに、恭也の殺気が爆ぜた!

 ──“射抜”っ!

 爆発的なキック力からのダッシュは涼子に目を閉じるヒマすら与えず、5メートル以上あった間合いから、超高速の突きが襲いかかる。涼子は構えた木刀を動かす事も出来ないまま──





 ──恭也の木刀の切っ先が涼子の喉元に食い込み、そのままノドを突き破った──






























『い、一体何が起きたんだぁっ!? 試合場の端──御剣と対面していたはずの高町が動いたっ、と思った次の瞬間、高町はまるで瞬間移動したかのように、対角線上の逆の試合場の端に! そして高町が駆け抜けたと思われる試合場の真ん中で木刀を構えていた御剣はその動きにまったく反応出来ずに、その場で微動だにせず! よもや、高町の放った何らかの技が御剣を捉えたのかーっ!?』
『高町君が何らかの技──おそらくロングレンジからの刺突系の技を放ったのは間違いないだろうが、それが御剣君に命中したとは考えにくいな。ロングレンジからの刺突は相当な突進力が付加される。しかも木刀という得物での技ならば、御剣君は吹き飛ばされるか、もしくはそれ相応の傷があるはずだ。しかし見たまえ。彼女は全くの“無傷”だろう?』

 実況の中村と解説の藤堂の言うとおり、涼子は恭也が動き出す直前とまったく変わらぬ姿勢でその場にいた。攻撃を受けた形跡は“まったくなく”、無傷ではあるのだが、その様子がおかしいことに気づいたのは審判の弥永だった。
 弥永は涼子の元に駆け寄り、その様子を窺った。
 涼子の目は開いたままだったが、その瞳には光がなく、そして──

「まさかっ!?」

 ──涼子は呼吸をしていなかった。
 弥永は即座に涼子を寝かせて人工呼吸を施そうと、彼女の肩に手を伸ばそうとしたが、

「待ってくれ」

 それを恭也の冷静な声が止めた。

「ここであなたが彼女に触れれば、この勝負は終わってしまう」
「何が勝負だ!? そんなことを言ってる場合じゃ……っ」
「彼女は無事です」
「……なに?」

 恭也の事も無げに言った言葉に、弥永は首を傾げる。
 そんな弥永を余所に、恭也は道場内にいる全ての人間に警告を発した。

「すまないが、これからちょっと大きな声を出す。鼓膜が弱い人間は耳を塞いでいてくれ」

 大きな声? と首を傾げる一同。恭也はおもむろに大きく、それはそれは大きく息を吸い込み、多量の空気を肺に送り込んでから、一拍おく。
 そして、

「かぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!」

 腹式呼吸から、気合いの入りすぎたような裂帛の声が道場を揺るがした。恭也の、あまりに大きすぎる声に誰もが驚き硬直する中、ただ一人。

「かふ……っ!?」
「御剣っ!?」

 呼吸すらせずに固まっていた涼子だけが、恭也の声のショックで抜けた魂が再注入されたかのようにビクンと肩を震わせて、動きを取り戻したのだ。涼子は握っていた木刀を取り落とし膝を床について、

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁ……っ」

 足りない酸素を補うかのように荒い息づかいで空気を肺に送り込んでいる。
 その様子に驚き、涼子に声をかけるか否かを迷っている弥永に、

「彼女は仮死状態にあったんです。だから“気”を入れて元に戻しました。ダメージそのものはありませんよ──」

 恭也は淡々と状況を説明する。

「──あくまで身体には、ですが」

 そんな恭也の声も届かないほどに、涼子は前後不覚になっていた。
 酸素不足のせいか頭の中は真っ白。しかし、それも程なくして回復して頭の中のもやが晴れると、今度は酷く狼狽した様子で自らの喉元を慌てて手で押さえ始めた。
 そんな涼子の理解出来ない行為に、審判の弥永を始めギャラリーたちも首を傾げるばかり。
 だが、そんな彼女の姿を見て恭也だけは涼子の突飛と思われている行動の意味がわかっていた。
 だから、

「自分が“殺される瞬間”を体験した気分はどうだ?」
「っっっ!?」

 恭也は混乱している涼子に、言葉で真実を伝える。
 その恭也の声に過敏に反応した涼子は、恐る恐る振り返った。
 恭也に向けられた表情は、〈Kファイト〉の最中にもかかわらず戦意はまったく感じられず、今は恐怖に引きつっている。

「実際に放った俺の技は、君には当てていないんだ。君は、俺の向けた殺気と剣気で喉元を貫かれた自分を“幻視”した……それだけだ」

 そう。
 さっき涼子が見た、自らの喉を木刀の切っ先で貫かれたという映像は、恭也の技によって生まれた剣気と、その剣気に乗せた殺気が見せた錯覚に過ぎない。実際の恭也の『射抜』はあえて涼子に当てずに彼女の横をすり抜けただけだったのだ。
 しかし彼女はただの錯覚、と安心する気には到底なれるはずもない。
 恭也があえて外した、ということは、逆を言えばいつでも恭也は涼子を殺すことが出来る、ということだから。そしてなにより、あの技である。

(……もし、もう一度あの技を出されたら…………あたしはまた、なんの反応も出来ないまま、殺される…………っ)

 涼子は恭也の『射抜』にまったく反応出来なかったのだ。それはおそらく恐怖で体がすくんでいなかったとしても結果は変わらないだろう。そう思わせるほどに、あの技は速すぎたのだ。
 だからこそ、涼子の恐怖は彼女の精神の限界まで来ているのだ。
 もはや、逃げることも出来ない。そして抗うことも出来ない。
 自分の命は今、目の前の青年に握られているのだと強く、強く実感しているから。
 全身震えが止まらない。足に力が入らない。そして恭也を“怖いモノ”と判断しているから目を逸らしたいが、視界に彼を入れておかないと、いつ殺されるかわからないという恐怖が先に立っているので目を逸らすことも出来ない。
 それでも涼子は無理矢理踏ん張って立ち上がり、床に落とした木刀を拾った。もう彼女にすがるモノが目の前の木刀しかないから。
 ここでもし、彼女が恭也以外の人間が目に入っていたのなら、彼女は無様に命乞いをして助けを求めていたかも知れない。しかし、今の涼子にそんな余裕はなく、彼女の視界には恭也しか移っていなかった。
 そんな涼子の様子に、

(潮時だな……)

 恭也は心の中で呟いた。
 確かに涼子には剣に関してのセンスは感じている。だが、だからといって、一人の女子高生を修羅の道に導くのは話が違うのだ。
 だからこそ恭也はあえて苛烈な方法で涼子に“命のやりとり”という非現実的なモノの疑似体験をさせたのだ。それこそが剣術使いが身を置く世界だから。
 そして、その目論見はほぼ成功と言っていい。
 今の涼子は剣士ではなく、剣術という脅威の前に怯える一人の少女である。
 後は、彼女自身の意思で諦めさせるだけ。

「これが最後のチャンスだ」
「……え?」
「俺はこれから、ゆっくりと歩いて君との間合いを詰める。俺の間合いになるまでは攻撃はしないし、突然ダッシュして間合いを一気に潰すこともしない。そして、間合いに入った瞬間」
「…………」
「俺は君を潰す」
「っ!」
「だが、その前に君が剣術の剣を諦め、この試合場から逃げ出せば、俺は君を攻撃しない。背を向けて逃げても攻撃は加えない。それは約束しよう」

 恭也は一方的に、涼子に降伏勧告をした。
 それは、恭也の感情を微塵も感じさせない今の勧告が涼子が生き残る最後のチャンスだと言外に伝えていた。

「選択権は君にある。選べ」

 そう言って、恭也はゆっくりと歩き始めた──涼子に向かって。
 普通よりもゆっくりとした歩みで、一歩一歩涼子に向かう恭也。
 恭也との距離はどんどん縮まっていく中、涼子は内心で混乱していた。

(……もう、逃げればいい。そうすれば助かる。なのに……)

 恭也の言葉に疑心暗鬼になってるわけではない。ないのに、涼子はそこから動けずにいた。
 恐怖に身がすくみ上がって動けない、というわけではない。
 なら、何故なのか?
 それは──

(助かるけれど……そうすれば、あたしはもう強くなれない)

 ──生き残りたいと思う涼子の怯えた心とは、まったく相反する、消えかけていたはずの彼女の“剣士”としての心だった。


(強くなる前に死んでしまっては意味がないじゃない!)
(じゃあ、弱いまま生きていくワケ?)


 涼子の心の中に存在する二つの心が、お互いを受け入れられずに反発し合う。それが涼子の身体を縛り付け、動けなくしていた。
 そんな涼子の内なる反発を知るよしもない恭也は、また一歩、涼子に近づく。


(強くなる方法なんて一つじゃない。剣術に固執する必要は……っ)
(馬鹿なことを言わないで。あたしの生きる道は剣しかない)


 また、一歩。


(じゃあ、ここで意地を張り通して死ぬワケ? それこそ馬鹿馬鹿しいじゃないの)
(馬鹿馬鹿しい? じゃあ、あんたは今までの自分の全てを否定することになるわね)


 そして、また一歩。


(否定なんて……っ)
(思い出しなさい。一昨日の夜、あたしたちに何があったのかを!)












 親友のひとみを攫われ、助けに向かった先で不覚を取られ囚われの身になった自分。
 静馬に、恭也に、そして慶一郎に助けられた──無力な自分。
 自らの正義を貫けなかった自分。
 それは涼子にとって、何よりの屈辱。
 自らの正義を貫くための剣だったのに。
 それが一番格好いいからこそ……格好いい女を貫きたかったのに。
 しかし今の自分はそれが出来ずにいる。
 だからこそ──自らの剣で、険しき道を切り開くために。


 強くなろうと心に決めたのではなかったのか?


 瞬間。
 涼子の中で、恐怖が裏返った。
 いや、向かい来る“死”の恐怖よりも怖いモノが涼子の中で生まれた。
























(む……まだ逃げないのか?)

 恭也は表情こそ変えないモノの、涼子に動きがないことが意外だった。
 だからといって、彼女に近づく歩みを止めたりはしないのだが。
 とはいえ、あと三歩ほどで涼子は恭也の間合い──小太刀の射程距離に入ってしまう。もし、涼子が逃げなかった場合はどうするのか? もちろん殺すなんて事はするつもりは恭也には毛頭ない。それでも、恭也の中では“多少の痛い目”を見てもらおうとは考えているのだ。このまま怖い目は見せても、実害がなければ警鐘にはならないからだ。

(しかし……よもや、逃げても追わないという俺の言葉を疑ってる……そんな可能性もあるのか?)

 もし、自分の言葉に疑心暗鬼になって動けないのだとしたら、それはそれで涼子は可哀想だとは思う。しかし、それでも恭也は剣を振るうつもりでいる。彼女が足を踏み入れかけた世界というのは、一つ選択を間違えれば危険というモノなのだから。

 また、一歩近づいた。

 木刀を構えながらも微動だにしない涼子。しかし、顔はうつむいていて、恭也からは彼女の表情を窺うことは出来ない。しかし、どれほど近づいた頃からだろうか、恭也はあることに気づいていた。

(彼女の様子が……変わった、か? どこがどう変わったのかはわからない。だが、先ほどまでとは何かが……違う?)

 涼子が纏っている雰囲気にわずかばかりの違和感。
 しかし、それがなんなのか恭也にはわからない。

 そして、また一歩。

 ついにあと一歩で小太刀の間合いに入る所まで近づいたところで、

「──っ!?」

 恭也は背筋に薄ら寒いモノを感じ、全てが氷解した。
 涼子が逃げない理由。
 涼子に感じていた違和感。
 涼子の考え。
 その全てが。

(そうかっ! ここは“彼女の射程距離”っ!)

 涼子が逃げない理由。それは、俺をこの位置──小太刀の射程距離にはあと一歩だが普通の木刀ならばすでに射程距離──まで俺を引きつけるため。
 涼子に感じていた違和感。それは、彼女の体がずっと小刻みに震えていたはずなのに、いつしかそれが止まっていたこと。
 涼子の考え。それは──

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」

 涼子の裂帛の声とほぼ同時。
 涼子は顔を上げ、木刀を上段から恭也の脳天目がけ振り下ろすという奇襲攻撃をかけてきた。
 完全に虚をつかれた恭也は、その攻撃に反応するよりも──

(──それが君の“覚悟”か)

 すっかり怯えの消えた涼子の真っ直ぐな瞳の光と、彼女が振り上げた木刀に込められた──闘気ではなく──殺気に涼子の答えを見出して、反応が遅れた。

(殺ったーっ!)

 そして──














 ここに、一つの決着がついた。














 あまりにもわかりやすい、勝者と敗者の構図。
 一人はすでに武器を失い、跪くように片膝を床に着け、相手を見上げている。
 もう一人はしっかりと立って、持っている木刀の切っ先を相手の喉元に突きつけていた。
 そして──

「……参り、ました」

 御剣涼子はスッキリした表情で自らの“敗北”を認めたのだった。













『ついに決着ーっ! 最後、御剣の大胆不敵な奇襲攻撃が決まったかと思ったが、御剣の木刀が高町の脳天を捉える寸前、わずかに高町の二刀を交差させての防御が間に合い、御剣の攻撃を受け止め、そのまま御剣の木刀を弾き飛ばしました! 木刀を手放してしまった御剣はその場に膝を落とし、そこへ高町は木刀の切っ先を御剣の喉元へ向けて……最後は御剣のギブアップという形での決着となりました』
『御剣君はすでに心身共に消耗が激しかったからね。あの奇襲が文字通り、最後の力を振り絞っての攻撃だったんだろう。高町君もあの奇襲は予想外だったのか幾分反応が遅れたが、それでも間に合ってしまったのは、彼がこれまで膨大な時間を費やしてきた鍛錬の賜物だな。いやしかし、なかなか見所の多い試合だった!』

 実況席の二人の今回の〈Kファイト〉の総括に話が移る中、ギャラリーたちも御剣涼子の完敗にどよめいている。大門の生徒の中では一、二を争う女傑である彼女の敗戦は今後、かなりの影響を及ぼしそうである。
 そんな中、闘っていた当の本人たちは──







「……最後のアレはいけると思ったんですけどね」

 涼子は苦笑しながら立ち上がろうとするが、足腰にも力が入らずに苦戦している。そこへ恭也が手を貸した。

「悪くはない。少なくとも、俺は虚をつかれたからな」

 恭也の手を借りて、涼子は何とか立ち上がった。その時、自分以上に堅い手のひらをしている恭也の手の感触に、涼子は思い知らされる。

「そりゃ……こんな手のひらをした人に敵うはずがない、か」
「これでも、物心ついた頃から剣を握っているからな」
「納得です」

 すでに恭也には先ほどまでの殺気は微塵も感じない。恭也独特の暖かい雰囲気を初めて感じ取った涼子は、自分がいつもより素直な気持ちになってる事に気づきながら、そんな自分に身を任せていた。

「正直……今になって尚更あなたに剣を教えて欲しいなんて思いました。だから……残念です」
「…………」

 涼子の屈託のない笑顔での言葉に、恭也は一瞬困惑の表情を見せたが、すぐに苦笑を返した。

「一つ、聞きたい」
「はい」
「御剣さん、君は最後の一撃の際、逃げずに闘うことを選んだ。それは……俺が君を殺すはずがないと踏んだからか?」
「いえ、違います」

 涼子はハッキリと、恭也の問いを否定する。

「正直、あの時は寸前まで高町さんの殺気に怯えていました。死にたくないって思っていたんです。でも……」
「でも?」
「気づいたんですよ。あたしは、ここで自分が弱いことを認めて生き延びるなんて、それこそ“死んでもいやだ”って」
「…………」

 涼子の言葉に、恭也は呆気にとられた。
 彼女は自分の弱さを認めていて、だからこそ強くなることを願い、その願いは自分の命よりも優先されるというのだ。それは、あまりに非常識な優先順位。

「あたしは、自分を貫くために強くなりたいんです。そのために、あたしは剣で生きたいんですよ」

 しかし涼子は、その非常識な考えを誇るように言ってのける。
 それが彼女の剣に対する姿勢であり、覚悟。
 だからこそ、最後。涼子は自らの命をかけて、死地を切り開かんとばかりに最後まで剣を振るったのだ。
 命よりも大切。
 そんな言葉を軽々しく使う人間は少なくない。
 しかし、それを実行出来る人間はほとんどいないと言っていい。
 実際には、人間は長く生きようと思うのが普通だし、それは生き物の本能として当然だ。
 しかし涼子は自分の命よりも大切なモノがあると言い切り、実行した。
 それは彼女の信念。
 死んでも貫かなければならない信念。
 恭也は御剣涼子という少女の、強い思いと覚悟を見せられたのだ。
 だからこそ──

「御剣さん」
「はい」
「この勝負は俺の勝ちだ。よって、君に俺の剣術を教えるわけにはいかない」
「……はい」

 あらためてハッキリと告げられ、涼子の表情は翳ってしまう。
 しかし、

「そもそも、君には小太刀の二刀流は似合いそうにないからな」
「……え?」

 恭也の言葉には続きがあった。

「君はずっと一刀流のスタイルで腕を磨いてきたはずだ。そこでいきなり俺と同じ小太刀二刀流に直しては、今まで君が積み重ねてきたモノが無意味になる」
「た、高町……さん?」

 戸惑う涼子の表情を見て、恭也は悪戯っぽく笑った。その笑みがあまりに優しくて、涼子は自分の顔の温度が急激に高くなっていくのを自覚する。

「俺がつい最近知り合うことが出来た凄腕の剣術使いがいる。その方は俺が子供扱いされるくらいの実力者だ」
「ええっ!? 高町さんが……子供扱い!?」

 驚くのも無理はないだろう。たった今、自分を完全に圧倒した恭也を遙かに凌ぐ腕前なんて、今の涼子には想像もつかない。

「その方の流派は一刀流だから、君にも合うはずだから。その方に紹介しようと思うんだが……どうかな?」
「で、でも……あたしは負けたんですよ? いいんですか?」

 そもそも今回の〈Kファイト〉は涼子に剣術を教えるかどうかをかけた闘いだったはずだ。そして涼子は負けた。それでも恭也は涼子を剣術へと導こうとしている。そのことに疑問を覚える涼子だったが、恭也は事も無げに言う。

「俺は君の腕前が納得出来るモノだったら、という条件を出したはずだ。そして君の腕前……というより、覚悟の程が充分納得出来たからこそ、君に剣術をやらせようと思っているんだ」

 その言葉を聞いて、涼子はようやく安心したのか、へたり込むようにその場に沈んだ。しかし、もう一つ気になることがある。

「じゃあ……高町さんは、ここのコーチは受けないんですか?」

 元々、涼子に剣術を教えるというのが主目的の、恭也の大門剣道部特別コーチ。しかし、涼子に剣術を教える事は、恭也は拒否している。ならば、恭也がコーチを受ける件はなくなる。そうなると恭也がこの街にいる理由はなくなるのだが……。

「今、ここで地元に帰る……というのは、いささか惜しい気がするな」
「え?」
「俺も、君にこのあと紹介する剣術使いの先生には稽古を付けてもらいたいし、それに君自身の成長を見てみたいという気もする。だから、ここはあえて君を利用させてもらう」
「あたしを……利用?」

 恭也の言葉の意味がわからずに首を傾げる涼子。
 そんな涼子の年相応の無防備な表情に苦笑しながら、恭也は自分の考えを告げた。

「君が剣術と剣道を両立してくれるのなら、俺は剣道部のコーチが出来る。剣術と剣道の比率をどうするのかは君に任せるが、これからも君が剣道部に籍を置くのなら、俺はコーチを引き受けて、君の稽古相手をしながら剣道部の他の生徒のコーチをする。そうすれば、俺は少なくとも一学期の間はこの街に滞在する理由が出来るんだ」
「あ……」

 藤堂が恭也を招聘したがっていた理由は、涼子を鍛えるためである。
 しかし涼子がここで剣道部をやめて剣術一本に絞ってしまうのなら、恭也は用無しだ。しかし、涼子がこれからも剣道部に籍を残して、部活動に参加するのであれば、恭也は涼子に直接剣術を教えることは出来ないが、稽古相手を務めることでこの剣道部に関わりを持ち、この街に留まれるということなのだ。
 恭也の意図を理解した涼子の選択肢はもう決まったも同然だ。
 涼子もまた、この青年剣士とはまた剣を交えたいと思っているのだから。

「どうだろうか?」
「……どうだろうも何も……そんなの、反対する理由が、あるはずないじゃないですか」

 涼子はあらためて、今度は自力で立ち上がり、手を差し出す。

「これから、お願いします。高町コーチ」
「こちらこそ」

 そして恭也は涼子の手をしっかりと握った。
 そして、今もなお二人の〈Kファイト〉の総括をしゃべり倒していた解説席の藤堂に、恭也は声をかける。

「藤堂校長!」
『む……? どうかしたかね? 高町君』
「先日の、剣道部のコーチの一件ですが……お引き受けします!」
『なにっ!? それは本当かね!?』
「ええ。あとで正式に契約書を熟読した上で、サインさせてもらいますよ」
『いや、これはめでたい! これでまた、楽しくなりそうじゃないかっ!』

 恭也の宣言に、まるで子供のようにはしゃぐグラサンのおっさん。
 そして、その恭也の言葉に喜ぶのは藤堂だけではなかった。
 涼子と同じ剣道部の女子部員たちも、黄色い声を上げて喜び、涼子に駆け寄っていく。殺気を放った時の恭也にはビビっていたのだが、試合後、涼子に向けていた笑顔に再び惹かれたらしい。どうにも精神的にもタフな大門高校の女子生徒たちだった。
 そんな剣道部の仲間にもみくちゃにされながら、誰よりも恭也のコーチ就任に喜んでいたのは、もちろんこの人。

「やっっっっっっっっっったぁぁあぁぁぁぁっ!」

 御剣涼子であった。











 こうして、高町恭也は正式に、大門高校剣道部特別コーチに就任することとなった。








 しかし──









「なに入り口の前にごちゃごちゃおんねん! どかんかいっ!」

 この日の道場内における闘いは、まだ終わっていなかった。
 それを告げるように、苛立ちを含んだ威勢のいい関西弁が道場内に響き渡る──。






あとがき
 6話に引き続き、今回も随分と長い文章になってしまいました(汗
 バトルメインならば長くなるとは思ってましたが、バトルよりも心理描写の方で行数を使ってしまい、予想をはるかに超える長さになりまして……自らの未熟さが恨めしいばかりです。
 長く、それでいて読みにくい文章となってしまい、読んでくださる方々には申し訳なく思ってますが、次もバトルの予定なので、また読みにくいかも知れません……。
 それでもまた、もし読んでいただけるのであれば、今度は少しでも読みやすく出来るよう、頑張りたいと思います。
 では。



決着!
美姫 「負けたけれど、涼子は何かを学べたわね」
初心とも言うべきものも思い出したしな。
美姫 「弱さを否定するために、ただ強くなる。うんうん。単純だけど良いわね」
さてさて、恭也のコーチ就任が決まったみたいだが。
美姫 「なにやら、もう一騒動ありそうな予感」
いやー、中々に息を吐く暇もなし。
美姫 「次回がまたしても気になるわ」
次回はどんな話なのかな。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
待ってます!



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