『ヘタリア大帝国』




               TURN118  アルビルダの帰還

 北欧はドクツもエイリスも見捨てた、ヒムラーはデンマークとドクツ本土をつなぐワープ航路を破壊させてからあっさりと言った。
「これでよし、だよ」
「北欧は、ですね」
「放棄ということで」
「人口も少ないし」
 これが第一の理由だった。
「資源もないしね」
「それに、ですね」
「最早あの場所での目的はですね」
「そう、達したからね」
 こう言うのだった。
「我々のね」
「既にサラマンダーは回収していますし」
「そして密かにアルプスに移しています」
 今ヒムラーの前にいるのは裏の部下達だ、その為サラマンダーのこともかなり突っ込んでしかも笑って話しているのだ。
「これで何時枢軸軍が来ても」
「万全です」
「これまで彼等は大怪獣も倒してきているけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「サラマンダーはね」
「他にも備えがありますし」
「だからですね」
「そう、安心していいよ」
 大丈夫だというのだ。
「誰にもアルプスは抜けられないよ」
「戦力も充実していますし」
「例えどれだけの大軍が来ても」
「臆することはない」
「そういうことですね」
「そうさ、それに若し」
 万が一だというのだ。
「アルプスを破られても」
「その時にもですね
「切り札が二つありますね」
「さて、彼等だけれど」
 その切り札のうちの一つの話をここでした。
「準備は進んでいるね」
「最早何時でも戦線に投入出来ます」
 部下の一人が答えてきた。
「彼等も」
「そう、ならいいよ」
「しかし機械の身体は素晴らしいですね」
「一体造ればコピーみたいに大量生産出来るからね」
 それが機械だというのだ。
「しかも死刑囚の始末にもなるし」
「再利用も出来ます」
 どういった再利用かというと。
「その脳を機械の身体に移して」
「それだけでいいからね、ただね」
「ただとは」
「カナダから密かに持ち去った脳達だけれど」
「あれですか」
「三つ程際立ったものがあったね」
 ヒムラーは不気味な話を平然としていく。
「彼等を指揮官にするということでね」
「総統、いえ教皇の仰る通り進めています」
「ならいいよ、それじゃあね」
「あの三人を指揮官としたうえで」
「若しアルプスを破られてもね」
 ヒムラーはその可能性は万にひとつもないと考えている、だが若しそうなった場合も彼等を使ってだというのだ。
「勝つよ」
「我々が」
「うん、枢軸軍を倒し」
 それからもだった。
「次はね」
「エイリスもですね」
「向こうもわかってる筈だよ、この同盟はね」
「あくまで一時的なものですね」
「永遠のものじゃないよ」
 断じて違っていた、このことは。
「ドクツとエイリスには積もりに積もりものがあるからね」
「はい、ですから」
「我々にしても」
「まあ俺達にしてみればドクツのことはどうでもいいさ」
 ヒムラーはドクツ総統でありながら平然とこう言った、そして今現在彼の前にいる部下達も同じであった。
「所詮ね」
「はい、しかしです」
「エイリスを倒さなければ」
「そう、ドーラ教を広められないからね」
 だからだった、今は。
「エイリスも倒してね」
「世界をドーラ様のものに」
「そうしましょう」
「さて、では時間だよ」
 ヒムラーはここでもそっけなく言った。
「ドーラ様の御前に行こう」
「それでは共に」
「礼拝を」
 部下達も応える、そうしてだった。
 彼等は北欧を放棄しそれからのことも話した。ヒムラーはアルプスとその後のことも既に構えていたのだった。
 エイリスも北欧を放棄した、アイスランドとのワープ航路を破壊した。
 航路の破壊を担当したのはイギリス兄妹だ、二人はその破壊された航路を見届けながら難しい顔になっていた。
 その中でだ、イギリス妹は兄に言った。
「また修理すればいいです」
「ああ、戦争は終わったらな」
「ですが、ですね」
「折角見つけた航路を破壊するのはな」
 どうかとだ、イギリスが今言うのはこのことだった。
「どうもな」
「あまり気持ちのいいものではないですね」
「この航路も見つけるのが大変だったんだよ」
 イギリスはそのアイスランドへの航路を見届けながら言う、その破戒した航路を。
「だからな」
「お気持ちはわかります、この航路を発見するにはかなり苦労しました」
「しかし壊しておかないとな」
「枢軸軍は北欧からも攻めて来る様になります」
 だから破壊したのだ。
「ドクツ戦の時にもこうしましたし」
「あの時もな、正直言ってな」
「お嫌でしたね」
「ああ、そうだったよ」
 その通りだったというのだ。
「本当にな」
「そうですね、しかしこれで」
「枢軸軍はこっちから来ないな」
「このことは間違いありません」
 確実にだ、それは防げるというのだ。
「ご安心下さい」
「じゃあこれからだな」
「南アフリカとスエズの守りを固め」
 そうしてだった。
「枢軸軍を迎え撃ちましょう」
「特にスエズだな」 
 そこに回るのは妹の方だ、イギリスはその彼女に対して言った。
「頼むな、モンゴメリーさんとな」
「やらせて頂きます」
「絶対にな、若しスエズをなくすと」
「はい」
 まさにその時はだった。
「危うくなります」
「しかもあそこの総督はな」
 今度はスエズ総督の話になる。
「酷い奴だからな」
「近頃大抵の総督がですが」
「どうもな、ここんとこ本国がやばかったからな」
 それでだったのだ。
「本国に人材を集めててな」
「総督の人選はなおざりでしたね」
「ああ、今思うとな」
 イギリスは後悔と共に言う。
「それが植民地を奪われた要因の一つでもあるからな」
「それだけに」
「本当にまずったな」
「とはいいましてもその人材が」
「ああ、かなり劣化してるからな」
 これもまたエイリスの実情である。
「貴族のな」
「総督は貴族でなければならないですが」
 就任するには爵位が必要なのだ、エイリスの慣習法でそうなっているのだ。
「それがですね」
「平民には人材がいるがな」
「はい、庶民院を見ましても」
「けれどな」
 貴族の方はだった。
「あっちはどうにもならねえな」
「特権にあぐらをかいているだけですから」
「それで貴族院もなんだよ」
「腐敗していますね」
「だから女王さんも改革しようとしてたんだよ」
 その全てを賭けてだ、改革の大鉈を振るおうと考えていたのだ。
 だが、だ。それがだったのだ。
「その前に今の戦争になったからな」
「植民地の総督の方々も」
「貴族にも人材がいるけれどな」
「皆さん軍に行かれて」
「だよな」
 騎士提督達が代表だ、エイリス軍は健全なのだ。
 だが、だ。それでもなのだ。
「軍だけだからな、総督連中も議会も」
「酷いものです」
「どうしたものかな」
「戦争が終わってからですね」
 何もかもがだった、エイリスは植民地のことも不安に満ちていた。
 そしてその北欧はというと。 
 東郷は実にあっさりと兵を進めた、そして無血で北欧の五つの星域を枢軸軍で占領してしまったのだった。
 それを見てだ、アルビルダは斧を手に大喜びで叫んだ。
「よし、やったぞ!」
「うん、戻れたね」
 アイスランドがそのアルビルダに言う。
「やっとね」
「私は嬉しいぞ」
「僕も。それでだけれど」
 北欧が枢軸軍の手に落ちた、それならばだった。
 北欧の他の四人もだった、デンマークが彼等を代表してアルビルダに笑顔で言って来た。
「おお王城さん久し振りだっぺ!」
「祖国その一、元気だったか!」
「ああ、この通りだっぺよ」
 デンマークは明るい笑顔でアルビルダに応えた。
「元気だっぺよ」
「その二もその三もだな」
「うん、僕もね」
「俺も元気だ」
 ノルウェーとスウェーデンもそうだと答えて来た。
「王女さんも元気そうだし」
「何よりだ」
「祖国その四もだな」
「はい、お久しぶりですね」
 フィンランドもにこやかにアルビルダに応える。
「海賊から枢軸軍に入られたと聞いてましたが」
「そうだ、そこで大暴れしていたぞ」
「あっ、いつも通りだったんですね」
「そうだ、私は私だ」
「それはそうとしまして」
 フィンランドはアルビルダとのやり取りの後で彼女と共にいる東郷に対して尋ねた。
「あの、僕達ですけれど」
「ああ、君達さえよければな」
 東郷もフィンランドに応えて言う。
「共に戦ってくれるか」
「わかりました、それじゃあ」
「ヒムラーさんも俺達に勝手にしてくれって言ったっぺ」
 本当にこう言ったのだった。
「だから枢軸に入らせてもらうっぺよ」
「随分あっさりとしてるな」
「それが北欧だっぺ」
 デンマークは明るい笑顔で東郷に答えた。
「だから宜しくっぺよ」
「では早速アフリカに来てもらうが」
「ああ、わかったっぺよ」
 デンマークは北欧の国家達を代表して東郷に答えた。
「じゃあ仲良くやるっぺ」
「そういうことでな」
「それでだ」
 アルビルダがまた言って来た、相変わらず騒がしい調子だ。
「父上は何処だ?」
「王様だか」
「そうだ、生きておられるか?」
 こうスウェーデンに問うた。
「いたら何処におられるか教えろ」
「陛下だったら王宮だ」
 スウェーデンはその独特の訛りのある口調で答えた。
「そこにおられるだ」
「そうか、わかった」
「お元気だ」
 スウェーデンはアルビルダに王の体調のことも話した。
「だから安心するだ」
「わかった、じゃあ行って来るぞ」
 こうしてアルビルダは王宮に入った、そこには黒く丸い毛の塊がいた、北欧の者であることがすぐにわかる。
 その彼がだ、アルビルダを見てすぐに言って来た。
「おおアルビルダ元気だったか」
「父上もだな」
「うむ、こうして」
 元気だとだ、アルビルダに笑顔で返す。
「国にも戻って来られたからな」
「今までどうしていたんだ?」
「エイリスに亡命していた」 
 そしてだったというのだ。
「それで今戻った」
「そうだったのか」
「そうだ、しかしだ」
「母上がおられないぞ」
「あれは逃げた」
 話がここで変わった。
「まあそのだ」
「どうして逃げたんだ?」
「男だ」
 それでだというのだ。
「戦乱の中で離れ離れになっているうちにだ」
「浮気したのか、母上は」
「そうだ、それでだ」
「逃げたのか」
「参っている、正直な」
 敗戦の時よりもだ、王は明らかに落ち込んでいた。そのうえでの言葉だ。
「どうしたものか」
「安心しろ、なら私が婿を迎えてだ」
「王家を継いでくれるか」
「出来れば東郷がいいが」
 だがこれはだった、彼が既に結婚しているからだ。
「無理ならな」
「強い男がだな」
「そうだ、私は好きだ」
 それも大好きである。
「だからだ」
「うむ、それでは婿を見つけてくれ」
「嫁でもいいぞ」
 アルビルダは威勢よく言った。
「それでは父上は安心しておいてくれ」
「そうさせてもらおうか」
 こうした話もしたのだった、何はともあれ北欧もまた枢軸軍に加わった、ただ彼等も欧州にあるのでここちらはだった。
「これはです」
「無理ですね」
 秋山が五藤に応える。
「北欧諸国の太平洋経済圏への加入は」
「流石にですね」
 こればかりはだった。
「私もそう思います」
「北欧諸国も欧州です」
 太平洋ではない、それにだった。
「しかも彼等は経済的にドクツとの関係が深いです」
「だから余計に」
「やはり太平洋経済圏は太平洋です」 
 その言葉通りにだ。
「中南米とインド洋も入りますが」
「流石に北欧まではですね」
「ソビエトもですし」
 だからだった。
「彼等の太平洋経済圏への参加は」
「こちらからも言わないということで」
「そうなります、ただソビエトとはです」
 彼等は太平洋経済圏に入らない、だがだった。
「それでも太平洋諸国との通商条約は結べます」
「では」
「はい、こちらは今交渉中です」
「それでは外相ともお話をして」
「こうしたことならやっぱり外相ですね」
 五藤は秋山に笑顔で言った。
「あの人交渉も条約をまとめるのもお上手ですから」
「伊達に外相はされていませんね」
「あれで親切ですし」
 宇垣の隠れた長所だ。
「いえ、むしろ世話焼きといいますか」
「そうした方ですね」
「はい」
 それが宇垣だというのだ。
「あの人はいい人です」
「人間としても外相としても」
「私もよく助けてもらっています」
 笑顔でだ、五藤は秋山に言った。
「いつも」
「それは何よりです、では欧州諸国は」
「欧州は欧州で戦後一つの経済圏になるかと」
 五藤は彼女の予想を秋山に話した。
「ですから」
「ではドクツかエイリスを中心として」
「そうなると思います。そしておそらくは」
「ドクツですね」
 秋山はこの国を推した。
「あの国こそがですね」
「エイリスは植民地あってです」
 五藤もこう看破した、エイリスのことだ。
「ですから植民地がなければ」
「あの国は没落ですね」
「そうなります」
 それ故にだというのだ。
「植民地を不要とするドクツの方がです」
「戦後のエウロパの中心になりますか」
「おそらくは」
 こう秋山に話す。
「そうなると思います」
「ドクツですか、では」
「しかもドクツには総統さんが戻られますので」
 他ならぬレーティアがだというのだ。
「人材もあり」
「そこからもですか」
「やはりドクツが中心になります」
「そのうえでの欧州経済圏ですか」
「エイリスは没落します」
 そしてその結果だった。
「欧州で二番手となるでしょう」
「あのエイリスがですか」
「これから私達はアフリカの植民地に攻め込みます」
 そのうえで独立してもらう、それではだった。
「そうなればあの国の植民地はなくなります」
「これで、ですね」
「ですから」
 それ故にだというのだ。
「エイリスは最早世界帝国ではなくなり」
「欧州の一国として存在することになりますか」
「欧州の中では大国ですが」
 だがそれでもだというのだ。
「世界帝国ではなくなり」
「欧州でもですか」
「やはりドクツが強いです」
 そうなるというのだ。
「あの国が」
「そうですか、あの国がですか」
「どう考えてもです」
 やはり強いというのだ、ドクツがだ。
 それでだ、五藤はこういうのだった。
「外相ともお話しますが」
「ドクツとですね」
「どうしていくかが欧州との外交になります」
「そうですね、しかし」
 ここで秋山は言った。
「ドクツとは」
「今は、ですね」
「今は、ですか」
「はい、今はです」
 あくまで今の時点はというのだ。五藤はその顔はにこやかに笑っているがその言葉は真剣なものであった。
「今の時点ではです、、戦後はわかりません」
「ドクツと対立する可能性がですか」
「あります」
「ありますか」
「はい、欧州と太平洋」
 その二つに分かれるというのだ、五藤は軍人だが今は政治家として分析してその場で話を進めていた。
「この二つの軸で動くでしょう」
「確かに、言われてみれば」
 秋山もここでわかった、彼も伊達に参謀総長ではない。そうした政治的センスも備えているのだ。
「そうなっていきますね」
「今同盟国といってもそれが永遠にはならないですから」
「そうですね、本当に」
「太平洋経済圏においてもです」
 その彼等が所属する経済圏でもだというのだ。
「戦後はその内部でかなり」
「主導権争いがですね」
「日米中三国にインドカレーも含めてです」
「この四国で、ですね」
「若しくは三国か」
 この場合は日米中だ。
「争いそしてインドカレーがバランサーになるでしょう」
「ではインドカレーがかなり重要ですね」
「そうなると思います」
「太平洋経済圏といっても一枚板ではないですね」
「しかも三国だけではありません」
「そうですね、他の国々もありますから」
「太平洋経済圏は非常に内部での対立が複雑になっていきます」
 参加国の数が多い、それ故にだというのだ。
「戦争の後でも」
「色々ありますね」
「戦争が終わってそれでハッピーエンドになるかというと」
「なりませんね」
「新たなはじまりです」
 それからだというのだ。
「そうなります」
「ではそれからのことも」
「参謀総長も考えて頂ければ」
「では」
 こうした話もしていた、枢軸の中でもそろそろ戦後のことが考えられてきていた。
 だが今はそれは言われだしてきたばかりだ、やはり肝心なのは今の戦争のことだった。
 北欧とその諸国を加えた枢軸諸国はいよいよアフリカ戦線に戦力を集結させていた、スエズと南アフリカ方面が次の戦略目標だった。
 その中でだ、スウェーデンが一同にある缶詰を出してきた。台湾はその缶詰を見て本能的に危機を察して言った。
「これはまさか」
「缶詰だ」
「いや、普通の缶詰じゃないでしょ」
 こうスウェーデンに問う。
「絶対に」
「安心するだ、食べられるだ」
「本当に?」
「んだ」
 スウェーデンは小さく頷いて台湾に応える。
「じゃあ開けるだ」
「いや、ちょっと待ってや」
 メキシコが缶切りを出してきたスウェーデンをここで止めた。
「それここで開けるんかいな」
「そだ」
「絶対にまずいやろ、それは」
 メキシコもまた本能的に察して言う。
「ここ室内やで」
「そうよ、その膨らみ方からいっても」
 台湾はそこに危険なものを察していた、とにかく今彼等の目の前にある缶詰は尋常ではないまでに膨れているのだ。
 その膨らみを見つつだ、台湾jは再びスウェーデンに言った。
「悪いけれどね」
「食べないだか」
「ここではね」
 少なくとも室内では、というのだ。
「食べないわ」
「そか」
「別にいいんじゃないか?」
 台湾達にとって都合の悪いことにここでランスが出て来た、尚彼の本来の世界には缶詰なぞ存在しない。
「ここで開けてもな」
「いや、これはかなり」
「まずいで」
「ちょっと膨らんでるだけの缶詰だろ」
 ランスはその缶詰を見ながら言った。
「それだったらな」
「違うわよ、膨らんでる缶詰はね」
「仲が腐ってるってことやさかいな」
「これは下手に開けたら」
「とんでもないことになるで」
「そうか?じゃあ外に行ってか」 
 ランスもその缶詰を見ているうちに危機を察した、そしてこう言った。
「開けるか」
「そう、そうしようね」
「さもないと大惨事になるで」
「じゃあ外に持って行くだ」
 スウェーデンもやや無愛想な感じで言った。
「そこで開けて皆で食べるだ」
「それじゃあ皆も呼んでね」
「食べるで」
 こう話してそしてだった、一行はとりあえず外に出た。皆も呼んだがここでフィンランドが言うのだった。
「ああ、これはお外で食べるべきものですから」
「やっぱりそうだったのね」
「シュールストレミングですね」 
 これがこの缶詰の名前だというのだ。
「中は物凄い匂いがしますから」
「匂いっていうと」
 そう聞いてだ、台湾はこの料理の名前を出した。
「臭豆腐みたいなの?」
「台湾さんのところにも臭うお料理があるんですね」
「香港も食べてるわよ」
「あれはもう強烈的な」
 香港も答えてきた。
「臭いが強過ぎる的な」
「老師も人前ではあまり食べるなって言うのよ」
「当たり前ある、あんな臭いでは迷惑あるよ」
 中国も顔を顰めさせて言う。
「臭豆腐は爆弾あるよ」
「それならです」
 フィンランドもその話を聞いてあらためて言う。
「シュールストレミングには勝てないでしょうが」
「ちょっと待て、的な」
 香港はフィンランドの今の言葉に青い顔になって返した。
「臭豆腐よりも強烈的な」
「はい、とにかく凄いですから」
「というと俺のホンタクより凄いんだぜ?」
 今度は韓国が出て来た。
「あれも強烈なんだぜ」
「ホンタクといいますと」
「ちょっと作り方にコツがあるんだぜ。他にはトンスルという酒もあるんだぜ」
「あの、韓国殿その二つは」
 どうかとだ、語る韓国に平良が来た。
「あまり出されない方が」
「駄目なんだぜ?」
「キムチ位にしておきましょう」
 額に汗をかきながら韓国に言う、平良にしては珍しく汗を見せているのだ。
「その二つだけは」
「ううん、平良さんの言うことならわかったんだぜ」
「日本にはくさやがありますが」
 小澤はこの兵器を話に出した。
「それ以上ですか」
「どうでしょうか、とにかくです」
 今はだというのだ、フィンランドにしても。
「まずは開けてみてです」
「皆下がるっぺよ」
 デンマークが一同に注意した。
「さもないと大変なことになるっぺよ」
「缶詰を開けるだけじゃないかい?」
 アメリカは首を傾げながらそのデンマークに問い返した。
「それで皆下がるのかい?」
「そうだっぺ、飛び散った汁の匂いも強烈だっぺ」
「お汁って。そう言われてもいやらしくないわね」
 キャロルも本能的に察した。
「危険物にしか」
「だからっぺ、下がるっぺ」
「わかったわ、じゃあね」
「さあ、皆下がるだ」
 ノルウェーも皆に言う。
「スウェーデンの用意は出来ただ」
「何か原発に入る時みたいな格好だな」
 フランスはスウェーデンの今の放射能防護服そのままの服装を見てこう言った。
「本当に兵器かね」
「うん、覚悟していて」
 アイスランドも言う。
「匂いについては」
「さあ、皆覚悟するのだ」
 アルビルダだけは楽しそうである。
「匂いだけじゃなく味もいいぞ」
「開けるだ」
 スウェーデンから言って来た、手には缶切りがある。
「それじゃあいいか」
「ああ、それじゃあ」
「宜しく」
「わかっただ」
 こうしてだた、スウェーデンはその膨らんだ缶詰を開けた。するとその中からまずは凄まじい匂いの汁が飛び散り。
 匂いも充満した、誰もがその匂いに驚いた。
「なっ、この匂いは」
「よ、予想以上・・・・・・」
「これはかなり・・・・・・」
「強烈な・・・・・・」
 幸い誰も汁は浴びなかった、だがだった。
 その匂いだけでだった、誰もが絶句した。
「この匂いの強烈さは」
「もう完全に腐ってるでしょ」
「うう、ここまでの匂いの食べ物は」
「ちょっと」
「ほら、言った通りですよね」
 ここでフィンランドも言う、とはいっても彼は匂いに慣れているのかいつもの穏やかな顔である。
「これがシュールストレミングです」
「本当に爆弾ね」
 台湾は何とか己を保ちながらフィンランドに返した。
「この強烈さは」
「スウェーデンさんの切り札とさえ言われています」
「その名に恥じないと思うわ」
「それで今からですが」
「食べてみろっていうのね」
「そうです、折角開けましたから」
「本当に食えるんだろうな」
 プロイセンもかなり引いた感じである。
「中にあるものは」
「美味しいですよ」
「そうか、じゃあな」
「いっそのことイギリスに送ってやるか?」
 フランスはここでも彼のことを考えた、この状況においても。
「何も知らないあいつに開けさせてな」
「本当に戦争なりますよ」
 フランス妹はこう言って兄を止めた。
「既に戦争中にしましても」
「今以上に激しい戦争になるっていうんだな」
「それは避けられないです」
「それもそうだな、下手に開けさせたらな」
「イギリスさんも激怒されます」
 開けた後の大惨事によってであるのは言うまでもない。
「若しそれで宜しければ」
「ああ、わかったよ」
 フランスもこう妹に返した。
「じゃあな」
「はい、そういうことで」
 こうしてフランスの悪質な悪戯、宣戦布告にしかならないそれは止められた。かくして皆何とか臭いをかがない様にしてそれを食べた。
 それからだ、まずは東郷が言った。
「まあ臭いは凄いがな」
「味はですね」
「そこまで驚くものじゃないな」
 こう秋山に話す、秋山も食べている。
「むしろいけるな」
「はい、美味しいです」
「しかしこれだけ発酵していると」
 東郷は今は静かになっている缶詰を見て言った。
「取り扱いも大変だろうな」
「そうですね、これは輸入出来ませんね」
「危険物に入れるべきだな」
 宇垣も言う。
「これだけのものは」
「私もそう思います、若し下手に中を開ければ」
 どうなるか、山下も深刻な顔で述べる。
「その時こそです」
「うむ、間違っても帝の御前には出せぬ」
「若し出す不貞の輩がいれば」
 ハルが本気で言う。
「私が容赦しません」
「そうですね、その時は」
 福原もにこにことしているがその時を想定して黒いオーラを全身から放っている。
「一切の慈悲を捨てて」
「消毒します」
 ハルは本気そのものの声だった。
「天が許しても私が許しません」
「そうすべきですね」
「この食べ物は河豚と共に帝にお出しすることは厳禁とします」
「あっ、帝さん河豚は食べられないんですか」
「毒がありますので」
 だからだとだ、ハルはフェムに答えた。
「そういったものは厳禁です、普通のお食事にしても」
「毒見役がですな」
「僭越ながら私もその一人です」
 ハルもまただというのだ。
「帝をお護りしています」
「何かハルさんが毒見役ですと」
 フェムもまた兵器を食べながら言う。
「鉄壁って感じですね」
「だから皇居の料理は冷めているんだな」
 ランスもここで気付いた。
「厳重に毒見をしてるからか」
「その通りです」
「当然だけれどな、それは」
「むしろ毒見をしない方がおかしいかと」
 ハルは女官長兼宮内大臣として言い切った。
「毒殺なぞさせてはなりませんから」
「確かに、毒は我々も警戒しています」
 ゲーペもここで言う。
「毒殺をせずとも洗脳も出来ますから」
「何か物騒なんだけれど」
「ご安心下さい、今は使っておりません」
 ゲーペは自分の今の話に引いたイタリアに微笑んで述べた。
「間違ってもイタリア君には使いません」
「俺にはなんだ」
「ソビエトもイタリア君が好きなので」
「あれっ、俺のこと好きなんだ」
「暖かいので。実は私も」
 一時イタリアの客人になっていただけではなかった、その時も嬉しそうであったが。
「イタリア君は好きです」
「俺って意外と人気あるのかな」
「私も好きだから」
 カテーリンもイタリアにエールを送ってきた。
「またスパゲティ作ってね」
「ピザもどうかな」
「そっちもね」
「イタリアさんのお料理って凄く美味しいからね」
 ミーリャも子供らしい笑顔で言う。
「仲良くしていきたいよね」
「うん、給食にもイタリア君のお料理を取り入れて」
 カテーリンはこうしたことも考えていた。
「そうしていこう」
「そうだよね」
「何か俺ソビエトに好かれてるんだね」
「というかイタリアさん嫌いな人っていないんじゃないんですか?」
 セーシェルもイタリアに言う。
「特に」
「そうなのかな」
「そう思いますよ、私も嫌いじゃないですし」
 それにだった、セーシェルはドイツも見て言った。
「ドイツさんもいますから」
「俺もいるぜ」
 プロイセンに至っては時分から言って来た。
「イタちゃんもロマーノも何かあったらいつも俺に言ってくれよ、助けるからな」
「貴方はそうしていつもイタリア達を甘やかしますが」
 オーストリアはそのプロイセンにどうも不満な様子である。
「それがかえってです」
「いいだろ、イタちゃん達いい奴だろ」
「それはそうですが」
「そう言う御前もイタちゃん達助けてるだろ」
「放っておけませんので」
 オーストリアもだった、やはり彼もイタリア達に優しいのだ。
「ですから」
「困った奴だがな」
 ドイツは一応はこう言う。
「しかしそれでもだ」
「放っておけないんだよな、本当にな」
 プロイセンはにこにことしている。
「その辺り総統さんもだよな」
「イタリンはドクツの大切な友人だ」
 見事にだ、レーティアははっきりと言い切った。
「どうして邪険に出来ようか」
「有り難う、レーティアちゃん」
 ムッチリーニもレーティアのその言葉に笑顔で応える。
「じゃあこれからも宜しくね」
「もう少ししっかりしていて欲しいところですが」
 一応こう言いはする、尚レーティアは菜食主義者なので今のシュールストレミングを口にしてはいない。ザワークラフトを食べている。
「これからも宜しく御願いします」
「うん、一緒にやっていこうね」
 ドクツとイタリンの絆は今も健在だった、ユーリも言う。
「イタリンは自分で戦える様になるべきですが」
「それでもなんだな」
「やはり私もドクツが好きです」
 こうロマーノに答える。
「かつての神聖ローマ帝国として」
「俺は嫌だけれどな」
 ロマーノはこう言う、むっとした顔で。
「ったくよ、何か俺だけな」
「そうしたことは仰らないで下さい、ロマーノ殿も私達の国家です」
 だからだというのだ。
「何があっても粗末になぞしません」
「そうなのかよ」
「私もよ、イタちゃんもロマーノちゃんも妹ちゃん達もイタリンの国家だから」
 ムッチリーニはえこ贔屓はしない、四人共彼女の国家だと考えているのだ。それ故に今もこう言えたのである。
「帰っても宜しくね」
「そこまで言うんだったらな」
「戦争終わったらまた仲良くやろうな」
 今度はスペインがロマーノに言う。
「トマトもせいらい食ってな」
「ちっ、何か俺の周りってこんな連中ばかりだな」
「しかし悪い気がしないと思うが」 
 東郷はそのロマーノに微笑んで声をかけた。
「どうか、そこは」
「まあな、それはな」
 ロマーノも東郷の今の言葉に表情を変えて応えた。
「俺も一人じゃないってわかるからな」
「誰も一人じゃないさ、ロマーノさんもな」
「そうみたいだな」
「この戦争が終わっても」
 それからもだとだ、ロマーノはムッチリーニ達の笑顔も見て語った。
「この顔触れでか」
「ロマーノさんは生きていくだろうな」
「イタリンか、じゃあな」
 ロマーノはまた言った。
「ここにいてやるか」
「兄ちゃん、おかわりいる?」
 イタリアは決意したロマーノに早速シュールストレミングが入った皿を出してきた。
「これ」
「いらねえよ、一皿だけで充分だよ」
「臭いがきついからなんだ」
「そうだよ、この匂いはもう充分だよ」
「ううん、チーズも凄い臭いのがあるから大丈夫なんじゃ」
「チーズとこのシュール何とかじゃ別だろ」
 違うというのだ。
「だからだよ」
「じゃあこれは俺が食べようかな」
「勝手にしろ」
「うん、じゃあね」
 臭いは問題だったがそれでも北欧諸国も無事枢軸に入り共に戦うことになった、そうしたこともあってだった。
 枢軸諸国はインド洋に主力を集結させてアフリカに全面攻撃を仕掛けることになった、エイリスもその最後の植民地達を守る為に決死の防戦を挑むことになった。


TURN118   完


                              2013・6・16



北欧に関してはエイリス、ドクツ共に見捨てたか。
美姫 「まあ、特に守る意味合いも薄いからね」
仕方ないと言えば仕方ないな。
美姫 「で、あっさりと北欧の制圧は完了ね」
抵抗もないからな。経済圏は兎も角、枢軸軍への加入で戦力はアップしたな。
美姫 「いよいよエイリスと本格的に始めるわね」
だな。さてさて、どんな戦端が開かれるか。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!



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