『ヘタリア大帝国』




                TURN122  砂嵐の中で

 話は少し前に戻る、スエズに入城しエジプトも加えた枢軸軍はそこから北アフリカに駒を進めようとしていた。
 艦隊の修理も済んだ、秋山はそのことを確認してから東郷に言った。
「準備は整いました」
「そうか、それではな」
「はい、今からですね」
「全軍北アフリカに向かう」
 そうするとだ、東郷も言う。
「いいな」
「それでは」
「スエズを手に入れたことは大きかったな」
 北アフリカへの進軍を告げてからだ、東郷はこのことについて言及した。
「やはりな」
「はい、ここからソープ帝国やソビエトにも行けますし」
 ワープ航路がそちらにもつながっているのだ。
「無論アフリカ方面にも向かうことが出来ます」
「インドカレーにもな」
「まさに要地です」
 戦略上のだというのだ。
「アフリカ、アジア、そして欧州にも」
「何処にでも迎える」
「エイリス軍が必死に守ろうとしただけはあります」
「ここを陥落させたこと本当に大きい」
「ソビエト方面からの補給物資も届いています」
 何処にも向かえるということは何処からも物資が届くということだ、枢軸軍はスエズの恩恵を受けているのだ。 
 しかもだ、スエズにはまだあった、そのあるものとは。
「大修理工場まであるとはな」
「あのエイリスといえど滅多にないものです」
「戦略上の要地だけあって置いたな」
「はい、そうです」
「ここからだな」
「北アフリカにもイタリンにも迎えます」
 大修理工場ならばそれこそ撃沈寸前にまでなった艦艇でも一ヶ月で修理出来る、そこまでの修理能力があるのだ。
 だからだ、ここを拠点としてというのだ。
「そしてアンドロメダにも」
「あそこも手に入れておかないとな」
 東郷もこの星域のことは既に頭に入れている、そのうえでの言葉だ。
「是非な」
「そうですね、エイリスの植民地は全て解放し独立してもらいましょう」
「これまで通りな」
「カメルーンさんの領地になるかと」 
 独立したその場合は、というのだ。
「アフリカ西部ですので」
「そうだろうな、ではな」
「はい、そのことも踏まえて」
 アンドロメダにも攻め入ることも話された、そうしてだった。
 枢軸軍の主力は北アフリカにも向かった、その北アフリカはというと。
 砂塵が舞っている、防塵システムは整っているが。
 北アフリカのそれは別格だった、田中はその壮絶なまでの砂嵐を見てそのうえで苦々しげにこう言った。
「おい、防塵設備いけるよな」
「はい、何とか」
「いけています」
 そうだとだ、潜水艦にいる部下達が答える。
「視界はどうもですが」
「レーダーも効いています」
「だといいんだがな」
 田中はそれを聞いてまずは安心した、だが。
 砂塵の中にあるエイリス軍を見てだ、こう言うのだった。
「あいつ等か」
「はい、指揮官はモンゴメリー提督です」
「スエズと同じく」
「あのおっさんか、今回も辛い戦いになるな」
 こうは言ってもだ、田中の顔は楽しそうである。
「そうなるな」
「でしょうね、今回も」
「かなり」
「そうじゃないとな」
 喧嘩上等の田中としては面白くなかった、それでだった。
 潜水艦の中からだ、こう言うのだった。
「よし、じゃあいいな」
「全軍突撃ですね」
「敵に」
「いや、時を見てだよ」
 それからだというのだ、
「突撃はな」
「では長官からのご命令からですね」
「動くのですね」
「そうだよ、迂闊に動くなよ」
 そこは絶対にだというのだ。
「わかったな」
「田中さんも変わられましたね」
 モニターに〆羅が出て来た、そのうえで田中にこう言ってきたのだ。
「戦争がはじまった頃はとかく猪突だったというのに」
「そうそう、司令の言うことにいちいち逆らって」
「取って代わるだったのにね」
 コーギーとアストロ猫もモニターに出て来た。
「それが今じゃこうだから」
「本当に変わったね」
「勝つ為にはな」
 田中は〆羅達にこう返した。
「だからだよ」
「そうそう、そこが変わったよ」
 今度はアストロパンダが言ってきた。
「前はチームプレイとか発想の時点でなかったからね」
「はい、そこが本当に変わられて」
 また〆羅が言う。
「成長されましたね」
「伊達に連合艦隊副司令官じゃないね」  
 手長猿も感心している。
「いや、見事だよ」
「褒めたって魚の差し入れ位しか出ねえぞ」
 田中の実家からのだ。
「ったくよ、前の俺はそんなに酷かったのかよ」
「酷くはなかったです」
 そう言われるとだ、〆羅もそれは否定する。
「ですが」
「それでもかよ」
「はい、とかく独断専行が目立ってましたので」
 そこが問題だったというのだ。
「そこで成長されたことが」
「よかったってんだな」
「本当にいい司令官になられました」
 ここでは微笑んで言う〆羅だった。
「ではまずはですね」
「そうだよ、指示待ちだよ」
 長官である東郷のだというのだ。
「わかったわ」
「わかりました」 
 田中の下で潜水艦艦隊の司令官になっている〆羅が応えた、そしてだった。
 田中だけでなく全軍が東郷の指示を待った、東郷は前に控えているエイリス軍の陣を見た、彼等は砂嵐の中に布陣している。
 その彼等を見てだ、東郷はこう言った。
「それではだ」
「はい、どうされますか」
「ここは艦載機を出してもな」
「嵐に流されますね」
 その砂嵐にだというのだ、日本妹がモニターから東郷に言ってきた。
「艦載機の質量ですと」
「そうだ、だからここはだ」
「艦載機は出さないですね」
「いや、出す」
 東郷の今の言葉は意外なものだった。
「今回もな」
「出されるのですか?」
「そうだ、驚いたか」
「ですからこの砂嵐では」
「艦載機が風に吹かれてだな」
「嵐に巻き込まれ流されて」
 満足に動けない、その結果。
「衝突したり等して攻撃なぞ出来ません」
「普通にやればな」
「普通に?」
「ああ、普通に出撃させればな」
 そうなってしまうとだ、東郷は言うのだ。
「この嵐だとビームやミサイルも曲げられてな」
「鉄鋼弾もですね」
「満足に攻撃が出来ない」
 こちらからはだ、エイリス軍もそれがわかって砂嵐の中に布陣して守りとしているのだ。
「しかしだ」
「しかしですか」
「敵が砂嵐を使っているということはだ」
 今の様に、というのだ。
「こちらも使えるな」
「この砂嵐を」
「気候に人格はない」
 自然、それにある筈がなかった。
「敵につくつもりも味方につくつもりもない?」
「?長官、それは一体」
「だからだ、味方につけることが出来る」
 これが東郷の今言うことだった。
「それがな」
「では今は砂嵐を」
「そうだ、味方につける」
 そうして攻撃を出すというのだ、艦載機にしても。
「わかったな」
「どうされるのですか、では」
「風は前から後ろに向かって吹いてきている」
 枢軸軍から見てだ。
「そうだな」
「はい、我々にとっては向かい風です」
 つまり敵にとってみては追い風だ、モンゴメリーはこのこともわかっていてそのうえで布陣しているのだ、彼等の攻撃は有利になる。風を後ろから受けている為。
「このまま攻めれば」
「そうだな」
「それでどうして砂嵐を使われるのですか?」
「風は急に変わるものだ」
 東郷は自信に満ちた笑みでこうも言った。
「この北アフリカでもな」
「ではこの向かい風も」
「変わる」
 そうなるというのだ。
「そしてその時にだ」
「攻撃ですか」
「無論敵もそれがわかっている」
 何しろ彼等の植民地だ、わかっていない筈がない。
「そこをだ」
「逆に使い」
「攻める」
「風はどう変わりますか?」
 この向かい風から、というのだ。
「それは一体」
「左から右になる」
 具体的にはだ、そうなるというのだ。
「その動きに合わせるぞ」
「わかりました、それでは」
「全軍まずは散開しろ」
 前から来る敵の攻撃に備えて、というのだ。
「わかったな」
「はい、わかりました」
「それでは今は」
「それからだ」
 その砂嵐を利用しての攻撃は、というのだ。
「わかったな」
「はい、では今は」
「守りに徹します」
 皆東郷の言葉に頷いた、そうしてだった。
 彼等は今は待った、風が変わるのを。それでエイリス軍のビームと鉄鋼弾の攻撃に今は散陣でかわした、そうしてエイリス軍の攻撃が終わると。
 すぐにだ、東郷は全軍にこう命じた。
「全軍取り舵だ」
「了解」
「それでは」
 皆東郷の言葉に従いそこに動いた、左に。
 そして全軍が左に来たところでだ、東郷の言う通り風が変わった。
 今度は枢軸軍から見て追い風になった、その追い風はというと。
 これまでの彼等から見ての向かい風に比べてかなり強かった、まさに突風だった。
 その風を受けながらだ、東郷は命じた。
「ではだ」
「はい、この風に乗ってですね」
「今より」
「全軍攻撃を加える、艦載機を出せ」
「艦載機の帰還は」
「このまま突っ切ってだ」
 そしてだとだ、東郷は再び日本妹に答えた。
「途中で拾う」
「艦載機を帰還させるのではなく」
「そうだ、敵艦隊を突破してだ」
 そのうえで向こう側に展開している艦載機を収容するというのだ。
「そうする」
「帰還させれば向かい風になるからですね」
 艦載機の帰還はユーターンで行う、それでなのだ。
 これまで追い風だったものが向かい風になる、これでは同じだからだ。
 東郷は今はだ、そうするというのだ。
「成程、それでは」
「それでいいな」
「はい」
 日本妹は東郷の言葉に確かな声で応えた。
「ではこれより」
「まずは艦載機で攻撃を行う」
 そしてだというのだ。
「それからビーム、ミサイル、鉄鋼弾でだ」
「三段攻撃、違いますね」
「一斉攻撃だ」
 その三つの攻撃をだとだ、東郷はフィリピンの問いにも答える。
「そうする、いいな」
「わかりました、それでは」
「その一撃で決める」
 一斉攻撃、それでだというのだ。
「いいな」
「はい」
「了解したわ」
 フィリピンだけでなくララーも応える、そうして。
 枢軸軍を突風を背に受けながら彼等の方に旋回した枢軸軍に攻撃を仕掛けた、艦載機達は追い風を受けて一直線に進み。
 通り抜ける形でエイリス軍に攻撃を浴びせる、それから。
 枢軸軍は突撃しながら一斉攻撃を浴びせた、エイリス軍の艦艇は次々に攻撃を受け爆発し炎に包まれていく。銀河を紅蓮の炎が飾る、それでだった。
 かなりのダメージを受けたエイリス軍の陣地を突破する。そのうえで前方にいた艦載機達と合流した。これで一撃目は終えた。
 モンゴメリーはその彼等を見てだ、こう言った。
「ふむ、風を完全に読み切るとは」
「既にこの北アフリカのことを知っていた様ですね」
 イギリス妹がモンゴメリーに言ってきた。
「どうやら」
「はい、そうですね」
「さもなければここまでこの北アフリカの風を読みきれません」
 北アフリカの風の動きはすぐに変わる、だからエイリス軍もこれを使うにはかなり調べているのだ。しかし枢軸軍は完全に読みきっていたのだ、その風を。
 そのことからだ、イギリス妹はこう言うのだ。
「敵にはイタリン軍もいますので」
「彼等から聞いたのでしょうか」
「そうでないかと、それで」
「はい、それでですね」
「次は止まります」
 風が、というのだ。
「風の動きは使えません」
「正面からの戦いになります」
「では今度は」
「妹殿、少し考えがあるのですが」
 ここでモンゴメリーはイギリス妹にこう言ってきたのだった。
「ここはあれを使いましょう」
「あれですか」
「はい、エイリス軍伝統のあの戦術をです」
 使おうかというのだ。
「そうしましょう」
「そうですか、では今は」
「ここで敗れては後はアンドロメダだけです」
 アフリカでの戦いも完全に後がなくなるというのだ。
「ですから」
「では」
「はい、使って宜しいでしょうか」
「確かに、最早あれしかありませんね」
 風を使えなくなった、それではだった。
「この状況では」
「今よりですね」
「全軍に伝えます」
 イギリス妹からエイリス軍の将兵達に伝えられる」
「三列縦隊になります」
「三列縦隊!?それでは」
「あの戦術を使うのですね、これから」
「ネルソンタッチですか」
「あれを」
「そうです、エイリス軍のあの戦術を使います」
 イギリス妹は確かな顔で全軍に告げていく。
「それでいいですね」
「は、はいそれでは」
「今より」
 エイリス軍の将兵達は緊張と共に応えた、そうして。
 彼等はすぐに三列縦隊になった、その時にはもう風は止んでいた。
 その風がなくなった中で枢軸軍に進む、その陣を見たサフランが言う。
「ネルソンタッチですね」
「あの伝説の!?」
「はい、エイリス軍がトラファルガーで使った戦術です」
 まさにそれだとだ、サフランはクリオネに話した。
「ネルソン提督のご先祖様が使われた」
「まさかそれを使ってくるなんて」
「思われませんでしたか」
「ええ、必殺戦術よねエイリスの」
「はい」
 まさにだ、それだというのだ。
「乾坤一擲に」
「それをしてくるってことは」
「エイリス軍は全てを賭けています」
 そのうえで仕掛けてきているというのだ。
「間違いなく」
「突撃してきて後は」
「砲塔を左右に回して総攻撃を仕掛けてきます」
 それがネルソンタッチだというのだ。
「そうしてきます」
「厄介ね、これは」
 クリオネもそのことを聞いて言う。
「勝てるかしら」
「はい、勝てます」
 サフランの問いはここでも確かなものだった。
「無事に」
「いつものクールな自信ね、けれど」
「私は自信のないことは言いません」
 だからだというのだ。
「今も」
「じゃあ今回はどうするのかしら」
「司令、宜しいでしょうか」
 サフランは東郷にモニターから言った。
「ここはです」
「ああ、聞かせてもらおう」
「全軍で正面に弾幕を張ります」
 そうすべきだというのだ。
「それによって敵の攻撃を防ぎます」
「いけるか?それで」
「いえ、無理です」
 そうしてもだ、エイリス軍の突撃は防げないというのだ。
「それだけでは」
「そうか、ではだ」
 東郷はそのことを聞いてこう言った。
「機雷だな」
「それを撒かれるのですか」
「丁度いい具合に風もなくなっている」
 このこともあった。
「だからな」
「機雷を前方に撒布されますか」
「突撃していればこれは避けられない」
 このことは当然のことだ、機雷は敵の進路を阻む目的もある、陸上戦での地雷とその役割は全く同じものなのだ。
 それでだ、ここでもだというのだ。
「いいな」
「はい、わかりました」
「全軍前方に機雷を撒布しろ」
 東郷は全軍に告げた。
「それを第一の手にする」
「じゃあ第二の手は」
 アグニが東郷に問うた。
「それは?」
「全軍上下に散開する」
 敵が機雷原を突破するまでの間にだというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「敵軍を上下からですか」
「攻める」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「敵の突撃を避けるんですね」
「向かってくる敵にわざわざ楯突くこともない」
 この考えからの戦術だった。
「敵の鋭鋒は避けるに限る」
「わかりました、それじゃあ」
 こうしてだった、まずは機雷原を撒布して。
 エイリス軍を迎え撃つ、エイリス軍もその機雷原を見ていた。
 だがその機雷原を見てもだ、モンゴメリーが言う。
「このままです」
「突撃ですね」
「機雷原にビーム掃射を」
 正面にだ、それで薙ぎ払ってだというのだ。
「速度は緩めません」
「わかりました、それでは」
 イギリス妹がモンゴメリーの言葉に応える、そしてだった。
 エイリス軍はそのまま突撃する、機雷原は彼の命令通り薙ぎ払われ穴が開けられる。エイリス軍はその穴が塞がれる前に全速力で突っ切る。
 そのまま三本の矢となって突っ込む、その彼等に対して。
 枢軸軍は既に上下に散開していた、丁度矢の先を逃れた形だ。
 そのうえでだ、東郷は言った。
「ではだ」
「はい、今からですね」
「エイリス軍に対して」
「彼等の前を撃つ」
 突撃してくるその前を斜め上、斜め下からというのだ。
「それで撃つ」
「そのうえで敵にダメージを与えますか」
「突撃を避けて」
「それがいい」
 今は、というのだ。
「じゃあいいな」
「了解です」
 皆東郷のその戦術に頷く、そして実際に。
 彼等はエイリス軍の進路上にビームを集中させる、そのビームでもエイリス軍のバリアに阻まれる。だがそれでも。
 彼等はそれなりのダメージを受けた、しかもビームだけではなかった。
 ミサイル、鉄鋼弾と次々に出す、それで突撃していくエイリス軍を撃つのだった。
 エイリス軍はネルソンタッチをかわされた、そのうえでダメージを受けた。結果としてネルソンタッチは失敗だった。
 これを見てだ、モンゴメリーは艦隊を反転させて再び枢軸軍に向かう姿勢で言った。
「艦隊の動きが速いですね」
「はい、ここでも」
 イギリス妹がモンゴメリーに応える。
「そのせいでネルソンタッチをかわされました」
「こうしたことははじめてです」
 そうだとだ、こう言うイギリス妹だった。
「まさか」
「トラファルガーはこの戦術で勝ちました」
「はい」
「それ以来のエイリス軍の必勝戦術でしたが」
 まさに切り札だったのだ。
「ですが」
「勝利にはですね」
「突撃を成功させる必要があります」
 それによって勝利を収める戦術だ、それなら当然のことだ。
「トラファルガーでのオフランス、伊勢志摩連合軍は練度が低く」
「まともな艦隊移動が出来ませんでした」
「それが為にネルソンタッチは成功しました」
「それからもでしたね」
「はい、ロシア軍やドクツ軍もです」
 トラファルガー以降エイリス軍と本格的に干戈を交えた国々だ。
「練度は我々よりも遥かに低かったです」
「だから勝てたのですが」
 だが、だというのだ。
「今回はですね」
「枢軸軍は精鋭なうえ艦艇も最新鋭です」
「だからあの動きですね」
「機雷を撒布するのも速かったです」
 このことからもわかることだった。
「ですから」
「ネルソンタッチですらも」
「私にとっても予想以上でした」
 そうだったというのだ、モンゴメリーも。
「この戦い、残念ですが」
「ネルソンタッチがかわされた時点で、ですね」
「敗北です」
 それが決定したというのだ。
「ですから最早」
「撤退ですね」
「アンドロメダにまで撤退しましょう」
 エイリスのアフリカにおける最後の植民地、つまり今ではエイリスはおろか世界でも最後の植民地にだというのだ。
「そうしましょう」
「わかりました、それでは」
「後詰は私が引き受けます」
 モンゴメリーはイギリス妹に自ら名乗り出た。
「そうさせて頂きます」
「それで宜しいのですか?」
「妹殿は主力をまとめて撤退されて下さい」
 彼が後詰になっている間にだというのだ。
「そうして下さい」
「しかし今度も」
 枢軸f軍は強い、それでだと言うイギリス妹だった。
「それでもですか」
「ご安心を、私は任を全うします」
 生きるとは言わなかった、モンゴメリーも覚悟を決めていた。
「ですから」
「そうですか、それでは」
「はい、では」
 こ話してそしてだった。
 エイリス軍はモンゴメリーが後詰となり撤退に入る、反転してからアンドロメダの方に方向を変え全速力で向かう。
 それを見てだ、ランスが不敵な笑みで言った。
「よし、それじゃあな」
「撤退する敵を追い、ですね」
「さらにダメージを与えるんだね」
「ああ、その通りだ」
 その笑みでシィルとコアイに答える。
「いいな」
「今から追撃戦に移る」
 東郷からも言ってきた。
「そのうえで少しでも多くダメージを与える」
「よし、それじゃあな」 
 ランスは東郷の指示に笑顔で応えた、そうしてだった。
 元軍が千陣となりエイリス軍を追撃する、その前に。
 モンゴメリーが乗艦オークと共に立ちはだかる、そしてだった。
 モンゴメリーは見事な方陣を組み防がんとしている、その彼等を見てだった。
 モンゴルは怪訝な顔になりこうランスに問うた。
「あの方陣だけれど」
「突破しにくいな」
「うん、そう思うよ」
 下手に攻めれば火傷するというのだ。
「ここはどうするの?」
「とはいってもな」
 追撃はしなければならない、ランスは言葉の外でこう言った。
 だがランスだ、躊躇はしない。彼はモンゴルに答えた。
「突撃だ」
「多少のダメージを受けてもいいんだね」
「ああ、それを度外視してな」
 そうしてだというのだ。
「攻めるからな」
「それで敵の方陣を突破してだね」
「そのうえで追撃するからな」
 これがランスの選択だった、実際に彼は自ら先頭に立って突撃を敢行しようとする、だがここでだった。
 シィルがだ、モニターからランスにこう言ってきた。
「いえ、ここは」
「攻めるなっていうのか?」
「追撃は難しいです」
 モンゴメリーの方陣を見ての判断だった。
「少なくともこのまま攻めても」
「難しいか」
「はい、そうです」
「じゃあ攻めるなっていうのかよ」
「いえ、方陣自体を攻めずに」
 そうしてだというのだ。
「旗艦を攻めましょう」
「ああ、あれか」
 ランスはモニターにその戦艦を映した、それこそがオークだった。
「モンゴメリー提督の乗艦だな」
「あの戦艦を攻めればです」
「敵の指揮官がいなくなるな」
「そうなれば方陣もです」
 指揮官がいなくなってはというのだ。
「ですから」
「そうか、そこから方陣を破ってか」
「追撃が可能です、例えそれに間に合うことがなくとも」
「モンゴメリー提督を倒せればな」
「エイリス軍にとってかなりのダメージです」
 元軍の軍師としてだ、シィルはランスに進言した。
 そしてランスもだ、こうシィルに答えた。
「よし、まずはモンゴメリー提督だ」
「そうして頂けますね」
「エイリス軍も気になるがモンゴメリー提督をここで倒せたらな」
「大きいですね」
「御前の言う通りだよ、じゃあな」
「はい、それでは」
「おい、あの戦艦に火力を集中させるぞ」
 ランスは今度はオークを観ながら言った。
「いいな」
「うん、じゃあね」
 モンゴルが応える。そしてだった。
 元軍はオークに集中攻撃を浴びせた、モンゴメリーはそれを見て艦長に言った。
「済まないがね」
「はい、回避運動ですね」
「それを頼むよ」
「お任せ下さい」
 微笑んでだ、こう答えた艦長だった。そうして。
 オークは上下左右に動いてそしてだった。
 元軍の攻撃をかわす、これにはランスもうなった。
「やっぱり一筋縄じゃいかないな」
「うん、しぶといね」
「往生際が悪いっていうのか?」
「その辺りハーンと一緒だね」
「おい、そこでそう言うのかよ」
「だってハーンも往生際悪いじゃない」
「俺の場合は最後まで諦めないんだよ」
 戦いでも女でもだ。
「それだけなんだよ」
「女の子が好きなところがモンゴメリー提督と違うね」
「あのおっさん中年だけれどイケメンだしな」
 ランスもそのことは認める。
「っていうかンあ、エイリス軍の騎士提督ってイケメン揃いだな」
「うん、かなりね」
「イケメンは特に否定しないがな」
 可愛い娘を独占出来ればいいというのだ、何はともあれだった。
 オークは見事な会費運動を続ける、このままでは特にダメージを与えられる撤退されそうだった。だがここで。
 田中がランスにだ、モニターからこう言って来た。
「おい、苦戦してるな」
「ああ、田中さんか」
「ここは俺に任せてくれねえか?」
「あんたがあのおっさんを倒すのかよ」
「モンゴメリー提督を潰せば大金星だよな」
 田中の目が光る、そのうえでの言葉だった。
「だからいいか?」
「よし、じゃあ頼めるか」
 ランスは笑顔でこう田中に言った。
「あのおっさん倒してくれよ」
「それじゃあな」
 こうしてだった、田中は密かに進みそして。
 潜水艦らしく隠密裏にオークとその艦隊に進む、オークは今も見事な回避運動で元軍の攻撃をかわしている。
 だが、だ。田中は潜望鏡からそのオークを見て言うのだった。
「ああした相手は離れてやっても意味がないんだよ」
「接近してですか」
「そのうえで、ですね」
「ああ、そうだよ」
 それでだというのだ。
「魚雷で一気に仕留めるからな」
「デーニッツ提督の様にですね」
「そうだよ、あの人みたいにな」
 田中にとって潜水艦戦術の師である彼女に倣ってというのだ。
「やるからな」
「わかりました、それでは」
「今から」
「やるからな」
 またこう言う田中だった、そうして実際に。
 彼は友軍の攻撃に当たらない様にしてオークに近寄った。さしものモンゴメリーも艦長も会費運動や後詰全体の指揮に気を取られ彼等に気付いていない。
 それでだ、田中はこれ以上ないまでに彼の乗艦をオークに接近させたのだった。
 田中は今も潜望鏡を覗いている、そのうえで言うことは。
「昇順は合わせたからな」
「では司令がですね」
「ご自身で」
「ああ、撃つからな」 
 その魚雷をというのだ。
「いいな」
「了解です」
「では御願いします」
「ここで仕留めてやるさ」
 絶対にと言ってだ、そうして。 
 田中は潜望鏡の魚雷発射ボタンを押した、その瞬間に潜水艦の前方の複数の魚雷発射管から魚雷が放たれてだった。
 田中は魚雷を見なかった、すぐに部下達に言った。
「野郎共、ずらかるぞ!」
「はい、後方まで」
「一気にですね」
「ちんたらするなよ!」
 こう全軍に告げる。
「わかったな!」
「はい、わかりました!」
「それじゃあ!」
 部下達も応える、そして。
 彼等は一気に戦線を離脱した。すると。 
 その後ろでオークは思わぬ魚雷を受けて動きを止めてしまっていた、沈んではいない。
 だがそれでもだ、動けなくなってだった。
 艦長は項垂れながらだ、こう言ったのだった。
「司令申し訳ありません」
「潜水艦か」
「どうやら」
「枢軸軍には彼等もあったな」
「連合艦隊副司令官の田中大将ですね」
「そう、彼もいる」
 だからだというのだ。
「彼の攻撃だな」
「その結果ですね」
「その通りだ、敵ながら見事だ」
「沈むことはありませんが」
「動けなくなったな」
「エンジンにダメージを受けました」
 その結果だ、動けなくなったというのだ。
「こうなっては」
「動けない艦はただの砲座だ」
 攻撃出来るだけだ、それだけに過ぎないというのだ。
「何の戦力もない。後は動く的だけだ」
「それでは」
「全軍オークに構わず撤退しろ」
 モンゴメリーは後詰の全軍に告げた。
「そしてだ」
「そして。ですね」
「オークの乗員達も総員退艦だ」
 そうしろというのだ。
「艦長、君もだ」
「私もですか」
「そうだ、撤退するのだ」 
 そうしろというのだ。
「私はオークに残ろう」
「では司令は」
「安心してくれ、自害はしない」
 微笑んでだ、モンゴメリーは艦長に答えた。
「そのことはな」
「では」
「枢軸軍に投降しよう」
 彼等にだというのだ。
「それではな」
「わかりました、それでは」
 艦長は微笑みだ、こうモンゴメリーに言った。
「私も枢軸軍の捕虜になりましょう」
「私もです」
「私も」
 艦長に続いて他の乗員達もだ、次々に答えてきた。
 見れば一人も退艦しようとしない、彼等は皆艦長と同じく微笑んでそのうえでモンゴメリーに対して言った。
「司令と共に」
「最後までいさせて下さい」
「そうしていいのかね?枢軸軍は個性的な顔触ればかりだが」
「ええ、本当に」
「色々な人材がいる様ですね」
「それでもいいのだな」
 モンゴメリーは余裕はあるがそれでも問いかける顔で彼等に言った。
「私と共にいても」
「はい、是非共」
「そうさせて下さい」
「ではだ、諸君がそこまで言うのならだ」
 それならとだ、モンゴメリーも頷くしかなかった。
 それでだ、オークはモンゴメリーも乗員達も皆枢軸軍に投降した。だがオークが枢軸軍の注意を引きつけているうちにだった。
 後詰の軍勢は務めを果たしアンドロメダまで撤退していた、モンゴメリーはイギリス妹に約束した通り務めは果した。
 そのうえで捕虜として東郷に会う、そしてそこでだった。
 ネルソン、そしてマリーとも会った。二人も東郷と共にいた。わざわざケニアから日本に連れて来てもらったのだ。
 そのうえで二人の話を聞いてだ、こう言うのだった。
「ネルソン、卿は多くの素晴らしいものを観たな」
「はい」
 その通りだとだ、ネルソンはモンゴメリーに礼儀正しく答えた。
「今の太平洋、インド洋は見違えるまでです」
「我々の植民地だった頃と比べてだな」
「はい、全く違います」
 そうだというのだ。
「一度御覧になられれば」
「ふむ、そうか」
「それから決めてみる?」
 マリーもモンゴメリーに対して言う。
「モンゴメリーのこれからね」
「そうですね、それではです」
 その見事な顎鬚を左手でさすりながらだ、モンゴメリーはマリーの言葉に応えた。
「まずは日本にお邪魔して」
「それからだね」
「色々観たいと思います」
「ラスシャサやフェムもいるからね」
 無論マレーシアやベトナムもだ。
「独立してから随分と違うよ」
「はい、それでは」
「ヲタク文化っていうのもいいし」
 マリーは微笑んでそのことについても話した。
「後は和食もね」
「日本の料理ですね」
「あれも凄く美味しいからね」
「そういえば太平洋の料理はどの国も個性的ですな」
「エイリスのより美味しいかもね」
 マリーは知らなかったというか無視した、祖国の料理の評判を。
「そっちも楽しんでね」
「そうしてですね」
「決めればいいからね」
 モンゴメリーの今後をだというのだ。
「そうしてね」
「それでは」
 こう話してだtった、モンゴメリーはまずは太平洋全域をざっとではあるが見て回ることにした。その案内役も決められた。
 日本がだ、モンゴメリーの前に出て来て敬礼と共に言って来た。
「それではです」
「案内役は貴方ですか」
「はい、宜しく御願いします」
「まさか貴方とは」
 モンゴメリーは日本を見て驚きを隠せなかった、そのうえでの言葉だ。
「いや、これは」
「何か」
「まさか貴方が案内役とは」 
 日本、枢軸諸国の軸である彼がだというのだ。
「思いも寄りませんでした」
「だからですか」
「本当に宜しいのですか?」
 モンゴメリーは日本にあらためて問うた。
「私の案内役を」
「はい、私で宜しければ」
 日本はこうモンゴメリーに返した。
「御願いします」
「こちらこそ、それでは」
「じゃあ今から行こうね」 
 見ればマリーもいた、今のマリーは赤いミニスカートに胸の形がはっきり見える白いブラウスというラフな格好だ、ネルソンは丹精なクリーム色のスーツだ。
 そのマリーを観てだ、モンゴメリーはこう言った。
「あの、マリー様」
「何?」
「その様なお姿は」
 露わになった脚もどんと前に出た胸も見ての言葉だ、脚も長くかなり形がいい。
「王女としては」
「駄目?」
「ですからエイリスの王女としては」
「いいじゃない、お忍びなんだし」
「だからですか」
「うん、ああした軍服だとかえって目立つから」
「ですがその様な露出は」
 モンゴメリーが言うのはこのことだった。
「それが太平洋なのですか」
「周り観ればわかるよ」
 マリーはにこりとしてモンゴメリーに周囲を観る様に言った。
「ほら」
「むっ、そういえば」
 今彼等は日本にいる、そこはだった。
 それぞれのファッションで道行く女の子達がいた、その中にはマリーよりも遥かに露出の凄い娘もいる。その彼女等を観てだった。
 モンゴメリーもだ、こう言うのだった。
「確かに」
「ほら、そうだよね」
「ではマリー様もですか」
「僕元々こうした服装が好きだったんだ」
 ラフなものがだというのだ。
「それでなんだよ」
「しかしネルソン提督は」
「私も私の好みです」
 ネルソンは微笑んで今のスーツ姿でモンゴメリーに答える。
「こうした服装がです」
「卿の好みだな」
「はい、スーツが」
 他にはタキシードも好きだ、こうした端正な正装が彼の好みなのだ。
「あくまで私の好みです」
「そうか」
「私もですが」
 日本も普段の海軍の軍服姿ではない、ラフな私服である。
「普段はこうしたものです」
「左様ですか」
「提督はそのままで宜しいのですか?」
 日本はエイリス軍の騎士提督の軍服姿のままのモンゴメリーに問うた。
「暑くはないですか?」
「いえ、別に」
「それならいいのですが」
「では、ですね」
「はい、案内させて頂きます」
 こうしてだった、モンゴメリーは日本と共に枢軸諸国を回ることになった。エイリスの植民地だった国々も含めて。
 ベトナムに行くとだ、フェムと共に観たその国は。
 横暴な貴族も厳しいエイリス軍人達もいない、かつて植民地統治の下で暗い顔だった現地の者達が笑顔で歩いていた。
 そして勤勉に働き楽しげに遊んでいた、その彼等を観てだった。
 モンゴメリーはまずこう言った。
「いや、これは」
「全く違いますよね」
「はい、これがベトナムですか」
 モンゴメリーは彼の記憶の中にあるベトナムを思い出しながらフェムに答える。
「かつては暗鬱としていたというのに」
「独立してからです」
「ここまでなったのですか」
「はい、そうなんです」
「ただ明るいだけではないですね」
 モンゴメリーはそのことも見ていた。
「経済が急成長していますね。外国人も多いです」
「ビジネスで来ている方にです」
「観光客ですね」
「そうなんです」
 そうした外国人達も多く来ているというのだ。
「皆さんベトナム料理も楽しんで下さってます」
「私としても何よりだ」
 今度はベトナムが出て来てモンゴメリーに話してきた。
「お陰で観光産業も産まれたからな」
「観光産業ですか」
「かつては想像も出来なかったな」
「植民地では」
 モンゴメリーもベトナムに答える。
「観光というよりは」
「ただ横柄に見て回るだけだったな」
「そうでした、ですが今は」
「この通りだ」
 観光客達はベトナムの観光スポットを回り土産を買い料理に舌鼓を打っている、それが植民地の頃と全く違うというのだ。
「私は一変した」
「まさにですね」
「無論問題は多いがな」
 問題のない国家なぞない、ベトナムもこのことは隠さない。
 だがそれでもだ、植民地だった頃よりはというのだ。
「この通りだ」
「左様ですか」
「貴殿も何か食べるか」
「生春巻きなんかどうですか?」
 フェムはベトナム名物のこの料理を出した。
「如何ですか?」
「そうですね。それでは」
 モンゴメリーはフェム達に誘われてその生春巻き等のベトナム料理を食べた。箸の扱いには苦労したがそれでもだ、その味には。
「これは」
「どうだ」
「美味しいですか?」
「はい、かなり」
 生春巻きの生地だけではない、中の生野菜やスライスした肉も。
 そしてナムプラーもだ、そういった全てがだった。
「これがベトナムの味ですか」
「そうだ」
 その通りだとだ、ベトナムは答えた。
「幾らでも食べてくれ」
「他のお料理もありますよ」
「それでは」
 モンゴメリーはベトナム達に勧められるまま暑いがその中に浮かび上がるベトナムの風景にも魅了された、これがはじまりであった。


TURN122   完


                           2013・7・9



モンゴメリーをも破り、捕虜に。
美姫 「残す植民地はアンドロメダのみね」
だな。しかも、エイリスは三提督の内、二人が倒された事に。
美姫 「女王の妹も倒されているしね」
残った貴族連中が果たしてやる気を見せるかどうか。
美姫 「そんな気になる次回は……」
この後すぐ!



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