『ドリトル先生の来日』




                第二幕  日本という国を

 晩御飯が出来るまでの間です、王子はテーブルに座ってそのうえで先生達ににこにことして今の留学先である日本のことをお話するのでした。
「僕は今神戸にいるんだ」
「神戸?」
「神戸って?」
「日本の兵庫県っていう場所にある大きな街だよ」
 こう動物達に答えます。
「海が近くにあってとても綺麗な街だよ」
「ロンドンよりも?」
「綺麗なの?」
「ロンドンとはまた違う街だよ」
 そうした綺麗さだというのです。
「ビルや家もあるけれど」
「木の家はもうかなり少ないらしいね」
 先生は王子にこのことを尋ねました。
「そう聞いているけれど」
「うん、あまり見なかったよ」
「そうなんだね」
「石造りの家もないよ、壁はそうだけれどね」
「成程ね」
「ただ、家の壁を低い木でしていたり柵をそうしていたりとかは」
「そこはイギリスと同じ、いや」
 言いながらです、先生は気付いてこう言葉を変えました。
「我が国の影響を受けたのかな」
「そうそう、洋館っていうかこっちの家みたいなのも多かったよ」
 ここでこう言う王子でした。
「そうなってるよ」
「洋館だね」
「日本ではそう呼ばれているよ」
 日本にはそうした家もあるというのです。
「僕は今丁度そこに住んでいるんだ」
「日本、その神戸にある洋館に」
「居心地がいいんだ、これがね」
 王子はにこりとして先生達にこのことをお話します。
「凄くね」
「この家よりもかな」
「そうだね、イギリスの家よりもいい感じだよ」
「あれっ、日本のお家って確か」
 ここで、です、ホワイティがあることを思い出して王子に言ってきました。
「狭いんじゃ」
「兎小屋とか言われていなかったかしら」 
 トートーもこう言います。
「それはどうなの?」
「確かにあまり広くはないよ」
 王子もイギリスや自分のお国の家のことから日本のお家について、今はその広さについてお話します。動物達に答えて。
「日本のお家はね、兎小屋っていう程じゃないけれどね」
「やっぱり狭いんだね」
「日本の家はそうなんだね」
「うん、日本人の体格もイギリス人に比べて少し小さい感じでね」
 王子はこのこともお話します。
「大体僕と同じ位の人が多いね」
「じゃあ一七〇を少し超えた位の人が多いかな」
 先生は王子を見つつ言います。王子はイギリスにいる間はあまり大きくない感じでした。
「それ位かな」
「もっと小さい人も多いけれどね」
「そんなところだね」
「日本人の体格や生活には丁度いい大きさかな」
 王子は日本のお家の広さについて今度はこう答えました。
「少なくともアメリカの家とは全然違うよ」
「何か暮らしにくそうだね」
「ところがそうじゃないんだ」
 ジップの今の言葉にはすぐにこう返すのでした。
「これがね」
「暮らしやすいの?狭いのに」
「部屋もお家全体もよくまとまっててね」
「暮らしやすいんだ」
「うん、そうなんだ」
 それが日本のお家だというのです。
「これがね」
「畳とかはあるのかしら」
 ポリネシアは日本についての知識から尋ねました。
「あの草か何かで作るっていう」
「僕の家にはないよ」
 王子は畳についてはこう答えます。
「洋館にはね」
「そうなの」
「洋館はイギリスのお家に近いかな、いやフランスも混ざってるかな」
 そうした感じだというのです。
「まあヨーロッパのどの国って感じじゃないけれど」
「ヨーロッパをイメージしてるのね」
「そうしたお家なのね」
「そうだね、そんな感じだね」
 それが日本の洋館だとです、王子は皆にお話します。
「日本人の思うヨーロッパだね」
「ううん、どんなのかな」
 先生は王子のお話を聞いて首を傾げさせます、洋館のことを聞いてもそれがどういったお家なのかわからないからです。
 けれど外観はヨーロッパ、イギリスやフランスのお家の感じと聞いてこう言うのでした。
「三角の屋根で煙突があって白い壁、それに緑と花のお庭があるのかな」
「そうだよ、煉瓦でね」
「外は大体想像がつくよ」
「中もイギリスのお家に近いよ、ただ靴は脱いでお家の中に入るから」
「玄関だね」
 先生も日本のお家についてある程度の知識があります、そのことからこう答えるのでした。
「そこで靴を脱いでお家の中に入るのが日本のお家だね」
「そうなんだ、お家の中ではスリッパを履くから」
「そこはイギリスとは違うね」
「そう、あとおトイレとお風呂は別のお部屋だよ」
 そこも分けられているというのです。
「またね」
「そのことも聞いているけれど」
「そうそう、お風呂がいいんだよ」
 王子はここでその目の輝きを強くさせました、そのうえでお風呂のお話をするのでした。
「ここはイギリスのよりも広くてね、シャワーとかもよく出るしお湯も温かくて」
「いいお風呂なんだね」
「お水もいいよ」
「日本のお水はいいらしいね」
「日本の水は飲んでも美味しいんだ、これが」
「イギリスのお水は硬水でしかもあまり多くないからね」
 先生はこのことは少し残念そうにお話します。
「日本はそのいいお水が沢山あるそうだね」
「だからお風呂に入る時も身体を洗って泡をシャワーから出るお湯で注ぎ落としてから身体を拭くんだよ」
 イギリスでは泡はそのままにして身体をタオルで拭きます、泡はシャワーで注ぎ落とすことはしないのです。
「食器だって泡をお水で洗い落とすんだ」
「へえ、日本ってそうなんだ」
「泡はそのままにしないんだ」
「随分贅沢なお水の使い方だね」
「そうよね」
 動物達は王子のそのお話を聞いて目を丸くさせて言うのでした。
「しかもおトイレとお風呂が別々って」
「何か不思議な気分よね」
「イギリスではどのお家も一緒だから」
「そのことも」
「それが日本みたいだよ」
 おトイレとお風呂が別々になっているのが、というのです。
「どうやらね」
「そうなんだ」
「随分変わってるね」
「むしろ日本人はそっちの方を嫌がるよ」
 おトイレとお風呂が一緒の部屋にある方がです、日本人は嫌がるというのです。
「何で一緒なのかってね」
「いや、そっちの方がおかしいけれど」
「日本人って変わってるよ」
「僕達から見ればね」
「かなり」
 動物達は皆王子のお話に首を傾げさせて不思議そうな顔をしています、先生も既に知っていますが実際にお話を聞いて好奇心を掻き立てられています。言葉に出しませんが。
 その先生達を見つつです、王子はさらにお話します。
「そうそう、街に行けば色々なお店があってね」
「日本人って色々なもの食べるんだよね」
「生のお魚とかお肉とか」
「あと天麩羅っていうフライみたいなのとか」
「お蕎麦っていうヌードルも」
「すき焼きもだね」
「皆食べたよ」
 王子はお料理のこともです、皆ににこりと笑ってお話します。
「あとお寿司もね」
「あれは私も食べたことがあるよ」
 先生はお寿司の話が出るとすぐにこう王子に言いました。
「ロンドンに仕事で行った時にね」
「あっ、ロンドンのお寿司は本場のとはまた違うよ」
「本場のお寿司は違うんだ」
「全然違うよ、山葵も凄く効いていて」
「あの緑色のとても華にくる香辛料だね」
 先生は山葵のことを思い出して複雑な顔になりました。
「あれを最初味わった時は大変だったよ」
「ロンドンのお寿司にも入っていたんだ」
「うん、鼻が一瞬でつんときてね」
 先生は左手で自分のお鼻を押さえつつ言うのでした。
「それがすぐに消え去って」
「それがだね」
「日本のお寿司じゃずっと凄いから」
「大変そうだね」
「それが凄く美味しいんだ」
「味が違うんだね」
「御飯もお魚も違うんだよ」
 イギリスのものとはというのです。
「もう本場のお寿司を食べたらイギリスのは食べられないね」
「まあイギリスは食べものはね」
 先生もよく知っていることです、イギリスのお料理はといいますと。
「評判がよくないからね」
「カレーライスもビーフシチューも日本のものの方がずっと美味しいよ」
 王子はイギリス料理、日本で食べられるそれについてもお話します。
「あと中華もハンバーガーもね」
「どれもだね」
「そうそう、スパゲティやピザも」
 イタリア料理もだというのです。
「日本の方が美味しいんだ」
「紅茶もかな」
 チーチーはイギリスの代名詞はどうかと尋ねました。
「ひょっとして」
「正直に言っていいかな」
「うん、是非共ね」
「日本の方がお水がいいからね」
 答えはもうここに既にあります、しかし王子はさらに言うのでした。
「美味しいよ、日本の紅茶の方が」
「うわ、紅茶でも負けてるんだ」
「勿論ティーセットもクッキーとかビスケットもね」
 お菓子もだというのです。
「日本の方が美味しいよ」
「食べものは日本の方がずっといいんだね」
「大阪、僕が住んでいる街の隣の街に行くとね」
 今度は大阪のお話もする王子でした。
「安くて美味しいお店が一杯あるよ」
「大阪にはだね」
「そう、凄く楽しい街だよ」
 大阪についてもです、王子はにこにこと目を輝かせてお話をします。
「たこ焼きだってあるし」
「たこ!?」
「日本人ってたこも食べるんだ」
 動物達は日本人が蛸を食べると聞いて驚きの声をあげます、動物達はこのことについては誰も知らなかったのです。
「あんなの食べられるんだ」
「びっくりしたわ」
「いや、蛸はフランス人やイタリア人も食べるよ」
 先生は蛸についての知識があります、それでこう動物達にお話するのです。
「烏賊もね」
「どっちも食べられるんだ」
「あんなに気持ち悪いのに」
「足が何本もあってぐにょぐにょしてて」
「物凄くまずそうなのに」
「食べるのね」
「どっちも、特に蛸は凄く美味しいよ」
 そのたこ焼きについてです、王子はこう動物達に言います。
「これがね」
「そんなに?」
「そんなに美味しいんだ」
「たこみたいなのが」
「いかも」
「だからどっちも凄く美味しいんだ」
 そうだとです、また答える王子でした。
「僕は特に蛸が好きだよ」
「そのたこ焼きがだね」
「先生も一度食べたらいいよ、あとお好み焼きっていうのもあって」
 王子はにこにことしてお話を続けていきます。
「もうこれがよくて、焼きそばっていうヌードルもよくてね」
「日本人って本当に色々食べるね」
「何かイメージと違うね」
「生のお魚とか天麩羅だけじゃないんだ」
「その他のもなんだ」
「それに服もね。女の子のスカートはイギリスと同じ位短くて可愛い娘が物凄く多いんだ」
 王子は今度は女の子のお話をはじめました、先程までとはまた変わった目の輝き方を見せています。
「黒髪の娘に髪の毛を色々に染めた娘がいてね」
「王子さんも人気あるのかな」
 ここでガブガブはふとこんな言葉を漏らしました。
「そうなのかな」
「うん、僕いつも女の子にもてもてだよ」
「それはいいことだね」
「日本人以外の人も多い学校で街でね」
 王子が今留学している学園も神戸もそうだというのです。
「イギリス人も結構いるよ」
「へえ、そうなんだ」
 先生はこのことにも目を丸くさせました。
「それはまたね」
「いいよね」
「イギリス人がいてくれると嬉しいね」
 日本にもとです、博士はこのことには顔を綻ばせます。
「とてもね」
「皆楽しくやってるよ」
「日本でだね」
「うん、日本の文化にも楽しんでるよ」
「そうそう、日本の文化もいいね」
 先生は学者さんです、だから日本の文化についても興味を見せて言うのでした。
「アニメに漫画、それに歌舞伎に浄瑠璃に能にね」
「歌舞伎とかは京都だね」
「日本の街だね」
「うん、その街に行くとよく舞台をしているから」
 そこに行くと、というのです。
「いいよ」
「一度観てみたいと思ってるんだ」
 先生はこう王子に言います。
「実はね」
「そうだね、それじゃあ」
 歌舞伎とかのお話をしてからです、王子は壁の時計をちらりと見ました。そのうえでテーブルにいる皆にこう言いました。
「時間だよ、晩御飯が出来るよ」
「よし、待ってました」
「じゃあシェフの人のお料理をね」
「今からね」
 楽しもうとです、まず動物達が楽しそうな声で言います。
 先生もです、にこにことしてこう言います。
「王子のシェフのお料理は久し振りだからね」
「楽しみなんだね、先生も」
「美味しいものを食べられるに越したことはないよ」
「そうだよね、じゃあね」
「うん、今からね」
 その王子のシェフの人が作ってくれたお料理を皆で食べることになりました。そうして持って来られたものはといいますと。
 お鍋でした、大きなお鍋に薄く切られた牛肉が一杯入っています、その他には。
 四角く切った白いものに薄灰色から茶色くなっていくヌードルみたいなもの、切られた葱に茸、それと何かスポンジみたいなものも入っています。鍋の色は全体的に黒いです。
 このお鍋は何か、先生は一目見て言いました。
「すき焼きだね」
「そうだよ、これがね」
 そのすき焼きだとです、王子も答えます。
「さっきもお話に出たけれど」
「これがだね」
「白いのはお豆腐だよ」
 まずは白いものは何かとお話する王子でした。
「ヌードルみたいなのは糸蒟蒻なんだ」
「日本の食材だね」
「蒟蒻芋っていうものから作るらしいんだ」
 王子はこのこともお話するのでした。
「それで茸はシメジや舞茸だよ」
「ふうん、茸もなんだ」
「茸も入っているんだ」
 動物達はそのすき焼きを見つつ言います。
「ソースのお鍋の中に」
「そういうのも入れるんだ」
「これはソイソースだよ」
 今度はお鍋を黒くしているもののこともお話されるのでした。
「日本のソース、大豆から作るソースなんだ」
「日本ではお醤油というそうだね」
 先生はこう言いました、その黒いぐつぐつと煮えているお鍋を見ながら。
「そうだったね」
「そうだよ、日本ではそう言うよ」
「やっぱりそうだね」
「それでね、このスポンジみたいなのはね」 
 実は皆が一番不思議がって見ているもののお話もされます、それは何かといいますと。
「麸っていうんだ、パンの小さいものかな」
「日本ではこうしたのも食べるんだね」
「結構見るよ、それで美味しいよ」
 こう先生にお話します。
「牛肉も一杯あるしね、だからね」
「今から皆でだね」
「これで食べるからね」
 王子はその手に二本の細長い棒を持っています、それは。
「お箸でね」
「ううん、それでなんだ」
 お箸を見てです、先生は難しい顔になって言うのでした。
「僕はお箸はね」
「苦手なんだ」
「日本料理のお店やアジアに行った時に使ったけれど」
 尚先生は日本には行ったことはありません、それで王子のお話にも目を輝かせていたのです。その未知のことを聞くことに対して。
「難しくてね」
「慣れだよ、これも」
 見れば王子は上手に使っています、そのお箸を。
「だから使っていればね」
「僕も出来るかな」
「すぐに出来るよ、それと日本のお料理だから」
 見れば持って来られたのはすき焼きだけではありません、それぞれのお椀に盛られた白い御飯もあります。
「主食はこれだよ」
「お米だね」
「そうそう、日本人の主食はそれだったね」
「アジアではそうなんだよね」
「パンじゃなくて」
「これがまたいいんだよ」
 御飯もだとです、王子は左手にその御飯が入ったお椀を持ちつつ言います。
「すき焼きに合うんだ」
「ではね」
 それではとです、博士は用意されているそれぞれのお椀に。
 お肉や糸蒟蒻を入れて動物達の前に置きます、そのうえで言うのでした。
「今から食べようか」
「うん、それじゃあね」
「すき焼きを食べようね」
 皆先生に応えてそうしてでした。
 皆ですき焼きを食べます、ジップは犬なのでお葱は最初からお椀に入れられていません、先生もわかってそうしました。
 そのうえで皆で食べている時にです、王子はお箸を使いながらそのうえで先生達にこう言ってきたのでした。
「それで移住のことだけれど」
「そのことだね」
「僕は今神戸の八条学園ってところに留学してるんだ」
 再び神戸のお話になるのでした。
「そこのお医者さん、医学部の教授の席が一つ空いているんだ」
「教授の」
「よかったらどうかな」
 王子は先生のお顔を見ながら尋ねます。
「医学部の教授にね」
「僕が教授になるんだ」
「そうだよ、博士から教授にね」 
 なるとです、王子は先生にお話します。
「どうかな」
「けれど僕は」
「イギリス人だからだね」
「日本の大学にはね」
「日本語喋れるよね」
「一応はね」
「じゃあ問題ないよ、僕が推薦するし」
 王子がだというのです。
「先生をね」
「それは有り難いね」
「じゃあ今から日本に行く?」
「いや、すぐにという訳にはいかないよ」
 それはとです、先生は王子にすぐにこう答えました。
「皆のことがあるから」
「私達のこと?」
「そうよね」
「うん、そうだよ」
 こうポリネシアとダブダブに答えま。
「君達も一緒に来るよね」
「先生が行くのならね」
「いつも通りね」
「月まで行ったじゃない」
「他の色々な場所にも」
 皆は先生に言います、例え火の中水の中というのです。
「だからね、日本にもね」
「一緒に行くよ」
「そうだね、それじゃあね」
「ううん、日本には飛行機ならすぐだけれど」
 王子はすき焼きを食べつつ皆の話を聞いて言うのでした。
「動物も飛行機に乗ることは出来るよ」
「けれどだね」
「うん、荷物扱いになるよ」
 王子は先生にこのことをはっきりと告げました。
「そうなるからね」
「そうだね、だからね」
 先生は皆を見回してから王子に答えます。
「そんな風に行くなんて皆が可哀想だよ」
「檻の中に入れられて暗くて寒い場所に入れられるんだよね」
 王子はこのことも言いました、どういった場所に入れられて日本に行くかということも。
「それはね」
「ううん、それはちょっと」
「先生と一緒じゃないと」
「寂しいし檻の中に入るなんて」
「絶対に嫌だよ」
「勘弁して欲しいね」
「そうだね、皆そう言うと思ったよ」
 王子も皆がそう思っていると考えていました、それで皆がこう答えたことに納得して頷いてそのうえでまた言うのでした。
「当然だね」
「僕一人だったらどうにかなるよ」
 先生は王子にこのこともお話しました。
「けれど僕は一人じゃないからね」
「家族がいるからね」
「そう、皆がね」
 先生にとって皆はまさに家族です、先生は奥さんも子供もいませんがそれでも家族は一杯いるのです。それで王子にも言うのです。
「だから皆が一緒じゃないと」
「日本にも来られないんだ」
「絶対にね」
「飛行機が無理だとすると」
「イギリスは島国だしね」
「車では無理だからね」
「アフリカに行った時みたいに船で行くことになるね」
 王子は飛行機が駄目ならです、海からになるというのです。
「そうなるね」
「そうだね、船だね」
「それなら動物が普通にいてもいい船もあるし」
 それならというのです。
「それならね」
「うん、そっちも僕が手配しようか」
 王子は先生達にこのことも切り出します。
「船のこともね」
「何か何でもしてくれるね」
「だって先生にはよくしてもらってたからね」
 イギリスにいる頃にです、王子は先生といつも一緒にいてよくしてもらっていました。そのことを恩義に感じているのです。
「だからこれも当然のことだよ」
「そう言ってくれるんだね」
「勿論だよ、先生の為なら僕もね」
 王子もだというのです。
「何でもするよ」
「悪いね、そう言ってもらって」
「いいよいいよ、先生と僕の間じゃない」
 親しいからというのです。
「気にしないでいいよ」
「日本に行くのならだね」
「船でね、皆と一緒にね」
 行けばいいというのです。
「そうすればいいよ」
「船旅に日本までだね」
「それもいいよね」
「船旅って楽しいし」
「それじゃあね」
 動物達もです、その話を聞いてです。
 それぞれ笑顔になってです、こうそれぞれ言うのでした。
「先生と一緒にいられるし」
「僕達はそれでいいよ」
「日本がどんな国か凄く興味が出たし」
「それならね」
 皆日本に行くこともいいと言うのでした、そして。
 先生もです、こう王子に答えます。
「日本語も喋れるし、そこに仕事があるのなら」
「いいんだね」
「イギリスにいても仕事がないからね」
 このことが一番大きな理由でした、先生にしても御飯を食べないといけません。勿論動物達もそのことは同じです。お仕事がないと食べることは出来ないので。
「それじゃあ」
「日本の八条大学医学部教授にね」
「僕が教授っていうのも」
 このこともだと言う先生でした。
「凄いね」
「いや、先生なら教授になれるよ」
 イギリスでは教授はとても尊敬される職業です、だから先生は驚いていますが王子はその先生に笑顔で言います。
「その資格がね」
「そうかな」
「そうだよ、あるよ」
 王子は先生ならと答えます。
「お医者さんとしてもね」
「そうなんだ、じゃあ」
「決めたら言ってね、僕に」
 王子はまた先生に言いました。
「大学の理事長さんにお話するから」
「それでだね」
「先生は日本で教授になるからね」
 こう先生に言う王子でした、そして。 
 すき焼きについてもです、笑顔で言うのでした。
「どうかな、すき焼きは」
「こんなに美味しいお肉の食べ方があるんだね」
 博士は驚きと共に王子に答えます。お箸の使い方には苦労していますがそれでもです。
「お醤油はいいものだね」
「そうなんだよね、お醤油は日本の調味料だけれど」
「確か中国から出たものだね」
「アジアの調味料だね」
「うん、そうなるよ」
 先生はお醤油について笑顔でお話します。
「ただ、このお醤油は多分」
「多分?」
「大豆から出来ているから」
「お醤油は大豆から作るものじゃないの?」
「お魚から作るものもあるんだよ」
「へえ、そんなのもあるんだ」
「ナムプラーといってね、ベトナムやタイで使われているよ」
 先生は王子にそうしたお醤油のことも話すのでした。
「美味しいらしいよ、匂いは凄いけれど」
「このお醤油もかなり変わった匂いだよ」
「イギリス料理にはない味だよ」
「こんな匂いもあるんだね」
 動物達はすき焼きからする様々な匂いの中からお醤油の匂いを嗅いで博士に言います。
「かなり新鮮な感じだね」
「そうだね」
「この味はいいね」
 博士はもうお醤油の味に魅了されています、そのうえでの言葉です。
「匂いも気に入ったよ」
「お醤油がいけたらね」
 それならと言う王子でした。
「日本では大丈夫だよ」
「それはどうしてかな」
「日本人はあらゆるお料理にお醤油を使うんだ」
「それが和食の基本なんだね」
「そうなんだ、本当に何にでも使うから」
 だからだというのです。
「お醤油がよかったらいけるよ」
「それじゃあ僕は日本で大丈夫かな」
「いけるよ、他にも一杯美味しいものがあるから」
 またこのことをお話する王子でした。
「安心してね、あとお味噌もあるから」
「それも日本の調味料だね」
「これがまた美味しいんだよ」
 お味噌についてもお話する王子でした。
「楽しみにしていてね」
「返事はすぐにするからね」 
 先生は笑顔で王子に返事のことも言います。
「王子はどれ位イギリスにいるのかな」
「三日ね」
 それだけイギリスにいるというのです。
「それからすぐに日本に戻るんだ」
「三日だね」
「三日の間に返事をしてね」
「うん、わかったよ」
 先生は王子とお話しました、そしてでした。
 王子が帰ってからです、皆にこう言います。
「皆はそれでいいんだね」
「うん、先生の決めたことについていくからね」
「いつも通りそうするから」
「先生が日本に行くのなら僕達も日本に行くよ」
「そうするよ」
「そうか、皆が言うのならね」
 それならとです、先生も答えます。
 それで、です。こう皆に言うのでした。
「僕もね」
「日本に行くんだね」
「そうするんだね」
「折角の仕事だしいい国みたいだから」
 それでだと言う先生でした。
「日本に行こうか」
「そこで楽しく暮らそうね」
「そうしようね」
 動物達も笑顔で答えます、老馬とオシツオサレツも先生に日本に行くかどうか厩で尋ねられてこう答えるのでした。
「先生が決めるのなら」
「僕達も反対しないよ」
 オシツオサレツは頭の一つから言います、見ればオシツオレサツは身体の前後に頭がある不思議な山羊です。
「それじゃあね」
「日本に行こうね」
「よし、君達もいいんだね」
 先生は二人も話も聞いて笑顔で答えるのでした。
「じゃあ後は」
「トーマスだよね」
 老馬がここで先生に先生の助手でもある男の子の名前を出しました。
「彼がどうするかだね」
「ううん、そういえば最近トーマスは」
「仕事がないからね」
「うちに仕事がないからね」
 だから彼も仕事がないのです。
「医学部で勉強してるよ」
「今十九歳だよね」
「そうだよ」
「成程、じゃあ学費とかどうなのかな」
「大変みたいだよ、アルバイトもしてるけれど」
 それでもだというのです。
「お金のやり繰りが大変みたいだよ」
「そうなんだ」
「明日聞いてみようかな」
 先生はトーマスについてはこう言いました。
「彼本人にね」
「先生が日本に行くならだね」
「どうするか」
「うん、本人に聞かないとね」
 それから決めないといけないというのです。
「皆にそうしているみたいね」
「じゃあね」
「明日トーマスに聞いてみようね」
「そうするよ」
 老馬とオシツオサレツとはこうお話をしました、とりあえずお家の動物達は皆賛成してくれてそちらは問題ありませんでした。
 そして次の日です、先生は病院にそのトーマス=スタビンズを呼びました。見事な金髪に青い目の男の子です、背は先生よりずっと高いのっぽなハンサムさんです。
 靴屋の息子さんで昔は先生のお家に泊まり込みで助手をしていました、今は実家に戻って大学に通いながら先生のお手伝いをしています。 
 そのトーマスにです、先生は昨日王子に言われたことと動物達とお話したことを彼にもお話したのです。
「トミーはどうするのかな」
「日本ですか」
「うん、僕達は日本に行こうかなって思ってますけれど」
「そうなんですか」
「トミーは留学は」
「興味はあります」
 トーマス、トミーは笑顔でこう先生に答えます。
「実は」
「日本はどうかな」
「いい国らしいですね」
「そうらしいよ、王子が言うにはね」
「そうですか、実は大学の方で留学の話が出ていまして」
 トミーはここで先生にこのことを打ち明けます。
「日本に行くかどうかも」
「ああ、丁度いいね」
「そうですね、神様が用意してくれたんですかね」
「そうかも知れないね」
 先生はトミーの話に笑顔で応えました。
「丁度いいね、じゃあ日本に一緒に来るかい?」
「ただ、お金が」 
 トミーはここで困った顔になりました、その顔で先生にお話します。
「今も家の仕事も手伝って時間があると働いていますけれど」
「それでもなんだ」
「学費を用意するのが大変で」
 それでだというのです。
「日本に行くのも」
「ううん、それじゃあ」
「お金が第一ですからね」
 このことはどの国でも同じです、イギリスでも。
「どうにかなればいいですけれど」
「王子はまた違うからね」
 一刻の跡継ぎです、ですから国からお金が出ているのです。ですがトミーは普通の靴屋さんの息子さんなので。
「自分の家で何とかしないといけないね」
「日本に行くとなると高いですね」
「大学でお話してみるかい?そのことも」
「そうですね、それじゃあ」
 トミーはこう言ってです、すぐにその足で大学に向かいました。先生はトミーの背中を心配そうに見送ってから動物達に言いました。
「トミーも一緒じゃないとね」
「そうそう、いつも一緒だから」
「南米に行った時からね」
 動物達もこう先生に言うのでした。
「トミーまでいないと」
「僕達も寂しいよ」
「どうにかなって欲しいね」
 先生は不安な顔でこうも言います。
「僕達だけで日本に行ってもね」
「寂しいよ」
「完全じゃないよ」
「トミーも家族だからね」
「今は別々に暮らしてるけれど」
「うん、神様にお願いしようか」
 先生はここでも神様のことを思うのでした。
「そうしようか」
「こうしたことだけは神様しかどうにか出来ないからね」
「人間の巡り合いとかは」
「人間は偉くとも何ともないんだよ」
 これは先生の考えです。
「他の動物達と一緒だよ、神様の前ではね」
「ほんの小さなものだよね」
「どの生きものも」
「そうだよ、皆一緒なんだよ」
 先生は人間だけが偉いとは考えていません、そして人間の間にも誰が偉いとかいう考えも全くないのです。
「髪の毛や肌や目の色、仕事で決まらないよ」
「決まるのは心だね」
「心で決まるんだよね」
「そうだよ、全部ね」
 人間はそれで決まるというのです。
「人間は心だよ」
「そうよね、偉い人でも悪い人はいるし」
「先生みたいな人もいるから」
「僕なんて全然偉くないよ」
 先生は自分で自分のことをこう思っているのです。
「仕事も来ない、お金もないのに」
「本当に皆神様の前だと小さいね」
「一緒のものだね」
「そのことを忘れたらいけないんだよ」
 皆にこうも言う先生でした。
「神様が全てを動かされてるんだよ」
「じゃあトミーのこともだね」
「神様次第だね」
「神様がどうしてくれるか」
「そういうことだね」
「ちょっと教会に行って来るよ」
 先生はこう皆に言いました。
「トミーも一緒に来てくれることをね」
「わかったよ、じゃあ僕達が留守番してるから」
「行ってらっしゃい」
 先生は皆に見送ってもらってこの日は教会でトミーのことをお祈りしたのでした、そして次の日にでした。
 トミーは病院に来ました、それで先生と皆に笑顔でこう言います。
「先生、朗報だよ」
「それじゃあ」
「うん、試験を受けてね」
 そのうえでだというのです。
「奨学金も貰えるんだって」
「それはいいことだね」
「留学もね」
 そのこともだというのです。
「試験を受けて合格したらね」
「貰えるんだね」
「奨学金は今も貰ってるのがあるけれど」
 それでも日本に留学するには足りないのです、その奨学金だけでは、
「それも貰えたら」
「トミーも日本に来られる」
「それで日本の何処なの?先生が教授になれる大学は」
「神戸の八条大学というところだよ」
「ふうん、八条大学ねえ」
「知ってるかい?」
「いや、日本の大学はあまり知らないんだ」
 トミーはこう先生にお話します。
「日本がどんな国かもね」
「じゃあ日本のことについて勉強する為にもいいね」
「知らないのなら勉強する、だね」
「そうだよ、知らないことなら勉強するといいんだよ」
 それだというのです。
「じゃあね」
「それなら日本に留学することは」
「知らないことを勉強する為にもいいね」
「僕の方も試験に合格するから」
 奨学金と留学のことをだというのです。
「ちょっと待っててね」
「日本に来るんだね、トミーも」
「試験に受かったらね」
「じゃあ後は勉強だね」
「先生はすぐに日本に行くんだね」
「そうなるよ、今にでもトミーに返事をするつもりだから」
 そのお話を受けるという返事をです、先生はもう決めているのです。
「待っててね」
「よし、じゃあ日本で会おう」
「絶対に試験に受かるからね」 
 トミーは先生に笑顔で答えました、そしてなのでした。
 トミーとのお話の後で、です。先生は王子に電話を入れました。そのうえでどうするのかをお話するのでした。
「そのお話受けさせてもらうよ」
「そうなんだ、それじゃあ」
「うん、喜んでね」
「嬉しいよ、僕も」 
 王子は電話の向こうで楽しそうな声で先生に応えます。
「博士がそう決めてくれてね」
「じゃあ日本でだね」
「理事長さんには今すぐ僕からお話をするから」
 先生のお仕事もことをだというのです。
「もう決まりだよ」
「日本での生活はどんなのかな」
「それは来てみてのお楽しみだよ、それでもね」
「それでも?」
「絶対に悪いことにはならないよ」
 日本に来ればというのです。
「一昨日のすき焼きもあるしね」
「あれは凄く美味しいね」
「他にも美味しいものが一杯あるから」
「そのことも楽しみにしているよ」
「景色も綺麗で四季があって皆明るくてね」
「あれっ、日本人はもの静かで謙虚と聞いているけれど」
 先生がこれまで会った日本人もです、そうした人達だったので王子に明るいと言われても何か違うと思ったのです。
「明るいんだ」
「関西はそうなんだ、僕が住んでいるところはね」
「地域によって気質が違うんだね」
「イギリスと同じでね、特に大阪が面白いよ」
「大阪、王子が言っていた街だね」
「あそこは凄いよ、もう賑やかで派手好きで」
 先生がイメージしている日本とまた違うというのです。
「黒と黄色ばかりなんだ」
「黒と黄色だね」
「そう、野球が凄く人気があって」
「ベースボールだね」
「イギリスでも最近している人がいるよね」
「少しだけれどね」
 その野球がというのです。
「日本じゃ凄い人気でね」
「黒と黄色がカラーのチームもあるんだね」
「凄いよ、そのチームは」
「人気が凄いんだね」
「もう街全体、いやその地域全体がファンなんだよ」
 そのチームのだというのです。
「阪神タイガースっていうんだけれど」
「虎だからな黒と黄色なんだね」
「そうなんだ、僕も野球観戦をはじめたけれど勝っても負けても面白いチームだよ」
「普通はスポーツチームは勝たないと面白くないけれどね」
 このことはイギリスでも同じです、スポーツマンシップを守ってそのうえで勝たないとです。
「そのチームだけは別なんだ」
「阪神タイガースはだね」
「そのチームもあるからね」
「ふうん、スポーツにはあまり興味はないけれど」
 先生は学生時代はスポーツはあまり得意ではありませんでした、サッカーはあまり観ませんでしたしラグビーやラクロス、ポロなんかもしません。時々老馬に乗せてもらう位です。
 ですが王子のお話を聞いてです、こう言うのでした。
「一度観てみようかな」
「うん、日本でね」
「さて、じゃあね」
「今から用意をするんだね」
「そうするよ、急いで移住の用意を整えるからね」
「すぐに日本に行くんだ」
「まだ王子の方で手続きがあるけれどね」
 その辺りは王子任せです、それでもです。
 王子も大学の理事長さんにお話すると約束してくれています、先生が日本に行くことはもう決まっているのと同じです。
 だからです、先生もなのです。
「今からね」
「移住の準備だね」
「ビザの用意もしないとね」
 先生は穏やかな声で話します。
「それじゃあね」
「準備をはじめてね、僕も日本に飛行機で戻るから」
 王子はそうするというのです。
「それからすぐに理事長さんにお願いするからね」
「頼むよ、それじゃあね」
 こうして王子との電話でのお話を終えてです、先生は早速移住の準備をはじめることにしました。すぐに皆に言います。
「よし、じゃあね」
「今からだね」
「うん、日本に行く準備をはじめるよ」
 それをはじめると動物達に言ったのです。
「じゃあいいね」
「先生日本に住むんだよね」
 ガブガブが先生にこのことをあらためて尋ねます。
「そうだよね」
「そのつもりだよ」
「じゃあもうここには戻らないの?」
「ううん、どうなるかな」
「お家は日本だよね」
「その辺りもちょっとお話さないといけないかな」
「うん、そうだね」
 このこともお話することになりました、先生が日本に行くまでに色々とやることがありました。まずはそうしたことを全てしてからなのでした。



日本のお話を語っていたけれど。
美姫 「殆ど食べ物だったような気がするわね」
だよな。でも、色々と話を聞いて日本に行く事を決めたみたいだけれど。
美姫 「その前にやる事があるみたいね」
一体何をするのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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