『ヘタリア大帝国』




                     TURN86  宇宙台風

 枢軸軍はチリに進出した、そのチリはというと。
 やはりハニワと宇宙怪獣達が主力だ、そしてだった。
「やはりいますね」
「そうだな」
 東郷はモニターに映るそれを秋山と共に観ながら述べた。
「宇宙台風か」
「荒れ狂っているのでビームは効果がありません」
 イナゴと違いだ。
「そしてです」
「ああ、しかもだな」
「艦載機での攻撃も巻き込まれる恐れがあるので」
 それも危険だというのだ。
「ここはミサイルか若しくは」
「鉄鋼弾だな」
「幸い潜水艦艦隊があります」
 枢軸軍の切り札にもなっている。
「彼等に頑張ってもらいますか」
「いや、ここはだ」
「ここは?」
「台風の弱点を衝くべきだ」
 荒れ狂う宇宙台風のだというjのだ。
「そうしようか」
「台風のですか」
「わかるな」
「はい、目です」
 秋山もすぐに答える。
「台風の弱点は目です」
「その通りだ、目を衝けばだ」
 それでだというのだ。
「艦載機でもいける」
「艦載機のミサイルを使いますか」
「それならいける筈だ」
 これが東郷の考えた作戦だった。
「枢軸軍はミサイルはあまりないからな」
「そうですね」
 ここでリンファがモニターに出て来た。リンファはミサイル攻撃が得意だがその彼女が言ってきたのである。
「ミサイル戦艦はビームよりも攻撃が遅くなるので」
「だからあるよ」
 中国も出て来た。
「リンファにもビームの戦艦を使ってもらっているある」
「私はビーム攻撃もできますし」
「それである」
 こうした事情だった、枢軸軍にもミサイルはあるが他の武器程その数は多くはないのだ、台風にとって有効な。
 それで東郷は言うのだった。
「だからだ、君には今回は宇宙怪獣への攻撃に回ってもらう」
「わかりました」
「今回は犠牲を覚悟してだ」
 そのうえでだというのだ。
「普段はハニワに回す艦載機を宇宙台風に回す」
「そうしますか」
「ハニワはその後だ、いや」
 秋山に応えながら言う。
「ハニワは攻撃を受けてから鉄鋼弾攻撃を仕掛ける」
「そうしますか」
「そうだ、それでいこう」
 ハ二ワにはビーム攻撃は効果がない、それでだった。
「まずは台風を叩く」
「あれが暴れ回ってはアステカ軍どころではありませんから」
 秋山もそれはわかっている、それも実によく。
「だからですね」
「そういうことだ。見たところ台風は中立だが」
 アステカにも与してはいないというのだ、だがこれは枢軸軍にとっては幸いなことではなくだった。
「ただ荒れ狂われるというのもな」
「面倒な話だぜ、おい」
 田中はその台風を見て目を顰めさせている。
「折角戦おうってのにな」
「だからまずは台風だ」
 東郷は秋山にも話した。
「集中的に攻撃をして倒そう」
「それでどうするのかしら」 
 ガメリカ軍の参謀になっているドロシーも東郷に問う。彼女も機動部隊を指揮している。
「台風への艦載機への攻撃は」
「台風の攻撃範囲外からの一撃離脱だ」
 そうして攻撃するというのだ。
「それが」
「いつものドッグファイトではなく」
「接近しての格闘戦は嵐に巻き込まれる」 
 だからそれは出来ないのだ。
「やり方はそれでいく」
「そうね。ここは」
 ドロシーも東郷の話を聞いて頷く。そうしてだった。
 ガメリカ軍他の軍の機動部隊も台風に向かう、秋山は台風の持久力と機動部隊の攻撃力を計算してそのうえで艦隊の攻撃割り当てを決めた。
 そのうえで全軍にこう告げたのである。
「以上の艦隊は台風を攻撃します」
「わかったわ」
 やはり機動部隊を指揮するフリスが応じる。
「そして残りの機動部隊は」
「はい、ハニワ艦隊に向かってもらいます」
「今回ハニワは特に多いぞ」
 アメリカはそのかなりの数のハニワ達を見て言う。
「今の割り当てでは全部倒せないぞ」
「それは覚悟のうえです」
 秋山もこうアメリカに返す。
「そのうえで、です」
「わかった、ダメージは覚悟するんだな」
「この戦いでは。敗れた場合は最悪テキサスまで退きます」
 そこにしかアステカ戦において確かな修理工場がないからだ。
「しかし勝てはです」
「その時はチリに修理工場を築く」
 東郷も一同に話す。
「そうするからだ」
「勝てばアステカ深部侵攻への確かな足がかりになるわね」
 ランファは東郷の話を聞いて即座に理解した。
「負ければ仕切りなおしで」
「そういうことだ。この戦いは多少の損害は覚悟のうえで」
 東郷はそのリスクを頭に入れて采配を採っているのだ。
「攻める。ただしだ」
「艦艇のダメージはいいです」
 それは構わない、秋山が言う。
「しかし無理はせずに人員のダメージは避けて下さい」
「艦艇は修理が出来る」
 東郷は言い切った。
「それはな。しかしだ」
「人員はそうはいきません、無理をしないで下さい」
「わかりました」
 エルミーが東郷の言葉に頷く、そしてだった。
 彼等はそれぞれの指定された攻撃対象に向かった、そうして。
 まずは台風を攻撃する、その台風に対して。
 艦載機達は向かう、その彼等に。
 小澤が通信でこう言った。
「いいですね」
「はい、一撃離脱ですね」
「そうしてですね」
「攻撃して下さい」
 その無気力とも思える口調で告げる。
「台風の暴風範囲はわかっていますね」
「はい、データにインプットしています」
「既に」
「それならです」
 その中に入るなというのだ、絶対に。
「その外からミサイルのぎりぎりの射程で、です」
「アウトレンジ攻撃」
「それですか」
「上に宙返りをしながらです」 
 小澤は攻撃方法も指定する、
「その宙返りの直前に」
「ロックオンして、ですね」
「そのうえで」
「そうです。攻撃した瞬間に離脱して下さい」
 そうして損害を避けろというのだ。
「一撃を放ったら戻って下さい」
「了解です」
「それでは」
 パイロット達は小澤の命令に頷いた、そうしてだった。
 彼等は台風に接近しそのうえでミサイルを放ち離脱する、その波状攻撃で台風にダメージを与えていきだった。
 まさに総攻撃で台風を退けた、今回は反撃を許さなかった。 
 だが艦載機を集中させてしまった、それでだったのだ。
「よし、今やな」
「そうだホーーーー!」
「台風様様だホーーーー!」
 ハニワ達はチリのその言葉に頷く。
「そや、ここでや」
「攻めるホーーーー!」
「総攻撃だホーーーー!」
 東郷の読み通りハニワ達はビームで攻撃を仕掛けた、そのうえで。
 枢軸軍に攻撃を浴びせる、それでだった。
 枢軸軍はそれなりのダメージを受けた、だがだった。 
 東郷はそのダメージにも焦らずに全軍に命じた。
「よし、次だ」
「はい、まずは宇宙怪獣にですね」
「そうだ、ビーム攻撃だ」
 こう秋山に告げたのである。
「まずは宇宙怪獣を倒してだ」
「そしてですね」
「それから鉄鋼弾だ」
「ハニワ達にはそれで」
「一応ダメージは与えているがな」
 台風に振り分けなかった分の艦載機を回していたのだ。
「それでもここはだ」
「はい、鉄鋼弾を使いましょう」
「それにだ」
 それに加えてだった。
「敵の通常艦隊だが」
「彼は後で」
「そうだ、そうする」
 こう言ってそうしてだった。
 彼等は秋山の立てた作戦計画通りに攻撃を続ける、宇宙怪獣にはビーム、そしてそのうえでハニワ達にはだった。
 鉄鋼弾を放つ、これでハニワ達は壊滅した。
 宇宙怪獣もだ、だがだった。
 通常艦隊が残っていた、その艦隊が。
 チリはその彼等に攻撃命令を出した。
「ええな」
「ほないきますか!」
「総攻撃ですな!」
「めっちゃダメージ受けてるけれどな」
 ハニワも宇宙怪獣も壊滅している、やはり枢軸軍は強い。 
 しかしまだ通常艦隊がいる、それでだった。
「意地見せるで」
「了解!」
「やったりましょ!」
 通常艦隊を率いる生物学的に人間である提督達も将兵達も応える、そしてそのうえで攻撃を仕掛けたのである。
 彼等なりに照準を合わせて攻撃を浴びせる、それで。
 枢軸軍は再びダメージを受けた、そのダメージはというと。
「無視できないな」
「アステカ帝国との戦いで最大のダメージです」
 秋山が東郷に返す、報告される艦隊の損害はというと。
「赤城の甲板がやられました」
「飛竜左舷に被弾です」
「初雪中破です」
「金剛が火を噴いています」
「多いな」
 東郷はその報告を聞いて述べた。
「撃沈された艦艇は少ないがな」
「はい、やはり多いです」
「想定の範囲内だがな」
 秋山にこう言いはした。
「だがな、ここで勝たなければな」
「全軍テキサスまで一旦退くしかないですね」
「その場合確実にペルーは失う」 
 折角手に入れたその星域をだというのだ。
「まずいことにな」
「そうですね。見れば敵の数はまだ」
「倍以上だ」
 通常艦隊だけでもそれだけあった。
「もう台風もハニワもいないがな」
「それでもここは下手をすれば」
「少し無理が必要か?」
 東郷は今以上の損害を覚悟した。
「ここは」
「そうですね、そうでもして」
「勝つ、チリは絶対に攻略しないとな」
「敵はアステカだけではありません」
 このこともあった。
「連合国も。長引くと」
「向こうも馬鹿じゃない、戦力を立て直してきている」
「ですからアステカとの戦いは早期に終わらせなければなりません」
「ならここはだ」
「はい、多少の無理強いは覚悟しましょう」
 秋山も彼の好むところではないが力押しを検討しだした、だがここで。
 山下がモニターに出て来た、そのうえで東郷に言ってきたのだ。
「ここは任せてくれるか」
「何か策があるのですか?」
「あるから言うのだ」
 こう秋山にも返す。
「既に惑星には降下出来る距離にあるな」
「チリ星域の主要惑星であるチリには」
「この星域はその星さえ陥落させられれば済む」
 山下は言い切る。
「他の星は人口も設備も希薄だからな」
「長官、まさか」
「ここは惑星を一気に陥落させる」
 これが秋山の今の作戦だった。
「任せてくれ」
「しかし制宙権を完全に確保していません、それでは」
「危険は承知のうえだ、ここで動かなければアステカとの戦い全体に影響が出る」
 だからだというのだ。
「今回だけは任せてくれるか」
「賭けですね」
「賭けだがやってみせる」
 山下も意地を見せる、普段は攻撃的だが慎重さも併せ持つ彼女らしくない言葉だった。
 だがそれでも今は言うのだった。
「それにだ」
「私も行きます」
「私もです」
 日本と妹もモニターに出た、既に陸軍の軍服に着替えている。
「これからは陸戦にも参加させて頂くことにしましたが」
「今回はです」
 特にだというのだ。
「攻勢に出るべきです」
「賭けであろうとも」
「だから任せてくれるか」
 また東郷と秋山に言う山下だった。
「ここは」
「しかしそれは」
「いや、それならだ」
 秋山が躊躇を見せているとだった。
 東郷が出て来てそのうえで言った、その言葉はというと。
「海軍も一気に攻めよう」
「長官、一体」
「最初からここは攻めるつもりだった」
 見れば宇宙怪獣の残存戦力と合わせてまだこちらの三倍はいるアステカ軍にだ。
「それならだ」
「予定通り一気に攻めてですか」
「そうして制宙権を確保する」
 こう日本に話す。
「惑星チリ周辺のな」
「そしてすぐにですね」
「そうだ、利古里ちゃん達には降下してもらってだ」
 そしてだというのだ。
「チリを確保してもらう」
「即座にですね」
「一気に攻めて一気に終わらせる」
 これが東郷も今回の作戦だった。
「それでいこう」
「確かに。このまま攻勢に出るよりもダメージは少なそうですね」
「躊躇するより果敢に攻めた方がいい」
 つまり果断であれ、というのだ。
「そうしよう」
「それでは」
「じゃあ祖国さんも妹さんもそれでいいな」
 東郷は日本兄妹にも問うた。
「一気に戦いを終わらせる」
「はい、それでお願いします」
「私もです」
 日本兄妹は東郷に対して即座に答えた。
「そのうえでチリを占領します」
「ここは」
「全ての兵器を一斉に放つ」
 東郷は新たな攻撃方法も出した。
「艦載機、ビーム、ミサイル、鉄鋼弾のな」
「四種類のですね」
「それで行く、やってみるぞ」
「では」 
 秋山はその攻撃方法に内心戦慄を感じた、はじめて聞いた攻撃だからだ。
 それでだった、枢軸軍は。
 これまでにない攻撃を出した、艦載機を放つと共にビームをミサイルを同時に発射する、そして最後にはだった。 
 ビームとミサイルを追い掛ける様にして鉄鋼弾も放つ、まさに同時攻撃だった、 
 その四種同時攻撃でアステカ軍を退けてからだった。
 陸軍が素早く降下した、山下は抜剣し軍の先頭に立ちながら自分の左右にいてくれている日本兄妹に言った。
「では今より!」
「はい、行きましょう!」
「是非共!」
「全軍突撃!」
 自らハニワ達に向かう、そして。
 その刃に気を込めて放ち遠間にいる彼等を両断したのだった。
「例え刃で斬れずとも気なら違う!」
「ホーーーーー!とんでもない奴だホーーーー!」
「何か出してきたホーーーー!」
「叩け!若しくは潰せ!」
 山下は陸軍の将兵達に告げる。
「ハニワ達にはそうしろ!この星は我等のものだ!」
「わかりました!」
「では!」
 陸軍の者達も応える、そうして。
 彼等は星を一気に陥落させた、それを見てだった。
 チリもこれ以上の戦闘を諦めてこう将兵達に告げた。
「もうこれで終わりや」
「降伏ですか」
「ここは」
「ああ、こうなったらしゃあないわ」
 彼の選んだ選択はこれだった。 
「降伏するわ。逃げたい奴はアルゼンチンまで撤退や」
「わかりました、ほな」
「ここでの戦いは終わりですわな」
 チリは降伏し将兵達はそれぞれチリに従い降伏するか撤退する者もいた、その辺りはそれぞれだった。
 だが枢軸軍がチリを占領したのは事実だ、これによって。
 チリにはすぐに修理工場が築かれそのうえでだった。 
 惑星を占領した山下は日本に呼ばれた、そこには東郷もいた。
 日本はその二人に真剣な顔で言ったのだった、その言葉はというと。
「この戦いはです」
「陸軍だけでは成功しませんでした」
「海軍でもな」
「そうです」
 まさにその通りだというのだ。
「これはチリだけのことではなく」
「どの戦いにおいてもですか」
「そうです」
 日本は山下にも答える。
「ですから私は陸軍の吸収には反対です」
「海軍と陸軍は共あってこそですか」
「はい」
 山下の問いに毅然として答える。
「これは私だけの考えではなく」
「帝もでしょうか」
「帝、そして伊藤首相もです」
 まさに国家、尚且つ国家元首とその宰相も同じ考えだというのだ。
「これからも両軍は共に国家の両輪として働いて下さい」
「それでは」
「それでなのですが」
 陸軍の吸収を否定してからだった、日本は今度は東郷に対しても言った。
「両軍の合同パーティーを開きたいのですが」
「合同のですか」
「そうです、共催の」
 それを開こうというのだ。
「それでどうでしょうか」
「わかりました」
 最初に応えたのは山下だった、 日本に対して陸軍の敬礼を向けてからそのうえで自身の国家に応えたのだ。
「それでは」
「海軍としても異論はありません」
 続いて東郷も応じる、彼は海軍の敬礼だ。
「では共催としましょう」
「料理にお酒に」
 日本はさらに言う。
「用意して下さい」
「了解です」
「では」
 こうして海軍と陸軍の共催のパーティーが開かれた、他の枢軸国の面々も招かれたそれはかなり盛大なものだった、だが。
 クリオネは陸軍が出しているオードブルを見て目を点にさせて言った。
「・・・・・・何なの、これ」
「お握りにお惣菜ですね」
 サフランがそのクリオネに冷静に答える。
「日本のお料理ですね、どれも」
「ジャガイモの煮っころがしに蒟蒻を煮たのに野菜の佃煮に豚汁だね」
 アグニも話す。
「そういうのだよね」
「それはわかるわよ。けれどね」
「けれど。どうしたんですか?」
「だからパーティーに出すものなの?」
 クリオネが唖然となっているのはこのことだった。
「海軍さんを見なさいよ、海軍さんを」
「うん、凄いね」
 アグニは海軍側が作ったテーブルを見た、そちらはというと。
 寿司にテリーヌ、点心にだった。
 和漢洋の様々な馳走があった、それはさながら宮廷料理だった。
 それに対して陸軍はそれだ、クリオネは唖然としながら言うのだった。
「美味しいかも知れないけれど」
「味はよくないです」
 サフランは実際に筑前煮の鶏肉と蓮根、牛蒡を食べてから答えた。
「素人さんが作ったものですね」
「素人さんって」
「日本陸軍では給養員はいません」
 専門に料理をする人間はいないというのだ。
「兵士の人達が持ち回りで作っています」
「それでなのね」
「はい、素人さんがです」
 作って出しているというのだ。
「そうなっています」
「今時凄いわね」 
 クリオネも話を聞いて呆れることだった。
「というか専属のコックがいないのね」
「何でも軍人は美食を要求してはならず」
「メニューも粗食で」
「はい、質実剛健であるべきとの考えでして」
「あの長官さんらしい考えだけれど」
 それでもだと言うのだ。
「それでもね」
「パーティーに出すにはですか」
「これはないでしょ」
 クリオネは牛肉の大和煮を食べてみた、その味もだった。
「確かにまずいわね」
「どう見ても専門職の方の料理ではないですね」
「焼き魚も焼き過ぎだよね」 
 アグニが食べているそれは黒焦げである、鰯らしい。
「陸軍さんってこんなの食べてるんだね、いつも」
「というか凄いわね」
 クリオネは呆然となったままだ。
「私達今まで日本軍というと海軍さんにばかりお世話になっていたけれど」
「陸軍さんはこうだったのですね」
「お酒は日本酒だけね」
 一升瓶がいくつもどんと置かれている。
「海軍さんがワインにカクテルになのに」
「まさに天国と地獄ですね」
「壮絶なものね」
「このカレーは何たい?」
 三人の祖国インドも来た、クリオネは今はインド国籍になっているので彼女にとっても祖国になるのだ。尚クリオネは今はインドの財務大臣になっている。
 その三人にだ、インドは陸軍のカレーを食べて言うのだった。
「適当に切った野菜に肉がルーに入っているだけたい」
「人参に玉葱にジャガイモに」 
 サフランもそのカレーを食べてみてコメントする。
「ピーマンに 茄子、トマト、株、ほうれん草、大蒜、生姜にと」
「そして鮭に烏賊、貝に海老たいな」
「シーフードカレーですね」
 メニュー的にはそうなった。
「それですね。ですが」
「煮込み過ぎたい」
 このカレーの問題点はこれだった。
「切り方も本当に適当でそれを何時間に煮ただけたい」
「ルーを多く入れただけの味付けですね」
「素材の調和も何もないたい」
 そもそも組み合わせもおかしかった。
「これはないたいよ」
「まずいですね、はっきり言って」
「野菜にも組み合わせがあるたい」
 インドはこのことを指摘する。
「それにシーフードカレーにはシーフードカレーのルーもあるたい」
「しかしこのカレーは」
「どれもなっていないたい」
「寄せ鍋に等しいですね」
「シーフードは煮込み過ぎたら硬くなるのに」
 クリオネもそのカレーを食べてみて眉を顰めさせる。
「酷いわね、このカレーも」
「エイリスよりはましたいが」
「ええ、まし位ね」
 本当にそのレベルだった、こう話すインド組jのところに、
 山下が来た、主催者の一人として陸軍の礼装姿の彼女はインド達に対して尋ねたのである。
「あの、楽しんで頂いていますか」
「はい」
「今回の料理は我々が腕によりをかけて作ったもので」
 山下の言うことは衝撃の事実だった。
「陸軍で出される最高の馳走を用意しました」
「最高の馳走なのね」
 クリオネは山下の言葉に再び驚いた。
「これが」
「はい、そして料理をする者も陸軍の中で料理を得意とする者を選りすぐり」
 山下は真剣そのものの顔で話していく。
「メニューはどれも陸軍で最高の馳走とされているものばかりです」
「お酒もたい?」
「無論です」
 インドはその酒を飲みながら問うた、山下の返答は即座に返って来たがこうしたものだった。その酒もまた味は、だった。
「陸軍で式典の際飲まれる最高の酒です」
「そうたいか」
「量は多くあります」
 確かにどれも量は多い、よく見ればメニューに使われている素材も身体にいいものばかりだ、それは確かだった。
「滋養にもいいです。そして味も」
 山下は高野豆腐と椎茸を煮たものを食べた、そして言うことは。
「ここまで美味いものを作ってくれた兵士には後で私が直々に褒美を出さなければなりませんね」
「そこまで美味しいんだね」
「はい」
 まさにそうだとだ、山下はアグニにも答える。
「最高の美食です」
「そうなんだ」 
 アグニもこれには呆然となる。
「美味しいんだ」
「豆腐にしてもです」
 外見はともかくだった、冷奴も。
 サフランは一口食べて沈黙した、作り方を間違えた味だったのだ。
 しかし山下はその豆腐にもこう言ったのである。
「手間隙かけて、作っているだけはあります」
「その兵隊さんが作ったんですね」
「そうです、徹夜で作ったとか」
 山下はこのことにも感激していた。
「見事です、直々に賞状を書きます」
「わかりました」
 サフランはこの豆腐を作った兵士が豆腐屋をすれば三日で潰れることを確信した、あまりにも硬くしかも大豆臭さが強過ぎるからだ。
 だがその豆腐にも山下は言うのだ。
「素晴らしいです」
「わかったわ。このお料理はどれも陸軍では最高のものなのね」
「最高以上です」
 まさに絶賛だった。
「これだけの味とは」
「そうなのね」
「陸軍は普段は白米に味噌汁」
 そしてだった。
「後は少量のおかずだけなので」
「それが三食なのね」
「そうです」
 こうクリオネにも答える。
「普段はまことに粗食です」
「成程ね」
「量と栄養は十二分に考慮しています」
 このことは間違いないというのだ。
「しかし軍人としてです」
「贅沢はしてはいけないっていうのね」
「そうです」
 まさにそうだというのだ。
「陸軍は臣民の財産を無駄にはしません」
「ああ、軍の食事も税金からお金が出ているんだったね」
 ここでアグニはよく忘れられていることを思い出した。
「だからなんだ」
「そうです、それで何故贅沢が出来るでしょうか」
 山下だけの考えではない、陸軍全体の考えだ。、
「ですから今回はメニューは贅沢ではないかと内心不安でした」
「これだと問題ないと思うわよ」
 贅沢という意味では、クリオネが言うのはこういうことだった。
「特にね」
「そうですか」
「ええ、贅沢ではないわ」
 逆に国際の場では質素過ぎないかというのだ。そして味はそれ以前だというのは言葉には出さなかった。
「安心してね」
「だといいのですが」
「とにかく陸軍さんの全力なのね」
「はい、我が軍は常に手を抜きません」
 これは絶対だった。
「そのことはご承知下さい」
「わかったわ」
 クリオネは山下の言葉に頷いた、だがだった。
 山下がその場を去り新たに加わったチリに挨拶に行ったのを見届けてからインドに対してこう囁いたのだった。
「本気だから怖いわね」
「おいは今猛烈に絶望しているたい」
 これがインドの返事だった。
「これが陸軍さんの最高のご馳走たいな」
「ええ、贅沢に過ぎたのではと心配する位の」
「ないたい」
 インドから見てもだった。
「どうやら日本陸軍に美食という言葉はないたいな」
「贅沢自体がね」
 そもそもこれを否定しているのだった。
「ないわね」
「そうたいな」
「後で海軍さんの方に行くけれど」
 見ただけで違った、素材もメニューも調理の仕方も。 
 シャルロットがオマール海老のソテーを食べてからビルメに満面の笑顔でこう言っているのが見えた。
「これ凄く美味しいですよね」
「みたいだね、こっちのテリーヌもね」
「鴨のですね」
「食べなよ、これ」
「はい、それじゃあ」
「いや、日本人も料理が上手だね」
 ビルメはにこにことしながらシャルロットが薦めるオマール海老を食べて言う。
「オフランスの料理もここまで作れるなんてね」
「シェフの方にお礼を申し上げないといけませんね」
「全くだよ、いい給養員だよ」
「本当に」
 二人は笑顔で話をしている、それを見てクリオネはまたインド達に告げた。
「じゃあ今度はね」
「海軍さんの方にですね」
「今から行くんだね」
「陸軍さんの方は陸軍さんの方が何とかしてくれるわ」
 彼等が食べるというのだ。
「だから私達はね」
「これからは海軍さんのところで、ですね」
「食べるんだね」
「うん、食べよう」
 こう言ってだった。そうして。
 インド組も海軍の料理を食べる、それはかなりの味だった。
 だがだった、ロレンスはその陸軍の料理を食べて唸っていた。
「これは」
「どうなんですか?」
「美味しいですね」
 こうフェムに答える。
「絶品です」
「そうなんですか」
「エイリスでここまでのものを食べたことがありません」
 そこまでの味だというのだ。
「これは」
「そうなんですね」
「はい」
「そうですか」
「あの、何か」
「いえ、何でもないです」
「エイリスの食事もいいですが」
 ロレンスはフェムの曇った顔に気付かないまま話していく。
「いや、陸軍さんのお食事はいつもいいですね」
「あの、ロレンスさんは海軍さんのお食事は」
「はい、ないです」
 食べたことがないというのだ。
「そちらは知りませんが見たところ豪華ですね」
「一度お召し上がりになられれば」
「わかりました、それでは」
 かくしてロレンスは海軍の馳走も食べる、だが言うことは同じだった。
 フェムはそのロレンスを見届けてからそのうえでだった。
 難しい顔になってベトナムにこう囁いた。
「あの、ロレンスさんも」
「山下長官と同じくな」
「味覚が、ですよね」
「人は、まずいものばかり食べているとだ」
「味がわからなくなるんですね」
「見るといい、あの食事を」
 ベトナムは陸軍のテーブルを見る。いるのはその日本陸軍の面々とそしてエイリス軍の将兵達だけである、
 他には誰もいない、それでだというのだ。
「殆ど誰もいないな」
「そうですね」
「陸軍さんとエイリス軍以外はな」
「そこまで酷い・・・・・・ですよね」
「私が食べてみてもな」
 ベトナムはあえて多くは言わなかった。
「本当にな」
「私もあれはかなり」
 フェムも言うことだった、尚今は雨は降らしていない。
「料理の専門の人が作ってないんですね」
「だからだ」
「ああした味なんですね」
「海軍の方に行こう」
 ベトナムはフェムに薦める。
「是非な」
「わかりました、それじゃあ」
 こうしてフェムはベトナムに連れられて海軍の食事を食べる。そうしたのである。
 陸軍の食事は本当に限られた顔触れだけが堪能していた、その彼等が海軍の食事を食べてもこう言うだけだった。
「ふむ、こうしたものか」
「美味いな」
「贅沢に過ぎるとは思うがな」
「それでも美味いな」
「そうだ」
「海軍も美味いものを作るな」
 山下も海軍の料理を食べている、そして言うのだ。
「これは」
「ま、まあそうだね」
 南雲もあえて多くは言えなかった。顔は引いている。
「長官さんも気に入ってくれたね」
「うむ、これからもこうしたことは行うべきか」
「そうです」
 ここで答えたのは日本だった。
「海軍、陸軍共同でパーティーやレセプションを続けていきましょう」
「わかりました」
 礼儀正しい山下だった、だが。
 日本は彼女がまた別のところに行ったのを見届けてからそっと宇垣に囁いた。
「陸軍さんにアドバイスをしたいのですが」
「給養員を置くことですか」
「はい、そうするべきでは」
「陸軍さんのことは言えませんが」
 外相なので外務省が管轄だからだ、しかも彼は現役の海軍の提督でもある。それで陸軍に言える筈がなかった。
「これはとても」
「味覚としましては」
「あまりにもです」
「確かにエイリスの料理よりは美味しいです」
 流石にそれよりはだった、だがそれでもなのだ。
「しかしこれは」
「はい、酷過ぎます」
 こうしたことを話したのだった、しかしパーティー自体はつつがなく行われた。
 そうしてだった、海軍と陸軍は少しだけ歩み寄れた。日本はこのことを見届けてからそのうえで御所において帝と伊藤に言った。
「こうしたことを何度か続けていけば」
「相互理解も進んで、ですね」
「より融和できますな」
「そうなります」
 こう二人に言うのだった。
「暫く続けていきましょう」
「雨降って、ですかな」
 伊藤がここでこの言葉を出した。
「だとすればよいことです」
「そうですね。祖国ちゃんもお疲れ雅でした」
「いえ」
 日本は帝の微笑みの言葉に自身も微笑んで返した。
「お気遣いなく」
「いえ、本当に今回は助かりました」
「私にとてはどちらも必要です」
 陸軍も海軍もだというのだ。
「ですから」
「この機会にですか」
「特に山下長官の対抗意識が強かったです」
 東郷はともかく彼女がだったのだ。
「ですから」
「山下ちゃんはそこが問題なんですよね」
 帝も実際に悩んでいることだった。
「生真面目なことはいいですが」
「まだ余裕を身に着けておられないですね」
「はい、そこです。ですが」
「今回のことから少しずつでも」
 それでもだと言う日本だった。
「そうしたものを身に着けて頂きたいですね」
「そうですね、本当に」
「それでなのですが」
 ここで話題が変わった、日本が言う。
「一つ面白いことがわかりました」
「といいますと」
「はい、チリへのワープ航路ですが」
 今度はこれの話だった、航路の話だ。
「ニュージーランドへの航路も発見されました」
「本当にあったのですね」
 帝は日本の今の話を聞いて顔を綻ばさせた。
「それは何よりですね」
「チリ、中南米への移動が楽になります」
「そしてですね」
「補給も」
 移動、それは即ち補給の話だった。
「これでかなり楽になります」
「アステカとの戦いもより順調に進められますね」
「これまではテキサスからのルートのみでしたが」
 それが変わるというのだ。
「オセアニア方面からも行える様になりました」
「ではすぐに」
「はい、オセアニア方面からの補給も開始します」
「しかもです」
 今度は伊藤が話す。
「チリには修理工場も築きましたな」
「はい」
「ではチリをアステカ奥地への侵攻拠点としますな」
「そうなっています」
「何よりです。ただ出来れば」
 伊藤は首相、即ち政治家だ。それで政治家として考えそのうえで日本に対して述べたのである。
「長期戦ではなく」
「講和ですね」
「そもそもアステカを滅ぼすつもりはないのですから」
 枢軸側にはその意志はない。
「講和してそうしてですな」
「メキシコさんとキューバさんは独立されたい様ですが」
 日本はこの辺りの事情も話した。
「チリさんとペルーさんはアステカに残られたい様です」
「中米と南米で分かれますな」
「元々メキシコさんはマヤの系列だったらしくキューバさんもまた別だったそうです」
 同じ中南米でもアステカではなかったというのだ。
「それでアステカにいてもいいがと仰って」
「それで、ですな」
「はい、メキシコさんとキューバさんは独立されて」
 そしてだった。
「後の領土は保全ということで」
「講和ですな」
「この条件ならアステカ側もいいと思うのですが」
 日本は眉をやや曇らせて述べた。
「如何でしょうか」
「私もそれでいいと思います」
 伊藤もこう日本に答える。
「アステカ側も飲める話ですな」
「そう思うのですが」
 だが、だった。日本はここで難しい顔になりそのうえで伊藤に述べた。
「ですがそれが」
「向こうは聞きませんか」
「最後まで戦って楽しむと」
 ケツアル=ハニーが言っているというのだ。
「ですから」
「ううむ、そうした考えですと」
「結局最後までいくしかありませんね」
「残念なことですが」
 伊藤も日本の話を聞いて項垂れる感じになった。
「そうなりますな」
「はい、アマゾンまで侵攻するしかない様です」
「では今度は」
「アルゼンチンです」
 次の攻略対象はそこだった。
「そしてそこからブラジル、アマゾンです」
「私としては早期講和を願いますが」
 帝も憂いの顔を見せて述べる。
「そうはいかないですね」
「はい」
 日本は帝にも浮かない感じの顔で返す。
「そうなります」
「わかりました。ではアステカとも最後まで戦うしかありませんね」
「引き続き攻撃を続けます」
「アルゼンチンには今うぽぽ菌が出ているとか」
 伊藤がこの宇宙細菌の名前を出した。
「祖国殿も注意して下さい」
「あの細菌ですね」
「あれもイナゴや台風と同じく厄介な存在です」
 人類を悩ませる災厄の一つだ、銀河の時代になろうとも人類は大怪獣や災害から解放されてはいないのだ。
 それで伊藤もここで日本に話したのである。
「彼等にも注意を」
「わかりました」
 こうしてだった。海軍と陸軍の対立の問題を融和の方向に向けた日本は今度はアルゼンチンに向かうことになった、アステカとの戦いも続いていた。


TURN86   完


                           2013・2・7



宇宙台風にイナゴ。
美姫 「そして、チリの戦力である宇宙怪獣」
おまけに主力と言うか民はハニーだもんな。
美姫 「今回は人外満載よね」
まあ、この地域はこんな感じだが。とは言え、イナゴに続いての台風は厳しい状況だったな。
美姫 「それもどうにか乗り越えれたけれど」
多少の損害は出たが、進軍を止める程ではなかったか。
美姫 「陸海の問題は良い方向へと向かっている感じだしね」
アステカ戦ももう少しといった所だろうか。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!



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