『リング』




            ラグナロクの光輝  第二幕


 ムスッペルヘイムの前方のケルン星系。帝国領の入り口にあたるこの星系において連合軍は帝国軍の迎撃を受けた。帝国軍の司令官の一人フルングニルが艦隊を率いて連合軍に向かって来たのである。
「その数は」
「およそ三十個艦隊」
「少ないですね」
 パルジファルは部下からの報告を受けてまずはこう呟いた。それからまた問うた。
「本当にそれだけですか?」
「はい」
 だがその部下はまたしてもそう答えた。
「それだけです」
「左様ですか」
 彼はそれを聞いた後で同志達を集めた。そして彼等に対して問うた。
「ケルンにおいて敵三十個艦隊がこちらを迎撃に来ております」
「やけに少ねえな」
 それを聞いて最初に口を開いたのはジークムントであった。彼は直感からこう述べていた。
「何かあるんじゃねえか」
「そう思われますか」
「俺の勘だけどな」
「わかりました。それでは他には」
「よくあることだが別の星系から分進合撃を仕掛けて来るのではないのか」
 次にヴァルターが言った。
「分進合撃ですか」
「そうだ。それだと数に納得がいく」
「では別の星系からも敵軍が来ていると」
「ケルンだと」
 ローエングリンが述べた。腕を組みながら考えている。
「ジュッセルドルフ辺りからかな」
「ジュッセルドルフから」
「数は。こちらに来ているその三十個艦隊と同等か若しくはそれ以上」
「成程」
「若しくは戦力的にこかなりの攻撃力を持つ高速の軍か」
「今来ているフルングニル提督の艦隊が床ならば」
「その艦隊が鎚だ」
「ではまずはどちらかを叩くとしますか」
 パルジファルはそこまで聞いてからこう述べた。
「これで。如何でしょうか」
「言うのは容易いがそれは決して容易ではないぞ」
 トリスタンがそれに忠告する。
「それにその敵軍がまだいるかどうかもわからん」
「ここは。まずはケルンに入るのを止めた方がいい」
 タンホイザーも言った。
「まずは様子見ですか」
「私はその方がいいと思う」
「左様ですか」
「まだ十二月には間がある」
「それでは」
「それよりも今は敵のことを調べるのが先だ。そうだな」
 ここで三次元星図をモニターに映し出した。ケルン星系及びその周辺星系の星図が映し出されている。タンホイザーはそれを眺めながら言う。
「左のジュッセルドルフに右のアイフェル。この辺りを探るべきだ」
「ケルンよりも前に」
「そうだ。まずはこのヘッセンに腰を据えてな」
「だがヘッセンにはそれ程よい基地はない」
 ジークフリートがそれに対して言う。
「あまり長時間は大軍を待機させられはしないぞ」
「それはわかっている」
 タンホイザーはそれに答えた。
「あくまで一時的だ」
「そうか」
「ではモンサルヴァート総帥」
 トリスタンが彼を見据える。モンサルヴァートは彼等を統率する立場として総帥に就任していたのである。
「どうするか」
「最初はこのままケルンに入るつもりでしたが」
 彼はその問いに返事を返した。
「それはやはり早計ですね」
「それでは」
「はい、まずはこのヘッセンに待機します」 
 彼は決断を下した。
「そして。情報を収集します」
「わかった」
「ではまずはここで待機する」
「それでお願いします。それでは」
「うむ」
 七人の軍はヘッセンにおいて情報収集に入ったそれで次のことがわかった。
「やはりジュッセルドルフに大軍が向かっております」
「そうですか」
 これは予想通りであった。
「そしてアイフェルにはブラックホールがあります」
「では通るのは困難ですね」
「それを見越してケルンに来ているものと思われます」
「わかりました」
 パルジファルは報告を聞いて頷いた。
「ではケルンとジュッセルドルフから我が軍を挟み撃ちにすると」
「おそらくは」
「そこまでわかれば。対処は容易です」
 彼はあくまで冷静であった。そしてその脳裏に勝利を描いていた。
「そこまでわかれば充分です」
「ではケルンに」
「はい」
 部下の言葉に頷く。
「今ここにいる全軍を以って」
「わかりました。では」
「ただし」
「ただし?」
「今回は機動力を駆使します」
 彼は言った。
「機動力をですか」
「そうです。まずはケルンにいる敵軍を一気に叩きます」
「一気に」
「それはお任せ下さい。他の同志達にもそれはお伝え下さい」
「はっ」
 その部下はその言葉に応えて敬礼した。
「ではすぐに」
「ケルンへ」
 連合軍はヘッセンを発ちケルンに入った。そしてすぐに全軍を以ってケルンに展開する帝国軍に向かった。
「ジュッセルドルフから来ている敵軍は」
「まだジュッセルドルフに留まっています」
 情報参謀から報告が入る。
「時間があるのですね」
「はい」
「それでは予定通りです」
「私がまず動くのだな」
 ジークフリートがモニターに姿を現わした。
「お願いします」
「そして敵の後ろに回り込む」
「はい」
「そして俺の艦隊が敵に斬り込む」
 次にジークムントが出て来た。
「空母で派手に暴れる。それでいいな」
「そうです」
「そしてだ」
 今度はタンホイザーとローエングリンが姿を現わした。
「私と司令の軍が右か」
「右から敵を囲むのだな」
「ええ。そして」
「私と藩王が左」
「私達が左翼か」
「そして私が中央です。提督の突入の援護も後ろから受け持ちます」
「頼むぜ、それで」
 ジークムントはそれを受けて言った。
「ジュッセルドルフから敵が来てるからな。一気に決めねえと」
「その通りです」
「ではすぐに仕掛けるか」
「卿の手腕、見せてもらうぞ」
 六人はグラールのモニターから姿を消した。そしてそのまま戦いに入った。
 連合軍四十九個艦隊約二千五百隻は帝国軍三十個艦隊千五百隻と対峙した。連合軍は彼等を待つまでもなくすぐに動いてきた。
 まずはジークフリートの艦隊が帝国軍の前から姿を消す。やや大きく迂回して帝国軍の後ろに回り込みにかかる。これは帝国軍には察知されていなかった。
 帝国軍は連合軍が来たのを見て備えてきた。しかしその動きはあくまで防衛用であり、攻撃的なものではなかった。パルジファル達の予想通り彼等は守りに徹し、鎚と床の床になっていた。
「あくまで床に徹しますか」
 パルジファルはそれをグラールの艦橋から見ていた。そして彼等の布陣をモニターに映し出された映像から眺めていた。自軍が青、帝国軍が赤に三次元モニターで映し出されていた。
「それならば床を叩き潰すまでです」
「総帥、既に布陣は終えています」
「はい」
 報告に応える。
「後は」
「わかっています。では攻撃開始です」
「敵の防衛態勢はかなり堅固でありますが」
「それをこじ開ける為のヴァンフリート首領です」
 彼は言った。
「そしてヴェルズング提督もまた。やってくれます」
「では」
「はい」
 その間にもジークフリートの艦隊は動いている。モニターではもう帝国軍の後方に回り込んでいた。パルジファルの予想通りの機動力であった。これを考えてあえてジークフリートの艦隊には機動力に長けた艦ばかりを置いたのである。その狙いは当たっていた。
 パルジファルはモニターからジークフリートの艦隊を見ていた。そして今まさに完全に射程に入ろうとする絶好のタイミングでジークムントの艦隊も動きだした。
「見事です」
 パルジファルはジークムントの動きを見て言った。
「流石にわかっておられますね」
「総帥、今こそ」
「ええ」
 部下の言葉に頷いた。
「攻撃目標前方の敵艦隊」
「攻撃目標前方の敵艦隊」
 命令が復唱される。
「ヴェルズング提督の艦隊、敵の射程内に入ります」
「はい」
「そしてヴァンフリート首領の艦隊が今」
「わかりました」
 パルジファルは右手を大きく掲げた。
「射程は」
「合わせています」
「ヴェルズング提督の艦隊、射程に入ります」
「敵艦隊、攻撃態勢に入っております」
「よし、今です。撃て!」
「撃て!」
 右手が振り下ろされ攻撃が繰り出される。だがその直前にジークフリートの艦隊が後方から稲妻の如き攻撃を敵軍に浴びせていた。
 そこへパルジファルの艦隊の攻撃が前から浴びせられる。忽ち何十隻かの艦隊が火球と化しそのまま消え去っていく。
 ジークムントの艦隊は動きを止めた敵艦隊へ雪崩れ込んでいく。彼はすぐに機動部隊に指示を出した。
「艦載機を発進させろ!」
 彼は言う。
「敵がうろたえている今がチャンスだ!一気に流れを掴むぞ!」
「了解!」
 それに従い艦載機が次々と発進する。そして狼狽する帝国軍の艦艇を瞬く間に屠っていく。
 これで帝国軍は完全に混乱状態に陥った。パルジファルはそれを見て戦いを次の段階に進めてきた。
「左右の軍に前進命令を」
「包囲殲滅ですね」
「そうです。これで決めます」
「了解」
 これに従い左右の軍が動いた。最早これを止める力は帝国軍には残っておらずそのまま取り囲まれ押し潰されてしまった。かくしてケルンでの戦いは連合軍の地滑り的な勝利に終わった。残った僅かな帝国軍は算を乱してムスペッルスヘイムへ向けて壊走していく。まずはこれでよしであった。
「次ですね」
 パルジファルは敵がいなくなったのを見て言った。
「ジュッセルドルフからの敵軍です」
「ですね」
「すぐにジュッセルドルフに向かいますが」
「すぐにですか」
「そうです。この勢いをそのままに」
 彼は戦いに勝った勢いをそのまま次の戦いに持ち込むつもりだったのだ。その為にもすぐに戦いに向かいたかったのだ。
「次の敵を退けます。そしてジュッセルドルフも」
「わかりました」
 部下達はそれに頷いた。
「それではすぐに」
「はい」
「それで宜しいでしょうか」
「我々には異存ははない」
 他の六人もそれに応えた。
「今我が軍は勢いに乗っている」
「そのままの勢いで敵を倒しておきたい」
「そしてムスペッルスヘイムへ」
「行く為にも今は」
「後ろから迫る敵を退けておこう」
「畏まりました。それではジュッセルドルフへ」
「うむ」
 即座に反転してケルンから見て左手のジュッセルドルフへ向かう。だがその入り口で彼等は思わぬものを見たのであった。





緒戦は連合軍の勝ち。
美姫 「けれど、帝国軍もまだまだ諦めないでしょうね」
さてさて、これから激化していくであろう戦い。
どんな結末が待っているのか。
美姫 「次回もお待ちしてます」
ではでは。



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