『ヘタリア大帝国』




            TURN61  過ぎたる兵器

 キャロルも加えた太平洋軍はシカゴ、テキサスに駒を進めた。どちらのガメリカ軍も戦うよりもアメリカの姿を見てだった。
「祖国さんが講和って言ってるんだったらな」
「ああ、そうだな」
「戦う理由もないしな」
「どう見ても今のプレジデントはおかしいしな」
「それじゃあな」
「戦う理由もないだろ」
 こう口々に言って自分達から投降する。惑星の市民達もアメリカを笑顔で出迎えてこう言う程だった。
「祖国さんお帰り!」
「戻ってきてくれるの待ってたよ!」
「このままワシントンまで頼むね!」
「講和万歳!」
 これが彼等のアメリカの考えへの返事だった。そして。
 太平洋軍はシカゴ、テキサスからニューヨークにも入った。ニューヨークにおいても戦闘らしい戦闘もなく占領を終えた。
 残るはワシントン、首都星系だけだった。ハンナは官邸においてアメリカ妹と共にルースに対して言うのだった。
「もうワシントンだけよ」
「そうだよ、兄貴はニューヨークにも入ったよ」
「もうここまで来たら」
「講和しかないでしょ」
「ははは、これは想定の範囲内だよ」
 しかしルースだけは違う。怒り狂ったままの形相におぞましい笑みを浮かべてこうハンナ達に返すのだった。
「彼等がニューヨークまで至るのもね」
「そしてワシントンでっていうのね」
「決戦を挑むんだね」
「全てはそれで終わるよ」
 その笑みでこうも言うルースだった。
「ガメリカの勝利だよ」
「もうワシントン防衛艦隊も殆ど残ってないよ」
 アメリカ妹は苦々しい顔でルースにこの事実を告げた。
「皆兄貴のところに投降したよ」
「構わんよ」
「戦争は国家と人がするものなんだよ」
 アメリカ妹はこの常識からも言う。
「あんた一人でできないんだよ」
「これまではそうだね」
「これまでは?」
「マンハッタン君、準備はできているね」
 ルースは今も彼の傍らに立って控えているマンハッタンに顔を向けて問うた。
「あれの準備は」
「はい、勿論です」
 マンハッタンだけは彼に確かな笑みで答える。
「太平洋軍が来れば何時でも」
『使えるね」
「使えます。では太平洋軍が来た時には」
「あれを使おう」
 ルースは笑いながらマンハッタンに答える。
「是非共な。では君達は」
「出撃しろっていうんだね」
「いやいや、それには及ばないよ」
 ルースはアメリカ妹に顔を戻してこう答えた。
「君達も講和派だからね」
「参戦させないっていうんだね」
「私がガメリカに勝利をもたらすのを見守っていてくれ」
「この官邸でだね」
「如何にも。私が自ら出撃し」
 軍務に就いたことのない彼がだというのだ。
「勝って来るさ」
「出来る筈がないわ」
 ハンナは忌々しげにルースに述べる。
「もうここまできてどうして」
「君は本当にこれまでの常識でしか語れないのだね」
「それが悪いのかしら」
「常識は変わるものだよ」
「それが今だっていうのね」
「そうだよ。では今から昼食だが」
「プレジデント、今日のお昼のメニューですが」
 マンハッタンは補佐官としてだけでなく秘書でもありその立場からルースに対して今日の昼のメニューのことを話した。
「分厚いステーキがメインで」
「おお、ステーキか」
「はい、それにパンケーキにアイスクリームもありますので」
「どれもどっさりとだね」
「あります。好きなだけお召し上がり下さい」
「そうしよう。やはり力の出るものを食べなくてはな」
 ルースはマンハッタンが話したメニューを聞いて今度は楽しげに笑った。
「満足に働けない」
「その通りですね」
「君達もどうかね」
 ルースはハンナとアメリカ妹にそのメニューでテーブルを共にしようと持ちかけた。
「遠慮はいらんよ。好きなだけ食べ給え」
「遠慮するわ。それにしても食べるものまで変わったわね」
 ルースは今までヘルシー志向だった。そのメニューもカロリーを抑えてビタミンが多いものだったのだ。だが今は。
「貴方、もう別人よ」
「これが本来の私とは考えないのかね?」
「全く。けれどいいわ」
 ハンナは大統領の執務用の机に座るルースに忌々しげな目を向けて告げた。
「貴方の行く末、見届けてあげるわ」
「私の勝利をだね」
 ルースだけが言う。だが誰もがわかっていた。
 アメリカ妹は官邸の己の部屋に戻ると共にいるハンナに彼女達の昼食を二人で摂りながらこう言ったのである。
「もうあれじゃあね」
「破滅は近いわね」
「絶対にね。それにマンハッタンの兵器だけれど」
「間違いなく碌なものじゃないわね」 
 ハンナはそう確信していた。そのうえでよく焼いたベーコンのステーキをフォークとナイフで切って口の中に入れている。
「どういった代物かわからないけれど」
「ドロシーが造っていたCOREを元にしてるのよね」
「COREについては私も殆ど知らないけれど」
「あたしは国家だから知ってるけれどもうデータの殆どは完全に破棄されたわ」
「じゃあマンハッタンも」
「知ってることは僅かよ」
 そのCOREのだというのだ。
「あいつの頭に少し残ってるのだけよ」
「それだけでなのね」
「ええ、造ってるから」
「COREの主な部分はないのね」
「全くね、ないわ」
 それは間違いないというのだ。
「今考えると相当やばいシステムだけれどね」
「その危険な部分はないのね」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「あの大統領に扱えるものじゃないわね」
 このことは間違いないというのだ。
「どう考えてもね」
「そういう兵器なのね」
「本当は止めたいけれどね」
「今の大統領は何を言っても無駄ね」
「ええ、どうしようもないわ」
 アメリカ妹は苦い顔でマッシュポテトを食べながらハンナに答えた。マッシュポテトはいい味だったが彼女の顔は苦い。
「やっぱり負けるしかないわ」
「そうね。もうね」
 二人はルースの行く末を見守ることにした。そうすることが彼女達の今の仕事であると自覚はしていてそのうえでだ。
 太平洋軍は遂にワシントンまで駒を進めることになった。アメリカは作戦会議の場で東郷にこんなことを言った。
「ワシントンの将兵はもう殆どいないぞ」
「残っていないか」
「あらかたこっちに投降したからな」
「それだと後は兵を進めるだけか」
「それで終わる筈なんだ」 
 アメリカはここでこうも言った。
「けれどミスターは」
「ええ、徹底的にやる気よ」
 キャロルが難しい顔で答える。
「ミッちゃんはね」
「ミッちゃん?」
「ミスタープレジデントだからよ」
 キャロルはいぶかしむ日本にこう答えた。
「だからミッちゃんなのよ」
「そういうことですか」
「ええ。あれで悪い人じゃないんだけれどね」
「今はおかしくなっているんだ」
 アメリカもそのルースのことを話す。
「完全に我を失っている」
「そうなのよね。だから何をしてくるかわからないわよ」
「少なくとも徹底抗戦はしてくるな」
 東郷もこう読んでいた。
「あの大統領一人でもな」
「一人で軍艦は動かせません」
 福原が東郷の今の言葉に答える。
「それでは戦闘にすらならないのでは」
「普通はそう思うがな」
 東郷はその福原に答える。
「だが」
「だが、とは」
「あの大統領も根拠なく徹底抗戦を主張したりはしないからな」
「では何か切り札が」
「ゲイツランドにあった様な無人で遠隔操作ができる兵器があればな」
「それはワシントンにはないぞ」
 アメリカがその可能性を否定する。
「すぐに製造したのなら付け焼刃だから動くかどうかさえ危ういぞ」
「ああした兵器は運用が難しいんだよ」
 実際に使っていたキャヌホークも言う。
「だから急に製造して使用するのなら」
「怖くはないか」
「そう思うのが普通だろうね」
 キャヌホークはこう東郷に軽い調子で話す。身振りもそんな感じだ。
「正直派手な戦いにはなれないだろ」
「確かに艦艇は多くあります」
 クーも激しい戦闘になる可能性はないと見ていた。
「しかし。人がいないのでは」
「動くものじゃないよ」
 キャシーも他の面々と同じ考えである。
「あの大統領だけでどうするんだよ」
「何をどう考えても戦闘にはならないわ」
「その通りです」
 タイプが全く違うクリスとイザベラだが今の考えは一致していた。
「ただ軍を進めればね」
「それで済むと思いますが」
「俺もそう思うがさっき偵察に送った部隊から報告があった」
 ドワイトが一同に話す。
「何でも旧式艦を含めて百個艦隊はいるらしいな」
「百個!?面白いジョークだよ」
 ネクスンはドワイトの今の話に明るい笑みを出した。
「今のワシントンにそんな戦力がある筈ないじゃないか」
「しかし偵察部隊はそう言っている」
「無人艦を全自動で動かしているのなら怖くないさ」
 そうした艦隊は人間のコントロールとは違い鈍重でしかも決まりきった動きしかできないからである。そんなものはもう今の太平洋軍の敵ではない。
「まさに張り子の虎だよ」
「その通りだな。しかし百個艦隊もあるとなると」
 東郷は念には念を入れるという考えから述べる。
「こちらもしっかりとした戦力を送ろう」
「では今回も」
「全艦隊ワシントンに向かう」
 東郷は日本の問いに合わせて全ての提督達に告げる。
「そしてそのうえでガメリカとの戦いを終わらせよう」
「うん、絶対にそうしよう」
 アメリカは彼の言葉に強い声で答える。こうして。
 太平洋軍はワシントンに入った。ルースは既にガメリカ軍の今の旗艦であるデイビットに乗っていた。しかし艦橋にいるのは一人だ。
 しかも彼は司令の席ではなく機械の、歯医者の椅子を思わせる席に何かを目まで完全に隠して被ったうえで座っている。その何かからはコードが無数に出ていてそれで椅子のあらゆる場所とつながっていた。
 その椅子に座りながらモニターに映るマンハッタンに問うた。
「さて。これがだね」
「そうです。僕の開発した兵器です」
 マンハッタンは明るくルースに話す。
「今展開している百個艦隊全てをです」
「私が好きなだけ操れるのだね」
「その通りです。全てはプレジデントの思うがままです」
「ははは、それはいい」 
 ルースはマンハッタンの説明に機嫌をよくして言う。
「それならここで私が百個の艦隊を手足として使ってだね」
「太平洋軍に勝てば」
「ガメリカの勝利だ」
 ルースはその椅子に座りながら話す。
「では今から目指そう」
「はい、ただ」
「ただ。何かね」
「その兵器は結構脳に負担をかけますから」
 設計の段階でそれはわかっていることだというのだ。
「出来るだけ短期間で戦闘を終わらせて下さいね」
「短期間か」
「そうですね。三時間が限界でしょうか」
 マンハッタンはタイムリミットの時間も告げた。
「それを過ぎれば」
「脳への負担が大きくなり過ぎてか」
「そうです。ですから気をつけて下さいね」
「わかった。ではすぐに終わらせる」
 少なくともルースはそのつもりではある。
「すぐにね」
「ではそういうことで」
「さて、そろそろ来るかな」
 ルースは銀河を見ながら呟いた。
「敗れる相手が」
 その百個艦隊で迎え撃つ態勢は整っていた。ワシントンの戦いは今まさに幕を開けようとしていた、その中で。
 東郷率いる太平洋軍もワシントンに入った。彼はそのガメリカ軍の艦隊を見てまずはこう言った。
「数はあるな」
「はい、百個艦隊です」
「問題は誰が指揮をして動かしているかだが」
「どう考えてもです」
 秋山は東郷に話す。
「やはり」
「人は残っていないか」
「艦艇だけです」
「ではやはり無人艦隊か」
「そうではないかと」
「それならそれで戦い方がある」
 東郷は落ち着いた顔で秋山に話す。
「機械は決まった動きしかしないからな」
「そういうことですね。では」
「全軍まずは前に出る」
 前進させるというのだ。
「そして様子を見よう」
「では」
 秋山も東郷の指示に頷く。そうしただった。
 太平洋軍は前に出た、すると。
 ガメリカ軍は突進してきた、そしてだった。
 太平洋軍に果敢に攻撃を仕掛けんとしてくる、秋山は彼等の動きを見てやや驚きの声をあげた。
「これは」
「どう思う?」
「コンピューターの動きではありません」
 これが秋山の見立てだ。
「とても」
「そうだな、これは違うな」
「コンピューターはこうした場合様子見になりますが」
「しかし今の動きは」
「我々の動きを見ていません」
 まさにそうした動きだった。その急な突進はそうしたものだった。
「そのうえできています」
「コンピューターはこちらを見るからな」
「そのうえで判断してきますので」
「だが今の動きは違った」
「彼等の戦力、数だけを頼りに来ています」
「しかもだ」
 それに加えてだった。
「一糸乱れない動きだ」
「見事なまでに」
「一人の人間が動かしている様にな」
 東郷は今の動きからそこまで見抜いた。
「妙なことが多いな」
「そうですね。これは一体」
「全軍積極的な攻撃は仕掛けるな」
 東郷はここは様子を見ることにした。
「妙な相手だ。だからだ」
「それ故にですね」
「様子を見たい、それではな」
「わかりました」
 秋山が東郷の言葉に頷いてだった。
 そのうえで彼等は今は相手を見極めることにした。敵は無闇に攻めてくる。
 しかも一糸乱れる、一つの生命の如き動きで仕掛けてくる。だがその肝心の攻撃は。
 ビームを放つ場面で放たない、ただ前から来るだけである、艦載機を出すのもやけに襲い、鉄鋼弾の射程をわかっていない、それはまさに。
「素人か」
「そうですね」
 東郷も秋山もわかってきた。
「素人が一人でな」
「艦隊を動かしている感じですね」
「シュミレーションゲームだ」 
 東郷は相手をこう評した。
「ゲームをはじめたばかりのな」
「初心者ですね」
「軍人の動きじゃない」
 東郷は完全に見切った。
「それだ」
「そうですね。訓練や教育を受けたものではありません」
「指揮官は」
「ミスターだ」
 アメリカが二人にモニターから言ってきた。
「大統領自ら指揮にあたっているな」
「ルース大統領は確か」
 秋山は東郷の話からこう言った。
「軍務に就いたことはない筈です」
「その通りだ。そんな経験はないぞ」
「趣味としてシュミレーションゲームをされたことは」
「確か恋愛育成ゲームが好きだぞ」
「戦争のシュミレーションゲームの経験もないですね」
「それもないぞ」
「つまり完全な初心者ですね」
 こと軍事に関してはだというのだ。
「だからあの動きですか」
「しかしあれだけの統制は何だ」
 東郷は素人そのものの指揮ながら完全に一体化している今のガメリカ軍の動きを見て秋山とアメリカに問うた。
「一糸乱れない、あれだけの動きはそうはできない」
「ドロシーの技術を応用したのかもな」
「ドロシー?ドロシー=ノイマン長官ですか?」
 秋山はドロシーの名前を聞いてすぐにアメリカに問い返した。
「ガメリカ共和国科学技術庁長官の」
「その通りだ。話は長くなるが」
「率直にはどんな技術ですか?」
「アンドロイド、それも一つのつながりで連動して行動、学習できるシステムだ」
「ではその行動ですか」
「そうみたいだな。マンハッタンか?」
 アメリカは直感的に彼の存在を思い出した。
「確か今はミスターの首席補佐官だからな」
「マンハッタン博士といいますと」
「ガメリカの科学工学の権威でもあったな」
 東郷は彼のことをこの分野で知っていた。
「その御仁の開発か」
「僕はそう思うぞ」
「では今は大統領が一人でその連動して行動できるシステムで百個艦隊を全て動かしているのか」
 東郷はこう推察した。
「つまりそういうことか」
「多分そうだな」
「よし、わかった」
 東郷はここまで聞いて頷いた。
 そのうえで全軍にこう命じた。
「数は多いが烏合の衆だ、いや張り子の虎だ」
「大した相手ではないですか」
「敵は」
「そうだ、素人が一人で動かしているだけだ」
 こうルースの動かす艦隊を看破した。
「どうということはない」
「それならここは」
「どうされますか?」
「波状攻撃を仕掛けて圧迫する」
 これが東郷が選んだ戦術だった。
「そして相手に心理的圧迫を強いていく」
「初心者に対してですね」
「初心者にはこれが一番利く」
 その波状攻撃で戦力を一気にではなく随時減らしていくことがだというのだ。
「圧迫していく」
「わかりました。それでは」
「焦らずそうしていく」
 秋山にあえて焦らずとも伝える。
「それでいいな」
「ではまずは艦載機を出します」
 秋山は具体的な攻撃の指示も述べ東郷もそれをよしとした。そのうえでまずは艦載機から攻撃を仕掛けていく。 
 まずは旧式艦の艦隊からだった。次々にその艦艇が火を噴いていく。
 ルースはそれを見てかなりの狼狽を見せた。
「何っ、来た!?」
「プレジデント、どうしました?」
「敵が来たぞ、攻めてきたぞ!」
「大丈夫ですよ」
 マンハッタンの返事は能天気なまでに明るい。実は彼もまた軍事知識はない、やはりシュミレーションゲーム一つしたことがない。
 だからルースにこう言うだけだった。
「数はこちらの方が上ですから」
「勝てるか」
「しかもそのシステムはプレジデント一人で動かせますから」
「だから大丈夫か」
「はい、まさに大船です」
 だから安心していいというのだ。
「ですからご安心下さい」
「わかった。では三時間だな」
「それで決めて下さいね」
「よし。では今から決めよう」
 ルースはマンハッタンの言葉を根拠なく信じた。そしてだった。
 彼はダメージをものともせず攻撃を仕掛けた。だがその攻撃も。
 攻撃ポイントも決めず艦載機もビームも滅茶苦茶に出すだけで何にもなっていない、まさに素人の指揮であった。
 太平洋軍はその攻撃を何なくかわし攻め続ける。そして。
 二時間程経つとガメリカ軍の艦隊は半分程度にまで減っていた。これには秋山も驚きを隠せなかった。
「また随分と一方的ですね」
「そうだな。こちらは殆どダメージを受けていない」
 対する太平洋軍の損害は五パーセントも達していない。
「ここまで一方的な戦いはな」
「かつてありませんでしたね」
「全くだ。だが」
「だが、ですね」
「まだ戦いは終わっていない」
 それで油断するなというのだ。
「それはいいな」
「わかっています。油断をすれば」
「敗れることもある、このまま攻める」
 そうするというのだ。
「最後の最後までな」
「途中で降伏するでしょうか」
「どうだろうな」
 東郷は秋山の今の言葉にはかなり懐疑的に返した。
「軍事のことを全く知らないとなるとな」
「降伏に対してもですか」
「応じない、いや応じ方を知らない可能性もある」
「だからですね」
「最後まで戦わないといけないのかもな」
「それは少し厄介ですね」
「そうなってもやるしかない」
「では」
「覚悟はしておこう」
 最後の最後まで戦うこともまた、というのだ。そうしたことを話して攻撃を続ける。
 そして遂に三時間になった。すると。
「アグッ!!」
 ルースが突如として苦しみだした。座ったまま呻く。
 その彼を見てマンハッタンはこう告げた。
「あっ、三時間ですね」
「三時間経つと」
「先程も申し上げた通りそのシステムは三時間が限度なんです」
「どうなるのだ、動けなくなるのか」
「いえ、使用者の脳にかける負担が半端でないので」
 それでだというのだ。
「それ以上の使用は脳に深刻な障害を残しかねないですよ」
「か、構わん」
 だがルースはそのシステムを被ったままマンハッタンに返す。
「私はまだいける」
「あっ、戦われますか」
「そうだ。この程度で諦めることはしない」
 ルースは彼なりに意地があった。大統領として、そして彼自身のその意地があった。
 だからこそマンハッタンに呻きながら言うのだった。
「決して」
「ですがタイムリミットですよ」
「どうでもいい。私は戦う」
「まあ。プレジデントがそう仰るのならいいですが」
 マンハッタンはここで科学者としても述べた。
「僕にしてもシステムのデータが得られますし」
「君にとってもいいことではないか」
「じゃあお願いします」
「そえではな」
 ルースは戦闘続行を選んだ、そしてだった。
 彼はそのかなり減った戦力でさらに攻める。だが。
 その攻撃は相変わらずでしかも陣形も杜撰だ、とても戦争になるものではなかった。
 そして遂に包囲された。東郷はこの状況でアメリカに言った。
「降伏勧告をしようと思うが」
「いいと思うぞ。だが」
「そうだな。相手が聞くかどうかはな」
「聞かないぞ」
 アメリカもこう考えているのだった。
「今のミスターだと」
「そうだな。しかし采配がさらに酷くなっているな」
 包囲されて今度は上下左右三百六十度に無闇に攻撃を仕掛けている、それで反撃を加えると数はさらに減っていく。
 東郷はそれを見てやや首を傾げながらアメリカに話す。
「支離滅裂どころじゃない」
「素人どころか」
 秋山も今のルースの采配を見て述べる。
「何か異変が生じている感じです」
「痙攣して呻いている様だな」
 東郷は今のルースの采配をこう評した。
「それだな」
「旗艦はあれだな」
 東郷は艦隊の中の一際巨大で見事な新造戦艦を確認していた。
「あの戦艦を中心に動いているからな」
「ではあの戦艦を沈めますか」
「いや、あの戦艦以外の艦艇を全て沈める」
 そうするというのだ。
「そしてだ」
「さらにですか」
「あの戦艦に乗り込むか」
 接舷して切り込むというのだ。
「そうして大統領の身柄を確保するか」
「撃沈すれば戦死となりかねないからですね」
「流石に一国の大統領を戦死させるのはな」
 外交的な判断としてまずいからだった。東郷の今回の判断は彼が好まない政治的なものだったがそれでもこう言うのだった。
「そうしなくてはならない時だからな」
「だからですか」
「長門が自ら行くか」
「では私に任せてもらおう」
 その長門の艦橋に山下が出て来た。
「ルース大統領の身柄は拘束させてもらう」
「そうしてもらえれば何よりだ」
「任せてもらおう」
「それではな」
 山下との話もまとめてそのうえでさらに攻撃を仕掛けていく。ガメリカ軍の艦艇を沈めるのはたやすかったがその間際にだった。
 ガメリカ軍の全ての艦艇が行動を停止した。これにはアメリカがいぶかしげに呟いた。
「停まったぞ」
「先程まであれだけ活発でしたが」
 日本もそれを見て言う。
「これは一体」
「大統領に何かあったのかな」
 フィリピンが二人に自分の見立てを話す。
「それでかな」
「少なくとも敵はミスターだけだからな」 
 アメリカはこのことはよくわかっていた。
「その大統領に何かあればな」
「艦隊全てが動かなくなるからね」
「そうじゃないか?それならだ」
「はい、全ての艦艇を念の為沈め」
 急にまた動くことを警戒してそうするというのだ。
「そのうえで」
「後は任せてもらおう」
 山下はアメリカ達にも毅然として答える。
「大統領は我が陸軍で身柄を確保させてもらう」
「僕も行こう」
 アメリカは自分も名乗り出た。
「そしてミスターを何とかしたい」
「貴殿の上司だからか」
「その通りだ。色々よくしてもらってもきたからな」
 だから彼を何とかしたいというのだ。
「そうしていいか」
「では共に行こう」 
 山下はアメリカのその申し出をよしとした。そうしてだった。
 彼等はまずは旗艦以外の全ての艦艇を破壊した。少なくとも行動不能にした。
 そのうえで長門とアメリカの乗艦である彼の名前を冠したその艦がルースの旗艦に接舷した、山下は即座にその旗艦に乗り込む。
「アメリカ殿、いいな!」
「いいぞ!」
 アメリカはガンを持っている。そのうえで既に刀を抜いている山下に返した。
「なら行こう!」
「大統領の居場所はわかるか」
「艦橋だな」
 アメリカはそう察していた。
「そしてこのタイプの艦艇の艦内地図もわかる」
「そうか、それならだ」
「案内は任せてくれ」
 アメリカは山下の先に立って言った。
「では行こう」
「頼む」
 山下もアメリカに応える。こうして陸軍の精鋭は艦橋にいるルースの下に向かった。
 目的地に達するのは容易かった。だがそこに着くと。
 異変があった。ルースは彼等から見てまるで電気椅子の様な奇怪な機械に座ってこう呟いていたのだった。
「勝つ、ガメリカは勝つ」
「?ミスター」
「祖国氏、楽しみにしてくれ」
 ルースはアメリカの怪訝な声にも応えない。
「君に栄光をもたらす。だから戻ってきてくれ」
「僕はここにいるぞ」
「待て、様子がおかしい」
 山下がその彼の前に出て手で制止して継げた。
「今の彼は何か」
「あの機械のせいか?」
「精神が崩壊している」
 山下は崩れる様にしてそこに座るルースを見てそう察した。
「声をかけても無駄だ」
「じゃあどうすればいいんだ?」
「まずは身柄を確保する」
 山下はアメリカに冷静に答えた。
「あの奇妙な機械から出してな」
「わかった、それならだ」
「ガメリカに栄光を」 
 ルースは山下とアメリカが近付く中でもまだ何か呟いていた。彼が崩壊していることは明らかだった。
 ガメリカ大統領の身柄拘束で戦いは終わった。アメリカはワシントンに戻ったがすぐに彼の国民達から万雷の拍手と歓声で迎えられた。
「祖国さん待ってたよ!」
「元気そうだな!」
「ガメリカが復活だ!」
「祖国さんがいる限り大丈夫だ!」
「皆有り難う」
 アメリカはその彼等の歓声に応えながら言う。
「僕は君達を裏切って逃げ出したというのに」
「いや、逃げていないよ」
「祖国さんは俺達の為に頑張ってくれたじゃないか」
「その為に講和してここに戻ってくれたじゃないか」
「それでどうして裏切ったんだよ」
「祖国さんは裏切ってないよ」
「俺達を救ってくれたんだ」
 太平洋軍と講和しそして彼等を救ってくれたというのだ。
「本当にな」
「それでどうして祖国さんを怨むんだ」
「そんなこと絶対にないからな」
「だからこれからも宜しくな」
「一緒にやっていこうな」
「皆、本当に有り難う」
 アメリカは嬉し涙を流すことを必死に堪えながら国民達に応えた。
「僕はこれからも君達の祖国として頑張るよ」
「祖国さん万歳!」
「頑張ってくれよ!」
「一緒にやっていこうな!」
「これからも!」
「兄貴、おかえり」
 アメリカ妹も笑顔で兄に声をかける。
「ハンナさんも元気だよ」
「僕のいない間ガメリカを支えててくれたんだな」
「あたしも祖国だからね」
 アメリカの妹だからそうなる。彼女もまたガメリカの祖国なのだ。
「ちょっとばかり頑張らせてもらったよ」
「お陰でこれから何とかなりそうだな」
「それでミスターはどうなったんだい?」
 アメリカ妹は兄に彼の現状を尋ねた。
「ああ、マンハッタンは投降してからね。とはいってもあの訳のわからない兵器の開発の責任を問われる位でね」
「特に何もないか」
「それも別に法律を犯してもないし」
 それでだというのだ。
「罪に問われることもないさ」
「そうなんだな」
「そうだよ。それでミスターは」
「あのままじゃどうしようもないだろうな」
 精神が完全に崩壊してしまっているというのだ。
「病院に入院することになるだろうな」
「そうなんだね」
 アメリカ妹は兄の言葉を悲しい顔で聞いた。
「あの人はそれで」
「大統領も退任だな」
「そうなるね。どのみちすぐに選挙だけれどね」
「それにはダグラス司令が出るわ」
 ハンナもここで出て来た。
「さしあたっては大丈夫よ」
「そうか。ダグラスが僕の上司になるのか」
「そうなるわ。対立候補はどちらも弱いから」
 既存の二大政党のどちらもだというのだ。
「プレジデントの方は副大統領だけれど」
「副大統領というと確か」
「トール副大統領よ」
「ああ、彼だったな」
 アメリカもその存在を半分忘れていた。視線を上にやってハンナに応えていることにそれが出ている。
「彼だとな」
「ダグラスには負けるわね」
「ああ、絶対にな」
「次の大統領は彼で決まりよ」
 そのダグラスでだというのだ。
「祖国さんもそのつもりでね」
「よし、わかったぞ」 
 アメリカも笑顔で応える。かくしてガメリカは太平洋諸国と講和し彼等の中に入ることになった。それを受けてすぐにだった。
 シュウ皇帝も重慶において中国兄妹にこう告げた。
「講和を受諾すると伝えよ」
「日本にあるな」
「そうするあるな」
「ガメリカが敗れた今我々が勝てる望みはない」 
 皇帝は冷静にこの現実を見極めていた。
「それではそれしかあるまい」
「ではすぐに日本に打診するある」
 中国は右手の平に左手の拳を合わせて皇帝に答えた。
「太平洋諸国に参加もするある」
「そうせよ。ところでだ」
「?何あるか」
「欧州はドクツの敗北が決定的だな」
 皇帝は中国に欧州戦線のことを尋ねた。
「そうだな」
「もう風前の灯ある」
「ではエイリスはどう動くか」
「暫くは動かないと思うある」
「ソビエトもだな」
「当分は戦後処理と軍の再編成で忙しい筈ある」
「では我等に向かって来ることはないな」
 皇帝が聞きたいのはこのことだった。
「そうだな」
「多分そうある」
「ならいいがな。しかしだ」
「これでエイリスとソビエトは敵になったある」
「我々は連合ではなくなる」
 ガメリカもだが太平洋経済圏、日本が中心になっているそれに加わるということはそのことに他ならないことだ。
 それを承知のうえで皇帝はこう言う。
「しかしそれならそれでいい」
「元々太平洋経済圏を築くことが目的だったあるからな」
「その際エイリスもソビエトも敵になることもだ」
「織り込み済みだったあるから」
「それでいい」 
 皇帝の返事は素っ気無くさえあった。
「いい頃合やも知れぬしな」
「あの二国との手切れもあるな」
「国内もだ。既に言ったが政のことはもうリンファとランファに任せる」
 彼は国家の象徴となるというのだ。
「御主達とな。どちらが上位にするかも御主達に任せる」
「それではあるな」
「朕は以後政治から退く」
 そうするというのだ。
「ではな」
「わかったある」
 こうして中帝国はガメリカ式に議会を開き皇帝は象徴となった。彼等は日本とも講和しそのうえで領土も返還された。ガメリカも同じ様になっており彼等の参加で太平洋経済圏は正式に設立されることになったのである。


TURN61   完


                             2012・10・14



長かったガメリカ戦もようやく決着が。
美姫 「ひとまずは安心ね」
まあ、まだエイリスやソビエトが残っているけれどな。
美姫 「ドクツの情勢も心配だしね」
今度はそちら方面だな。
美姫 「どうなっていくかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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