『ヘタリア大帝国』




                    TURN103  赤い海賊

 帝の寝室の前での戦いは続いていた、その中で。
 記者達を倒した柴神は部屋の中を見回してから東郷に言った。
「東郷、今だ」
「今ですか」
「そうだ、寝室に向かえ」
 こう彼の傍に来て囁いたのである、来るその瞬間に東郷が闘っていたソビエト工作員を右の掌底で吹き飛ばしながら。
「今しかない」
「わかりました、それでは」
「ゾルゲは大佐が止めている」
 最も驚異である彼は明石が相手をしていた、まさに超人同士の闘いだった。
「帝を救出しろ」
「わかりました」
 東郷も何時になく鋭い目で応える、かくして。
 彼は寝室への麩を開けた、そのうえで寝室に飛び込むと。
 床に帝がいた、その上に縛られて座らせられている。
 東郷はその帝を見て駆け寄ろうとしたがそこに。
「帝!!」
「!?」
「今お助けします!」
 ハルは帝の姿を見ると自分が闘っていた工作員達を旋風脚で一掃した、それはまさに一瞬のことであった。
 そのうえで帝の前に飛び込みそして言うのだった。
「御無事ですか?」
「あっ、ハルさん」
「今解きますので」
 その手に手裏剣を出して縄を切る、そのうえで帝の着物を丁寧にはたいてだった。
「お怪我は」
「はい、ないです」
「だといいですが。後で医者を呼びますので」
「あの、ですから怪我までは」
「そうした油断はなりません、若し帝に何かあれば」
 こう言うのだった、そして。
 ハルは自分に殺到する工作員達も倒した、そして言うことは。
「帝には指一本触れさせません!」
「どうも俺の出る幕はないな」
 東郷もハルの気迫と戦闘力の前に今は空気になってしまっていた。だが帝は無事に救出されたのだった。
 柴神はそれを見て言った。
「よし、それではな」
「帝も救出できましたし」
「帝を安全な場所に」
 柴神は今も帝の前に仁王立ちするハルを見て告げた、。
「今すぐにだ」
「はい、わかりました」
 ハルは帝を抱き締めて一瞬で姿を消した、ベラルーシはそれを見て鬼の顔になった。
「あの女、今度会った時jはドアノブみたいにしてやるわ」
「はい、許しておけませんね」
 ロシア妹も兄と全く同じオーラを出しながら言う。
「あの女を消さなかったのは痛手だったわ」
「今から追いますか?」
「待て、それは僕達を倒してからだ」
「とはいってもそう簡単には倒されないあるよ」
 アメリカと中国は何処かに消えたハルをまだ追おうとする二人の前に立って告げた。
「とりあえず帝は君達の手には二度と奪われないぞ」
「すぐに正式な放送がかかって共有主義化宣言は取り消されるある」
「君達の工作のことも明らかになる」
「作戦は失敗したあるよ」
「ではせめて」
 ベラルーシは二人に自分達に作戦を否定されたことを受けて鬼から鬼神の顔になった、そして禍々しいオーラを放ちながら。
 二人に遅い掛かる、ロシア妹もそれに続く。
「貴方達を消すわ」
「今ここで」
「くっ、強い!」
「何あるかこの力は!」
 二人にしてもだった。今のベラルーシとロシア妹は。
 これまでの殺人術に加えて餓えた野獣を思わせる攻撃を受け続けながら言った。
「これが二人の力なのか!」
「これはこっちもまずいある!」
 アメリカと中国を狼狽させるまでだった、そしてロシアも。
 その背後に白い男を出して来ていた、着ているのはソビエトの軍服だ。
 その男を出してやはり禍々しいオーラを放ちつつ言うのだった。
「じゃあ本気で行くからね」
「どちらが死ぬかですか」
 日本も二刀流のままロシアと対峙している。
「この戦いは」
「僕もまさかここまでやるとは思わなかったよ」
 冬将軍を出すまではというのだ。
「日本君も皆、凍らせてあげるよ」
「その前に貴方を倒します」
 日本は急激に迫る凄まじい寒気に耐えながら返した。
「私の全ての力で」
「日露戦争以来の決着をつけるよ」
 国家達の死闘は最早全てを賭けたものになっていた、だがそれを見て。
 明石と闘っているゾルゲはその彼等に厳しい顔で告げた。
「作戦は失敗です、撤退すべきです」
「いや、まだだよ」
 ロシアは漆黒のオーラを放ちシベリアを思わせる笑みを浮かべていた、そのうえでの言葉である。
「この星を完全に氷河にしてあげるから」
「いえ、クローン人間達が敗れました」
 ゾルゲはそのロシアに言う、ロシアもまた日本と激しい攻防に入っている。ただ冬将軍を出しただけではなかった。
「今それを感じました」
「直感で?」
「はい、感じ取りました」
 この辺りも超人だった、ゾルゲは遠く離れた場所での戦いのことも察しているのだ。
「そしてこの星で蜂起した同志達もです」
「皆負けたの?」
「全て反動主義者達に敗れました」
 こうロシアに告げる。
「誰もが、そしてこの皇居に向かっています」
「今から日本君を倒してこの星を皆氷にするよ」
「いえ、日本殿も強いです」
 ゾルゲは冷静に彼の強さも見切っていた、それでだというのだ。
「戦えば祖国殿かどちらかが本当に消えます」
「そのつもりだけれど」
「生き残っても瀕死の重傷です、それでは冬将軍も使えません」
「この星を凍らせられないんだ」
「はい、無理です」
 こう言ってそしてだった。
「撤退しましょう」
「そうするしかないのかな」
「また次の機会があります」
 作戦は失敗した、だがそれでもだというのだ。
「ここは撤退しましょう」
「仕方ないね、それじゃあ」
「アジトが一つだけ残っています」
 ゾルゲはこのことも直感からわかった。
「そこに逃げてです」
「ソビエトまで戻るんだね」
「そうしましょう、残っている者達を集めて」
「わかったよ、じゃあね」
 ロシアは冬将軍を収めた、そのうえでまだ対峙している日本に告げた。
「また会おうね。今度会う時はお友達として会おうね」
「殺し合うと言ってなかったか?」
 東郷はそのロシアに突っ込みを入れる。
「それはどうなるんだ?」
「あっ、言葉のあやだから」 
 ロシアはいつもの屈託のない、とはいっても何故か雰囲気は全く変わらないその笑顔で東郷にも返す。
「気にしないで」
「そうか」
「うん、じゃあまた会おうね」
 本当に何時でも変わらないロシアだ。
「皆とお友達になれればいいね」
「くっ、ここでこの二人を消しておきたかったのですが」
「仕方ありませんね」
 ベラルーシとロシア妹は渋々ながら兄の言葉に頷いた。
「それでは今は」
「ソビエトに戻りましょう」
「それじゃあね」
 ロシアはとりあえずその場にいる一同を見回してだった、冬将軍に動いてもらってすぐに自分の周りに集めてこう言った。
「じゃあアジトまで瞬間移動するよ」
「はい、それでは」
 ゾルゲも応える、そうしてだった。
 彼等は皇居から姿を消した、その彼等と入れ替わりに秋山と日本妹が部屋に飛び込んで来た。それぞれの手には抜かれた剣がある。
「帝は御無事か!」
「外は何とかしました!」
「ゾルゲ大佐、覚悟!」
「最早この星に残っているのは貴方達だけですよ!」
「うむ、彼等は今撤退した」 
 柴神がその二人に応える。
「帝も女官長が救出した」
「そうですか、帝は御無事ですか」
「ではこの度のことは」
「何とか終わった」
 こう二人に話す。
「それで外だが」
「はい、惑星に展開していた敵は全て鎮圧しました」
 山下は陸軍の敬礼で応えた。
「逃げた者以外は全て捕虜にしました」
「そうか、それでクローン人間達を倒したそうだが」
「彼等も全て捕虜にしています」
 今度は日本妹が答える、ただ彼女は今は海軍の軍服なので海軍の敬礼だ。
「ですからご安心下さい」
「あの訳のわからない巫女も捕虜にしたか」
「そうしました」
「それは何よりだ、それではだ」
「後は戦後処理ですね」
「それにかかろう」
 こうしてソビエトの奇襲工作を潰した枢軸諸国だった、救出された帝は即座に全てを放送で話し共有主義化も自身の退位も否定した、そして。
 日本は東郷にこう言ったのだった。
「捕虜のことですが」
「いつも通りだな」
「はい、我が軍に組み入れるということで」
 話をしようというのだ。
「クローン人間達も」
「そうするか、ただな」
「ただとは?」
「今度のクローン人間も独特だな」
 東郷はこう日本に話す。
「狐の耳と羽根が頭にある巫女か」
「あの方ですね」
「リョウコ=バンナーというらしいがな」
「何故巫女なのでしょうか」
 日本は首を傾げさせて東郷に応えた。
「それがわかりません」
「俺もだ、それはどうしてかな」
「その辺りも本人に聞いてみますか」
「ああ、そうするか」
 こうした話をしてだった、そのうえで。
 二人でリョウコを軟禁している部屋に入った、それで話を聞くと。
「博士が日本文化を研究していてね」
「それで、ですか?」
「萌えっていうのに興味を持ってね」
 それでだとだ、日本に話すのだった。
「巫女萌え、耳萌え、羽根萌えって入れて」
「それでそのお姿ですか」
「日本で工作をすることを考えてね」
「ううむ、用意周到ですが」
「何かが決定的に違うな」
 東郷もここまで聞いて言う。
「ずれているな」
「他国から見た日本ですね」
「そのままだな、どうも我が国は誤解されやすいからな」
「困ったことに」
 このことを二人で話すのだった。
「どうも」
「それが難点だな。しかしだ」
「はい、この方のことですね」
「どうするかだな」
「あっ、捕虜は捕虜にした国で戦ってもいいのよね」
 リョウコの方からこう言って来た。
「じゃあ何もしないのも暇だからね」
「枢軸に加わって頂けますか」
「そうしていいかしら」
 自分から志願してきたのだった。
「これからね」
「はい、ではお願いします」
 願ってもない話だった、日本も即座にこう返した。
「ではこれからは」
「枢軸の一員だね」
「宜しくお願いします」
「それじゃあね」
 こうしてリョウコ=バンラーも参戦した、混乱を鎮めた枢軸諸国はとりあえずは安堵した、そしてそのうえでだった。
 チェリノブを攻める、工作の失敗で動揺していた今のソビエト軍は意気あがる枢軸軍の敵ではなかった、しかも。
「祖国殿もおられない」
「しかもジューコフ元帥もな」
 彼も不在だった、何故なら。
「こんな時にモスクワに召還されてか」
「作戦会議とはな」
「コンドラチェンコ提督もゲーペ長官もだ」 
 つまりソビエト軍の最高幹部達が一同に集められたのだ。
「工作失敗を受けての緊急作戦会議だが」
「そこを狙われたな」
「敵も馬鹿ではないな」
「全くだ」
 ソビエト軍の将兵達も歯噛みするしかなかった。
「祖国殿達も同志元帥達もおられないのでは」
「これではな」
「ああ、勝てない」
「これは駄目だ」
 果敢に戦うがそれでもだった、今の彼等では枢軸軍の相手にはなれなかった。
 こうしてチェリノブまで制圧された、それを受けてだった。
 秋山はチェリノブの港で東郷に言った。
「いよいよです」
「ああ、ウラルからだな」
「ソビエト領の主な星域に入ります」
「特にモスクワだな」
 ソビエトの首都星域、東郷は特にこの星域の話をした。
「あそこを攻め取るか」
「モスクワを攻め取ればです」
 そこからだというのだ。
「講和の可能性がありますが」
「講和出来ると思うが」
「いえ、先程外相とお話したのですが」
 その宇垣とである。
「外相は講和の可能性は薄いとお考えです」
「御前もだな」
「はい、カテーリン書記長はかなり強情なところがあります」
 カテーリンの年齢を考えての言葉だ。
「ですから」
「モスクワを陥落させてもな」
「まだ戦うでしょう」
「そうだな、しかしモスクワを陥落させるとだ」
「はい」
 秋山もここで言う。
「戦局は我々に大きく傾きます」
「モスクワからソビエトの多くの星域に行くことが出来る」
「まさにソビエトの交通の中心です」
 伊達に首都ではない、そう出来るのだ。
「南北そして中央の何処にもです」
「攻めることが出来る」
「つまりバルバロッサ作戦を逆に進められます」
 レーティアはドクツからモスクワを目指した、しかしこの場合はモスクワからソビエトの残り全土をというのだ。
「これはかなり大きいです」
「そうだな、モスクワを攻めることとモスクワから攻めるのとでは全く違う」
「同じ道を通りますが」
 逆になるだけで全く違うというのだ。
「これはかなり大きいです」
「モスクワさえ陥とせばな」
「ただし向こうもそれは承知です」
 ソビエトにしてもだというのだ。
「モスクワには大軍を集結させますし」
「それにだな」
「また工作を仕掛けてくるかも知れません」
 その危険もあるというのだ。
「彼等のことですから」
「それは俺も思う」
 東郷もこのことは危惧していた、そのうえでの言葉だ。
「まさか帝のクローンまで用意して来るとはな」
「迂闊でした、本当に」
「帝のクローンには逃げられたか」
「残念ですが」
 そうなってしまったのだ、その偽者には。
「そうなってしまいました」
「ではまたやってくるな」
「隙を見せれば別のやり方で」
「ゾルゲ大佐も逃がしてしまったからな」
 枢軸諸国にとって危険人物でしかない彼もだった。
「防ぐことは防いだがな」
「敵にはまだカードがあります」
「厄介なことだ」
「やはりソビエトは侮れませんね」
「伊達にドクツを破った訳じゃないか」
「そのことも気になります」
 ここでまた言う秋山だった。
「ソビエト軍も大怪獣を使っています」
「ニガヨモギか」
「そのニガヨモギをモスクワ戦で使いドクツ軍を退けていますが」
「ニガヨモギについて知っていることはあるか」
「どうやらこの星域の出身です」
「チェリノブのか」
「はい、ここのです」
 彼等が今いる他ならぬこの場所で生まれたというのだ。
「生まれです」
「そうだったのか」
「ただ、何時どうして生まれたのかは」
 それはわからないというのだ。
「不思議なことにです」
「ここにはホワイトホールがあるがな」
「ホワイトホールですね」
「それと関係があるのか」
「それもわかりません」
 秋山は首を捻って答えた。
「どうにも」
「何もわからないか」
「今は」
 そうだと答えるしかなかった、秋山にしても。
「全くです」
「やれやれだな。しかしだ」
「しかしとは?」
「柴神様だがな」
 東郷はここで彼のことを言うのだった。
「あの方だが」
「そういえばチェリノブに来られてから」
「妙に緊張しているな」
「はい、どうも」
 秋山も言われて気付いた、このことに。
「何かあるのでしょうか」
「ホワイトホールに関係があるのか?」
 東郷は直感からこう感じた。
「あの場所に」
「どうでしょうか、それは」
「まだ確かなことは言えないな」
「そうですね、まだ」
「そのホワイトホールにしてもだ」 
 その場所の話もする。
「調査をするか」
「そうしましょうか、気になります」
 二人はホワイトホールの調査をはじめようとした、だがそれは。
 話を聞いたリディアが二人にこんなことを言った。
「あの、それですが」
「何かあるのか?」
「はい、祖国さんのお言葉ですけれど」
 ロシアのだというのだ。
「あの場所の調査は止めた方がいいかも知れないと」
「そう言われたのか」
「そうです、危険なものを感じると」
「あの書記長さんも調べなかったんだな」
「祖国さんのお話を受けて」
 それでだというのだ。
「されませんでした」
「そうか、それではだ」
「調査はされませんか?」
「どうしたものかな」
「止めておくことだな」
 ここでその柴神が出て来た、そのうえで東郷達に述べる。
「あの場所への調査は」
「そうですか」
「そうだ、あの場所に触れてはならない」
 柴神は強張った顔になっていた。
「絶対にだ」
「柴神様がそこまで仰るのなら」
 東郷も頷く、そしてだった。
 ホワイトホールの調査は実行に移されないことになった。だがその話を聞いてこんなことを言う面々もいた。
 レーティアは微妙な顔になりこうエルミーに話した。
「柴神様が止められたからにはな」
「私達にしてもですね」
「近付くことも止められている」
 だからだというのだ。
「一切は出来ない、しかしだ」
「興味はありますね」
「それは否定しない」
 そうしてもだというのだ、それは。
「どうしてもな、しかしだ」
「しかしとは?」
「私もあの場所には危険なものを感じる」
 レーティアはただの天才ではない、直感も尋常なものではない。
 それでだ、こう言ったのである。
「やはりあの場所に近付くべきではない」
「総統もそう思われるのですね」
「絶対にな、あそこは恐ろしいものがある」
「そういえばどなたも柴神様のお言葉に逆らいませんね」
「皆直感的に感じ取っているのだ」
 だから誰も近付かないというのだ、ホワイトホールに。
「あの場所の危うさをな」
「私も実は」
 それはエルミーもだった、そのうえでレーティアに話す。
「あの場所に近付くことは」
「危険に思うな」
「はい、かなり」
 実際にそうだというのだ。
「ではあの場所には近付かずに」
「そのままでいよう」
「そうですね」
 こう話す二人だった、そして。
 ホワイトホールは誰も近付かなかった、誰もが直感的に危険な場所だと感じているが故にそうしたのである。
 枢軸軍はホワイトホールをそのままにしてウラルに進もうとする、だがここで。
 チェリノブに謎の軍勢が来た、彼等はというと。
「!?あの艦隊は」
「ああ、あれやな」
 スペインがネルソンの言葉に応える。皆敵の襲来で出撃している。
「レッドファランクスやな」
「暫く姿を見せませんでしたが」
「まだおったんやな」
「レッドファランクスとは?」
 日本がはじめて聞く名前だ、それで二人に問うた。
「聞いたことのない名前ですが」
「はい、大西洋の欧州側やアフリカ西部を荒らす海賊でして」
「これがめっちゃ強いんや」
「我がエイリス軍も手こずっていました」
「うちもや」
 二人はこう日本に話す。
「近頃姿を見ていないので解散したと思っていましたが」
「また急に出て来たわ」
「私も名前は聞いていたが」
 レーティアもここで言う。
「ドクツには出て来なかったからな」
「出て来たら征伐するつもりだったわ」
 グレシアがドクツが当時考えていたことを話す。
「けれど私達の頃は出て来なかったから」
「それで私もその存在を記憶の隅に置いていた」
 レーティアもそうしていたというのだ。
「そして今出て来た」
「そういう事情ですか」
「海賊としての規模はそれ程ではなかった筈ですが」
 ネルソンはその彼等の艦隊を見て言う。
「しかし今は」
「俺が知ってる時の三倍はいるな」
「三倍ですか」
「何処で兵を増やしたんだ?」
 フランスもその彼等を見て首を傾げる。
「それもわからねえな」
「しかも艦艇はドクツのものが多い」
 レーティアは海賊達の艦艇を見て言う。
「ヒムラーが援助しているのか」
「あの男ならやりそうね」
 グレシアは最初からヒムラーを信頼していない、それでこう言うのだった。
「そうした小細工めいたことはね」
「我々への攪乱だな」
 ドイツはグレシアの話からこう言った。
「おそらくな」
「そうね、彼等に私達の側面を攻めさせて」
「正面から来るな」
「ソビエト軍がね」
 グレシアがこう言った瞬間にだった、早速。
 全艦艇のレーダーに警報が鳴った、そして報告も入った。
「ソビエト軍が来ました!」
「ドクツ軍もです!」
「へっ、お約束もいいところだね」
 キャシーはこの状況を受けて威勢よく言った。
「楽しいパーティーのはじまりだね」
「そうみたいね、ただ」
「ただ。何だい?」
「妙な感じがするわ」
 クリスはいつも持っている水晶を丁寧に前に置きそれを覗きながらキャシーに話す、キャシーもそれを聞く。
「あの海賊から」
「レッド何とかからかよ」
「ええ、東郷長官と関係があるかしら」
 水晶を見ながら話していく。
「そんな感じがするわ」
「俺に?」
「ええ、どういう関係かはわからないけれど」
「俺はレッドファランクスとは関係はないがな」
「あとキリング長官にもね」
 クリスは彼女の名前も出した。
「関係があるみたいよ」
「ちょっと、あたしもなの」
「そう出ているわ」
「あたしもってどういうことよ」
「そこまではわからないわ、けれどね」
 クリスも水晶を覗き込み続けながらいぶかしむ顔で話していく。
「何かあるのは間違いないわね」
「わからないわね、けれどあんたの占いならね」
 キャロルもクリスの占いのことはよく知っている、それならだった。
「確かね」
「そう思ってくれたら嬉しいわ」
「わかったわ、じゃあとにかくね」
「ええ、あの海賊の相手もするのね」
「そうするしかないな」
 東郷はソビエト、ドクツ連合軍と海賊達を同時に観ながら答えた。
「どうもお互いに協同戦線を敷いているみたいだからな」
「ではどうされますか、ここは」
「主力は連合軍に向ける」
 彼等にだとだ、日本に答える。
「そして海賊達にはまずは足止めを向けるか」
「海賊には海賊だな」
 アルビルダが早速名乗りを挙げてきた。
「私が行くぞ」
「僕も」
 アイスランドもアルビルダに続く。
「王女さんと一緒に行くから」
「足止めは好きじゃないが任せろ」
 攻撃型のアルビルダは足止めをするタイプではない、だがそれでもあえて引き受けるというのだ。
「ここはな」
「そうさせてもらうから」
「わかった、後はだ」
「あたしも行くわ」
 キャロルも名乗りを挙げてきた。
「妙に気になるからね、あの連中」
「そうだね、それにあたしもね」
 アメリカ妹もここで言う。
「あの艦隊の動かし方何処かで見た気がするのよね」
「ああ、そういえばそうだな」
 アメリカも妹の言葉を受けて海賊達の動きを見て言う。
「誰かあんな動きさせていたぞ」
「!?あたしに似てるかしら」
 キャロルもふと思った。
「そんな筈ないのに」
「ドクツの艦艇が多いけれどね」
 アメリカ妹も見ている、それで言うのだ。
「動きは既視感があるね」
「そこも気になるし行くわ」
 また言うキャロルだった。
「それでいい?」
「あたしもね」
「わかった、では頼む」
 東郷はキャロルとアメリカ妹の言葉を受けた。
「海賊の相手は四個艦隊だな」
「残りで連合軍に向かいましょう」
 秋山もここで言う。
「それでは」
「よし、では行くか」
 東郷も秋山の言葉に頷く、そうしてだった。
 彼等は海賊達には足止めの艦隊を置きそのうえで敵主力に向かった、対する連合軍は。
 今度はジューコフが指揮を採っていた、しかもロシアやゲーペ、コンドラチェンコ達もいる。見ればソビエトの国家が全て揃っている。
 リトアニアは目の前に展開する連合軍を観ながらドクツ軍と共にいるポーランドに言った。
「ねえ、わかってるよね」
「何がなんだ?」
「いや、何がじゃなくて」
 まずはこうしたやり取りからだった。
「目の前の枢軸軍だよ」
「ああ、ウラル取られたらやばいんよね」
「だから俺達も総出で出てね」
 そのうえでだというのだ。
「ポーランドまで来たんだよ」
「このままいったらやばくね?」
 ポーランドは自身の乗艦の艦橋でフリカッセを食べながらモニターに映るリトアニアに返した。
「連合軍も」
「かなりまずいよ、実際にね」
「だから俺もここに来たしーーー」
 ドクツ軍の指揮官はポーランドだけだ、ドクツ軍自体は十個艦隊である。
「援軍で」
「他の国は?ベルギーやオランダさんは」
「総統さんが送らんのよ」
 そうだというのだ。
「まだ」
「そうなんだ」
「今準備中って言っとるんよ」
「そう、それでポーランドだけなんだ」
「まあ俺も戦うしーーー」
「頼むよ、本当に」
「リトもいれば何とかなるし」
「いや、そこで俺なんだ」 
 リトアニアはポーランドの他力本願には呆れてこう言った。
「相変わらずっていうか」
「悪いん?」
「そうでないとポーランドでないけれどね」
 この辺りはもうわかっている、だがそれでもだった。
 ポーランドのそのいい加減さに呆れもした、そうした話をしたうえでまた話した。
「じゃあ今からね」
「よし、決戦やね」
「うん、戦おう」
 こう話してそのうえでだった、連合軍も枢軸軍に向かう。
 両軍の戦いははじまる、そして。
 両軍は激突した、その時に。
 東郷はすぐに全軍を突撃させた、その時に秋山に言った。
「何度か戦ってみてわかったがな」
「ソビエト軍のことですか」
「ドクツ軍は違うがな」
 彼等は置いておいて今数では圧倒的な彼等は、というのだ。
「ソビエト軍艦艇の攻撃力は確かに強い」
「防御力もですね」
 もっと言えば耐久力もだ、ソビエト軍の艦艇の特徴だ。
「確かに強い、当たればな」
「当たればですか」
「それは確かに強い」
 こう言う、しかしだというのだ。
「当たればだ」
「!?そういえば」
 秋山も言われて気付いた、それはなのだ。
「ソビエト軍の広範囲攻撃にしても」
「あちらさんはパイプオルガンと言っているな」
「はい、その攻撃もですね」
「命中率を考えたものではないですね」
「動く相手を狙ったものではない」
 あくまでその範囲を狙った攻撃だ、それがだというのだ。
「我々は動く相手への攻撃を念頭に置いているがな」
「ソビエト軍は違う」
「それだ、ソビエト軍は動きながらの攻撃も苦手だな」
「その際の攻撃もそういえば」
「命中率はかなり悪いな」
「はい」
 その通りだと言うのだ。
「殆ど当たっていません」
「そうだ、ではだ」
「陣を敷いて戦うよりもですね」
「機動力を使って戦う」
 それがソビエト軍への対応だった、東郷がこれまでの戦いから出した答えだ。
「そうしよう」
「ではこのまま進むのですね」
「突っ込む、いいな」
「わかりました」
 枢軸軍はそのまま突っ込む、ソビエト軍はその彼等に攻撃を浴びせる。だが。
 その攻撃は当たらない、ジューコフもこのことにはこう言う。
「くっ、まさか」
「うちの軍は物量ですからね」
 コンドラチェンコも苦い顔でジューコフに言う。
「機動力を使われると」
「動く相手を狙うことは苦手だ」
 今わかったことである。
「どうしてもな」
「ええ、今攻撃を仕掛けていますが」
 それもだった。
「全然当たりませんね」
「命中率は精々十パーセントといったところだな」
「折角の長射程が」
 それがだった。
「無駄ですね」
「間も無く敵の射程に入る」
「そうなりますね」
「敵は我々とは違う」
 こう言ったのである。
「動く相手にもな」
「こりゃまずいですね」
「しかしそう来るならだ」
 難しい顔でだ、ジューコフは指示を出した。
「全軍散開し艦隊ごとに機動戦を展開せよ」
「了解です」
 コンドラチェンコが応える、かくして。
 ソビエト軍は散開し各個での戦いに移ろうとする、だがそれは。
 枢軸軍にとっては望むところだった、彼等もまた艦隊単位に別れそのうえでそのソビエト軍に動きながら昇順を定める。
 その中にはドワイトもいる、彼は自身に満ちた声で部下達に言った。
「いいか、確実にだ」
「焦らずに、ですね」
「敵の予想進路も出して」
「そのうえで攻撃すればいい」
 それだけでだというのだ。
「敵の動きはわかるな」
「思ったより動きが悪いですね」
「何か慣れていない感じで」
 部下達も言う。
「機動戦は苦手の様ですね」
「数で攻めて広範囲の攻撃を仕掛けるのは得意の様ですが」
「それならだ」
 どうするか、ドワイトも言う。
「長官の言う通りにな」
「機動力を使って、ですね」
「我々は攻めますか」
「そうする、動く相手を動きながら撃つ」
 これが東郷が考えたソビエト軍への戦術だった、実際にそうして。
 ドワイトは己の艦隊を動かしながら動いているソビエト軍の艦隊に照準を当てる、向こうも攻撃を仕掛けてくるが。
 それは当たらない、これに参謀達が言う。
「やっぱり当たりませんね」
「本当に動く相手を狙うことは苦手ですね」
「意外な弱点ですね」
「艦艇にしては」
「それならその弱点を利用させてもらうか」
 ドワイトは不敵な笑みで言った。
「ではな」
「はい、それでは」
「今から反撃ですね」
「敵の予想進路は既に出しています」
 何パターンかあるが全てコンピューターで出しているのだ。
「では後はですね」
「その進路に来たところで」
「一斉射撃だ、いいな」
 ドワイトはこう告げた。
「今からな」
「了解です」
 敵艦隊は予想進路の一つに入った、そして。
 照準を合わせ撃った、するとだった。
 ソビエト軍の艦艇は次々とビームに貫かれ動きを止めた、それはさながら鴨を撃つ様だった。
 その彼等を見てだ、ドワイトは言う。
「本当に動いているといいんだな」
「その様ですね、では」
「次の艦隊も狙うぞ」
「次は水雷攻撃ですね」
「ああ、それだ」
 こう話して実際に次は水雷攻撃を仕掛ける、ソビエト軍はその機動戦に対して何もすることは出来なかった。
 ドクツ軍に対してはレーティアが向かう、そのうえでこう言うのだった。
「ドクツ軍には一つ致命的な弱点がある」
「艦載機ないですね」
 ラスシャサがこう突っ込みを入れる。
「そうですね」
「開発は後にしようと思っていた」
 考えてはいたがそれでもだというのだ。
「ソビエト戦の後で空母を実用化させるつもりだった」
「艦載機もですか」
「防空体制もな」
 それもだというのだ。
「そうしたものも不備だ」
「そういえば独ソ戦は完全に砲撃の殴り合いだったみたいだね」
 南雲がレーティアに問うてきた。
「そうだったね」
「そうだ、艦載機の開発をより急ぐべきだったかもな」
「まあその辺りはどうかはっきり言えないけれどね」
「しかし何はともあれだ」
「ああ、ここはだね
「ドクツ軍には艦載機だ」
 彼等が持っていないそれで攻めるべきだというのだ。
「即座にそれを出そう」
「よし、じゃあね」
「今から発進させます」
 南雲にマカオ妹が応える、そして機動部隊の幾つかから艦載機が放たれて。
 ドクツ軍に襲い掛かり防空体制がない彼等をまさに一方的に叩く。これはにはポーランドも血相を変えて叫ぶ。
「こんなのマジ有り得んし!」
「ポーランド、大丈夫!?」
 リトアニアが血相を変えてモニターに出て来るが逆にこう言い返された。
「御前の方が大丈夫じゃないし!」
「えっ、俺平気だけれど」
「そっちの戦艦の状況どうなん!」
「まあちょっとやられてるけれどね」
「ちょっとじゃないし!」
 モニターに映っている艦橋はあちこちが破損し煙を噴きショートが起こっている、それを見ればとてもであった。
「ソビエト軍どうなん!」
「何かこっちの攻撃は当たらなくて向こうの攻撃は当たってね」
 戦術思想の違いが出た結果だ。
「ソビエト軍って動く目標を狙わないからね」
「そういえば範囲で撃ってない?」
「どうもそれを見破られてね」
「それでそうなん」
「いや、けれどポーランドが無事そうで何よりだよ」
「俺より御前の方がやばいしーー」
 ポーランドは真剣に心配している顔でリトアニアに言う。
「まあ生きてるんならええよ」
「そこまで酷いことにはなってないよ、確かにかなりやられてるけれどね」
「こっちもちょっと向こうの艦載機強過ぎだしーーー」
 とか話をしながら生きている二人である、少なくとも生命力はかなりのものだ。
「とりあえずこの戦いやばくね?」
「後は海賊の人達が頼りかな」
 ソビエト軍もドクツ軍も駄目だ、それではそうなるのも当然だ。
 それでリトアニアはレッドファランクスを観る、今彼等は枢軸軍の足止め部隊と対峙しようとしていた。それを見て言うことは。
「枢軸軍の方が数は少ないけれどね」
「四対十ってとこ?」
「そんなところだね」
 こうポーランドに話す。
「けれど枢軸軍の戦力だと足止めをするには充分だね」
「じゃあ海賊の人等も期待出来ん?」
「そうかもね」
 こう話す彼等だった、彼等も枢軸軍の強さはわかっていたのでレッドファランクスには期待出来なかった、だが。
 そのレッドファランクスの旗艦、ドクツから提供された戦艦の艦橋においてだった。赤とはいってもソビエト軍のそれとはまた違う軍服、ガメリカ軍の軍服をそのまま赤にした様な服を着てそのうえでサングラスで顔をはっきり見せない金髪の女にアフリカ系のメイドが声をかけていた。
「ではお嬢様、今から」
「うふふ、今お嬢様もないと思うけれど」
「私にとってはお嬢様は何時までもお嬢様なので」
 見ればメイドの顔は整っている、アフリカ系だがコーカロイドの血も入っている感じだ。目は細くにこりとしている。
 そのメイドがこう女に言うのだ。
「そうお呼びさせて頂きます」
「ならいいわ。それではね」
「はい、今からですね」
「枢軸軍のあの部隊を破ってね」
 それでだとだ、余裕を以て言うのだった。
「すぐに敵の後方を衝くわよ」
「それでは」
「どうやら敵の指揮官はあの戦艦にいるわね」
 女はモニターに映る大和を見て楽しげに笑った。
「さて、それではね」
「あの戦艦を倒してですね」
「報酬分は働かせてもらうわ」
 こう余裕の笑みで話すのだった、今東郷と枢軸軍はあらたな驚異を知ろうとしていた。


TURN103   完


                         2013・4・13



無事に一つの策を打ち破り、いよいよモスクワという所で。
美姫 「とうとうドクツ軍も出てきたわね」
数としてはそう多くはないけれどな。
美姫 「でも、そこに加えてレッドファランクスも遂に動き出したわね」
これによって三方面での戦闘にならざるを得ないな。
美姫 「さて、この局面をどう乗り切るかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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