『ヘタリア大帝国』




                         TURN93  怪獣軍団

 エイリス軍はマダガスカルに攻め込んだ、それを受けて。
 枢軸軍も迎撃に出た、そのうえでマダガスカル宙域に展開した。
 その中にいるハニーがエイリス軍を見て言った。
「これは危ないホーーーー」
「宇宙怪獣がいますね」
「これだけ多いと危ないホーーーー」
 こう日本に言うのだ。
「一刻も早く何とかするべきだホーーーー」
「これ位の数でも勝てますが」
 秋山がハニーに返す。
「確かに多いですが」
「違う、そうじゃないホーーーー」
「違うとは」
「どうもあの怪獣達は一人で動かしているホーーーー」
 ハニーが言うのはこのことだった。
「あれだけいれば大怪獣にも匹敵するホーーーー」
「あっ、怪獣を操るにはその操者の心身に負担がかかるんだ」 
 総督はここで言い加えた。
「怪獣の数は多ければ多いだけね」
「となると」
「例えば日本の帝さんだけれど」
「帝が何か」
「あの富嶽を退ける儀式があるよね」
 総督が今言うのはこのことだった。
「あれも滅多に出来ないよね」
「実はあの儀式の後帝はかなりお疲れになられます」
 それで休息が必要になるのだ。
「あのお疲れは」
「そうなんだ、怪獣を操ることだからね」
 それでだというのだ。
「怪獣を操ることへの負担は結構凄いんだよ」
「実はうちの怪獣姫でごわすが」
 オーストラリアがトルカのことを話す。
「あの大怪獣は大人しいからかなりましでごわすが」
「それでも負担があるのですか」
「結構なものでごわす」
 今このことを話すのだった。
「だから怪獣姫は代々若い少女となっているでごわす」
「怪獣を使い過ぎると操者の心と身体に凄い負担になるホーーーー」
 またハニーが話す。
「今の敵の怪獣を使っている人は誰かわからないホが」
「あれだけの怪獣を一度に使っていると危険だよ」
 総督も危惧している顔である。
「敵とはいえね」
「しかも怪獣姫は軍人ではないでごわす」
 オーストラリアも難しい顔になっている。
「提督待遇と思うでごわすが」
「非戦闘員ですか」
「そうなるでごわすな」
「では何とかしなければ」
 日本はすぐに言った。
「非戦闘員に犠牲を強いる戦争は好きになれません」
「そうだな、それではだな」
「はい、まずは怪獣を何とかしましょう」
 日本は東郷にも言った。
「それからですね」
「そうだな、しかしな」
「数が多過ぎますね」
「あれだけで数十個艦隊はいる」
 大体五十個艦隊規模である。
「かなりの戦力だ」
「その中で操者を見つけるというのは」
「中々厄介だ」
「それをどうするかですね」
「ああ、そうだ」
「戦えば戦う程操者への負担は大きくなるホーーーー」
 ここでまたハニーが話す。
「だからハニーも操者には一個艦隊規模しか任せていなかったホーーーー」
「ほんまな、怪獣を操るのはむっちゃ負担なんや」 
 ブラジルもこのことを話す。
「幾らその能力が高くてもな」
「五十個艦隊規模は無茶だホーーーー」
「大怪獣に匹敵するさかいな」
「このままでは操者はその負担に耐え切れずに死ぬホーーーー」
「ではどうするべきか」
 秋山はハニーとブラジルの話を聞きながら考えた、そしてだった。
 敵の動きを見る、見れば。
 怪獣達は敵軍の右翼にいる、そして。
 中央と左翼は正規軍だ、その彼等を見て言った。
「中央にいるのはモンゴメリー提督とマリー王女ですね」
「左翼がイギリスさんと妹さんですね」
「こちらは合わせて百個艦隊です」
 怪獣と合わせて百五十個艦隊規模だ。
「数では向こうが優勢です」
「しかし将帥と艦艇の質では我が軍が圧倒している」
 レーティアがこのことを言って来た。
「と、なるとだ」
「操者を犠牲にしない為にはどうすれば」
「私に策がある」
 レーティアは秋山に言う。
「操者の特性だが」
「特性?」
「怪獣もまた生物だな」
 まず言うのはこのことだった。
「そうだな」
「はい、確かに」
「生物と共にいるには優しさが必要だ」
「操者は皆優しいホーーーー」
 ハニーもこのことを言う。
「怪獣に対しても思いやりが必要だホーーーー」
「だからだ、あの操者もだ」
「優しい性格ですか」
「しかも正規の訓練を受けた軍人でもない」
 レーティアはこのことも言った。
「だからだ、我々がエイリス軍を攻めればだ」
「エイリス軍を助けに来ますか」
「少なくとも動揺はする」
 応援に来なくともだというのだ。
「その操者がいる艦隊がな」
「怪獣の動きは操者の精神状況は凄く影響するからね」
 総督もこのことを言って来た。
「それでなんだね」
「人の優しさに付け込むのはお世辞にもいいこととは言えないがな」
 レーティアはこのことに後ろめたさも感じた、だが今はだった。
「そうも言っていられない状況だな」
「うん、そうだな」
「私も軍人でない者を敵とはいえ犠牲にはしたくない」
 レーティアにもこの感情があった、優しさに付け込む策を考えても。
「それでもだ」
「わかった、それではだ」
 東郷はレーティアの策を受けた、そしてだった。
 日本軍は大きく右に迂回、エイリス軍の左翼に向かった、その動きは第六世代の艦艇だけあってかなり速い。
 その動きを見てイギリスが言った。
「よし、ここはな」
「まずは我々が敵の動きを受け止め」
「モンゴメリーさんとマリーさんに伝えてくれ」
 イギリス妹に応えながら自軍の将兵達に告げた。
「俺達が敵の動きを食い止めている間に敵の側面を衝いてくれってな」
「パルプナさんは」
 右翼を担う彼女はと、イギリス妹は兄に問うた。
「どうされますか」
「あの娘は予備だ」 
 イギリスはこう妹に返した。
「戦局次第で動いてもらうさ」
「そして出来ればですね」
「何かやばくないか?」
 イギリスは怪訝な顔でモニターの向こうの妹に問うた。
「今のあの娘は」
「はい、そういえば」
「疲れてないか?肩で息をしてな」
「出撃前まではお元気でしたが」
「どうしたんだよ、急に」
 二人共怪獣のことには詳しくない、怪獣には縁の薄い欧州にいるから当然と言えば当然のことであるが。
「あの様子は」
「だからですね」
「無理はさせられないな」
 これがイギリスの判断だった。
「だから今はな」
「はい、それでは」
 こうしてパルプナと怪獣達は予備戦力となった、そしてだった。
 イギリス兄妹が迎え撃ちマリーとモンゴメリーが側面に向かう、両軍の戦いが今はじまった。
 両軍は艦載機にビームを放つ、だがだった。
 やはり枢軸軍の攻撃力は高い、エイリス軍の艦艇は次々と炎に包まれていく。
「なっ、速い!」
「しかもこの威力は!」
 エイリス軍の将兵達は驚きながら叫ぶ。
「第六世代か!?」
「その艦艇を標準配備にしているのか枢軸は!」
「くそっ、こっちはやっと開発出来たってのにな」
 イギリスは次々と沈む自軍の艦艇を周りに見ながら歯噛みする。
「もう第六世代を標準かよ」
「これでアステカを瞬く間に降したのですね」
 イギリス妹も難しい顔になっている。
「この質で」
「みたいだな、これはな」
「強いですね」
「ああ、数では優っていてもな」
「しかも将兵の質も高いです」
「何かいないか?あの総統さんがな」
 イギリスは攻撃を仕掛けて来る枢軸軍の中から感じ取った。
「レーティア=アドルフがな」
「彼女はベルリン陥落の際に自害していますが」
 イギリス妹はまさかと否定した。
「幾ら何でもそれは」
「ないか」
「はい、ですから」
「それじゃあただ有能な提督がいるだけか」
「そうかと」
 枢軸側はレーティアの亡命を言っているが連合の誰もこのことを信じていない、ヒムラーですらそうなのだ。
 それで彼等もなのだ。
「有り得ません」
「そうだな、ロンメル提督はいるけどな」
「レーティア=アドルフ総統が生きている筈がありません」
 二人はこのことは否定した、そのうえでだった。
 彼等はその戦いを経ていく、枢軸軍の火力と機動力に圧倒されながらも。
 モンゴメリー達はその中で枢軸軍の側面を衝こうとする、だが。
 ここで怪獣達が動いた、一斉にエイリス軍の方に来た。
「なっ、怪獣が動いた!?」
「まさか!」
「おい、待機命令は出したのな!」
「お兄様ご自身が!」
 イギリス妹は何とか冷静さを保ちながら狼狽している兄に言った。
「確かに」
「そうだな、おいパルプナ!」
「祖国さん、私も戦います」
 パルプナはモニターからイギリスに言って来た。
「このままでは祖国さんが」
「いい!まだ耐えられるからな!」
「それでも」
「くっ、そういえばこの娘は」
「はい、提督ではありますが」
 妹はここでも兄に答える。
「正規の軍人の訓練は受けていません」
「戦争のことはか」
「しかも今回が初陣です」
 つまり何も知らないというのだ。
「これでは」
「まずいぞ、これは」
 見れば怪獣達の動きは完全に統制を外れている、しかも。
 パルプナが直率する怪獣達が突出していた、これではだった。
「あの娘がいるって丸分かりだぞ」
「はい、これでは」
「集中攻撃を受けるぞ、あの娘がやられたらな」
「怪獣達の統制が取れなくなります」
 そしてだというのだ。
「怪獣達の戦力がなくなります」
「まずいな」
 イギリスはパルプナの暴走に危機を感じた、そして実際に。
 東郷は怪獣達を見て言った。
「よし、あれだな」
「あの先頭を進む怪獣群がですね」
「操者がいるな」
「間違いなくですね」
 秋山もそう見抜いた。
「あれだけ急速に来ているとなると」
「そうだな、ではだ」
「あの群を倒せばですね」
「怪獣達は無力化する」
 そしてだった。
「操者も救われるな」
「そうなりますね」
「ではだ」
 東郷は大和を動かした、そして。
 その主砲をパルプナ達に向けて命じた。
「よし、主砲一斉発射だ」
「あの群にですね」
「そうだ、それで倒せなければ鉄鋼弾も使う」
 そしてだというのだ。
「あの群を倒せばここでの戦いは大体終わる」
「それでは」
 大和ともう一隻の戦艦武蔵が動く、そして。
 その主砲を突撃して来る怪獣群に向けて東郷が命じた。
「主砲一斉発射」
「主砲一斉発射!」
 艦長が復唱する、それを受けて。
 二隻の大和級戦艦の主砲から光の矢が放たれてだった。
 怪獣群を撃つ、それを受けて。
 怪獣達は全て動きを止めた。そしてパルプナも。
「おい、大丈夫か!」
「は、はい」
 イギリスが咄嗟に通信を入れた、返事はあった。
「大丈夫です」
「だから無理するなって言ったんだよ」
「すいません」
「生きてるな、それじゃあな」
 後方に下がれ、そう言おうとしたところで。
 パルプナは苦しい顔でモニターからイギリスに言った。
「怪獣達が動けません」
「後方に下がれないのかよ」
「はい・・・・・・」
 苦い顔での言葉だった。
「今は」
「わかった、じゃあそこにいてくれ」
 ここでも無理をするなと言うのだ。
「そうしてくれ」
「すいません、本当に」
「謝る必要はないさ」
 それはいいというのだ。
「そこで留まってくれ、戦いが終わったら助けに行くからな」
「わかりました」
 こうして何とか無事だったパルプナは今はその場でいることになった、そしてそのうえでだった。
 エイリス軍は枢軸軍との戦闘を続けた、モンゴメリー達はその側面を衝こうとした、だが。
 その彼等にもだった、枢軸軍は攻撃を仕掛けた。
「そら、来ると思ってたぜ!」
「全艦魚雷発射!」
 田中とエルミーの潜水艦艦隊が彼等が来たところで魚雷を放った、それで敵の先頭の動きを封じてからだった。
 枢軸軍は正面のエイリス軍左翼に艦載機とビームを浴びせてから機動力を活かして自分達の側面に来たエイリス軍中軍に鉄鋼弾攻撃を浴びせた、圧倒的な数の酸素魚雷が彼等を撃ち。
 今度もエイリス軍の艦艇を次々と炎に変える、それを見てだった。
 モンゴメリーは乗艦であるオークの艦橋で難しい顔で言った。
「この状況でこれ以上戦闘を続けようとも」
「勝てないね」
 マリーがモニターに出て来て応える。
「これじゃあね」
「はい、戦局が変わりました」
「パルプナちゃんがね」
「パルプナ嬢、ご無事ですか」
「はい・・・・・・」
 パルプナはオークのモニターにも出る、見たところ怪我はない。
 だが浮かない顔でこうモンゴメリーに言った。
「ですが怪獣達は」
「いいです、こちらも無理をして戦場に連れて来ましたから」
「いえ、モンゴメリーさん達は」
「事実です、事実は否定出来ません」
 モンゴメリーは嘘を言わない、だからだ。
「それに怪獣を操ることですが」
「うん、負担だったかな」
 マリーもパルプナに申し訳ない顔で述べる。
「五十個艦隊規模を動かしてもらってたけれど」
「いえ、それは」
「その通りだったみたいね」
 パルプナが否定しようとする態度から察したマリーだった。
「御免ね、無茶させて」
「私は」
「いいのよ、元々無茶なこと言ったのは僕達だし」
 マリーもまたパルプナを慰める。
「ここは僕達だけで何とかするよ」
「それではです」
 モンゴメリーがあらためて言う。
「祖国殿、殿下、ここは」
「撤退か?」
「そうする?」
「いえ、確かにその通りですが」
 モンゴメリーも危ういものは感じている、だがだった。
「ここで諦めてもなりません」
「じゃあどうする?」
「ここは戦力を正面に集結させましょう」
 こうイギリスに提案する。
「そしてそのうえで」
「正面から挑むか」
「側面からの攻撃は失敗しました」
 枢軸軍の機動力を活かした鉄鋼弾攻撃によってだ。
「我が軍は鉄鋼弾攻撃には弱いです」
「艦艇の装甲の関係でな」
「はい、あれを使わせる前に決着をつけましょう」
 正面からだというのだ。
「艦載機とビーム攻撃で」
「乾坤一擲の攻撃で、ですね」
 イギリス妹はモンゴメリーの意図を読んで言った。
「それで、ですね」
「その通りです。それでは」
「よし、じゃあ全軍集結だ」
 イギリスが指示を出した。
「そのうえで艦載機とビームの波状攻撃を仕掛けるからな」
「うん、それじゃあね」
「すぐに」
 マリーとイギリス妹が応えてだった、そうして。
 エイリス軍は数を減らしながらも枢軸軍の正面に集結した、そうしてだった。
 突撃を敢行しつつ艦載機とビームを放とうとする、それで枢軸軍を討とうとする。
 だがそれを見てだった、のぞみが言った。
「艦載機とビームなら」
「何の問題もないホーーーー!」
 ハニーも叫ぶ。
「今の私達の艦隊にはバリアだけでなく防空システムも整っていますので」
「ここは任せるホーーーー!」
「あんた達が楯になってくれるんだな」
 ドワイトが二人の話を聞いて言う。
「そういうことだな」
「はい、ここはお任せ下さい」
「完全に受けてやるホーーーー!」
「よし、わかった」
 東郷も彼等のその申し出を受けた、そしてだった。
 二人の艦隊を軍の前に出す、するとイギリスはその彼等を見て言った。
「あの訳のわからねえ艦隊を潰すか」
「ハニワですね、あれは」
「確かアステカ帝国の兵器だったよな」
 モニターに映る彼等から見て奇妙な艦艇達を見つつモンゴメリーに問う。
「そうだよな」
「はい、そうです」
「異様だが前に出て来るならな」
「まずは彼等ですね」
「ああ、奴等を叩き潰してな」
 敵の先頭にいる彼等をそうしてからだった。
「そこから攻めるからな」
「わかりました、それでは」
 モンゴメリーも応える、そのうえで。
 二個のハニワ艦隊に集中的に攻撃を浴びせる、だが。 どれだけ艦載機やビームの攻撃を受けてもだった、ハニワ達はびくともしない。まるで弓矢で城壁を攻めている様だった。
 イギリスはそのどれだけ攻撃を仕掛けても何ともない彼等を見てすぐにわかった。
「あいつ等防空システムも完備かよ!」
「というか何てバリアよ」 
 マリーは戦艦の主砲を受けても何ともない彼等に驚愕していた。
「第六世代の戦艦の攻撃もあるのに」
「ああ、何ともないな」
「あれがハニワのバリアなの」
「くそっ、これはミサイルか鉄鋼弾が必要だな」
 しかしだった、エイリス軍にこの二つの武器は。
「どっちもねえからな、こっちには」
「攻撃を他の艦隊に向けましょう」
 モンゴメリーが言った。
「少なくとも彼等に攻撃をしても無駄です」
「ああ、そうだな」
「それではです」
 エイリス軍はあらためて攻撃目標を変えた、枢軸軍主力に向けることにしたのだ。
 そのうえで彼等と激しい応酬を演じる、しかし。
 艦載機とビームではまだ戦えた、しかし枢軸軍の攻撃はこれだけではない。 
 その鉄鋼弾攻撃を受けてだった、エイリス軍は今度こそ決定的なダメージを受けた、戦力は最早半分程度にまで落ちていた。
 モンゴメリーもその惨状を見て遂に言った。
「最早これ以上の戦いは」
「ああ、無理だな」
「後は壊滅させられるだけです」
「そうだな、じゃあな」
「後詰は私が引き受けます」
 モンゴメリーは自ら殿軍を名乗り出た。
「そうさせて頂きます」
「それじゃあ頼んだな」
 イギリスはモンゴメリーにその後詰を任せることにして自身は軍をまとめて撤退に入る、しかしその時にだった。
 日本達に通信を入れてこう言ったのだった。
「おい、今度はこうはいかねえからな」
「ああ、わかったよ」
 フランスがやっぱり出て来たかという顔でイギリスに応えた。
「また今度な」
「じゃあ帰るかパルプナ」
「あの、すいません」
 パルプナも連れて行こうとした時だった、既に。
 彼女の率いる怪獣達は包囲され麻酔弾を撃たれ大人しくなっていた、そのうえでイザベラが敬礼をして東郷に言っていた。
「怪獣達及び操者を捕獲しました」
「よくやってくれた」
「では保護します」
「こうなってしまいました」
 パルプナが申し訳ない顔でイギリスに言う。
「ですから」
「くそっ、悪いことには悪いことが重なるな」
 イギリスも歯噛みする、だがだった。
 こうなってはどうしようもない、それで日本達に今度はこう言ったのである。
「その娘に変なことするなよ!特に日本軍の海軍長官!」
「俺か」
「そうだよ、手前相当な女たらしらしいな」
「安心してくれ、同意のうえでないと何もしない」
「同意でも駄目だからな、その娘はうちの大切な提督だからな」
 モニターから東郷を指差して言う、さながらプロレスのリングだ。
「下手なことしたらただじゃおかねえぞ」
「つまり大事にしろってことだよね」
 イタリアはイギリスの今の言葉をこう解釈した。
「そうだよね」
「ああ、間違いなくそうだな」
 フランスもイタリアに応えて言う。
「こいつはそう言いたいんだよ」
「まあお兄さんも紳士だからそんなことはしないけれどな」
「御前も裸なんて見せるなよ」
 イギリスはフランスに特に言う。
「猫耳で下をチリ紙で隠しただけとかな」
「それはナイスな変態さんですね」
 小澤はフランスのその一面を聞いてある意味感心した。
「フランスさん、一度そのお姿を私に見せて下さい」
「それ褒めてるのかよ」
「そのつもりです」
 そうだというのだ。
「ですから」
「ああ、じゃあ今度その格好でイベントやってやるよ」
「やったら即刻警察に通報した方がいいですね」
 サフランがぽつりと突っ込みを入れる。
「国家が警察に逮捕される珍現象が起こります」
「それ本気で言ってるよな」
「私は何時でも本気です」
 サフランはフランスにもさらりと毒を吐く。
「せめて下はトランクスでお願いします」
「わかったよ、じゃあトランクスにしとくよ」
「それでお願いします」
「とにかく、変なことはするんじゃねえぞ」
 またイギリスが言って来た。
「そっちに少しだけ任せてやるからな」
「わかったから早く撤退しろよ」
 プロイセンが呆れている顔で返す。
「御前そういう間に逃げられねえか?」
「だから今撤退してるんだよ」
 実際に軍をまとめてもう撤退に入っている、モンゴメリーも見事な後詰を務め枢軸軍の攻撃を防ぎ続けている。
「今度はこうはいかねえからな」
「ああ、わかったから早く行け」
 ゴローンもイギリスには冷たい。
「さっさと戦争終わらせてギャルゲやりたいんだからな」
「ギャルゲはいいがその娘は駄目だからな」
 まだ言うイギリスだった。
「次の機会まで勝利の美酒を味わってやがれ」
「全軍南アフリカに戻ります」
 イギリス妹も告げた、そしてだった。
 エイリス軍は南アフリカに撤退した、モンゴメリーの見事な殿軍で追撃は許さず無事に戦場を退いた。枢軸軍はマダガスカル防衛戦を勝利で終わらせた。 
 そのうえでだった、東郷は港に帰還してからイザベラに尋ねた。
「それであの娘だが」
「怪獣操者ですね」
「ああ、大丈夫かい?」
「怪我はしていません」
 それは大丈夫だというのだ。
「食欲もあります」
「そうか、それは何よりだ」
「ですがいつもびくびくとしていまして」
「怯えているか」
「我々が幾ら身の安全を保障しましても」
 それでもだというのだ。
「中々信じようとしません」
「過去に何かあった様だな」
「その様ですね。エイリスの南アフリカ統治は最近までかなり酷かったそうですし」
「ああ、そうだよ」
 ビルメが出て来て話してきた。
「エイリスの統治は大体酷かったけれどね」
「南アフリカでは特にか」
「あたしもよく聞いてたよ」
 マダガスカルにおいてだ。
「貴族の横暴が凄かったんだよ」
「というとマレー以上だったのですか?」
 ラスシャサがそのビルメに問う。
「南アフリカでのエイリスの統治の酷さは」
「あんたのところはまだ国家がいるだろ」
「はい」 
 マレーシアのことである。
「その通りです」
「国家がいると違うんだよ、何かとね」
「祖国さん達の目があるからですか」
「それに東南アジアやオセアニア、インドとかはエイリスもまともな人材を送っていたからね」
 四国総督がいい例だ、エイリスはそうした場所ではガメリカや中帝国の目や介入を警戒してまともな人材を送っていた。
 しかしアフリカ、南部はどうかというと。
「どうしても気が緩んでね」
「だからですか」
「ああ、本国もあまり見ていなかったからね」
 だからだというのだ。
「かなり酷かったんだよ」
「そうだったのですか」
「あの娘も相当酷い目に遭ってたね」
 ビルメにはよくわかることだった。
「相当ね」
「そうですか」
「ではここはどうすればいいのですか?」
 イザベラはあらためてビルメに問うた。
「この場合は」
「そうだね、少しずつほぐしていくしかないね」
 これがビルメの解決案だった。
「あの娘の心をね」
「少しずつですか」
「急には無理だよ」
 その気持ちをほぐすことはというのだ。
「怯えってのは強い気持ちだからね」
「だからですか」
「そういうのは実際に受けてみないとわからないんだよ」
 ビルメの言葉は悲しいものも含んでいた。
「だからあたしもレジスタンスを考えていたんだよ」
「そうだったのですか」
 シャルロットはビルメのその言葉を聞いて驚きの顔を見せた。
「オフランスからの」
「そうさ、まあ王女さんみたいな人だけじゃないからね」
 中には悪質な人間もいる、それでだというのだ。
「搾取とか抑圧から解放されようって思ってね」
「まだこっちは凄い緩やかだったけれどね」
 そのビルメの祖国のセーシェルが言う。
「けれど私達も南アフリカみたいなことされてたら怒ってたからね」
「そうだったのですか」
「そうよ。まあシャルロットさんはそういった人じゃないけれど」
 世間知らずだったが邪悪ではない、シャルロットはそうした人間だ。
「それでもね」
「そうですか」
「うん、そうだよ」
 こうシャルロットに話す、シャルロットにとっては驚くことだった。
 それで暗い顔になりこうも言った。
「人は気付かないうちに」
「まあね。悪い奴ばかりじゃないけれどね」
 ビルメがそのシャルロットに話す。
「善意でも気付かないうちに色々していることもあるよ」
「そうですね」
「王女さんだって最初は押し付けがましかったしね」
 オフランスの文化や芸術をだ。
「そういうとことがあったからね」
「そうですね、今思えば」
「善意の人でもそうなんだよ」
 ましてや邪悪な輩なら余計にだというのだ。
「南アフリカはそのどんでもない奴等がやりたい放題やってたんだよ」
「だから彼女もですね」
「ああ、ちょっとやそっとじゃ心は開かないよ」
 そうだというのだ。
「時間をかけてゆっくりやるしかないさ」
「わかった、それならだ」
 東郷はビルメ達の話をここまで聞いた上で言った。
「彼女は暫くそっとして好きな様にさせよう」
「そうするんだね」
「ありのまま俺達を見てもらい待遇も提督待遇だ」
 そうしてだというのだ。
「扉は常に開いておく」
「ではそういうことで」
 日本も東郷に応える、こうしてだった。
 捕虜となったパルプナは今はそのままいい意味で放っておかれ日本や他の国々をありのまま見てもらうことになった、とりあえずはそうなった。
 しかしだった、エイリスは退けても敵はまだいた。
 枢軸軍はマダガスカルからすぐに日本に戻りそこで艦隊の修理を受けた、そのうえで満洲を見据えていた。
 その中でダグラスは食堂で箸で刺身を食べながら彼の祖国に尋ねた。
「祖国さんよ、次はソビエトの戦争になりそうだけれどな」
「ああ、ロシアだな」
「ロシアのことは詳しいよな」
「嫌になる位知ってるぞ」
 アメリカは浮かない顔でダグラスに返した。
「寒い、とにかく寒いぞ」
「アラスカ並だな」
「その地の利を使って戦ってくるんだ」
 それがロシアだというのだ。
「僕は直接戦ったことはこれまでなかったがな」
「オフランスやオスマン帝国が戦ってだったな」
「あの寒さに負けているぞ」
「寒さか、最大の敵は」
「そうなるな」
「だから今防寒態勢を整えているんだな」
 平賀、そしてかつてバルバロッサ作戦を指揮したレーティアが中心となってその対策を進めているところだ。
「だからか」
「そうだな、満州で守っているうちはいいにしても」
「攻め込むとしたらな」
「防寒態勢はもうすぐ整うわよ」
 二人と同席しているハンナが言って来た。
「そちらは安心してね」
「そうか、もうすぐか」
「枢軸軍全体でね」
「それは何よりだ、モスクワを攻めて終わらせるか」
「いやプレジデントそれがどうもおかしいんだよ」
 キャヌホーク、諜報部にいたこともある彼が言った来た。
「ソビエトだけれどさ」
「おかしい?何かあったのか?」
「ああ、同盟を組んでいたところカテーリン書記長の動きを調べていたら」
 何があったかというと。
「時々モスクワからどっかに行ってるみたいなんだよ」
「あの書記長の出身地だろ」
 キャシーは慣れない箸さばきで鯖味噌定食を食べている、そうしながらキャヌホークに返した。
「カフカスだったよな」
「そこのグルジア生まれだよ」
「そこじゃねえのかよ」
「どうもそれが違うんだよ」
 こう天麩羅うどんの海老天を食べながら言うのだった。
「どうもな」
「違う?」
「何処に行ったのかわからなくなるんだよ」
「身を隠すっていうのかよ」
「そうなんだよ」
 こう語るのだ。
「ソビエトに潜入している部下達がそう言ってるんだよ」
「訳がわからないわね」
 クリスも話を聞いて言う。
「それはまた」
「そうだろ。俺も部下達に聞いたんだけれどな」
「自分でも調べてみたのね」
「うん、わからなかったよ」
 キャヌホーク自身で調べてもだというのだ。
「あの書記長が時々何処に行ってるのかね」
「あの国は謎が多いがな」
 ダグラスはその目その目を鋭くさせて述べた。
「今度はあの書記長の行方か」
「モスクワ以外に何か首都機能があるとか?」
 キャロルはこう予想した。
「まさかと思うけれどね」
「幾ら何でもそれはねえだろ」
 キャシーはいぶかしむ顔で返した。
「そんなことはな」
「普通はそうだけれどね」
「それでもかよ」
「ソビエトだからね」
 謎の多いその国だからだというのだ。
「実は首都がもう一つあるとかね」
「普通に考えたらカテーリングラード辺りか」
 ダグラスはこの星域の名前を出した。
「そこか?」
「いや、それがね」
「違うかも知れないってのかよ」
「明石大佐やハニートラップも不思議に思ってるよ」
 キャヌホークと同じく諜報畑の二人もだというのだ。
「カテーリン書記長の行動にはおかしなことが多いってね」
「そうね、確かにね」
 ハンナもここで言う、見れば彼女はお好み焼き定食を食べている。
「そもそもあの書記長はまだ子供よ」
「ただの子供が急に演説してそれからってね」
 アメリカ妹も首を傾げさせながら言う。
「有り得ないよね」
「普通はないぞ」
 アメリカも言う。
「街で演説して急にだからな」
「あっという間にロマノフ朝を国から追い出してね」
「そして今に至るなんてな」
「普通はないからね」
 無論これはガメリカでもである。
「十代の国家元首はいてもね」
「あの娘は十歳にもなっていない筈だぞ」
「最初は首相のあの娘と秘密警察長官のミール=ゲーペだけだったからね」
 それでグルジアの片田舎で演説をはじめて瞬く間にだったのだ。
「有り得ないね」
「そうだな」
「それなんだよ、それ自体がわからないんだよ」
 キャヌホークはアメリカ兄妹に語る。
「あの娘は考えてみたら謎だらけなんだよな」
「ソビエト戦は色々ありそうだな」
 ダグラスはここまでの話を聞いて呟いた。
「東郷長官とも色々打ち合わせして進めていくか」
「忌々しいけれどそれが一番ね」
 キャロルはその顔をむっとさせながらも言った。
「あの長官ともじっくり話して進めていこうね」
「キャロルは相変わらずあの長官が嫌いなんだね」
「そうよ、理由は妹ちゃんの知ってる通りよ」
 アメリカ妹にもこう返す。
「そういうことよ」
「そういうことだね」
「とにかく今度はソビエトよ」
 キャロルはその相手のことを言う。
「共有主義は何とかしないとね」
「さもないとやられるのはこちらだからね」
 ハンナが最後に述べる、ガメリカ組はそうした話をしながら和食を食べていた。箸にも結構慣れてきていた。
 枢軸側はソビエトのことだけを考えていた、だが。
 ドクツではヒムラーが余裕の笑みを浮かべて表の側近達に話していた。
「エイリスは今回もあっさり負けたね」
「はい、またしてもです」
「南アフリカには侵攻されていませんが」
 表の側近達はヒムラーの表の顔しか知らない、それで表の話をするのだった。
「しかしその反撃は失敗しました」
「植民地奪回作戦は再び練り直しとなりました」
「それ自体はいいよ」
 ヒムラーはエイリスの敗北自体はよしとしていた、だがだった。
「けれど枢軸は勝ち過ぎているね」
「そうですね、確かに」
「連戦連勝です」
「ソビエトとはずっと戦って欲しいけれど」
 それでもだというのだ。
「ひょっとしたらソビエトにもあの調子かな」
「あのソビエトともですか」
「我々が勝てなかったあの国に対しても」
「その可能性性はゼロじゃないね」
 だから問題だというのだ。
「少し問題だね」
「では何か手を打たれますか?」
「ここは」
「間も無くソビエトが枢軸に宣戦を布告する」
 連合側には待ちに待ったことである。今やソビエトが連合の最大勢力であり主力であるからだ。エイリスは既にその座から落ちている。
「そして満州に侵攻するけれど」
「それに対してどうされますか」
「援軍を向けられますか」
「そうされますか?」
「ははは、援軍はもう送ってるじゃないか」
 ヒムラーは援軍の追加のことは一笑に伏した。
「もうね」
「では援軍はない」
「その追加は」
「しないよ」
 はっきりと言い切った。
「それはね」
「ではどうされるのですか?」
「実は面白いつてがあってね」
 ヒムラーはその少し見ただけでは整っている顔に思わせぶりな笑みを浮かべて語る。
「海賊だけれど」
「海賊、ですか」
「そう、レッドファランクスというね」
 出したのは海賊だった。
「その海賊達を使おうって思ってるんだよ」
「海賊、ですか」
「そう、彼等を雇って枢軸を攻めさせるんだよ」
 ヒムラーはこの策を出した。
「そうするよ」
「海賊を傭兵として使いますか」
「そうされますか」
「つまりソビエトに正面から攻めさせて」
 そしてだというのだ。
「その側面を撹乱させるんだよ」
「そのうえで枢軸を消耗させる」
「そういうことですね」
「そう、これには枢軸も苦戦するよ」
 敵が一つではないならというのだ。
「消耗してくれるよ」
「では、ですね」
「そのうえで」
「俺達は同盟相手を応援させてもらうよ」
 言葉で、というのだ。
「大切な友人達をね」
「そしてやがてはですね」
「我々が」
「何も正面きって戦う必要はないんだよ」
 実にヒムラーらしい考えである、常に正攻法を念頭に置き成功に導くレーティアとはそこが決定的に違っていた。
「戦ってもらってもいいんだよ」
「親しい友人に内裏として」
「そうしてもですね」
「まあそこは要領だよ」
 まさにそれだった。
「じゃあ皆には頑張ってもらおう」
「では総統、今から海賊にですね」
「連絡を取られますね」
「そうするよ」 
 ヒムラーは早速テーブルにあるホットラインに手を伸ばした、そのうえで彼の為に手を打ったのである。あくまで彼の為に。


TURN93   完


                             2013・3・8



まずは順調に勝ちを取ったか。
美姫 「エイリスは撤退したわね」
ソビエト戦も見据えて平賀たちは開発しているし。
美姫 「ソビエト戦も間近ね」
で、例によってヒムラーは暗躍するみたいだな。
美姫 「今はまだ表には出ずに裏でコソコソって感じね」
何を企んでいるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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