『ヘタリア大帝国』




                           TURN1  殿軍

 満州星域にだ。中帝国の艦隊が接近してきていた。
 それを受けて日本帝国軍は四個艦隊を以て迎撃に出た。その中でだ。
 日本は難しい顔をしてだ。連合艦隊司令長官に対して問うていた。
「果たして大丈夫でしょうか」
「中帝国の艦隊がか?」
「はい、どうも気になります」
 こうだ。旗艦金剛の艦橋で難しい顔で言っていたのである。
「我が軍は四個艦隊。それに対して敵は八個艦隊です」
「敵の司令官は誰だったか」
「中国さんも妹さんも出撃されてはいません」
 このことは既に知られていた。事前の偵察でだ。
「名のある司令官も出撃されていない様ですが」
「リンファ提督もランファ提督もな」
 司令官は環境で仁王立ちとなっている。そのうえで腕を組み前を見据えながら日本に応える。彼も日本も他の将兵達も皆白い詰襟の日本の軍服を着ている。その色が艦橋の中に映えている。
 その中でだ。司令官は日本に対して言った。
「いない。それではだ」
「恐れることはないというのですね」
「私はそう思うがな」
 こう日本に言うのだった。
「だが祖国は違うのか」
「はい、どうも不安になります」
 眉を曇らせてだ。日本は言う。
「私の気のせいであればいいのですが」
「確かに戦力は敵軍の方が上だ」
「相手は八個艦隊、こちらは四個艦隊です」
「しかし艦艇の質は我が軍の方が上だ」
 日本の艦艇は曲がりなりにも近代化を達成していた。確かにガメリカやエイリスには劣る。空母の開発も遅れている。だがそれでも一定の水準には達していた。
 しかし中帝国の艦艇はそうではなくだ。その質はお世辞にもだった。
「それではだ」
「恐れるに足りませんか」
「そう思うのだがな、私は」
「だといいのですが」
「それはそうとしてだ」
 ここでだ。司令官の方から日本に尋ねてきた。
「今こうして祖国はここにいる」
「はい」
「妹殿と韓国、そして台湾は今は」
「妹は帝のお傍にいます」
 まずは妹のことから答える日本だった。
「そこでいざという時に備えています」
「そうか」
「韓国さんも台湾さんもです」
「それぞれの場所にいるか」
「今満州に来ているのは私だけです」
 そのだ。日本だけだというのだ。
「その他に国家として出撃している方はいません」
「そうか。話はわかった」
「柴神様も日本におられます」
 日本帝国領内、そこに留まっているというのだ。その神もだ。
「そうなっています」
「わかった。では司令官だが」
「第四艦隊の東郷さんは前面に出されないのでしょうか」82
 この人物の名前を出してだ。そして言う日本だった。
「あの方は」
「東郷提督か」
「はい、第四艦隊は後方に置かれたままですか」
「予備戦力に置いておこうと思っているのだが」
「それでなのですか」
「そうだ。それで第三艦隊の樋口提督だが」
「樋口提督ですか」
 彼の名前を聞いてだ。日本は顔を曇らせた。
 そしてそのうえでだ。彼はこう司令官に言った。
「あの、あの方はどうも」
「駄目だというのか」
「はい、どうもよくない噂ばかり聞きますし」
「女性問題か」
「とかく女性士官や兵士に対するセクハラ問題が後を絶ちません」
「確かにな。何かあるとすぐに出て来る」
 その樋口の女性問題はだというのだ。
「提督としての質も問題だしな」
「ですからあの方だけは」
「しかし仕方がない」
「今の我が国の人材ではですか」
「平良提督もまだ入院している」
 この人物の名前も出た。
「韓国で民を虐げる元両班を成敗した際に撃たれたそうだが」
「はい、その傷が思ったよりも深くです」
「正義感が強いのはいいのだが」
 その平良という人物のことをだ。司令官は苦い顔で話していく。
「軽挙妄動が過ぎるのではないのか」
「私もそう思います。ですが」
「以前よりはいいか」
「はい、憂国獅子団でしたね」
 暗い顔になってだ。日本はこの組織の名前も出した。
「あの組織の指導者として国粋主義を掲げるよりは」
「あの組織のことは軍でも問題になっていた」
 司令も難しい顔で日本に述べる。
「我が国は最早日本だけではないのだからな」
「韓国さんと台湾さんもおられますから」
「そうだ。所謂連合王国だ」
 それが今の日本帝国だった。日本に加えて韓国と台湾も加えてだ。そのうえで日本帝国になっている、日本だけが構成国だけではなくなっているのだ。
 だからだ。司令も言うのだった。
「海軍にも陸軍にも韓国出身者や台湾出身者がいる」
「将校にも」
「そして韓国も台湾も祖国と共に戦っているのだ」
「それでああした国粋主義的な組織は」
「問題があった」
 政治的に極めて、だった。司令もそのことは認識していた。
 そしてだ。また日本に言う彼だった。
「だからだ。彼を台湾、韓国に出向させたことはだ」
「そして憂国獅子団の主要構成員を平良さんに同行させたことは」
「よかったな」
「はい、平良さんのお考えが変わりました」
「国粋主義を脱されました」
「元々正義感の強い男だった」
 国粋主義だが邪悪ではない、それが平良という男だというのだ。
 司令はそのことを認識したうえでだ。日本に話すのだった。
「後はその視野の狭さをどうにかすればだ」
「よかったな」
「はい、そうした意味で正解でした」
 平良を台湾、そして韓国に行かせたことはだというのだ。
 このことは日本も司令もよく認識していた。それでだ。
 そのうえでだ。日本は言うのだった。
「あれで憂国獅子団の方々は国粋主義から脱しました」
「解散したからな」
「今ではあらゆる人種の団結を旧構成員が主張しておられます」
「八紘一宇だな」
「そう主張されていますね」
「あの思想自体はいいのだが」
 だがそれでもだった。国粋主義よりはいいとしてもだった。それはそれでだとだ。司令は前を見たままでそのうえで日本に対してまた言ったのだった。
「それでもだ。やはり彼はだ」
「生真面目さ故にですね」
「生真面目なうえに正義感があまりにも強い」
 平良のそうした性格がまた話となる。
「台湾でも黒社会か」
「所謂ヤクザ者ですね」
「民衆を虐げる小悪党を切り捨てたそうだな」
「大立ち回りの末に何人かを」
「そして韓国でもか」
「それで負傷されました」
 その韓国で何があったのかをだ。日本は詳しく話した。
「かつての両班が民家から鶏を盗もうとしたことを咎める中で」
「その両班に刺されたのだったな」
「懲らしめ両班が土下座をしたのを見て成敗がなったと思われ背を向けたところで」
 つまり隙を見せてしまったのだ。勝ったと思いだ。
「両班が襲い掛かり。お背中を」
「油断だな。その両班も小者だがな」
「奈にとか一命は取り留められましたが」
「暫くは動けない」
「はい、残念なことに」
「全く。彼には第三艦隊を率いてもらおうと思っていた」
 それが司令の考えだったのだ。
「そして第二艦隊はだ」
「どなたに」
「これといっていなかった」
 残念ながらだ。そうだったというのだ。
「第一艦隊は私でだ」
「そして第二艦隊はですね」
「そうだ。祖国にだ」
 他ならぬ日本にだというのだ。
「率いてもらっている」
「そうなのですね」
「本当は祖国は祖国で艦隊を率いられるからな」
「だから第二艦隊はですね」
「人間に率いてもらいたかったが」
「人がいませんか」
「然るべき人材がいない」
 司令は難しい顔で述べる。
「だからだ。そうしたのだ」
「畏まりました。では」
「さて、敵だが」 
 自分達の話をしてからだ。そのうえでだ。
 司令は日本にだ。あらためて相手である中帝国の話をした。
「八個艦隊、約百隻」
「それに対して我が軍は四個艦隊です」
「そして四十五隻だ」
「やはり数では劣っています」
「しかし艦艇の質では勝っている」
 確かな声で言う司令だった。
「五〇式の戦艦に巡洋艦、それに駆逐艦だ」
「今の主力です」
「これで充分だ」
 質には絶対の信頼を置いている司令だった。それは言葉にも出ている。
「安心することだ。まずは三個艦隊で攻めだ」
「第一、第二、第三のそれぞれの艦隊で」
「そして残る第四艦隊はだ」
「予備戦力として置き」
「然るべき時に投入する」
「東郷さんは優秀な方ですから最初から投入されてもいいと思いますが」
 日本は眉を少し曇らせて自分の考えを述べた。
「敵の側面を衝くなりして」
「それも手だがな」
「ではそうされては」
「いや、それには及ばない」
 司令は日本の考えを退けた。そのうえでの言葉だった。
「まずは三個艦隊で攻めだ」
「そしてですか」
「決戦兵力として第四艦隊を投入する。そうしよう」
「畏まりました。それでは」
「第一艦隊、私の艦隊はだ」
 どうするかというのだ。司令の艦隊は。
「中央に位置する。祖国は右翼だ」
「そして樋口さんが左翼ですか」
「そう配置する。ではいいな」
「わかりました。ではその様に」 
 日本は司令の言葉に頷きそのうえでだ。己の艦隊、そしてその第二艦隊を率いる己の乗艦である日本、彼自身の名を冠した戦艦に戻った。そしてその艦橋からだ。
 将兵達にだ。こう告げたのだった。
「我が艦隊は右翼に位置します」
「そしてですね」
「そのうえで中帝国軍との戦闘に入るのですね」
「はい、そうなります」
 こう己の指揮する将兵達に述べるのだった。
「ではそれで宜しいですね」
「よし、じゃあやってやるぜ」
 ここでだ。丈の短い軍服にだ。顔に白い鉢巻をした威勢のいい顔の若者が出て来た。眉はしっかりとしていて髪は短く刈り左手には木刀がある。
 その彼が出て来てだ。こう言うのだった。
「中帝国の奴等ぶっ潰してやるぜ」
「あっ、田中雷蔵さんですね」
「ああ、祖国さんも俺のこと覚えてくれてるんだな」
「近頃よくお見受けしますので」
 それでだとだ。日本はその男田中に答えた。
「若手将校のホープだとか」
「おう、攻めの田中だよ」
「そうですか。貴方が第二艦隊にですか」
「そうさ。気合入れて頑張らせてもらうぜ」
「ではお願いしますね」
「祖国さんの為なら火の中水の中だぜ」
 田中は笑みを浮かべながら言う。
「じゃあ頑張らせてもらうからよ」
「はい、ではお願いします」
「ただ。田中さんは猪突猛進です」
 また一人出て来た。今度はだ。
 緑のおかっぱ頭にトパーズの色の瞳をした無機質な感じの少女だった。小柄で軍服はしたがやたらと丈の短いスカート、それにハイソックスとなっている。頭には小さな白いベレー帽とゴーグルがある。
 その少女がだ。こう言うのだった。
「もっと慎重になって下さい」
「貴女は確か」
「はい、祖国さん」
 少女は日本の言葉に応えて言う。
「私が小澤祀梨です」
「そうでしたね。貴女も確か」
「目下売り出し中。美少女将校です」
 自分で言う小澤だった。
「宜しくお願いします」
「そうでしたね。貴女も第二艦隊に配属されていたのですか」
「そうなってます」
「ううむ。中々面白い人達が揃っていますね」
 日本もある意味において感心することだった。
「田中さんに小澤さんとは」
「もう一人いるよ」
 また一人出て来た。今度は。
 紅い燃える様な長い、腰までの髪に確かな、気風のよさそうな顔に気の強そうな鳶色の目をした長身の女だった。胸がやけに目立つ。
 日本帝国海軍の白い軍服だが膝までのスカートには深いスリットがありストッキングを穿いている。その彼女が来てだ。日本に笑顔で言うのだった。
「南雲圭子。知ってるかな祖国さんは」
「この前結婚された」
「あっ、そのこと知ってるんだね」
「はい。士官学校の教官だったのでしたね」
「そうさ。これでも教員資格も持ってるんだよ」
 笑って自分のことを話す小澤だった。
「あたしも第二艦隊さ。宜しくね」
「では」
「しかし。何だね」
 南雲は祖国に田中、そして小澤も見てだ。そのうえで言うのだった。
「個性的だねえ。第二艦隊は」
「ですが強力な布陣ですね」
 日本はその南雲も含めた三人を見ながら言った。
「この顔触れなら大丈夫ですね」
「おうよ。がんがん攻めてやるぜ」
「索敵はお任せ下さい」
「じゃあ水雷戦の用意もしておこうかね」
 三人はそれぞれ日本に対して言う。田中は威勢よく小澤は無表情、南雲は明るい笑顔で。それぞれの表情で日本に対して言うのだった。
 そして日本はだ。ここでだ。
 第四艦隊、その旗艦長門に通信を入れた。するとすぐにだ。
 眼鏡をかけた長い黒髪の神経質そうな青年が出て来た。黒い瞳は知的な輝きを放っているがそれでもだ。いらぬ苦労をしている感じがしていた。
 軍服は端整に、生真面目なまでに着ている。見れば額が気になる。黒髪に隠れているが。
 その彼が出て来てだ。こう日本に言ってきたのだった。
「これは祖国様、どうされたのですか」
「どうも秋山さん」
 その男秋山敬一郎にだ。応える日本だった。
「東郷さんはおられますか」
「司令ですか」
「はい、おられるでしょうか」
「実は今は」
 ここで秋山は難しい顔になって日本に答えた。
「その、つまりは」
「ああ、あれだね」
 秋山が口ごもっているとだ。南雲が笑って言った。
「また可愛い娘のところだね」
「あの、その」
「長門の看護婦の娘は可愛いからね」
 南雲は笑いながら口ごもり困った顔になっている秋山に言っていく。
「旦那はそこに行ったんだね」
「困ったことです」 
 秋山は渋々ながらもそうだと答えた。
「あの方はどうもです」
「旦那はもてるからねえ」
「漁色家に過ぎます」
 その困った顔で言う秋山だった。
「全く。祖国様自ら戦場に出られているというのに」
「私のことはいいのですが」
「そうはいきません。そもそもです」
 秋山は日本に対してこんなことを言い出した。
「祖国様からも仰って下さい。あまりに不真面目な態度は部下の士気や風紀に関わると」
「我が軍は海軍も陸軍も軍規厳正ですが」
「ですがあの方は違います」
 やや怒って言う秋山だった。
「全く。提督ともあろう方があの様に不真面目では」
「ツンデレ」
 小澤がここでぽつりと言う。
「そして受け」
「ツンデレ?受け?」
「こっちの話」
 秋山の怪訝な顔になっての問いに素っ気無く返す小澤だった。
「気にしない気にしない」
「何でしょうか、一体」
「とにかくおっさんは何処なんだよ」
 小澤と入れ替わりで田中が秋山に問うた。
「いるんだろ?長門によ」
「それはそうなのだが」
「じゃあ早くおっさん呼んで来いよ」
「今は看護婦の個室にいて」
 それでだというのだ。
「間も無く戻られると思うのだが」
「おいおい、そこで何してるんだよ」
「言うまでもないと思うが」
 声を荒くさせる田中にむっとした顔で返す秋山だった。
「もうそのことは」
「糞っ、おっさんばかり何でもてるんだよ」
「ははは、青二才は恋愛経験が足りないからね」
 悔しがる田中の横で南雲が笑って言う。
「まあ仕方ないさ。あんたも可愛い娘ちゃんと付き合って男を磨くんだね」
「可愛い娘がそもそも俺のところには来ないんだよ」
「いや、一人位はいるだろ」
「いねえよ、何でだよ」
「今時ツッパリはもてない」 
 またぽつりと言う小澤だった。
「日の丸鉢巻なんてまるでゾク、時代遅れもいいところ」
「おい、どさくさに紛れて何言ってるんだよ」
「バイク乗って事故って頭を打つと少しは頭がよくなる」
 まだ言う小澤だった。
「というかファッションセンスが悪過ぎ。サラシに御守りってテキ屋か御前は」
「小澤!手前言うことにこと欠いて!」
「男と絡まない男に存在価値なし」
 小澤の毒舌は続く。
「魚屋に転職すればそのまま」
「くっ、確かに魚は好きだけれどよ」
 言われっぱなしの田中は苦い顔で述べた。
「それでも何だよその口調は」
「気にしない気にしない」
「気にするよ馬鹿野郎」
「そろそろいいか?」
 二人のやり取りが一段落ついたところでだ。また言う秋山だった。
「それで私の言いたいことだが」
「ああ、あんたまだいたのかよ」
「額が眩しい」
「私は禿げてはいない!」
 小澤の言葉に異常反応する秋山だった。何故か。
「これは生まれつきだ。そもそもこうなったのも司令が」
「参謀、禿げには若布がいいぜ」
 田中はナチュラルにそれを勧めた。
「海草がな」
「だから私は禿げでは」
「あの、それでなのですが」
 またここで言う日本だった。話が進まないので出て来たのだ。
「東郷さんはどりらに」
「あっ、そうでした」
 言われてはっとなる秋山だった。彼もようやく思い出したのだ。
「司令ですね。今お呼びします」
「はい、それではお願いします」
「それでは」
 秋山が日本の言葉に応えて呼ぼうとしたその時にだ。金髪のやや短く刈った髪に微かに顎鬚がある。
 整った若々しい顔に鳶色の見事な輝きを放つ目をしている。口元には余裕のある微笑みがある。
 白い軍服の前から長い紅のマフラーを出している。その彼が出て来て言うのだった。
「ああ、祖国さん何だい?」
「あっ、東郷さん」
「俺に何か用かな」
 その第四艦隊司令官東郷毅が日本に応える。彼こそその東郷なのだ。
「通信を入れてくれるなんて」
「はい、今どうしておられるかと思いまして」
 それで通信を入れたと答える日本だった。
「御元気そうですね」
「ああ、相変わらずさ」
「そうですか。それで御聞きになられたと思いますが」
「我が第四艦隊は予備戦力だな」
「はい、そうなります」
「三個艦隊で攻めてその時が来ればか」
「貴方の第四艦隊が投入されます」
 作戦のことを話してだ。そのうえでだ。
 日本は東郷にだ。こう曇った顔で話したのだった。
「私としては貴方も最初から戦線に出てもらいたいのですが」
「いや、俺はそれでいいと思う」
「予備戦力でいることにですか」
「俺が出ると予備戦力になるのは第三艦隊になるな」
「そうですね。おそらくは」
「第一艦隊は当然としてな」
 戦線に出る。それならばだというのだ。
「祖国さんの第二艦隊は人材も揃ってるしな」
「最初から前線に出るのは必然ですか」
「それじゃあ残るのは第三艦隊しかない」
「ですがあの艦隊は」
「俺も樋口提督のことは知ってるさ」
 東郷はここで眉を顰めさせる。モニターの向こうにいる日本達もそれを見た。
「あまり信用の置ける奴じゃない」
「そうですね。今回の出撃も何か引っ掛かります」
「だからな。あいつを後ろに置くよりはな」
「前線に置いた方がですか」
「いいと思う。それなら予備戦力はだ」
「貴方の第四艦隊ですか」
「そうなる。じゃあ祖国さん達は前線で頑張ってくれ」
 東郷はこう日本にエールを送った。
「俺は然るべき時に参戦するからな」
「わかりました。それでは」
「ああ。またな」
 こうしてだ。東郷は日本に暫しの別れの言葉を告げてだ。そのうえでモニターを切った。するとその瞬間にだ。
 秋山が咎める顔でだ。東郷に言ってきたのだった。
「あの、司令」
「んっ、何だ?」
「祖国様にあの様な口調は」
「ははは、口調の問題じゃないさ」
「そうではないというのですか」
「そう、俺はこう見ても祖国さんは大事に思ってるんだ」
 表情は変わらない。だがそれでもだ。
 その目の輝きは真面目なものでだ。その目でこう言うのだった。
「祖国を愛さない奴はそれだけで何かおかしいだろ」
「他ならない自分の祖国ですからね」
「最近いるな。共有主義者な」
「はい、ソビエトに影響された」
「あの連中は危険だ」
「祖国様も帝も不要と言っていますね」
「貧富の差をなくす、一見して素晴らしい思想だ」
 だがそれでもだとだ。東郷は言うのである。
「けれどそこにあるものはな」
「非常に危険なものですね」
「ソビエトの話は聞いてるさ」
 東郷もだ。それはだというのだ。
「聞けば聞く程な」
「あの国は恐ろしい国ですね」
「そして共有主義もな」
「それに逆らう者は誰であっても」
「ラーゲリの話は信じたくはない」
 東郷の顔が曇る。その話をしているうちに。
「けれどな。どうやらな」
「そうですね。真実の様です」
「おそらくあの国が一番危険だ」
「ガメリカよりも中帝国よりもですか」
「当然エイリスよりもな」
 そのソビエトという国は危険だというのだ。
「だからこの満州は余計に重要だ」
「中帝国、そしてそのソビエトと隣接しているだけに」
「失う訳にはいかないがな」
「いかないが、ですか」
「勝敗は戦争の常だからな」
 言葉は飄々としているがその内容は真剣なものだった。
「今回の戦闘もわからないな」
「ですが中帝国軍は数こそは多いですが質は劣悪ですから」
 秋山も中帝国軍のことは把握している。それで言うのだった。
「今の我が軍の戦力で戦えると思いますが」
「そして勝てるな」
「二倍開いていても勝てます」
 秋山はこのことは断言した。
「これまで通りです」
「普通にいけばな」
 だが東郷はここでこう言うのだった。
「勝てる戦いだな」
「普通にいけば、ですか」
「ああ。戦いにアクシデントはつきものだな」
「それはその通りですが」
「御前はそうしたことには今一つ弱いがな」
 秋山のその杓子定規な性格故になっている突然の事態への弱さもだ。東郷は指摘した。
「だがアクシデントはままにしてある」
「では今の戦いも」
「あらゆる事態を想定することだ」
 東郷は淡々とだが戦争において絶対に頭に入れておかねばならないことを述べた。
「本当に何があってもな」
「驚かず対処することが重要ですか」
「俺達は幸い予備戦力だ」
「では何かがあれば」
「そうだ。動くぞ」
「わかりました。それでは」
 秋山は東郷の言葉に頷きそのうえでだ。
 後方に留まり戦局を見ることにした。戦いは日本軍第一艦隊の攻撃からはじまった。
「撃て!」
 司令の号令と共にだ。ビームが放たれる。それがだ。
 中帝国軍の艦艇を撃ち次々に撃沈していく。そのままだ。
 第一艦隊は突き進み敵軍へのさらなる攻撃に移る。それに呼応してだ。
 日本が率いる第二艦隊も前に出た。第二艦隊旗艦日本の艦橋においてだ。
 日本は各員にだ。こう指示を出した。
「では我が軍もです」
「はい、このままですね」
「前に出て」
「第一艦隊に続きます」
 そしてだというのだ。
「ビーム攻撃を仕掛けそのうえでミサイル攻撃に移ります」
「続いて鉄鋼弾ですね」
「それを使いますか」
「はい、まずはビームを使う敵の戦艦、巡洋艦を狙います」
 見れば第一艦隊もそうしていた。敵の戦艦、巡洋艦から沈めている。
 そしてミサイルの照準を水雷艇に向けている。それを見てだ。日本も敵艦隊の戦艦、巡洋艦に照準を合わせるというのだ。彼も敵をわかっていた。
「そうしましょう」
「既に敵の一個艦隊が壊滅しています」
 第一艦隊のそのビーム攻撃でだ。
「では我々もですね」
「敵の一個艦隊を」
「はい、殲滅させます」
 まさにそうするとだ。日本は艦橋において確かな声で言う。
「幸い中国さん達もおられませんし」
「それにリンファ提督とランファ提督もですね」
「中帝国側の国家も名のある提督もいません」
 つまり確かな指揮官がいないというのだ。今の中帝国軍にはだ。
「ではここぞとばかりですね」
「攻めましょう」
 艦橋の士官達も応えてだ。そのうえでだ。
 日本の指示に応えてだ。すぐにだった。
 第二艦隊も前に出る。そして第一艦隊の右翼から敵の一個艦隊にビームを浴びせた。
 それで敵の艦隊の戦艦、巡洋艦を沈めそのうえでだ。第一艦隊と同じくミサイルを放つ容易に入った。そのミサイルで敵艦隊に止めを刺そうというのだ。
 既に第一艦隊はミサイルを放ち敵艦隊を完全に崩壊させていた。そしてだった。
 第二艦隊もだ。今だった。
「よし、行くよ!」
「攻撃開始」
 南雲と小澤がそれぞれの乗艦から指示を出す。そのうえで。
 ミサイルを放つ。ミサイルは蛇の様に絡む動きをしてだ。敵艦に迫り。
 その腹や底を撃ちだ。次々にダメージを与えていく。こうしてまた一つ艦隊を崩壊させた。
 そして第一艦隊からだ。第二艦隊に通信が来た。
「いいだろうか。次はだ」
「はい、水雷戦ですね」
「これで敵艦隊は二個撃破した」
「残るは六個艦隊」
 日本はモニターにいる司令の言葉に応えて言う。
「今度は水雷戦で」
「一個艦隊を潰そう」
「では攻撃するのはです」
 敵の六個艦隊を見る。見ればだ。
 先陣の二個艦隊を撃破され続く一個艦隊がのろのろと前に出て来ていた。それを見てだ。
 司令は日本にだ。こう言ったのである。
「あの艦隊を攻撃しよう」
「あの艦隊は水雷戦力もありませんね」
「かといってビームやミサイルを撃てる状況にはない」
 反撃を行える状況でもなかった。それならばだった。
 彼等はここでだ。左右に別れてだ。
 それぞれの方角から敵艦隊を囲みだ。そうしてだ。
 敵艦隊に接近してだ。水雷戦に入った。その中で田中が言う。
「よし、俺の出番だ!」
「はい、水雷攻撃ですね」
「今から」
 田中の乗艦にいる士官達が彼の言葉に応える。
「田中さん水雷攻撃得意ですからね」
「というか突撃好きですよね」
「ああ、戦いは突撃だからな」 
 威勢のいい声で実際にこう言う田中だった。
 その顔は前を見据えている。その顔での言葉だった。
「いいな。それじゃあな」
「はい、では今から」
「攻めましょう」
 こう言ってだった。田中は乗艦を前に出した。そのうえでだ。
 前にいる敵艦に鉄鋼弾を放つ。鉄鋼弾は一気に進みだ。その敵艦の側面を直撃した。
 それでだ。吹き飛ばしたのだった。田中はそれを見て言う。
「よし、やったな!」
「はい、まずは一隻です」
「とりあえあずは」
「これで終わりじゃねえぞ!」
 田中は一隻沈めさらに意気をあげている。
「とことんまで攻めるからな!」
「やってやりましょうや!」
「このまま一気に!」
 第二艦隊の水雷攻撃に合わせてだ。第一艦隊もだ。敵艦隊に攻撃を浴びせる。その左右からの挟み撃ちによる水雷攻撃を浴びせてだった。
 また一個敵艦隊を殲滅した。流れは間違いなく日本のものだった。
 壊滅させられた三個艦隊はあえなく壊走していく。だが司令はその艦隊を放置していた。
「とりあえずは敵の主力を叩く」
「そうですね。今の彼等は最早戦力ではありませんから」
 日本も司令のその言葉に頷く。二人はまたモニターで話をしている。
「では今は」
「そうだ。敵の主力を叩こう」
「今敵は五個艦隊です」
 八個のうちだ。三個艦隊を撃破したからだ。
「ここで我々とです」
「第四艦隊を投入するか」
「はい、時は来ました」
 日本は第二艦隊を第一艦隊と合流させながら答えた。
「決戦の時代かと」
「幸い我が軍は今のところ一隻の損害も受けてはいない」
 一方的な戦いだった。今の状況は。
「いい感じだ」
「今回の戦いは勝てますね」
「そうだな。では第三艦隊もだな」
 樋口が率いるその艦隊についても言う司令だった。
「動かそう」
「?そういえば」
 ここで日本はふと思った。それでだ。
 モニターの別の画面、戦局を映しているそれを見た。見ればだ。
 敵の五個艦隊が彼等の二個艦隊の前にいる。そしてだ。
 第四艦隊は彼等の動きに合わせて前に少し出てきていた。彼等から右斜め後方にいた。しかしだ。
 第三艦隊は何故かだ。彼等のすぐ後方にいた。それを見てだ。
 日本は眉を顰めさせてだ。こう言うのだった。
「おかしいですね」
「そうですね。何か」
 モニターに小澤も出て来た。彼女も言うのだった。
「動きがおかしいです」
「これまでの攻撃にも参加してないしね」
 南雲も出て来た。
「何でだろうね」
「おいおい、三個艦隊で攻めるんだろ?」
 田中もモニター越しに言ってくる。
「何でそれで第三艦隊だけ来なかったんだ?」
「しかも私達のすぐ後方にいてです」
「敵には向かわないね」
 小澤と南雲も言う。
「一体どういう考えなのでしょうか」
「かなりおかしくないかい?」
「敵の艦隊が来ました」
 そしてだった。ここでだ。 
 中帝国軍の残る五個艦隊。その主力も来た。それを見てだ。
 司令は日本達にだ。こう命じたのだった。
「では第三艦隊と共にだ」
「はい、総攻撃ですね」
「一斉射撃を仕掛ける」
 今度の攻撃はそれだというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「第四艦隊もですね」
「右から回り込み攻撃を仕掛けてからだ」
 彼等が攻撃を仕掛けてだ。それからだというのだ。
「側面から攻撃を仕掛けさせよう」
「そしてそれによって戦局を一気に」
 決める、日本も言った。
「そうしましょう」
「では今から照準を合わせる」
 司令は敵軍の動きを見ながら指示を出した。
「いいな、三個艦隊で一斉射撃だ」
「はい、それでは」
 日本が応える。そうしてだった。
 第一、第二艦隊で敵艦隊に照準を合わせてだった。そのうえで。
 司令が射撃命令を出そうとした。しかしだった。
 突如として後方からだ。光が来てだ。
 第一艦隊、司令の旗艦とその周りを撃った。旗艦は後方からの突然の攻撃を避けきれず複数のビームを浴び忽ち大破炎上した。
「し、司令!後方から攻撃です!」
「我が第三艦隊からです!」
「馬鹿な、味方からだと!」
 艦橋も炎に包まれ多くの将兵が倒れている。司令自身頭から血を流している。
「馬鹿な、何故だ」
「いやあ、すいませんなあ」 
 モニターにだ。ここでだ。
 出っ歯に細くいやらしい目をした不細工な男が出て来た。その男が言うのだった。
「私にも事情がありましてね」
「樋口提督、まさか」
「はい、私は今から中帝国の軍人になります」
 こう言うのだった。
「そういうことでお願いしますね」
「くっ、貴様・・・・・・」
「よし、同志達よ撃つのだ」
 樋口はさらに言う。見れば彼の攻撃に合わせてだ。
 中帝国軍の艦隊が一気に前に出てだ。日本帝国軍、後方から指揮官を撃たれ動きを止めた彼等に照準を合わせてきた。そうしてだった。
 第一、第二艦隊、それに指揮官の突然の裏切りに唖然となっている第三艦隊の殆どの艦艇に攻撃を浴びせてきた。それを受けてだ。
 日本軍は忽ちのうちに総崩れとなった。戦局は一変した。
 日本軍の艦艇は敵のビームで次々に吹き飛ばされ炎となりだ。銀河に消えていく。彼等は最早攻撃する余裕もなかった。
 周りが次々と炎と変わる中でだ。日本は言った。
「まさかとは思いましたが」
「おい祖国無事か!」
 ここで田中がモニターに出て来た。
「生きてるなら返事をしやがれ!」
「はい、私は大丈夫です」
「よし、生きてるなら何よりだ」
「ですが今は」
「はい。第一艦隊は壊滅しました」
「司令の旗艦は撃沈されたよ」
 小澤と南雲も出て来た。二人も無事だった。
「第二、第三艦隊もかなりのダメージを受けています」
「三割はやられてるね」
「全滅ですね」
 三割の損害と聞いて言う日本だった。軍の損害ではそうなるものだった。
「それに対して敵艦隊は今ではです」
「はい、流れは完全に向こうのものになりました」
「今度はミサイルが来るよ」
「この状態で攻撃をさらに受ければ」
 どうなるのか。日本にもわかった。
「我が軍は完全に終わりです」
「糞っ、全軍集結させてな!」 
 それでだとだ。田中は激昂しながら主張した。
「反撃だ!やってやれ!」
「いえ、それはもう無理です」
 小澤は無表情でその田中を止める。
「流れは向こうにありますし我が軍の損害もかなりのものです」
「しかも司令の生死が不明だよ。まあ死んだだろうけれどね」
「指揮官もいません。これではです」
「反撃どころじゃないよ」
 南雲も入って来て田中を止める。そしてだった。
 日本もだ。難しい顔で艦橋から指示を出した。
「仕方ありません。まずは後ろに引きましょう」
 このままでは攻撃をさらに受けて総崩れになる。そう判断してのことだった。
「そのうえで軍を再編成させてです」
「それからですね」
「どうするかだね」
「今残っている戦力は」
 三個艦隊合わせてだった。
「半分程度ですね」
「第一艦隊の損害が洒落になってないね」
 南雲は第一艦隊の惨状を見て苦い顔で日本に言った。
「しかも残っている艦艇もどれも大なり小なりダメージを受けてるしね」
「私達の艦艇もです」 
 小澤もここで言う。
「攻撃を受けています」
「無事なのは私の艦だけですか」
 日本も戦局を見た。見ればそうなっていた。
 無事な艦は日本の乗艦である日本だけだ。それを見てだ。
 日本は敗戦を悟った。しかしここでだ。
 艦橋のモニターに東郷が出て来た。そうして日本達に言うのだった。
「もうこれ以上の戦闘は無理だな」
「東郷さん、ではここは」
「ああ、全軍撤退だ」
 東郷はそれを主張したのだ。
「祖国さんは動ける艦を全部まとめて軍を後ろに下がらせてくれ」
「では東郷さんは」
「今無事なのは第四艦隊だけだ。だからな」
「それではですか」
「後詰は引き受ける。後は任せてくれ」
「いいのですか?相手は五個艦隊ですよ」
 どれだけ質で勝っていてもだ。五倍の戦力が相手ならばだというのだ。
「そうそう容易には」
「何、戦い方はあるさ」
「では大丈夫なのですか?」
「少なくとも連中は止めてみせる」
 東郷は確かな顔で日本に答える。
「そのうえで奴等に満州にも侵入させない」
「いえ、それまでは流石に」
「何、敵にダメージを与えれば侵攻できる戦力もなくなるからな」
 それでだというのだ。
「それだけのことはしてみせるさ」
「ではここはですか」
「ああ、俺に任せてくれ」
 モニターから日本を見て言う東郷だった。
「ここはな」
「わかりました。では私は軍をまとめて撤退します」
「三個艦隊、頼むな」
「そして東郷が後詰に入られて」
「やってみる。それじゃあな」
「後はお任せしました」
 こうしてだ。日本は動ける艦艇を何とかまとめて下がりはじめた。そしてその前にだ。
 東郷が率いる第四艦隊が入りだ。迫り来る中帝国軍の五個艦隊の前に立ちはだかった。
 そしてその状況でだ。東郷は指示を出した。
「一斉攻撃だ。ビームだけじゃなくな」
「ミサイルも鉄鋼弾もですね」
「そうだ。ありったけの攻撃を仕掛けろ」
 総攻撃をだ。かけろというのだ。
「それで敵を止める。それからだ」
「どうされますか、そのうえで」
「動けなくなっている艦艇のことを祖国さんに知らせてくれ」
 その艦艇のこともだというのだ。
「引っ張っていてもらう」
「将兵は一人でも多くですね」
「全員を助けるのは無理でも一人でも多く何とかしないとな」
 それでだというのだ。
「だからな。祖国さんに伝えてくれ」
「わかりました。では敵の足止めをして」
「引っ張れる艦艇は連れて行く」
 そして中にいる将兵も救うというのだ。
「何とかな」
「わかりました。では祖国様にお伝えします」
「さあ、見せ場だな」
 東郷はさらに前に来てきている敵の大軍を見ながら言った。
「ここで俺達が敵軍を防げばヒーローだな」
「あの、そんなことを言っている場合ではありませんが」
「何、俺は運が強くてな」
 それでだとだ。東郷はその余裕の笑みで秋山に述べる。
「そう簡単には死なないんだよ」
「司令の悪運の強さは私も知ってますが」
「安心しろ。この戦いでは死なないさ」
 東郷は秋山に尚も話す。
「そして満州にも侵入させない」
「そのお言葉信じさせてもらってもいいですね」
「俺と祖国さんだけは疑うなっていつも言ってるな」
「はい、それならです」
「俺を信じろ」
 東郷は前を、敵の大軍を見ながらまた言った。
「絶対に防ぐからな」
「では」
 こうしてだ。その敵の大軍と対峙する東郷だった。その後ろでは。
 日本が大急ぎでだ。敗残兵を集めていた。
「動けない艦艇もです」
「はい、引っ張っていきましょう」
「何とかいけそうなのは全部つないだよ」
 小澤と南雲が日本に応える。二人の動きは素早かった。
「では今から」
「撤退開始だね」
「そうします。では田中さん」
 日本は田中に対して声をかける。
「お願いします」
「また俺の出番なんだな」
「貴方のその爆走を頼りにさせてもらいます」
「わかったぜ。じゃあ一気にいくな」
「お願いします。まずは私達が安全な場所に撤退しないことにはです」
「あいつも撤退できねえか」
「だからです」
 それ故にだとだ。田中に言う日本だった。
「お願いします」
「わかったぜ。じゃあやらせてもらうな」
「はい」
 こうしてだ。日本は艦艇をまとめてだ。三個艦隊の残存兵力の撤退に入った。その指揮に田中があたった。
 田中は一気にだ。全軍に命じた。
「下がるぜ野郎共!」
 こう叫び艦隊を動かしてだ。まずは一旦下がった。そしてまた艦隊を動かしてだ。残存艦隊を安全な場所にまで下がらせたのだった。
 その頃東郷が率いる第四艦隊は敵に総攻撃を浴びせその動きを止めていた。そしてだった。
 友軍が安全な場所まで下がったのを見てだ。東郷は満足した顔で言った。
「流石だな。田中は攻める場合だけじゃない」
「撤退戦にもですね」
「撤退はどれだけ速く逃げられるかだ」
 それが大事だとだ。東郷は秋山に話す。
「しかもあいつはあれで艦隊の唐突が上手い」
「一隻の落伍艦も出しませんでしたね」
「何よりだ。他の奴じゃああはいかない」
「あそこまでの高速移動の撤退の後では」
「これで安心して俺達もな」
「ええ、下がれますね」
「さて、今の総攻撃で敵の数は多少は減らせた」
 見れば今の総攻撃でだ。多少なりとも減っていた。
「あともう少し攻撃を仕掛けてだ」
「敵の数を減らしたうえで」
「俺達も下がるぞ」
 東郷は秋山に言う。
「それでいいな」
「もう一度総攻撃を浴びせてからですか」
「そうだ。今度はありったけのビームとミサイル、それにだ」
「鉄鋼弾をですね」
「放ってそのうえで撤退する」
 一度総攻撃を仕掛けて退けた中帝国軍を見ながら言っていくのだった。
「そうすれば満州に攻め入ることもないからな」
「敗れてもそれでもですね」
「敵にダメージは与えておく」
 それは絶対だというのだ。
「そのうえで下がるからな」
「わかりました。それでは」
「さて、それにしてもな」
 態勢を整えてまた来る中帝国軍を見ながらだ。東郷は言う。
「樋口はな」
「あの男ですか」
「逃げた様だな」
「はい、司令の乗艦を撃沈してすぐにです」
 秋山は嫌悪に満ちた顔で東郷に話す。
「中帝国軍に走りました」
「そうか。艦艇ごと寝返ったか」
「艦艇の乗組員もかなり逃げた様です」
「当然だな。訳なくして裏切りに従う人間もいない」
「裏切り者は殆どあの男だけの様ですが」
 それでもだというのだ。秋山は言うのだった。
「ですが今回の戦いはです」
「ああ、あいつの裏切りのせいでな」
「敗れ。そして」
「大損害を被った」
「艦隊の再建が大変です」
 秋山はこのことも心配していた。
「只でさえ我が軍は今艦艇が足りないというのに」
「そうだな。それに新しい海軍長官もな」
 司令は海軍長官でもあったのだ。連合艦隊司令長官だけでなく。
「これから色々と大変だな」
「全くです」
 こんな話をしながらだ。彼等は再び来た中帝国軍に一斉射撃を浴びせてだ。ダメージをさらに与え怯ませたうえで撤退した。満州星域会戦は満州星域への侵入は防いだもののだ。それでも多くの損害を出して日本帝国軍は敗れた。日本帝国軍にとっては苦い敗北だった。


TURN1   完


                          2012・2・8



大帝国と坂田さんご自身が書かれている「ヘタリア学園」とのクロス作品。
美姫 「これから紡がれる物語がどうなるのか楽しみね」
ああ。今回は大帝国の序盤通りだけれど、ここからどうなっていくのか。
美姫 「次回からも楽しみにしてます」
次回を待ってます。



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