『ヘタリア大帝国』




               TURN137  議会の腐敗

 セーラ達がロンドンに戻るとすぐに国民、軍人達が熱狂的に迎えて来た。
「女王陛下、よくぞご無事で!」
「祖国殿も!」
「心配していましたが」
「よくぞ」
「ああ、俺達は無事だよ」
 イギリスは微笑み彼等に応えた。
「この通りな」
「私達は枢軸諸国の方々に救われました」
 セーラも微笑みと共に彼等に応える。
「それではです」
「今から」
 こう話してそしてだった。
 彼等は国民、軍人達にその表情を毅然とさせて宣言した。
「私は議会に赴きある重大なことを宣言します」
「ちょっと待っていてくれよ」
「皆さんの、そしてエイリスの為にも」
「やらせてもらうからな」
「重大なことをですか」
「そのことを」
 国民、軍人達も皆その言葉にいぶかしんだ、だが彼等はセーラ、そしてイギリスを知っていた。それでだった。
 二人の言葉を信じた、それで言うのだった。
「ではそのお言葉聞かせて頂きます」
「女王陛下のお言葉を」
「エイリスはこれからもエイリスです」
 セーラはこのことを約束した。
「そのことを約束します」
「では議会で」
「お聞かせ下さい」
 彼等はセーラを心から信頼して送った、そして。
 セーラはイギリスと共にまず王宮に戻った、そこにはエリザとロレンス、それにイギリス妹が待っていた。
 イギリス妹は口元だけで微笑んでセーラ達に言った。
「お帰りなさいませ」
「はい、生きて帰ることが出来ました」
「何とかな」
「お二人が死なれるとは思っていませんでした」
「全くですか」
「絶対に生きて帰って来るって思ってたのかよ」
「そうです」
 その通りだというのだ。
「ですから待っていたのです」
「私もよ、セーラちゃんも祖国君も強いからね」
「必ず戻られると信じていました」 
 エリザとロレンスも微笑んで二人に言う。
「別世界に行った話は聞いたわ」
「大怪獣が多くいるという」
「ああ、あれは凄かったな」
 イギリスもその時のことを思い出して笑って応えた。
「まあそれでも日本やあっちの海軍長官に助けられてな」
「戻って来られたのですね」
「そうだよ、それでな」
 ここでだ、イギリスは自分とセーラの今の考えをエイリス上層部に話した。三人はその話を聞いてそれぞれ静かに言った。
「そうですね、最早エイリスは世界帝国ではありません」
「植民地もなくなったしね」
「今の時点で講和すべきです」
 三人はそれぞれ言うのだった。
「ですからここは」
「枢軸諸国と講和すべきね」
「戦争を終わらせましょう」
「それでは」 
 こう話してだ、そしてだった。
 三人はセーラ達の考えに賛成した、しかしだった。
 イギリス妹は難しい顔だった、その顔で二人に言った。
「私達はいいのですが」
「議会だよな」
「はい、平民院は納得してくれます」
 イギリス妹は確信を以て兄に話した。
「しかしです」
「貴族だよな、問題は」
「彼等は植民地に多くの利権を持っています」
 だからだというのだ。
「その利権を手放すことは絶対にありません」
「植民地全ての奪還だよな」
「その為にはです」 
 何としてもだというのだ。
「エイリスが滅びようとも」
「国家が大事か、自分が大事か」
「彼等は後者です」
 間違いなくだ、そうだというのだ。
「自分達のことしか考えていません」
「だよな、どう見ても」
「ですから」
 それ故にだというのだ。
「あの方々は戦いを続けると主張されます」
「正直俺もな」
「貴族院の説得は不可能と思われていますね」
「無理だろ」
 目を顰めさせてだ、イギリスはこの言葉を出した。
「どう考えてもな」
「そうです、ですから」
「女王さんが講和を言ってもな」
「非常大権を出されますね」
「はい」
 今度はセーラがイギリス妹に答えた。
「彼等が首を縦に振らないならば」
「つまり念頭に置いておられますね」
「そのつもりです」
 こう言うのだ、しかしだった。
 それでもだとだ、イギリス妹は難しい顔でこうセーラに答えた。
「例え大権を発動されても」
「彼等はですか」
「かえって激昂し、その私兵を総動員します。それに」
 さらにだというのだ。
「彼等はその資産でならず者達を雇っています」
「自警団とか言ってるな」
「しかしその実態はです」
 ただヤクザやゴロツキを雇って使っているだけだ、それはまさに。
「マフィアと同じです」
「貴族がマフィアのドンか」
「それもまた彼等の実態です」
「つくづく腐りきってやがるな」
 イギリスはわかっていたこととはいえその話からあえて言った。
「本当にな」
「全くですね」
「やっぱり連中は何とかしたかったな」
 この戦争がなければ、イギリスは歯噛みすることしきりだった。
 だが今こう言っても仕方がなかった、それでだった。
 イギリスは意を決した顔でセーラに言った。
「多分非常大権を出してもな」
「私がそれにより軍を動かしても」
「向こうもまだ残っている私設軍やならず者達を使って来るぜ」
 絶対にだというのだ。
「それこそロンドン議会でな」
「全面衝突ですね」
「ああ、講和どころかな」
 そうなってしまうというのだ。
「内戦だよ」
「そうなりますね、そうしても」
「連中は結局自分達だけなんだよ」
 私利私欲、それのみだというのだ。
「だからそれこそ何としてもな」
「私に対しても」
「ああ、それこそ身柄を拘束したりとかな」
 そこまでしかねないというのだ、女王に対して。
「流石に処刑はないだろうけれどな」
「そんなことは我々が許しません」
 ロレンスが女王に忠誠を誓う騎士提督として毅然として言って来た。
「何としても」
「俺もいるからな」
 イギリスもだ、国家としてセーラに言う。
「女王さんには何もさせないぜ」
「私もです」
 イギリス妹もだった、セーラの傍にいた。
「彼等も私達には危害を加えられません」
「国家だからですね」
「そうです」
 それでだというのだ、それ故にだった。
「私達がセーラ様のお傍にいれば彼等もセーラ様に手出しは出来ません」
「そうね、今は私もね」
 エリザもその手に剣を持っている、先代女王の剣をだ。
「剣を抜く覚悟をしているわ」
「ではお母様も」
「セーラちゃんはセーラちゃんのやるべきことをして」
 講和の演説、それに専念して欲しいというのだ。
「いいわね」
「わかりました、それでは」
「我々がいます」
 ロレンスは警護を申し出た。
「近衛軍を動員しておきますので」
「ああ、その方がいいな」
 イギリスは王宮の窓の外を見た、見れば。
 貴族達の手の者達が集まって来ていた、皆碌な人相ではない。
 その彼等を見てだ、イギリスはセーラ達に話す。
「どうやら連中も自分達がやばいことをわかってるな」
「だから動員してきましたか」
 ロレンスも窓の外を見た、そのうえで顔に危惧を浮かべる。
「ではやはり」
「ああ、近衛軍を動員してくれるか」
「すぐに」
 ロレンスは敬礼をしてイギリスに応えた。
「そうします」
「じゃあな」
「政治も力が必要です」
 イギリス妹は確かな声でこの理を言った。
「武力もまた」
「はい、理想も力という切り札がなければ実現出来ません」
 セーラもそのことはわかっていた、伊達に女王ではない。
 それでだ、こう言うのだ。
「ですから今も」
「近衛軍を動員して、それにね」
 エリザも言う。
「艦隊もね」
「動かしておきますか」
「軍は私達に忠誠を誓っていてくれてるわ」
「彼等は健在です」
 腐敗していない、そういう意味での言葉だ。
「今も」
「そう、臣民の皆もね」
「では貴族達以外は」
「セーラちゃんを応援しているわ」
 それだけセーラ、そしてエイリス王室は臣民達この場合は平民達から絶大な敬意と信頼を抱かれているのだ。
「だからね」
「それで、ですね」
「いざという時は」
「その時は」
「一旦エイリスを脱出するわよ」
 エリザは微笑んでセーラに告げた。
「いいわね」
「脱出、ですか」
 セーラは母の言葉を聞いて意外といった顔になった、そのうえで問い返した。
「ここは」
「そうよ、若しここで張ればね」
「内戦ですね」
「内戦になれば国土と臣民の皆に被害が及ぶわね」
「間違いなく」
 内戦は最も国家に災厄をもたらすものの一つだ、多くの国が内戦で深刻なダメージを受けて衰えている。
 だからだ、ここはだというのだ。
「それを避ける為にも」
「ええ、一次エイリスを脱出してね」
「そしてですか」
「枢軸側に亡命してでも」
「身の安全を保ってですか」
「人間生きていてこそよ」
 そこから全てがはじまるというのだ。
「死んだら終わりだから」
「その時はですか」
「そう、脱出するわよ」
 そうしようというのだ。
「わかったわね」
「わかりました、それでは」
 セーラも母の言葉に確かな顔で応えた、そしてだった。
 セーラはイギリス達と共に議会に乗り込んだ、既に近衛軍と艦隊を動員している。彼等は貴族の私兵やならず者達と対峙していた。
 貴族達はその彼等を見て目を顰めさせて言った。
「まさか我等の思惑に気付いているのか」
「若しもの時はクーデターを起こすつもりだが」
「くっ、女王も鋭いか」
「そう簡単にはいかぬか」
「いや、それでもだ」
 貴族達の中でもとりわけ丸々と肥え太り醜いそれこそガマガエルの様な姿の男が言った、見ているだけで生理的に受け付けないものがある。
 彼こそクロムウェル、貴族達の親玉である彼が言うのだ。
「ここはだ」
「何としてもか」
「我々の要求を通すか」
「絶対に」
「そうだ、だからこそだ」 
 それ故にだというのだ。
「私兵にゴロツキ達を動員しているからな」
「うむ、いざとなれば奴等を国会に殴り込ませようぞ」
「枢軸の連中に植民地全ての返還と多額の賠償金を要求しようぞ」
「受け入れないのなら戦争だ」
「間違いなくな」
 こう話してそしてだった。
 彼等は自分達の要求を何としても受け入れさせようとしていた、その為には手段を選ぶつもりは全くなかった。
 セーラはその彼等が揃う議会に来た、その周りには。
「むう、ロレンス提督がいるか」
「エリザ様も」
「そして祖国殿と妹殿」
「お二人もおられるとはな」
 貴族達は難しい顔になって話した。
「どうやら我等の考えに気付いているか」
「祖国殿達までおられるとなると手出ししにくいぞ」
「祖国殿は王室についているな」
「どういうおつもりだ」
「我等のことをどう思っておられるのだ」 
 彼等は怪訝な顔で述べていく。
「一体」
「わからんな、だがこれでは手出し出来ぬ」
「女王にな」
「このままでは」
 彼等にとっては辛いことだった、だが。
 そうした話をしてもだった、今すぐに動く訳にはいかなかった。
「まずは女王の演説から」
「今兵を動かしてはまずい」
「講和に反対するというスタンスでないと外見が取りつくろえないからな」
「仕方ないな、まずは」
「うむ、見るよしよう」
 女王の動きをだというのだ。だから彼等は今は待つことにした。
 その彼等を見てだ、イギリスは妹に囁いた。
「戦場だな」
「はい、今の議会は」
 妹も兄の言葉に応える、その戦いはというと。
「私達と貴族の」
「そうだよな、一触即発っていうのはな」
「まさに今です」
 今のこの状況こそがというのだ。
「間違いなく何かが起こります」
「だよな、本当にな」
「女王陛下の演説が終わるまでは何も起こりませんが」
「問題はそれからだな」
「はい、確実に」
 それこそ絶対にだというのだ。
「起こります」
「だよな、じゃあな」
「いざとなれば」
「港までの道は確保しています」
 ロレンスが二人に囁く、このことについて。
「ですからいざという時は」
「港まで退くわよ」
 ここでだ、エリザが一同に言う。
「最初はね」
「ああ、議会からな」
「私兵では近衛軍には勝てないわ」
 それは無理だというのだ。
「絶対にね」
「無論ならず者達にも」
「ええ、近衛軍は負けないわ」
 勝つというのだ、そうした言葉だった。
「だからね」
「非常時には港まで逃げてそれからか」
「ええ、そうならないことを祈るけれど」
 それでもだとだ、エリザはイギリスに応えて言う。
「この状況だとね」
「正直そうなるだろうな」
「ええ、間違いなくね」
 エイリス上層部も緊張の中にあった、セーラはその中で演説をはじめた。その演説は貴族達が予想した通りだった。
「最早我々に戦う意味はありません」
「植民地の放棄か」
「やはり」
「世界帝国である必要もありません」
 セーラは貴族達の呟きを聞きながら述べていく。
「枢軸諸国と講和すべきです」
「くっ、予想していたとはいえ」
「実際に宣言されるとな」
「こんなことは認められない」
「絶対にだ」
 こう言うのが彼等だった、そして。
 彼等はだ、セーラの演説が終わってから問うた。
「陛下、それではです」
「植民地なしで国家経営をされるおつもりですか」
「そうです」
 その通りだとだ、セーラは貴族達に毅然として答えた。
「これからのエイリスは貿易によって成り立っていくべきです」
「馬鹿な、植民地からの富がなければ」
「エイリスは成り立ちませんぞ!」
 彼等はエイリスを完全に私物として主張する。
「その様なことは出来ません!」
「断じて!」
「その通り!」
 ここでだ、クロムウェルが席を立って叫んだ。
「エイリスの栄華は植民地によってもたらされたものですぞ」
「そうです、クロムウェル卿の仰る通りです!」
「エイリスに植民地は絶対に必要です!」
「それを放棄するなぞ!」
「有り得ませんぞ!」
「許されることではありません!」
 他の貴族達もクロムウェルに続く、そして。  
 セーラに対してだ、一斉に言うのだった。
「植民地を放棄してもやっていけるというのですか!」
「女王陛下、その根拠は!」
「根拠はおありですか!」
「植民地を放棄出来るという根拠が!」
「このエイリスが!」
「世界帝国の座も放棄されると!」
「世界の盟主からも降りられると!」
 彼等は口々に言う、だが。
 セーラの毅然とした態度は変わらない、女王として。
 そのうえでだ、こう言うのだった。
「植民地の富は搾取に過ぎません」
「搾取!?」
「それだと」
「何も生み出さず奪うだけです、生み出さないものは何時かは枯渇します、それに」
 セーラは再び演説をはじめた。
「現地民達を虐げるだけです、我々だげが肥え太り」
「あの様な連中なぞ我等に奉仕するだけの存在ですぞ」
「その様な者達のことなぞ気にすることはありません」
「左様、生かしてもらえるだけでも感謝せねばなりません」
「所詮は」
「この連中本音出してやがるな」
 イギリスは彼等の主張を聞きながら苦々しげに呟いた。
「あからさまにな」
「そうですね、私も長い間植民地の実態には気付きませんでしたが」
 イギリス妹も兄に苦い顔で応える。
「今まさにですね」
「その実態を出してくれているな」
「全くです」
 イギリス兄妹はこれまで以上に彼等への不快感を増した、そして。
 セーラの演説は続く、その演説はというと。
「エイリスの腐敗を招いています、植民地への治安維持、叛乱鎮圧の為に駐留させている軍の予算も無視出来ません」
「だから植民地を放棄すると」
「それも全て」
「植民地からのただ奪うだけの搾取や巨大な軍の維持よりも」
 それよりもというのだ。
「貿易により国家を動かしていく方がいいのです」
「では世界帝国の座は!世界の盟主の地位は!」
 クロムウェルはこのことを問うた。
「それは!」
「最早世界帝国なぞただ名ばかりです」
 既にだ、そうなっているというのだ。
「ドクツやソビエトの台頭を受け止められず太平洋も」
「所詮エイリスと比べれば小国ばかりではないですか」
「それも取るに足らない」
 貴族達は彼等をそう捉えていた、所詮はそうした国々だと。彼等はまだ大戦前のエイリスの国力を基準にして考えているのだ。
「あの様な国々こそエイリスが主導すべきです」
「世界帝国の我等が」
「違います、その考えは驕りです」
「驕り!?」
「それだと仰るのですか」
「そうです、傲慢です」
 ただのだ、それに過ぎないというのだ。
「そもそも世界はこの世界の全ての者、全ての国のものです。エイリスのものではなかったのです」
「エイリスが導くものでも」
「違うと」
「エイリスは確かに長い間世界の盟主でした」
 セーラもこのことは認める、だがそれは既に過去のものだった。
「しかしその繁栄と栄華は先に話した様に植民地とその国々の民達を虐げるだけのものに過ぎないものでした」
「ですから植民地はです」
「我等に奉仕するだけの」
「それが傲慢です、世界帝国はその傲慢に過ぎないものになっています」
「だからだと」
「世界帝国、世界の盟主の座も」
「エイリスは降ります」
 そうするというのだ。
「これからの世界はエイリスが主導するものではなく」
「ではどの国が世界を主導するのですか!」
 クロムウェルがそのことを問うた。
「日本だというのですか」
「違います」
 セーラはクロムウェルのその問いに首を横に振って答えた。
「どの国でもありません」
「日本でもないと」
「そうです、どの国でもないです」
 そうだというのだ。
「世界はこれからは全ての国、全ての者がそれぞれ生きていき動いていくものです」
「だからですか」
「エイリスは」
「植民地、世界帝国の座も全て放棄し」
 セーラはこのことをだ、再び宣言した。
「枢軸諸国と講和します、今よりこの一連の政策に対しての票決を取ります」
「反対!」
「反対だ!」
「私は反対しますぞ!」
「私もです!」
 貴族達は一斉に反発を見せた、最早それが票決だった。 
 そのうえでだ、彼等はさらに口々に言うのだった。
「陛下、ご再考を!」
「こんなことはなりませぬぞ!」
「植民地も世界帝国の座もないエイリスなぞエイリスではありません!」
「ですから!」
  特にクロムウェルがだった、特に。
  こうだ、セーラに言う。
「陛下、若しご再考して頂けないなら」
「どうだというのですか?」
「我等にも考えがありますが」
「その考えとは」
「申し上げるまでもないと思いますが」
「では私もです」
 セーラも切り札を出そうとした、それは。
「非常大権」
「クロムウェル卿、お言葉ですが」
 ロレンスがだ、セーラを護る様にして言って来た。
「陛下へのご無礼は許されませんが」
「無礼ではありませんが」
「そうは思えませんが」
 ロレンスも負けていない、剣を抜かんばかりの顔だ。
 イギリス兄妹もセーラの傍にいる、無論彼女を護っているのだ。
 クロムウェルも貴族達も彼等の存在は無視出来ず歯噛みする、だが。
 彼等は議会の外にいる私兵や雇っているならず者達を頼みにして必死に虚勢を張ってこう言うのだった。
「陛下、どうしてもと仰るのなら」
「我々は今ここで議決しますぞ」
「議決とは」
「陛下のご自重を」
 それをだとだ、セーラに言うのだ。
「暫くご休養されては」
「それをお勧めしますが」
「おい、女王さんに謹慎しろってのか?」
 イギリスは立ち上がり彼等に問うた。
「そう言うのかよ」
「いえ、それは」
「そうではありません」
 流石に自分達の祖国に言われると彼等も弱い、怯むものを見せる。
「戦争が終わるまでの間です」
「暫く我等に任せて欲しいのです」
「任せるって講和しねえのかよ」
 イギリスは彼等を見据えて問い返した。
「これ以上戦うってのかよ」
「そうです、植民地を全て奪還しましょう」
「ここは何としてもです」
「世界帝国の座もです」
「絶対に」
「だからそれは無理なんだよ」
 イギリスは彼等に再び言い返した。
「もうエイリスに力はないんだよ」
「いえ、あります」
「我等の軍があります」
「だからです」
「ここは我等にお任せ下さい」
「どうしてもっていうんだな」
 イギリスは彼等を見据えたままだった、今もセーラの傍にいる。
 そしてだ、こう言うのだった。
「じゃあな」
「我等の意見を聞いて頂けますね」
「継戦ですね」
「出来ることならここで済ませたかったんだけれどな」
 イギリスは残念そうに言う。
「こうなったら仕方ないな」
「!?まさか」
「我々を」
「言っておくが女王さんには指一本触れさせないからな」
 イギリスはこのことは絶対にだと宣言した。
「何があってもな」
「では謹慎も」
「それも」
「そうだよ、絶対にな」
 こう言うのだ。
「わかってるとおもうけれどな」
「ではどうされるのですか」
「祖国殿は」
「後は御前等だけで何とかしろよ」
 こう言うのだった。
「もうな」
「?一体」
「といいますと」
「我々が何をしろと」
「どうせよと」
「もう出ようぜ」
 イギリスは彼等には答えなかった、セーラの方を見てだった。
 そのうえでだ、こう言うのだった。
「出ようぜ、ここからな」
「もうですか」
「ああ、ロレンスさんも用意が出来てるだろ」
「はい」
 ロレンスもだ、イギリスの言葉に確かな顔で頷いて答える。
「それでは」
「近衛軍に主力軍も従えてな」
「そうしてですね」
「ああ、エイリスを出るぜ」
 そうしようというのだ。
「それでいいな」
「こうなったら仕方ないわね、内乱にまでなったらね」
 それこそだとだ、エリザも言う。
「最初からそう思っていたしね」
「まあ思ったよりひどくならなかったな」
「ええ、そう思うとよかったわ」
 エリザはイギリスに微笑んで答えた。
「それじゃあね」
「出ような」
 こう話してそしてだった。
 セーラ達はイギリス主導で議会を出た、貴族達は何とか彼等を出すまいとするが。
 イギリスが彼等の方を見てだ、こう言うのだった。
「言ったな、指一本触れるなってな」
「くっ・・・・・・」
「精々頑張るんだな」
 イギリスは彼等を見据えて言った。
「御前等だけでな」
「私達は女王さんと共に行きますので」
 イギリス妹も言う、セーラの傍にいて。
「後はご自由に」
「あの、祖国殿がおられないと」
「我々は」
 大義名分が成り立たないというのだ、これには彼等も困惑した。
 しかし彼等は止まらない、それでだった。
 イギリス達はセーラを連れてだった、そのうえで港まで向かいそこからエイリスを出る、そこにはエイリスの主力艦隊も揃っていた。
 貴族達の私兵やならず者達も集まっていた、だが。
 その彼等には正規軍達が睨む、それで黙らせていた。
 そして貴族達もだ、とてもだった。
 手が出せなかった、セーラ達を見送るしかなかった。
 気付けば王族達は皆出ていた、それで。
 残ったのは貴族達とその私兵、そしてならず者達だった。本当に何もいなかった。
 仕方なくなった、クロムウェルが言うのだった。
「こうなってはわしがだ」
「はい、そうですな」
「ここはクロムウェル卿にお願いします」
「国家元首としてです」
「お立ち下さい」
 貴族立ちも仕方なくなった、そのうえで。
 クロムウェルが護国卿となった、それでだった。
 彼等はその政策を掲げた、その政策は。
 徹底抗戦だった、それだった。
「植民地を全て奪い返すぞ!」
「エイリスは世界帝国であり続ける!」
「何としてもだ!」
「絶対に!」
 彼等は口々に言う、そして。
 枢軸諸国との徹底抗戦を掲げ彼等へえの多額の賠償金も要求した。それでどうしてもだと言うのだった。
 セーラ達は程なくパリに着いた、エイリスの正規軍を連れて。
 イギリスはパリに着いてからこう言った。
「まあ後は連中だけだからな」
「正直連中に従う奴なんていないだろ」
 フランスがそのイギリスに言う。
「そうだろ」
「ああ、正規軍を連れて来てるからな」 
 だからだとだ、イギリスは真剣な顔でフランスに返した。
「もうな」
「あの私兵艦隊だけか、どうってことないな」
「いや、まだな」
「何だよ、、正規艦隊で残ってる奴がいるのかよ」
「そういうのはいないんだよ」
 一人もだというのだ。
「正規艦隊は一人もいないさ」
「じゃあどいつが残ってるんだよ」
「ヤクザとかゴロツキがな」
 残っているのはだ、彼等だけだというのだ。
「そんな連中しか残ってるないからな」
「そうか、じゃあどうってことないな」
「所詮ならず者連中だからな」
 フランスはそれを聞いて言いイギリスもだった。
 ここでだ、こう言うのだった。
「どうってことないだろ」
「ああ、それじゃあな」
「わかってないのは連中だけだよ」
 貴族連中だけだというのだ。
「勝てると思ってるしそれにな」
「それにかよ」
「ああ、植民地とか世界帝国とかな」
 そうしたことにこだわっているのも彼等だというのだ。
「そんなのにこだわる奴等もな」
「あいつ等だけか」
「攻めたら終わりだよ」
 ロンドン、そこにだというのだ。
「じゃあ行くか」
「準備が出来たらな」
 こう話してだった、そして。
 イギリス軍正規軍も枢軸軍に加わった、暫くは動きがなかった。
 しかし戦争は続いている、東郷は秋山に言った。
「エイリスに行くか」
「ロンドンにですね」
「そうだ、これで戦争は終わりだ」
 こう言うのだった。
「貴族連中が相手ならな」
「例えどれだけの数がいてもですね」
「ああ、勝てる」
 間違いなくだ、そうなるというのだ。
「出撃準備が整ってからな」
「そのうえで、ですね」
「ロンドンに攻め込む」
 そうするというのだ。
「それでいいな」
「わかりました、それでは」
「エイリスに行くぞ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 枢軸軍は本格的に出撃準備にかかった、その中で。
 セーラはその枢軸軍を見てこう言った。
「エイリス軍と違いますね」
「そうだよな、何かな」
 イギリスもその彼等を見て言う。
「エイリスだと貴族達だけが威張っててな」
「こうした穏やかな雰囲気はなかったですね」
「ああ、本当にな」
「植民地だとエイリス軍だけでな」
 彼等が第一だ、現地民は虐げられるだけだった。
 その状況とは違いだ、それで彼等は今話すのだった。
 セーラは考える顔でこうイギリスに話した。
「やはりエイリスの政策は間違っていましたね」
「これまでな」
「はい、本当に」
 セーラはまた話す。
「植民地政策は誤りでした」
「だよな、だからこれからはな」
「貿易で生きましょう」
「それしかないな、ただな」
 ここでだ、イギリスは言った。考える顔で。
「エイリスは今度世界帝国どころか」
「欧州でもですね」
「ああ、ドクツが第一だな」
「最早エイリスは欧州で第二か第三の勢力でしかないです」
 オフランスやイタリンと並んでだというのだ。
「最早」
「けれどそれでいいな」
「世界帝国としての座はいいのです」 
「もう世界を主導する国はないな」
 イギリスはこのことも話した。
「俺達も降りるしな」
「圧倒的な国は今後存在しません」
 もう二度とだというのだ。
「百年程経てばどうなるかわかりませんが」
「日本もな」
「はい、あの国も」
 セーラも応えて言う。
「そこまで圧倒的な力は備えられません」
「だよな、ガメリカも中帝国もな」
「ガメリカは世界帝国になれましたが」
 あのままいけばだというのだ。
「日本や中帝国が伸びてきてるしな」
「太平洋では大国です、世界的にも」
「けれどだな」
「はい、世界を支配するまでは至りません」
 こう話すのだった。
「勿論欧州のどの国もです」
「ドクツは相当伸びるだろうけれどな」
「それでもです」
 極端にだ、勢力は大きくならないというのだ。
 それでだ、こう言うのだった。
「大国の時代ではなくなります」
「そうだろうな」
「勿論植民地もです」
 それもだというのだ。
「なくなります」
「うちもオフランスも全部手放したしな」
「はい、それで」
 全くだというのだ、そうして。
 その話をしながら出撃準備を進めていくのだった、ロンドン攻略の準備は進めていた。しかしその中において。
 日本はエイリス軍の艦艇を観てだ、首を傾げさせて言った。
「これは」
「艦載機かよ」
「はい、ソードフィッシュですが」
「もう古いか」
「旧式では」
 イギリスに怪訝な顔で話す。
「そう思いますが」
「やっぱりこっちもこういうの変えないと駄目か」
「そう思います、それに艦艇も」
「あれだろ、水雷攻撃とかに弱いってんだろ」
 イギリスは自分から言った。
「ビーム攻撃とかには強くてもな」
「艦載機に対しても」
 日本はイギリスとのおれまでの戦いからも言った。
「戦いからも思いましたが」
「ああ、自覚してるよ」
 イギリスは日本に首を傾げさせながら応える。
「うちは艦艇も旧式になってたか」
「その様ですね」
「空母も開発してんだけれどな」
 だがそれでもだというのだ。
「もっとな」
「そうですか」
「何かあちこち古くなってるんだな」
 イギリスはあたらめてこのことを自覚した。
「どうにかしないとな」
「兵器だけのことではないですね」
「いや、全部だよ」
 兵器に限ってではないというのだ。
「もううちは全部な」
「古くなっているというのですか」
「そうだよ、本当に老大国になっちまってるな」
 それが今のエイリスだというのだ。
「長い間植民地や世界帝国にこだわっててな」
「だからこそですか」
「戻ったら全面的な改革だよ」
 エイリスのその全てをだというのだ。
「兵器も軍制も議会も政治システムもな」
「貴族制度もですね」
「何もかもをな」
 全面的に見直し根本から改革を行わなくてはならないというのだ。
「そのことを痛感したよ
「そのうえで生きていくのですね、エイリスは」
「欧州の中の一国としてな」
 世界帝国でなく、というのだ。
「そうしていくさ」
「ではその為にも」
「ロンドンに戻るか」
 勝つのではなくだ、戻るというのだ。
「貴族連中にはお灸だな」
「この戦争はイギリスさんにとっても非常に大きなものでしたね」
「ああ、本当にな」
 やられっぱなしだった、だが。
「色々あってな」
「エイリスが生まれ変わった戦争になりましたか」
「世界のどの国もな」
 そうなった戦争だとだ、イギリスは言うのだった。
「そんな戦争になったな」
「そうですね、私にしても大きく変わりました」
「俺はもう太平洋には貿易とか外交以外では入らないからな」
 植民地がなくなったからだ、イギリスは遠い目になっていた。
「そっちはそっちでやってくか」
「そうなります」
「頑張れよ、まあガメリカと中帝国は好きになれないけれどな」
 同じ連合国にいた頃も散々足を引っ張られた、それでなのだ。
「仲良くやれよ」
「難しいですが」
 個性の強い二国とはだ、日本もそのことは見極めていた。
 そのうえでこれからのことを考えつつイギリスに言うのだ。
「太平洋は太平洋でやっていきますので」
「それで欧州は欧州か」
「そうなりますね」
「やってくか、ドイツやフランス、それとイタリアと」
 こう話してだった、イギリスは間も無くはじまろうとしている戦後のことを見極めていた。終わりではなくはじまってからのことを。


TURN137   完


                      2013・9・12



ある程度、予想していたとは言え。
美姫 「貴族連中は本当に勝てるつもりなのかしら」
冷静に考えれば、負けが見えているはずなんだけれどな。
美姫 「私兵の人たちもよく付いて行くわよね」
だよな。まあ、多分枢軸が負けるなんて事はないと思うが。
美姫 「それでも油断や慢心はせずにね」
いよいよエイリスと既に呼べるかどうかは別として、決着の時だな。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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