『ドリトル先生の来日』




                 第三幕  日本に来て

 日本に移住してそこで大学の教授として働くことを決めたドリトル先生、しかし日本に行くまでにすることは一杯ありました。
 日本に持っていくものをまとめています、それはどうかといいますと。
「ううん、こうしてみるとうちも多いね」
「そうですね」
 お引越しの手伝いに来たトミーもまとめられた家具や本を見て言います。
「特に本が多いですね」
「家具と本はね」
 そういったものはとです、先生はその太った身体を必死に動かして汗をかきながら一緒に働いているトミーに言うのです。
「絶対に持って行かないとね」
「駄目ですよね」
「旅行とかなら置いて行っていいけれど」
 お家に戻るからです。
「けれど移住するとなるとね」
「こうしたものも全部ですね」
「持って行かないとね」
「そうですね、ただ」
「ただ?」
「テレビとかはどうしますか?」
「確かイギリスのテレビを日本に持って行っても使えない筈だからね」
 だからだというのです。
「それは持って行かないよ」
「そうですか」
「他の電化製品もね」
 テレビ以外のそうしたものもだというのです。
「そういったのは日本で買うよ」
「わかりました、それじゃあ」
「そういったものは全部誰かにあげるよ」
 テレビやそうしたものを全てだというのです。
「トミーもどうかな」
「いいんですか?」
「持っていけないものを置いておいても仕方ないよ」
 だからだというのです。
「好きなものを持って行ってくれていいから」
「買わなくてもですか」
「お金もいいよ」
 先生は欲がありません、だからお金もいいというのです。
「何でも好きなものをね」
「じゃあ後でお父さんとお母さんを連れてきます」
「僕の友達も呼ぼうか、サラも」
 電化製品をあげる人をというのです。
「そうしよう、そうそうティーセットは絶対に持って行かないとね」
「あちらでも紅茶は飲まれるんですね」
「それは欠かせないよ」
 イギリス人だからです、お茶の時間は欠かせません。
「だからね」
「そうですか、日本でもですか」
「紅茶は日本の方が美味しいというね」
 このことは王子に教えてもらったことです、日本の紅茶の方がイギリスの紅茶より美味しいということはです。
「楽しみにしておこうか」
「じゃあティーセットもですね」
「そうするよ、じゃあ」
 ティーセットを丁寧に紙に包んで箱に入れます、箱の隙間に色々と詰めものをして運んでいる最中に割れない様にします。
 それからです、先生はといいますと。
「あとは何が必要かな」
「ダブダブが色々選んでくれてますよ」
「移住するんですから電化製品以外全部持って行きますよ」
 そのダブダブが先生に顔を向けて言ってきます、動物達も皆自分達が出来る範囲で移住の用意をしています。
「食べものは無理ですけれど」
「船に乗るまでに全部食べないとね」
「残ったらどうします?」
「それもあげるよ」
 電化製品と同じ様にというのです。
「そういったのもね」
「そうですか」
「置いていっても腐るだけだからね」
 だからだというのです。
「それは使うよ」
「わかりました、じゃあ」
「さて、船のチケットとビザだね」
 今度はこのことについて言う先生でした。
「そっちの手続きもしないとね」
「兄さん、日本に行くって?」
 ここで来客です、サラです。
「そういえばこの前日本のお話がちらっと出てたけれど」
「うん、そうなったよ」
「まさか本当に行くなんてね」
「僕も思いも寄らなかったよ」
「そうよね、とにかくね」
「とにかく?」
「日本でも元気でね」
 こうお兄さんに言うのでした。
「兄さん一人じゃ何も出来ないけれど」
「僕はそんなに頼りないかな」
「それじゃあ動物達やトミー君がいなくても何でも出来る?」
「そう言われるとね」
 先生も困った顔で返すしかありませんでした、そうしたことについては。
「難しいね」
「ほら、だからよ」
「僕が日本に行っても心配なんだ」
「日本のお水はイギリスのよりずっといいらしいけれど」
 それでもだというのです。
「食べものにあたらない様にしてね」
「そうだね、気をつけないとね」
「大学の先生になるのならちゃんと講義に出てね」
「わかってるよ、そのこともね」
「後は。出来ればだけれど」
「出来ればって?」
「結婚相手も見付けてくれたら」
 このこともです、サラはお兄さんに言うのでした。
「いいけれど」
「ううん、結婚相手だね」
「日本は可愛い娘が多いみたいだし丁度いいわ」
「大和撫子だね」
「あっ、それは伝説みたいだから」
 大和撫子についてはです、サラはすぐに否定しました。
「実際は日本の女の人もイギリスと同じでね」
「元気なんだ」
「多分イギリスの女の子達より元気よ」
「そうなんだ」
「だってイギリスはいつも雨よ」
 雨ですから外に出にくいです、それでどうしても大人しめの娘が多いというのです。
「日本はいつもお外に出られて遊べるから」
「だからなんだ」
「多分日本の女の子はかなり元気よ」
「ううん、元気は女の子は苦手だよ」
 先生は男女交際についても苦手です、世の中のことについては結構疎い先生ですがこうしたことについてもなのです。
「困ったねえ」
「けれど兄さんだって何時かは結婚しないと」
「駄目だっていうんだね」
「そう、日本ではそうした相手も探してね」
「何とか探すよ」
「仕事を用意してもらったし後はね」
 結婚相手だというのです。
「本当にそっちもしっかりしなさいね」
「何か日本でやることは多そうだね」
「多いに越したことないでしょ、暇よりは」
「本を読む時間あるかな」
「それ位あるでしょ、あとはね」
「あとは?」
「ビザとか日本に行く船のチケットとかは?」
 サラもこのことについて言ってきました。
「そっちはどうなの?」
「そうそう、それもちゃんとしておかないとね」
「日本でのお家は?」
「そっちは王子が用意してくれるんだ」
 もう大学教授に内定したとのお知らせも受けています、そしてお家も用意してもらったのです。
「日本にね」
「神戸に、なのね」
「そう、勤務先の学校の傍にね」
 ちゃんと用意してもらったrというのです。
「通勤も楽らしいよ」
「いいお家だったらいいわね」
「アパートかな、動物達も住める」
 先生は街でのお家ということからこう思いました。
「そんなお家かな」
「アパートね、日本のお家は狭いらしいけれど」
「まあ王子だから悪いお家は用意してないと思うよ」
「だったらそのことも安心していいわね」
「多分ね、じゃあね」
「私も日本には興味があるから」
 だからだとです、サラはここでこう言いました。
「時々行きたいわね」
「ああ、来たらいいよ」
「その時に兄さんが誰かと一緒にいたらいいけれど」
「その話にこだわるわね」
「当たり前よ、本当に何時まで独身なのよ」
 お兄さんの顔を見上げてです、サラは少し怒った感じの顔になってそのうえでお兄さんに対して言うのでした。
「いつも動物達の世話とか旅行とかばかり行って」
「結婚しないでっていうんだね」
「そんなのじゃ歳を取ったら大変よ」
「その頃にも動物達に囲まれてるかな」
「奥さんもその中にいる様にしてね」
「とにかく相手も探すからね」
「頑張りなさいね」
 こうしたお話をしてなのでした、サラもお兄さんのお引越しの用意を手伝います。先生はそのサラを見て言いました。
「手伝ってくれるんだ」
「当たり前よ、兄さんの新しいスタートだからね」
「日本に行くからなんだ」
「そう、それに日本に行くまでに時間あるの?」
「まだね」
「けれどよ、トミー君や動物達だけに任せておけないから」
 それでだというのです。
「私もね」
「それでなんだ」
「じゃあいいわね」
 もう服の袖をまくっています、そのうえであれこれと動きながら言うのでした。
「私もね」
「何か皆に手伝ってもらってばかりだね」
「兄さんは放っておけないのよ」
 だから皆来て手伝うというのです。
「うちの主人にも来てもらうから、暇な時にね」
「ご主人にもだね」
「そう、皆でやらないと」
 駄目だとお話してです、そしてなのでした。
 先生は皆に手伝ってもらって日本に移住する用意を進めるのでした、それがあらかた終わった時になのでした。
 王子から電話が来ました、王子が尋ねることはといいますと。
「もうそろそろ準備は出来たかな」
「うん、大体ね」
「そうなんだ、大学の方も家の方もね」
「後は僕が行くだけだね」
「僕はもう日本にいるから」
 だからだというのです。
「そこで待ってるからね」
「何から何まで悪いよ」
「いいよいいよ、先生と僕の仲じゃない」
 だからいいというのです。
「遠慮はいらないよ」
「そう言ってくれるんだね」
「当然だよ、あと日本はね」
「日本で何かあったのかな」
「知ってると思うけれど時々揺れるからね」
 地震があるというのです。
「少し揺れた位じゃ驚かないでね」
「そうだった、日本は地震が多かったんだね」
 イギリスでは殆どありません、それで少し揺れただけで皆大騒ぎになります。先生も地震に遭った経験は殆どありません。
 だからです、王子にも言うのでした。
「大きな地震も」
「あるよ」
「前は大変だったね」
「神戸でも大きな地震があったからね」
「そのことは覚えておかないといけないんだね」
「そうなんだ、多少揺れても驚くことはないから」
 王子が今電話で先生に言うのはこのことでした。
「地震が起こった時にどうしたらいいのかも話すよ」
「日本に来た時にだね」
「怖がることはないから」
 例え日本で地震に遭ってもだというのです。
「先生は今まで沢山凄い目にも遭ってきてるよね」
「そうしたこともあったかな」
 この辺りをあまり意識していないところが先生らしいです。
「まあ大したことはないよ」
「そこでそう言えるなら大丈夫だよ」
「地震にもなんだ」
「そう、怖がらないことが大事だから」
 地震についてはです。
「それと台風にもね」
「ああ、日本にはそれもあったね」
「こっちも日本にはあるけれどね」
「台風については僕も知ってるよ」
「インドとかで遭ったんだね」
「サイクロンにね」
 インドの台風はこの呼び名です、やっぱり物凄く怖いです。
「凄かったよ、風と雨がね」
「それもあるけれど」
「怖がらないでいいんだね」
「地震よりもずっとましだから」
 だからだというのです。
「安心してね、落ち着いていけばいいからさ」
「そのことも皆に伝えるんだね」
「地震と台風にさえ落ち着いて向かえることが出来れば日本は大丈夫だよ」
「皆に伝えてね」
「そうするよ、じゃあね」
「うん、それじゃあね」
 こうしたお話を王子としてでした、先生はこのことを動物達に言いました。するとホワイティがこう先生に言ったのでした。
「日本の地震って物凄いって聞いたけれど」
「うん、ホワイティも知ってるね」
「ええ、この前だって大騒ぎになったじゃない」
「日本も何とか立ち直ったけれどね」
「地震ね、それが起こってもなの」
「落ち着いて対処すればいいらしいからね」
「わかったわ」
 ホワイティは博士のその言葉に応えました。
「そのことはね」
「あと台風もあるから」
「ああ、サイクロンだね」
 ジップが応えます。
「あれが日本にもあるんだね」
「うん、それにも気をつけないとね」
「何か日本って結構危なくない?」
 ガブガブは地震と台風のことを聞いて少し不安そうに言いました。
「地震に台風って」
「大丈夫だよ、落ち着いていればね」
「怖くないんだ」
「何でも怖いと思うから怖いんだよ」
 先生は先生らしく言いました。
「怖くない、知っていればね」
「地震も台風も怖くないんだ」
「そう、幾ら揺れてもね」
 それがあってもだというのです。
「だから落ち着いていけばいいからね」
「よし、それじゃあね」
 ガブガブは先生の穏やかな顔を言葉を受けて安心しました。
「僕日本で楽しく過ごすからね」
「あと食べるものはね」
「あのすき焼きだね」
「他にも美味しいものが一杯あるからね」
 日本にはというのです。
「ガブガブも満足出来るよ」
「そうだね、じゃあ僕日本で美味しいもの何でも食べるよ」
「僕もだよ、とにかく日本では楽しくね」
 先生はのどかな口調になってこうも言いました。
「そうして過ごしていこうね」
「うん、じゃあね」
「日本でも皆仲良くね」
 動物達も明るく応えます、先生は日本がどういった国なのか本当に楽しみでした。地震や台風のことがあってもです。
 そしてそれが全部終わってビザを手にしてです、先生は皆に言いました。
「じゃあ今から港に行こうか」
「船に乗ってだね」
「日本に行くんだね」
「船旅は少し長くなるよ」
 先生はこのことを皆にお話しました。
「その間も楽しく過ごそう」
「先生、本は全部用意したわよ」
 トートーが言ってきました。
「それも読みながらよね」
「うん、日本に行くよ」
「あとお茶もよね」
「そうそう、お茶も忘れたらいけないよ」
 三時のそれもだというのです。
「三段のね」
「三段ティーセットは欠かせないわよ」
 ダブダブは先生にこのことも注意しました。
「三時はね」
「うん、皆で楽しむね」
「それも用意してあるから」
 セットする道具もだというのです。
「皆で楽しもうね」
「そういうことね」
「船の中で飲むお茶もいいものだよ」
 先生はそのお茶についてもお話するのでした。
「あれもね」
「そうそう、船もね」
「船のお茶もね」
「だからいいのよね」
「それも」
 動物達も言います、皆お茶を楽しみにしています。
 そこにトミーが来ました、トミーは皆に言います。
「お父さんが車を用意してくれました」
「港まで送ってくれるのかい?」
「はい、先生も皆も乗って下さい」
「悪いね、何もかも」
「馬やオシツオサレツも乗れますから」
 身体の大きい彼等もだというのです。
「皆で行きましょう」
「よし、皆で港まで行って」
「そしてですね」
「日本にも行くよ」
「楽しみですよね」
「うん、かなりね」
 実際にそうだと答える先生でした。
「この目で見たいよ」
「それじゃあですね」
「今うきうきしてるんだ」
 先生はこうも言うのでした。
「どんな国かね」
「そうですか、まず日本に行かれたら」
「まずは?」
「何を食べるおつもりですか?」
「お刺身かな」
 専制は首を少し捻ってからこうトミーに答えました。
「あれかな」
「お刺身ですか」
「うん、あれもロンドンで一回食べてみたけれどね」
 お寿司と同じくです、お刺身もロンドンで食べたことがあったのです。 
 それで、です。今トミーに言うのです。
「美味しかったからね」
「だからですか」
「本場のお刺身を食べてみたいんだ」
 トミーににこにことしてお話します。
「どんな味かね」
「そうですか」
「後は色々とね」
 先生はトミーに日本で他にも食べたいものを言っていきます。
「天麩羅も食べたいし、お素麺もね」
「和食って色々あるんですね」
「どれも食べたいね」
「そうですか」
「さて、それじゃあね」
「今からですね」
「港に行こう」
 日本に向かう船が出るそこにです。
「悪いけれど頼むよ」
「はい、車に乗って」
「そういえば車もね、僕は乗れないけれど」
「免許まだ取っていないんですか」
「ううん、教習所に行くにしてもね」
 時間やお金、お金は何とかなってもだというのです。
「僕は運動神経がないからね」
「だからですか」
「そうなんだ、運転出来ないんだ」
 お世辞にも器用ではない専制です、それでなのです。
「だから車の免許はね」
「持ってないんですね」
「持っていても運転出来ないよ」
 そうだというのです。
「自転車に乗ることも苦手でね」
「先生歩く以外のスポーツ出来ないからね」
「本当に不器用だからね」
「車も自転車もね」
「無理なんだよね」
 動物達もこのことを言います、彼等は先生といつも一緒にいるのでそうしたこともとてもよく知っているのです。
「だから日本でも基本は歩くんだよね」
「そうなるんだよね」
「うん、歩くことは身体にいいしね」
 先生も健康のことは気にかけています、それでなのです。
「歩けばいいよ」
「そうですか、じゃあ日本でも」
「歩いていくから」
「わかりました、じゃあ免許はないということで」
「書き換えとかの心配はないよ」
「けれど医師免許は」
「ああ、それがあったね」 
 先生はトミーに言われて一番大切なことを思い出しました、先生を先生にしていることです。
「日本でお医者さんになるにはね」
「そこはどうなるんですか?」
「ちょっと王子に聞いてみようかな」
 電話を出そうとします、ですがそ電話は。
 もうしまっています、しかも。
「参ったなあ、携帯も切れてるよ」
「じゃあ僕から王子に聞きます?」
「日本まで届くかな」
「ちょっと家に帰ってから聞いてみますね」
 こうしてトミーは一旦自分のお家に帰って聞いてきました、すると。
「そっちの手続きもしているみたいで」
「ああ、心配いらないんでね」
「はい、そうです」
 トミーは先生にこのことをお話します。
「安心していいそうです」
「そうなんだ、じゃあ」
「今からですね」
「港に連れて行ってね」
「車はトラックですから」
 普通の乗用車ではないというのです。
「皆を乗せますので」
「だからだね」
「はい、ですから」
「じゃあ今からね」
「皆もね」
 トミーは笑顔で先生に言います。
「トラックに乗ってね」
「トラックが来たらだね」
「その時に」
「もうすぐ来るからね」
「待ってるね、その間」
「荷物の用意もして」
 こうしたお話をしてです、皆はトラックが来るとすぐに荷物を入れてそして皆で乗り込みました。そうしてなのでした。
 港で荷物を降ろして船に乗り込みます、その船はといいますと。
「いや、大きいね」
「かなり大きな船だね」
「豪華客船って訳じゃないけれど」
「大きい船だね」
「そうだね、思っていたより大きいね」
 そうだとです、先生も船の中に入って言います、桟橋のところにはトミーが見送りでいます。
「三万トンはあるかな」
「その船は何処の船でしょうか」
 トミーは桟橋の向こう側から先生に尋ねました。
「本当に大きいですけれど」
「ううんと、日本かな」
「先生が今から行かれるですね」
「そこかな」
「はい、そうです」
 ここでたまたまそこにいた船員さんが答えてくれました。見れば海軍の士官さんみたいな制服を着ています。
「この船は日本の船です」
「そうなんですか」
「八条船舶の船です」
「あっ、僕が今から行く大学と同じ名前ですね」
「八条大学ですね」
「はい、そこの医学部の教授になるんです」
「実は八条大学と八条船舶は同じ八条グループの中にあるんです」
 船員さんは先生にこのこともお話するのでした。
「それでこの船もです」
「八条グループの船ですか」
「そうです、この客船も」
 日本の八条グループの船だというのです。
「今から日本の神戸に向かいますので」
「そうですか」
「まずは船旅を楽しんで下さい」 
 船員さんはにこりと笑って先生に言いました。
「日本までの船旅を」
「はい、それでは」
「この船は食事も設備も充実していますので」
「ティーセットはありますか?」
「勿論です」
 船員さんは先生のこの問いにもにこりと笑って答えてくれました。
「紅茶もシャンパンも」
「お酒もあるんですね」
「そうです、バイキング形式なので好きなだけ召し上がれます」
「それは素晴らしいですね」
「ですから日本までの旅路を心ゆくまで楽しめます」
「そうなのですか、では」
「はい、ようこそこの船に」
 船員さんは海軍の敬礼で先生に応えます。
「日本まで心ゆくまで旅を楽しんで下さい」
「わかりました」
「先生、僕も絶対に日本に行きますから」
 トミーも桟橋の向こうから先生に言ってきます。
「待っていて下さいね」
「待っているよ、それじゃあね」
「はい、日本で」
「また会おうね」
 先生と動物達はトミーと笑顔で別れました、それは再会までのほんの一時のことであるとお互いに思いながら。
 船は出港し先生達はまずは客室に入りました、そこはとても広い客室で馬もオシツオサレツも入ることが出来ます。
 オシツオサレツはその船の中で二つの頭で先生に言います。
「先生、僕はここにいた方がいいかな」
「この部屋にいた方がいいかな」
 こう二つの頭で尋ねるのでした。
「僕は目立つからね」
「ここにいるべきなのかな」
「いや、君もおトイレの都合があるからね」
 先生はオシツオサレツに答えます。
「客室から出ていいよ」
「そうなんだ」
「僕も出ていいんだ」
「君は確かに珍しい生きものだけれど皆知っているからね」
 オシツオサレツという動物がいることはです。
「だからそんなに気にすることはないよ」
「けれど皆僕を見るよね」
「この船って動物も普通に歩けるけれど」
「おトイレは決まった場所でしないといけないけれど」
「それでもね」
 そうしたことが出来ない動物は自由に船の中で歩けないみたいです、ですが先生と一緒にいる皆はそれが出来るので問題ありません。
「僕は目立つよね」
「どうしてもそうなるよね」
「まあパンダみたいなものだね」
 先生は例えとしてこの動物をお話に出しました。
「そうだね」
「ううん、僕はパンダなんだ」
「そうした感じなんだ」
「そうだよ、まあ皆見るだろうけれど」
 それでもだというのです。
「特に怖がることはないから」
「そうなんだ、それじゃあ」
「僕もお外に出るね」
「そうしていいよ。まあ長い旅になるけれど」
 船だからです、先生もそれはわかっていて船に乗っています。
「楽しんでいこうね」
「うん、じゃあね」
「楽しくね」
 オシツオサレツは先生に言ってもらって明るさを取り戻しました、そうして。
 皆は普通に船の中を出入りしつつ船旅を楽しみます、船はとにかく大きいです。しかも。
 よく見れば船の中にいるお客さんはあまりいません、先生達の他は何組かいる位です。先生はこのことに気付いて朝食の時に食堂でウェイターさんに尋ねました。
「この船は客船じゃないのかな」
「客船でもあります」
「というと?」
「本来は貨物船なんです」
「あっ、そうなんだ」
「はい、客室と貨物倉庫は別ですが」
 それでもだというのです。
「この船は本来貨物船でして」
「そうだったんだね」
「二十万トンの大船です」
「大きいと思ったらそれだけあるんだね」
「タンカーよりはまだ小さいですが」
 それでも大きいことは大きいというのです。
「この船は」
「そうだったんだ」
「そうです、とはいってもサービスは充実しています」
「うん、かなりだね」
「ですがお客さんは今回は少ないですね」 
「やっぱりそうだね」
「はい」
 ウェイターさんはこのこともお話するのでした。先生は皆と一緒に朝御飯を食べています。皆は博士の周りでそれぞれの御飯を食べていて先生は目玉焼きとソーセージ、それにオートミールと紅茶を食べています。
 その中で、です。ウェイターさんとお話をしているのです。
「ですがサービスは落ちませんので」
「だからだね」
「ご安心下さい、この船旅を」
「では皆と一緒に楽しませてもらうよ」
「そうして下さい」
 ウェイターさんは先生ににこりと笑って言ってくれました、そして。 
 先生は朝御飯の後も皆と一緒に船旅を楽しみます。ホワイティはその中でシャワーを浴びた後でくつろいでいる先生にこう言いました。
「これまでの旅を考えると」
「穏やかだね」
「これまでの旅っていつも大騒動だったからね」
「そうだね、今回は静かだね」
「船が沈んだりしないのね」
「いや、そうなったら大変だよ」
 先生は本を読みながらホワイティに答えます。
「皆生きられるかどうかわからないよ」
「それはそうね」
「そうだよ、だからね」
「日本まではね」
「何もないことを祈るよ」
 先生は椅子に座り本を開いたままホワイティに言います。
「ずっとね」
「ただ先生、日本はね」
 ここでトートーが先生こんなことを言いました。
「色々あるかも知れないよ」
「イギリスにいる時みたいにだね」
「先生は何かと呼ばれる人だから」
 だからだというのです。
「何かとあると思うよ」
「そうだろうね、僕もそう思うよ」
「自分でもわかってるんだ」
「わかっているというかね」
「いうか?」
「いつもだからね」
 それでだというのです。
「もうそのことは予想してるよ」
「そうなんだ」
「色々な場所に行くことになるかもね」
 日本にいながらです。
「あの国も色々と不思議な場所がある様だし」
「幽霊のお話は多いのかな」
 チーチーが先生に尋ねるのはこのことでした。
「あの国も」
「イギリス程じゃないけれどね」
「多いんだ」
「そうみたいだよ、あの国もね」
「じゃあ幽霊がいるホテルとか?」
「妖怪?妖精がいた場所はあったみたいだね」
 先生はこうチーチーにお話します。
「そうした場所はね」
「ふうん、妖精なんだ」
「日本はイギリスよりも歴史が古いからそうした話は多いそうだよ」
「ああ、歴史が古いからなんだ」
「そう、それだけ色々な人が死んだことでもあるからね」
 人は生きていれば必ず死にます、だから幽霊の数もその国の歴史が長くそれだけ死んだ人が多ければ増えるのです。
「だからね」
「先生が行く大学にもそうしたことがあったりしてね」
「そうかもね、とにかくね」
「日本は色々あるんだね」
「調べれば調べる程不思議な国だよ」
 今開いている本も読みつつの言葉です。
「この本も日本についての本だけれどね」
「そんなに不思議な国なの」
「掴みどころがないよ」
 先生はこうも言います。
「歴史は長くて武士がいて明治という時代になって急に近代化してね」
「イギリスとはまた違うんだね」
「全く違うよ、本当に」
 その日本についての本を読みつつの言葉です。
「何が何だかね」
「わからない位?」
「どういう国なのかな」
 こうも言う先生でした。
「不思議で仕方ないよ」
「確かちょん髷にしているのよね、武士は」
 ポリネシアは窓辺、夜の海が見えるそこから先生に尋ねます。
「腰に刀をさして」
「もう武士は日本にはいないよ」
「そうなの」
「明治になってね」
 武士はいなくなったというのです。
「武士の世の中じゃなくなったんだ」
「イギリスの騎士みたいなものよね」
 ポリネシアはイギリスのことから考えました。
「そうよね」
「違うかな」
「違うの?」
「アーサー王やランスロットとはまた違うんだ」
「それじゃあ聖杯を探すこともないのね」
「うん、そうしたこともないよ」
 武士は違うというのです。
「忠誠心はあってもね」
「忠誠心があっても騎士とは違うのね」
「またね」
「ううん、どうした人達だったのかしら」
「かなり独特だよ、武士はね」
「そうなのね」
「常に身体を鍛えていて学問もしていてね」
 本にはそう書いてあるのです。
「文武両道だったってね」
「そんな人達なの」
「うん、そう書いてあるね」
「本当にどうした人達なのかしら」
 ポリネシアは武士に興味を持つのでした、それでこう先生に言いました。
「早く日本に行って詳しく調べたいわ」
「まだ日本に着くのは先だよ」
「今どの辺りなのかな」
 ジップはそれまで床に寝そべっていましたが身体を起こして窓の外、夜で何も見えない海を見つつ言いました。
「一体」
「まだ地中海の中だよ」
「スエズにも入ってないんだ」
「そうだよ、まだね」
「じゃあまだまだ先だね」
「ゆっくりしていよう」
 先生はいつも通り至って落ち着いています。
「騒いでも着く時間は変わらないからね」
「寝ていてもいいんだね」
 老馬は先生の言葉を聞いて言いました。
「そうなんだね」
「そうだよ、こうしてね」
「日本に着くまで寝ていようかな」
「それがいいかもね、僕もたっぷりと寝るよ」
 先生もだというのです、この船旅の間は。
「お茶を楽しんで、そして本を読んで寝て」
「日本に着くまでの間は」
「そうして」
「うん、のどかな船旅を楽しもう」
 こう皆にも言って実際にです。
 先生は皆と一緒に楽しくのどかな船旅を楽しみました、日本までの航路は至って平穏で何もおかしなことはありませんでした。
 そして日本にもうすぐのところで、です、チープサイドが彼女の家族から聞いてからこう先生に言ってきました。
「何か空気が違ってきたって」
「空気がかい?」
「嵐が近付いているそうよ」
「それは困ったね」
「ええ、若しかしたら」
 船が沈む、チープサシドはこう言おうとしました。
 ですがその前にです、先生は彼女に穏やかな声でこう言いました。
「大丈夫だよ」
「沈まないの?」
「この船はとても大きいからね」
 だからだというのです。
「沈まないよ」
「そうなの」
「ただ、嵐になるからね」
 それでだとです、先生はチープサイドだけでなく今そこにいる皆に言うのでした。
「皆この部屋にいようね、おトイレや食堂に行く時以外は」
「皆でなの」
「そう、皆でね」 
 この客室にいようというのです。
「そうしようね」
「わかったわ、そうしてなのね」
「皆でいれば嵐も怖くないからね」
 だからだというのです。
「落ち着いてね」
「それじゃあ」
「僕達も」
 皆先生の言葉を受けて落ち着いて嵐を待ちます、嵐は来ましたが船は何とありませんでした。揺れはしましたが。
 揺れてもでした、特に何もなく。
 先生は相変わらず本を読んでいます、それで皆に言うのです。
「お昼御飯の時になったらね」
「皆でだね」
「食べに行くんだね」
「うん、皆船酔いはしていないね」
「これ位の揺れなんて普通だからね」
「何ともないよ」
 皆いつも先生と一緒に旅をしてきてその間何度も揺れを経験してきています、ですからこの程度の揺れはなのです。
「これ位はね」
「どうってこともね」
「そうだね、今更ね」 
 先生も落ち着いたものです。
「じゃあいいね」
「ゆっくりしていようね」
「今も」
 皆も揺れる中でも落ち着いていました、それで左右に揺れることをかえって楽しみながら。
 ぐっすりと寝ました、そして起きますと。
 もう嵐は過ぎ去っていました、窓の外はとても晴れていて海も穏やかです。船は二つの青の間にあります。
 その窓の外を見つつです、先生は皆に言います。
「さて、多分日本にはあと少しだよ」
「あと少しで着くね」
「そうなるんだね」
「そうなるよ、じゃあ今はね」
「今は?」
「今はどうするの?」
「甲板に出ないかい?」
 皆をお部屋の外に誘うのでした。
「そうしないかい?」
「甲板?そこの席でなんだ」
 ガブガブが先生に言ってきます。
「お茶にするんだね」
「そう、ティーセットをたっぷりと用意してね」
 そのうえでだとです、先生もにこりと笑ってガブガブに答えます。
「青い空と海を眺めながら楽しもう」
「紅茶とお菓子をなんだ」
「そうしないかい?」
「そうだね、お部屋の中にいてもいいけれどね」 
 ガブガブは先生の提案に弾む様になって答えます。
「お外に出て楽しくやるのもいいからね」
「そうだね、嵐も過ぎ去ったし」
「日本に着く前にね」
「楽しくやろう、外でね」
 そのティーセットをだというのです。
「そうしよう、皆で」
「よし、それじゃあね」
「皆でね」
 皆も先生の提案に笑顔で賛成しました、そうしてでした。
 皆で船の甲板、そこにある席でティーセットを楽しみます。紅茶にケーキ、サンドイッチにスコーンを楽しみます。
 先生は席に座ってミルクティーを飲みます、そのうえでこう皆に言うのでした。
「日本でも飲みたいね」
「紅茶をだね」
「イギリスにいる時みたいに」
「うん、やっぱり紅茶がないとね」
 これはどうしてもというのです。
「僕は駄目だからね」
「日本にもいい紅茶があると思うわよ」
 ダブダブが先生にこう言ってきます。
「あそこもお茶をよく飲むっていうから」
「お茶への造詣は深いんだね」
「そう、だからね」
 日本にもというのです。
「美味しいお茶がある筈だから」
「日本でも飲めるね」
「そう思うわ、セットだって」
 そのティーセットもだというのです。
「楽しめるわよ」
「王子もそう言ってたね」
「これからはじまる日本での生活」
 今度は老馬が言ってきました。
「皆で一緒に楽しもう」
「そうだね、僕達は一人じゃないからね」
 先生もここで言います。
「楽しくやろうね」
「皆でね」
 こうしたお話をしているとです、不意に。
 皆左手に見ました、それまで青い世界しかなかったのですが。
 緑です、緑の世界が小さいですがそこにあります。その緑を見てチーチーが言いました。
「あれが日本かな」
「沖縄かな」
 先生はこの地名を出しました。
「あそこかな」
「沖縄?」
「日本の島だよ、諸島だよ」
 島が一杯集まっている場所だというのです。
「日本の一番南の場所だよ」
「ふうん、そうなんだ」
「あと少しだね」
 先生はその緑の場所を見つつ笑顔で言いました。
「神戸までね」
「あと少しだね」
「日本まで」
「そう、いよいよだよ」
 自分達のあらたなお家までだというのです。
「もう家は王子に用意してもらってるからね」
「そこに入ってだよね」
「それから」
「はじめよう、僕達の新しい暮らしをね」
 日本でのだというのです。
「そうしよう」
「そうだね、日本に入ってね」
「そうしてね」
 皆も先生の言葉に笑顔で応えてです、そうして。
 今は皆でその緑の島を遠くに見ていよいよはじまる日本での暮らしのことも思うのでした。その島を見てすぐでした。
 船は左右に小舟や網が一杯ある海に入りました、先生達はこの時もお外で紅茶を飲んでいますがその時にです。
 船員さんが来てです、こう言ってきました。
「ここは瀬戸内海といいます」
「海峡ですか?」
「そう言うには広いですが」
 こう先生に答えるのでした。
「日本では昔から船の行き来が盛んな場所です」
「確かに多いですね」
「小舟だけでなく島や潮流も多くて」
「航海が難しいですか」
「はい、ここは」
「成程、小舟にぶつからない様に注意しないといけないですね」
「そうです、ここは難所です」
 船員さんはカフェテラスの様な場所に座ってティーセットを前にして紅茶を飲んでいる先生達の傍に立ってお話をします。
「これまでとは違ってです」
「よく注意して進んでいますか」
「そうしています」
 こう先生達にお話してくれるのです。
「いつもです」
「そうですか」
「そうです、もうすぐ神戸ですが」
 目指すそこは間も無くです、しかしだというのです。
「最後の最後で一番の難所です」
「そうですね」
「そうです、しかし本当にもうすぐですから」
「はい、楽しみにしています」
 先生は船員さんににこりと笑って応えます。
「日本を」
「それでは」
 先生達は今も海、船の周りの小舟や網のヴイ、それに小島達を見つつ航海の最後の時を観ていました、その次の日でした。
 先生は後ろに高い緑の山が見える白い街に着きました、青い海から出てその街の入口である港に降り立ったのです。
 そこで、です。先生は皆に言いました。
「もう家の場所は書いてあるからね」
「ここだね」
 ポリネシアは先生の左肩にいます、そこから先生が開いている地図を覗き込んで言います。
「そこのバッテンのところだね」
「うん、ここだよ」
「じゃあ今から行こうね」
「最初にお家に入ってからだよ」
 先生は港から神戸の白い町並みを見つつ言います。
「僕達の新しい暮らしがはじまるんだ」
「これからどうするかは」
 チープサイドは先生の右肩から言いました、家族も皆一緒です。
「私達次第ね」
「そうだよ、僕達がそうしていくんだよ」
「日本でもね」
「皆楽しくやろう」
 先生はここでもこう言います。
「皆でね」
「そうしよう、日本でも」
「僕達でね」
 まずは先生が一歩踏み出して皆もそうします、先生と皆の日本での生活が今はじまります。


ドリトル先生の訪日   完


                              2013・10・17



イギリスを立つ前に色々と。
美姫 「そこまで多くはなかったみたいだけれどね」
挨拶周りって所かな。
美姫 「荷造りも特に問題なかったみたいだしね」
後は長い船旅を楽しみつつ、到着を待つだけと。
美姫 「船内でも特に問題もなかったみたいね」
ようやく日本へと到着と。
美姫 「日本ではどんな生活を送る事になるのかしらね」
といった所でこのお話は終わりと。
美姫 「次を待ってますね」
ではでは。



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