『ヘタリア大帝国』




                   TURN124  アンドロメダ星域会戦

 エイリス軍はアフリカにあった戦力、いや本国にあるもの以外の全てをアンドロメダに集結させていた。それだけではなく。
 エリザも来ていた、エリザは微笑んでイギリスの前に来て言った。
「よかったら私もね」
「戦ってくれるんだな」
「ええ、実はセーラちゃん本人が出陣したがってたのよ」
 エリザはイギリスにこのことも話した。
「けれど私とロレンスで何とか止めてね
「エルザさんが来たんだな」
「大変だったわ、セーラちゃんどうしても出撃したがってたから」
「女王さんは責任感強いからな」
 しかも真面目だ、セーラはまず自分が前線に立って戦う女王だ。それで今回もそう言って中々聞かなかったというのだ。
「だからか」
「そう、それで私が代わりにここに来たのよ」
 そしてだというのだ。
「指揮官を務めていいかしら」
「ああ、頼むな」
 イギリスもエリザの申し出に笑顔で応える。
「それじゃあな」
「ええ、宜しくね」
「よく来てくれたよ、正直戦力は不安があったんだよ」
「そうみたいね、旧式鑑が多いわね」
 今エリザ達は港にいる、港にあるのは旧式鑑がかなり多い。
「枢軸軍は第八世代の艦隊ばかりなのに」
「だからこれまでな」
「やられっぱなしだったのね」
「そうだよ、残念だけれどな」
「エイリスでもまだ第八世代の艦艇は開発出来ていないわ」
「第六世代がやっとだな」
「本国艦隊は第六世代で統一出来たわ」
 ようやくといった感じだがそれでもだというのだ。
「こっちじゃそうもいっていないわね」
「第四世代が主だよ」
 より古い世代の艦艇も多かった、それがエンドロメダにいるエイリス艦隊の現状だ。
「これじゃあとてもな」
「勝てないわね」
「ちょっとな」
 イギリスは曇った顔でエリザに答えた。
「だからエリザさんが来てくれたことが有り難いよ」
「ええ、私の他にもロレンスにも来て欲しかったけれど」
「けれどだよな」
「セーラちゃんを押さえて欲しいから」
 それで本国に残ってもらったというのだ。
「誰か止めないと本当に自分で出撃するからね」
「そうしないでいられない人だからな」
 イギリスもセーラの言うことがわかっていて言うのだった。
「どうしてもな」
「ええ、だからロレンスには残ってもらって」
「エリザさんとか」
「本国艦隊もある程度連れて来たわ」
 その第六世代の艦艇に乗る彼等もだというのだ。
「第六世代の艦艇もかなりね」
「それは有り難いな、じゃあな」
「乗り換えられる人は乗り換えてね」
 そしてだというのだ。
「艦艇はかなりあるから」
「かなり建造したんだな」
「予算は何とか確保したから」
「議会がよく賛成したな」 
 エイリス議会は最早貴族の利権の温床となっている、彼等がエゴを押し通す場所でしかなくなっているのだ。それで軍事費も色々な口実を設けて自分達の私腹に回しているのだ。
 だが、だ。それをだというのだ。
「セーラちゃんが強権発動したのよ」
「王室のか」
「そう、それを出してね」
 艦隊建造の予算を出させたというのだ。
「そうさせたのよ」
「そうだったんだな」
「そう、だから第六世代の艦艇は用意出来ているわ」
「何よりだな、本当に」
「ええ、だからね」 
「出来れば全員第六世代といきたいがな」
「残念だけれどそこまではいかないわ」
 数はそこまで多くはないというのだ。
「けれどかなりの数があるから」
「そうか、じゃあな」
「勝たないとね、いい加減」
 エリザは微笑んでいるがそれでも目の光は強かった。
「負けっぱなしだから、けれどね」
「けれど?どうしたんだよ」
「いえ、植民地がなくてもエイリスはやっていけるわ」
 ここでこんなことを言ったエリザだった、イギリスに対して。
「というか植民地が貴族達の利権の温床にしかなっていないわね」
「まあそのことはな」
「パルプナちゃんの話は聞いたわ」
 エリザはイギリスにこのことも話した。
「酷いことになっていたらしいわね」
「あの娘だけじゃなかったけれどな」
 イギリスも曇った顔で述べた。
「植民地の何処でもそんな話はあったさ」
「そうね、植民地経済も搾取されるばかりで発展しないし」
「叛乱鎮圧の為の軍隊の駐留も必要だからな」
「出費ばかり多くてジリ貧になるだけなのよ、植民地経営はね」
 それでだというのだ。
「もういらないかも知れないわね」
「じゃあ植民地はか」
「もうその時代じゃなくて」
「エイリス本国だけでやっていくべきだっていうんだな」
「最近そう思いはじめてるけれどどうかしら」
「言いにくいな、どうもな」
 先女王であるエリザにはというのだ、イギリスもそうした話はしにくかった。
「悪いな」
「そうよね、祖国さんとしてはね」
「ああ、そういうことはな」
「そうね、けれどもうエイリスが世界の盟主である時代も終わりかも知れないわ」
 エリザは既に読んでいた、このことも。
「祖国さんはエイリスがもう一度インドカレーとかに戻れると思っているかしら」
「無理だな」
 このことについてはだ、イギリスは条件反射的に答えた。
「絶対にな」
「そうね、インドカレーも完全に太平洋経済圏に入ったわ」
「太平洋の植民地もな」
「最初からガメリカ、中帝国に反対されていたし」 
 彼等は共に連合国だった頃から植民地の独立を真っ先に承認していた、全ては」太平洋経済圏の設立とエイリスの弱体化の為だ。彼等にとってエイリスは同盟相手でありながらそれと共に敵でもあったのである。
「ソビエトにもね」
「共有主義は植民地を否定するからな」
「そう、批判も多く」
「採算も取れないか」
「植民地政策はそうなっているのよ」
 それが今だというのだ。
「かつては違ったかも知れないし私も今まで気付いていなかったけれど」
「そうか、じゃあな」
「ここで負けた方がいいかも知れないわね」
 エイリスのことを本当に考えるのなら、というのだ。
「そうも思うわ」
「そうか、エリザさんまでそう考えるなんてな」
「セーラちゃんも気付いてると思うわ」
 植民地政策の過ちにだ、聡明なセーラならというのだ。
「けれどあの娘がエイリスの政策の過ちを認めることはね」
「出来ないよな」
「すぐにはね」
「そうだろうな、あの人はな」
「貴族達も何とかしないといけないし」
 その利権ばかり追い求める彼等もだというのだ。
「難しいところね、エイリスも」
「ああ、けれどな」
「それでもよね」
「アンドロメダでは勝つからな」 
 意地、それがあるからだ。
 イギリスはエリザを見てだ、そして言った。
「やろうな」
「ええ、勝つわよ」
 エルザも戦うからにはと考えていた、そのうえで。
 将兵達を第六世代の艦艇に乗り換えさせていた、そうして枢軸軍の大軍を迎え撃とうとしていた。彼も決戦に備えていた。
 その枢軸軍は北アフリカ、そしてケニアからアンドロメダに向かおうとしていた。まさに全軍でエイリス最後の植民地に侵攻せんとしていた。
 東郷も大和に乗り込んでいた、その艦橋で秋山に言う。
「じゃあな」
「はい、今からですね」
「全軍でアンドロメダに向かう」
「ケニア方面からも連絡がありました」
 ここで秋山はそちらからの情報も入れた。
「今から出撃するとのことです」
「そうか、それではな」
「アンドロメダに同時に侵攻し」
 そしてだというのだ。
「二方向からですね」
「分進合だ、だがな」
「それでもですね」
「敵も援軍が来たらしいな」
「エリザ=ブリテン前女王が」
「名将だな」
「その進軍の後には何も残らないと言われるまでに」
 それだけ強いというのだ、エルザが指揮する軍は。
「略奪暴行は一切許さず規律厳格にしてです」
「敵には果敢に戦い殲滅する」
 だから後には何も残らないのだ、敵には降伏か死か。その二つしかないというのだ。
「そのエリザさんが来たか」
「ある意味セーラ女王以上の強敵です」
 熟練のものがある、そこがまだ若いセーラとは違うというのだ。
「この戦いはかなり激しいものになりますね」
「伊達にエイリス最後の植民地の攻防だけはあるな」
「そうですね、本当に」
「エイリス本国の艦隊も来ているそうだな」
「はい、かなりの数が」
「エイリスの精鋭部隊もか」
「オフランスからイタリンを経由して大急ぎで来たとか」
 エイリス軍も必死だ、それで来たというのだ。
「送られるだけの艦隊を」
「そうか、それではな」
「戦いますね」
「そして勝つ」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「全軍出港だ」
 東郷は命じた、そしてだった。
 枢軸軍は北アフリカとケニアから出港しそのうえでアンドロメダに入った、アンドロメダでは既に全軍が展開していた。
 堅固な要塞線と第六世代の艦艇で守りを固めている、その中心にはエリザが乗る戦艦クイーン=ビクトリアがあった。
 そのビクトリアからだ、エリザは微笑みさえ浮かべて全軍に告げた。
「じゃあいいわね」
「はい、それでは」
「今より」
「堅苦しいことは言わないわ」
 この辺りがセーラと違う、母娘であっても。
「勝つわよ」
「エリザ様と共に」
「何としても」
「エイリスはここぞという時に負けたことはないわ」
 あえてこうも言ったエリザだった、とはいってもそのここぞという時が何時かは言っていない。
「トラファルガーでもワーテルローでもね」
「ジェットランドでもですね」
「そして先のバトルオブエイリスでも」
「そうよ、だからね」
 今とは言わずにだ、それでだった。
 エリザはエイリス軍を率い枢軸軍と対峙した、その枢軸軍はというと。
 ケニア方面から来た軍からだ、レーティアの乗艦ビスマルクから東郷にモニターから連絡が来た。
「今到着した」
「そうか」
「そちらもだな」
「ああ、今着いた」
 東郷は微笑んで答えた。
「それではな」
「ここはどうして攻める」
「相手はエルザ前女王だ」
「小細工は意味がないな」
「そうだ、そうしたことが通じる相手じゃない」
 東郷はエリザの資質を見抜いていた、それで言うのだった。
「だからだ、まずは軍を一つにしてだ」
「そうか」
「正面から向かう」
 エルザ率いる枢軸軍にだというの。
「小細工はしないで全力で正面から向かう」
「思い切ったことをするな」
「しかし負ける気はしないな」
「そんな筈がないだろう」
 レーティアも強い声で応える、
「我々は勝つ、絶対にだ」
「そういうことだ、では今からな」
 こうして枢軸軍はアンドロメダまでは分進合?で来た、だがそのアンドロメダで集結してそうしてであった。
 エイリス軍に正面から向かう、それを見てだった。
 エリザは不敵な笑みを浮かべた、そのうえで再び全軍に言った。
「敵が正面から来るならね」
「こっちもだよな」
「正面からですね」
「ええ、受けて立つわ」
 そうするとだ、イギリス兄妹に応える。
「そうするわよ」
「それでこそだな」
 エリザだとだ、イギリスは楽しげな笑みを浮かべてエリザに言った。
「よし、それじゃあな」
「数はこちらの方が多いわね」
「そうだな、数はな」
「艦艇の質は劣るわね」
 このことも言うエリザだった。
「さて、どうするか」
「鶴翼でいくわ」
 陣形はそれだというのだ。
「十二段ね」
「そうか、それで敵に対するんだな」
「要塞衛星もあるわ、守りに徹しましょう」
「よし、じゃあな」
 イギリスもエリザの言葉に頷いた、そして。
 イギリス妹も静かにこう言った。
「それでは」
「ええ、じゃあね」
 エリザはイギリス妹にも応えた、エイリス軍はすぐにエリザの指示通り全軍で鶴翼十二段になった。アメリカはその陣を見て言った。
「これは堅固だな」
「ああ、結構ね」
「鶴翼十二段か」
「どうしようかね、ここは」
 アメリカ妹は考える顔で兄に答えた。
「下手に攻めたらやられるね」
「相手がエリザ前女王だからな」
 アメリカも彼のことは知っていた、それで言うのだ。
「迂闊には攻められないぞ」
「ここはどうするかだよ」
「司令はどう思うあるか?」
「鶴翼十二段あるよ」
 中国と妹は東郷に問うた。
「下手に攻められる陣形ではないある」
「けれど攻めない訳にはいかないある」
「そうだな、ここはな」
 東郷もその敵の陣形を見ていた、そしてだった。
 全軍にだ、こう言った。
「こちらは車懸かりだ」
「車懸かり?」
 そう聞いてだ、スペインがこう言った。
「あれかいな、代わるばんこに攻めていく」
「カラコールだな」
 イスパーニャはこう言った、その車懸かりに対して。
「あれのことか」
「カラコールは縦に何列かに並んで一列ごとに攻撃するな」
 攻撃をした列はすぐに陣の最後列に回り次の列が攻撃する、こうして次々に攻めるのがカラコールだ。元々は地上戦で騎馬戦で銃撃で攻める戦術だった。
「それに似ているがだ」
「またちゃうんか」
「別の戦術か」
「台風だ」
 それがカラコールだというのだ。
「それだ」
「台風?ほな中心を置いてか」
「中心を軸として回転して攻撃するのね」
 今度はローラが言う。
「そうするのね」
「そうだ、我が国に伝わる陣形の一つだ」
 それが車懸かりだというのだ。
「それであの陣形に向かう」
「エリザさんの鶴翼十二段にやな」
「あの陣はそう簡単には破れない」
 こう判断してのことだった、東郷にしても。
「正面突破を計っても十二段の重厚な陣に防がれてだ」
「その間にですね」
 日本もここで言う。
鶴翼に包まれて」
「そうなれば終わりだ」
 質では優っているが数で劣る枢軸軍のだというのだ。
「だからだ」
「車懸かりですね」
「あれでいく、いいな」
「わかりました、それでは」
 日本が最初に応えた、そして。
 皆東郷の指示に従うことにした、東郷はまず中央に修理艦を置きそしてだった。
 その中央を目にしてそこから各艦隊を置いた、それはまさに台風だった。当然東郷もその中にいある、そのうえでだった。
 東郷は全軍にだ、こう命じた。
「このまま進む」
「そしてだな」
「敵軍を攻めるあるな」
「そういうことだ」
 アメリカと中国にも答える。
「次々と新手を出し休むことなく攻撃を仕掛ける」
「確かにカラコールに似てるけどちゃうな」
 スペインも陣の中で言う。
「軍が一つの台風になってか」
「攻める、いいな」
「ああ、わかったわ」
 スペインも東郷の言葉に頷いた、そしてだった。
 枢軸軍は前に出た、その動きもかなり速い、その速さでエイリスリス軍に接近し。
 まずは東郷の艦隊が攻撃を浴びせる、陣を時計回りに回転させエイリス軍の右翼に一斉攻撃を浴びせて。
 すぐに左に回る、次はだった。
 小澤の機動部隊だ、艦載機を放ち攻撃を浴びせたうえで。
 その艦載機を移動しながら収容して去る、潜水艦艦隊以外の艦隊がそこにいる。
 枢軸軍はこうして戦う、それはエイリス軍にとっては想定していないものだった。
 それでだ、エイリス軍の提督達は戸惑う顔でこう話すのだった。
「台風か?」
「軍全体を台風として攻めるのか」
「一度攻撃すれば離脱するのか」
「そうして攻めてくるとは」
「これはまた」
「奇妙な戦術を」
「そうね、まさかこう来るなんてね」
 エリザも乗艦の艦橋から敵の攻撃を見て言う。
「思わなかったわ」
「それでここはどうされますか?」
「一体」
「このまま守るのよ、敵の動きは素早いけれど」
 だが、だというのだ。
「こちらは波状攻撃で対するわ」
「順次一撃離脱で来る敵にですか」
「そうするのですね」
「そうよ、それとね」 
 さらに言うエリザだった、今言うことは。
「敵の潜水艦だけれどね」
「いないですね、今は」
「どうやら」
「ええ、だからね」 
 それでだというのだ。
「潜水艦の奇襲にも気をつけて」
「はい、確かに」
「それは考えられますから」
「来るとしたらね」
 エリザは戦場全体を見た、そして言うことは。
「要塞衛星を狙ってくるわね」
「マジノ線攻略の時の様に」
「そうしてきますか」
「そう来るわね、だからね」
「衛星はそちらに警戒ですね」
「そうするのですね」
「そうよ、通常艦隊には鶴翼で向かうわ」
 十二段のそれでだというのだ。
「そして衛星はね」
「潜水艦に対する」
「そうされますか」
「消耗戦になるのならそれでいいわ」
 最初から覚悟しているからだ、そうなることも。
「いいわね、例えどれだけの損害を出しても」
「このアンドロメダを守る」
「そうしますか」
「そうよ、絶対にね」
 心の中で思うことはある、だがそれでもだった。
 エイリスは今は最後の植民地を失う訳にはいかない、それでだった。
 エリザはアンドロメダを何としても守り抜くつもりだった、自ら戦場に立ち戦う理由もそこにあった、それが為に。
 鶴翼を崩させず枢軸軍に対する、枢軸軍の攻撃は宇宙台風や大怪獣のそれをも凌駕するまでであった。 
 エイリス軍はその攻撃に削られていく、だが。
 彼等は戦場に立ち続ける、マンシュタインは彼等に攻撃を浴びせながら言った。
「見事と言うべきか」
「はい、そうですね」
 ロンメルが年上の親友の言葉に応える、マンシュタインの次には彼が控えている。
「流石は世界の盟主です」
「騎士だ」
 それがエイリス軍だというのだ。
「正面から正々堂々と戦いだ」
「そして一歩も引かない」
「そしてエリザ=ブリテン前女王もな」
「衰えはありませんね」
「敵にとって不足はない」
 マンシュタインは腕を組んで言った。
「こちらも受けて立ちだ」
「勝ちますか」
「私の攻撃は終わった」
 マンシュタインはロンメルにこうも告げた。
「後はだ」
「はい、俺がやらせてもらいます」 
 マンシュタインは攻撃を終え右から左に動いていく、そして次はロンメルが攻める。だが彼の攻撃を受けてもまだだった。
 エイリス軍は戦場に立っている、幾ら攻撃を受けても。
 エリザも自ら前線に立ち戦う、クイーン=ビクトリアもビームを放っていた。
 そのクイーン=ビクトリアに至近弾が来た、ミサイルがすぐ傍で爆発した。その爆発を見てエリイス軍の将兵達は血相をかけて叫んだ。
「エリkザ様!」
「ご無事ですか!」
「心配無用よ」
 微笑んでこう返すエリザだった、見ればそのまま艦橋に毅然として立っている。
「この通りね」
「あの、ここは危険です」
「お下がり下さい」
「エリザ様に若しものことがあれば」
「何言ってるのよ、ここは戦場よ」
 心配する彼等に明るい微笑みで返すエリザだった。、
「安全な場所なんてないでしょ」
「ですがそれでも」
「最前線は」
「エイリスは王室こそが先頭に立って戦うものよ」
 これは初代女王からの伝統だ、エイリス帝国の王族は女王であってもまず自分達が戦場に立って戦うのだ。
 だからだ、エリザもだというのだ。
「それでどうしてここにいられないのかしら」
「では」
「今もですか」
「安心して、クイーン=ビクトリアは沈まないわ」
 決してだというのだ。
「例え何があってもね」
「では、ですね」
「この戦場でも」
「このまま戦うわ」
 自ら最前線に立ってだというのだ。
「そうするわ」
「わかりました、それでは」
「我々も共に」 
 彼等はエリザのエイリス王室の者としての、エイリス先代女王としての矜持を見た。それを見たならだった。
 彼等も奮い立たずにはいられなかった、エイリス軍の士気は激しい戦いの中でさらに燃え上がった。
 エイリス軍は誰も一歩も引かない、陣を一つずつ破られても。
 次の陣が前に出て枢軸軍と戦う、その繰り返し十二段の備えは伊達ではなかった。
 逆に枢軸軍に激しい攻撃を浴びせる、それを受けてだった。
 枢軸軍もダメージが深刻になってきた、それを見てハンガリー兄が言う。
「ううん、こっちのダメージもね」
「無視出来なくなってきましたね」
 リトアニアがハンガリー兄に応える。
「これは」
「うん、消耗戦になっているね」
「そうですね、予想はしていましたが」
「エイリス軍も退かないから」
「ですが今はです」
「このまま攻めるしかないね」
「はい、要塞衛星への攻撃もはじまっています」
 潜水艦艦隊のだ、だがそれでもだった。
 衛星もさるものでソナーを使って潜水艦艦隊に攻撃を浴びせる、こちらも膠着状態になってしまっている。
 両軍は互いに消耗し合うまさに殴り合いを展開していた。ハンガリー兄もリトアニアもその中にいて話すのだ。
「結局は最後に一隻でも残っていれば」
「こちらの勝ちになるね」
「はい、そうです」
 リトアニアは戦争のかなり原始的な決まりを言った。
「そういうことです」
「そういうものなんだ」
「ですからここは」
「このまま殴り合いを続けて」
「はい、一隻でも残りましょう」
 敵を全て倒してだというのだ。
「そうしましょう」
「強いね、リトアニアも」
 ハンガリー兄はリトアニアの言葉を聞いて述べた。
「一隻だけでも残ればいいって」
「いや、戦争はそういうものですよね」
 リロアニアはハンガリー兄の言葉に意外なことを言われて少し驚いたという顔で返した。
「やっぱり」
「それもそうかな」
「はい、ですから」
 それ故にとだ、また言うリトアニアだった。
「ここは粘って」
「最後までこのまま戦って」
「勝ちましょう」
 これしかなかった、今は。
 両軍はリトアニアの言葉通り正面から殴り合うばかりだった、そうして。
 両軍の艦艇の殆どがダメージを受けて動けなくなっていた、撃沈された艦も多い。 
 だが大和もクイーン=ビクトリアもまだ戦場に立っている、その中で。
 東郷は秋山にこう言った、その言う言葉は。
「今からな」
「はい、クイーン=ビクトリアにですね」
「攻撃を仕掛ける」
 既にエイリス軍の鶴翼十二段の陣は最後の一段だけになっている、その一段も殆ど残っていない。だがそれは枢軸軍も同じだ。
 最早車懸かりの陣も陣になっていない、双方戦力の九割を失っていた。
 だが大和とクイーン=ビクトリアはまだ戦場にいる、それでだった。
 東郷は敵の旗艦を見てだ、こう秋山に言ったのだ。
「いいな」
「今よりですね」
「もうお互いこの一撃しか力がないだろうしな」
「ここで決めますか」
「そうする」
「それでは」
 秋山も応えてだ、そうして。
 大和と残った艦艇、かろうじて一個艦隊の規模の彼等がやはり一個艦隊規模にまで数を減らしているエイリス軍に突撃を仕掛けた、それを見たエリザも。
 艦隊を前に出した、両軍は互いにビームを出した。
 大和もビームを受けた、そのビーム攻撃で。
 左舷にダメージを受けた、だが大和のビームはクイーン=ビクトリアを直撃した。
 それでクイーン=ビクトリアは動かなくなった、しかしだった。
 そこでイタリン方面から一隻の戦艦が来た、それはクイーン=ビクトリアと同型艦だった、秋山はその艦を見て言った。
「あれはクイーン=エリザベスです」
「ではあの戦艦に乗っているのは」
「はい、エイリス女王セーラ=ブリテンです」
 他ならぬ彼女だというのだ。
「あの方が来ました」
「そうか、ではだ」
「セーラ女王にもですか」
「攻撃を仕掛けるとするか」
 こうなればそれしかなかった、まだ何とか残っている戦力を振り絞ってもだった。
 クイーン=エリザベスとも戦おうとした、だがここで。
 セーラはモニターを開いた、そのうえで母に必死の顔でこう言った。
「お母様、ここは」
「撤退しろっていうのね」
「はい、後詰は私が引き受けます」
 だからだというのだ。
「祖国殿も妹殿も」
「その前にどうしてここに女王さんが来たんだ?」
 イギリスは己の乗艦からセーラに問うた。イギリスの艦ももう動けなくなっている。
「ここに」
「シーランド君に連れて来てもらいました」
「そうなのですよ」
 そのシーランドもモニターに出て来て言って来た。
「戦力はないですけれど曵航の艦は連れて来たのですよ」
「お母様の危機を聞きシーランド君と曵航艦だけを連れて来ました」
「そうだったんだな」
「見れば敵も戦力が殆ど残っていません」
 後詰はセーラだけで充分だった、今の枢軸軍の状況では。
「ですからここは」
「曵航してやるのですよ」
 それで動けない艦艇を退かせてだというのだ。
「まずはイタリンまで撤退なのです」
「そこから本国ですね」 
 イギリス妹はシーランドの言葉を聞いて述べた。
「そうなりますね」
「そうなのです」
 シーランドはイギリス妹にも答えた。
「だから急ぐのです」
「動ける艦艇はすぐに撤退して下さい」
 セーラが指示を出してきた。
「そして動けない艦艇は曵航します」
「わかったわ、それじゃあね」
 エリザも愛娘の言葉に頷いた、そしてだった。 
 その戦力の全てを失ったと言っていいエイリス軍はアンドロメダから撤退した、それと見届けたセーラもだった。
 戦場から離脱する、その時に東郷にこう言った。
「アンドロメダは今は貴方達にお貸しします」
「やがてはか」
「はい、返して頂きます」
 こう東郷に言ったのである。
「やがては」
「そうか、それじゃあな」
「では」
「しかし女王さんもな」
 東郷は去ろうとするセーラにこうも言った。
「美人だな」
「あの、司令」
 秋山はその東郷に困った顔で注意する。
「それは」
「不謹慎か」
「戦場です、それにあの方は」
「エイリス女王だな」
「はい、ですから」
 いつもの調子ではというのだ。
「ここはそうしたお言葉は」
「いや、こういう時こそな」
「そう仰るのですね」
「美人を美人と言って悪いという決まりもない」
 こうも言う東郷だった。
「そうだな」
「全く、貴方という人は」
 秋山も黙るしかなかった、いつもの調子の東郷に呆れながらも。
 東郷はそのセーラにだ、こうも言ったのだった。
「また出来ればお会いしたいですね」
「あの、私達は」
「はい、敵同士ですね」
「それでそのお言葉は」
「敵であってもです」
 東郷は困った顔になっているセーラにこう返す。
「ですから」
「どう言えばいいのか」 
 真面目でしかも男性に対して経験のないセーラは返答に窮するばかりだった、そしてだった。
 必死に言葉を選ぼうとする、だがこれといった言葉が思い浮かばず沈黙していた。東郷はそのセーラに微笑んで言うのだった。
「では次にお会いした時に」
「何をされるのですか?」
「一緒に紅茶でも」
「ですから私達は敵同士なのです」
「それでもです、如何でしょうか」
「何を仰っていうのか」
 セーラは戸惑ったまま言うしか出来なかった。
「貴方は」
「お約束して頂けるでしょうか、祖国さん達も交えて」
 セーラを安心させる為に日本達の名前も出す。
「そうされますか?」
「それなら」
「では次にお会いした時に」
「貴方という人がわかりません」
 一応約束はした、だがそれでもだった。
 セーラは戸惑ったままだった、そして最後にこう東郷に言うのだった。
「貴方の様な人ははじめてです」
「そうですか」
「けれど。覚えておきますので」
「またお会いしましょう」
「それでは」
 こう話してそしてだった。
 セーラも戦場を後にした、枢軸軍はこれまでにない損害を出したが何とか勝利を収めアンドロメダを占領した、それからだった。
 全軍一旦スエズに戻りそこで修理にあたった、平良やキャロルが支援団体やキャロル財団に総動員を頼み命じて。
 それで何とか艦隊の修理にあたっていた、それを見てレーティアが言う。
「かなりのダメージだったがな」
「それでもですね」
 そのレーティアにエルミーが応える。
「この流れですと」
「一月だな」
 それだけの期間でだというのだ。
「艦隊は全て完全に修復される」
「そうしてですね」
「いよいよ欧州だな」
「そうですね、そして総統も」
「私は戻っていいのだろうか」
 レーティアはエルミーの今の言葉に難しい顔になった、そのうえでこう言うのだった。
「ドクツを敗北に追いやった、その私が」
「いえ、総統の他にはおられません」
 エルミーはあの敗北のことから己を責めるレーティアにあえて言った、それも強い声で。
「ドクツを導かれる方は」
「そうだろうか」
「はい、そうです」
 こう言うのである。
「ソビエトとの戦いも総統がおられれば」
「勝てたというのか」
「はい」
 その通りだと、エルミーは言う。
「国民は総統が戻られたなら絶対にです」
「私を出迎えてくれるか」
「それも笑顔で」
「私は国民を見捨てて逃げたのにか」
 今枢軸軍にいることについてもだ、レーティアは今も己を責めているのだ。潔癖症の彼女だからこそである。
「それでもか」
「ならばベルリンまで戻られて下さい」
 その時にわかる、エルミーはレーティアにこうも言った。
「そうされて下さい」
「その時にわかるか」
「そうです、国民は必ず総統を支持します」
「だが国民を見捨てた私には」
「時には生きることも必要かと」
 脱出してもだというのだ、これは危険を冒してまでレーティアを救いに向かったエルミーだからこそ言えることであった。
「国民の為にも」
「そういうものか」
「私はそう思います」
「だといいのだが」
「皆総統をお慕いしています」
 だからこそだと、エルミーはレーティアに話し続ける。
「戻りましょう、そして再びドクツを」
「雄飛させるというのだな」
「そうされて下さい、絶望のどん底にあったドクツを救われたのは総統です」
 他ならぬ彼女だというのだ、それを為したのは。
「ですからもう一度我々を総統と共に歩ませて下さい」
「そう言ってくれるか」
「はい」
 エルミーはレーティアに熱い声で語っていく、そしてだった。 
 彼女と共にいるドイツもだ、こうエルミーに言うのだった。
「俺達も総統が出て来てくれたからだ」
「また立ち上がれたというのか」
「第一次大戦の後俺達はどうしていいかわからなかった」
 完全に絶望していた、そうだったというのだ。
「しかし総統が出て来てからだ」
「そうです、全てが変わりました」
 そうなったとだ、エルミーがまた話す。
「ドクツに希望が戻ったのです」
「若し総統が出てくれなかったならば」
 つまりグレシアが彼女と会わなかったならというのだ。
「私達は今もです」
「ただ絶望し何もない中にいた」
「そのドクツと国民を救われたのは総統です」
「それでどうして受け入れないでいられる」
「ですから是非共」
「戻ってきてくれ」
「そう言ってくれるか」
 レーティアは多くを言わなかった、だが。
 顔を上げてだ、こうエルミーとドイツに言った。
「ではまずはだ」
「はい、ドクツに戻りましょう」
「俺達の国にな」
「そうしよう、まずはな」
 エルミーとドイツの言う通りにしようというのだ、それが彼女の今の考えだった。そしてその話をしてからだった。
 レーティアは東郷の前に赴いた、そのうえでこう言うのだった。
「これからイタリンを攻めるな」
「ああ、そこからドクツに向かうつもりだ」
「そうだな、ではまずはシチリアだな」
「そこから攻め入っていく」
 イタリンの諸星域をだというのだ。
「ナポリ、ローマをな」
「わかった、ではシチリアについてだが」 
 最初に攻略するその星域のことについて話すレーティアだった。
「あの星域のことは統領が詳しい」
「ベニス統領がか」
「マフィアのことも聞いていてくれ」
「あの連中はかなり深刻らしいな」
 所謂犯罪結社だ、日本で言うヤクザである。
「シチリアやナポリの経済を牛耳っているな」
「今はイタリン軍に協力している」
「なら俺達の敵だな」
「艦隊は持っていないが惑星の防衛を担っている」
 即ち地上部隊の一翼を担っているというのだ。
「そうなっている」
「手はあるか」
「統領は抑えていた」
 そのマフィアをだというのだ。
「ナポリのカモラもな」
「そのやり方を聞きたいな」
「ではこれから統領と話すか」
「それとロマーノ君とな」
 彼も呼ぶというのだ、こう話してだった。
 東郷達は遂に欧州侵攻、その第一としてシチリア降下にかかるのだった。アンドロメダでの傷を大急ぎで癒しつつその戦いに向かっているのだ。


TURN124   完


                   2013・7・13



アンドロメダも攻略だな。
美姫 「いつになく、激戦だったわね」
まあ、エイリスもここが最後だったからな。
美姫 「だからこそ、エリザまでも出てきたしね」
まあ、最後にはセーラまで来てしまったけれどな。
美姫 「こちらは無事に逃走できて良かったって所かしらね」
まあ、直接対決はもう少し先だろうな。
美姫 「さて、気になる次回は……」
この後すぐ!



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