『ヘタリア大帝国』




               TURN134  ジブラルタル会戦

 エイリス軍が各星域に送り込む艦隊による攻撃で枢軸諸国はその各星域での警護を固めていた、そしてである。
 それで主力が集結しているパリ星域への予備戦力の派遣と補給はかなり減っていた、このことはそのままロンドン攻略作戦である第二次アシカ作戦にも影響していた。
 秋山は東郷に深刻な顔で話した。
「現状ではロンドン侵攻は出来ても」
「確実に勝利することはだな」
「百パーセントではありません」
 確実には勝てない状況だというのだ。
「そこまで戦力がありません」
「やはりエイリスの本国艦隊は強いな」
「数もあります」
 温存していた彼等がというのだ。
「しかも名将が揃っています」
「セーラ女王、エリザ前女王、イギリスさん達にな」
「そしてロレンス騎士提督です」
「それだけの人材がいれば」
 それこそ、というのだ。
「ドクツに対抗出来たのも道理だ」
「そうです、それだけの戦力がありますから」
「こちらも迂闊には攻められない」
「それが現状です」
 秋山は深刻な顔のまま東郷に話す。
「あと少しの戦力があれば確実に勝てますが」
「各星域にエイリス軍が来る現状ではな」
「まだ攻められません」
「何とか出来ないものかというとな」
「やはり難しいです」
 その何とか出来る戦力を届けることが出来ないからだ。
「補給も減っていますし」
「戦えない、餓えないという程度ではないがな」
「充分あるにはありますが」
「しかし作戦を成功させるだけは届くかというとな」
「そこまでいきません」
「難しい、微妙な状況だな」
「全くです」
 こうした事情で中々攻められなかったのだ、あと一歩だが。
 だからだ、ここでこうも言う秋山だった。
「一か八かという作戦も立てられますが」
「今それをして失敗するとな」
 その時が怖い、実は慎重派の統合がその場合のことを指摘する。
「逆にパリを奪われてだ」
「そこから一気にですね」
「主力が壊滅するとな」
 予備戦力も迂闊に動かせない現状ではだ。
「欧州位は取られる」
「そうなればまた戦力が均衡しかねません」
「戦争のさらなる長期化を招いてしまう」
「ですから」
 その一か八かの作戦も出来ないのだった、とにかく今枢軸軍は迂闊に動くことは出来なかった。そしてその状況に。
 積極派は口々にだ、起こりながら言った。
「まだるっこしいね、ここまで来たら一気にだろ」
「そうだホーーー!攻めるべきだホーーー!」
 キャシーとケツアルハニーが苛立ちを隠さずに言う。
「この戦力だったら勝てるだろ」
「だから第二次アシカ作戦決行だホーーー!」
「ああ、もうここまで来たらやってやろうぜ」
 田中もこちら側だった、彼らしく。
「エイリスの奴等しめればいいんだよ」
「そうなんだぜ、あの眉毛をやっつけてやるんだぜ」
 国家では韓国がこちら側にいた。
「もう押し潰せばいいんだぜ」
「そうだ!大暴れするのだ!」
 アルビルダも強硬派の立場から主張する。
「エイリス軍とどちらが本当の海賊か戦って決めるのだ!」
「おう、やってやるっぺよ」
 デンマークも笑顔で主張する。
「勝って平和になるっぺよ」
「それが出来たらとっくに攻めているよ」
 その彼等を宥めるのは四国総督だった、総督は冷静に話した。
「それはね」
「確実じゃないっぺか、攻めても勝てるかどうか」
「そうだよ、今の僕達ではね」 
 総督はデンマークに冷静に答える。
「まだね」
「戦力が足りないっぺか」
「予備戦力、いざという時のそれも足りないし」
「他には何がないんだぜ?」
「補給物資もね」
 それもないと答える総督だった、今度は韓国に。
「ないからね」
「ちっ、じゃあ仕方がねえな」
 予備戦力と補給の問題だからだと答える田中だった、彼はこの辺りは実に冷静に見極められるのだ。伊達に日本軍の連合艦隊副司令ではない。
 それでだ、こうも言うのだ。
「それじゃあな」
「そう、今は時期を待とう」
「一か八かの作戦は駄目だホーーー?」
 ケツアルハニーが総督に問うた。
「博打作戦だホーーー?」
「外れた時が怖いからね」
 だからだとだ、こう返す総督だった。
「失敗した時は反撃を受けるよ」
「ううん、残念だホーーー」
「安全策でいかないとね」
 総督は学者出身らしく強硬派の面々に話した。
「最後の最後は余計にね」
「じゃあ今はステーキでも食って待とうかね」
 キャシーはここまで聞いてとりあえずという感じで述べた。
「ティーボーンのでかいのを」
「うん、腹が減ってはっていうからね」
 総督はキャシーの食事のことについては止めるどころか勧めた。
「今はそうして英気を養おう」
「そういうことだな、じゃあ俺は寿司にするか」
 田中が食べようというのはこれだった。
「トロ食うか」
「俺はチゲを作るんだぜ」
 韓国は自分の得意料理にすることにした。
「それであったまるんだぜ」
「んっ、パリはそんなに寒いか?」
「快適だと思うっぺよ」
 韓国が食べて温まろうという言葉にだ、アルビルダとデンマークが応えた。
「むしろ暑い位だ」
「それで温まる必要なんてないっぺ」
「いや、今冬だから」
 総督は二人に温度は気候のことを話した。
「パリの冬は寒いよ」
「そうなんだぜ、ここはかなり寒いんだぜ」
 韓国はここで真剣に語った。
「それで暑いとかないんだぜ」
「北欧に比べればずっと暑いぞ」
「まるで夏なんだぜ」
「あんなところと比べたら何処でも暑いだろ」
「ハニー達にとっては北欧は地獄だホーーー」
 キャシーとケツアルハニーも言う、特にケツアルハニーはだ。
「極寒地獄だホーーー」
「うん、アマゾンと比べると特に凄いね」
 総督はここでも冷静に言う。
「四国と比べても相当だからね」
「だからチゲであったまるんだぜ」
 またこう言うハニーだった。
「そうするんだぜ」
「じゃあ僕も何か食べようかな」
 総督も一連の話から思った。
「キーウイのサラダと羊料理でも」
「私達も何か食べるぞ」
「そうしようっぺ」
 何だかんだでアルビルダとデンマークも応える、こう話してだった。
 枢軸軍の強硬派も動くよりも英気を養うことにした、防衛艦隊司令官である山本もこの状況についてはこう言う。
 丁度花札をしながらだ、一緒に遊んでいる柴神に言った。
「どうもこういう状況はな」
「膠着状態はか」
「好きになれんな」
 花札の札を選びながら言う。
「どうもな」
「そうだな、しかしだ」
「ここで迂闊に動いてはな」
「動いた方がやられる」
 柴神も言う。
「そうなる」
「そうじゃ、今はじゃ」
「待つしかない」
「では花札を続けるか」
 ここで酒を一杯飲む、見れば二人が今いる場所は賭場だ。山本が自分の乗艦に特別に作らせたものだ。
 その中で花札をしながらだ、今度は柴神から話してきた。
「そういえば御主のことだが」
「ああ、あのことだな」
「そうだ、古賀提督と結婚するな」
「戦争が終わったらな」
 その時にだとだ、山本は柴神の問いに答えた。
「そういう予定じゃよ」
「そうか」
「ははは、これで子供でも出来たらな」
 山本は鉄火巻きを飲みつつ笑いながら話した。
「さらに楽しくなるな」
「まさか御主が身を固めるとはな」
「思わんかったじゃろ」
「これまで独身だったが」
 六十八歳になるこの時までだ。
「それがか」
「うむ、こうしたことは縁じゃな」
 結婚、そうしたものがだというのだ。
「まさかこうなるとはのう」
「そうか」
「うむ、そうじゃ」
 こう話してだ、そしてだった。
 山本は花札を続ける、そうして。
 その札を見てだ、柴神に言った。
「猪鹿蝶じゃ」
「そうか、どうもこうしたものではな」
「わしには勝てぬというのじゃな」
「うむ、やはり賭けごとだとな」
「こうしたものは読みじゃよ」
「運ではなくだな」
「それと勘じゃ」
 山本は賭けごとはそれだと考えている、実際にそうしたもので勝ってきたのでそれで言えるのである。
 そしてだ、札を見ながらこうも言うのだ。
「運頼みでは破産するわ」
「それで破滅した者は多いな」
「それと楽しむことじゃ」
 このことも大事だというのだ、賭けごとには。
「それも大事じゃ」
「勝とうと思うことはどうだ」
「いや、それはな」
 山本は柴神のその問にはこう返した。
「よくない」
「かえって欲が出るからか」
「そうじゃ、勝とうと思わずに」
 そのうえでだというのだ。
「読みと勘を働かせてな」
「欲を出さずにか」
「そうしていくものじゃ、ではな」
「はい、それでは」
 こう話してそしてだった、彼等は賭けごとを続けていくのだった。
 枢軸諸国は今はどちらかというと落ち着いていた、だが。
 エイリス軍は違っていた、セーラは国家の主だった者達を集めて作戦会議を行っていた、そしてこう言うのだった。
「確かに各星域に艦隊を送り枢軸諸国の動きは止めていますが」
「それでもっていうのね」
「はい、座して待つよりは」
 こうエリザに答える。
「攻めましょう」
「パリにいる枢軸軍の主力に対してね」
「全力で」
 そしてだというのだ。
「一気に攻めましょう」
「ここで動かれますか」
 イギリス妹はセーラの今の話を聞いてこう言った。
「迂闊に動けばとも思いますが」
「私もそう思います、ですが」
「議会ですか」
「はい、貴族達がです」
 最早エイリスの頭痛の種となっている彼等がだというのだ。
「自分達の軍を動かしかねない状況です」
「現状に苛立ちを感じて」
「彼等の戦力も貴重な予備戦力です」
 すぐにセーラの指揮下には置けないがそれでもだというのだ。
「それを失いさらに敗戦で国民が意気消沈することは避けねばなりません」
「相手が士気を上げることもですね」
「はい、両方をです」
 ここは是非にというのだ。
「ですから」
「ここは攻めますか」
「貴族艦隊も出撃します」
 その彼等もだというのだ。
「ならば正規軍も動かしてです」
「その数で、ですか」
「攻めてそして」
 そうしてだというのだ。
「これを機会に勝利を収めることも」
「考慮すべきですか」
「そうも思いまして」 
 それでだというのだ。
「ここは攻めましょう」
「わかりました、それでは」
「ああ、攻めるならな」
 イギリスも妹に続いて言う。
「勝たないとな」
「それでは今から貴族艦隊と主力を率いて」
「パリに逆侵攻ですね」
 ロレンスも言って来た。
「そうしますね」
「是非共」
 こう話してだった。
 エイリス軍は出陣を決定した、だが。
 その中でだ、喜んでいるのは貴族だけだった。
「よし、これでだ」
「パリで奴等を倒して一気にアフリカまでだ」
「アフリカまで進撃し植民地を奪回だ」
「そうしないとな」
 至って楽観的だった、勝利を確信していた。
 しかし軍人達は暗い顔で言うのだった。
「まずいな」
「うむ、女王陛下も不本意だというがな今回の出陣には」
「ここは動いたら負けだが」
「女王陛下も難しいところだな」
「貴族共が」
 その彼等への批判にもなる。
「自分勝手に攻めようとするとは」
「一体どういうつもりだ」
「統制を離れた軍程危ういものはないというのに」
「国を過つ元だぞ」
「それをするというのか」 
 その愚に不満を募らせる、そしてだった。
 中にはだ、こう言う者すらいた。
「出来ればあの連中を」
「そうだな、除かねばな」
「貴族達こそエイリスの今の癌だ」
「それ以外の何者でもない」
「だからこの戦争の後は、いや今すぐにでも」
「奴等を何とかせねば」
 彼等、士官の多くも貴族だが所謂門閥貴族ではなくしかもこれといって利権も持っていない。厄介なのは利権を貪る者達なのだ。
 その彼等についてだ、軍人達は言うのだ。
「奴等はエイリスのことなぞ考えてはいない」
「考えているのは自分達のことだけだ」
「ただ利権を貪るだけではないか」
「国家の柱をかじっているのだ」
「まさにエイリスのシロアリだ」
 つまち害虫だというのだ、エイリスにとって。
「早く何とかしなければな」
「どうにもならないぞ」
「エイリスが滅びる
「そうなってもおかしくない」
 彼等は貴族達に危惧を感じていた、実際に貴族達と軍人達の艦隊は完全に分けられていた。そしてセーラ達は軍人の方にいた。
 軍人達は右翼だ、そして貴族達は左翼だ。セーラはその左翼を見て難しい顔で言った。
「彼等は私の統率を受けないつもりですか」
「全くという程ではないですが」
 イギリス妹がセーラに述べる。
「ですが」
「ああしてですね」
「はい、完全に分かれています」
 軍人達の正規軍からというのだ。
「これがよくないことにならなければいいですが」
「そうですね、本当に」
「はい」
 だからだとだ、イギリス妹は言う。
「貴族艦隊の質は」
「よくありません」
 セーラも難しい顔で言う。
「実際のところ」
「旧式艦で職業軍人で編成されておらず」 
 傭兵、若しくは私兵で構成されている。言うならば領内の自警団に毛が生えた様な戦力でしかないのだ。
「しかも指揮官は」
「貴族達ですから」
「あの人達は戦争を知りません」
 ただ利権を貪るだけの連中だというのだ。イギリス妹は言葉の中にそうしたものを入れてセーラに述べる。
「ですから」
「戦力にはなりません」
 セーラも言う。
「数はありますが」
「烏合の衆です、艦隊編成も酷いものです」
「実際あれはないな」
 イギリスもその艦隊を見て言う。
「戦艦も巡洋艦も駆逐艦もな」
「ばらばらに配置しています」
「エネルギー反応がまちまちじゃねえか」
 イギリスはその反応も見て言う。
「これじゃあな」
「戦力にはなりません」
「ああ、俺達がフォローっていうか指揮下に置いて戦うべきだがな」
 だが、なのだ。それが。
「言うこと聞かねえからな」
「最近では女王である私の命令も」
 セーラ、国家元首である彼女のそれもだというのだ。
「あまり聞こうとしません」
「今彼等の権益は殆どなくなっているわ」
 エリザも言う。
「だからそれを取り戻そうということばかり考えているから」
「他のことに目がいかず」
 それでだった。
「私達の言うことも」
「聞かなくなっているのよ」
 エリザはイギリス妹に難しい顔で話した。
「おいそれとはね」
「由々しき事態ですが」
「今すぐにはどうも出来ないわ」
 戦場に向かっている、そうした緊急時ではだ。
 何も出来ない、それでエリザもぼやくのだ。
「この戦いもね」
「負けると」
「陣の左翼があれよ」
 全く戦力にならない状況だというのだ。
「だからね」
「それに気付かない枢軸軍でもありません」
 ロレンスも彼等を見て浮かない顔だ。
「必ずや」
「そこから攻められてね」
 エリザはまた言った。
「負けるわ」
「こちらの備えは用意しなければ」
「備え?」
「はい、左翼が破られた時には」
 既に貴族達が敗れることは念頭に置いてあった、セーラにしても。
「その時には我が軍は円陣を組みです」
「左から来る敵にも備えるか」
「そうしようと考えています」
「そうだな、けれどな」
 イギリスはセーラの話を聞いてから彼女に難しい顔で述べた。
「貴族の連中を助けないとな」
「潰走した時にですか」
「連中は助けなかったとか言うだろ」
「確かに」 
 言われればその通りだった、彼等の身勝手さを考えれば。
「そう言い出しますね、彼等は」
「だろ?だからな」
「ここはですね」
「ああ、そうなった時は連中のフォローに回らないとな」
「それだと勝てないわよ」
 エリザがイギリスに話す。
「この戦いは」
「連中が逃げるのを援護したらか」
「ええ、彼等は逃げるのも遅いわよ」
 撤退にも訓練が必要だ、しかし彼等はそもそも軍事訓練自体をしていない。軍事についても完全に素人なのだ。
 だからだ、彼等の撤退の後詰に回っていると。
「それだけで枢軸軍の攻撃を受けて」
「攻めるよりも守ってな」
「ええ、それで負けるわよ」
 枢軸軍相手には攻めていかないとならない、それで言うのだ。
「ここはね」
「攻めないと駄目なのはわかってるさ」
 イギリスでもだ、そのことはわかっていた。
 だが、だ。それでもだというのだ。
「けれどな」
「彼等をフォローしないと後で何を言い出すかわからないからなのね」
「そうだよ、そのことを考えるとな」
 どうしてもだというのだ。
「敗因になってもな」
「そういうことね」
「ああ、連中を助けるしかないんだよ」
「正直なところそれでは」
 ロレンスがここでまた言う、それも難しい顔で。
「今度の戦いは」
「負けるな」
「そうなりますが」
「それでもそうするしかないからな」
 だからだと言ってだ、イギリスは今度はセーラに問うた。
「これでどうだよ」
「そうですね、彼等の性格を考えますと」
 セーラもそうすればどうなるかわかっている、だがだ。
 貴族達の後の反発を考えるとイギリスの言葉を受け入れるしかなかった、それでこの決断を下したのだった。
「それしかありません」
「そうだよな」
「はい、それでは」
 こう言ってだ、そしてだった。
 エイリス軍正規軍は貴族艦隊への対応も決定した、彼等は友軍であっても最早敵よりも悪質な者達だった。
 エイリス軍が出陣したことはすぐに枢軸軍にも伝わった、日本はそのことを聞いてすぐに東郷に言った。
「すぐにこちらも出撃しましょう」
「ああ、迎撃にな」
 東郷もすぐに日本に応える。
「出るか」
「では」
「しかし妙だな」
 ここで言うのは山下だ、丁度東郷と二人で作戦会議をしていてそこに日本が報告に来たのである。それで彼女もいるのだ。
 その山下がだ、首を傾げさせて言うのだ。
「今ここで動くことはだ」
「そうだ、今は動いた方が負けだ」
 戦線が膠着しているからだ、東郷も言う。
「それで動くのはな」
「愚だ、セーラ女王も他のエイリス上層部もそこまで愚かとは思えないが」
「女王達はな、しかしだ」
「貴族の連中か」
 山下もすぐにわかった、このことは。
「連中が騒いだか」
「そういうところだろうな、エイリスでは貴族及び貴族院の発言力も大きいからな」
「腐り果てた特権階級だな」
 山下は実に彼女らしく述べた。
「相変わらず」
「その貴族達が出て正規軍も動いたのだろう」
「そうだな、ではだ」
「こちらも出る、そしてだ」
「ここでエイリス軍を叩いてか」
「そして勝つ」
 エイリス軍の戦力を叩いてだというのだ。
「第二次アシカ作戦を実行に移す時だ」
「そうだな、ではまずはな」
「エイリス軍を迎え撃つ」
 まさにそうすると言ってだ、そしてだった。
 枢軸軍の主力はすぐに出撃した、だがただ迎え撃つのではなかった。
 むしろ先に出た、布陣したのはドーバー即ちパリとロンドンの境にあるまさにその場所に出たのである。
 そのドーバーにおいてだ、フランスは前つまりエイリス軍が来るであろう方角を見てそのうえでこう言うのだった。
「ここで戦うってのはな」
「予想してへんかってんな」
「パリ星域の前で布陣すると思ってたよ」
 これがフランスの予想だったのだ。
「けれどそれがな」
「ここに布陣したのはなあ」
 ベルギーはフランスと一緒に前を見ながら言うのだった。
「東郷さんらしいっていうか」
「奇抜や」
 オランダも言う。
「どう戦うか見ものや」
「そうやな、長官さんどうするんやろ」
「それを見せてもらうか」
「そやな」
「俺いつもイギリスとやり合う時はここじゃ戦わないんだよ」
 フランスは自分のことから話していた、そうしているというのだ、。
「もっとな」
「ああ、パリでやな」
「引き込んで戦うな」
「それか他の国でな」
 トラファルガーでもワーテルローでもだ、それは何故かというと。
「百年戦争の時国内で戦ってダメージ受けたからな」
「あの時あんた国の半分取られてたしな」
「負けっぱなしやったな」
「最後の最後で勝ったからいいだろ」
 ベルギーとオランダの容赦ない言葉にも返す。
「別にな」
「けどほんま盛大に負けてたなあんた」
「特にエドワード黒王子に」
 エイリスは王族ならば戦場で戦うことが務めだ、それが男であろうとも。ただしエイリスは男なら王位継承権はない。
「果敢に突っ込んでロングレンジ攻撃でな」
「壮絶に負けてたな」
「ああ、その話は出すなよ」
 エドワードという名前は、というのだ。
「あとウェリントンとかもな」
「ネルソンさんは子孫の人こっちにおるけれどな」
「どうも」
 そのネルソンがフランスにモニターから一礼してくる。
「本当に奇遇ですね」
「だよな、あんたの場合は仕方ないにしてもな」
 フランスの敗北の方が多い歴史を思い出すとだっというのだ。
「オーストリアとかそのイギリス絡みで俺は相当負けてるからな」
「フランスさんの勝率は何と暗黒時代の阪神タイガース以下です」
 小澤が出て来た、そして日本の野球チームを引き合いに出してきた。
「あの毎年最下位を独走していた頃の阪神と」
「俺野球ははじめたばかりだけれどすげえ嫌な感じの例えなのはわかるからな」
 フランスはうんざりとした顔で小澤に返した。
「そんなに弱いか?俺」
「あんたまともな相手に正面からやって勝ったことないやろ」 
 ベルギーはフランスに今回も容赦のないことを言う。
「そやろ」
「三十年戦争では勝っただろ」
「あの時オーストリアさんもスペイン親分も長い戦争でへとへとやったやん」
「そこを攻めた俺の戦略勝ちなんだよ」
「その後調子に乗った太陽王さんが負けまくって元の木阿弥やったな」
「・・・・・・まあな」
 フランスにとってはこれも忌々しい記憶だ、栄華を極めた太陽王が派手に戦争を行いエイリス、オーストリアに負け続けたのだ。
「今度は俺がへとへとになってな」
「そんで、オーストリアさんの継承戦争に口出ししてハンガリーの姉ちゃんに蛸殴りにされて」
「七年戦争ではエイリスに負けたわ」
 オランダも言う、尚彼もオフランスとは何度も戦っている。
「あんたほんま弱いな」
「その後ナポレオンが出ただろ」
 苦し紛れにだ、フランスは彼の名前を出した。
「それで勝ちまくっただろうが」
「トラファルガー」
 だが、だ。その彼に小澤がこの場所を囁いて来た。
「モスクワ、ライプチヒ、そしてワーテルロー」
「・・・・・・わかったよ、よくな」
 フランスは小澤の容赦ない言葉にへこむしかなかった。
「あんたきついな」
「私はドサドですので」
「それもかなりのなんだな」
「困っている男の方の顔を見るのも」
 好きだというのだ。
「受けの感じが」
「じゃあ俺はかなりの受けか」
「負けまくっていますから」
「一次大戦では勝ったんだけれどな」
 その間の普仏戦争のことはあえて言わない。
「それで許してくれよ」
「まあな、あの戦争でも殴られまくってたけれどな」
「勝ったことは勝ったな」
 ベルギーとオランダはこの時は戦場になった、シュリーフェン計画に基づきドクツ軍が攻め込んできたのである。
「それでもな」
「確かに勝ってるわあんた」
「けれど毎回毎回殴られてるな」
「それも壮絶に」
「だから戦いはな」
 フランスはこれまで経てきた戦いのことを思い出しつつ述べる。
「あまりしない方がいいんだよ」
「それはその通りですね」
 小澤もこのことはフランスに同意した。
「野球の試合ならともかく」
「それかサッカーだな」
「フランスさんは柔道もお好きですね」
「妙に肌に合うんだよ」
 その柔道が、というのだ。
「だからな」
「よくされてるんですね」
「フェシングとか乗馬もいいけれどな」
 日本の柔道もだというのだ。
「あっちも面白いな」
「柔道やったら俺もや」
 オランダも柔道と聞いて乗り気な感じになっている、それで言うのだ。
「好きや」
「御前柔道滅茶苦茶強いからな」
「俺の肌にも合ってるわ」
「だよな、あとロシアも強いな」
「あいつもかなりや」
「やっぱり日本が一番強いけれどな」
 このことは本場だけあると言えるだろうか、日本の柔道の腕は他の国と比べてもトップにあると言っていい。
「あいつも強いからな」
「それも滅茶苦茶に」
「サンボもあるからな、あいつのところは」
 カテーリンも奨励している、健康に汗を流して身体を作れと言っているのだ。
「やっぱり強いな」
「そや、あいつはな」
「まあ戦争が終わったらオリンピックも再開するしな」
「そっちの戦いに励むか」
「そこじゃ絶対に負けないからな」
「容赦せんで」
 彼等はスポーツのことも話した、そして。
 先陣を務めているロンメルが東郷にモニターを使って報告した。
「来ましたよ」
「そうか、来たか」
「エイリス軍は左右に分かれています」
 ロンメルはエイリス軍の布陣のことも話した。
「右翼は最新鋭の艦隊で整然と布陣していますが」
「左翼は、か」
「数は多いですが旧式艦艇ばかりでしかも各艦を雑然と配しているだけです」
「その布陣を見せてくれるか」
「はい」
 すぐにだった、トロンメルは応えて大和にその布陣を映したものを送った、すると。
 その布陣はロンメルの言う通りだった、右翼は綺麗な兵法に適った布陣だったが左翼は全く違っていた。まさに雑軍だ。
 その雑軍を観てだ、東郷は言った。
「まさに烏合の衆だな」
「どうということはありませんね」
 こうだ、こう言うロンメルだった。
「左翼は」
「まずはそこから攻めるか」
 東郷はすぐに作戦も決めた。
「ここはな」
「敵の弱点から攻める、ですね」
「ああ、まずは左翼を崩し」
 そしてだというのだ。
「そこからさらに右翼を攻めるか」
「では」
「全軍まずは敵の右翼に向かう」
 最初はそこにだというのだ。
「そこからはまた言う」
「了解です」
「それでは」
 ロンメル以外の将兵達も応える、そうしてだった。
 枢軸軍はエイリス軍と対した、その数はというと。
 やはりエイリス軍というか貴族の軍の数が多い。彼等の数を入れると。
「こっちの三倍ね」
「そうだな」
 レーティアはグレシアのその言葉に頷いて返した。
「数だけはな」
「正規軍の数は互角だけれどね」
「敵の左翼の数が多い」
「こちらの二倍よ」
 グレシアはその数を言った。
「二倍、けれどね」
「質は悪いな」
 レーティアも言う、彼等のことを。
「あれはエイリス貴族達の艦隊だ」
「ええ、そうよ」
「旧式艦艇だけの艦隊を素人達が率いている」
「どうということはない相手ね」
「一蹴出来る」
 今の枢軸軍ならというのだ。
「容易にな」
「相手はそれがわかっているかしら」
「わかっている筈がない」
 全くだというのだ。
「あの者達だけはな」
「まさに敗因の塊ね」
「だから長官もだ」
「まずは彼等を叩くつもりね」
「では見せてもらう」 
 堂々とした物腰でだ、レーティアは言った。
「この戦いでもな」
「長官の戦い方をね」
「長官の戦術指揮は私のそれに匹敵する」
 戦術においても天才であるレーティアのだ。
「だからだ」
「楽しませてもらうのね」
「見せてもらってな」
 実際にレーティアの今の顔には微笑みさえ浮かんでいる、その顔でグレシアに対して語っているのである。
「そうさせてもらおう」
「ではね」
 グレシアも応える、そうしてだった。
 枢軸軍はまずはエイリス軍正規軍の前に来た、セーラはその彼等を前にして冷静な顔でこう全軍に命じた。
「今は動かずに」
「そうしてですね」
「相手の出方を見ましょう」
 守りの陣は整えている、だからだというのだ。
「そうしましょう」
「そうですね、それがいいですね」
 ロレンスもそれがいいと見ていた、それでセーラの言葉に頷いたのだ。
 正規軍は敵の出方を待っていた、相手が動けばそこから攻めるつもりだった。この場でも動いた方が負ける、そうした状況だった。
 だから両軍睨み合いに入った、間合いは双方の攻撃範囲外だ。余裕がある状態での対峙を続けていたが。 
 その状況を見た貴族の一人がここで言った。
「おい、今だぞ」
「そうだな、今だな」
「今攻めるべきだな」
 他の貴族達も言う。
「敵軍を横から攻めれば勝てる」
「我等が手柄を立てる時だ」
「ここで手柄を立てれば王室への発言力も増す」
「そして植民地を奪い返すことも出来る」
「ではな」
「今ここで」
「よし、全軍でだ」
 貴族艦隊全てでだというのだ。
「敵を横から攻めるぞ」
「うむ、そうして奴等を叩き手柄を挙げようぞ」
「今からな」
「そうして勝つぞ」
 彼等はそれぞれ動きだした、左翼は全て動いた。  
 しかし彼等には司令官がいない、しかも素人ばかりだ。その動きはばらばらでしかもかなり遅いものだった。
 その彼等を観てだ、イギリスは顔を顰めさせて呟いた。
「馬鹿か、あいつ等」
「ここで動けば」
「相手の思う壺だろ」
 こうイギリス妹にも返す。
「それがわかってねえな」
「そうですね、全く」
「負けるぞ、これは」
 イギリスはその顰めさせた顔で言う。
「あの連中こそやられてな」
「そうなりますね」
「ったくよ、どうする?」
「ここは前に出るべきでしょうか」
 イギリス妹が言う。
「そうすべきでは」
「ああ、いや」
 イギリスが自身の妹に応えセーラに言った瞬間にだった、既に。 
 枢軸軍は動いていた、それでだった。
 その鈍重な貴族達に向かっていた、その動きはエイリス軍正規軍のものより速い、それもかなりである。
 艦艇の質だ、それが出ていた。
「今追いかけてもな」
「間に合いませんね」
「そこまで読んでいるな」
「どうしますか、ここは」
 イギリス妹はセーラに判断を仰いだ。
「陛下は」
「本来ならばここで枢軸軍を追い貴族艦隊との挟み撃ちにすべきですが」
 貴族艦隊が攻撃を受けている間に敵の後方に回る、戦術のセオリーである。
 だが、だ。セーラは今はそのセオリーは出来ないと判断した。その判断の根拠はというと。
「しかしそれは」
「出来ませんね」
「彼等が納得しません」
 その貴族達が、というのだ。
「決して」
「挟撃という戦術よりも」
「自分達への救援を要請してきます」
 そうしてくることは予想出来た、それも容易に。
「ですからここは」
「彼等の救援に向かうのですね」
「そうです、枢軸軍への攻撃ではなく」 
 そちらを採るというのだ。
「そうしましょう」
「わかりました、それでは」
「全軍左翼に向かいます」
 セーラはすぐに全軍に指示を出した。
「今から」
「了解です」
「それでは」
「この戦い、どうやら」
 セーラは沈痛な顔で一人呟いた、全軍に指示を出した後で。
「我が軍の」
 こう呟く、しかしこの言葉を聞いた者はいなかった。エイリス軍の心ある者達はこの戦いでの敗北を悟らざるを得なかった。


TURN134   完


                               2013・9・5



つくづく、貴族たちが邪魔をしているな。
美姫 「無理に開戦しておきながら、ろくな策もなく目の前の餌に飛びつくとわね」
おまけに負けそうになれば、間違いなくすぐに救援を求めるだろうな。
美姫 「本当にエイリスは負けるべくして負けるわね」
それでも、貴族達は自分達の責任じゃないと言い張るだろうな。
美姫 「でしょうね。一体、どうなるのかしらね」
そんな気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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