『ヘタリア大帝国』




                          TURN13  オフランスへ

 セーラは命からがら帰還したイギリス達から報告を受けた。そしてだ。
 暗い顔になりだ。こう言ったのだった。
「そうですか。ドクツ軍はですな」
「済まない、予想以上の強さだった」
「危ういとは思っていましたが」
「いえ、いいのです」
 敗北にうちひしがれる祖国、そして提督達にだ。セーラは優しい声をかけた。
 そしてだ。こうも告げたのだった。
「勝敗は戦の常、それよりもです」
「ああ、艦隊は四割はやられたけれどな」
「何とかアイスランドから撤退することができました」
「アイスランドへの航路は遮断したからな」
「ドクツはそこから攻めてくることはありません」
「わかりました」
 このことを聞いてだ。セーラは一先ず安堵した。
 そしてそのうえでだ、こんなことも言った。
「ではまずは安心ですね」
「ああ、オフランスでの戦いに専念出来るぜ」
「後顧の憂いはありません」
「ではです」
 二人の報告を受けてだ。セーラはあらためてだ。祖国達、そして提督達に言った。
「これよりオフランスに軍を向けます」
「わかりました」
「それではすぐに」
「そしてマジノ線に入ります」
 迎え撃つ場所はだ。そこしかなかった、
「そのうえで、遂にです」
「はい、ドクツを」
「そこで倒しましょう」 
 提督達もセーラの意を決した言葉に応えた。そうしてだった。
 彼等もすぐに戦いの準備に入る。しかしだった。
 セーラはその中でだ。モンゴメリーにこう告げたのだった。
「貴方にはオフランスでも本国でもなくです」
「植民地ですね」
「そこに行ってもらいたいのですが」
「わかりました」
 微笑んで敬礼してだ。モンゴメリーはセーラのその言葉に応えた。
「ではすぐに」
「そしてその場所ですが」
 どの植民地かもだ。セーラはモンゴメリーに話した。
「北アフリカです」
「あの地ですか」
「北アフリカはイタリンが狙っています」
 だからだというのだ。
「あの国の侵攻も許してはなりません」
「その通りです。ではまずは」
「どうするのですか?」
「スエズを拠点とさせてもらいたいのですが」
 すぐに北アフリカに入るのではなくだ。そこに入るというのだ。
「そこから戦いたいと考えています」
「スエズですか」
「あの地が我がエイリスのアフリカ統治の拠点の一つですから」
 それ故にだというのだ。
「あの地に入りそしてです」
「足掛かりを設けてですね」
「そのうえでイタリンを迎撃したいです」
「そうですね。北アフリカに直接向かうよりはいいですね」
「はい」
 この辺りだ。老練の騎士提督らしい判断だった。モンゴメリーはこのことをだ。セーラに対して微笑んで話したのだ。そしてセーラの横にいたエリザもだ。
 微笑みだ。こうモンゴメリーに言ったのだった。
「流石ね」
「これはエリザ様」
「私もそれでいいと思うわ。ただね」
「スエズ自体のことですね」
「あそこにいるエジプト君はね」
 彼はだ。どうかというのだった。
「私達にあまり協力的ではないかな」
「はい、残念なことに」
「彼の協力はあまり期待できないかも知れないわね」
「私も。エジプト氏にはです」
 どうかとだ。モンゴメリー自身も述べるのだった。
「協力は申し出ないつもりです」
「そうするしかないわね」
「本音を言いますと協力して頂きたいのですが」
「向こうがそれを受けてくれるかというとね」
「望み薄です。それにです」
 ここでだ。モンゴメリーは一つ憂慮を述べた。それは彼のその顔にも出ている。
「あの地も。どうやら総督や大貴族達がです」
「彼等ですか」
 セーラがだ。モンゴメリーの今の言葉に表情を暗くさせた。
 そしてだ。こう言ったのだった。
「あの地でも」
「スエズは交通の要衝です。それだけにです」
「既得権益が多いですね」
「はい、そこが問題です」
 モンゴメリーもだ。このことを指摘したのだった。
「我々軍が戦おうとも彼等は積極的には動かないでしょう」
「エイリスの危機だけれどね」
 エリザはやれやれといった感じで述べた。
「彼等はそれよりもね」
「そうです。自分達の権益の方が問題です」
「というよりそれしか考えていないから」
「困るのです」
 こう述べるのだった。
「それも実に」
「そうですね。どうしたものか」
 セーラは再び暗い顔になった。そうしてだ。
 今度はだ。政策のことを言ったのだった。
「本当に出来るならです」
「ええ、貴族達の権益を抑えてね」
 エリザもだ。娘のその政策に同調して言ってきた。
「そしてその腐敗を何とかしたいと思っていたけれど」
「この状況では」
 戦争になった、それではとてもだった。
「そちらにまで余力を避けることはできません」
「じゃあさ。あれなの?」
 マリーもいた。今度は彼女が姉に問うた。
「今は貴族の人達放置なの?」
「仕方ありません」
 沈んだ顔でだ。セーラは妹にも答えた。
「今はどうしようもありません」
「ううん。外も大変だけれど」
「中もです」
 憂いに満ちている、それが今のエイリスだった。
 そしてこのことはだ。祖国であるイギリスも言うのだった。
「俺もなあ。実は敗戦だけじゃなくてな」
「恐慌や貴族達の腐敗が、ですね」
「身体を痛めつけてるんだよ」
 実際にだ。身体のあちこちに痛みを感じながらだ。イギリスはセーラに話した。
「正直女王さんが改革を言ってくれたのは嬉しかったよ」
「貴方の為を思ってのことですから」
「だよな。けれどな」
「はい、今の状況ではです」
 戦争になっている、とにかく今はそれに尽きた。
 それでだ。セーラは己の祖国に対しても述べたのだった。
「何もできません」
「国内の改革はなあ」
「まずは戦いに勝利を収めてからです」
「ああ、ドクツにな」
「それにイタリンもです」
「ここで若しもな」
 イギリスはここでだ。眉を顰めさせた。そのうえでこの危惧を上司達に話した。
「日本帝国と。アジアで揉めたら」
「日本ですか」
「やっぱりまずいよな」
「今の私達は一杯一杯よ」
 エリザがイギリスのその危惧に答えた。
「とてもね」
「だよな。オフランス戦と北アフリカでな」
「そこにアジアまで加わったらどうなるのかしら」
 マリーもだ。そうなった場合を考えた。それはエイリスにとって悪夢だった。
「僕達大丈夫かな」
「問題はガメリカと中なんだよ」
 イギリスはこの二国を問題とした。
「あの連中が日本を挑発してるからな」
「彼等のあの行動は危険です」
 セーラもだ。このことは深く憂慮していた。そのうえでの言葉だった。
「日本帝国と。ガメリカが戦争になれば」
「同盟関係にある俺達もな」
「自然に彼等と戦争状態になります」
「だよな。ガメリカは勝てると思ってるみたいだけれどな」
 だからこそ日本を挑発しているのだ。
「けれどそれでもな」
「戦争になれば。私達はそこに戦力を割かなくてはなりません」
 セーラが憂いているのはだ。このことだった。
「若し今それが起こるとです」
「ドクツとの戦いに向けられる戦力が減るからからな」
「それだけ。私達が苦しくなります」
「ったくよ。手詰まりだな」
 イギリスも今はだ。ぼやくしかなかった。
「何とか粘るがな」
「お願いします」
「ああ、お互いに頑張ろうぜ」
 こうした話もした彼等だった。そしてだ。
 モンゴメリーは艦隊を率いてそのスエズに向かうことになった。そしてエイリスを発つ時にだ。同僚のロレンスとネルソンがだ。彼を見送りに来た。
 そうしてだ。彼等はここでこう言うのだった。
「ご武運を祈ります」
「ご健闘を」
「有り難う。しかしだ」
 ここでだ。モンゴメリーは余裕の表情を浮かべてだ。こうその二人に答えた。
「ドクツは確かに強い。しかしだ」
「イタリンはですね」
「あの国は」
「そうだ。弱い」
 断言した。イタリンについては。
「装備も将兵もだ」
「そうですね。あの提督達ではです」
「お話にならないでしょう」
「随分な統治だとは思う」
 モンゴメリーはここでは真顔で述べた。
「ファンシズムとはいってもだ」
「ドクツのそれとは違いますね」
「それも全く」
「そうだ。ドクツのファンシズムは堅固だ」
 レーティアがだ。完璧に治めているというのだ。
 だがイタリンはだ。どうかというのだ。
「しかしあの国はだ」
「そうですね。ベニス統領ですか」
「あの娘は」
「至って気楽だ。悪人ではないがな」
 ムッツリーニのそうした気質もだ。モンゴメリーは見抜いていた。
 そしてそのうえでだ。こうも言ったのだった。
「しかし気楽な気質でだ」
「あまり物事を考えていない」
「そうしたところもありますね」
「だから楽だ」
 そうだというのだ。
「至ってな」
「そうですね。それではですね」
「彼等につきましては」
「私一人で充分だ」
 敵としてはだ。弱いというのだ。
「確かに戦力を削がれることは残念だがな」
「むしろその方がですね」
「問題になりますね」
「その通りだ。それをどうするかだ」
 まさにだ。それこそがだというのだ。
「できれば。イタリンをすぐに押さえたいものだがな」
「しかしそれを果たすのはです」
「今の我々の戦力では」
「わかっている。やはりオフランスでの戦いだ」
 あの国での戦いがだ。全ての鍵だというのだ。
「マジノ線の戦、そこで決めなければな」
「そのままエイリス本土まで迫られます」
「それ故に」
「そこは頼む」
 二人に頼むことはこのことだった。
「ではな」
「はい、それでは」
「お任せ下さい」
「女王陛下と祖国殿達も頼む」
 彼等への無二の忠誠心もだ。モンゴメリーは述べた。
「ではな」
「はい、それでは」
「後はお任せ下さい」
 こうしてだ。モンゴメリーはスエズに向かった。そしてその航海中にだ。彼が部下にしている参謀の一人にだ。こうしたことを言われたのだった。
「あの、噂ですが」
「何だ?」
「スエズの総督もです」
 顔を曇らせてだ。参謀はモンゴメリーに話す。
「かなり問題のある人物の様で」
「そうなのか」
「植民地の民を虐げ私腹を肥やしている様です」
「またか」
 そう聞いてだ。モンゴメリーは顔を曇らせて言った。
「スエズ総督もなのか」
「はい、残念ですが」
「噂では南アフリカの総督も酷いらしいな」
「現地の少女を虐待しているそうですね」
「本当なら許せないことだ」
 モンゴメリーはその端整な顔を歪ませて言った。
「断じてな」
「その通りですね。全く以て」
「私もできればそうした輩は成敗したい」
 騎士らしくだ。モンゴメリーは毅然として述べた。
「だが今はだ」
「それはできませんね」
「そうだ。その余裕は今はない」
 今度は苦い顔になってだ。モンゴメリーは述べた。
「我がエイリスにはな」
「それが残念であります」
「軍は女王陛下、そして祖国殿に忠誠を誓っている」
 無論モンゴメリーもだ。しかしだった。
「だが。貴族達はだ」
「戦わない者達はですね」
「確かに私も貴族だ」
 モンゴメリーにしてもそうだった。彼とて名家の嫡男だ。そうした意味ではロレンスもネルソンも同じだ。しかし騎士提督に選ばれたのはその資質からである。
 その彼がだ。こう言ったのである。
「だがそれでもだ」
「戦場に身を置かれ」
「戦いの中にあればまた違うのだがな」
「問題は安全な場所で私腹を肥やす者達ですね」
「あの者達は自分のことしか考えていない」
 それもだ。私腹を肥やすことだけだというのだ。
「全くだ。だからだ」
「許してはなりませんね」
「断じてな。だが本当にだ」
「今は何もできませんね」
「その余力がないからな」
 戦争中だ。戦争が最優先されるのは自明の理だ。 
 それ故にだ。貴族達の処遇もだ。今は後回しにせざるを得なかった。
 だがそれでもだ。モンゴメリーは忸怩たる顔でこう言うのだった。
「しかし。彼等がこのまま放置されればだ」
「我がエイリスにとって」
「癌になるだろう」
 このことを危惧しての言葉だった。
「頭の痛いことだ」
「全く以て」
 彼等はこう話してだ。頭を悩ませていた。そしてそれは。
 北欧で勝利を収めたドイツも同じだった。彼はプロイセンにだ。笑顔でこう言われたのだ。
「遂にイタちゃん達が動くぜ」
「今何と言った?」
「だからな。イタちゃんも軍を動かすんだよ」
「あいつがか」
「俺達に負けられないって言ってるぜ」
 プロイセンは実に嬉しいといった顔でだ。ドイツに話す。
 だがドイツはそう聞いて暗澹たる顔になりだ。プロイセンにこう言い返した。
「相棒は何故そこまで明るくなれるんだ」
「そう言う相棒は暗いな」
「暗くならない筈がない」
 イタリンが動く、そう聞いてはだというのだ。
「全く。あいつとロマーノだな」
「そうそう、ロマーノもだよ」
「二人の妹達はいいのだが」
 彼女達についてはだ。ドイツはこう言えた。
「だが。それでもだ」
「それでもかよ」
「あいつの上司は」
「ムッチリーニさんだよな」
「大丈夫なのか?」
 心から心配する顔でだ。ドイツはプロイセンに問うた。
「あの人で。本当に」
「相棒、ちょっとはイタちゃん達に優しくなれよ」
「少なくとも見捨てたことはないが」
「御前はイタちゃん達に厳し過ぎるんだよ」
「そう言う相棒こそ甘過ぎるだろ」
 実はイタリンという国自体にだ。極めて甘いプロイセンなのだ。
 それでだ。彼は今もこう言うのだった。
「あんないい奴等いないだろ。あのよさがわからねえのか?」
「確かに悪い奴等ではない」 
 ドイツもこのことは認めた。
 しかし暗澹たる顔をそのままにしてだ。こうも言ったのだった。
「だがそれでもだ」
「弱いってんだな」
「しかもいい加減だ」
 イタリア達だけでなくだ。その上司についても言った言葉だった。
「それもどちらもかなりだ」
「それでもローマ帝国の末裔だぜ」
「ローマ帝国の孫か」
「それに妹さん達もいるだろ」
 ドイツも認めるだ。彼女達もいるというのだ。
「大丈夫だって。いざとなれば助ければいいじゃだろ」
「だから何故そんなに簡単に言える」
「俺イタちゃん達好きだからな」
 見事にだ。プロイセンは言い切った。
「だからだよ」
「そうか。それ故にか」
「そう言う相棒だってイタちゃん達が困ってたら絶対に助けてるじゃねえか」
「放っておけないからだ」
 ドイツもドイツでだ。実はイタリア達を嫌ってはいなかった。
「だからだ。ロマーノにしてもだ」
「結局相棒は優しいんだよ」
「ううむ、しかしな」
「素直になれって。イタちゃん達はかつて一緒に住んだ仲じゃねえか」
「神聖ローマか」
「だろ?だから仲良くやろうぜ」
 あくまでだ。プロイセンはイタリア達にはフレンドリーである。
「そんな暗い顔にならなくてもいいだろ」
「そうだな。イタリアはいい国だ」
 ロンメルも出て来てだ。プロイセンの言葉に微笑んで賛成してきた。
「あの気候も料理も音楽もだ」
「確かにいいものだが」
「そうだな。では祖国殿も彼等に素直になってくれ」
 ロンメルはドイツに対して言った。
「そして何かあれば助けよう」
「助けることについてはやぶさかではない」
 ドイツ自身もだ。実はそうだった。
「それで何処に攻めるのだ、あいつは」
「北アフリカらしいな」
 プロイセンが答える。
「そこに攻めるみたいだね」
「北アフリカ。あの場所か」
「砂嵐の酷いところだ」
 ロンメルがドイツ達に北アフリカについて話した。
「戦うにはいささか辛い場所だ」
「そうだったな。砂嵐か」
「あの辺りは砂が多い」
 ロンメルはそれは北アフリカだけではないと言った。
「そこでイタリア君達がどう戦うかだな」
「君付けなのだな」
「実は俺もイタリア君達は嫌いではない」
 それはロンメルもだった。ドイツに微笑んでの言葉だった。
「むしろ好きだ」
「そうか。ロンメル元帥もか」
「妙な愛嬌がある」
 ロンメルはイタリア達のそのキャラクターについても指摘した。
「だから嫌いじゃない」
「それはそうだが」
「ではイタリンの参戦を歓迎しよう」
 ロンメルも言うのだった。こう。
「そしてそのうえでだ」
「ああ、総統閣下のコンサートがはじまるな」
「それに出席するか」
 こうしてだ。彼等はレーティアのコンサートに出席する為に会場に向かった。しかしだ。
 レーティアはまたしてもだ。嫌そうな顔で傍らに控えるグレシアに言っていた。二人は今は車の中にいる。総統用の頑丈で質素な造りの車だ。
 その後部座席においてだ。こうグレシアに言ったのである。
「今度はか」
「そうよ。やっぱり日本の服でね」
「グレシアはそんなに日本が好きなのか?」
「アイドルの衣装ではピカ一よ」
 楽しげに笑ってだ。グレシアはレーティアに返す。
「もうね。最高よ」
「それでか。今度は」
「そう、黒い学校の制服よ」
「アイドルグループの衣装か」
「四十八人いたかしら」
 グレシアは右手の人差し指を己の唇に当てて述べた。
「いえ、他にもグループがあってね」
「随分大所帯のグループだな」
「そうね。けれどね」
「その衣装はか」
「歌もいいのよ」
 どちらもだ。いいというのだ。
「それで。今回ね」
「参考にしたのか」
「アンスコもね」
 アイドルならばだ。スカートの下も大事だった。当然レーティアもそれを着用してステージやイメージPVの撮影に挑んでいる。アイドル故に。
「そうしたわ」
「あの黒いか」
「ブルマみたいなのね」
「あまり半ズボンに見えないな」
「そうでしょ。本当にブルマでしょ」
「日本にはまだブルマがあるのか?」
 かなりシンケンにだ。レーティアはグレシアに問うた。
「あんな前時代の羞恥な服が」
「もうないみたいよ」
「そうか。流石にそうなのだな」
「まあそれでも。そのグループのアンスコはね」
「ああした感じなのか」
「ブルマに見えるけれどブルマじゃないのよ」
 そこが違うというだ。
「ここ、大事だから」
「全く。日本はおかしな国だ」
「そうね。文化的にね」
「あんな変わった国もないだろう」
 やや首を捻ってだ。レーティアは日本についてこうも言った。
「欧州とアジアでは色々違うにしてもだ」
「そうね。けれどね」
「けれどか」
「あの国のことはレーティアがどう思っているかだけれど」
「あの国は間違いなくガメリカと戦争に入る」
 そうなるとだ。レーティアは冷徹な感じで言い切った。
「そしてだ」
「それで、よね」
「もって一年か二年だ」
 レーティアはこうも言った。
「それだけもてばいい方だ」
「それが日本の国力の限界ね」
「ガメリカには勝てない」
 また言うのだった。
「だが。それでもだ」
「その一年か二年もってもらう為に?」
「テコ入れが必要か」
 こうも言うのだった。
「少しでももってもらう為にな」
「そうね。それはね」
「考えておこう」
 そのテコ入れ案もだというのだ。
「ただそれはだ」
「オフランスとの戦いの後ね」
「オフランスとの戦いこそがだ」
 どうかとだ。レーティアは意を決した顔で述べた。
「我が国にとっての第一の正念場だからな」
「全力を挙げて向かわないとね」
「あの国とエイリスだけは許せない」
 個人的な感情もだ。レーティアは口にした。
「だからこそだ」
「ええ。そして私達にはね」
「切り札がある」
 それもだとだ。言うレーティアだった。
「勝つ為のな」
「そうね。あの娘と」
「あの兵器だ」
 それはだ。二つだった。
「あの最強の切り札があるからだ。私達はオフランスに勝てる」
「マジノ線も何でもね」
「突破してだ。オフランスに勝てる」
 まさにだ。それが可能だというのだ。
「間違いなくだ」
「その通りね。ではね」
「私達は勝つ」
 レーティアは毅然として言い切った。
「例え何があろうともだ」
「ではね。是非共ね」
「万を持してオフランスに向かう」
「で、その前に」
 普段の軽い調子に戻ってだ。グレシアはレーティアに陽気に言ってきた。
「コンサートよ。いいわね」
「そしてだな」
「そう、水着撮影もあるわよ」
「あの水着も日本のものか」
 またしてもだ。嫌そうな顔になり言うレーティアだった。
「全く。どうなのだ」
「どうなのかって言われても」
「スクール水着か」
「何かね。マニアックだと思って採用したのよ」
「普通の水着でも恥ずかしいのだ」
 レーティアはいよいよだ。うんざりとした顔になってグレシアに言った。
「それでもあの水着は」
「露出部分は少ないじゃない」
「そういう問題ではない」
 露出が少なくともだ。スクール水着はだというのだ。
「何か違う。淫靡な感じがする」
「そうそう。何故かね」
「あの淫靡さは何なのだ」
 レーティアは腕を組みだ。そしてこう言ったのだった。
「露出は水着の中ではかなり少ないのは確かだが」
「それでもよね」
「そうだ。それでもだ」
 こう言うレーティアだった。
「あの淫靡さは兵器だ」
「貴女に相応しいね」
「だがそれでもだ」
 嫌だとだ。また言うレーティアだった。
「私はあの水着はだ」
「抵抗があるのね」
「着たくない。しかしか」
「頑張ってね。北欧の皆もコンサートとグラビアで完全にノックアウトよ」
「全く」
 こんな話をしながらだ。レーティアもコンサート会場に向かっていく。そうして実際にコンサートを開いてだ。グラビアと合わせてだ。北欧の者達の心を掴んだのだった。
 そしてプロイセンが喜びドイツが暗澹たるものになっていたそのイタリアではだ。オレンジの襟が少し開いた軍服を着たイタリアがだ。自分の家で陽気にこんなことを言っていた。
「今日のお昼は何食べようかな」
「勝手に何でも食えばいいだろ」
 そのイタリアにだ。同じ軍服姿のロマーノが突っ込みを入れた。
「適当にな」
「適当って。兄ちゃんも食べるよね」
「当たり前だろこの野郎」
「それで何でそんなにつっけんどんなの?」
「別にいいだろ。さっさと作れ」
 ロマーノはイタリアにこうも言う。
「何なら俺も手伝うからな」
「ああ、そうしてくれるんだ」
「とにかくだ。何作るんだよ」
「パスタでどうかな」
 イタリアが言うのはこの料理だった。
「それにする?」
「そうだな。そうするか」
「うん。それでね」
 それでだとだ。イタリアはさらに言う。
「あの二人は?」
「あいつ等か」
「そう。何処かな」
 彼等がこう言うとだ。そこにすぐ出て来たのは。
 イタリア妹とロマーノ妹だった。二人が笑顔でこう言ってきたのだ。
「兄貴、料理ならね」
「もう作ったわ」
「えっ、もう作ったの」
 イタリアは妹達に言われてだ。目を少し驚かせて言った。
「また早いね」
「というか兄貴達が遅いのよ」
「今まで何してたのよ」
「遊んでたんだよ。悪いかよ」
 憮然とした顔でだ。ロマーノは妹達に言い返した。
「サッカーしてたんだよ」
「全く。もうすぐ戦争なのに」
「一体何やってんのよ」
「戦争前だと遊んだら駄目なのかよ」
 憮然としてだ。ロマーノはまた妹達に言い返した。
「大体俺はよ」
「戦争嫌いなのね」
「喧嘩とかは」
「そんなの怖いだろ」
「そ、そうだよ」
 イタリアもだ。戦争と聞いて真っ青になってだ。こう言うのだった。
「死ぬよ。痛いんだよ」
「全く。軍服は格好いいのに」
「中身はこれなんだから」
 妹達は戦争と聞くとてんでだらしない兄達にはだ。呆れた声で言った。
「こんなので大丈夫なのかしら」
「まあ。大丈夫じゃないでしょうけれど」
「だからよ。戦争なんかしなくてな」
「御飯食べようよ、御飯」
 二人が今関心があるのはそちらだった。
「それで何作ったんだよ」
「そうそう、何かな」
「パスタよ」
「マカロニよ」
 それを作ったとだ。妹達は兄達に述べた。
「ガーリックとオニオンのソースでね」
「ベーコンも入れたから」
「そうか。じゃあな」
「四人で食べようね」
 こうしてだった。四人でだ。彼等はテーブルに着き食べはじめる。そしてテーブルの前に置かれているそのテレビを点ける。その時にだ。
 イタリアがだ。こう言ったのだった。
「もう時間じゃない」
「ああ、時間か」
「だよね。そういえば」
「その時間ね」
 イタリアの言葉にだ。ロマーノと妹達も応える。そうしてだ。
 そのうえでだ。ロマーノも言うのだった。
「それなら。点けるか?」
「うん、そうしよう」
「チャンネル変えてな」
 こうしてあ。リモコンを動かしてだ。
 そのうえでチャンネルを変える。しかしだった。
 まだ番組ははじまっていなかった。それを見てだ。イタリアがまた言った。
「何かね」
「何かって何よ」
「何かあるの?」
「いやさ、あの人ってさ」
 CMを観ながらだ。イタリアは妹達に応える。
「あれだよね。のんびりしてるよね」
「いや、それ兄貴もだから」
「人のこと言えないから」
 それはだとだ。妹達はすぐにイタリアに突っ込みを入れた。
「もう何ていうかね」
「かなりじゃない」
「ううん、そうかなあ」
 妹達に言われてだ。イタリアは微妙な顔になった。
 そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「俺は自分じゃあまり」
「いや、そうだから」
「結構以上にあれじゃない」
「のんびりかなあ」
「そうよ。まあとにかくね」
「そろそろはじまるわよ」
 妹達はその話題をテレビに戻した。そうしてだ。
 そのうえで番組がはじまるのを待った。するとだ。
 いきなり派手な音楽が鳴りだ。それからだった。
 明るい笑顔が出て来た。豊かな、特に胸が目立つ身体をイタリア達と同じオレンジの軍服に金色の装飾をかなりつけてそのうえでだ。黒いマントを羽織っている。下はスカートで黒いストッキングをはいている。
 ピンク色の豊かな長い、波がかった髪の上に黒い格好のいい帽子を被っている。群青色の目をしていてそれは見事なまでの垂れ目である。
 その表情は優しく威厳がない。しかしどうにも好感を抱かずにはいられない顔をしている。
 その美女と言っていい二十代と思われる女を見てだ。イタリアが言った。
「出て来たね、ドウーチェ」
「そうね。何か今日もね」
「穏やかな感じね」
「この穏やかな感じがいいんだよ」
 まさにそれがだと言うイタリアだった。
「このさ。おっとりとした感じがさ」
「けれど何かな」
 ここで言うのはロマーノだった。食べながらその首を少し傾げさせている。
「この人ってな」
「うん、どうしたの兄ちゃん」
「あれだよな。あまり考えてない感じするよな」
「えっ、そうかな」
「確かにいい人だけれどな」
 このことはロマーノも認めた。まさにそうだとだ。
「けれどそれでもな」
「駄目かなあ」
「駄目とは言ってないぞ」
 ロマーノはこのことは否定した。
「俺達のことも考えてくれて努力もしてるしな」
「そうそう。ちゃんとやろうとしてるよ」
「それでも何かな。おっとりしててな」
 また言うロマーノだった。
「それで考えてないっていうかな」
「そうかなあ。何か俺達に合ってる感じだけれど」
「ひょっとして会ってる感じがまずいんじゃ」
「そうかもね」
 妹達はここでこのことに微かにだが気付いた。
「ドイツさんみたいに真面目で厳しい方が」
「実はいいのかもね」
「おい、あいつの名前は出すなよ」
 ロマーノはドイツの名前が出るとすぐに嫌そうな顔になり妹達に言った。
「飯がまずくなるだろ」
「けれどねえ」
「ドイツさんって確かに厳しいけれど」
「何だかんだでいつも助けてくれるし」
「頼りになるよね」
「俺はあいつが嫌いなんだよ」
 あくまでこう言うロマーノだった。
「あのジャガイモ野郎はな」
「だからまたそんなこと言って」
「ロマーノ兄貴だっていつも助けてもらってるのに」
「それでもそう言うなんて」
「ちょっと違うんじゃないの?」
「あいつもプロイセンも嫌いなんだよ」
 ロマーノは嫌悪感丸出しの声で妹達にまた言った。
「とにかくな。何であんなのと同盟組んだんだよ」
「だって。俺達だけじゃ寂しいからって」
 それでだとだ。イタリアがロマーノに話す。
「この人が決めたんじゃない」
「ムッチリーニさんがかよ」
「そう、ムッチリーニ=ベニスさんがさ」
 イタリアはそのテレビ画面ではしゃいでいる軍服を美女を見ながら兄に答えた。
「決めたんじゃない、ドクツと一緒に楽しもうってさ」
「ったくよ。嫌な奴等と一緒になったぜ」
「とか何とか言ってロマーノ兄貴もドイツさん達と結構一緒にいるし」
「わからないよね、そういうところ」
 妹達はそんな兄を見ながら言うのだった。そしてそのテレビの中では。
 子豚達もいる。人間の他にだ。二本足で立ちイタリン軍の軍服とズボン、ブーツの彼等がだ。その人間達と共にだ。ムッチリーニを囲んでこう言っていた。
「ブーーー!総帥万歳ブーーーー!」
「ムッツリーニドウーチェ万歳!」
「万歳だブーーーー!」
 こう叫ぶのだった。そしてだ。
 その中にいるムッチリーニもだ。明るい声でこう言っていた。
「皆ーーーー、元気ーーーー?」
「はい、元気です!」
「明るく楽しんでます!」
「楽しんでるブーーーー!」
「何の悩みもないんだブーーーーー!」
 人間達も豚達もだ。ムッチリーニにこう応える。
「皆総帥のお陰だブーーーー!」
「楽しくやってるんだブーーーー!」
 特にだ。豚達がはしゃいでいる。それを受けてだ。
 ムッチリーニもだ。明るくこう返す。
「じゃあ今日のムッチリーニはじめるねーーーー?」
「はじめましょう!」
「はじまるんだブーーーー!」
 人間も豚も応えてだ。そのうえでだ。
 明るく楽しいテレビ番組がはじまった。ムッチリーニの見事な歌に政策発表、後はバラエティの企画が続く。ムッチリーニの水着撮影の映像もある。
 番組自体はいい。実に楽しい。しかしだ。
 その番組の後でだ。陽気にパスタとワインを楽しむムッツリーニだ。相席している少女がこんなことを言ってきた。
 オレンジの軍服はムッチリーニと同じだ。装飾も金色だ。だがマントは白になっており手に持っている帽子はムッチリーニの黒いものではなくイタリン軍の制帽である。
 金髪を短くしているが頭の天辺から飛び出た、所謂アホ毛がある。眼鏡の奥の目は青くしっかりとした目である。やや童顔の感じでしかも何か必死な表情をしている。肌は白く目鼻立ちは整っている。だが胸はなく比較的小柄である。
 その少女がだ。ムッチリーニに言ってきたのだ。
「あの総帥」
「何、ユーリちゃん」
「ユリウスとお呼び下さい」
 その少女ユリウスはその真面目な眉を顰めさせてムッチリーニに返した。
「いつも申し上げている様に」
「別にいいじゃない、これでも」
「よくありません。ただ、です」
「ただって?」
「今日の政策ですが」
「何か問題あったの?」
「労働時間ですが」
 ユリウスはこのことをだ。ムッチリーニに対して言う。共にイタリンの料理を食べながら。
「今までは五時間でしたよね」
「うん、それを四時間にしたけれど」
「午前中だけになりますが。それか午後だけに」
「それでいいじゃない」
 あっけらかんとした感じでだ。ムッチリーニはユリウスに返す。
「それでも」
「いえ、それでは仕事になりませんが」
「大丈夫よ。だって皆働いてくれてるから」
「そう言われるのですか?」
「だって。皆が八時間働いたらその分働けなる人がいるでしょ?」
「それはそうですが」
「だから。皆が働ける様にね」
 その為にだとだ。ムッチリーニはユリウスに対してにこにことして話すのだった。
「四時間にしてその分ね」
「その分ですか」
「そう。皆が働ける様にしたのよ」
「総帥のお考えはわかりました。しかしです」
「けれどなのね」
「それでは本当に労働時間が短過ぎます」
 ユリウスが言うのはこのことだった。
「やはり。賃金等の問題が」
「大丈夫よ。お給料は高いし。それにね」
「それに?」
「イタリンって豊かだから」
 だからだと答えるムッチリーニだった。
「食べ物も何でも安く一杯買えるから」
「それで困らないというのですか」
「だからいいじゃない」
 本当にだ。何の悩みもないといった顔で答えるムッチリーニだった。
「それでね。いいじゃない」
「では労働時間はこのままで」
「うん。それと軍事政策もね」
「あのままですか」
「黒ビキニのままよ」
 この単語が出て来たのだった。今度は。
「提督はね。黒ビキニの女の子に限るわ」
「その方が将兵が喜ぶからですか」
「そうよ。だからね」
「胸が大きく。美女であれば」
「それでいいのよ」
 それがだ。イタリンの提督任命の基準だというのだ。
「皆が喜ぶからいいじゃない」
「あの、そういう問題では」
「だから。ユーリちゃんは心配性なのよ」
「ユリウスです」
 あくまでこう返すウユリウスだった。
「私はそうお呼び下さいと何度も」
「だからいいじゃない」
 本当にだ。何も悩みはないといった感じのムッツリーニだった。 
 そしてその能天気そのものの顔でだ。こう言うのだった。
「いざって時はドクツの人達もいるじゃない」
「同盟相手のですか」
「あの人達凄く強いわよ」
 ムッチリーニは笑顔でだ。ドクツについて話しもした。
「しかも優しいし。頼りになるわよ」
「だからドクツと同盟を結ばれたのですか」
「そう。特にレーティアちゃんね」 
 彼女のこともだ。ムッチリーニは話に出した。
「あの娘凄いわよ。本当に凄いことをやってのけるわ」
「レーティア総統は確かに天才と呼ばれていますが」
「そう。あの娘と一緒にいればね」
 どうかとだ。ムッチリーニはスパゲティ、ボンゴレのそれを食べながらユリウスに話した。
「イタリンの皆も幸せになれるわ」
「総帥は」
「あっ、私は最初から幸せだから」
 だからいいといった口調だった。
「別にいいわ」
「では総帥はご自身のことは」
「私のことって。もう幸せだから別にいいのよ」
 一向にだ。考慮しないというのだ。
「けれどイタリンの皆はね」
「幸せにならないといけないというのですね」
「皆幸せにならないと駄目じゃない」
 このことについてはだ。少し真面目に言うムッチリーニだった。
「私はそう思うけれどユーリちゃんは違うの?」
「ユリウスです。ただ」
「ただ?」
「そのお考えはその通りです」
「ならいいじゃない」
「ですが、です」
 真面目なユリウスとしてはだ。言わざるを得ないことだった。
 そしてそれ故にだ。こう言うのだった。
「ベニス様はもう少しです」
「真面目にって言いたいの?」
「はい、お願いします」
「私これでも真面目だよう」
 自分ではそう思っているのだった。
「本当なんだけれど」
「ですから。しかしです」
「しかしっていうと?」
「ご自身のことはいいのですね」
 このことをだ。ユリウスは微笑んでムッチリーニに言ったのだった。
「それは全く」
「だって。私もう幸せだから」
「わかりました。では私もです」
 微笑んでだ。こうも言ったのである。
「及ばずながら。イタリンと国民の為にです」
「皆が幸せになる為にね」
「働かせてもらいます」
「有り難う。ユーリちゃんがいてくれたら助かるわ」
「ユリウスです。ですが」
 それでもだと。ユリウスは言ってだった。
「ムッチリーニ様のお力になります」
「うん、一緒に頑張ろうね」
「イタリンの為に」
 ユリウスはこのことは誓うのだった。そしてそのうえでだ。ムッチリーニと共に食事を摂りそのうえで。食事の後ですぐに働きにかかるのだった。イタリンの為に。


TURN13   完


                            2012・3・18



イタリンは特に問題視されていないみたいだな。
美姫 「まあ、戦力的にというよりもトップが戦争に向いていない感じだものね」
対して、ドクツに対しては相当に警戒しているな、やっぱり。
美姫 「それはそうよ。後は戦力の分散から日本帝国にも注意しているみたいね」
こちらは本当に勝敗云々じゃなくて、現時点で戦端が開かれるのがまずいって感じだな。
美姫 「どちらにせよ、世界各地で争いが起こっている以上、いずれはぶつかるかもね」
さてさて、どうなる事やら。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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