黄巾党の別働隊に完全勝利を収めた俺たちは、勝利の余韻に浸ることもないまま、今の戦いで負傷した兵士を後曲へと送るなどして部隊の再編成を行ってから、敵本隊がいるという県境に向かって進軍を始めた。
 その移動中のこと。
 先の戦いでの立案能力と戦況を見極める能力の高さから、副官としてみんなに認められた諸葛亮に話しかけられた。

「あの……」
「ん? どうした諸葛亮?」
「そ、それです」
「は?」
「あの……出来れば関羽さん達みたいに、私も真名で呼んで欲しいんです。ご主人様には」
「む……しかし、真名というのは君らにとっては特別な名前だろう? 確か自分が認めた相手にしか呼ばせないと言う……」

 このあたりの知識はしっかりと愛紗から教わっていた。

「そうです。だからこそ、私はご主人様に呼んで欲しいんです……」
「ふむ……いいのか?」
「はいっ! 私のご主人様になられる方だからこそ、真名で呼んで欲しいのです!」
「……了解だ。ではこれからは君のことも真名で呼ばせてもらおう……えっと、朱里、だったよな?」
「はいっ♪」
「じゃあ、朱里。これからもよろしく頼む。君の信頼を裏切らないようにこちらも精進しよう」
「えへへ……こちらこそ、です。ご主人様♪」

 そう言って諸葛亮──朱里は可愛らしく微笑む。
 ──のだが、

「コホンッ。あー、あー……では挨拶も終わったことですし、急ぎましょう」

 それに反比例するように、何故か愛紗は不機嫌そうだった。


















『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
 第七章
















 最初はどうにも朱里と愛紗の間に壁があったような気もしたが、進軍の間に──



「あのぉ……お二人も私のこと、真名で呼んでください。でないと何だか壁を作られているみたいで」
「それは構わないが……それで良いのか? 自らが認めた相手でなければ真名を呼ばせるのは禁忌だ。もし見知らぬ人間が真名を呼べば、それは自分の生き様を汚す侮辱行為であろう?」
「鈴々達はまだ孔明に認められてないのだ!」
「鈴々の言う通り。だから我らは字で呼んでいるのだが……」
「認めてないとか、そんなことないです! んと、関羽さんも張飛さんもすっごく強くて、それにたくさん頑張ってて、私、すごいなーって思ってました!
 その……偉そうなことを言わせてもらうと、お二人のこと、すっごく認めてます! あの……もし私のことを認めて下さるのなら、真名で呼んで欲しいんです」
「ふむ……先ほどの戦いで孔明の実力を見せてもらって、我らは孔明の力を認めている。機を逃さぬ眼力、そして柔軟な兵法。素晴らしい力だ」
「むむっ。鈴々だってそー思ってたもんね!」

 それらのやりとりを聞いていて、思わず口を挟んでしまう。

「なら、お互いに真名で呼び合えばいいんじゃないか? 認め合ってるんだし。それに、もし俺にも真名があったとすれば、きっと三人にだって呼んでもらいたいと思うし……」

 俺の言葉に、三人はそれぞれ頷いた。

「……そうですね。確かにお互いが認め合っているのならば問題は無いでしょう」
「あ、じゃあ……」
「うん! 鈴々の真名は鈴々なのだ! 朱里、これからもよろしくなのだ♪」
「よろしく。我が真名は愛紗……今後とも共に戦おう」
「はいっ!」



 ──こんなやりとりがあり、懸念は解消。
 三人はすぐにうち解け、俺たちは万全の態勢で県境へと向かうのだった。


















 黄巾党の別働隊を撃破した荒原から東へ二里ほど行ったところに、黄巾党の本隊と対峙している公孫賛の本陣が築かれていた。
 俺たちの軍は公孫賛軍の隣に本陣を布かせてもらう。そして早速挨拶と軍議を設けるために、本陣に愛紗と鈴々を残し、朱里を連れて公孫賛の陣へと赴いた。

「…………」

 もはやここまで来ると感覚が麻痺したのか、公孫賛の姿を見ても驚かなくなっていた。
 公孫賛もまた……女性だった。

「へぇ……お前が天の御遣いと噂されてる男か」

 鮮やかな赤毛はセミロングほどの長さで、それを無造作に後ろで縛ってまとめている。鋭い眼差しと表情豊かそうな顔立ちは、愛嬌のある美人と評するのが妥当な所か。
 その公孫賛は挨拶する間もなく、早速珍獣でも見るような好奇心に満ちた目で無遠慮な視線を送ってきた。その態度は初対面の人間に対して失礼ではないか、とも思ったが、自分が噂されるような立場の人間であることと、目の前の女性が黄巾党の大軍を今まで抑えてくれていたという事実を思い出し、こちらはこちらで礼儀を尽くす。

「この度は、領内に侵攻する黄巾党の賊軍を抑えていただき、当方としては言葉では言い尽くせぬほどに感謝しております。公孫賛殿」

 まずは感謝の意を伝え、深々と頭を下げた。それに倣い、隣の朱里も慌てて一礼。
 そんな俺たちのリアクションに、公孫賛の方が居心地悪そうな表情を見せた。

「やれやれ……こっちが無礼を働いたのに、そこまでの礼儀を尽くされた日には、こっちがただのアホウみたいじゃないか。頭を上げてくれ、高町殿」

 先ほどとは違い、こちらを気遣いながらもどこか親しみを持てる態度を見せる公孫賛の言葉に、俺と朱里はゆっくりと頭を上げた。

「天の御遣い殿はどうにも冗談が通じないみたいだな?」
「そうでもないですよ。こっちが礼儀正しくすれば、そちらがいたたまれない思いをするのを見越してましたから」
「む……」
「ただし、先ほどの口上には嘘偽りはありませんがね」

 そういって下手くそなウインク一つ。すると、一瞬だけ頬を赤くした公孫賛が苦笑を見せた。

「なるほど……そーゆー性格か。だが、嫌いじゃないね。そういうのは」
「そう言ってもらえると助かります」
「その口調はやめてくれ。あんたは県令の立場だし、私だって似たようなものさ。双方の軍の大将同士、対等なんだから、堅い口調はナシにして欲しいんだけど?」
「……了解。では遠慮無く」

 遼西群を束ねる太守と県令では幾分立場は違うだろうに、それを気にしない豪放さは対するこちらも気持ちがいい。彼女とは話が合いそうだ。

「では、あらためて。公孫賛、この度は助かった。君のおかげで、なんとかあの大軍と対峙することが出来ているんだ。ありがとう」

 今度は頭こそ下げなかったが、何の含みもない感謝の言葉を笑みを浮かべながら述べると、公孫賛の顔がまた赤くなった。

「も、もう良いって。それよりお前ら、どれくらい兵を連れてきた?」

 どうやら照れくさくて話題を変えたいらしい。正直もうちょっとからかいたい気持ちもなきにしもあらずだが、本題を切り出さないことが気に入らないのか、朱里が微妙に不機嫌そうなので、ここは彼女の思惑に乗ることにした。

「それは……朱里。頼む」
「はい」

 そこで脇に控えていた朱里が一歩前に出て、俺たちの戦力に関して説明する。

「先ほど黄巾党の別働隊を撃破した時に受けた損害と、傷兵と後退した補充兵の数を考えると、現状では五千前後……と言ったところでしょうか」

 朱里の報告を受けた公孫賛は、あごに手を当てて両軍の戦力計算を始めた。

「約五千か。こちらの兵も……今はそれくらいなはずだから、併せて一万ちょいってところだな」
「ちなみに、敵の総数は?」
「こっちの斥候の調べでは、二万五千前後といったところだ。さすがに兵数が違いすぎて、私らでは奴らの足止めだけで精一杯だったのさ」

 情けないことにね、と付け加える公孫賛。
 しかし情けないどころか、充分すぎる程の善戦と言えた。

「五千強の兵数で二万五千を抑えるだけでも凄いことだと思うぞ」
「抑えたって程の事じゃないさ。こっちは啄県への道をふさぐように陣地を敷いて、そこに籠もっていただけなんだから」

 大したことはしてないんだと強調する公孫賛。本当に気さくな人だな。
 
「啄県に入らない場合、奴らが略奪に向かうとすれ礁や河北だろ? それらは曹操や袁紹の本拠地なんだから、あっちは備えも万全だろうし、守っても仕方がない」

 だが気さくなだけでなく、なかなか機転も利く好人物だった。
 彼女は黄巾党が狙うであろう三つの都市の中で一番備えが心許ない俺たちの啄県を憂い、守ってくれていたのである。

「……ありがとう。本当に、いくら感謝しても足りないな」
「だっ、だから、こっちは本拠の遼西に帰る途中のついでだっただけだ。つ・い・で! 大袈裟に考えるんじゃない!」

 そして彼女はけっこうな照れ屋なようだ。
 大将としての威厳もあるようだが、照れている姿はどこか可愛らしく、微笑ましい。
 余裕があればもう少しそのあたりをちょっかい掛けていたいところだが、今がその時ではないことは俺だって承知している。

「まあ、感謝の礼は後日あらためてということで、この後どうするかを話し合おう」
「……感謝云々はともかく、確かに高町の言う通りだ。今でも兵力差はあるのだからここでしっかりと策を──」
「公孫賛殿。少しよろしいか?」

 ようやく軍議に入ろうとしたその時、それに割って入るかのような声。
 それは公孫賛陣内にいた一人の少女のモノだった。
 その少女は、立ち居振る舞いからその姿まで、その全てが“凛”としている。
 短く切りそろえられた髪の中で後ろ髪を一房分だけ長くし、それを垂らしているのが美しく。小さくも整った顔立ちの中でも、意志の強さを表す瞳は切れ長で鋭さと美しさが同居していた。白を基調とした着物も彼女にはよく似合っていて、思わず目を奪われる。だが、それ以上に気になったのは──彼女の気配だった。
 彼女の持つ雰囲気……それが、愛紗や鈴々に負けぬほどの覇気だったのである。
 その彼女の登場に、これより軍議を始めようとしていた公孫賛が眉をひそめつつ応対した。

「……なんだ?」

 話の腰を折られたせいか、露骨に不機嫌そうな表情を見せる公孫賛を見ても、少女は気にした様子もない。
 ……なかなかの大物だな。

「援軍が来たようで重畳。されば黄巾党を撃破する手段をお聞かせ願いたい。さすれば私が先陣を切り。あなたに勝利をお贈りしよう」

 ……なんとも不遜な、それでいて自信に満ちた言葉だろうか。
 そんな彼女の言葉に俺と朱里は言葉を失い、公孫賛は呆れた様子で肩をすくませた。

「また始まったか……己の武勇を誇りたい気持ちは分からんでもないが、今は私と高町の両大将が軍議をしようとしているんだぞ。それを邪魔するのは僭越に過ぎやせんか?」

 こちらの手前もあってか、公孫賛は抑えた物言いだが、意訳すると「邪魔すんな。引っ込んでろ」と言ったところだろうか。
 しかし少女の方も一向に退く様子を見せない。

「確かにあなたの家臣ならばそうでしょう。しかし私はあなたの家臣になった覚えはない」

 家臣ではない……? とすれば、客将といったところか?
 思った以上にくらいついてくる少女に、公孫賛はうざったいと言わんばかりに頭をかいた。

「それはそうだが……では、どうしろと言うのだ?」

 それなら言いたいことをさっさと語ってくれ、とばかりの問いに、少女の目が光る。

「知れたこと。相手は烏合の衆。一騎当千の者が当たれば恐れをなして総崩れになるのは必定。今すぐにでも吶喊すべし」

 何とも豪快な意見だった。
 黄巾党が烏合の衆であることも認めるし、ちょっとしたことで崩れるとは思うが……それにしたって随分と乱暴だ。
 どうやらこの少女は、この膠着状態に飽きているらしい。
 だからといって、そんな無謀な策に公孫賛が頷くはずもなかった。

「めちゃくちゃなことを言う。相手は我らよりも多いのだぞ? 兵法の基本は相手よりも多くの兵を用意すること。その基本から言えば、この兵数で当たることこそ邪道ではないか」

 公孫賛の言葉は紛れもなく正論だ……もっとも、これまで敵よりも少ない兵数で戦ってきた俺には少々耳が痛かったが。
 しかしそれでも少女はなおも強硬な姿勢を貫く。

「それは正規の軍に当たる時の正道でしょう。あのような雑兵どもに兵法など必要なし! 必要なのは万夫不当の将の猛撃のみ!」
「相変わらずのホラ吹きだな。それほどまでに敵を恐怖させる猛将が我らが軍に居るとでも言うのか?」
「この場に少なくとも三人は居る」

 少女の答えに一瞬だけ目を丸くした公孫賛だったが、すぐに不敵な笑みを見せた。

「ほぉ……ならばその名を言ってみろ!」

 言えるというのならな、という挑戦的な問いかけに、少女は平然と答える。

「関羽殿と張飛殿。そしてこのわたしが」
「──」

 そこで意外な名前が出た。
 もはや彼女が己を入れることは想定していたが、まさかうちの愛紗たちを入れてくるとは。
 それは朱里も一緒だったのか、一緒に驚きの表情を見せていた。
 そして公孫賛と言えば、

「関羽に張飛? 誰だそれは?」

 その少女が知っていた俺たちの軍の将のことを知らなかったようだ。

「今、うちの陣に控えてもらっている俺の仲間だ」

 話を聞いている限りは、武勇に優れた猪武者かと思ったが、こちらの軍の情報を持っているあたり、なかなか侮れないな、あの少女は。
 少女の挙げた人物が実在の者であることは理解した公孫賛だったが、まだ半信半疑らしく、

「……こやつが言うほどの将なのか?」

 こっちに確認を取ってきた。
 それに対し、俺は胸を張って答える。

「あの二人と肩を並べて戦場に立てると言うことは、俺にとっては何よりの誇りだよ。そう思わせるだけの力量を持ってる二人だ。俺はあの二人を見て初めて“一騎当千”の本当の意味を知ったくらいだ」
「なるほど……天の遣いのお前がそれほど言うのであれば、その二人については間違いなくそうなのであろうな」

 俺の言葉に納得の表情を見せる公孫賛。しかし、それでも彼女は件の少女の意見を認めようとはしなかった。

「だが、だからと言ってそんな無謀な突撃で大事な兵を損なうワケにはいかん。もっと違う方法を考えてみせろ」

 それとこれとは話は別だ、と言わんばかりに少女の申し出を却下する。
 そんな対応に、少女はやれやれと肩をすくませた後、しみじみと呟いた。

「公孫賛殿は手ぬるいな。それでは一県の将となれても、一国の主にはなれまい」

 それは彼女からすれば公孫賛を憂いての言葉だったのかも知れないが、そんな言葉を向けられた張本人からすれば挑発以外の何物でもない。

「言わせておけば……それほどまでに言うのなら、貴様の好きにすれば良かろう!」

 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、こちらを気にする余裕もなく怒鳴り声をあげる公孫賛。
 しかしそれとは対照的に、少女は最後まで冷静なまま、

「ふっ、承知」

 一つ頷いて、俺たちに背を向けて立ち去る。が、その前に、

「…………」
「…………?」

 少女の視線が一瞬だけこっちを射抜いた事がどうにも俺の中に深い印象を残すのだった。
 とはいえ、彼女のおかげでこっちの空気が一気にしらけたのはいただけなく、

「えっと……」

 どう切り出していいかわからず唸っていると、

「……恥ずかしいところを見られたな。出来れば忘れて欲しい」

 少女が退場したことで冷静さを取り戻した公孫賛が羞恥に頬を染めながら、そう懇願してきた。
 こちらとしては、当然今の一件をからかうような真似をしようとは思わない。
 だが、

「それは構わないが……だが、いいのか? 彼女の様子からして、本当に一人で突撃しかねないぞ?」

 問題そのものはまったく解決していない。
 しかし公孫賛は問題を取り上げるつもりもないようだ。

「好きにさせれば良いさ。あんなものはどうせ口だけだ。大軍を前にそれほどの勇が奮えるものか。玉砕するか尻尾を巻いて逃げ帰ってくるかだよ」

 そうは言うが、それはそれでまずいのではないだろうか?
 そんな俺の疑問をハッキリとした形で代弁してくれたのは、横に控えていた朱里だった。

「ですが、公孫賛様……戦いの前に将が負けてしまえば、それは全軍の士気に関わるかと」
「む……」

 朱里の意見に反論出来ず言葉に詰まる公孫賛。
 だとすれば、善後策を考えるべきだろう。

「朱里の言う通りだな……朱里、何か策はあるか?」
「そうですね……少しお待ち下さい」

 俺の突然の要求にも朱里は嫌な顔一つせずに、策を考え始める。黙考する彼女の頭の中では、スーパーコンピューターにも負けない演算速度で策を講じているのだろう。その表情はいつもの幼さは影を潜め、知略を武器とする軍師の顔になっていた。
 そして、

「浮かびました! あの方が突撃した場合としなかった場合の二種類の策が!」

 策が用意出来た朱里が、喜色満面と言った様子の笑顔を見せて、隣の俺の袖をくいっくいっと引っ張ってきた。その仕草が、どうにも飼い主からの言いつけを守って褒めてもらいたがっている飼い犬のように見えて微笑ましい。

「さすがは朱里。偉いぞ」

 本来ならば策を聞いてから褒めるべきなのだが、先ほどの一戦からも彼女の実力はすでにわかっている。これも信頼の証とばかりに、朱里の頭を優しく撫でた。
 すると途端に朱里の顔もいつもの幼い顔に戻り、

「えへへ……ナデナデされちゃいました……」

 ほんのりと頬を赤く染めて、心地よさげに目を細める。
 そんな俺たちの様子と、あの少女のために策を講じることに呆れたのか、公孫賛が肩をすくめた。

「そこまでして趙雲を助ける意味などあるのか? それよりも、我らの軍勢でもって、奴らを蹴散らす手段を考えた方が建設的だろ」

 少女のことなど捨て置けと言わんばかりに反論する公孫賛。
 だが……俺は彼女の反論の中にあった、聞きおぼえのある名前に驚いた。
 今、彼女はさっきの少女を何と呼んだ?

「ちょっと待て公孫賛。今……なんて言った?」
「だから、奴らの軍勢を蹴散らす手段を──」
「いや、そこじゃない。さっきの彼女の名前……俺の聞き間違いじゃなければ、趙雲と言ったか?」

 その名前は、三国志においてあまりに有名な武将の名前──っ。

「言ったぞ。奴の名は趙子龍。庶人を守りたいなどと甘い事を言って我が軍勢に居着いた流れ者だ……まぁ、腕は立つし頭も切れるから、我が軍に客将としておいてやっているのだがな」
「……そうか」

 それがどうかしたのか、とつまらなそうな顔をしている公孫賛を尻目に、俺は先ほどの少女の姿を思い出していた。
 ……予想はついていたが、やはり趙雲もここでは女性なのか。




 そしてここに来て、ある考えに至る。
 これまで俺が関わってきたのが──関羽、張飛、諸葛亮……そして趙雲。彼女らはいずれも三国志における英雄の一人『劉備』の元に集った勇将たちだ。だが、この世界に来てから二ヶ月が経つが、劉備の名前を聞いた試しがない。そして現在は関羽、張飛、諸葛亮が俺の仲間となり、今もまた趙雲と関わりを持ってしまった。
 そこで一つの仮説が立てられる。

 ……もしかして、この世界において俺は劉備の役目を担っているとでも言うのか?

 この疑問に答えてくれる人間は……いるはずもなく、この仮説は真説になることはないとわかっていながらも、俺の脳裏にいつまでも残ることとなるのだった。




 思わぬ人物の名前をきっかけに、思わず物思いにふけってしまった俺の意識を戻したのは、公孫賛軍の陣内で起きた動揺の声の数々だった。

「む……どうした?」

 陣内の兵たちが目に見えて浮き足立っているのが俺にもわかる。だが、敵が攻めてきたといった様子ではない。では、なんなのかと推察する前に、

「殿ーっ! 趙雲殿が一人で陣を飛び出し、単身で敵部隊に突撃してしまいましたーっ!」
「「「──っ!?」」」

 公孫賛軍の兵の一人から、その報が入った瞬間、俺と公孫賛と朱里の三人は揃って絶句した。






















あとがき

 ……特に捻りもなく(ぇ
 未熟SS書きの仁野純弥です。
 前回のあとがきで思わせぶりなことを書いておきながら、今回はほぼ原作通りとなっちゃいました。ごめんなさいです。
 今回は公孫賛&趙雲の顔見せのみとなってしまいました。
 ただ、個人的には公孫賛が書けたのは嬉しかったり。彼女のような苦労人は好きなんですよ(苦笑
 では最後に、ここまでこのお話を読んでくださってる読者の皆様と、SS公開の場をくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
 では〜。



趙雲の登場!
美姫 「とりあえず、趙雲は飛び出して行ったのね」
みたいだな。ああ、一体どうなるんだろう。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
うんうん。とっても待ち遠しい。
次回を楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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