『ヘタリア大帝国』




                   TURN136  帰還

 枢軸軍もエイリス軍も一瞬だった、しかしその一瞬の中で。
 彼等は様々なことを考えた、日本妹がまず言った。
「お兄様達はご無事でしょうか」
「そうですな、東郷達も祖国殿も」
 宇垣も日本妹にすぐに応える、彼の顔は強張っている。
「何処に行かれたのか」
「?どうやら」
 ここで日本妹は察した、その察したことはというと。
「お兄様達はご無事です」
「感じられましたか」
「はい、若しお兄様に何かあれば」
 その時はというのだ。
「日本という國自体に、星域に異変が起こりますが」
「それがないですか」
「そうです、全く」
 それがないというのだ、日本星域自体に。
「ですから特に」
「では祖国殿はご無事ですか」
「そしてどうやら」
 日本妹はさらに言う。
「イギリスさんもまた」
「祖国殿もご無事ですか」
 ネルソンは何とか普段の礼節を保っている、だが祖国への心配は隠せずそのうえで日本妹に問うたのだ。
「そうですか」
「エイリス側に異変は見られませんね」
「そうですね、特に」
「ですから」
 そうした異変はない、ロンドンにも。
「何もありません」
「そうですか、それは何よりです」
「お二人が無事なら」
 それならというのだ。
「乗艦こそ違いますが」
「女王陛下もご無事ですか」
「はい、そうです」
 その通りだというのだ。
「あの方々はご無事です」
「そのことはいい、しかしだ」
 柴神がここで言う、強張った顔で。
「問題は彼等が今何処にいるかだ」
「?どの星域にいるかということだな」
 ベトナムが柴神に対して問う。
「そういうことだな」
「いや、世界がだ」
「世界?」
「若しあの世界に行っていれば」
 柴神は今は独り言を言っている、だが彼はこのことに気付かずそのうえで言葉を出していっているのだ。
 そしてだ、こうも言うのだった。
「まずいな、知ってしまうのか」
「おい、どうした」
「あの、一体」
 ベトナムだけでなくタイも柴神に問う。
「柴神殿、様子がおかしいぞ」
「どうしたのですか?」
「!?いや、何でもない」
 柴神は二人の言葉に気付いた、それでだった。
 ふと思い出してだ、こう言ったのである。
「気にしないでくれ」
「そうか、そう言うのならな」
「僕達は構いませんが」
「うむ、とにかくだ」
 柴神は心の中の動揺を何とか抑えつつそのうえで語る。
「皆無事ならまずはよしだな」
「じゃあ後は何処に出たか調べよう」
 ここで言ったのはインドネシアだった。
「まずはね」
「チェリノブに行くといい」
 柴神はインドネシアにこう返した。
「あの星域にな」
「チェリノブですか」
「そうだ、そこに行くのだ」 
 そこに行けばいいというのだ。
「そうすればそこに行く」
「そうですか、それでは」
「チェリノブに行こう」
 ロシアも行って来た。
「案内するよ」
「生きていれば、いや東郷と日本殿達なら必ず生きて帰って来る」
 柴神もこのことは確信していた、だがだった。
 彼はその他のことを心配していた、しかしそのことは誰にも言わないのだった。一行はそのうえでチェリノブに向かうのだった。
 東郷達は今自分達がいる星域を調べた、だが。
 この星域には何もなかった、それで言うのだった。
「次の星域に移るか」
「はい」
 秋山が東郷に応える、そしてだった。
 発見したワープ航路に向かい別の星域に入った、だがそこには。
 思わぬ相手がいた、それはというと。
「富嶽、とは」
「どういうことだ!?」
 日本も山下もモニターに映る富嶽の巨体に驚きを隠せない。
「しかも二匹も三匹も」
「富嶽はあれだけいるのか」
「考えてみれば」
 ここでだ、日本が言う。
「どの様な生物でも一匹では存在出来ません」
「それなりの個体数が必要だな」
「最低でも十つがい、二十匹はいなければ」
「種として存続出来ないな」
「そうです、ですから」
「富嶽が何匹いてもか」
「不思議ではありません」
 むしろ一匹しかいない方が不自然だというのだ。
「ですから」
「ここは富嶽の巣か」
「おそらくは」
「そういうことか、しかしだ」
 山下は日本の話を聞き終えてから言った。
「連中に見つかってはまずい」
「そうです、では今は」
「隠れるべきだ」
「わかっている、それではだ」
 東郷もここで応えて言う。
「星陰に隠れよう」
「あの星ですね」
 日本は星域にある恒星の星陰を見つつ東郷に応えた。
「あそこに隠れて」
「ああ、やり凄そう」
「わかりました、しかし」
「富嶽のことだな」
「考えてみれば私も何匹もいるとは想像していませんでした」
「富嶽は一匹だけか」
「はい、そう考えていました」
 そうだったというのだ。
「まさかあれだけいるとは」
「そうだな、俺もだ」
「長官もですか」
「あそこまでいるとはな」
 考えもしなかったことだった、東郷にしても。
「まさかな」
「一匹だけでも驚異ですが」
「それが何匹もだ」
「絶対に見つかる訳にはいきませんね」
「その通りです」
 セーラもモニターから言って来る。
「ですからここは」
「ああ、何とか隠れてやり過ごそう」
「それでは」
 こう話してだった、今は。
 四隻の戦艦は星陰に隠れてやり過ごした、そうして富嶽達が何処かへと去った後で星域の詳しいちょ調査をはじめた。とはいっても偵察艇を出してそのうえで星域の空間を調べてワープ航路や出口を探したのであるが。 
 その星域も何もなかった、だが。
 セーラはイギリスと会いそのうえで話したのだった。
「あの、どうもです」
「ああ、宇宙怪獣のことだよな」
「そうです、不思議です」
「大怪獣が二匹もいるとかな」
「普通はありませんね」
「富嶽は日本とシベリアの辺りにだけ出る筈なんだよ」
 イギリスが言うのはこのことからだった。
「凄いローカルな大怪獣だからな」
「しかも出てくるのはこれまでは」
「ああ、一匹だけだった」
「それが何匹もとは」
「本当にわからねえな」 
 首を傾げさせてだ、イギリスも言う。
「この事態は」
「そうした星域はありませんし」
「ああ、俺達の本来の世界にはな」
「そこからもこの世界が私達の世界ではないことがわかります」
「しかしな」
 それでもだとだ、さらに言うイギリスだった。
「富嶽がなんびきもいる世界か」
「関心がありますね」
「とりあえず惑星は調べてないけれどな」
 今はそうした余裕はなかった、宇宙を調べてそうして彼等の本来の世界に帰るだけだ。それで惑星については、なのだ。
「人がいるかもな」
「そうですね、若しかして」
「ああ、どういった世界か」
「そのことも気になります」
 こうした話もした、そしてだった。
 一行は再び銀河を進む、次の星域では。
 今度はニガヨモギだった、さらに。
「エアザウナですね」
「はい、そうですね」
 日本が秋山に応える、二種類の大怪獣が星域にいたのだ。
 しかもだ、さらに。
「どっちも何匹もいます」
「五匹ずつでしょうか」
「また、どうしてこれだけいるのか」
「このこともわかりませんね」
「一匹だけだがサラマンダーもいるぜ」
 イギリスがモニターから言って来た。
「あいつもな」
「それに四国にいるあれもいるな」
 東郷は惑星と一つになっているその大怪獣も確認した。
「まさに勢揃いだ」
「どうすべきでしょうか」
 日本は深刻な顔で東郷に対してどうすべきか問うた。
「ここは」
「そうだな、この星域からは離れよう」
「その方がいいですか」
「ああ、既に次の星域へのワープ航路は発見している」
 だからだというのだ。
「そこを通ってだ」
「今は避けるべきですね」
「ああ、そうしよう」
 こう話してそしてだった。
 彼等は今はワープ航路に全速力で向かった、そうしてだった。
 エアザウナの一匹に気付かれたがそれでもだ、振り切ってそれで次の星域に入ることが出来た、セーラもこのことには安堵して述べた。
「若しエンジンが故障したままですと」
「終わってたな」
「はい、ここに来るまでにですが」
「そもそもここまで来られなかったけれどな」
「今も」
「助からなかったぜ」
 確実にそうなっていたというのだ、エンジンが故障したままだと。
「日本達に助けられたな」
「全くです」
「あいつ等にでっかい借りが出来たな」
「受けた恩は必ず返さなければならない」
 ここでこう言ったセーラだった、それも毅然とした声で。
「それが真の誇りです」
「だよな、俺も女王さん達にいつも言ってきたよな」
「私もマリーも幼い頃から」
「エリザさんにも言ってたんだよ」
 セーラとマリーの母である彼女にもだというのだ。
「王族、特に女王はな」
「真の誇りの為にですね」
「受けた恩は忘れたらならないんだよ」
「絶対に」
「そうだよ、だからな」
 それでだというのだ。
「日本達に返そうな」
「この恩を」
「後な、ここに来てから徐々に考えてることだけれどな」
「講和ですね」
 セーラからこの言葉を出した。
「それですね」
「それだよ、もう戦っても意味がないだろ」
「はい、既に勝敗は決しています」
 エイリス本国のみになってしまっている、それではだ。
「最早」
「そのこともあるしな」
「あの方々ならですね」
「講和してもな」
「寛大な条件を出してくれますし」
 それにだった。
「ロンドンを戦火で覆わせることも」
「避けたいしな」
「講和、ですね帰ったら」
「ああ、それにもっていこうな」
「最早我々の負けです」
 認めたくない現実だがそれでもだった、今のセーラはその現実を自分でも不思議な程穏やかに受け入れることが出来た。
 そしてだ、こうイギリスに言うのだった。
「では後は」
「平和になってな、それからだよ」
「エイリスの復興ですね」
「もう植民地もいらないさ」
 イギリスはあえてこのことも話した。
「女王さんももうわかってるだろ」
「確かに。現地民を苦しめ貴族の利権になっているだけです」
「叛乱は起こるしそれの対処への軍も必要だしな」
「最早植民地はエイリスにとって何にもなりませんね」
「世界帝国の座からも降りてな」
「欧州の一国として」
 セーラは微笑みさえ浮かべてイギリスに述べた。
「そうあるべきですね」
「そう思うよ、じゃあな」
「はい」
 セーラもイギリスの言葉に微笑んで応えた、そうして。
 彼等もまたこれからのエイリスを見出していた、この何処かわからない世界の中でそれがわかってきたのだ。 
 だが今の星域でもだった。
「まだ見つかりませんか」
「ああ、残念だけれどな」
 イギリスは苦い顔でセーラに答えた。
「あそこでもなかったよ」
「そうですか」
「まあそれでもな」
「希望は捨てないで、ですね」
「諦めたらな」
 それこそだとだ、イギリスはセーラにこのことも話した。
「それで終わりだからな」
「よく言われていることですね」
「そうだよ、だからな」
「ここは諦めずに」
「次の星域だよ」
 そこに行こうというのだ。
「そこで出口があるかも知れないからな」
「では次の星域に」
「行こうな」
 こう話してそしてだった。
 一行は次の星域に入った、するとそこにだった。
 その出口があった、秋山はそこを見て日本達に話した。
 ブラックホールだ、チェルノブにあるホワイトホールと同じ規模のものが星域にあったのだ。
「見つけましたね」
「ブラックホールですね」
「あそこに入れば」
 それでだというのだ。
「別の世界に出られる筈です」
「ブラックホールは引きずり込まれますが」
「別の場所吐き出されます」
 そしてその吐き出される世界がだというのだ。
「若しかしてですが」
「あそこが戻る入口ならば」
「入りましょう」
 是非にとだ、秋山は日本に確かな声で言った。
「また別の世界かも知れませんが」
「その可能性があることは確かだ」
 東郷もここで一同に話す。
「また別の世界に出る可能性もな」
「それは確かに」
 日本もこの話は真剣な顔で返す。
「あのホールが私達の世界に必ずつながっているという保障はありませんね」
「そうだ、しかしだ」
「それでもですね」
「そう思って何をしないとだ」
「戻れませんね」
「そういうことだ、ではだ」
「私はそれで構わない」
 山下は東郷の考えにはっきりと答えた。
「躊躇しても帰ることは出来ないからな」
「勿論私もです」
 最初に言った秋山も述べる。
「入りましょう、そして」
「俺達の世界に出よう」
 こう話してだった、日本側の意見はまとまった。だが今彼等は彼等だけではないことが重要だった。
 秋山もだ、東郷達にそのことを話した。
「そしてエイリス側の意見も聞きましょう」
「そうだな、それじゃあな」
「今から」
 こうしてエイリス側の意見も聞いた、だがセーラとイギリスもだった。
 彼等もだ、こう東郷達に答えた。
「私達もこのまま何もしなくてはこの世界にいるままですから」
「そのことを考えたらな」
 こう話すのだった。
「ですからここは」
「あのブラックホールに入るべきだろうな」
「問題はホールの衝撃に艦が耐えられるかですが」
「そこはどうなるかだな」
「大和やクイーン=エリザベスなら大丈夫だろうがな」 
 この世界の艦艇は頑丈だ、駆逐艦にしても。
 それで頑丈さには安心されていた、しかし。
 彼等は星域にあるものを発見した、それはというと。
 一隻の艦艇だった、その艦艇はというと。
「あれは確か」
「はい、ソビエト軍いえ旧ロシア帝国の艦艇です」
「あの戦艦もこの世界に迷い込んだ、いえ」
「吐き出されたのですね」
 秋山と日本がその旧ロシア帝国の戦艦を見て話す、見れば星域にはブラックホールだけでなくホワイトホールもある。
 そこまで見てだ、二人は確かな声で言った。
「ではあのブラックホールは」
「あのホワイトホールとセットになっているというと」
「私達の世界にですか」
「つながっていますね」
「その可能性は大きいな」
 東郷も二人の話に頷く。
「ではな」
「はい、それではですね」
「今から」
「ああ、行こうか」
 こう話してそしてだった。
 一行はそのブラックホールに向かった、忽ちのうちに各艦に凄まじい衝撃が走る。しかし破壊される程ではなかった。
 それで今は引き込まれるに任せることにした、東郷は大和の艦橋においていつもと変わらない余裕さえ見られる落ち着いた態度で話した。
「各員衝撃に注意しながらだ」
「うむ、今は流れに任せるか」
「どちらにしても大怪獣があそこまでいる世界にはいられない」
 あまりにも危険だからだ、艦橋の中に仁王立ちする山下に応える。
「やはり元の世界でないとな」
「うむ、それはな」
 こう話してそうしてだった。
 彼等は今は衝撃に備えていた、そして。
 一行はある場所ンい出た、その場所はというと。
「ここは」
「チェリノブですね」
 東郷に秋山が答える。
「あの星域です」
「そうだな、じゃあチェリノブのホワイトホールから出たか」
「その様です」
「何はともあれ助かりました」
 日本はモニターから東郷達に話す。
「戻って来られました」
「何よりです」
 山下は日本には祖国ということで敬語で応えた。
「祖国殿もご無事で」
「皆さんも。そして」
「クイーン=エリザベス、エイリス帝国からの反応はあります」
 秋山はモニターに映る二隻を確認してから東郷に答えた。
「セーラ女王もご無事ですね」
「はい、ご安心下さい」
「こっちもな」
 そのセーラとイギリスもモニターに出て来て答えてきた。
「クルーも全員です」
「五体満足だぜ」
「何よりだ、ではパリまで戻るか」
 東郷はこう話してパリまで戻ろうと促した、だが。
 その彼等の前にだ、枢軸軍の主力がいた。
 エルミーは大和達の艦影を確認しそのうえで柴神に述べた。
「柴神様のお言葉の通りですね」
「うむ、だが」
「だがとは?」
「気になることがある」
 柴神は東郷達の戦艦を観ながら深刻な顔で話す。
「彼等は観たのだろうか」
「観たとは」
「とりあえず戻って来て何よりだ」 
 柴神もこのことは喜んでいた、だがだった。
 彼だけは何かを心配していた、その彼等に東郷が言って来た。
「俺達は無事だ、そしてセーラ女王とイギリスさんだが」
「敵ではありませんな」
「ああ、安心してくれ」
 そうだとだ、東郷がモンゴメリーに答えた。
「一時休戦している」
「捕虜でもないからな」
 イギリスもこのことを言って来た。
「だからあくまで一時休戦でロンドンまで戻らせてもらうからな」
「わかりました、それでは」
「ちょっと合流するか、色々と話したいことがあるからな」
 イギリスはモニター越しに話すよりはと話してだ、そしてだった。
 セーラ達も一時休戦ということもあり枢軸軍の中に入った、そのうえであらためて詳しいことを話していくのだった。
 別世界の話を聞いてだ、まず言ったのは帝だった。
「富嶽が何匹もですか」
「はい、いました」
 日本が大怪獣達のことを話していた、帝はその中でも富嶽の話を聞いて驚いていたのだ。日本はその帝と他の面々にも話していく。
「他の大怪獣達も」
「富嶽は一匹だけでも恐ろしい驚異です」
 帝は日本にとって最大の驚異であり続けている大怪獣のことを忘れてはいない、それで今もこう言うのだ。
「それが何匹もとは」
「私達の世界でなくてよかったです」
 心からだ、帝は話を聞いてこう言った。
「若しあんなものが何匹もいれば」
「はい、全くです」
「日本は何もかもがなくなっていました」
 まさにだ、そうなっていたというのだ。富嶽達に惑星のことごとくが破壊されて。
「そして富嶽だけでなくですか」
「その他の大怪獣達も多くいました」
「とんでもない世界だったぜ」
 イギリスも今は皮肉なしに言う。
「あんな世界じゃ俺達は生きていられないだろうな」
「魔界みたいな場所だね、話を聞く限り」
 キャヌホークですらだ、今は軽い調子ではない。大怪獣達が多くいるということは驚異どころではないからだ。
 それでだ、彼もこう言うのだ。
「惑星に住んでいる人間もいないだろうな」
「惑星までは調べていないが」
 山下はこのことについて話した。
「しかし考えてみるとな」
「うむ、人類が生きていられる世界ではないな」
 ベートーベンは普段以上に深刻な顔だった、普段のあの厳しい顔がさらにそうした顔になっているのだ。
「我々の世界でなくてよかった」
「全くですね、それとです」
 ユーリはベートーベンに応えながらあることに疑問を感じた、その疑問とは何かというと。
「旧ロシア帝国の戦艦があったということですが」
「行方不明になった戦艦もなかった訳じゃないよ」
 ロシア帝国の国家だったロシアの言葉っだ。
「名前とか型とかはわかるかな」
「あれは確かクトゥーゾフでした」
 秋山が答える。
「クトゥーゾフ級戦艦の一番艦クトゥーゾフです」
「確か一次大戦の時にチェリノブでの訓練中にブラックホールに飲み込まれて行方不明になった戦艦だよ」
 ロシアはすぐに答えた。
「それで何処に行ったかわからなくなっていたんだけれど」
「まさか別世界に行っていたとは」
 ロシア妹も言う。
「想像していませんでしたね」
「全くだよ」
「艦内には誰もいなかったみたいだな」
 イギリスはこのことも話した。
「逃げたのならいいけれどな」
「そうですね、そうであることを祈ります」
 ロシア妹はイギリスに応えながら述べた。
「乗組員の方々が」
「ああ、まああまり多くは調べなかったからな」
「それでだが」
 柴神がだ、ここでイギリス達に問うた。見ればその顔は今もかなり深刻なものだ。
「会ってはいないのだな」
「大怪獣には会ったぜ」
「あの世界の人間達にも」
「あっ、あの世界にも人間がいるのかよ。というかな」
 イギリスは鋭くそのことに気付いた、それで柴神にこう問い返したのだ。
「柴神さんあっちの世界に人間がいるって知ってるのか?」
「?そういえば今の言葉ってそうだよね」
 マリーも彼女の祖国の言葉に気付いて言う。
「柴神さんの言葉って」
「だろ?だとしたら何でだ?」
「ただの予想だ」
 だが、だった。柴神はここでもこう言うのだった。
「それだけだ」
「ああ、そうか」
「それでなのですか」
「そうだ、人間達には会わなかったか」
「惑星には降りてないしな」
「艦艇も確認しませんでした」
 セーラはこのことも話した。
「本当に必要なことだけ調べてたからな」
「艦艇のことは」
「それは何よりだ」
 ここまで聞いてほっとした柴神だった、そして。
 そのうえでだ、彼はセーラにこのことを確認した。
「それで講和のことだが」
「はい、ドーバーの戦いでも敗れました」
 このことからだ、セーラは言うのだった。
「これ以上の戦いは無意味です」
「俺もそう思う、例えエイリスが勝ってもな」
 どうなるかとだ、イギリスは最早可能性が殆どなくなったこととはいえあえてそうなったバアイのことを話した。
「貴族連中が利権を貪るだけだからな」
「それでは何の意味もありません」
 セーラもこう言うのだった。
「最早エイリスに植民地は不要なものです」
「お姉様達もやっと気付いたのね」
 マリーは姉達の話を聞いて微笑んで言った。
「そうなの、もうエイリスに植民地はいらないのよ」
「この戦争に勝利を収めたとしてもです」
 ネルソンも真剣な顔で話す、植民地の実態から。
「植民地での貴族達の横暴と現地民の呻吟、そして叛乱は収まりません」
「当然私達ももうエイリス軍を受け入れない」
 ラスシャサは強い声で言い切った。
「絶対にだ」
「そうですね、最早植民地の奪還貴族達が言うことなぞ」
 それはとてもだとだ、セーラも理解していた。
「不可能なのです」
「私はもう」 
 パルプナはかつてのことを思い出した、するとそれだけで身体が震え怯える顔で呟いた。
「あんな酷いことされたくない」
「正直ね、私も植民地経営に参加していたけれどね」
 クリオネもその頃のことを話した。
「あれは一部の貴族だけが利権を貪るだけよ」
「国家にとって利はありませんね」
「もう何にもならないわ、私はこれでもインドさんのことも考えていたつもりだけれど」
 インドを見ながらの言葉だ、彼女は自社の利益を上げようとしていたがそれでもインドカレー全体のことも考えていたのだ。
「それでもね」
「うん、だから貴族の人達には皆出てもらったたい」
 インドもそうしていたと話す。
「言っておくけれど独立したから二度と植民地にはならないたい」
「そうですね、エイリスはもう世界帝国であるべきではありません」
 自分が絶対に守ろうとしていたものもだ、セーラは今はこう考えていた。
「ですから」
「俺達は枢軸諸国と講和をするからな」
 イギリスは今言い切った。
「ロンドンに戻ったらすぐにエリザさんとロレンスさんに話すからな」
「妹さんにも」 
 エイリス上層部全員にというのだ。
「もうこの戦争は終わりだよ」
「講和によって」
「それではまずは全軍パリに戻りましょう」
 宇垣が提案する。
「そうしましょう」
「はい、それでは」
「今からな」
 セーラとイギリスが応えてそうしてだった。
 枢軸軍主力とセーラ達はまずはパリに戻った、その中でイギリスは久し振りにフランスと会い彼に言うのだった。
「御前も全然変わってねえな」
「そっちこそな、とにかく講和してだな」
「ああ、もう俺達は世界の盟主でも何でもないさ」
「植民地は全部手放してか」
「そうするさ、そっちの方がいいだろうしな」
「エイリスにとっても世界にとってもか」
「植民地は確かにエイリスを世界帝国にしてくれたよ」
 エイリスはいち早くワープ航路を発見し産業革命により発展した国力を使って世界を席巻した、その中で多くの植民地も手に入れたのだ。
 そしてその植民地から得た力で世界帝国となった、だが今ではその植民地が。
「貴族連中の利権だけのものになっちまったからな」
「こっちもそうだったんだよな」
「植民地は結局な」
「ああ、国を腐らせるな」
「そのことがよくわかった、だからな」
 もう全て放棄するというのだ。
「これでな」
「そうだな、それで御前これからは欧州の一国か」
「それでやってくからな」 
 イギリスはフランスに対してはっきりと答えた。
「御前のその顔もまたいつも見るぜ」
「おい、そこでそう言うのかよ」
 フランスはイギリスの今の言葉には苦笑いを作って返した。
「ったく素直じゃねえところは相変わらずだな」
「素直じゃいけないとか理由もないだろ」
「まあそれはな」
 フランスも否定しなかった。
「そうだけれどな」
「そうだろ、だからいいだろ」
「しかしそれでも本当に素直じゃねえな」
 否定はしないが言うことは言う。
「何百年もな」
「俺は素直じゃないさ、けれど妹は素直だろ」
「素直なら俺の妹もだよ」
 イギリス妹もフランス妹も性格は普通だ、少なくとも兄達の様な妙な癖はない。
「まともだよ」
「で、俺達はかよ」
「よく言われるな」
 周りからだ、しかしそれでもである。
 二人は変わらない、だから今もこうしたやり取りなのだ。
 そのやり取りからだ、フランスはイギリスに言うのだ。
「それで講和のことだけれどな」
「エリザさん達には話すさ」
「それだけで終わらないだろ」
 フランスはイギリスの目を真剣な目で見ながら問うた。
「あそこは」
「ああ、残念だけれどな」 
 その通りだとだ、イギリスも難しい顔で答える。
「議会がな」
「下院はいいにしてもな」
「問題は貴族院だよ、あそこはな」
「その貴族連中の総本山だからな」
「もう随分も前からどうしようもないところになってたよ」
 既にエイリスの癌になっていたのだ、だからセーラも即位してすぐに彼等に改革の大鉈を振るおうとしたのだ、戦争で出来なかったが。
「今は特にな」
「話聞くか?」
「俺や女王さんの話か」
「特に酷い奴いただろ」
「クロムウェルな、あいつは特にな」
 どうにもならないというのだ。
「門閥貴族の中でも特に酷いな」
「だよな、あいつのことは聞いてるからな」
 フランスもである。
「とんでもねえ奴だってな」
「代々続く名門の嫡流でな、首相も何人も出してるんだよ」
「爵位は大公か」
 公爵よりさらに上にある。
「それで貴族院でもか」
「一番発言力があるな」
「植民地の利権も相当持ってるよな」
「それで言ってるんだよ」
 枢軸諸国との戦闘をだというのだ。
「もうとんでもねえ奴だよ」
「そいつを何とかしないと駄目か」
「ああ、議会はな」
 イギリスは苦々しい顔で話す、そしてだった。
 彼等は苦い顔で紅茶を飲んだ、フランスはその紅茶について言った。
「御前紅茶の腕は上がるんだな」
「それでも料理はってんだな」
「ああ、本当に進歩しねえな」
「悪いかよ」
「本当にどうなんだよ」
 こう言うのである。
「全くな」
「いや、だからな」
「味はかよ」
「わざとなんだよ」
 フランスに対してむっとした顔で返す。
「あの味はな」
「韓国の奴味見する前に唐辛子どさってかけるよな」
「あいつは御前の料理でも同じだろうがよ」
「最初見た時マジで殴りそうになったぜ」
 フランスはその時本気で切れかけた、まだ韓国が日本帝国にいた頃のことだ。
「妹に止められないとマジでな」
「だからあいつはまた違うだろ」
 こう言うのである。
「特別だろ」
「まあな、すげえ態度だしな」
「あいつは基本的に俺達のことはどうでもいいからな」
 まさにだ、心の奥底からそう思っているのだ。
「日本しか見てないだろ」
「完全にな」
「ああいう奴も珍しいな」
「本当にな」
 こう話すのだった。
「戦争の後どうなるかだな」
「ストーカーみたいになりそうだな」
「日本の傍には台湾もいるからな」
 彼女もいるのが日本だ、ややこしいことに。
「だから二人が一緒にいるからな」
「日本も大変か」
「ああ、まあそれもな」
 そうしただ、日本が二人にいつも傍にいられるのもというのは。
「戦争が終わってからだからな」
「本当にそれからだな」
「まあ今の時点であの二国結構いつも日本と一緒にいるけれどな」
「それでもな」
 こう話してだ、二人もまたパリに向かっていた。
 そしてパリに着くとセーラは東郷達に生真面目な顔で言った。
「では今から」
「ちょっとロンドンに戻って来るな」
 イギリスも彼等に言う。
「そうして講和条約を結びます」
「何としても」
「その時までお待ち下さい」
「もうこれで戦争を終わらせる」
「しかしです」
 宇垣が二人に言って来た、今は深刻な面持ちだ。
「議会の説得は」
「難しいですね」
「それもかなりな」
「貴族院を説得出来なければ講和は出来ないと見受けますが」
「その祭は非常大権を発動してでも」
 セーラは毅然として伝家の宝刀を口にした。
「講和を成し遂げてみせます」
「非常大権ですか」
「はい、エイリス王室の」
 まさにそれをだというのだ。
「発動させて」
「そしてですか」
「講和条約を結びます、この戦争を終わらせます」
「安心してくれ、女王さんの身の安全は俺が守るからな」
 イギリスは自分の右手の親指で他ならぬ自分自身を指差した、そのうえでセーラを見つつ宣言したのである。
「あいつ等には指一本触れさせないからな」
「お願いします」 
 ネルソンは切実な顔でイギリスに頼み込んだ。
「出来れば私も」
「あんたは講和してからだ」
 その時にだとだ、イギリスはそのネルソンに微笑んで答えた。
「それにマリーさんとモンゴメリーさんもな」
「僕達もだね」
「講和の後で」
「戻って来てくれるよな」
「うん、祖国さんが言ってくれるなら」
「是非共」
「エイリスはこれからが大変だからな」
 講和し戦争を終えてからだというのだ。
「その時にな」
「講和会議はロンドンで」
 セーラはその場所も指定した。
「お待ちしています」
「わかりました、それでは」
 パリには帝も来ている、国家元首としてセーラと対する為に来たのだ。 
 その帝もだ、セーラに毅然として答えたのである。
「期待しています」
「戦争を終わらせる為に」
 こう話してそしてだった。
 セーラはイギリス、そして二隻の戦艦の将兵達と共にロンドンに戻った。マリーは銀河の遠くに消えていく二隻の戦艦を見送ってから難しい顔で呟いた。
「大丈夫だよね」
「ご安心下さい、祖国殿がおられます」
「あの方がセーラ様をお護りします」
 そのマリーにネルソンとモンゴメリーが慰めの言葉をかける。
「ですからお気に病まれることはありません」
「例え議会がどう言おうとも」
「そうね、それじゃあね」
 マリーも二人の言葉を受けて心を落ち着かせた、そしてだった。
 今は吉報を待つことにした、戦争も最後の局面に達しており後はどう矛を収めるか、そうした段階になっていた。


TURN136   完


                          2013・9・10



東郷たちはどうにか元の世界へと帰還できたな。
美姫 「良かったわね」
まあな。にしても、大怪獣が複数いるとか考えたら恐怖だよな。
美姫 「柴神は何か知っている素振りを見せつつも、何も口にはしなかったけれどね」
まあ、引っ掛かる所はあるけれど、今は終戦へと向けて動く方が先だろうしな。
美姫 「セーラたちは国へと戻って説得するようだけれど」
本当に貴族連中が問題だよな。
美姫 「どうなるのか気になる次回は……」
この後すぐ!



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