『ヘタリア大帝国』




                             TURN31  開戦

 東郷に逆にしてやられたハニートラップは香港に潜伏していた。だが、だった。
 ちょっと外出するだけでだ。すぐにだった。
「おいおい、あの娘だぜ」
「ハニートラップだぜ」
「中帝国の有名スパイだぜ」
「ここにいたんだな」
「香港に」
「違うわよ!」 
 一応サングラスをしているがそれでもだった。モロバレの状況で言い返すのだった。
「あたしはハニートラップなんかじゃないわよ!」
「もうモロバレ的な?」
 香港もいた。彼も言うのだった。
「ハニートラップはわかりやすい的な」
「げっ、香港さん」
 香港が前に出て来てだ。ハニートラップはぎくりとした顔になってドン引きした。
 そこからすぐに戻ってだ。こう香港に言い返した。
「何でここにいるのよ」
「ここ香港、俺だから的な?」 
 だからだと。香港は平然として返す。
「それで、的な」
「それでって」
「そう。だからここにいる的な」
「うう、そういえばそうね」
「もっと言えばハニートラップ逃げられない的な」
「えっ、まさか」
「包囲されている的な」
 香港がこう言うとだ。ハニートラップの後ろにだ。
 香港妹がいた。彼女は自分の方に振り向いてきたハニートラップに対して告げた。
「もう逃げられない的な。だから」
「投降しろっていうの?」
「そういう的な」
「投降したら拷問受けるじゃない」
 ハニートラップは彼女の常識から答えた。
「そんなの絶対に嫌よ」
「大丈夫的な?」
「杞憂的な?」
 これが二人の返答だった。香港兄妹の。
「東郷さんも日本さんも帝もそんなことしない的な」
「優しい的な」
「そういえばあの長官って」
 東郷の名前が出てだ。ハニートラップは少し落ち着いた。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「女好きだったけれど紳士だったわね」
「だから大丈夫的な」
「私達も普通に扱ってもらってる的な」
「ついでに言えば先生みたいに歳を感じさせない的な」
「若い的な」
「日本はどう見ても若くないでしょ」
 ハニートラップは東郷はともかく日本はそうだとだ。サングラスの奥の目を顰めさせて言った。
「若く見えても幾つなのよ」
「知らない的な」
「実際は結構高齢的な」
「まあとにかくね。逃げられないのはわかったわ」
 香港兄妹に囲まれてはだ。どうしようもなかった。
「それじゃあ。投降するわね」
「歓迎する的な」
「ようこそ的な」
 こうしてハニートラップは無事かどうかわからないが日本帝国に投降した。そうしてすぐに東郷の前に連行されるとだ。彼にこう言われたのだった。
「久し振りだな」
「ええ、会いたくなかったわ」
 うんざりとした顔でだ。ハニートラップは東郷に返した。
 場所は海軍長官室だ。日本、その高齢の彼と秋山もいる。
 その二人も前にしてだ。ハニートラップは言うのである。
「全くね。逃げられなかったわ」
「ははは。こちらも逃がすつもりはなかったさ」
「そうみたいね。それでどうするのよ」 
 ハニートラップは笑う東郷に問うた。
「あたしを。やっぱりスパイとして処刑?」
「いや、それは考えていない」
 東郷はハニートラップのその問いは否定した。
「全くだ」
「じゃあ本国に送還?」
「そうしてもいいが。そうだな」
 東郷は本題に入った。
「君は提督になるつもりはないか?」
「提督!?」
「そうだ。提督にだ」
 それにだ。ハニートラップを誘ったのである。
「それになるつもりはないか?」
「何言ってるのよ。あたしは確かに軍人だけれど」
 またむっとした目になってだ。ハニートラップは言い返した。
「艦隊指揮とかはね」
「専門外か」
「あたしは諜報員よ」
 むっとした目のままだ。ハニートラップは言っていく。
「それで艦隊指揮って」
「香港さん達が愛を注いでくれるんだがな」
「それで指揮能力とかがあがるっていうのね」
「そうだ。安心していい」
「ちゃんと戦艦とか指揮できるようになるのね」
「こういう時に国家が多いと助かる」 
 実際にそのことにはだ。東郷は心から感謝していた。
「だからだ。どうだ」
「本当にあたしを提督として雇うのね」
「そうだ。香港さん達に愛情を注いでもらいだ」
 原始の八人とその妹は五回、他の国は三回ずつそれが可能だ。
「そのうえでだ」
「まあそこまで言うんならね」
「ではいいな。君は今日から日本帝国軍の提督だ」
「正直できるかどうかわからないけれどね」
 だからだと言いながらもだった。
 ハニートラップも提督になった。日本帝国軍はまた一人提督を手に入れた。そうした中でだ。
 リンファとランファは日本本土に入っていた。南京からだ。
 そのうえでだ。場の緊張した空気を感じ取っていた。その空気を読みながらだ。
 リンファは眉を曇らせてそのうえでこうランファに尋ねた。
「近いみたいね」
「そうね。開戦ね」
「ええ、近いわ」  
 ガメリカとの間の開戦、それがだというのだ。
「間違いなく。数日のうちにね」
「なるわね。だからあたし達も呼ばれたのね」
「とりあえず南京には日本帝国に元からいる人達が入ったわ」
 言うなら背景の如き提督達がだ。
「南京、重慶方面も守りはあの人達が受け持って」
「あたし達はなのね」
「全軍でガメリカとの戦いに入るわね」
「みたいね。ガメリカねえ」
 ランファはガメリカとの開戦については微妙な顔を見せた。 
 そしてそのうえでだ。こうリンファに言うのだった。
「あたしはあまり気が進まないのよね」
「やっぱりあれ?金髪だから?」
「そうなのよ。やっぱり男は金髪でしょ」
「相変わらずね。そうしたところは」
 リンファはやや呆れた顔になってランファに突っ込みを入れた。
「けれどこの状況だとね」
「言ってもいられないわよね」
「そう。ランファにとっては残念だけれどね」
「それはあたしもわかってるから」
 ランファもだというのだ。
「だからちゃんと戦うから安心してね」
「そうしてね。それにガメリカだけでなくて」
「エイリスもいるわね」
「エイリスについてはどうなのかしら」
「あっ、全然大丈夫だから」
 エイリスについてはだった。ランファは明るく返すことができた。
「というかさっさと太平洋から出て行けって感じ?」
「それは私も同感よ」
「何で欧州の連中が太平洋に来てるのよ」 
 ランファはその可愛らしい唇を尖らせてリンファに言った。
「しかも植民地になんかして」
「私もそれは間違ってると思うわ」
「でしょ?共有主義の立場からも」
「まだ資産主義には拒否するものがあるけれど」
 だがそれでもだとだ。リンファは言うのだった。
「それでも」
「そうそう。植民地なんて言語道断よ」
「私はガメリカは好きではないけれど」
「エイリスはもっとなのね」
「大嫌いよ」
 ただ嫌いというのではなかった。
「あの両国だけはね。どうしてもね」
「そうよね。それじゃあね」
「エイリスとの戦いに躊躇はしないかわ」
 また言ってだ。そのうえでだった。 
 二人は港で自分が率いる艦隊の整備や補給を見ていた。まだ魚がかなりの割合を占めている艦隊は他の国々のものから見れば歪だ。だがそれが今の日本艦隊だった。
 そして御前会議の場には遂に宇垣が戻ってきていた。彼は憤然として帝、そして居並ぶ日本帝国の重臣や国家、神達に述べていた。
「取り付く島もありませんでした」
「ガメリカの対応はですか」
「まず中帝国の全ての領土からの撤収です」
 ガメリカからの要求をだ。宇垣は帝に話していく。
「そして日本領にガメリカの基地を置くこと」
「ガメリカ軍の」
「そうです。そしてその維持費や補給費用は日本帝国持ちとのことです」
 宇垣は憤然としたまま話していく。
「台湾及び韓国の独立も言っています」
「それは別にいいんじゃないか?」
「そうですね」
 東郷と秋山は密かにこう話した。
「半島併合からあそこへの投資は馬鹿にならないものになっているからな」
「ようやく台湾さんも韓国さんも一人立ちできそうですし」
「友好国のままでいてくれたらな」
「別に問題はありませんね」
「平良達は怒るだろうが」
「それでも。採算を考えれば」
 彼等は経済的な視野から述べていた。尚これは日本帝国の元老である伊藤公爵の考えでもある。
「その方がいいかも知れないな」
「最悪日本帝国の属国位で」
「しかもですぞ」 
 宇垣の話はさらに続いていた。今度はこう言うのだった。
「三国同盟の破棄に」
「今度はそれか」
 山下の顔が厳しくなる。普段以上に。
「それが飲めるかどうか」
「そうした要求を受け入れない場合は」
 どうなるかと。宇垣はこのことも話した。
「ガメリカの要求を受け入れられなければあらゆる資源の輸出停止に」
「何っ!?」
「それは」
 山下だけでなく東郷もだ。このことには思わず声をあげた。
「それだけ無茶苦茶な要求を受け入れられないとか」
「今度はそれですか」
「そう言ってきている。だがガメリカの要求を飲めば」 
 宇垣は怒りを必死に堪え怒りに震える顔で述べる。
「我が国はガメリカの属国となってしまう」
「そうなればです」
 帝、この場ではこれまで沈黙していた帝がここで言う。
「我が国はその状況でやがてはソビエトと戦わさせられるでしょう」
「それは自明の理かと」
 ソビエトの危険性を考えればだと。宇垣は帝に述べた。
「そうなれば我が国は悪戯に人命も国力も消耗しています」
「ガメリカからの要求は飲めません」
 帝は一言で結論を出した。
「絶対にです」
「では、ですか」
 日本がここで帝に問うた。
「帝のご決断は」
「はい、開戦です」
 こう言ったのだった。帝もまた。
「それしかありません。我が国はものを言わぬいじめられっ子ではありませんから」
「しかしですぞ」 
 あえてだ。宇垣はここでこう帝に言ったのだった。
「ガメリカの国力は圧倒的です」
「我が国の十倍ですね」
「はい、しかもガメリカはエイリスと同盟を結んでいます」
 世界を主導するこの老大国もいるというのだ。
「今の中帝国だけでなくこの二大国も相手にしますが」
「勝ち目はないというのですね」
「残念ながら」
 言いにくいがあえてだった。宇垣は今はこう言う役に専念した。
「その通りです」
「そのことはわかりました。しかしです」
「このままでいればですな」
「我が国はガメリカ、中帝国の属国に成り果ててです」
「ソビエトとの戦いで悪戯に消耗していきます」
「そんなことは飲めません」
 また言う帝だった。
「では、です」
「開戦ですか」
「はい。そうします」
「わかりました。それならです」
 帝が決意を見せたところでだ。東郷が言ってきた。この状況でも彼はその顔に余裕を見せている。
 その顔でだ。彼は言うのだった。
「かねてよりの計画を実行に移します」
「ガメリカ、エイリスとの戦争計画をですね」
「そうします。既に全艦隊の出撃体制は整っています」
「陸軍もです」
 山下も言ってきた。その手にある刀は今にも抜かれんばかりだ。
「必ずや。帝のお悩みを消し去ってみせましょう」
「では。お願いできますね」
「はい」
「無論です」
 東郷と山下は同時に答えた。
「お任せ下さい、この戦い」
「必ず勝ちます」
「では私もです」
 宇垣もだ。ここで名乗り出たのだった。
「久方ぶりに提督として戦わせてもらいます」
「外相自らですか」
「そうだ。東郷、それいいか」
 宇垣は東郷の目を見て彼に問うた。そこにあるものは。
 赤い心、帝と日本帝国に対するそれがあった。彼は確かに色々と問題はあるだろうがそれでもだった。
 国士だった。それも優秀な。その彼の心を見た東郷は。
 確かな顔でだ。こう宇垣に答えた。
「わかりました。それでは」
「提督として使ってくれるか」
「お願いします。今は少しでも人材が必要です」 
 何時になく真剣な顔でだ。東郷は宇垣に答えた。
「では」
「頼むぞ」
「宇垣、お願いしますね」
 帝も宇垣のその赤心を見た。それでだった。
 彼にも声をかけた。そうしてだった。
「では我が国は今よりアメリカ大使を呼び宣戦布告を伝えます」
「そしてですね」
 日本も言ってきた。ここで。
「ガメリカ大統領自身にも」
「その宣戦布告と同時に」
 秋山も言ってきた。
「我が国はマニラ2000、マイクロネシアに侵攻します」
「文字通りガメリカの前線基地にですね」
「はい」
 まさにそうした場所にだとだ。秋山は帝の問いにも答える。
「そうします。奇襲です」
「そのまま勢いに乗ってです」
 東郷も話す。
「エイリスの植民地やソロモンに攻め込みます」
「ハワイには攻め込まないのですね」
「そうしたことは山々ですがね」
 だがそれでもだとだ。東郷は帝の今の問いに答えた。
「ハワイは堅固です。今の我々の戦力で攻め込んでも」
「陥落しないですか」
「まずはまくロネシアとソロモンを押さえます」
 そうしてだというのだ。
「ハワイを牽制しそのうえで」
「エイリスの植民地を手に入れてですね」
「はい、勢力を蓄えます」
 こう帝に話すのだった。
「そしてそれからです」
「ハワイの攻略に取り掛かりますか」
「一気にアラビアまで向かいます」
「何と、アラビアまで」
「そうです。エイリスの力もこれでかなり弱まります」
「大きいですね。そうなると」
 帝は東郷の話を聞いてまずは賞賛の言葉で応えた。だが、だった。
 それでもすぐにだ。顔を引き締めさせてこう言ったのだった。
「ですがそれは」
「実現できる可能性はですね」
「かなり低いですね」
「そのことは否定しません」
 もっと言えばできなかった。このことが否定できないことは他ならぬ海軍を率いる東郷自身が最もよくわかっていた。彼は嘘を言わなかった。
「エイリスの植民地自体は大した戦力もなく分散配置されていますが」
「そして兵器も旧式ですね」
「各地を占領していくこと自体はまだ何とかなります」 
 だがそれでもだというのだ。
「ですがエイリスも馬鹿ではありません」
「必ず、ですね」
「本国より正規軍を送ってきます」
 このことも読んでいた。だが東郷の読みはそれだけではなかった。
 彼はさらにだ。帝にこう言ったのだった。
「しかも指揮官は騎士提督の一人でしょう」
「エイリスの切り札である、ですか」
「イギリス自身か妹も来るでしょう」
「イギリスさんがですか」
 その名前を聞いてすぐにだ。日本はその顔を引き締めさせた。
「あの方も」
「これはかなり大変な戦いになりますね」
 日本妹も言う。
「イギリスさんか妹さんがとなると」
「ああ。祖国さん達も頼むな」
「はい、あの方々が来られるなら」
「エイリスも本気ですね」
「多分ベトナム辺りで最初に衝突するな」
 そのだ。エイリス正規軍とだというのだ。
「エイリス軍は我が軍が手本にしてきた軍だ。決戦主義だ」
「そうだな。エイリス軍はな」
 山下もエイリス軍の決戦主義は知っていた。それはどういったものかというと。
「然るべき場所で敵と雌雄を決することを常にしているからな」
「だからだ。最初は多分ベトナムだ」
「インドを後方基地にしたうえでか」
「まずはベトナムで彼等を退ける」
 そしてだというのだ。
「インドの緒星域を占領するがだ」
「さらにか」
「インドカレーでだな」
「次の決戦の場は、か」
「そうなる。アラビアまで彼等との戦いは続く」
「そうした意味もあってか」
「ああ、アラビアがとりあえずの戦略目標になる」
 東郷はそこまで読んでいた。
「スエズへの侵攻も考えたいがな」
「それは流石に難しいだろう」
 山下はスエズ侵攻については否定的に述べた。
「ガメリカとの戦いがある。ハワイだな」
「アラビアまで侵攻したらハワイ攻略にかかる」
 実際にそうするとだ。東郷は山下に話した。
「そしてハワイを占領できたならな」
「そこを足掛かりにしてだな」
「ガメリカ本土に入る。カナダにもな」
「壮大だな」
 山下はここでは皮肉なしに述べた。
「まさにな。しかしだ」
「実現の可能性は低いというのだな」
「確かに植民地の艦隊なら何とかなる」
 彼等ならばだとだ。山下も見ていた。
「だがエイリスの本国艦隊は数も揃っていれば装備もいい」
「空母に戦艦もある」
「そうだ。しかもエイリスの誇る騎士提督が率いるとなるとだ」
「余計に難しいな」
「少なくとも騎士提督が直接率いる艦隊を攻略できないとならないが」
「そのことだな」
「バリアなり何なり装備しているだろう。勝てるか」
 山下は真剣だった。彼女は確かに東郷を嫌っているがそれでもだ。
 国家がかかっている、生真面目な彼女がそれをおろそかにする筈がなくそれが為に勝算を東郷に問うているのだ。彼女の公からそうしているのだ。
「それに対しては」
「勝てると言えば?」
「口だけではないな」
「この場合口だけで言うのは背信だと思うが」
「そうだな。貴様は確かにいい加減だ」
 山下は自分の統合の見立てで返す。
「しかし背信はしない」
「ならわかってくれるな」
「貴様は好きではないが信用できない者ではない」
「それならだな」
「その言葉信じさせてもらおう」
 山下は強い声で述べた。
「ではな」
「済まないな」
「謝ることはない。ではな」
 陸軍も賛成だというのだった。
「私は貴様に賛成しよう」
「これで海軍と外務省、陸軍が賛成ですね」
「私もです」
「私もだ」
 祖国である日本と柴神も帝に答えてきた。
「こうなっては戦うしかありません」
「座して死を選んではならない」
「ですからこの度は」
「開戦しかない」
 彼等が言いだ。そして。
 日本妹もだ。こう帝に言ってきた。
「私もです。そして」
「そして?」
「この方を御呼びしました」
 白い髪に顔の下半分を覆ったやはり白い髭に小さい目を持った老人だった。背広を着ている。その彼を見て帝は思わず声をあげた。
「公爵、貴方もまた」
「お話は伺いました」
 日本帝国首相であり内相、そして枢密院議長であり元老でもある人物だ。伊藤公爵である。日本帝国の至宝と言われる人物だ。
 彼が出て来てだ。こう言ったのである。
「私もこの度の開戦には賛成です」
「わかりました。では」
「こうなっては開戦以外にありません」
 伊藤も言うのだった。
「そして」
「勝利ですね」
「それを掴むしかありません」
 一旦戦うなら、そうならばだというのだ。
「ですから私もまた戦争に参加させて下さい」
「公爵もですか」
「何、これでもかつては艦隊を率いて戦ってきました」
 若き日の彼は自ら軍を率いて戦っていた。その頃に多くの武勲も挙げている。
 その彼がだ。こう帝に申し出たのだ。
「艦隊を編成する余裕があれば」
「水族館にはまだ魚が多くあります」
 秋山がその伊藤に答える。
「ですから艦隊の編成はです」
「できるか」
「はい、そのことは大丈夫です」
「では東郷よ」
「ええ、お願いします」
 東郷も伊藤のその言葉に応える。
「本当に今は艦隊が少しでも欲しいですからね」
「わかった。それではな」
 こうして伊藤も賛成しかつ参戦することになった。ここまで話をしてだった。
 帝は一同にだ。こう告げた。
「では我が国はガメリカ、エイリスとの開戦に踏み切ります」
「はい、それでは」
「今より」
「この戦いには我が国の命運がかかっています」
 だからこそだというのだ。
「勝ちましょう、絶対に」
「御意。では」
 宇垣が言ってきた。
「一週間後の0800にガメリカ大使及びガメリカ政府に宣戦布告を行います」
「エイリスともですね」
「無論です」
 その手配はするというのだ。
「ガメリカ、エイリスの大使は御所に来てもらう」
「あちらの政府には」
「祖国殿、そして妹殿」
 宇垣が今見るのは二人だった。
「お二人にはそれぞれガメリカ、エイリスの日本大使館に入ってもらいます」
「そしてそこからですね」
「それぞれの政府に赴いて」
「宣戦布告を行って下さい。そしてです」
 それからもだとだ。宇垣は二人に述べていく。
「すぐに大使館から本国に戻られて」
「参戦ですね」
「そうするというのですね」
「今から艦隊を動かしそして」
 そこからだった。
「宣戦布告と同時にマニラ、マイクロネシアに攻撃を仕掛けますので」
「その時にはそれぞれの旗艦の艦艇にですね」
「移って欲しいというのですね」
「多忙になりますがお願いします」
 宇垣は丁寧な物腰で日本兄妹に述べていく。
「その様に」
「わかりました。それでは」
「私達はその様にします」
 日本兄妹も応える。こうしてだった。
 日本軍は全軍出撃した。それも密かに。
 東郷は長門に乗り込もうとする。だがその彼のところにだ。
 平賀、勿論頭に久重を乗せている彼女が来てこう言ってきたのだった。
「出撃だな」
 久重が言ってくる。平賀の言葉を代弁して。
「遂にこの時が来たな」
「ああ、戦うからにはな」
「勝つか」
「そうする。勝って帰ってくるさ」
「わかった。では君にだ」
「俺に?デートの御誘いなら何時でもいいが」
「馬鹿を言え」 
 このことは即座に否定する平賀だった。
「そんな筈がない」
「やれやれ、俺の方はいいんだがな」
「私は男には興味がない。そういうことではない」
「じゃあ兵器のことだな」
「そうだ。長門よりも遥かに高性能の艦艇を今現在設計中だ」
 平賀が言ったのは驚くべきことだった。
「おそらく第六世代の艦艇も超える」
「今やっと第三世代の艦艇が出ようとしているのにか」
「そうだ。私の最高傑作だ」
 そこまでの艦艇が開発されようとしているというのだ。平賀の手によって。
「その艦艇を連合艦隊の旗艦に送る」
「それは有り難いな。こっちも欲しいところだ」
「やがてな。ただ問題は名前だ」
「艦の名前か」
「何にする、その名前は」
「そうだな。三笠もいいが」
「それは記念艦になっている」
 そのうえで保存されているのだ。正式に海軍に籍を置いて。
 だからこの名前は使えなかった。それではだった。
「他の名前だな」
「何がいいだろうか」
「それならですが」
 ここで出て来たのは日本だった。
「私に心当たりがありますが」
「祖国さんがか」
「はい、私の昔の名前にもなりますが」
 こう前置きしてだ。日本は話す。
「大和はどうでしょうか」
「大和か」
「その名前か」
 東郷だけでなく平賀も声をあげた。その名前を聞いて。
「成程な。そう来たか」
「これはまた、だな」
「どうでしょうか」
 日本はあらためて二人に問うた。
「この名前で」
「いいと思う」
「私もだ」
 二人はこう日本に答えた。
「そうだな。連合艦隊の旗艦の名前に相応しい」
「その名前があったか」
「そうですか。これでいいですか」
「大和、いい名前だな」
 東郷は微笑みさえ浮べた。そうしてだった。
 日本と平賀にあらためて言ったのだった。
「では俺はそれにしよう。大和だ」
「私も賛成させてもらう」
 平賀は久重の口から述べた。
「祖国殿、素晴しい名前を有り難う」
「いえ、お礼までは」
「いえいえ、流石祖国さんですよ」
 これは久重自身の言葉だ。
「そうしたセンスのある名前が出るところがいいですね」
「そうであればいいですが」
「いえね、前から思ってたんですよ」
 久重は平賀の頭の上から明るく話していく。
「祖国さんって何かとセンスがいいって。やっぱり私達の祖国だけはありますね」
「・・・・・・・・・」
 久重がさらに言おうとするとだった。ここで。
 平賀が彼をつんと右手の人差し指で突付いた。それで止めたのだった。
「あっ、すいません」
「・・・・・・・・・」
「そうでしたね。祖国さんに僭越ですね」
「・・・・・・・・・」
 平賀は無言でこくりと頷いた。
「失礼しました。私ごときが」
「いえ、別に構いませんが」 
 日本自身はこう返す。
「私としましてはむしろ畏まってもらう方が恐縮です」
「そうなんですか?」
「はい、畏まらずにフランクに」
「だから俺はそうしているんだがな」
 東郷は飄々として述べる。
「祖国さんのそうしたところを見てな」
「君はまたフランク過ぎる」
 平賀が久重の口で言ってくる。
「もう少し礼儀を守るべきではないのか」
「いえ、東郷さんは紳士ですが」
 ところが日本はこう言う。
「それも立派な」
「えっ、そうなんですか!?」
 久重は自分の言葉を出した。
「この人が!?それは幾ら何でも」
「いや、東郷は紳士だ」
 その久重にだ。平賀は自分の口で言った。
「そのことは私も保障する」
「そうなんですか」
「祖国殿の目は確かだ。安心しろ」
「まあ祖国さんが言うんならいいですがね」
「そういうことだ。ではだ」
「ええ、新旗艦の設計、開発ですね」
「それとあれだ」
 平賀はまだ言うのだった。
「あれの開発も進めよう」
「ええ、あれは面白いことになりそうですね」
「どうやら隠し球があるな」
 東郷は二人の話に面白そうに笑って突っ込みを入れた。
「その隠し球が出る時も楽しみにしておこうか」
「そこで詳しくは聞かないか」
「今全部わかると面白くないからな」
「余裕か」
「こうした状況だからこそ余裕がないと駄目だ」
 東郷はわかっていた。このこともだ。
「そういうことさ。じゃあ全軍出撃だな」
「この戦い、日露戦争と同じくです」
 日本は気を引き締めさせて述べた。
「運命の戦いとなります」
「それじゃあその運命の戦いにな」
「今から参りましょう」
 日本は東郷と共に歩む。そうしてだった。
 彼等はそれぞれの乗艦に乗り込む。そうするとだった。
 東郷は長門の艦橋において秋山に告げた。
「じゃあ行くか」
「出撃ですね」
「ああ、俺達はマニラに向かう」
「マイクロネシアにはですね」
「山本の爺さんに柴神様にな」
「わしだ」
「わしも行くぞ」
 宇垣と伊藤が出て来た。
「それと私もです」
「頑張ってくるんだぜ」
 日本妹に韓国、この六人が率いるそれぞれの艦隊だった。
「では頑張ってきます」
「そうしてくるんだぜ」
「あちらには六個艦隊ですね」
「マイクロネシアにはそれだけで充分だ」
 東郷はその判断を秋山に述べる。
「だがマニラ方面はな」
「はい、エイリスの植民地にも侵攻しますので」
「その六個艦隊以外の全部の艦隊を投入する」
 つまりこちらが主力だというのだ。東郷が直接率いるだけのものがあった。
「最初からそうするつもりだった」
「最初からですね」
「それは当然だと思うな」
「はい」
 秋山は即答で答えた。
「やはり。我が国が勝利を収めるには」
「まずはエイリスの植民地を解放してだ」
「現地の彼等の協力を得ることですね」
「そういうことだ。経済圏を作る」
 このことも言う東郷だった。
「戦争を支えるのもやはりな」
「経済ですね」
「経済なくしては何もできない」
 極めれ冷静にだった。東郷は述べていく。
「だからだ。いいな」
「東南アジア、オセアニアに」
「インドとアラビアだ」
「おそらくですが」
 ここで秋山はある星域を話に出した。とこは。
「マレーの虎が鍵になりますね」
「まずはだな」
「あの星域を手に入れれば東南アジア、オセアニア全域に睨みを利かせられます」
 それ故にだというのだ。
「ですから」
「わかっているさ。マニラを攻略したならば」
 それからすぐにだというのだ。
「あの星域に主力を向ける」
「そしてその他にもですね」
「インドネシアにソロモンにも艦隊を向ける」
 こうした星域にもだというのだ。
「そうする」
「電撃戦ですね」
「その通りだ。ドクツの受け売りになるがな」
 電撃戦そのものはドクツ軍のものだ。彼等の機動力を活かした戦術だ。
「それをこっちでも行おう」
「いえ、受け売りではなくです」
 秋山は東郷の今の言葉は否定した。そしてこう彼に言った。
「これは必然です」
「必然か」
「元々兵は神速を尊びます」
 兵法の基本だ。軍は動きが速くてこそだ。このことは言うまでもない。
「だからこそです。特にです」
「今回はだな」
「はい、一気に攻めましょう」
「ベトナムで最初の決戦になるにしてもだ」
 あくまでその辺りということだが東郷はあえてベトナムだと言ってみせた。
「それまでにな」
「ベトナム以外の東南アジアとオセアニアはですね」
「一気に占領しよう。そのうえでだ」
「ベトナムに攻め込みますか」
「そしてベトナムに勝てばインドだ」
 エイリスの宝石箱と言われる豊かなあの緒星域にだというのだ。
「そこに入る」
「そこでも一気にいきますね」
「そうするしかない。勝とうと思えばな」
「だからこそです。受け売りではないです」
「必然か」
「その通りです。では」
「よし、全軍に告ぐ」
 東郷は自信に満ちた顔で頷いた。そうしてだった。
 自らが率いる全軍に告げた。その命令を。
「これより我が軍は出撃する」
「来ましたね」
「待ちに待ったこの時ってやつだね」
「へっ、腕が鳴るぜ」
 まずモニターに小澤、南雲、田中が出て来て言う。
「では今よりですね」
「ガメリカ、エイリスとの戦いだね」
「いよいよだな」
「そうだ。皇国の興廃はまさにこの戦いにある」
 東郷は微笑みながらも確かな声でだ。三人の提督達だけでなく全軍に告げた。
「総員全力で戦ってくれ。以上だ」
「さて、ではわしもマイクロネシアに向かうか」
 山本がいつもの飄々とした感じでモニターに出て来た。
「連中の度肝を抜いてやるか」
「ではわしも行くぞ」
「私もだ」
 宇垣に伊藤も出て来た。
「さて、この戦いに勝てばだ」
「我が国は大きな国難を乗り越えることになる」
「なら東郷よ、今からな」
「共に戦場に赴こう」
 こう話してだった。彼等も出撃に赴くのだった。その彼等の言葉も受けて。
 東郷の指揮の下全軍出撃した。今賽は投げられた。銀河の大海の中に。


TURN31   完


                         2012・6・9



遂に日本も動き出すか。
美姫 「ガメリカと開戦ね」
ある程度、戦略を組み立てているけれど。
美姫 「どこまで予定通りに進める事ができるかしらね」
人手も戦艦も足りないしな。
美姫 「今回の開戦で他国がどうするかも気になるわね」
さてさて、どうなるか。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



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