『ヘタリア大帝国』




                  TURN131  二度破られるもの

 オフランス軍は今も厭戦気分に満ちていた、彼等の国で戦うのだがそれでもだった。
 布陣してもだ、嫌そうにこう言うのだった。
「直接エイリスに行けばいいのにな」
「全くだよ」
「何でこっちに来るんだか」
「迷惑な話だな」
 戦争をあからさまに嫌がっていた、彼等は戦争をするつもりは全くなかった。それで今も嫌々布陣していたのだ。
 将兵もこうなら国王もだ、ルイ八十一世はヒステリックな声でこう大臣達に言っていた。
「よいか!オフランスの全ての星はだ!」
「はい、非武装宣言ですね」
「若し枢軸軍が来れば」
「そうだ、そのまま迎えろ」
 一切戦うなというのだ。
「銃一つ持ってはならん」
「わかりました、それでは」
「このパリもまた」
「当然だ」
 王都パリもだ、当然だというのだ。
「一切手出しをするな」
「はい、わかりました」
「このベルサイユ宮殿もですね」
「近衛兵達は置いてもだ」
 それでもだというのだ。
「一切だ、いいな」
「抵抗はしないのですね」
「ただ略奪だけは許さずに」
「枢軸軍にも伝えるのだ!」
 ルイ八十一世はここでもヒステリックだった、その調子で言う言葉は。
「我々は無血開城するがだ」
「臣民達にはですね」
「一切手を出すなと」
「オフランスの素晴らしい文化にも手を出すなとな」
 略奪暴行は一切許さないというのだ。
「それを約束してもらいたいとな」
「かつてドクツ軍はそのことを完璧に守りましたが」
 元々ドクツ軍の軍規軍律はかなり厳しかった、そしてレーティアはさらに厳しく徹底させたのだ。その厳しさは日本の陸海軍に匹敵するまでだ。
「今の枢軸軍はそのドクツ軍もいますし日本軍が主導でしたね」
「あの鉄の軍律を誇る」
「だから大丈夫だと思うがだ」
 ルイ八十一世はそれでもだと述べた。
「しかし約束はしてもらう」
「略奪暴行破壊行為は一切許さない」
「臣民にも建物にも財産にもですね」
「芸術作品にも」
「それを守ってくれるなら喜んで非武装でいる」 
 そうするというのだ。
「ではいいな」
「はい、わかりました」
「それでは」
 大臣達も応える、そしてだった。
 オフランス政府は即座に枢軸軍に連絡を取った、総司令官である東郷はモニターに出ているオフランス王にこう答えた。
「わかりました、それでは」
「約束して頂けますな」
「我々はオフランスの臣民及び国土の安全を保障します」
 こう国王に答えたのだった。
「そのことは」
「それは何よりです」
「枢軸軍は一般市民に手を出したことはありません」
 少なくとも日本軍はだ、とにかく日本軍の軍規は厳しい。陸軍だけでなく海軍も相当な厳しさを誇っているのだ。
 だからだ、東郷もそれを当然として即答したのだ。
「では」
「お願いしますぞ」
 こうして口約束だが枢軸軍はオフランスでも略奪暴行の類は一切しないと約束した、それを受けてオフランスの全星が非武装宣言を出した。 
 またオフランス軍の士気は国土の安全が保障されたのを見てさらに低くなった、家族も家も安全ならばもう戦う理由がないと考えたからだ。
 それでだ、勝手に帰る兵達も出る始末だった。
 オフランス軍の数は激減した、残っている者達も。
「いないのと一緒だな」
「そうですね」
 ロレンスは無念といった顔でぼやくイギリスに応えた。
「これでは」
「元々やる気がなかったのにな」
「枢軸軍が略奪暴行をしないと約束したので」
「というか元々あいつ等そういうことはしないからな」
「規律のいい軍です」
 あの日本軍が主導でしかも日本軍の中でもとりわけ軍規軍律に厳しい山下が自ら憲兵隊を率いて目を光らせているのだ、これではだった。
「その面では我がエイリス軍よりもさらに」
「エイリス軍の軍規も厳しいんだがな」
 セーラにしても略奪暴行を許す様な人間ではない、エリザもそれまでの女王達も同じだ。エイリス軍は女性特有の潔癖さと倫理観から略奪暴行にはかなり厳しい軍なのだ。 
 しかしそのエイリス軍以上にだ、今の枢軸軍は。
「その上をいってるからな」
「まさに鋼の如き軍律ですね」
「そのせいで評判がいいからな」
 略奪暴行を働く軍程恐ろしい災厄はない、しかしそれがないからだ。
 枢軸軍は常に評判がいい、それ故になのだ。
「オフランスもな」
「それならですね」
 戦う理由がなくなった、将兵達が去るのも当然のことだ。
 そしてだ、結果としてオフランス軍は完全に戦力ではなくなり実質エイリス軍だけが戦う状況になっているのだ。
 このことにイギリスはぼやいている、軍を率いるセーラにしても。
 暗鬱な顔でだ、こうモニターにいるイギリス妹に話した。
「この状況では」
「エイリス軍だけで戦う様なものですから」
「はい、非常にです」
「苦しい戦いになりますね」
「ですが」
 セーラは自分達の苦境を把握して苦しい顔になっている、だがだった。
 それでも毅然さを失わずだ、イギリス妹にチゲた。
「この戦いではです」
「何としても勝ち」
「はい、エイリス本土への攻撃を防ぎます」
「マジノ線がありますので」
 イギリス妹はここでオフランス軍が今だに誇っているその防衛ラインの名を出した。
「ですから」
「マジノ線に篭もりですね」
「戦いましょう」
「そうですね、ただ」
「そのマジノ線がですね」
「大戦初期のものです」
 戦争はかなり進み兵器も第一世代から第八世代にまで移っている、ここまで差が出来てしまっているのだ。
 だからだ、マジノ線も最早旧式になっているというのだ。
「使えるでしょうか」
「楯と思うべきです」
 兵器としては使いものにならない、イギリス妹も割り切っている。
「あの程度の攻撃力では最早」
「枢軸軍にとってはどういうものではないですね」
「また攻撃も一撃受ければ」
 それでだというのだ。
「終わりです」
「楯としても大したものではないですか」
「一撃を避けられるだけです」
「ですか」
「しかしないよりましです」
 これがイギリス妹の言葉だった。
「ですから」
「一撃でも防ぎつつ」
「そうして戦いましょう」
「わかりました、それでは」
 イギリス妹も頷きだ、そのうえでだった。
 彼等は実際にマジノ線を楯として布陣した、最早オフランス軍は数に入れず後方に置いているだけだった。
 実質枢軸軍とエイリス軍の戦いだった、ここでも。
 セーラは自ら前線に立っている、そのうえで枢軸軍を見て言うのだった。
「大軍ですね、しかも」
「はい、尚且つです」
「兵器の質もいいです」
「そうですね、しかも」
 周りにいる参謀達に応えつつだ、さらに話すセーラだった。
「見事な布陣です」
「将兵もかなりのものですね」
「相当な強さですね」
「彼等に隙はありません」
 まさにだ、そこまで至っている軍だというのだ。
 だがそれでもだ、セーラは一歩も引かないという面持ちだった。
「しかし我々もこれまでのことを思うのです」
「これまでのことですか」
「そうです、エイリスのです」
 歴史、そこから来る言葉だった。
「エイリスはこれまで多くの危機を乗り越えてきました」
「そうでしたね、先の大戦でも」
「そしてナポレオンとの戦いでも」
「この程度の危機は幾度もありました」
「国家存亡の危機が」
「それが」
「そうです、しかし常に勝ってきました」
 だからだ、この戦いでもだというのだ。
「この戦いも」
「何としてもですね」
「必ず」
「全軍このまままずはマジノ線を楯として戦います」
 そうするというのだ。
「そしてです」
「機を見てですね」
「そのうえで」
「攻勢に出ます」
 こう言ってだ、今は守りに徹するのだった。
 そのエイリス軍を見てだ、東郷も言う。
 モニターにはクイーン=エリザベスがあった、セーラの乗るまさにエイリス軍の旗艦である。
 その優美なシルエットを見てだ、東郷は秋山に言ったのである。
「綺麗な船だな」
「クイーン=エリザベスですね」
「あの女王さんが乗っている戦艦だな」
「確かに優美です、しかも」
「その性能は桁外れだな」
「はい、エイリス軍の総力を結集して建造したものです」
 それがクイーン=エリザベスなのである。
「大和に匹敵するまでのものです」
「そうだな」
「そして今のエイリス軍自体も」
 秋山はエイリス軍を見て言う。
「第六世代から第七世代になっています」
「まだ第八世代にはなっていないがな」
「しかし迫っています、数もです」
「ああ、かなり多いな」
「互角です」
 ややエイリス軍の方が多いだろうか、しかもだった。
「尚且つ女王自らの出陣なので」
「士気も高い、統率も取れているか」
「只でさえ精鋭のエイリス軍が」
「これは相当だな」
「まさに正面からの戦いですね」
「そうだな、しかしだ」
「しかしとは」
「やり方はある」
 東郷はここでもいつもの態度だ、余裕のある飄々としたものだ。
 その飄々とした態度でだ、こう言うのだ。
「このまま攻めるのもいいが」
「しかしですか」
「あの女王さんはかなり真面目な性格らしいな」
 東郷はセーラの性格についても言及したのである。
「潔癖症で」
「そう聞いています」
 秋山も知っていることだ、セーラの性格はエイリスだけでなく全世界で知られている程だ。
「しかしそれが何か」
「名将でもあるな」
 今度はこう言う東郷だった。
「その戦い方は勇敢でしかも理に適っている」
「正統派の名将ですね」
「性格からきているな」
「そうです、しかしそれが何か」
「戦い方は一つじゃない」
 東郷はここで言うのだった。
「色々ある」
「といいますと」
「何も艦隊と艦隊がぶつかる必要はない」
「それが戦闘では」
「違う、艦隊以外にもある」
「ではそれは一体」
「周りに幾らでもあるだろう」
 ここでこう言う東郷だった、いつもの口調で。
「見えるだろう」
「?一体」
「石だ」
 東郷は言う。
「石を使う」
「石、では」
「わかったな、これで」
「はい、そういうことですか」
「マジノ線は元々アルデンヌのアステロイド帯の横にあった」
 アルデンヌのアステロイド帯は艦隊では突破出来ないと思われていた、それでそこを避けて来る敵軍への備えだったのだ。
 その為マジノ線の傍にはアルデンヌの端にある隕石が多く漂っている、東郷はその隕石達を見つつ秋山に言ったのだ。
「だからだ」
「ここは、ですね」
「エイリス軍に隕石をぶつける」
 数えきれないだけあるそれをだというのだ。
「ではいいな」
「わかりました、それでは」
秋山も頷く、そして。
 東郷はゴローンにもだ、こう言った。
「頼みたいことがあるが」
「ああ、何だ?」
「魔術でダミーの艦隊を出せるか」
 頼むのはこのことだった。
「姿だけでいい、実体や攻撃力はなくていい」
「ただ見せるだけかよ」
「それでいてレーダーに反応があればいい」
「そうした艦隊を出せばいいんだな」
「出せるだけ出せばいいか」
「そうしてくれ」
 まさにだ、数があればいいというのだ。
「それで我が軍の後方から迫る感じでエイリス軍の前に出してくれ」
「わかったぜ、じゃあ今からやるな」
「成功すればボーナスが出る」
 東郷はゴローンにこのことを約束した。
「一年分のな」
「一年分か」
「そうだ、それだけ出す」
「それだけあったらアキバでも好きなだけゲームやグッズが買えるな」
「買いたいものはあるな、色々と」
「ああ、勿論だ」
「なら頑張ってもらう」
 東郷は目を輝かせるゴローンにさらに言う、そしてだった。 
 各艦隊の工兵達に隕石にエンジンと簡易だがコントロール機能を付けさせた、そのうえでゴローンが出した幻影の艦隊を前に出させたのだった。 
 その艦隊を見てだ、エイリス軍の将兵達がセーラに言った。
「セーラ様、敵が出てきました」
「枢軸軍の大軍です」
「レーダーに反応は」
 セーラはダミーの可能性を考えた、それでこのことを問うたのだ。
「ありますか?」
「はい、あります」
「百個艦隊程です」
「わかりました、それでは」
 規模も聞いた、そしてだった。
 全軍に攻撃命令を出した、エイリス軍は陣を保ったままセーラの指示の下全軍に攻撃を開始した。そうして幻影の艦隊を倒していく。
 攻撃を受けた幻影達は次々と爆発していく、日本はその爆発を見て言う。
「これも本物の様ですね」
「どうだ、俺の魔法は」
「はい、かなりのものです」
 日本も感嘆するまでのものだった、彼の魔法は。
「これでは少し見ただけではわかりません」
「俺も勉強してるんだよ」
 自身の専門である魔術をだというのだ。
「だから数も精妙さもな」
「以前より上達されていますね」
「ああ、そうさ」
 日本に対して誇らしげに答える。
「それじゃあもっと出すな」
「お願いします」
 ゴローンの艦隊は次々に出る、セーラはその幻影達があまりにも精巧なので気付かない。そしてそのまま攻めてだった。
 そこに力を注ぎ込んでいる時にだ、東郷は命じた。
「よし、ここで隕石をだ」
「エイリス軍に向けてですね」
「一斉に放て」
 彼等にそれをぶつけるというのだ。
「そうするぞ」
「まさか隕石と幻影をここで使われるとは」
「さっきも言ったが正攻法だけじゃない」
 戦い方は、というのだ。
「だから今もだ」
「こうして攻められますか」
「あの女王さんは生真面目だからな」
「こうした戦い方には疎いからですか」
「こうしてみている」
 奇策を仕掛けているというのだ。
「隕石を受けるとな」
「防ごうとされますね」
 これは当然のことだ、座して受けることは考えられなかった。
「必ず」
「そして幻影を攻撃し隕石を防いでいる間にだ」
「我々が、ですか」
「そうだ、攻める」
 彼等自身がだというのだ。
「そうしよう」
「ではですね」
「隕石を放って暫くしたらだ」
 そこでだというのだ。
「仕掛けるからな」
「わかりました、複数の攻撃を使われますか」
「攻撃は一つじゃない」
 正攻法、それだけではないというのだ。
「こうしたやり方もある」
「では」
 今度は隕石が放たれた、セーラもすぐにそれを確認した。そのうえでだった。
「マジノ線をです」
「防衛ラインをですか」
「ここで、ですか」
「はい、使います」
 そうしてだというのだ。
「隕石達を防ぎます」
「成程な、もうマジノ線は艦隊戦には過去の遺物だけれどな」 
 イギリスがセーラに頷いて言う。
「隕石相手にはいけるな」
「数もそれだけありますので」
「マジノ線に隕石を防がせてか」
「そしてです」
 それに加えてだというのだ。
「目の前にいる艦隊にはこのままです」
「攻撃を続けるんだな」
「どうやら予備戦力を投入してきています」
 枢軸軍の有り余る、というのだ。
「ならばこうしてです」
「攻めてだな」
「そうです、艦隊には艦隊で」
 そして隕石にはマジノ線とそれぞれ役割を分担させるというのだ。こうしてエイリス軍はマジノ線を使って隕石を防いだ。
 マジノ線の個々の衛星達は人工知能の反応で隕石達にビームを放ち破壊していく、そうして防いでだった。
 艦隊は艦隊で防ぐ、セーラの指示は的確で将兵達も冷静に戦っていた。
 そしてここにだった、東郷は彼等を見つつ言った。
「まさに手が一杯だな」
「うん、今の姉様はね」
 マリーもだ、エイリス軍を見て言う。
「もうそんな感じね」
「わかるんだな、そこは」
「姉妹だからね」
 血がつながっていてしかも常に共にいた、だからだというのだ。
「姉様って必死になると周りが見えなくなるところがあるから」
「では、だな」
「今じゃないかな」
 マリーは攻撃する機会は今だと言った。
「ここでね」
「そうだな、攻めるか」
「うん、じゃあね」
 こうしてだった、枢軸軍は。
 動いた、正面にいる幻影達と上から降り注ぐ隕石達と違ってだった。
 彼らは下から攻める、ここでだった。
 セーラはだ、すぐにこう全軍に命じた。
「軍を二手に分けます」
「一軍を正面の軍に向けてですね」
「そして別働隊を」
「そうです、下から来る軍に向けます」
 その彼等にだというのだ。
「今からそうします」
「では」
 こうしてだった、エイリス軍は正面から来る軍がまだ幻影とは気付かないまま一軍を預けてだった、そうして。
 自ら一軍を率いてそのうえで下から来る軍に向かう、その時にだった。
 敵の中に大和を見た、その艦こそは。
「あの艦は」
「はい、大和ですね」
「枢軸軍の旗艦です」
「あの艦の乗っているのは」
「東郷元帥ですね」
「彼ですね」
「そうですね」
 セーラは眉を決しさせた顔で言う。
「噂には聞いていましたが」
「名将ですか」
「まさに」
「はい、こうした奇策で来るとは」
 予備戦力と隕石を使ってくることは、というのだ。
「見事です」
「正統派ではなく奇策を使うタイプですね」
「そうした人物ですね」
「今回は私も迂闊でした」
 セーラは正面から来ている敵、やはりまだ幻影と気付いていない彼等を観つつ言う。
「予備戦力をあそこまで惜しみもなく投入してくるとは」
「枢軸軍の持っている」
「それをですね」
「はい、枢軸軍の国力は最早圧倒的です」
 世界の殆どを掌握している、それならばだ。
「その数を使えば」
「ああしてですね」
「数で押せますか」
「そうです、一つの戦場に一気に投入して」
 そして戦えるというのだ。
「その圧倒的な数はわかっているつもりでしたが」
「一つの戦場に投入することはですか」
「ここまでの投入は」
「これは何百個艦隊と投入されていますね」
 ゴローンも全力で艦隊を出してきている、確かにそれだけのものと見えた。
「手強いです」
「では今は」
「我々は」
「諦めません」
 この状況でもだというのだ。
「戦います、いいですね」
「はい、それでは」
「東郷元帥が率いる主力にですね」
「正面から向かいます」
 そして戦うというのだ。
「そうします、いいですね」
「わかりました、それでは」
「このまま」
 将兵達も応える、こうしてだった。
 セーラはエイリス軍の精鋭を率いて向かう、両軍は正面からぶつかることになった。
 東郷はその大和の艦橋から突撃してくるエイリス軍を見ていた、そのうえで傍らにいる秋山に言うのだった。
「いいか、ここはだ」
「はい、このままですね」
「激突する」
「最初からそのおつもりでしたね」
「策を使うのも戦いならだ」
 幻影の艦隊、そして隕石である。
「正面から全力で戦うのも戦いだからな」
「それが今ですね」
「そうだ、戦う」
 まさに正面からだというのだ。
「そして勝つ」
「勝てますね、我々は」
「正面からの戦いはその実力が最も出る」
 敵味方共にだというのだ。
「数、兵器の性能、そして」
「将兵の資質もですね」
「そうだ、それが出るからな」
「だからこそですね」
「ここで全力を出して勝ちだ」
 そしてだというのだ。
「次の戦いに向かう」
「エイリス本土侵攻ですか」
「まさにそれにな」
 東郷は既にロンドン攻略まで見据えていた、オフランスでのセーラとの直接対決で終わりではないというのだ。
 そしてだ、まさにそのままだった。
 両軍は激突した、まずは。
「よし、艦載機だ」
「艦載機を発進させるのです」
 東郷もセーラも同時に命じた。
「全機出す、いいな」
「稼働出来るものは全てです」
 こう命じてだった、それぞれの艦載機が出される。
 まずは派手な艦載機同士の戦いからだった、柴神も自ら出撃しエイリス軍の艦載機達を見る。その彼等はというと。
「かろうじてだな」
「はい、ジェットを実用化してきていますね」
「エイリス側も」
「そうだ、しかしだ」
 だが、だった。エイリス軍の艦載機達は。
「まだ実用化したてだ」
「その性能も運用もですね」
「まだこれからですね」
「しかも数もだ」
 それも違っていた、全体的な数ではエイリス軍の方が上だがそれでもだ、エイリス軍は幻影の艦隊にも戦力を割いている。その分こちらに向けている戦力が減っているおだ。
 それで艦載機の数も減っている、それでだった。
 柴神はその数も指摘してだ、こう言うのだ。
「いいな、これからだ」
「これからですね」
「そのエイリス軍の艦載機達に対して」
「攻撃を」
「仕掛ける」
 まさにそうするというのだ。
「各小隊に別れてだ」
「小隊単位で機動力を使い」
「そのうえで」
「敵軍に斬り込み切り裂け」
 まさに無数の鎌ィ足になってだというのだ。
「わかったな」
「了解です、それでは」
「今から」
 こうしてだった、枢軸軍は小隊単位に分かれ密集陣形を組んでいるエイリス軍の艦載機達にそれぞれ突入した、そして。
 実用化し新型にさえなっているジェット機の機動力と慣れた運用を駆使しまだジェット慣れしていないエイリス軍を攻撃した、その小隊単位の動きに。
 彼等は戸惑いだ、対応が遅れた。
 それで悪戯に損害を出してしまう、艦載機同士の戦いは枢軸軍にとって不利な状況になっていた。
 そしてだ、柴神はその戦局を見て全機に言った。
「ここには抑えを置いてだ」
「はい、そしてですね」
「次は」
「艦隊は攻めない」
 エイリス軍のそれはというのだ。
「マジノ線を狙う」
「そしてあの防衛ラインを崩し」
「そのうえで」
「隕石への守りをなくす」
 今隕石達はマジノ線で止めている、しかしそれをあえてだというのだ。
 柴神は艦載機達をマジノ線に向かわせそして破壊していった、隕石に集中していた防衛惑星達は後方から攻められあっさりと潰された。
 そしてだった、隕石達は。
 エイリス軍に降り注ぐ、だがその軌跡は今の彼等に当たる角度ではなかった。その後方に降り注ぐものだった。
 しかしそれで後方は遮断された、エイリス軍の退路を絶ったのだ。これを見てイギリスがセーラに苦い声で言った。
「やられたな」
「はい、しかしです」
 それでもだとだ、セーラは言う。
「それならば正面から進みです」
「勝つだけだな」
「死中に活ありです」
 毅然とした声でだ、セーラはイギリスに言うのだった。
「最初から退くつもりはありませんし」
「そうだな、じゃあな」
「全軍怯む必要はありません」
 セーラは腰の剣を抜いた、そして言うことは。
「このまま突撃です、艦載機は一旦収容します」
「ではこれから」
「枢軸軍にですか」
「艦隊自体での接近戦を挑みます」
 そしてその中には。
「接舷斬り込みも覚悟して下さい」
「あれをですか」
「されますか」
「勝利の為には」
 まさにだ、決死のその戦術もだというのだ。
「行います、無論私もです」
「セーラ様もですか」
「御自ら」
「斬り込みます」
 そうするとだ、平然と答えるセーラだった。
「エイリウ王室は常に自ら戦場に立つものですから」
「何と、陛下御自ら接舷斬り込みとは」
「何と勇ましい」
「エイリスの紋章は獅子とユニコーンですね」
 セーラはエイリス王室の紋章からも話した。
「勇気、そして優美」
「ああ、高貴と礼節も忘れずにな」
 イギリスも応える。
「行くからな」
「はい、それでは」
 セーラは自身の祖国の乗艦とクイーン=エリザベスを並べさせた。そうしてそのうえでだっや。
 枢軸軍に果敢に斬り込んだ、クイーン=エリザベスは自ら砲撃を行い枢軸軍の攻撃を上下左右に動きかしながら。
 大和に突撃する、その突撃は。
「!?まさか」
「ああ、そのまさかだな」
「はい、体当たりです」
 秋山は目を瞠って東郷に言う。
「そうしてきます」
「そしてそれからだな」
「接舷斬り込みですか」
「それをしてくるな」
「この時代にその攻撃で来るとは」
 最早過去の戦術というのがこの時代の戦術の常識だ、それで秋山は驚きを隠せなかったのだ。
 しかしエイリス軍はそのまま向かって来る、その為秋山も驚いているのだ。
 だが東郷は冷静だ、それでこう言うのだった。
「ならこちらもだ」
「迎撃の用意ですか」
「それなら任せるのだ」
 山下がいた、既にその手には刀がある。
「帝から拝領したこの正宗の切れ味を見せよう」
「正宗ですか」
「正真正銘のな」
 名前だけを付けたものではないというのだ。
「それを今抜こう」
「そうか、頼むな」
「陸軍の仕事は接舷時の白兵戦も入っている」
 そうした意味でも陸軍は他国では陸戦隊にあたる、日本帝国軍は陸軍と独自軍にしているのは特殊な例ではあるが。
「なら任せるのだ」
「セーラ女王が来てもだな」
「セーラ=ブリテン女王は剣術も相当な方だと聞いている」
 それなら、というのだ。
「是非手合わせ願いたい」
「俺が行こうと思ったがな」
「貴様も剣術は出来るな」
「一応有段者だ」
 東郷も軍人だ、身体は鍛えているというのだ。
「しかしまだ目録でな」
「免許皆伝ではないか」
「段にして七段だ」
 実力としてかなりのものと言っていい、だが免許皆伝段にして十段である山下と比べると。
「剣道でな」
「そうか、ではだ」
「下がっていろ、か」
「セーラ女王の相手は控えろ」 
 山下は冷静に東郷に告げた。
「あの方の剣術は日本の剣道で言うと免許皆伝の域らしいからな」
「目録、七段ではか」
「相手にならない、しかも私は居合も身に着けている」
 こちらも免許皆伝、そして十段だというのだ。
「女王にも対することが出来る」
「わかった、では接舷戦の際は利古里ちゃんに任せよう」
「陸軍の武を見せてやる」
 きっとした目でだ、山下は言った。
「大和は私が守る」
「それではな」
 こうしてだった、大和は陸軍を中心に接舷された際の迎撃用意が為された。そしセーラは実際にクイーン=エリザベスの将兵達及びエイリス軍全軍に命じた。
「体当たり、そしてです」
「接舷攻撃ですか」
「それに移ります」
 ロレンスにも言う。
「わかりましたね」
「はい、それでは私も」
「全員抜刀、帯剣の用意を」
 まさにだ、斬り込み戦のだというのだ。
「わかりましたね」
「はい、それでは」
「今から」
「斬り込みます、では」
 セーラは既に剣を抜いている、自ら斬り込むことはもう決めていた。
 大和とクイーン=エリザエスが激突した、双方に凄まじい衝撃が走る。
 しかしセーラはその衝撃の中毅然として立ちだ、全将兵に命じた。
「斬り込みます!」
「では!」
「今から!」
 将兵達も応える、守りの者達だけを置いてだった。
 セーラは先頭に立ち大和に斬り込む、その金髪の豊かな髪をなびかせて。  
 そのセーラを見てだ、さしもの日本軍の将兵達も唖然となった。
「本当に来たのか!」
「セーラ女王が自ら!」
「何と、女王自ら」
「来るとは」
「何という勇気」
「そして覇気か」
 セーラにあるものを見てだ、彼等は驚くのだった。
「エイリス女王、敵ながら見事」
「恐ろしいまでの誇りだ」
 大和の中で肉弾戦がはじまる、銃撃戦だけではなく刃と刃がぶつかる。山下の言葉通り戦うのは主に陸軍だった。
 山下も自ら先頭に立ち刀を抜いていた、そして。
 エイリス軍の将兵達を斬っていく、その中で。
 正宗を居合の要領で一閃させ気を放った、その気でエイリス軍の兵士を一人倒した。
 大和の廊下に倒れ込む敵兵を見てだ、言うのだった。
「セーラ=ブリテン女王は何処!」
「!?まさかの女」
「噂に聞く」
「我が名は山下利古里!」
 エイリスの将兵達に名乗る。
「日本帝国陸軍長官!お手合せ願いたい!」
「何と、陸軍元帥自らか!」
「戦うというのか!」
「それはそちらとて同じ!」
 エイリス軍もだというのだ。
「セーラ女王も先頭に立ち戦われているではないか!」
「だから陛下とか」
「元帥自ら戦うというのか」
「女王陛下に対して僭越なのは承知」
 陸軍長官といえども身分が違うというのだ。
「しかし陛下さえ宜しければ」
「戦われると」
「そう言うのか」
「宜しいか!」
 こうエイリス軍、大和の中で対峙する彼等に問う。
「返答や如何!」
「武士だな」
 山下の後ろには東郷がいる、その彼が山下に言う。
「そうして自ら名乗るとは」
「私は武士だ」
 まさにそうだとだ、山下は正面を見たまま毅然として答える。
「それ故にだ」
「作法に則り名乗りか」
「お相手を望んでいるのだ」
 まさにそうしたというのだ。
「私もな」
「成程な、見事だな」
「見事か」
「利古里ちゃんは日本になくてはならない人材だ」
 東郷はその山下にこう言うのだった。
「精神的な意味でもな」
「武士道は日本の心だ」
「しかし今の日本ではな」
「貴様もだ」
 山下は東郷のその一見すると軽薄な性格についても言った。
「その芯はわかっているつもりだがな」
「それでもか」
「そうだ、その表の顔は何とかしろ」
「これが俺だからな」
「全く、仕方のない奴だ」
 こうにこりともせず述べる。
「しかしその貴様もだ」
「俺もか」
「日本にとって必要だ」
 東郷、彼もまただというのだ。
「陸軍と海軍もまた、だ」
「まさに国家の両輪だからな」
 内務省と外務省もだ、即ち日本帝国はこの四つの輪があってこそ動く国家なのだ。
「そのどちらが欠けてもだ」
「何にもならないな」
「いがみ合っていてもな」
 大戦初期の東郷を認めず陸軍への敵愾心を持っていた己への反省も踏まえての言葉だ。
「それも何にもならない」
「お互いを知り共に日本の為に働く」
「それが為に海軍も貴様も必要だ」
 日本の為にだというのだ。
「それはわかっているつもりだ」
「随分高く評価されているな」
「そうは思わない」
 妥当な評価だというのだ。
「貴様を知っているつもりだからな」
「それは何よりだな」
「しかし武士道はだ」
 話が戻った、そのことを言うのだった。
「これから衰えていくだろう、軽薄才子ばかり出る様になる」
「それでもだな」
「武士道は必要なものだ」
 日本、山下達の国にだというのだ。
「私はそれをこれからも貫く」
「これからもか」
「若しセーラ女王がここに来てもだ」
 そして戦うことになってもだというのだ。
「私は生きる」
「約束してくれるか」
「武士道のまま戦い生きる」
 ここで何としても、と言わないのが山下だ。武士道から外れることは何があってもしないというのである。
「日本の為にな」
「今は死ぬべき時ではないか」
「人は必ず死ぬ」
 このことは絶対だ、誰であろうと人ならば避けられない。
 しかしそれは今ではないからだ、生きるというのだ。
「その時になればな」
「そういうことだな、さて」
「うむ」
 正面のエイリス軍の気配が変わった、そしてだった。 
 彼等は左右に分かれた、姿勢は起立だった。今も東郷と共にいる秋山がその整然とした彼等を見て言った。
「来られましたね」
「うむ、間違いなくな」
「あの人がな」
 山下と東郷が応える。
「来られた」
「今ここにな」
「ではだ」
 山下は再び言う。
「今からだ」
「健闘を祈る」
「ご武運を」
 東郷と秋山はそれぞれ山下に告げる。
「生きるんだ、いいな」
「武士道を見せて」
「そうする、ではな」
 山下は紙を出し刀身を拭いた、そして目の前では。 
 エイリス軍がだ、口々に叫んでいた。
「女王陛下万歳!」
「女王陛下万歳!」
 これが何よりの知らせだった、その言葉の中で。
 左右に分かれている彼等の間を影が進んできた、その影は次第に色を見せてきていた。 
 日本軍の将兵達、陸軍の者も海軍の者も息を呑む。見事なブロンドに澄んだ緑の目、エイリスの緑と白の服に身を包んだ彼女を見て。
「あれがか」
「エイリスの女王か」
「噂には聞いていたが」
「あれが」
 そしてその名は。
「セーラ=ブリテン」
 今その勇姿を現わした。毅然とした姿を戦場に出したのである。


TURN131   完


                                2013・8・14



ここに来て、魔術による幻影作戦か。
美姫 「マジノ線を防御に使われたら確かにちょっと厳しい所もあったしね」
幻影と隕石の利用でマジノ線と敵の戦力を分散。しかも、自分達は全戦力を一箇所に向けれるという。
美姫 「中々考えたわね」
上手くいったしな。とは言え、まさかの接舷。しかも、女王自ら乗り込んでくるとか。
美姫 「次は戦艦による戦いではなく一騎打ちね」
どうなるか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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