『ヘタリア大帝国』




              TURN77  虚脱状態

 新生連合国がこれまた新生枢軸国に宣戦を布告してきたことは当然ながら枢軸側にも伝わった、それを受けて。
 宇垣はガメリカ国務長官であるハンナ、中帝国の外交担当首相リンファ、そしてオフランス摂政シャルロットとそれぞれの祖国を交えた四国会議を開いた、そこにはドイツとイタリア、そしてムッチリーニもいる。 
 まず宇垣は開口一番こう会議の参加者達に述べた。
「確かに連合国は宣戦を布告してきましたが」
「それでもね」
 ハンナは宇垣に素っ気無く返す、己の席で腕を組み座っている。
「連合国が攻撃を仕掛けてくるにはまだ時間があるわね」
「はい、そうです」
 まさにその通りだと宇垣も答える。
「彼等はそれぞれ戦力をかなり消耗していますので」
「その再建と再編成ですね」
 リンフアも言う。
「それに時間が必要な為」
「彼等の侵攻は暫く先です」
 宇垣は軍人でもある、だからこう答えることが出来た。
「暫くの間はソビエトとの前線である満州、エイリスとの前線であるインド洋には然程戦力を置きません。それよりも」 
「はい、私達はですね」
「この度皆さんに来て頂いた理由は軍事のことではありません」
 宇垣は外相としてシャルロットにも応えた。
「我等太平洋経済圏は連合の宣戦布告に対して毅然として反論するべきであると考えます」
「じゃあ売られた喧嘩は買うんだな」
 アメリカが宇垣に問い返す。
「そういうことだな」
「その通りです、我々は彼等の宣戦布告に毅然として反論し」
 そしてだった。
「その団結を見せるのです」
「じゃあ今からその宣言について話すあるな」
 中国が宇垣に問うた。
「この日本から」
「そうです。京都宣言となるでしょうか」
 御所のあるその場所からだというのだ。「
「この宣言はまさに戦争の新たな局面のはじまりでもあります」
「何か訳わからねえところあるけれどな」 
 フランスは腕を組み微妙な顔を見せる。
「顔触れが入れ替わり過ぎてな」
「あれっ、俺最初から枢軸だよ」
 ムッチリーニと共にいるイタリアが言う。
「兄ちゃん達が入っただけだよ」
「それでも御前のところとドイツのところの妹さん達が連合に入っただろ」 
 フランスが言うのはこのことだった。
「イタリンとドクツ自体はな」
「あっ、そういうことなんだ」
「俺達三国は枢軸になったからな」
 オフランスにガメリカ、中帝国の三国だ。
「それ考えると顔触れ変わっただろ」
「確かにそうだな」
 ドイツもフランスのその言葉に頷く。
「敵味方がかなり入れ替わった、戦争は全く違うものになっている」
「だからこそです」
 宇垣はドイツにも応えて言う。
「我々は連合国に対して諸国家の自立と太平洋経済圏の確立、そして主権を主張するのです」
「植民地だった諸国家のですね」
 リンファが言う。
「独立を」
「その通りです、我々の戦いとは何か」
 宇垣はこの戦争の第二幕、今の枢軸と連合の戦争を理解したうえで列席者に述べた。
「諸国家、諸国民の主権を勝ち取り太平洋経済圏を守ることです」
「そうした戦争になっていますね」
「はい、これまでは太平洋経済圏を築き諸国家が独立する為の戦争でした」
 日本にも答える、これは確かにその通りだった。
 日本とガメリカ、中帝国はその太平洋経済圏の盟主を決める為に戦っていたのだ、そしてその盟主が日本となったのだ。
 諸国家も独立した、それで戦争の第一目的は達していた。
 そしてさらにだったのだ。
「これからはです」
「諸国家の主権と経済圏を守る戦いですか」
「そうなったのです」
 こう日本にまた話した宇垣だった。
「戦いは変わりました」
「では守ることを宣言してそのうえで」
「対決することを全銀河に見せるのです」
「その為に我々はこの場に来て」
「はい」
 そしてだというのだ。
「宣言して頂くのです」
「話はわかったわ。それで宣言する国だけれど
 ハンナはクールな態度で宇垣に問うた。
「日本帝国ね、まずは」
「僭越ながら」
「そして我が国ね」
 ハンナは自分達のことも話に出した。
「中帝国に」
「僕達もあるな」 
 中国が応える。
「これで三国ある」
「そして我が国ですね」
 シャルロットも言う。
「四国に。それに」
「あの、ひょっとして」
「俺達もか」
 ムッチリーニとドイツが同時に声をあげた。
「いいの?居候なのに」
「その宣言する国に加わろうとも」
「是非お願いします」
 これが宇垣の彼等への返答だった。
「亡命政府になりますが」
「ううん、だったらね」
 ムッチリーニはこれで納得した。だが、だった。
 ドクツは難しい顔でこう宇垣に述べた。
「だが我が国は」
「レーティア総統ですか」
「あの方がおられると言っても誰も信じない」
 殆どの誰もがベルリンで自害したと思っている、死体は見付かっていないがそれでもなのだ。
「それでもいいのか」
「向こうがどう思っていようと構いません」
 宇垣はそのこともわかったうえでだった。
「こちらに総統がおられるのは事実ですから」
「だからいいのか」
「事実はやがて明らかになるものです」
「天と人は見ているか」
「その通りです」
「だから我が国もか」
 ドイツは宇垣が言うことを理解した、そういうことだったのだ。
 だがここでだ、ドイツは難しい顔でこう言った。
「しかしだ」
「総統は大丈夫なのか?」
「健康だが」
 こうアメリカに答えるドイツだった。
「精神状態がな」
「それだな」
 アメリカも話を聞いて理解した、問題はそれだった。
 そのことを話してだった、さらに。
 ドイツは一同にこのことも話した。
「宣伝相が本来ここに来る筈だったが」
「総統のお傍におられるのですね」
「だから来られなかった」
 日本にも話す。
「残念なことだがな」
「仕方がありませんね」
「どうにかなって欲しいですね」
 シャルロットの言葉も切実だ。
「あの方が立ち直られると」
「はい、枢軸にとって人類にとって」
 宇垣はレーティアファンとしても願っていた、言葉にそれが出ている。
「計り知れない恵みになります」
「私もそう思います、是非にと思うのですが」
「正直今の状況じゃ難しいよな」
 フランスも残念そうに言う。
「立ち直るきっかけがなあ」
「ちょっと俺が行こうかな」
 イタリアはふとこう思いついた。
「デートしてね。あの人奇麗だし」
「それは構わないがな」
 ドイツはデート自体は許した、レーティアのイタリン趣味と彼がおかしなことをする国ではないことを知っているからだ。
「だが。今のあの方は御前のパスタを食べてもだ」
「駄目かなあ」
「おそらくな。届くことはない」
「ううん、難しいんだ」
「ですがそれでもです」
 日本は切実な顔で一同に言った。
「あの方の復活は必要です」
「その通りです。このことについてもお話したいと思っていました」
 このことも念頭に置いていた宇垣だった。
「皆さんはどうお考えでしょうか」
「最初の議題よりずっと難しいことね」
 ハンナもかなり厳しい顔になっている。
「今のあの娘を立ち直らせるのは」
「ハンナも思い浮かばないのかい?」
「ええ、悪いけれどね」
 ハンナは己の祖国にもその顔を見せて言う。
「これといって」
「そうなのか」
「リンファはどうあるか?」
「すいません」
 リンファは曇った顔で自分の祖国に返した。
「これといっては」
「そうあるか」
「舞台や公園を見て頂いても」
 シャルロットも難しい顔だ。
「それでもですね」
「それな、エルミーちゃん達がやってるんだけれどな」
 フランスもこのことはぼやくばかりだ。
「それでもな」
「効果がありませんか」
「歩いていると運動になるから極端な欝状態になってはいないさ」
「ですがそれでもですか」
「ああ、そうなんだよ」
 フランスはシャルロットに述べる。
「それ以上はな」
「晴れておられませんか」
「曇りのままだな」
 雨ではない、だがよくはないというのだ。
「そんな状況だよ」
「歩いてもよくないとなると」
「観劇でも効果はないでしょうか」
 日本はこれを提案した。
「歌舞伎や狂言は」
「普段ならばいいと思うが」
 ドイツは日本のその提案に普段なら、と述べた。
「しかしだ」
「今のあの方には」
「勧められない、下手に暗い舞台ならな」
「危険ですね」
「虚脱状態からさらに悪化すれば」
 ドイツが最も恐れているのはこのことだった。
「取り返しのつかないことになる」
「それは幾ら何でも・・・・・・いや違うね」
 イタリアですら今のレーティアには楽観が出来なかった。
「本当にまずいね」
「だからだ。中々難しい」
「俺以上に底抜けに根明っていうか振り返らない人が声をかけてぐいぐい陰のない場所に引っ張ってくれたらどうかな」
 イタリアがこう言うとフランスは眉を顰めさせて彼に言った。
「御前より明るい奴か?」
「うん、それで向こう見ずな人」
 そういう人物だというのだ。
「いるかな、誰か」
「いねえだろ、そんな奴」
 フランスもそうした人間は考えつかなかった。
「まあとにかく明るいことやってみるか?」
「そのことを考えていくか?」
「そうあるな」
 アメリカと中国はフランスの言葉に顔を向けた、だがやはり結論は出ずに。
「ううん、失敗は許されないからな」
「慎重にいくべきあるが」
「少なくとも今は答えが出ませんな」
 宇垣もここはそうだと見た、それでだった。
 一旦話を打ち切ることにしてこう一同に言った。
「ではこの話は今はこれで終わりましょう」
「そうしますか」
「はい、そうしましょう」
 宇垣は己の祖国に述べた。
「それでなのですが」
「次の議題ですね」
「アステカ帝国との戦争は間近です」
 さしあたっての相手とのことだった。この国のことを忘れてはならなかった。
「この国は伊勢志摩と関係が深いです」
「あっ、そうなのよ」
 ムッチリーニもここでこのことに気付いて言う。
「スペイン君があそこに冒険に行ってね」
「そうです、交易も行っています」
 このこともあった。
「だからです」
「伊勢志摩と国交を結ぶの?」
「出来れば我々の陣営に来て頂きたいですが」
「ううん、それはどうかな」
 ムッチリーニは宇垣の今の言葉に懐疑的に返した。
「若し伊勢志摩を枢軸にしたらね」
「オフランス方面から連合国が来るというのですか」
「戦線がまた出来るけれど」
 ムッチリーニが言うのはこのことだった。
「そうなってもいいの?」
「それは問題ですな」
 宇垣もそのことに気付いた。
「確かに」
「そうよね。だからね」
「枢軸に来て頂くのは」
「よくないんじゃないかしら」
「ですが伊勢志摩に加わって頂くと」
「うん、アステカ帝国との戦いが有利になるよね」
「だから是非にと思っているのですが」
 宇垣の考えにも一理あった、そしてムッチリーニの考えにも。両者の考えはここでは拮抗していた。
 その二人の意見を聞いて日本が言った。
「では、ですが」
「祖国殿、何かお考えが」
「伊勢志摩とは同盟を結び」
 そうしてだというのだ。
「そのうえで伊勢志摩には中立を守って頂きましょう」
「枢軸と同盟を結んでもですか」
「連合国との戦いには加わらないということで」
 これが日本の提案だった。
「アステカ帝国との戦いに参加して頂いて」
「ふむ、そうしてはどうかと」
「はい、これはどうでしょうか」
「よいですな」
 宇垣も頷くまでだった。
「そのお考えは」
「ではそれで」
「はい、伊勢志摩とアステカはそれでいきましょう」
「もう主力はテキサスに集結しているからな」88
 フランスが言う。
「何時でも迎え撃って攻め込めるからな」
「有り難いことに」
「ああ、外相さんも来たらどうだい?」
 フランスは宇垣にこう提案した。
「こっちにな」
「アステカ帝国との戦いにですか」
「そうしたらどうだよ」
「そうですな。インド洋は暫く静かですし」
 宇垣もフランスの言葉を受けて考える。
「東郷と話してみます」
「あの長官さんとだな」
「はい、そうします」
 こうフランスに述べる。
「ではその様に」
「それで頼むな」
 宇垣のアステカ戦線への参戦も検討されることになった、そうした話が次々に為された外相会議だった。
 会議は全体的に順調であり各国の独立の維持と太平洋経済圏の意義が宣言され連合国との対決が謳われた。
 その他にも伊勢志摩との外交交渉に入ることも決定した、だがだった。
 問題はレーティアのことだった、彼女のことはだった。
「とにかく何とかしないといけないぞ」
「全くある」
 かつての敵国だったアメリカと中国の言葉だ。
「あの人の力があれば枢軸は今よりずっとよくなるからな」
「是非共復活して欲しいある」
「何とかなって欲しいけれど無理かい?」
「どうにかならないあるか」
「正直打つ手がない」
 ドイツも深刻な顔で返すばかりだった。
「どうしたものかな」
「勢力で言うとこっちの方が優勢だけれどな」 
 フランスは枢軸と連合の今の力関係を述べた。
「北アジア以外のアジア全土に北米、オセアニアだからな」
「そうだよね、欧州よりもずっと大きくなってるよ」
 イタリアもそのことを言う。
「ソビエトとエイリスがまだあるけれどね」
「こっちの方が国力も艦隊数も技術も上なのは間違いないぜ」
「うん、それも結構向こうに差を開けてるよ」
「油断大敵です」
 だがここでこう言ったのは日本だった。
「国力差にして二倍の差がありますが」
「それでもなんだ」
「はい、やはりあの方の力が必要です」
 そうだというのだ。
「あの方がおられれば決定的です」
「アステカとの戦いも有利に進められますね」
 シャルロットは当面の相手のことも述べた。
「艦艇のさらなる技術革新も行えますし」
「その通りです。何とか復活して頂きたいです」
 議長役の宇垣もそのことは言う。
「是非共」
「そうしてもらいたいものだ」
 特にドイツが切実に願っていた、枢軸にとってレーティア=アドルフの復活は絶対必要条件にさえなっていた。
 だがレーティアは相変わらずだった。黒のジャージ姿と冴えない三つ編みのままで日々を過ごし猫背になっている。
 虚ろな表情で焦点の定まらない目でその場にいるだけだった。
 その彼女に今日もグレシアとエルミーが声をかける。
「レーティア、何を食べたいの?」
「あるものを」
「チョコレートあるけれど」
 グレシアはレーティアの大好物を出した。
「パスタも苺もあるわよ」
「別にいい」
 好物を出されてもこうだった。虚ろな顔のままだ。
「食べられれば」
「パスタはイタちゃんが作るのよ」
「イタリア君に有り難うと伝えてくれ」
 やはりこれだけだった。
「頂くけれど」
「そうなの」
「総統、いい本があります」
 エルミーは読書家でもあるレーティアの趣味を衝いた。
「哲学書ですが」
「どの哲学者のだ?」
「中帝国のものです」 
 エルミーはレーティアを気遣いながら答える。
「孔子のものですが」
「論語か?大学か?」
「中庸です」
「もう読んだ」
 既にだというのだ。
「原語でな」
「そうなのですか」
「もう頭の中に入っている」
 レーティアは哲学の面でも天才である、多くの優れた論文も発表している。
「だからいい」
「では小説は」
 エルミーはさらに言う、今度はこれだった。
「若草物語ですが」
「ウォルコットだな」
「ガメリカの小説ですが」
「映画も観た」
 それもだというのだ。
「もう既にな」
「ではこれもですか」
「気持ちだけ受け取っていく」
 ここでも虚ろな目で返すレーティアだった。
「有り難う」
「勿体ないお言葉、ですが」
「本もいい」 
 それはだというのだ。
「今はな」
「そうですか」
 こうした感じだった。とにかく誰の誘いにも応じず無反応であった、レーティアは虚脱した人形になっていた。
 ロンメルもその有様を見てグレシアにこう漏らした。
「宣伝相もお疲れ様です」
「言われるだけのことはしてないけれど」
「いえ、しています」
 まずはこう言ったのだった。
「あの娘の為に。デーニッツ提督も」
「それはロンメル元帥もよね」
 グレシアはロンメルもそうだと返した。
「この前のワーグナーの舞台のチケットだけれど」
「あれですか」
「ロンメル元帥が手配したものよね」
 レーティアは無類のワーグナー好きだ、時間があれば聴いている位である。それでロンメルも舞台のチケットを差し入れたのだ。
「有り難う、そこまでしてくれて」
「大したことではありませんよ」
 ロンメルは微笑んでそのことはいいとした。
「あれ位は」
「そう言ってくれるのね」
「ええ、それであの方は」
「ワーグナーもね」
 それもどうかというのだ。
「チケットは受け取ったけれど」
「それでもですか」
「行こうとしないわ」
 ワーグナーに対しても無反応だというのだ。
「全くね」
「ワーグナーならと思ったのですが」
「今は本当に無反応よ」
「まずいですね、それは」
「ええ、どうにかなって欲しいけれど」
「きっかけがあればと思います」
 ロンメルはこれで終わりとは見ていなかった、それでこうも言ったのだった。
「あの娘は復活します」
「そうね。強い娘よ」
 グレシアはレーティアのことを誰よりも知っていた、だからこう言えた、
「今はああなっているけれどね」
「必ず立ち上がってくれます、再び」
「あのドクツを立ち直らせたのよ」
 絶望の中に沈んでいたドクツをだというのだ。
「それでどうして立ち直れないのよ」
「そういうことですね」
「ええ、レーティア=アドルフはまた羽ばたくわ」
 グレシアはレーティアの背に翼を見ていた。
「必ずね」
「俺もそう思っていますよ。それじゃあこれからも」
「お願いするわね、元帥も」
「俺はドクツ人です」
 だからだと返すロンメルだった。
「当然のことです」
「そう言ってくれることが有り難いわ」
「そうですか。ところでデーニッツ提督は」
「あの娘こそまさに良臣ね」
 グレシアは彼女に対してはこの最大の賛辞を贈った。
「優秀なだけではなくね」
「忠誠心の塊ですね」
「ずっとグレシアの傍にいて献身的に支えているわ」
「見ていて倒れないかと思いますがね」 
 それだけエルミーの献身は凄いものなのだ、レーティアの傍につきっきりでそのうえで必死に世話をしているのだ。
 ロンメルもその彼女を見てこう言う。
「けれどあの娘は」
「自分のことはどうでもいいと思っているわ」
「あの娘に全てを捧げていますね」
「まさにそうよ」
 その忠義は絶対のものだというのだ。
「それでずっと思っていたけれど」
「あの娘の後継者にはですね」
「あの娘がいいと思うわ」
 こうロンメルに述べる。
「あの娘の後継者にはあの娘よ」
「俺もそう思います。おそらくあの娘もそう言われるでしょう」
 レーティア自身もだというのだ。
「ドクツの次の総統には」
「あの娘よ、きっとやってくれるわ」
「はい、必ず」
「けれどその為にはね」
 グレシアがレーティアの後継者になる、その為にはというのだ。
「あの娘自身がどうにかなってくれないと」
「何もはじまりませんね」
「ええ、そう思うわ」
 グレシアは切実な顔を見せていた、彼等にとってはレーティアは今もドクツそのものだった。しかし復活はまだだった。
 ロマーノもイタリアと共にムッチリーニにこう言っていた、三人でムッチリーニの作ったスパゲティを食べながら言うのだった。
「なあ統領さんよ」
「レーティアちゃんのことね」
「ああ、あの娘どうなんだよ」
「正直まだまだね」
 これがムッチリーニの返答だった。
「というか全然よ」
「立ち直れてないんだな」
「その徴候さえないのよ」
 困った顔でロマーノに返す。
「私も早くレーティアちゃんに復活して欲しいけれど」
「デートに誘っても乗ってくれないんだよ」
 イタリアも難しい顔で言う。
「全然に」
「テーマパークに誘ってもね」
 ムッチリーニはそちらだった。
「取り付く島もない感じで」
「おい、そりゃ本当にまずいな」
「ロマーノちゃんからも何か言ってくれない?」
「俺もか」
「うん、あの娘を誘ってあげてね」
「そうだな、俺はな」
 どうかとだ。ロマーノはここでこうムッチリーニに返した。
「ピザを焼こうか」
「それをご馳走するのね」
「ああ、ジャガイモ野郎共は気に入らないけれどな」
 ドイツにプロイセンはというのだ。
「けれどそれでもな」
「ピザ焼いてくれる?」
「ああ、何枚焼けばいいんだ?」
「とりあえずレーティアちゃんが食べるだけね」
 量は焼くまでわからないというのだ。
「けれどそれでもね」
「多く必要なんだな」
「そう、お願い出来るかしら」
「わかったぜ、あの人菜食主義だったよな」
「完全なね」
「じゃあ肉とか野菜を入れないでな」
 レーティアが菜食主義者であることを確認したうえでだった。
「焼くからな」
「私も手伝うから」
 ムッチリーニも名乗り出る。
「一緒に焼こうね」
「悪いな、そうしてくれて」
「だってレーティアちゃんは私のお友達だから」
 こう考えているのがムッチリーニだ。
「一肌でも二肌でも脱ぐわよ」
「俺もね」
 イタリアも名乗り出る。
「手伝わせてよ」
「おい、御前もかよ」
「だって俺レーティアさんには色々お世話になってるから」
 レーティアはイタリアを色々と支えてきた、そのことに感謝しているのだ。
「だからね」
「それでなんだ」
「そう、俺も入れてよ」
 こうイタリアも言うのだった。
「あの人の為に頑張るから」
「じゃあ三人でやるか」
「ユーリちゃんにも声をかけよう」
 ムッチリーニは彼女のことも忘れていない。
「四人で焼こうね」
「ああ、そうするか」
 こうしてイタリンの四人でピザを焼きそれを食べてもらってレーティアの気を晴らすことにした、そうした話をしてだった。
 四人はスパゲティを食べていた、イタリアはムッチリーニが作ったそのイカ墨のスパゲティを食べてこんなことも言った。
「これ日本の烏賊だよね」
「ええ、そうよ」
 それを使ったというのだ。
「勿論トマトと大蒜もね」
「全部日本のなんだ」
「パスタもだけれどね」
「オリーブもだよね」
「勿論よ。チーズもね」
 とにかく全て日本のものだというのだ。
「日本帝国産よ」
「日本もこんな美味しいんだ」
「そもそも統領さん料理上手だけれどな」
 ロマーノはムッチリーニの料理の上についても言う。
「けれど素材も確かにな」
「いいよね」
「ああ、かなりな」
 スパゲティにオリーブオイルを絡ませてそこからトマトとガーリック、烏賊を焼いて唐辛子と胡椒、塩で味つけをしたものをかける。それから熱したイカ墨をかけたものだ。
 それを食べてからこう言うロマーノだった。
「日本もいいな」
「そうだよね、美味しいよ」
「エイリスなんかにいられるかよ」
 食事がまずいといえばやはりこの国だった。
「美味いものがないと生きていけるか」
「あと音楽もね」
「あっ、リートも持っていかないとね」
 ムッチリーニはこれもだと言った。
「音楽も欠かせないから」
「だよね。総統さん音楽も好きだし」
 このことはイタリアも知っている。
「それじゃあね」
「全部持って行ってね」
「あの人を励まそう」
 三人もレーティアのことを真剣に想っていた、そのうえでユーリと合流してリートとピザの食材を持ってレーティアのところに向かった。 
 東郷はユーリから話を聞いた。
「駄目だったんだな」
「残念ですが」
 ユーリも無念の顔で答える。
「あの方は統領や祖国殿のお誘いにも」
「確かあの人はイタリン好きだよな」
「かなり贔屓にしてもらっています」
 ドクツ人であるならばレーティアもまた然りである。
「我々の誘いなら普段は、なのですが」
「そうか、厄介だな」
「今はオーストリア殿が行かれてお菓子とピアノを出されていますが」
「それでもだな」
「無理かと」
 レーティアが生まれた国からのことであってもだというのだ。
「今は何をしても」
「無反応なままか」
「正直手がありません」
 ユーリもこう言う程だった。
「自害の素振りこそはありませんが」
「ああ、それはないな」
 東郷はレーティアは自殺はしないと見ている。
「絶対にな」
「そういうことされる方ではありませんね」
「ああ、それはない」
 レーティアの性格としてそれは、というのだ。
「安心していい、しかしな」
「それでもあのままですと」
「誰にとってもよくない」
 無論枢軸にとってもだ。
「一刻も早い復活が必要だが」
「とにかくきっかけがありません」
「どうしたものだろうな」
 東郷もこう言う程だった、今のレーティアは。
「きっかけさえあれば」
「全くですね」
「それで統領さん達はどうなったんだ?」
 東郷はピザとリードを持って行ったムッチリーニ達の今を尋ねた。
「断られたのはわかったが」
「はい、今はご自身達で召し上がられています」
「ピザをだな」
「はい、そうされています」
 食べることを断られても食材を捨てる訳にはいかない、それでだった。
「ただ。あまり喜ばしい感じではありません」
「そうだろうな。折角と想ったからな」
「そうなりますね」
「生きていればだ」
  東郷はこれが絶対条件だと言う。
「そこから全てがはじまるからな」
「そういうことですね」
「さて、そろそろアステカ帝国との開戦だ」
 この時も迫ってきていた。
「その時までに戻って来てくれているか」
「無理ではないでしょうか」
 ユーリは深刻な顔で答えた。
「それも」
「そうかもな。アステカ帝国はな」
「本当によくわかっていない国ですね」
「こう言っては何だが未開の国だ」 
「未開ですか」
「人類もいるがよくわからない種族と混在している」
「あのハニー族ですか」
 彼等のことはユーリも聞いている。
「明石大佐の報告書にありましたね」
「あの連中がよくわからない」
「確かに。報告書を見ても」
「ビームには強くすぐに割れて瞬時に復活する」
「本当によくわからない種族です」
「だがビームには強いが」 
 それでもだった。
「他の攻撃には普通の強さだ」
「ミサイルや鉄鋼弾には」
「それに空母にもな」
 つまりj艦載機である。
「普通らしい。それならだ」
「ビーム攻撃さえ防げばいいですね」
「バリアもいるな。だがそれ以上に」
「それ以上とは」
「空母だ、艦載機で攻める」
 これが東郷の考えている戦術だった。
「それに鉄鋼弾だな」
「日本軍の得意とする二つの攻撃をここでも」
「使うとしよう。まずはメキシコ、キューバを攻め」
 そしてだった。
「南米に入るか」
「敵の本拠地はアマゾンですね」
「宇宙怪獣も多い、注意していこう」
「あの種族だけではないですからね」
「あの辺りは宇宙怪獣の巣だ」
 そうした意味でもアステカ帝国は危険だった、まさに秘境なのだ。
「連中も敵だ」
「ううむ、宙形も気候も異様ですし」
「一歩間違えれば泥沼になる」
「そうなってしまいますね」
「だから用心が必要だ」
 攻めるにしてもだというのだ。
「あの国を攻めることはな」
「未開地といいますか」
「秘境だからな」
「まともに行けそうなのはメキシコとキューバ位ですね」
「そこから先は完全に秘境だ」
 最早何がどうなっているかというのだ。
「複雑な宙形、気候」
「ハニワ族に宇宙怪獣に」
「これまでの戦いとは全く違う、注意していかないとな」
「統領にもお話します」
 ユーリはここでも彼女のことを忘れてはいなこあった。
「このことは」
「そうしてくれたら有り難いな」
「はい、それで統領なのですが」 
 ムッチリーニ自身のことも話される。
「あの方のことをどう思われますか?」
「悪い人じゃないな」
 東郷はムッチリーニについてすぐにこう述べた。
「それに有能な部類に入る人だろう」
「伊達に国家元首になった訳ではないのです」
「その割に評価が低いと思うが」
「何分あのご気性なので」
 ムッチリーニの評価が低いのはそこにあるというのだ。
「お気楽といいますか能天気といいますか」
「それが問題か」
「努力もしておられるのです」
 確かに気楽な性格だがそうしたこともしているというのだ。
「だからこそイタリンの民衆も祖国殿達もあの方を愛しているのです」
「政策はどうかと思う時も多いがそれでもだな」
「労働時間の短縮に黒ビキニの提督に」
 ユーリもこうした政策には頭を抱えていた。
「全く以て困った政策も多いですが」
「それでもイタリンは動いていたな」
「元々そうした国民性ですし」
「イタリンに合っていたんだな」
「そうです、ドクツも非常に好意的ですし」
「グレシアさんやロンメル元帥にしてもな」
 彼等だけでなくだ。
「ドイツさん達も優しいな」
「どうにもよくしてもらっていますので」
「国家としてやっていけているな」
「そうなっています。それでこれからも宜しくお願いします」
「こちらこそな。わかると思うが我が国もイタリンは嫌いじゃない」 
 むしろかなり好きな方だ。
「ずっと仲良くやれたらいいな」
「そうですね、この戦争が終わっても」
 ユーリも微笑んで応える、確かにレーティアのことは気になるがそれでもいいことは多かった。枢軸陣営は充実していっていた。
 その中で田中が小澤にこんなことを言っていた。
「なあ、レーティアさんだけれどな」
「あの方が何か」
 二人は今海軍省にいた、そこの食堂で昼食のきつねうどんと親子丼を食べながら話をしていた。
 小澤はこう田中に問い返した。
「写真集を買いましたか」
「ああ、一冊買ったぜ」
「使用しましたね」
 小澤は無表情でずばりと言った。
「このど助平」
「おい、何でそうなるんだよ」
「アイドルの写真集の使い道は一つなので」
「そこでそう言うかよ」
「潜水艦隊司令官、大将になっても未経験」
 小澤はさらに言う。
「何時捨てるんだこの野郎」
「あんた俺を何だと思ってるんだ」
「提督じゃなければ不良」
 実意に容赦のない小澤だった。
「暴走族」
「それが俺のポリシーだからいいだろ」
「とにかく。あの人の写真集を買って何回使ったんですか?」
「使ってねえよ、とにかくな」
「はい、何でしょうか」
「あの人今あんなのだけれどな」
 田中は真面目な顔で小澤に話す。
「奇麗だよな」
「ジャージ、三つ編みに丸眼鏡のヲタク少女ルックでもですね」
「ああ、奇麗だよな」
「元がいいですから」
「ちょっと声をかけてみようかって思うんだけれどな」
 そのレーティア本人にだというのだ。
「それどう思うんだ?」
「好きにすればどうでしょうか」
 これが小澤の返答だった。
「田中さんの」
「好きにしていいのかよ」
「そして玉砕して下さい」
「応援はしねえんだな」
「生暖かく見守ります」
 これが小澤の返答だった。
「そうさせてもらいますので」
「止めはしねえか」
「人の恋路を邪魔したりはしません」
 これは小澤のポリシーだ、小澤にもそれはあるのだ。
「そういうことなので」
「じゃあそれでなんだな」
「はい、武運長久を祈ります」
 こう言いもする。
「相手は相当なものですが」
「それでもだよな」
「恋路は自由ですから」
「それじゃあデートにも誘うな」
「ただあの人で捨てれば」
 このことはあくまでこう言う小澤だった。
「後でドクツ国民に殺されますので」
「そうなるのかよ」
「はい、確実に」
 小澤は言い切った。
「ですから注意して下さい」
「そこまで考えてねえけれどな」
「それならいいですが」
「まあとにかくあれだな」 
 また言う田中だった。
「あの娘にアタックするぜ、そして」
「田中さんは今から海が傍にある道を二人でかっとばすと言う」
「海が傍にある道を二人でかっとばすぜ・・・・・・っておい」
「読みが当たりましたね」
「何か嫌な気分だな」
「気にしないで下さい。ただこの読みは敵にも向けますので」
 そうしてだというのだ。
「攻撃の時はお任せ下さい」
「あんたは敵に回したくはないな」116
「田中さんもです」
「俺もかよ」
「はい、その機動力と攻撃力は脅威ですので」
 田中とて伊達に潜水艦を率いている訳ではない、それに相応しい資質があるのだ。
「ですから」
「そうなんだな」
「はい、間違っても連合に捕まらないで下さいね」
「あんたもな。じゃあな」
「はい、それでは」
「行って来るな」
 二人で昼食を食べながら話をしていた、田中にとってきつねうどんと親子丼は勝負のメニューにもなった。


TURN77   完


                         2012・12・18



レーティアの復活はまだ先っぽいな。
美姫 「流石にすぐに復活とはならないわね」
だな。とりあえずは田中が動くみたいだけれど。
美姫 「これで何か変化があるかよね」
さて、レーティアは復活できるのだろうか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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