『ヘタリア大帝国』




              TURN120  エイリス王家

 イギリスはケニアまで戦線を後退させそのうえで本国のセーラにマリーが枢軸国の捕虜になったことを伝えた、すると。
 その話をモニターのイギリスから聞いたセーラは曇った顔だがそれでもこう答えたのだった。
「わかりました」
「そうか」
「はい・・・・・・」
 何とか気丈な顔で答えたのだった。
「そのことは」
「辛いだろうけれどな」
「いえ、大丈夫です」
 セーラは何とか立ってイギリスに答える。
「私は」
「泣いてもいいんだぜ」
 イギリスはあえてセーラにこうも告げた。
「今ここにいるのは俺達だけだからな」
「お気遣い有り難うございます、ですが」
「それでもか」
「私は女王です」
 エイリスのだ、だからだというのだ。
「大丈夫です」
「そうか」
「はい、そうです」
 こう言ってそしてだった、セーラはこうも言った。
「ご安心を」
「あんたも強いな、これまで歴代の女王さんと一緒にいたけれどな」
 イギリスはここでこれまでのエイリスの女王達を思いだしつつ述べた。
「あんたはその中でもかなりのものだな」
「有り難うございます」
「頑張れよ、今は確かに辛いけれどな」
「はい」
「マリーさんは大丈夫だ」 
 このことは確信があって言えた。
「捕虜になってもな」
「それでもですね」
「あの娘はそれで負けないさ、それにな」
 イギリスはセーラにさらに語る、モニターの向こうの彼女に。
「向こうの中心の国は日本だからな」
「あの国だからですか」
「敵とはいえ見事な奴だよ」
 そうだというのだ。
「敵の捕虜を粗末にする奴じゃないさ」
「だからですね」
「っ戦いが終われば絶対に帰って来るよ」
「そうですか、それでは」
「勝って帰ってもらいたいよな」
 イギリスはここではセーラに微笑んでこうも告げた。
「そうだよな」
「はい、それは」
「じゃあ俺も踏ん張るからな」
「私もですね」
「ああ、何としてもな」
 絶対にだというのだ。
「本国を頼むな」
「スエズでも戦いがはじまりますし」
「もうエルザさんは撤退したよな」
 イギリスは微笑んでセーラに問うた。
「そうだよな」
「はい、既に本国に戻られています」
「ならいいさ、じゃああそこはモンゴメリーさんと妹に任せてな」
「祖国さんは、ですね」
「俺はここで頑張るさ」
 このケニアでだというのだ。
「南アフリカは放棄したけれどな」
「それでもですね」
「ああ、ここで守ってな」
 そしてだというのだ。
「頃合を見て反撃に移ろうな」
「何としても」
「じゃあマリーさんのことは安心してな」
「そのうえで」
「戦っていこうな」
 イギリスはあえて微笑んでセーラに話した、そしてだった。
 セーラに別れを告げてモニターを切った、それからだった。
 モニターの個室から外に出てだ、エイリスの将兵達にこう告げた。
「今からな」
「はい、今からですね」
「このケニアで、ですね」
「ああ、何とか守るからな」
 そうするというのだ。
「後はカメルーンだけれど」
「あの人と、それに」
「ああ、暗黒宙域からだったな」
 ここでだ、イギリスは招聘の一人の言葉に微妙な顔になって述べた。
「あそこからな」
「あそこから出て来る者達はどうしますか?」
「戦闘に介入してくるんならともかくな」
 そうでないならというのだ。
「まあ特にいいだろ」
「そうですか」
「ああ、別にな」
 こう言うのだった。
「これまで通り放置ってことでな」
「つまりスルーですね」
「それでいいだろ」
 イギリスは彼等についてはこれで済ませた。
「問題は枢軸だからな」
「わかりました、それでは」
「彼等のことは放置ということで」
「カメルーンには俺から言っておくからな」
 この国についてはそうするというのだ。
「あいつにはな」
「戦線への参加ですね」
「それをですね」
「マイペースな奴だけれど俺の言葉には頷いてくれる奴だよ」
 植民地だから当然だがそれでも国によって違いがあるのだ、ベトナムなぞはイギリスもやりにくい相手だった。
 それでだ、イギリスはカメルーンについてはこう言うのだ。
「何とか守るぜ」
「はい、そして南アフリカを奪還して」
「そしてですね」
「エイリスの植民地も全部奪還してやるさ」
 これがイギリスの、そしてエイリスの望みだった。再び多くの植民地を手にした世界の盟主に戻ることを目指していた、その為ケニアでも守ろうとしていたのだ。
 そのマリーだが厄介なことにはなっていなかった、捕虜として入っている貴賓用の部屋の中でベトナムはインドと紅茶を手に明るく話をしていた。
「へえ、じゃあ皆元気なのね」
「そうだ、独立してからな」
「悪いことはないたいよ」
「太平洋経済圏で楽しくやっている」
「順調に発展しているたい」
「ううん、植民地こそはって思ってたけれど」
 マリーは独立した彼等の話を聞いて考える顔で言った。
「違うのね」
「考えてみればです」
 サフランもいる、彼女が言うには。
「植民地には駐留艦隊が必要ですね」
「植民地の叛乱鎮圧にね」
「それだけのかなりの国力を使います」
 こう指摘するのだった。
「軍隊の用意だけでも」
「叛乱が起こったらその戦闘で産業にも影響が出るしね」
 無論交易にもだ。
「それに派遣する総督や役人がね」
「うちの総督はいい人でごわすが」
 オーストラリアも言う。
「けれど中には酷いのがいるたい」
「そういう人間をどうにかしたいって思ってたけれど」
 エイリスとしてもそうは考えていたのだ、特にセーラが。
 だがそれは容易ではなかった、それは戦争以外にも原因があった。
「目が届かないからね」
「そうでごわす、エイリスの植民地は広過ぎるたい」
 そこが問題だというのだ。
「だから碌でもない人間が総督や役人に派遣されていたたい」
「そうした奴は私腹を肥やすだけだ」
 ベトナムが指摘する、彼等は産業を発展させはしないというのだ。
「だからだ、植民地統治は実はだ」
「思ったより国力の発展にはならないのね」
「むしろ負担が多いと思うが」
「言われてみればね」
「実際になんですよ」
 今はインドカレーの首相になっているクリオネの言葉である。
「私も今の方が経営が上手くいっていまして」
「一度破産寸前になりましたが」
 サフランはぼそりと容赦のない言葉を出した。
「何とか持ち直し今ではです」
「そうなのよ、軍隊も持つ必要がないし」
 普通の企業として経営出来ているからだというのだ。
「今の祖国さんと一緒に順調に国内の産業も育成しているわ」
「尚東インド会社は国内の新興企業との競合で苦労もしています」
 ここでまた言うサフランだった。
「中々大変です」
「だからあんたはどうしてそこでそう言うのよ」 
 クリオネはサフランの毒舌に眉を顰めさせて言い返した。
「これでも収益は植民地時代よりいいのよ」
「翳りを言われていませんか?」
「安心しなさい、カレーのチェーン店の経営も軌道に乗ってるわ」
「エイリス料理は止めて正解でしたね」
「ええ、カレーに切り替えてね」
 それで成功したというのだ。
「とにかく、今はね」
「他の分野もですね」
「上手にいけているから」
 安心しろというのだ。
「植民地の頃は軍が物凄い負担になっていたのよね」
「警備員の数も多かったですから」
「そうしたものがなくなり」
「そしてですね」
「ええ、変な負担がなくなってね」
 それでよかったというのだ、そして。
 クリオネはマリーにだ、あらためてこうも言った。
「それで王女はどう思われますか?」
「植民地のことね」
「あった方がいいと思いますか」
「ううん、僕もエイリス貴族の横暴は見てきたし」
 植民地でだ、それでマリーも今は眉を顰めさせて語った。
「植民地の産業もね」
「独立した方が発展しますね」
「軍隊を駐留させなくて済むし」
 そしてその軍の増強と維持の予算もいらなくなるというのだ。
「そのうえでの交易となると」
「その方がいいたいな」
「そうみたいね」
 マリーはインドに応えて述べた。
「どうやら」
「そうたい、太平洋ではそうしているたい」
 今彼等がいる太平洋経済圏では、というのだ。
「幸せたいよ」
「そうなのね」
「私も叛乱を起こす必要がないから」
 マレーシアもここで言う。
「ラスシャサも今は軍人として頑張ってるわよ」
「経済圏の方がいいのなら」 
 誰にとってもだ、それならと言うマリーだった。
「僕もっと見極めたいけれど」
「じゃあどうするばい?」
 ニュージーランドはマリーに対して問うた。
「これからは」
「ううん、何もしないってのも僕の性じゃないから」
 だからだとだ、マリーは明るい顔になって述べた。
「枢軸軍に入った方が見られるから」
「じゃあこれからは」
「うん、枢軸軍に参加しようかな」
 微笑みになってだ、マリーはインドネシアに答えた。
「これからは」
「じゃあ決まりだね、マリーさんも枢軸軍だね」
 微笑んでだ、トンガが言った。
「あらためて宜しくね」
「姉様にも言ってみようかな、植民地を持つよりも交易に専念した方がいいって」
 こうも考えるマリーだった。
「その方がエイリスの為になるかもって」
「それもいいですね」
 ネルソンがマリーのその言葉に微笑んで頷いた。
「私が見たところ植民地よりも」
「独立した各国との交易の方がいいのね」
「実は我が国の国力ですが」
 ネルソンはマリーにこのことも話した。
「エイリス、オフランス、ドクツの三国で」
「差がかなり縮められていたよね」
「はい、あれだけの植民地を持ちながらも」
 先の大戦の前でだ、そうなっていたのだ。
「そして大戦の後は」
「ガメリカに押されてね」
「あの国は国内に多くの資源と人口がありますが」
 そのせいで発展している、だがそれでもだった。
「あの国やソビエトにも押されてきていました」
「植民地を持っていない国にね」
「そして今も
「太平洋諸国にね」
 敗れ続け今に至る、植民地のない彼等にだ。 
 そこまで聞いてマリーは感じた、時代の推移を。
 そしてだ、こうも言うのだった。
「じゃあそういうことをもっと見たいから」
「では」
「ネルソン、また宜しくね」
「喜んで」 
 ネルソンはその知的で洗練された仕草で一礼して応えた、そしてであった。
 マリーも枢軸軍に参加した、その際だった。
 日本軍の艦艇を見てだ、こうネルソンに語った。
「ねえ、僕思うんだけれど」
「艦艇のことですね」
「今のマリーポッポって攻撃力は殆どないからね」
 だからだというのだ。
「日本軍の戦艦とかの方がいいかな」
「そうですね、マリー様の場合は」
 ネルソンはマリーの指揮官としての適性を考慮してこう答えた。
「大型空母の方がいいでしょう」
「機動部隊ね」
「はい、そちらはどうでしょうか」
「そうね、それじゃあね」
 こうしてだった、マリーは機動部隊を己の艦隊とすることになった、そのうえせ戦線に向かうのだった。
 マリーが枢軸軍に加わった頃枢軸軍の太平洋及び中南米とインド洋の国家と提督達はスエズに向かっていた、その中で。
 南雲は小澤が今乗る巨艦を見てだ、こう柴神に言った。
「本当にでかいね」
「この氷山空母ですね」
「ああ、最初見た時から思ってたけれどね」
「大きいだけではありません」
 小澤は南雲にこうも返した。
「艦載機の数もです」
「そっちも相当だね」
「これだけの数の艦載機があり」
 そしてだというのだ。
「防塵設備も整っていますので」
「スエズでも戦えるね」
「その通りです」
「そうだね、ただね」
 ここでコーギーが言って来た。
「北アフリカはスノーさん抜きになるよ」
「だからソビエト組自体が参加していないんだね」
 南雲も言う。
「あまりにも暑いと溶けるから」
「北アフリカだけは駄目にゃ?」
「他の星域はいけるみたいだよ」
 そこは大丈夫だというのだ。
「北アフリカだけは駄目だってね」
「溶けるんだにゃ」
「溶けても冷やせば戻ってもね」
 そうだとだ、南雲はアストロ猫に答える。
「北アフリカ戦だけは参加出来ないんだよ」
「わかったよ、それじゃあ」
「だからスエズ方面はソビエト軍自体が抜きでってことでね」
 手長猿とパンダも頷く、彼等もそれで納得した。
 そうした話をしつつだった、彼等は順調に進もうとするが今度はクリスが氷山空母について尋ねた。
「その空母は冬は溶けないのね」
「はい、かなり強力な氷らしく」
 それでだとだ、小澤が答える。
「溶けません」
「それはいいことね」
「マダガスカルでも溶けませんでした」
 まさに熱帯のそこでだというのだ。
「ですから北アフリカも」
「大丈夫なのね」
「はい、安心してエイリス軍と戦えます」
「じゃあいいわね」
 そこはいけるとだ、クリスが語る。
「北アフリカの向こうのイタリン戦も」
「そこからはですね」
「戦えるわ。実は私ずっとイタリンに行きたかったから」
「観光地としてですね」
「ええ、そうよ」
 まさにその通りだというのだ。
「スパゲティも楽しみよ」
「イタちゃんのパスタは美味いからね」
 キャシーも楽しげに笑って言う。
「本場の素材で作るともっと美味いんだろうな」
「そういうことも楽しみ的な」
 香港もいる。
「俺美味しいものは他の国の料理もいける的な」
「そうそう、私達美味しいものは何でもいけるわ」
 台湾もそうだというのだ。
「イタリン料理もね」
「しかしイタリンって凄い人気やな」
 キューバはその彼等を見てこう言った。
「俺も嫌いやないけどもてもてやないか」
「余も行ってみたいホーーー」
 ハニーもだった、それは。
「イタリンの可愛い娘ちゃん達と遊んでみたいホーーー」
「ハニーさんもかいな」
「だから行くホーーー」
 ハニーは煩悩全開で語る。
「勿論パスタも食べるんだホーーー」
「あの、どうやっていつも召し上がられてるんですか?」
 このことが気になってだ、のぞみはハニーに尋ねた。
「前から気になってましたけれど」
「口の中から入れて食べているホーーー」
 ちゃんとその手で箸やフォークを使ってだ、尚指はない。
「それはのぞみも見ている筈だホーーー」
「なら消化は」
 そこも気になることだった。
「どうされてるんですか?」
「ちゃんとしているホーーー」
「ハニワ族にも消化器官があるんですね」
「その辺りは秘密だホーーー」
「いや、秘密にすることじゃないんですけれど」
「細かいことは気にするなホーーー」
 こう言ってだった、ハニーはイタリン行きも楽しみにしていた。しかしその夢のイタリンに行くにはその前にだった。
 障害があった、それこそがだった。
 秋山は大和の艦橋でこう東郷に述べた。
「では今からです」
「ああ、スエズに入るな」
「そしてですね」
「スエズの防衛ラインを攻略する」
 要塞、そして艦隊も全てだというのだ。
「そうするからな」
「まずは敵要塞を攻略しましょう」
 秋山はこう彼に言った。
「艦載機を使い」
「いや、艦載機は敵艦隊に回そう」
 だが東郷は秋山のその立案に反論で返したのだった。
「そちらにな」
「艦隊にですか」
「ああ、敵の要塞はな」
「作戦とは違う、ですか」
「どうもこちらの作戦を読んでいたな」
 東郷はモニターに映るエイリス軍を観つつ秋山に話す。
「要塞近辺に防空設備が多い」
「確かに」
 秋山もモニターを観た、すると確かにだった。
 エイリス軍の要塞化されている巨大な岩の隕石には対空砲座やミサイルランチャーが多く配備されている、秋山もそれを観て言った。
「あそこに下手に仕掛ければ」
「損害が半端じゃないな」
「確かに、これは」
「我が軍には砂塵は効果がなくなった」
 防塵設備によってだ、それは克服しているのだ。
「しかも艦載機を使って戦ってきたからな」
「そのことも調べられてですか」
「対策を講じられたな、流石はモンゴメリー提督とあちらの妹さんだ」
 モンゴメリーだけでなくイギリス妹についても言及する。
「考えている」
「ですね、砂塵を無効化させて艦載機を出しても」
「やり方はある、要塞には艦載機は向けない」
「だからビームですね」
「そうだ、しかもだ」
 それに加えてだった、東郷は今度はエイリス艦隊を観た、彼等はどうかというと。
「艦隊は艦隊でバリア艦が多い」
「ビームを放っても完全にはダメージを与えられないですね」
 観ればそのバリア艦の数はかなりだ、枢軸軍の火力を以てしても満足にダメージを与えられるとは思えなかった。
 それでだ、東郷はこう言ったのである。
「いいな」
「はい、わかりました」
「今は攻めるにしてもだ」
 そうしてもだというのだ。
「相手を替えよう」
「では」
「全軍まずは敵艦隊を叩く」
 艦載機で、だというのだ。
「それから要塞だ、いいな」
「よし、じゃあ行こうか」
 台湾兄が東郷の言葉に応える。
「まずは艦載機でね」
「敵艦隊を攻める」
 東郷も再びこう言ってそしてでだった。
 枢軸軍はまずは艦載機を放ったがそれはエイリス艦隊に向けたものだった、それは戦艦オークにいるモンゴメリーも観ていた。
 枢軸軍の艦載機が艦隊に向かっているのを観てだ、彼はイギリス妹にこう言った。
「これも想定通りですね」
「そうですね、要塞を観てすぐに攻撃対象を替えてきましたね」
「流石と言うべきでしょう」
 モンゴメリーはイギリス妹に冷静に述べた。
「これは容易な相手ではありません」
「それもまた想定通りですね」
「はい、ですが」
 しかしだとだ、ここでこう言ったモンゴメリーだった。
「彼等とて無敵ではありません」
「だからですね」
「この場合も対策を用意してあります」
「それでは」
「艦隊は要塞近辺に集結せよ」 
 そうしろとだ、モンゴメリーは艦隊に指示を出した。
「要塞の防空システムの中に入るのだ」
「そして要塞をですね」
「はい、艦隊のバリアで守ります」
 要塞をビームから守るというのだ。
「そうしましょう」
「それでは」
 イギリス妹が応えそしてだった。
 エイリス軍は要塞と艦隊で協同して守る、そこに枢軸軍の艦載機が襲い掛かるが。
 要塞の防空システムで艦艇は守られる、防空システムの弾幕が凄く下手に飛び込んだ艦載機は忽ち蜂の巣にされた。
 それを観てだ、艦載機全体の指揮を執る柴神は機体のコクピットからパイロット達に命じた。
「ここは攻撃は中断だ」
「では今は」
「一時はですか」
「そうだ、距離を置く」
 何時でも攻撃出来てもいい様にしてもだというのだ。
「そのうえでだ」
「戦局次第で、ですね」
「どうするかですね」
「見極める、わかったな」
「はい、わかりました」
「それでは」
「長官には私から連絡しておく」
 東郷には、というのだ。
「だから今は母艦に戻るなりしてな」
「損害を出さないことですね」
「そうしよう」
 こう話してそしてでだった。 
 艦載機は今は母艦に戻った、そのうえで仕掛ける時を待つのだった。
 ビームも放つ、だがそれも。
 バリア艦に防がれ満足にダメージを与えられない、エイリス軍の反撃にかえってダメージを受ける程だった。
 それを観てだ、ダグラスは煙草を噛みながら悪態をついた。
「くそっ、アジな真似をしやがるな」
「うん、全くだね」
 アメリカもダグラスのその言葉に応える。
「これじゃあ中々攻められないよ」
「こういうのは性じゃないね」
 攻撃的なキャシーはエイリスの思わぬ防御に歯噛みして言った。
「一気に突撃して終わらせたいけれどね」
「同感ね、けれどそれをしてもね」
 キャロルも基本キャシーと同じ考えだった、だがそれでもだった。
 エイリス軍の守りの高さを観てだ、こう言うのだった。
「ダメージを受けるだけよ」
「あたし達もかなり暴れたからね」
 アメリカ妹はこれまでの戦いを思い出して言う。
「そりゃ警戒もされるね」
「だからああした防衛ラインできたのね」
 ハンナも今は打つ手を考えられず困った顔である。
「エイリスも馬鹿ではないからね」
「けれどスエズは要衝だから」 
 どうにかしないとならない、クーはこの現実を指摘した。
「絶対に陥落させたいけれど」
「あの要塞と艦隊は攻められないわ」
 ドロシーはこう結論付けた。
「ミサイルもレーダー妨害設備が充実しているわね」
「ああ、あの要塞それもあるね」
 キャヌホークがすぐにそれを観て言った。
「ミサイルも効果がないね」
「鉄鋼弾しかないか?」
 ドワイトはこれを出そうとした、だがそれもだった。
「駄目だな、チャフを撒布してやがる」
「まさに万全ね、ただ」
 それでもだと、クリスは言い切ってみせた。膠着しようとしている戦局を考えてあえてこう言ったのである。
「完璧な防衛ラインもないわよ」
「それはそうだがな」
 ダグラスは案の定妨害されるこちらのミサイル攻撃を観ながら応える。
「これは生半可じゃねえな」
「どうしたものでしょうか」
 リンファはその防衛ラインを観ながら溜息混じりに呟いた。
「ここは」
「エイリス軍には手出し出来ないわね」
 ランファも打つ手がないといった感じだった。
「ここまで堅固だとね」
「というかね、ここ陥落させないとどうしようもないわよ」
 ハニートラップは薮睨み目になって忌々しげに述べた。
「そうでしょ?」
「その通りある、スエズを突破しないとはじまらないある」
 中国はスエズがエイリスの植民地統治の要衝であることからこのことを指摘した。
「南アフリカ方面から北アフリカに入ってもスエズという基地がある限りそこから艦隊を送られてそこから進めないある」
「面倒な場所あるな」
 中国妹も打つ手がないといった感じである。
「これは参ったあるよ」
「敵の防衛ラインはこちらに全部向けていますね」
 マカオはその防衛ラインをあらためて観た。
「後ろには特に向けられていません」
「じゃあ後ろに回れれば的な?」
 香港は何気なく述べた。
「勝てる的な?」
「後ろ、ですか」
「そこ的な」
 マカオ妹と香港妹はドワイトの予想通り妨害されまともに進むことすらままらない鉄鋼弾を観ながら話をした。
「ではどうするべきか」
「後ろに回るにはどうするか的な」
 二人から枢軸軍全体を考えた、そしてここで。
 秋山と日本も戦局全体に視点を移した、彼等の常として戦局が息詰まると一つのポイントではなく戦局全体を見直して考えなおすからだ。
 今枢軸軍はスエズの入口、宇宙潮流とアステロイドの間に布陣するエイリス軍と対峙している。まさに門で防がれている。 
 そうした状況だ、そこまで観てだ。
 日本はふとだ、秋山にこう言ったのだった。
「参謀、宜しいでしょうか」
「祖国殿もお気付きになられましたか」
「はい、アステロイド帯ですが」
 日本が今観ているのはそこだった。
「防衛ラインの南、そこにです」
「一際薄い場所がありますね」
「あそこを突破出来るでしょうか」
 こう言ったのである。
「ここは」
「そうですね、ここはです」
「あのポイントに集中攻撃を浴びせましょう」
 艦載機やビーム等でだというのだ。
「そして穴を開けて」
「そこから入りですね」
「敵要塞の後方に回りましょう」
 ガラ空きになっているそこにだというのだ。
「そしてそこに回れば」
「エイリス軍は防げません」
「彼等はそれを観て北アフリカまで撤退します」
「では」
「長官、どうでしょうか」
 日本は秋山と話してからあらためて東郷に問うた。
「ここはそれで」
「そうだな、このまま攻めてもあの要塞は攻略出来ない」
 東郷も日本に応えて述べる。
「それならな」
「はい、まずはアステロイド帯に穴を開け」
「そこから入りだ」
 そしてだというのだ、東郷もまた。
「敵の後方に回る」
「わかりました」
「全軍アステロイド帯に攻撃を仕掛ける」
 敵防衛ラインの南にあるそこにだというのだ。
「そしてそこから敵の後方に回る」
「了解です」
「それでは」
 将兵達も東郷の言葉に応える、そしてだった。
 彼等は一気に動いた、そのポイントを一気に攻めて穴を開けてだった。
 穴を一気に通り抜けた、それは鮫の群れが狭い海中の洞窟を通過する様なものだった、そしてそこを通り抜け。
 エイリス軍の防衛ラインの後方に回ろうとする、イギリス妹はその彼等の動きを観てすぐにモンゴメリーに言った。
「提督、ここは」
「はい、このままではですね」
「我が軍の後方は手薄です」
 守りは全て前方に向けていた、後方に回られる危惧は地の利を活かして防いでいたのだ。だがその地の利が破られてはだった。
「このまま攻められれば」
「敗れます」
「ですから」
 モンゴメリーに冷静だが確かな声で延べる。
「ここは北アフリカに撤退しましょう」
「スエズを放棄することは無念ですが」 
 だがそれでもだった、こうなってしまっては。
「撤退しなければ敵軍に殲滅されます」
「まだ北アフリカがあります」
 イギリス妹はそこを最後の守りとして話した。
「ですから」
「はい、それでは」
「全軍撤退です」
 こう言ってだ、そして。
 エイリス軍は素早く決断を下して撤退に入った、要塞にいる将兵達を慌ただしく収容しての急な撤退になった。
「急げ!」
「遅れた奴は置いていくぞ!」
 これは脅しではなかった、今のエイリス軍はそこまで余裕がなかった。
 それで彼等は慌ただしく艦艇に乗り込んでいく。艦は満杯になったものから次々に要塞を後にし北アフリカに向かう。
 要塞には物資も豊富にあった、だがその全てを。
「止むを得ない、放棄だ!」
「地図も宙図も置いていけ!」
「弾薬も食料も収容する時間がない!」
「人だけ乗せろ!」
「片っ端から乗っていけ!」
 とにかく今は時間がなかった、それで。
 彼等は実際に乗り遅れた者は置いていってスエズを脱出していった、曲がりなりにもその撤退は迅速でエイリス軍は何とか戦線を離脱した。
 要塞には現地軍を中心としてまだかなりの軍が残っていた、だが。
 エジプトはその彼等にこう告げた。
「降伏」
「降伏ですか」
「そうされますか」
「・・・・・・・・・」
 エジプトは彼等の問いに無言で頷いてみせた。
 そしてだ、無言で枢軸軍をモニターに映して降伏を打診したのだった。
 枢軸軍もその降伏を受けた、そうしてだった。 
 エイリスの植民地統治の要衝スエズもまた陥落した、枢軸軍はスエズを占領するとそこを拠点としてさらに侵攻を続けることにした。東郷はエジプトと合ってからこう日本に言った。
「いや、本当に今回は祖国さんのお陰だな」
「いえ、私は何も」
「あそこで祖国さんがアステロイド帯を攻撃することを見つけなかったらな」
 それがなかったら、というのだ。
「この戦いは勝てなかった」
「スエズを攻略出来なかったというのですか」
「そうだ」
 その通りだというのだ。
「本当に祖国さんのお陰だ」
「恐縮です」
「これは功績だな、とはいってもな」
 日本は国家だ、人間の提督ではないので。
「昇進や昇給はないからな」
「はい、それは」
「じゃあ何かご馳走するか」
 東郷はこれを日本への礼とすることにした。
「河豚でも食べるか」
「あっ、河豚ですか」
 河豚と聞いてだ、日本は顔を明るくさせてこう言った。
「それはいいですね」
「そうだな、あれは最高の魚の一つだ」
「ではてっさですね」
 河豚の刺身だ、魚よりは貝を食べている食感である。
「それですね」
「刺身だけじゃない」
 東郷は顔を明るくさせた日本にさらに言う。
「鍋もだ」
「それもですか」
「唐揚げもどうだ、そして白子もだ」
「河豚尽くしですか」
「そうだろうか、それで」
「素晴らしいですね、それは」
 日本は目を輝かせてさえいる。
「それではお言葉に甘えまして」
「河豚尽くしといこう」
「日本で、ですね」
「俺も楽しみだ、河豚はいい」
 とにかく美味いというのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
 日本は東郷と共に河豚を楽しむことになった。スエズを手に入れた枢軸軍はまた勝利に近付くことになった。
 逆に言えばこれは連合軍にとっては深刻な事態である、しかしヒムラーはそうなっても特に悲観はしていなかった。
 むしろ上機嫌でだ、ベルリンの総統官邸の個室で表の部下達にこんなことを話していた。
「いや、今日の卵料理はよかったね」
「総統は卵がお好きですね」
「それを使った料理が」
「うん、好きだよ」
 実際にそうだというのだ。
「あれはいいものだよ」
「では昼のオムレツもですか」
「よかったですか」
「シェフを褒めておこう」
「それでなのですが」
 側近、親衛隊の幹部の一人がここで彼にこう言ってきた。今度の話はというと。
「スエズが陥落しました」
「ああ、そうだね」
 素っ気なくだ、ヒムラーは彼の言葉に応えた。
「そうなったね」
「その通りです」
「さて、エイリスはこれでさらにまずくなったね」
 彼等にとって、だというのだ。
「北アフリカもこれで陥ちれば」
「さらにです」
「我々もです」
「いや、こっちはそうでもないよ」
 ドクツはだ、特にだというのだ。
「防衛ラインがあるからね」
「イタリンに設けているグスタフラインですね」
「あれですね」
「あれはほんの膜だよ」 
 その程度に過ぎないものだというのだ。
「アルプス要塞にね」
「あの新兵器とですね」
「そして」
「そう、ドクツは誰にも敗ることは出来ないよ」
 それは決してだというのだ。
「一つや二つではないからね、守りが」
「そして枢軸軍を引きつけてですか」
「そのうえで」
「彼等を一気に殲滅する」
 まさにだ、そうしてだというのだ。
「枢軸諸国を降してね」
「その返す刀で、ですね」
「衰え切ったエイリスも叩き」
「それで終わりだよ」
 今も実に軽い調子でだ、ヒムラーは言い切った。
「簡単だよ」
「では枢軸軍が来ても」
「臆することはありませんか」
「東方から来ることはないからね」
 ソビエト方面からのワープ航路は全て破壊した、一年や二年では修復出来ない。そして東方から敵が来ない間にだというのだ。
「枢軸軍はイタリン方面からしか来ないから」
「イタリン方面にさえ守りを固めていれば」
「我が軍は勝てますね」
「何の問題もなくて」
 そうなるというのだ。
「まあイタリンは負けるね」
「そうですね、あの国は」
「愛嬌はあるのですが」
「戦争は弱いですから」
「どう考えましても」
「彼等については俺も何かをするつもりはないよ」
 ヒムラーもイタリンについては悪意はなかった、馬鹿にはしていてもそれでもだった。
「悪い連中じゃないからね」
「どうにも憎めないので」
「このままですね」
「枢軸諸国は全てドクツの属国とするよ」
 日本も他の国々も全てだというのだ。
「エイリスもね、けれどね」
「イタリンはですね」
「特に、ですね」
「放置だよ、とにかくね」
「枢軸軍が来てからですね」
「全ては」
「待つよ」
 今はそうするというのだ。
「恋人ではないけれどね」
「ははは、確かに」
「それは」
「まあ祖国君達もね」
 ドイツ達のことだ、ここで言うのは。
「体調がよくなればね」
「その時にですね」
「お会いして」
「うん、そうしよう」
 口ではこう言っても全く気にしていない感じだ。
「時間があればね」
「それでは今はですか」
「妹さん達と」
「そうするよ、あの娘達も元気になってるしね」
 エイリスやソビエトとの戦争の傷も癒えているというのだ。
「後は同盟諸国だけれど」
「ルーマニア、ブルガリア、ギリシア、ハンガリーと」
「そしてベネルクス三国ですね」
「あの国々ですね」
「彼等もですね」
「うん、協力してもらうよ」
 とは言ってもだ、ヒムラーは彼等に頼むつもりはなかった。
 顔は笑っているが目は笑っていない、そのよく見れば剣呑な油断の出来ない顔で側近達に語っていくのだった。
「是非ね」
「わかりました、それでは」
「彼等にも声をかけて」
 こう話してそしてだった。
 ドクツ軍は同盟諸国も含めて招集をかけた、そしてだった。
 枢軸諸国との戦いの用意をはじめていた。ヒムラーは彼等の勝利を確信しつつ悠然とその命令を出していくのだった。


TURN120   完


                               2013・7・5



ネルソンとマリーも枢軸に来て色々と考える所があったみたいだな。
美姫 「今までの貴族の横暴は分かっていたしね」
これで戦いが終わった後を良くなれば良いけれどな。
美姫 「で、戦線の方はスエズをどうにか攻略できたわね」
だな。今回は中々に手強かったが。
美姫 「これで南アフリカまで進軍した形ね」
ああ。しかし、不気味なのが未だに自信満々のヒムラーだな。
美姫 「一体、何を考えているのかしらね」
そんな気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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