『ヘタリア大帝国』




               TURN109  モスクワ攻防戦

 枢軸軍がモスクワに攻め入ろうとしているという情報はカテーリンの耳にも入った、カテーリンはその報告を己の部屋でゲーペから受けた。
 そしてすぐにだ、こうゲーペに命じた。
「モスクワに集められる艦隊を全て集めなさい」
「そのうえで、ですね」
「枢軸軍を殲滅します」 
 その大艦隊でだというのだ。
「ただ、ニガヨモギとスノー将軍はロシア平原で待機です」
「予備戦力として置くのですね」
「勝った時にです」
 その時にこそだというのだ、カテーリンは左右にミーリャとロシアを置いたうえで小学生が学校で座る机と椅子から話した。
「仕掛けます」
「勝利の後の追撃の為にですね」
「彼等を置いておきます」
 その時の為の予備戦力だというのだ。
「そうします」
「わかりました」
「今回も指揮官は同志ジューコフ元帥とします」
 やはり宿将である彼以外にいないというのだ。
「そうします、そして」
「そしてとは」
「私も出撃します」
 カテーリンは強い顔で今言った。
「そうします」
「いえ、それは」
「止めるべきですか」
「はい、今はその時ではありません」
 ゲーペはカテーリンに姿勢を正している声で告げた。
「お待ち下さい」
「モスクワは我がソビエトの首都です、守らなくてはならないですが」
「書記長ご自身が出られては若しもの時に」
「私が死ぬというのですか?」
「戦場は何があるかわかりません」
「だから私は」
「ソビエトは書記長がおられてこそです」
 ドクツと同じく完全な独裁制だ、カテーリンがいなくては何も動かない国だからだというのだ。ゲーペはソビエトのことがわかっていた。
「ですから」
「だからなのですね」
「はい、御願いします」
 こうカテーリンに言うのだ。
「それで」
「わかりました、それでは」
 カテーリンはゲーペの言葉を受けて踏みとどまった、その彼女にミーリャが言う。
「それじゃあカテーリンちゃん、これからどうするの?」
「どうするのって?」
「うん、出撃はしないけれど」
 それは今決まったことだ、だがそれだけではないというのだ。
「モスクワに残るの?やっぱり」
「うん、皆が頑張ってるからね」 
 だからだと、カテーリンはミーリャの問いに答える。
「だったらね」
「ここに残ってなのね」
「頑張るから」
 そうするというのだ。
「何があっても」
「そうだね、じゃあ書記長さんはここで僕達の戦いを見守っててね」
 ロシアはカテーリンの右から彼女に言った、ミーリャは左にいる。
「そうしていてね」
「祖国君頑張ってね」
「うん、僕頑張るよ」
 ロシアも微笑んで答える。
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあね」
「うん、今から出撃するから」
 ロシアはカテーリンに挨拶をしてから港に向かった、そしてゲーペもカテーリンに対してこう言ったのだった。
「では私も」
「出撃するのね」
「はい、そうさせてもらいます」
 こうカテーリンに言うのだった。
「今回も」
「御願いね、先生も頑張ってね」
 カテーリンはゲーペを頼りにする目で見ていた。
「ここで負ける訳にはいかないから」
「何としても枢軸軍を倒し」
「そう、世界の皆に共有主義を広めないといけないから」
「では」
 ゲーペも敬礼で応える。
「私も出撃します」
「御願いね」
 こう言ってそしてだった、ゲーペも港に向かった。後に残ったミーりゃがカテーリンに微笑んで声をかけた。
「じゃあ私達は皆を見守ろう」
「私も出撃したかったけれどね」
「仕方ないよ、先生が止めた方がいいっていうから」
「だからなのね」
「そう、今は皆を見守ろう」
 ミーりゃはどうしても出撃したいカテーリンを止めて宥める。
「そうしようね」
「うん、それじゃあ」
 カテーリンはまだ不満そうだったがそれでも頷いてだった、立体テレビで戦いを見守ることにした。今モスクワにはソビエトの大艦隊が集結していた。
 そこにはドクツ軍もいる、ドイツ妹は自身の艦隊とソビエト軍の大艦隊を見比べてそのうえでプロイセン妹に問うた。
「どうかしらね」
「この戦いだよな」
「ええ、これまで枢軸軍は数で攻めてもね」
「退けて来たよな」
「常にね」
 ドイツ妹が今言うのはこのことだった。
「そうしてきたわ」
「そうだね、だから今もね」
「ソビエトは勝てるかしら」
「どうだろうね、やっぱり戦争は数だからね」
 このことは揺るがない、やはり戦争は数が多い方が勝つのだ。
「今回はこれまで以上に集めているし」
「今回こそはね」
「勝てるかも知れないけれど」
「指揮官はジューコフさんだしな」
 言わずと知れた名将だ、今の連合軍ではエイリスのロレンス、モンゴメリーにも匹敵する人物だ。
「艦艇の質もいいよ」
「勝てる条件は揃っているわね」
「これまで以上にな。ただな」
「ただ、なのね」
「枢軸はまた人材が入っただろ」
 プロイセン妹はモニターの向こうの彼女の相棒に告げた。
「レッドファランクスを壊滅させてな」
「東郷長官の奥さんね」
「スカーレットさんだったよな、あの人も凄いんだろ」
「だから今の総統も枢軸軍に向かわせたのよ」
 そして戦わせたというのだ。
「強いだけにね」
「そうだね、あの総統さん人を見る目もあるからね」
 やはり伊達にレーティアの後にドクツの総統になった訳ではない、彼にもそれなり以上の資質はあるのだ。
「枢軸軍にあの人をぶつけたんだよ」
「それだけの人が枢軸軍に加わったのね」
「強いよ、絶対にね」
 味方として頼りになるのなら敵に回すと、だというのだ。
「だからこの戦いもね」
「楽観は出来ないのね」
「そういうことだよ、それで若しここで負けたら」
「その時はどうなるか」
「ソビエト軍は一気に劣勢になるよ」
 そうなってしまうというのだ。
「首都に多くの軍に名声もなくしてね」
「そうなるのね」
「首都を取られたらまずいよ」
 これはソビエトだけのことではない、どの国についてもだ。
「ソビエトは手段を選んでいられないわよ」
「だから集められるだけの艦を集めた」
「そういうことだね、そしてあたし達もね」
「援軍として」
「戦うんだよね」
「総統はどう考えておられるのかしら」
 ドイツ妹はここでヒムラーのことを考えた。
「あの方は」
「適当なところで逃げろって言ってるからね」
 ドクツ軍を率いる二人だけに言っていることだ。
「だから枢軸軍とソビエト軍を戦わせて」
「双方を疲弊させてそのうえで」
 漁夫の利を得る、二人はそれがヒムラーの狙いだと察した。
「そういうことね」
「多分ね、そうだよ」
「レーティア総統とそこがかなり違うわね」
「あの人は正攻法好みだったからね」
 レーティアは生真面目な性格だ、だから戦うにしても自分がまず動いて手に入れる主義なのでそうした漁夫の利的なことは考えないのだ。
 それでだ、プロイセン妹も言うのだ。
「そうしたことはしなかったね」
「そうだったわね」
「今の総統さんはそういう人だよ」
 悪く言うとずるいというのだ。
「だからそのことは踏まえてね」
「私達も動くべきなのね」
「そうなるよ。まあとにかく適当に戦ってね」
 ヒムラーの指示通りにすればそうなることだった。
「後はね」
「撤退するのね」
「総統さんが言うには目に見える外交的な恩さえ売ればいいから」
 これがヒムラーの考えだった、やはり悪く言うとずるい。
「そういうことだからね」
「わかったわ、ではね」
「ああ、適当に戦おうね」
 ドクツ側はあくまで援軍でしかなかった、ヒムラーは彼等に積極的に戦わせようとはしていなかった、そしてそのことはジューコフもわかっていた。
 そのドクツ軍を見ながらだ、こうモニターのベラルーシに言った。
「彼等はあてにしないようにしましょう」
「動かないからですね」
「はい」
 こう言うのだ。
「ですから」
「私が督戦隊になりましょうか」
 ベラルーシはその目を怒らせてジューコフに提案した。
「そして前に行かせましょうか」
「いえ、それは出来ません」
「同盟国の軍だからですか」
「はい、彼等がソビエト軍ならともかく」
「同盟国の軍隊となると」
「それは出来ません」
 仮にも同格の他国の軍だ、それではだというのだ。
「彼等の指揮権も彼等にありますし」
「それでは」
「はい、我々は我々で戦いましょう」
「わかりました」
 ベラルーシもジューコフの言葉に頷くしかなかった、彼女も同盟国に対しては手出しが出来なかった。そしてだった。
 ベラルーシは話題を変えて来た、今度言うことはというと。
「ただ、閣下は」
「私のことですか」
「はい、今は三十九歳ですね」
「はい」
 その通りだとだ、ジューコフもベラルーシに答える。
「そうです」
「では間も無くですね」
「定年ですか」
「今はラーゲリは占領されていますが」
 ソビエトは四十歳で定年となり後はラーゲリの老人ホームに送られる、そこで静かで落ち着いているがそれだけの余生を送るのだ。
「それは」
「決まっていることです」
 これがジューコフの返答だった。
「ですから」
「そうですか」
「ご安心下さい、後任はいます」
「コンドラチェンコ提督ですか」
「彼がいます」
「確かにあの人も優秀ですが」
 だがそれでもだとだ、ベラルーシは言うのだった。
「元帥程の方はおられません」
「有り難きお言葉です」
「私が書記長にお話しましょうか」
「定年の先送りですか」
「減衰はソビエト軍に必要な方です」
 だからだというのだ。
「ここは是非」
「いえ、法律は法律です」
 謹厳なジューコフは軍人らしくこう言うだけだった。
「ですから」
「そうですか」
「私は家族もいません」
 ジューコフは独身だ、妻子もいない。
「ですからラーゲリに入っても大して変わりません」
「だからですか」
「はい、私はラーゲリで余生を送ります」
 そうするというのだ。
「それだけです」
「では」
「まずはこのモスクワで勝利を収めましょう」
 そしてだというのだ。
「戦争にも勝ちましょう」
「では」
「これより全軍で枢軸軍に向かいます」
 ジューコフは作戦も命じた。
「では今から」
「パイプオルガンですね」
 リトアニアがモニターに出て来てジューコフに問う。
「それをするんですね」
「はい、それです」
 ソビエト軍伝統のこの戦術を今回も行うというのだ。
「これまでは破られてきましたが」
「今回はどうするんですか?」
「今回は数が違うので」
 それでだというのだ。
「攻撃範囲をこれまで以上に広くして」
「敵が逃げられないだけの広範囲で攻めるんですね」
「はい、そうします」
「確かに、この数ですと」 
 リトアニアは自身の乗艦のコンピューターで艦隊の数と布陣をチェックした、そのうえでこう言ったのである。
「パイプオルガンもかなり広範囲になりますね」
「だからです」
「そうですか、この数で攻めて」
「これならば勝てます」
 ジューコフは言った。
「ソビエト軍の艦艇は射程を定めての攻撃は苦手ですが」
「広範囲の攻撃は得意だからですね」
「数をこれまで以上に揃え広範囲攻撃を仕掛けます」
 これがジューコフのパイプオルガンの改良だった。
「そうしましょう」
「では」
「今より枢軸軍を攻撃射程に入れます」
 そしてだというのだ。
「戦いに向かいましょう」
「了解です」
「それでは」
 リトアニアとベラルーシが応えた、そしてだった。
 ソビエト軍はその大軍を前に動かす、その彼等を見て。
 東郷はまずはこう言った。
「さて、来たな」
「どうされますか」
「敵はパイプオルガンで来る」
 それはもうわかっている、東郷は秋山に答える。
「間違いなくな」
「これまで以上の広範囲のですね」
「そしてビームやミサイルもだ」
 その数もだというのだ。
「かなりのものだ」
「ではここは」
「下手に敵の射程内に飛び込む必要はない」
「こちらは進まないのですか」
「正面からはな」
 こう言うのだ。
「それはしない」
「ではここは」
「全軍で敵の左翼に回る」
「左翼にですか」
「そうだ、そこにだ」
「敵の左翼ですが」
 そこはどうなっているか、秋山は敵の布陣を見て言う。
「中央にソビエト軍がいて彼等の右翼にはドクツ軍がいます」
「そして左翼にはだな」
「イタリン軍がいます」
 彼等も来ているのだ、数自体は多い。
「彼等が」
「そうだ、その彼等を攻める」
「ソビエト軍ではなくですか」
「流石に彼等も同盟国の軍を撃つことは出来ない」
 ベラルーシならやりかねないがジューコフは流石にそこまでは出来ないというのだ。
「後が厄介だからな」
「如何にソビエトでも外交は考えねばなりませんね」
「そういうことだ、だからだ」
 それでだというのだ。
「ここはイタリン軍を攻めよう」
「彼等に恨みはないですが」
「少し攻め方を考えてな」
 東郷はここでこうも言った。
「俺もイタリンは嫌いじゃないしな」
「そうですね、私もです」
「彼等をいじめるつもりはない」
 イタリア兄弟もいる、それ以前に東郷はいじめは大嫌いだ。
「ここは攻めてだ」
「彼等には逃げてもらおう」
 イタリン軍は敵が来ればそうしれくると呼んでだ。
「ここはな」
「逃げてもらいますか」
「どのみち逃げるだろう」
 イタリン軍の常としてそうするというのだ。
「そう思うがどうだ」
「そうですね、イタリン軍の話を聞いていますと」
 秋山も言う。
「確かな提督がいない場合は」
「逃げる、しかも今のイタリン軍の提督達はな」
「イタリアさん達の妹さん達はおられませんね」
 イタリン軍で数少ないまともな提督達がだというのだ。
「ですからここは」
「攻撃を仕掛ければな」
 逃げる、そうなるというのだ。
「それで敵の一翼を崩そう」
「わかりました」
 秋山は東郷の言葉に頷く、そしてだった。
 枢軸軍はソビエト軍の正面には向かわず素早く迂回してそのうえで敵の左翼、イタリン軍に向かった。そのうえで突き進む。
「なっ、敵が来たブーーーー!」
「そんな筈ないブーーー!」
「僕達はただいるだけでいいって言われたブーーーー!」
 実際にジューコフとロシアは彼等にはこう言っていた。
「枢軸軍怖いブーーーー!」
「ここは速く逃げるブーーーー!」
 枢軸軍は彼等から見て正面と左翼から来ていた、それを見てだった。
 慌ててソビエト軍の方に逃げた、これにはだった。
 ソビエト軍も驚いた、ラトビアが言う。
「そんな、こっちに来るなんて!」
「これは困ったね」
 エストニアも今の事態には困った顔になる。
「このままだとね」
「ただでさえパイプオルガンに移れないのに」 
 丁度射程範囲内にイタリン軍がいた、枢軸軍を狙おうとすれば彼等も巻き込んでしまうからだ。
 戦術的にはその選択も可能だ、だがそれは。
「ここでイタリン軍も攻撃すれば」
「政治的に大きな問題となります」
 ジューコフも苦い顔でロシア妹に答える。
「ですからそれはです」
「出来ませんね」
「イタリンは連合の四大国の一つです」
 今現在の連合国のだ。
「その彼等に攻撃を仕掛けては」
「後々極めて深刻な問題を起こします」
「だからです」
 それでとてもだというのだ。
「彼等は攻撃出来ません」
「そうですね」
「イタリン軍に要請します、撤退しない様に」
 これがジューコフの今の決断だった、だがそれもだった。
「無理にしても」
「若しイタリン軍がこのまま我々に雪崩込みますと」
 どうなるか、ロシア妹はその危惧を今言った。
「我々の陣形も乱れます」
「その通りです」
「どうされますか、ここは」
 ロシア妹の言葉は切羽詰ったものになっていた。
「イタリン軍の潰走は止められないですが」
「ではここはです」
 ジューコフも己の無理な決断を訂正するしかなかった、その訂正はすぐだった。
 彼は己の軍にこう言った。
「ではここは」
「ここはですね」
「秘密警察の艦隊にイタリン軍の撤退を誘導させます」
 潰走をとめられないのならせめてソビエト軍に雪崩込みその陣形を崩させない様にするというのだ、これがジューコフの今の決断だった。
「それしかありません」
「わかりました、では」
 ロシア妹も頷いて応える、こうして。
 イタリン軍はソビエト軍秘密警察所属艦隊の誘導を受けて枢軸軍が本来来る筈だったコースに向かって潰走した、こうして彼等の問題はソビエト軍にとっては解決した。
 だがここでだった、彼等はもう一つの問題に直面した。
 イタリア軍が今までいた場所にもう枢軸軍が来ていた、そしてだった。
 彼等は矢印型の陣形を組んでソビエト軍に突っ込む、艦載機にビームを放ってから。
 昇順を定める暇もないソビエト軍の陣形に突入した、そのうえで。
 目の前にいるソビエト軍の艦隊を次々に倒していく、東郷はその中で指示を出す。
「いいか、一旦敵中を突破してだ」
「それからですね」
「反転して再び攻撃を仕掛ける」
 突撃を繰り返すというのだ。
「そうする」
「敵軍に何度も突入しますか」
「ソビエト軍にはそれが一番だ」
 パイプオルガンを仕掛けられることを防ぐという意味でもだ。
「だからだ」
「わかりました、それでは」
「全軍このまま一直線に進み敵の上に出る」 
 そしてだというのだ。
「そこから素早く反転して再び突撃を仕掛けるぞ」
「パイプオルガンが来る前によね」 
 先陣を務めるスカーレットが問うてきた、先陣としてソビエト軍に最も果敢に攻撃を仕掛けている彼女がだ。
「そうよね」
「そうだ、パイプオルガンを撃たせないことだ」
 それが大事だというのだ。
「だからだ、いいな」
「わかったわ、それじゃあね」
 スカーレットはモニターから応える、そしてだった。
 己の乗艦である信濃の艦橋からこう命じた。
「全艦このまま攻撃を続けるわ」
「前方にいる敵軍をですね」
「このまま攻撃していくのですね」
「そうよ」
 まさにその通りだというのだ。
「とにかく目の前にいる敵艦隊を攻撃して」
「攻撃対象の優先順位は」
「最初はヘリ空母よ」
 ソビエト軍の今現在の主力艦艇であるこれをだというのだ。
「優先的に攻撃して」
「わかりました」
「そして次は戦艦よ」
 続いてこの艦艇を攻めよというのだ。
「いいわね、それから駆逐艦よ」
「わかりました、それでは」
「その順番で攻めます」
「敵は動揺しているわ」
 パイプオルガンを仕掛けられずしかも陣中深くに入られているからだ、動揺しない方がおかしなことである。
「その動揺を衝くわよ」
「了解です」
 将兵達は海軍の敬礼で応えた、そうして。
 彼等はスカーレットの指示通り正面の敵を倒していく、それを続けてだった。
 敵の穴を開けていく、そのまま突破した。
 突破して即座に反転する、その速さはパイプオルガンを放つ暇もない。
 再び突撃を仕掛けソビエト軍の陣を破った、二度目の突撃でソビエト軍はその数を大きく減らしそして陣も乱れた。 
 ロシアはその自軍を見てジューコフに言った。
「このままだと危ないね」
「はい、数はかなり詰められています」
 まだ彼等の方が数では優勢だ、だがそれでもだというのだ。
「もう一度攻撃を受ければ」
「危ないね」
「方陣を組みます」
 枢軸軍は彼等の陣を突破し反転する最中だ、今は攻撃を仕掛けて来ない。そしてその間にだというのだ。
「そうしましょう」
「それで枢軸軍の突撃を防ぐんだね」
「艦隊ごとに正方形の方陣を組みます」
 そうしてだというのだ。
「そのうえで方陣ごとに連携して守りましょう」
「それだけじゃないよね」
「ドクツ軍に協力を要請します」
 同盟国の彼等にだというのだ。
「我々が止めている間にです」
「彼等に攻めてもらうんだね」
「はい」
 その通りだというのだ。
「ここはそうしましょう」
「それしかないね、それじゃあ」
「全軍艦隊ごとに正方形の方陣を組め」
 ジューコフは指示を出した。
「いいな、そしてだ」
「ドクツ軍に協力を要請します」
 幕僚の一人がジューコフに応える。
「ここは」
「そうしてくれ、すぐにだ」
「敵の側面を衝いてもらいますね」
「うむ」
 そうだとだ、ジューコフはその幕僚に短いが確かな声で答えた。
「そうしてもらう」
「では」
「急げ、敵が来る前に方陣を組む」
 今のうちにだというのだ。
「わかったな」
「わかりました、ではすぐに」
「急げ、敵はすぐに来る」 
 ジューコフはドクツ軍に協力を要請しながら方陣を組むことを急がせた。
「遅れればそれで終わりだ」
「了解です」
 ソビエト軍の将兵達はジューコフの言葉に応えた、そしてだった。
 枢軸軍が来る前に方陣を組みに入る、そうして何とか枢軸軍の突撃が来る前に方陣を組み終えたのだった。
 そのうえで枢軸軍の三度目の突撃を防ぐ、そしてその間に。
 ドクツ軍は枢軸軍の側面に向かう、プロイセン妹はその先頭に立ち彼女が率いる将兵達にこう告げていた。
「いい、今はね」
「はい、このままですね」
「突撃ですね」
「敵の側面を攻めるよ」
 そうするというのだ。
「車懸りでね」
「あれですか」
「車懸りですか」
「ああ、攻めた艦隊はすぐに反転して次の艦隊が攻撃を仕掛ける」
 それを繰り返してだというのだ。
「奴等の数を減らすよ」
「突撃でなくですか」
「それでいきますか」
「たあ突撃するだけじゃゲイがないからね」
 だからだというのだ。
「ここはそれでいくよ」
「ですか、それでは」
「それで」
「あんたもそれでいいね」
 プロイセン妹は共にドイツ軍を率いるドイツ妹に問うた。
「ここは」
「ええ、いいわ」
 ドイツ妹も自身の相棒の言葉に応えた。
「ここはね」
「それじゃあそれでいくからね」
「車懸りで攻めて」
「それで枢軸の奴等を攻めるよ」
「わかりました」
 こうしてドクツ軍は車懸りで枢軸軍を攻めることにした、だがそれは。
 レーティアが見ていた、彼女は迫るドクツ軍の速さからすぐにこう言った。
「突撃はしてこないな」
「それでは何で来るの?」
「車懸りだな、指揮官はプロイセン妹君だな」
 こうグレシアに言う、レーティアは今の指揮官まで見抜いてみせた。
「彼女の得意戦術で来るか」
「車懸りね」
「あれは素早い波状攻撃だ、しかしだ」
「弱点はあるのね」
「攻撃と攻撃の間に隙が出来る」
 それがカラコールの弱点だというのだ。
「そこで突撃を仕掛ければいい」
「そうか、それではだ」 
 レーティアの今の言葉を聞いてだ、東郷はすぐに断を下した。
「ソビエト軍への攻撃は一時中断する」
「ドクツ軍に向かうのだな」
「ソビエト軍の方陣を破ることは容易ではないからな」
 その守りは堅固だ、その彼等よりもだというのだ。
「先にドクツ軍を破る」
「そうするな」
「そうだ、しかしまずは一撃を受けないとならない」
 ドクツ軍にはすぐに向かわずまずはだというのだ。
「こちらの読みを悟らせない為にな」
「そして攻撃を受けてか」
「すぐに彼等に艦首を向ける」
 そしてだというのだ。
「その攻撃の隙に一気に攻撃を仕掛ける」
「うむ、それがいい」
「総統さんの作戦ではそうなるな」
「弱点のない戦法なぞないのだ」
 レーティアはこう看破していた、無敵の軍隊がない様に無敵の戦法もないというのだ。
「車懸りも然りだ」
「そういうことだな」
「ではだ」
「全軍まずは艦首を向けるな」
 絶対にだというのだ。
「一撃を受ける、回避運動も取るな」
「艦のバリアで防ぐのですね」
「そうだ」
 とにかく敵に気付かせないというのだ。
「わかったな」
「わかりました」
 日本が東郷の言葉に一同を代表して答える、そしてだった。
 ドクツ軍の車懸りを受ける、プロイセン妹はそれに気付かず一撃目を放った。
 それは枢軸軍の側面を撃った、彼女はそれに手応えを感じた。
「よし、いい感じだよ」
「?おかしいわ」
 だがここでだ、ドイツ妹が異変に気付いた。
「敵のダメージが少ないわ」
「少ない?」
「思ったよりもね」
「そういえばそうかも」
 言われてだ、プロイセン妹も気付いた。
「これはね」
「まさかと思うけれど」
「向こうには兄貴達に総統さんもいたね」
「ええ、私達のことを知っているから」
 それでだというのだ。
「私達のことに気付いていても」
「不思議じゃないね」
「車懸りも」
 気付いているのではないかというのだ、だが既に。
 車懸りの第一波は仕掛けられ次の攻撃に移ろうとしていた、その時にだった。
 枢軸軍は一気に艦首を向けた、そのうえで。
 ドクツ軍の方に来た、まずはドクツ軍が持たない艦載機で来て。
 ビーム、ミサイル、最後に鉄鋼弾で攻める。その波状攻撃でドクツ軍を一気に押し返したのだった。
 それからソビエト軍に向かう、彼等はまだ堅固な方陣を組んでいる。
 しかしその方陣を見てだ、東郷は言うのだった。
「確かに堅固だがな」
「これまで通りですね」
「方陣は集中攻撃だ」
 そうすればいいというのだ。
「ここはな」
「方陣にも攻め方がありますね」
「やはり無敵の戦術なぞない」
 東郷はレーティアに言われたことをモニターにいる日本に話した。
「そういうことだ」
「そして方陣にもですね」
「守りは堅いし連携もしている」
「しかしそれでもですね」
「連携の外れの陣を各個撃破していく」
 集中攻撃を浴びせてだというのだ。
「そうしていけばいい」
「そうでは」
「方陣への攻撃に入る」
 これまで通りそうしてだというのだ。
「破っていこう」
「方陣だけなら問題はありませんね」
「盾だけでは戦えない」
 剣もなければだというのだ。
「剣は今潰した」
「ドクツ軍は」
「後は盾を潰すだけだ」
 ソビエト軍、彼等をだというのだ。
「そうしよう」
「では」
 今度は再びソビエト軍への攻撃に入る、その陣を各個撃破していく。そうして彼等を徐々に減らしていってだった。
 彼等に圧迫を加える、その圧迫を見てゲーペがジューコフに問うた。
「閣下、どうされますか」
「こうなっては仕方がありませんな」
 友軍もいなくなり数も減っている、それではだというのだ。
「撤退するしかありません」
「そうですか」
「モスクワでの戦いは敗れました」
 既に数はソビエト軍の方が少なくなっている、そこまでやられてはというのだ。
「ロシア平原まで撤退です」
「そしてあの場所で」
「再び戦いを挑みましょう、まだスノー将軍とニガヨモギがあります」
「では今は」
「後詰は私が務めます」
 ジューコフは自らその役を名乗り出た。
「書記長を御願いします」
「わかりました、では書記長は私がモスクワからお連れします」
「その様に御願いします」
 こうしてだった、ソビエト軍は敗北を認め撤退に入った。
 ゲーペは撤退の間にロシア兄妹と共にカテーリンの部屋に向かった、そのうえでカテーリンと彼女と共にいるゲーペに言った。
「同志書記長、残念ですが」
「ここはもうね」
「嘘よ、モスクワで負けるなんて有り得ないわ」
 カテーリンもテレビで戦局を見ていた、そのうえで眉を顰めさせて言うのだ。
「こんなことがあるなんて」
「ですがこの通りです」
「負けたよ」
 ゲーペとロシアはそのカテーリンに言う。
「ですからここはです」
「ジューコフさんが防いでくれているうちにね」
「撤退しましょう」
 二人だけでなくロシア妹も言う。
「ロシア平原まで撤退しましょう」
「そこでもう一度戦おう」
 二人は再びカテーリンにモスクワからの脱出を勧める、それでだった。
 ミーリャもカテーリンに横からこう言ったのだった。
「カテーリンちゃん、ここはもうね」
「モスクワから逃げるの?」
「今はね。そうするしかないよ」
「けれど人民の皆が頑張ってるのよ」
 カテーリンは眉を顰めさせたままミーリャにも言う。
「だから私だけ逃げるのはよくないわ」
「私も一緒だから、確かに皆が頑張ってるけれど」
「それでもなの?」
「ジューコフ元帥はカテーリンちゃんに逃げてもらう為に頑張ってるのよ」
 言うのは彼のことだった。
「元帥の気持ちを無駄にしたらよくないよ」
「だからなの」
「そう、今はね」
 一時モスクワから去ろうというのだ。
「それでまた戻ってこよう」
「そうするしかないの」
「捕まらなかったらまた戦えるよ」
 ミーリャはカテーリンにこの正論も話した。
「だからここはモスクワから撤退しよう」
「じゃあ何処に撤退するの?あそこ?」
 カテーリンはある場所を示した。
「あそこに逃げるの?」
「今はロシア平原でいいかと」
 ゲーペがそのカテーリンに話す。
「次の決戦の場所で」
「そうなの、あそこじゃないの」
「あの場所に行くのは最後の最後でいいと思うよ」
 ロシアは穏やかな微笑みでカテーリンに話した。
「今はね」
「うん、それじゃあね」
 カテーリンもロシアの言葉に頷いた、そうしてだった。
 モスクワから脱出した、そのうえでロシア平原まで撤退した。その彼女の撤退の報告を受けてだった。
 ジューコフは後詰として残っている将兵達にこう言った。
「同志書記長は無事脱出された」
「では我々の役目は終わりましたね」
「そうですね」
「そうだ、友軍も既に撤退している」
 イタリン軍、ドクツ軍もである。
「それではだ」
「我々も撤退ですね」
「今より」
「ダメージを受けている艦隊から撤退しろ」
 ジューコフは重厚な声で告げた。
「よいな」
「それでは同志閣下がです」
 艦長の一人が彼に言って来た。
「まずは」
「撤退しろというのか」
「同志閣下の乗艦ソビエトは最早」
 見ればかなりのダメージを受けている、大破と言ってもいい。
 そのソビエトを見てだ、その艦長は言うのだ。
「ですから今すぐにです」
「いや、私はだ」
 ジューコフはこう艦長に返す、顔はこれまで通り謹厳なものだ。
「指揮官だ、だから最後の最後まで残る」
「しかしそれでは」
「ソビエト軍の軍律にあるな、指揮官は最後まで指揮にあたれと」
「それはそうですが」
「軍律は守らなくてはならない」
 絶対にだというのだ。
「だからだ、私は最後の最後まで残る」
「ですか、それでは」
「そうだ、撤退しろ」
 こう言ってそしてだった、ジューコフは彼等を撤退させたのだった。
 まずはダメージの大きい艦艇から戦場を離脱し徐々にダメージの軽い艦になっていく、そして無傷の艦も戦場を離脱していく、それを見てだった。
 東郷は唸る様にこう秋山に言った。
「見事な後詰だな」
「はい、そうですね」
 秋山も東郷の言葉に頷く。
「撤退戦の模範の様です」
「これだけ見事な撤退は見られない」
「そうですね、ジューコフ元帥ならではです」
「ソビエトきっての名将だけはある」
 東郷はこうまで言った。
「隙もない」
「最後の最後で攻めあぐねることになりましたね」
「ああ、ここは下手に手出しは出来ない」
 攻められないというのだ。
「このまま行かせるか」
「そうされますか」
「間合いはこのままで砲撃は続けるがな」
 それでは決め手に欠ける、しかしそれでも今の枢軸軍にはこれしかなかった。
 枢軸軍は攻めきれないままソビエト軍の撤退を許す、そしてだった。
 ソビエト軍は遂に撤退を終えた、最後にジューコフの乗艦であるソビエトも。
 戦場を離脱していく、彼はこのままロシア平原に逃れるかと思われた。
 しかし急にエンジンが停まった、それを見てだった。
 ジューコフは無念の顔になりソビエトの艦長に問うた。
「エンジンに異常だな」
「はい、これまでのダメージの影響で」
 艦長も苦い顔で答える。
「これ以上は」
「そうか」
「そして脱出用の小型艇もです」 
 本来ならば充分にある筈のこれもだというのだ。
「これまでの戦闘で全て」
「破壊されているか」
「艦の爆発の心配はありませんが」
 エンジンが停止し脱出出来ないだけだった、しかしそれは。
「これでは」
「ではだ」
 ジューコフは艦長の報告を聞いてこう述べた。
「最早致し方ない」
「それではですね」
「降伏だ、このままでは攻撃を受けて総員無駄死にするだけだ」
 そうなるからだった、これは戦場においては容易にそうなることだ。
「ではいいな」
「わかりました、それでは」
 艦長は枢軸軍に降伏を打診した、そのうえでジューコフは戦艦ソビエトと乗員達と共に枢軸軍の捕虜になった、ソビエト星域会戦はこれで終わった。
 枢軸軍はソビエトも占領した、敵の首都を占領した彼等は戦略的有利を確かなものにした、ソビエトとの戦いはターニングポイントを迎えた。


TURN109   完


                        2013・5・11



首都を落とした上にジェーコフも捕虜に。
美姫 「これはかなり大きいわよね」
だな。とは言え、肝心のカテーリンは逃がしてしまったがな。
美姫 「彼女を追う事になるわね」
果たして、無事に捕まえる事が出来るのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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