『ヘタリア大帝国』




                          TURN14  マジノ線攻略 

 ドクツ軍は全軍、東欧、北欧に向かった軍だけでなくだ。
 新たにドクツ領になった星域の軍も合わせてだ。そのうえでだった。
 オフランスに向かっていた。その軍の動きを見てだ。レーティアは言うのだった。
「これからだ」
「ええ、いよいよね」
「我がドクツの本当の戦いがはじまるんだ」
「これまでは序章ね」
 それに過ぎなかったとだ。グレシアはレーティアの横から言う。
「東欧も北欧も」
「その通りだ。オフランスは確かに強い」
「平和主義が蔓延っていてもね」
「その軍の規模も装備も侮れない」
 決してだ。レーティアは油断していなかった。そしてオフランス軍自体を甘く見てもいなかった。
 それ故にだ。レーティアはこう言うのだった。
「軍の数は特にだ」
「私達よりずっと多いわ」
「そうだ。やはり数は大きな力だ」
「今の私達にはないものね」
「その通りだ。だからこそ私はだ」
「あれだけの兵器を開発してね」
「優れた人材を見出してだ」
 そしてだった。
「軍規軍律をさらに厳しいものにし常に訓練を施した」
「そのうえでドクツ軍を精鋭にしたわね」
「軍は精強でなければならない」
 レーティアは断言した。
「ドクツ軍は世界最強でなければならないのだ」
「その通りよ。そして、ね」
「私は切り札も用意した」 
 レーティアはグレシアと共に宇宙港にいる。そこから己の軍の動きを見ているのだ。そしてそのうえでだ。港を見据えながら言うのだった。
「それこそがだ」
「あの娘とね」
「あの船だ」
「その二つがあればこそ私達は」
「オフランスに勝てる」
 レーティアの目の光が強くなる。
「そしてエイリスに向かえるのだ」
「その通りよ。それじゃあね」
「オフランスの者達でだが」
「彼等はどうするの?」
「パリの後はプロヴァンス星域を陥落させる」
 オフランスを構成する星域はパリだけではない。そのプロヴァンスもあるのだ。その両方をだ。レーティアは陥落させていくというのである。
 そしてだった。レーティアはそれからのことも言った。
そのうえでエイリスだ」
「そうね。あの国こそがね」
「我がドクツの真の敵なのだからな」
「そのエイリスだけれど」
 ここでグレシアはだ。こうレーティアに言ってきた。
「あの女王様は頑張ってるみたいね」
「セーラ=ブリテンか」
「ええ。中々やってるみたいよ」
「彼女は確かに優秀だ」
 そのことはだ。レーティアも認めた。
 だがそれでもだ。レーティアはこうも言ったのである。
「しかしだ。エイリス自体がだ」
「落ち目になろうとしてるわね」
「斜陽だ」
 落日の国だというのだ。エイリスは。
「既にその力には翳りが見えている」
「そうね。だからね」
「私が引導を渡す」
 レーティアの声がまた強くなる。
「その我等の本当の戦いのはじまりだ」
「そういうことね。ただ」
「ただ。何だ?」
「昨日お話したことだけれど」
「ドーラ教と親衛隊か」
「ええ。彼等はどうするのかしら」
「ドーラ教は取り締まる」
 彼等についてはそうするとだ。レーティアは即座に答えた。
「カルト教団だな」
「間違いなくね。信者は少ないけれど何か怪しげな儀式を行っているそうよ」
「生贄を使ってだな」
「その様ね。だからなのね」
「そうだ。取り締まる」
 悪く言えば弾圧する。そうするというのだ。
「生贄なぞ許してはならない」
「まさかまだそんな宗教があるなんてね」
「邪教だ」
 レーティアは冷たく言い切った。
「そんな宗教はあってはならない」
「若し今そうした宗教が力を持てば」
「大変なことになる。だから小さいうちに取り締まる」
「カルト教団はね」
「そうするしかない。だから手は打つ」
 強い声で言うレーティアだった。
「そうするぞ」
「わかったわ。それでだけれど」
「親衛隊か」
「彼等はどうするのかしら」
「親衛隊長か」
 親衛隊の長、文字通りその存在を問うたレーティアだった。
「ヒムラーか」
「ノンツィヒ=ヒムラーね。士官学校にいたそうだけれどね」
「士官学校中退か」
「成績は優秀だったみたいよ」
「それでどうして辞めたのだ?」
「北欧に旅行に行ってかららしいわ。急にね」
 士官学校を辞めた。そうだというのだ。
「そうらしいけれど」
「北欧?あの場所に何かあるのか?」
 北欧と聞いてもだ。レーティアは首を捻るばかりだった。
 そしてそのうえでだ。グレシアにこう尋ねたのだった。
「あの場所にはだ」
「何もないわよね」
「そうだ。何もないのではないのか?」
 こうも言ったのだった。
「確かにオーロラはあるがだ」
「そんな士官学校を中退してまではね」
「士官学校での成績は優秀だったのだな」
「ロンメル元帥と同期でね」
 グレシアはロンメルの名前も出した。
「それでね。成績を張り合っていたらしいわ」
「それではかなり優秀ではないのか?」
 レーティアはまたしても首を捻ることになった。
「学校の成績だけではわからないにしてもだ」
「そうね。けれどロンメル元帥とは親友だったらしいし」
「そうなのか」
「そうなの。後は彼から聞けばいいと思うわ」
「わかった」
 レーティアはグレシアの言葉に答えた。
「ではそうする。そしてだ」
「話を変えるわね」
「そうだ。オフランスを占領した後だ」
 今度はこの話題になった。所謂占領政策についてだ。
「まず王族は離宮に軟禁させてもらうか」
「そうね。彼等はね」
「北欧連合王国の王族達と同じだ」
 軟禁するというのだ。彼等の離宮の一つにだ。
「身の安全は保障するにしてもだ」
「政治的利用は許してはならないわね」
「それは危険だ」
 その政治的な判断からだ。レーティアは言う。
「だからだ。そうさせてもらう」
「これまで通りね」
「あと。統治だが」
「これも今まで通りね」
「まず私が行くか」
 他ならぬだ。レーティア自身がだというのだ。
「ツアーだな。だがその中でだ」
「はいはい、希望はわかってるわ」
「ルーブルだ」
 この名前がだ。二人の会話に出て来た。
「ルーブルに行っていいな」
「勿論よ。レーティアの前からのお願いだからね」
 微笑みを向けてだ。グレシアはレーティアに話した。
「是非行きたいっていうね」
「そうだ。絵はいい」
 レーティアの目がだ。自然に輝いていた。
「観ているだけで心がよくなる」
「よくそう言ってるわね」
「私は絵も描く」
「絵画も天才って言われてるわよ」
 こちらでもだ。レーティアは天才の名を欲しいままにしていた。104
 そしてそのうえでだ。彼女の絵も評判になっているのだ。
「その絵もね」
「今は描く時間がないがな」
「けれどルーブルに行って」
「観たい」
 切実な声でだ。レーティアは言った。
「是非共な」
「じゃあ今はね」
「ドクツは勝つ」
 それは確実だった。レーティアはわかっていた。
 そして確信しているからこそだ。こう言えたのだ。
「彼等の凱歌を待つ」
「既に政治として打つ手は全て打ったわ」
 レーティア、そしてグレシアの立場からだ。それはしているというのだ。
「そしてね」
「そうだ。後はだ」
「現場の仕事ね」
「彼等はやってくれる」
 国家、そして部下達に対する信頼もだ。レーティアは見せた。
「私が選び、鍛えあげた者達だからな」
「そうね。貴女がそうした人達であり国家達だからこそ」
「では待とう」
 微笑みもだ。見せたレーティアだった。
「彼等の凱歌をな」
「ええ、そうしましょう」
 こう二人で話しながらだ。レーティアとグレシアはオフランスへ向けて出撃するドクツ軍を見送った。ドクツ軍は恐ろしい速さでオフランスとの国境に向かう。
 そしてだ。この二国にも兵を向けたのである。
 オランダとベルギーはドクツ軍迫るとの報告を聞いた。そのうえでだ。
 ベルギーはオランダの家、質素で清潔だが何もない感じのその家に行きだ。こう言ったのである。
「兄ちゃん、来たで」
「ドクツだな」
「そや、遂に来たんや」
「来るとはわかってた」
 オランダは煙草を吸いながら述べた。二人共それぞれの国の軍服姿だ。
 オランダは自分の向かい側に座る妹にだ。こう言ったのだった。
「そんでだ」
「イギリスさんとフランスさんやな」
「あの二人は何と言っている」
 実は二人は既にエイリス及びオフランスと同盟を結んでいる。言うまでもなくドクツの脅威を察してのことである。ドクツの隣であることはそれだけ緊張するのだ。
 それ故にだ。こう話すのだった。
「そんで」
「ああ、援軍送ってくれるそうやで」
「そか」
「けど。正直なところな」
 ここでベルギーは困った顔になって兄に述べた。
「勝つのはや」
「マジノ線か」
「そう。そこで決戦挑んで勝つそうやから」
「そなら俺達はどうなるんだ」
「一戦交えてや」
 そのうえでだというのだ。
「一旦後方まで退いて欲しいってことや」
「マジノ線までか」
「ドクツ軍をできるだけ惹き付けてや」
 一戦交えてそのうえで後退してだというのだ。
「マジノ線に入って欲しい言うてるんや」
「国、捨てろか」
 オランダの眉がぴくりと動いた。ベルギーの話をここまで聞いた。
 そして表情は変えていないが不機嫌な様子でだ。こう言ったのである。
「そう言ってるか、あいつ等」
「まあ意地悪い見方すればそやな」
「そんなことは好かん」
 声に感情を出しての言葉だった。
「俺は国民と一緒にいたい」
「それは国家として当然やな」
「それは御前もだろ」
「うん、そやで」
 ベルギーは困った顔になってオランダに返した。
「うちかてな。やっぱりな」
「国は捨てたくない」
「どうしてもな。けれどや」
「勝つ為にはか」
「そうするしかあらへんからな」
 ベルギーは腕を組み背中を曲げてだ。困った顔になっていた。
 そしてその顔でだ。こう言ったのである。
「しゃあないわ」
「そか。それなら」
「兄ちゃんもそれでええな」
「仕方ないわ」
 憮然としてだ。オランダは妹に答えた。
「そうする」
「ほなまずはエイリス、オフランス軍と合流して」
「そっからドクツ軍と一戦交える」
「そうすんで。まあおおよそは前の戦争と同じやな」
 一次大戦、その頃とだというのだ。
「ドクツ軍が来てや」
「オフランスまで迫る」
「そこでエイリスとも一緒になって戦うんや」
「しかし今回はマジノ線がある」 
「そや。そやからかなりちゃうで」
 ベルギー達にとって有利だというのだ。それもかなりだ。
「安心して戦えるで」
「そだな。それなら」
「出撃や」
 ベルギーは一先ずの敗北を念頭に置きながらも明るく言った。
「そんでドクツ軍と戦うで」
「わかった。そんでドクツ軍は」
「絶対にうち等のところからオフランスに入るで」
 ドクツ軍の侵攻ルートにはだ。ベルギーは確信があった。
「そこしかないからな」
「そだな。後はアルデンヌがあるが」
「アルデンヌはあかんからな」
 ベルギーは明るい顔でアルデンヌについてこう言った。
「あの暗礁宙域は軍艦は通れんで」
「ああ。あそこは無理だ」
「でかい船はな。小さい船でも苦労するから」
「それだけにあそこは安心していい」
「マジノ線に正面から来るドクツ軍が相手やで」
「どんだけ速うても強うても来る方がわかっていれば」
 それでだというのだ。
「何も怖くない」
「そうそう。この戦いうち等の勝ちやで」
「ドクツ軍、幾ら強うても」
 どうかとだ。オランダはその目に強いものを宿らせて述べる。
「そんでも。マジノ線があれば」
「うち等の勝ちや」
 こう話してだ。彼等は戦いに目を向けるのだった。
 オランダとベルギーは出撃しオランダ星域に布陣した。その数はそれぞれ国家艦隊を含めて二個艦隊である。合わせて四個艦隊である。
 その四個艦隊にエイリスから応援が来た。彼等は四個艦隊だ。
 その四個艦隊でドクツ軍を待つ。そのドクツ軍の指揮官は。
 シュテテルンだった。彼女は己の旗艦から敵軍を見てだ。こう言った。
「では戦闘開始だ」
「わかったずら」
「じゃあ攻撃にかかりましょう」
 そのシュテテルンの旗艦のモニターにだ。ルーマニアとブルガリアが出て来た。それぞれの表情で彼女に対してだ。こう応えてきたのだ。
「そんでずらが」
「僕達はこのままですね」
「そうだ。オフランスに入りだ」
 そしてだというのだ。
「マジノ線の前に出る」
「で、おいら達はそのままマジノ線に向かうずらな」
「しかしそれでも」
「私達は攻撃は仕掛けない」
 シュテテルンは二人に告げた。強い声で。
「絶対にだ」
「攻撃を仕掛けるのはあの人達ずらな」
「僕達ではなく」
「そうだ。あの方達ならやってくれる」
 また強い声を出してだ。シュテテルンは言った。
「あの場所を突破してだ」
「そうずらな。けれどずら」
「よく考えつかれました」
 ルーマニアとブルガリアは今度はこう言った。
「あんなことはこれまで誰も考えつかなかったずらよ」
「その時点で驚きですが」
「私も驚いている」
 こう言いながらだ。何故かだ。
 シュテテルンは硬い感じだがそれでも整っているその顔に紅を入れてだ。そのうえで言ったのである。
「あの方はな。やはり名将だ」
「ドクツの誇るずらな」
「まさにですね」
「そうだ。あの方ならばやってくれる」
 確信の笑みさえ向けてだ。シュテテルンはルーマニアとブルガリアに話す。
「では兵を進めてだ」
「ああ、オランダとベルギーをやっつけるずら」
「そうしましょう」
「全軍戦闘用意」
 シュテテルンの命令が下った。
「いいな、そうしてだ」
「よし、わかったずら」
「攻撃開始ですね」
「ベートーベン提督、そしてギリシア殿にも伝えてくれ」
 彼女が率いるのは五個艦隊だった。ベートーベンは指揮下にあるのだ。
「敵軍を今より叩く。そのうえでだ」
「うむ、マジノ線に向かおう」
「そうするんだな」
 ベートーベンとギリシアもモニターに出て来た。そのうえでシュテテルンに対して応える。
「ではこのままだ」
「敵に向かう」
「敵の数は多い」 
 シュテテルンは言う。このことを。
「だがそれでもだ」
「そうだ。戦術と兵器の質だ」
 それが大事だと言うベートーベンだった。
「ましてや彼等はまだ旧態依然の戦術と兵器だ」
「我々はそこを衝きます」
 シュテテルンはベートーベンに答えた。
「そうしますので」
「では主力は貴官が率いだ」
「はい、提督は陽動をお願いします」
 こう話してだ。そのうえでだった。
 シュテテルン率いるドクツ軍は動きはじめた。まずはだ。
 シュテテルンとルーマニア、ブルガリア、ギリシアの四個艦隊が連合軍の八個艦隊に向かう。それを見てだ。
 ベルギーはだ。目を丸くさせて己の旗艦の艦橋から言った。
「何や!?あの速さは」
「はい、あれがです」
「ドクツ軍の速さです」
「あんな速い艦隊見たことないで」
 こうだ。ベルギーはエイリスの提督達に述べた。
「まるで流星やないか」
「そうです。そして攻撃力もかなりのものなので」
「御気をつけ下さい」
「数はこっちが優勢やけどな」
 ベルギーはこのことを頼りにしていた。だが。
 オランダはだ。こう妹に言ってきた。
「油断すな」
「それはわかっとんで」
「そんでも。この戦は」
 どうかというのだ。
「負けることが前提だ」
「そやな。ポッポーランドも北欧連合も負けてるんやな」
「どっちも数では優勢だった」
 そうだったというのだ。
「そんでもだ」
「負けてるさかいな。どこも」
「そんで勝てるっちゅうと」 
 自分達はどうかと言うオランダだった。
「無理がある」
「そやな。ここはやっぱり」
「一戦交えて駄目なら撤退する」
 オランダは内心を隠してベルギーとエイリスの提督達に告げた。
「そうする」
「わかったで。ほなな」
「まずは一戦交えて」
「そのうえで撤退しましょう」
 まさに撤退が前提の戦だった。こうしてだ。
 彼等もまた迎撃の用意に入る。ドクツ軍は自分達の射程に入るとだ。
 すぐに一斉射撃を浴びせてきた。そしてだ。
 ベートーベンの艦隊は右、連合軍から見て左手に回ってくる。そうしてだ。
 側面から攻撃を浴びせる。連合軍の八個艦隊はそれでかなりの数を減らした。
 だがこのドクツ軍の射程と機動力を活かした攻撃を受けてだ。オランダはこう全軍に言った。
「今のうちにだ」
「はい、撤退ですね」
「そうしてですね」
「そだ。損害は最低限に抑える」
 やはり本心を隠してだ。こう答えるオランダだった。
「いいな。マジノ線まで逃げる」
「わかりました。それでは」
「今より」
 こうしてだ。連合軍は呆気なく撤退した。オランダでの戦いはドクツ軍の勝利に終わった。
 だだシュテテルンは緒戦の勝利ににこりともせずだ。こう言ったのである。
「ではだ」
「惑星を占領してずらな」
「そのうえで、ですね」
「そうだ。マジノ線に向かう」
 そうするとだ。ルーマニアとブルガリアに話した。
「そうする。ベルギーだが」
「そちらは既に占領したとのことだ」
 ベートーベンがモニターからシュテテルンに言ってきた。
「ロンメル元帥がな。北欧諸国を率いられてだ」
「わかりました。ではですね」
「ルクセンブルグは無血開城した」
 ベネルクスで唯一戦力不足で参戦できなかったこの国もだ。既にだというのだ。
「そちらはオーストリア殿、ハンガリー殿が入られた」
「そうですか」
「ベネルクス三国の占領は終わる」
 ドクツの完勝だった。まさにだ。
「そしてそのうえで我々はマジノ線に向かうがだ」
「我等は陽動ですから」
「陽動は陽動として動こう」
「はい」
 シュテテルンはベートーベンの言葉に応えた。
「是非共。そうしましょう」
「そうだ。ではな」
 こうしてだ。ドクツ軍はオランダを占領した。こうしてベネルクスでの緒戦は終わった。
 だが戦いはこれからだった。そのマジノ線にだ。
 オランダもベルギーも入った。その二国をだ。
 イギリスともう一人フランスが迎える。フランスがまず二人に言う。
「ああ、大変だったな」
「一戦交えて撤退してきた」
「そやから損害はそれ程でもないで」
 それは大丈夫だとだ。二人はフランスに返した。
「そだから心配すな」
「戦力はあるさかいな」
「そうだったらいいんだけれどな」
 フランスは二人の言葉を聞いて納得した。今彼等は要塞の中にいる。
 それでだ。フランスはすぐにこう言ってきた。
「それでな」
「このマジノ線か」
「どや、っちゅうんやな」
「そうだよ。かなりのものだろ」
 フランスは胸を張って二人に言うのだった。
「この要塞ならドクツの奴等が幾ら来てもな」
「そだな。この要塞は破られない」
「絶対にやな」
「このマジノ線は難攻不落なんだよ」
 胸を張って言うフランスだった。
「例え誰が来てもな」
「そうだな。これだけの要塞はな」
 フランスと共にいるイギリスもだ。彼のその言葉に頷く。
 そのうえで上はダークブルー、そして下は赤の目立つ軍服の彼にだ。こう言ったのだった。
「幾らあのドクツの奴等でもな」
「絶対に抜けないからな」
「どんな軍でもだな」
「だからここで勝てるんだよ」
 フランスは勝利を確信していた。彼等の勝利を。
「ドクツ軍はここで止まるからな」
「俺もそう思うさ」
 イギリスもだ。このことは確信していた。
「確かにドクツ軍は破竹の進撃を続けてるけれどな」
「ここで終わりだぜ」
「そうなるからな。後な」
「ああ、アルデンヌだな」
「あそこには兵は置いてないんだな」
「置く必要ないからな」
 軽く笑ってだ。フランスはイギリスにこう答えた。
「あそこからは敵は来ないからな」
「だな。あそこは無理だな」
「あの暗礁宙域は越えられるものじゃねえ」
 マジノ線での勝利と共にだ。フランスはこのことも確信していた。
 それでだ。こう言ったのである。
「だからここに軍を集結させてるんだよ」
「だな。じゃあな」
「ああ、ドクツの奴等を待とうぜ」
「そうするか」
 こうした話をしてだ。彼等はドクツ軍を待ち受けていた。彼等は勝利を確信していた。
 しかしそのアルデンヌではだ。マンシュタインがだ。
 艦隊を率いて暗礁宙域を突破しながらだ。こう言ったのである。
「どうだ、艦隊の動きは」
「はい、狭い道ですから」
「進むのに苦労しております」
 そうなっているとだ。部下達が答える。
「しかしそれでもです」
「中々進めません」
「そうか。しかしだ」
 だがそれでもだとだ。マンシュタインは言うのだった。
「進めてはいるな」
「まさかとは思いましたが」
「実際にこう進めるとは」
「夢にも思えませんでした」
「まことに」
「そうだな。誰もがそう思う」
 マンシュタインは腕を組みその謹厳な顔で述べた。
「しかしだ。そう思っていてもだ」
「実際にはですか」
「不可能とは限らないのですな」
「そうだ。まずは調べてみることだ」
 マンシュタインは言った。
「そしてそのうえでだ」
「実行できるならですか」
「それを実行に移す」
「そうするべきなのですな」
「その通りだ。そしてそれが今なのだ」
 アルデンヌを軍で進む、それだというのだ。
「このアルデンヌを抜けてマジノ線の後ろに回る」
「そして、ですな」
「そのうえでマジノ線を攻める」
「そうされるのですな」
「そうだ。これが第一段階だ」
 アルデンヌの突破、それがだというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「そのうえでとは」
「今度は一体」
「何をされるのですか」
「その時になればわかる」
 今ではないというのだ。それは。
 だがそれでもだ。マンシュタインは強い声で言い切った。
「しかし我等は勝つ」
「あのマジノ線を突破できる」
「そうなるのですか」
「間違いなく」
「そうだ。安心するのだ」
 ドクツ軍の将兵達はまだ自分達がマジノ線を突破出来るかどうかだ。確信している者は少なかった。だがそれでもだとだ。マンシュタインは言ったのである。
「我等は勝てる」
「オフランスにですね」
「あの憎むべき」
「我等にはあの方がおられる」
 そのだ。『あの方』とは。
「レーティア=アドルフ総統閣下がな」
「そうですね。あの方がおられますね」
「あの方の為されることは億に一つの間違いもありません」
「あの方は常に正しいです」
「何も間違いはあられません」
 彼等は確信していた。レーティアの正しさを。それはだったのだ。
 だからこそだ。彼等は勝利は確信できた。レーティアがいるからだ。
 それを見てだ。マンシュタインは満足した声でだ。モニターに出て来ていたドイツ達に答えた。
「では祖国殿達、共に進もう」
「ああ。それでだが」
「それでとは」
「あの娘だ」 
 ドイツは一人の少女のことをだ。マンシュタインに言ってきたのだ。
「あの娘の艦隊も来ているのだな」
「安心してくれ。時折通信が入ってきている」
「そうか。ならいいが」
「気になられるか、祖国殿も」
「姿が見えないからな」
 だからだとだ。ドイツはマンシュタインに対して答えた。
「どうしてもな」
「わかった。しかしだ」
「確かにいる」
「我等のところにだ」
「ああ、相棒よ」
 ここでだ。共にモニターにいるプロイセンがだ。ドイツに対して言ってきた。
「妹達から話は来てるぜ」
「そうなのか」
「あいつ等はあの娘の艦艇に行き来してるんだよ」
「ううむ。俺達はどうもな」
「女の子の船に入るのはな」
「憚れるからな」
 こうしたところではだ。ドイツもプロイセンも遠慮しているのだ。
 そしてその遠慮故にだ。今はだというのだ。
「あの娘の存在はわからない」
「本当に来てくれてるのかどうかな」
「総統の開発したあの船は」
「マジでかなりのものだな」
「私のところに定期的に連絡が来ている」
 マンシュタインはドイツとプロイセンに対して答えた。
「だから安心してくれ」
「わかった。ではな」
「あの」
 ここでだ。モニターにだ。少女の声が出て来た。
 そして一人の少女が出て来た。茶色のボブにした髪に楚々とした眼鏡の顔立ちである。目は鳶色であり眉は細い。
 小柄な身体を黒い軍服、下はひらひらとした学校の制服の様なミニスカートのそれで包んでいる。頭にはドクツ軍の黒い略帽がある。その少女がだ。
 モニターに出て来てだ。ドイツ達に言ってきたのである。
「連絡が遅れて申し訳ありません」
「いたか」
「今確めさせてもらったぜ」
「エルミー=デーニッツです」
 その少女エルミーはドクツの敬礼と共にドイツとプロイセンに名乗った。
「私の艦隊は無事同行しています」
「そうか。それならいい」
「話を聞いて安心したぜ」
「それなら何よりです。それでなのですが」
「よし、頼む」
「この戦いはな」
 ドイツとプロイセンはエルミーにこう声をかけた。
「貴官にかかっている」
「勝つかどうかな」
「お任せ下さい。総統から頂いたこの艦で」
 強い声でだ。言うエルミーだった。可憐だがそれでもだ。芯のある声だった。
「必ずや」
「そうだ。我等は勝つのだ」
 マンシュタインもだ。ここで言う。
「あのオフランスにな」
「よし、それではな」
「今から攻めるぜ」
 ドイツとプロイセンが応えた。そしてだ。
 エルミーもだ。意を決した顔で呟いた。
「総統の為に」
「そうだ。総統閣下とドクツの為だ」
 マンシュタインもだ。そのエルミーの言葉に応える。
「我等は勝つのだ」
「はい、それでは」
 こうしてだった。彼等はアルデンヌを突破していく。そしてそのことはだ。
 マジノ線にも伝わった。それが伝わる頃にはだ。
 ドクツ軍はマジノ線を突破していた。それでフランスが仰天して叫んだ。
「おい、嘘だろ!」
「私もそう思ったのですが」
 フランス妹がだ。その仰天する兄に報告する。その彼女も驚きを隠せない顔になっている。そしてその顔でだ。兄に対して報告しているのだ。
「ですが間違いなく」
「事実なのかよ」
「はい、彼等はアルデンヌを越えました」
「あの宙域を軍艦でかよ」
「合わせて五個艦隊です」
 エルミーの艦隊のことは知られていない。
「そしてその五個艦隊がです」
「ここに向かってるってのかよ」
「はい、後方からです」
「くそっ、何てこった」
 フランスは無意識のうちに舌打ちした。そしてだった。
 そのうえでだ。こう言ったのだった。
「まさかそこから来るなんてな」
「幸いこのマジノ線を越えなければパリには向かえません」
 その場所に位置しているからだ。彼等とて愚かではなくそこに布陣しているのだ。
 だからだ。フランス妹もこう言ったのである。
「ですから」
「ああ、ただ後ろから来るのならな」
 それならばだと返すフランスだった。
「ちょっと場所を変えるか」
「布陣の場所をですか」
「ベネルクス方面から来る軍に対して」
「そうだ。そうするか?」
「それがいいですね」
 フランス妹もだ。兄の言葉に対して頷いた。かくしてだ。 
 マジノ線は少し移動してだ。ベネルクス方面、アルデンヌ方面それぞれから来る敵に対せる場所に布陣した。無論そこに位置する艦隊もだ。
 そこに移動させてからだ。フランスは同盟国達に言った。
「これで大丈夫だぜ」
「ああ。ただな」
 ここでイギリスがフランスに対して言った。
「まさかな」
「ああ。アルデンヌを越えるなんてな」
「そんなことができるとは思わなかったぜ」
 イギリスも驚きを隠せない顔だった。
「ドクツ軍はそこまでできるんだな」
「そうですね。恐らくですが」
 イギリス妹も冷静な顔だがそれでも言った。
「私達がマジノ線を動かすのは想定していたでしょうが」
「それでもだな」
「はい。あえて、見せる為にもです」
 ドクツ軍がアルデンヌの様な場所も突破できることをだ。見せる為でもあったというのだ。
「仕掛けてきたのでしょう」
「そうだろうな。やってくれるな」
 フランスはまだ驚きを隠せない様子だった。
「ドクツの奴等、よくもな」
「やってくれるな。ただな」
 ここでイギリスがまた言う。
「このマジノ線だけはな」
「そだな。そう簡単にはな」
「越えられへんで」
 オランダとベルギーもだ。マジノ線自体には絶対の信頼を置いていた。そうしてだ。
 迫るドクツ軍についてもだ。こう言うのだった。
「ここで勝つ」
「マジノ線があるさかいな」
「それじゃあ迎え撃つか」
 フランスが最もマジノ線を知っている。何故かというと。
 そのマジノ線を造ったからだ。だからこそ自信があるのだ。
 だからこそだ。今は落ち着きを取り戻してこう言えた。
「勝とうぜ」
「ああ、それじゃあな」
「勝ちましょう」
 イギリスとフランス妹が彼に応える。かくしてだ。
 連合軍はそのままマジノ線と共に布陣する。その彼等にドクツ軍が迫る。
 その中でだ。彼等は合流し一つになった。ロンメルはマンシュタインに対してモニターから言ってきた。
「敵も馬鹿ではありませんね」
「そうだな。我等がアルデンヌを突破したと見ればだ」
「ああしてパリの前に陣を移してきました」
「あわよくばパリを急襲するつもりだった」
 その考えもだ。マンシュタインは持っていたのだ。
「しかしだ」
「ええ。やはりですね」
「マジノ線は攻略するしかない」
「それじゃあの娘には働いてもらいましょう」
「デーニッツ提督」
「はい」 
 マンシュタインが言うとだ。モニターにエルミーが出て来た。
「遂にこの時が来た」
「わかっています。では私の艦隊で今から攻撃を仕掛けます」
「狙うのは要塞だけでいい」
 そのだ。マジノ線だけでいいというのだ。
「一つずつ的確に破壊してくれ」
「了解しました」
 エルミーはドクツ軍の敬礼でマンシュタインに応えた。
「それでは今より」
「頼む。ではだ」
「はい、ジーク=ハイル」
 この言葉と共にだ。エルミーは一旦モニターから消えた。そのうえでだ。
 彼女の艦隊は密かにマジノ線に向かう。しかしだ。
 連合軍はこのことに気付いていない。それでだった。
 目に見えるドクツの艦隊を見てだ。オフランス軍の提督達はこんな話をしていた。
「例え奴等がどれだけ強くともだ」
「そうだ。このマジノ線は越えられない」
「この要塞線は艦隊では越えられない」
「例え百個艦隊が来てもな」
「越えられるものか」
 こう言ってだ。彼等は安心しきっていた。そしてだ。
 彼等は安心しきったその顔でだ。こんなことも言った。
「どうだろう。今のうちにだ」
「食事か」
「それをしておくか」
「敵はもう少ししたら来る」
 だからだ。その前にだというのだ。
「だからその前にだ」
「そうだな。昼食を摂るか」
「そうしようか」
「祖国殿に妹殿もお呼びしようか」
 彼等にとっての祖国はフランスである。その彼とその妹も呼ぼうというのだ。
「そしてそのうえでディナーを楽しむか」
「悪くないな。それではな」
「お二人をお呼びしよう」
「そして楽しもう」
 その昼食をだと話してだ。彼等は実際にフランス兄妹を呼んでだった。豪華なディナーを食べはじめた。しかしだった。
 その食事中にだ。エルミーは遂に要塞線に接近した。その中でだ。
 エルミーはその狭い艦橋の中でだ。己の部下達に問うた。
「見つかっていませんね」
「はい、今の時点でもです」
「敵のレーダーにはと捉えられていません」
「全くです」
「そうですか。では我々は」
 敵に気付かれていない。全くだというのだ。
「このままですね」
「いよいよ攻撃にかかれますね」
「その彼等に」
「マジノ線に」
「そうです。これより我々はマジノ線に攻撃を仕掛けます」
 まさにそうするとだ。エルミーは真剣そのものの声で答えた。
「今より」
「では各艦には極秘無線を送ります」
「そうします」
「そして打ち合わせ通りそれぞれの人工惑星に攻撃を仕掛けます」
 マジノ線を構成しているだ。その人工惑星達にだというのだ。
「宜しいですね」
「では今より」
「ジーク=ハイル」
「ジーク=ハイル」
 総統への忠誠の言葉も言い合いだ。そのうえでだった。
 彼等はそれぞれの惑星に向かう。そしてだ。
 攻撃を仕掛けた。装填している鉄鋼弾をだ。撃ったのだ。
「撃て!」
「撃て!」
 何もない筈の宙域からそれを放った。すると。
 要塞線は次々と攻撃を受けてだ。爆発を起こしていった。それを見て連合軍の将兵達は驚きを隠せない。そしてそのうえで混乱しながら言い合った。
「な、何っ!?」
「事故か!?」
「いや、事故にしては多過ぎる!」
「ドクツ軍の攻撃だ!」
「間違いないぞ!」
 このことは察しがついた。しかしだった。
 何処から攻撃を受けたかはわからずだ。彼等は混乱の中でだ。
 必死に索敵を行う。だが。
「馬鹿な、いないぞ!」
「敵は何処にもいないぞ!」
「正面にはいる」
 ドクツ軍の主力は見える。しかしだ。
 攻撃が来た方にはそんなものはいない。それで慌てたのだ。
「どういうことだ、一体」
「幽霊か!?」
「幽霊船がいるのか!?」
 こう言い合う。幾ら索敵をしても見つからない。それでだ。
 彼等はただただ狼狽するばかりだった。その彼等にだ。
 エルミーの艦隊はさらに攻撃を浴びせる。そしてだ。
 マジノ線はさらにダメージを受けてだ。その機能が低下していた。それを見てだ。
 フランスも狼狽しきった様子でだ。自身の妹に尋ねた。
「おい、何がどうなったんだ!」
「私にもこの事態は」
 フランス妹もだ。かなりの狼狽を見せている。
「一体何が起こったのか」
「鉄鋼弾だな!?」
 とりあえずだ。何で攻撃されたのかはわかっていた。
「それで攻めてきてるんだな!?」
「はい、それは間違いないです」
「じゃあ駆逐艦か!?」
 鉄鋼弾を放つといえば駆逐艦だ。誰もが想定することだった。
 だがそれでもだ。駆逐艦はだ。
「しかしよ。姿がな」
「はい、見えないですね」
「何でだ!?」
 本気でいぶかしむ顔でだ。フランスはまた言った。
「何で鉄鋼弾が出て来たんだ」
「何が何なのか」
「おい、また来たぞ!」
 イギリスが叫ぶ。見ればだ。
 マジノ線がまた攻撃を受ける。遂にだ。
 その戦闘能力がなくなった。それを見てだ。
 さしものフランスもだ。このことを認めるしかなかった。
「駄目だ、これは」
「ああ、マジノ線はな」
「もう戦えねえ」
 戦闘能力を喪失したというのだ。
「あのマジノ線がな。まさかな」
「何が起こったんだよ」
 フランスもイギリスも呆然とするばかりだった。
「難攻不落だ、それは間違いないんだよ」
「何が攻撃してきたんだよ」
「あの、祖国殿」
 オフランス軍の提督の一人が後ろから声をかけてきた。
「敵軍が」
「・・・・・・来たんだな」
「どうされますか?」
「総員迎撃用意だよ」
 呆然としながらもだ。この命令は出せた。
「いいな。まだ艦隊は健在だよな」
「はい、何とか」
「じゃあ戦う。けれどな」
「けれど、ですか」
「一体何がどうなってんだよ」
 最早戦いのことは考えられなくなっていた。フランス以外の国家も。
 それで迎撃に向かう。だがこれではもう結果が出ていた。マンシュタインもロンメルもだ。
 破壊されたマジノ線の中に布陣する連合軍を見てだ。こう評した。
「終わったな」
「ええ、彼等は最早抜け殻です」
「抜け殻の軍なぞどうということはない」
「では」
「全軍突撃」
 これがマンシュタインの命令だった。
「敵軍を一気に叩き勝敗を決する」
「そうですね。では」
「我等は勝ったのだ」
 マンシュタインは腕を組み言った。
「オフランスとの戦いにだ」
「恐るべきはあの艦ですね」
 ロンメルは艦のことに言及した。
「あの娘の開発されたあの艦あってのことです」
「その通りだ。潜水艦か」
「姿が見えない艦」
「まさに亡霊だ」
 それだとだ。マンシュタインはその潜水艦というものを評した。
「そしてその亡霊がだ」
「ええ。我々に勝利をもたらしました」
「では勝利を完全なものにする為に」
「ええ。今から」
「全軍突撃だ」 
 マンシュタインはまたこの命令を出した。
「この戦いはそれで終わる」
「それでは」
 ロンメルが応えてだ。そのうえでだった。
 ドクツ軍は突撃を仕掛けた。それによってだ。
 連合軍は総崩れになり戦いは終った。パリは程なくして陥落しプロヴァンスも占領された。オフランスは完全にドクツの軍門に下ったのだった。
 オランダとベルギーはドクツに投降し彼等の中に入った。しかしイギリスは。
 今回も命からがら戦線を離脱した。そのうえでだ。
 ダンケルクに向かっていた。その時に己の妹に問うた。
「おい、どれだけ生き残ってる」
「我が軍ですね」
「ああ、どれ位だ」
「五割を。かろうじて」
「維持できてる位か」
「全滅というものではありません」
 全滅は損害の三割だ。だがそれ以上の損害だったのだ。
「我々はまたしてもです」
「負けちまったな」
「決戦だったのですが」
 イギリス妹も無念の顔だった。
「ですが」
「勝てる筈だったんだよ」
 イギリスは苦い顔で言った。
「今回は絶対にな」
「私もそう思っていました。ですが」
「何に攻撃されたんだ」
 まだこのことがわからなかった。彼等には。
「急に何処かから攻撃を仕掛けてきてな」
「そうしてでしたね」
「本当に何だったんだ」
 まさにだ。今のイギリスの顔は幽霊に後ろから斬りつけられた顔だった。
 そしてその顔でだ。今妹に言うのである。
「あれは」
「何だったのでしょうか。本当に」
「ドクツの奴等は幽霊船でも使ってるのかよ」
「あの暗黒宙域の木造船でしょうか」
 イギリス妹はこの船の話を出した。
「あれなのでしょうか」
「いや、あれだと姿が見えるだろ」
 だから違うと言うイギリスだった。
「別の船だ。ただな」
「しかしそれが何かというと」
「わからねえ。だがこの戦いのことはな」
「はい、女王陛下にお伝えしましょう」
「その前に何とか生き残ってる奴等を逃がすんだ」
 今はこのことが先決だった。だからこそ彼等は今ダンケルクに向かっているのだ。
 その中でだ。イギリスはまた言った。
「いいか、今はな」
「はい、今は」
「ドクツの奴等は追ってきていないんだよな」
「プロヴァンスの占領に取り掛かっています」
「よし、じゃあ今のうちだ」
 撤退するというのだ。
「ダンケルクからすぐにロンドンに戻るぞ」
「わかりました。それでは」
「とにかく急げ。今のうちだ」
 とにかくだ。今が大事な時だった。
「逃げるぞ。早くな」
「了解です」
「それでは」
 こうしてだ。エイリス軍は何とか戦場を離脱できた。しかしだ。
 彼等は今回も敗れた。そして無念さを胸に本国に逃れたのである。そして。
 フランスもだ。妹と共に戦線を離脱していた。その彼はだ。
 意気消沈した顔でだ。こう己の妹に尋ねていた。
「これから何処に行けってんだ?」
「王族の方も皆ドクツに投降されましたし」
「それで離宮に軟禁だよな」
「はい」
 そうなるとだ。妹は兄に答えた。
「そうなります」
「だよな。じゃあ俺達も」
「いや、まだ手はあります」
「あるのかよ」
「シャルロット様がおられます?」
「シャルロット?ああ」
 この名前を聞いてだ。フランスもふと気付いた顔になった。
 そしてそのうえでだ。こう妹に言うのだった。
「あの娘か」
「はい、先王陛下の四女の」
「あの娘がまだいたか」
「今マダガスカルにおられます」
「じゃあマダガスカルまで落ち延びるか?」
「それがいいかと」
 これがフランス妹の提案だった。
「そしてそのうえで」
「もう一度か」
「再起を計りましょう」
「そうだな」
 フランスも妹の言葉に頷いた。そのうえでだ。
 彼等はマダガスカルに向かった。残った僅かな艦隊と共に。
 戦いは終わりドクツはオフランスを占領した。彼等は一つの目的を果たしたのである。


TURN14   完


                      2012・3・20



ドクツ、新型艦でオフランスも占領したな。
美姫 「順調に版図を広げているわね」
だな。しかし、ここまで来ればイギリスも更に力を入れて潰しにくるだろうな。
美姫 「新型に関しては正確な情報も少ないしね。でも、それでもドクツだけに戦力を割れないでしょうね」
どんな風に展開してくるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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