『ドリトル先生と日本のお料理』




              第一幕  日本のお家

 ドリトル先生と動物達は日本に着いてすぐに就職先の八条学園が用意してくれたお家に向かいました、それまでの道は。
 王子が迎えに来てです、にこりと笑って言ってきました。
「ここから先生のお家までは」
「うん、神戸だよね」
「そう、神戸の八条町だよ」
 そこに先生の日本でのお家があるというのです。
「そのことはもう聞いてるよね」
「それで今から行こうと思ってるんだけれど」
「道、わかる?」
 王子は先生にこの港からお家までの道がわかるうかどうか尋ねてきました。
「そこまでは」
「地図はあるよ」
 先生は言いながら地図を出してきました。
「港からここまでもこれを読んでね」
「とはいっても港からお家まで遠いよ」
「そうなんだ」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「今から僕が案内していいかな」
「そうしてくれるんだ」
「そう、車も用意してあるよ」
 王子はここで後ろを指し示しました、するとそこには大きな白いキャンピングカーが一台ありました。
「あの中に動物の皆も入ってね」
「そうしてだね」
「あれでお家まで送るよ」
「悪いね、そうしてもらって」
「お礼はいいよ、先生と僕の仲じゃない」
 王子はこのことは笑っていいというのでした。
「それよりもね、日本はね」
「この国だね」
「イギリスと全然違うから」
 王子は悪戯っぽく笑って先生にこのことをここでも言うのでした。
「実際に見ると余計にね」
「驚くんだね」
「そう、楽しみにしておいてね」
「日本のお家もだね」
「立派な日本のお家だよ」
 そこが先生のお家だというのです。
「広い庭まであるね」
「お庭もあるんだね」
「あるよ、日本のお家は大抵小さいけれど」
「その家は違うんだね」
「動物の皆も入るし僕も時々遊びに行くつもりだし」 
 それでだというのです。
「理事長さんに大きなお家を用意してもらったからね」
「じゃあそのことも楽しみにしていいんだね」
「そう、まずはそこで見てね」
 日本をだというのです。
「お風呂も台所も何でもあるからね」
「お水はそのまま飲めるんだよね」
 先生は王子にお水のことも尋ねました。
「日本では」
「ううん、水道水はそのまま飲んだら美味しくないよ」
「そうなんだ」
「うん、一旦お湯にしてお茶として飲む方がいいよ」
 この辺りはイギリス人の先生を気遣って言うのでした。
「とにかくね、まずはね」
「その車に乗ってだね」
「行こう、お家にね」
「うん、皆でね」
 こうお話してでした、そうして。 
 先生は王子と動物達と一緒にキャンピングカーの後ろに入りました。運転は王子の運転手さんがしてくれます。そのうえでお家に向かいます。
 そして車の中で、です。王子は先生とポーカーをしながらお話をするのでした。車の中でも先生とそうしたのです。
「畳に襖に」
「そのお家でもあるんだね」
「そうだよ、ちゃぶ台もね」
 それもあるというのです。
「あと電化製品もね」
「全部あるんだね」
「テレビもクーラーも電話もね」
 その全部があるというのです。
「勿論冷蔵庫もね」
「凄いね、何でもあるんだね」
「もう買って揃えておいたから」
 先生が来る前にというのです。
「お掃除もしておいたよ」
「そこまでしてくれたんだ」
「だって先生ってそうしたことには弱いから」
 世の中のことや家事についてはです。先生は動物とお話をすることや学問のこととは違い全く以てどん臭いのです。
 だからです、王子もそうしてたというのです。
「僕達でやっておいたんだ」
「そんなことまでしてもらうなんてね」
「このこともお礼はいいからね」
 王子はここでも微笑んで先生に言いました。
「安心して暮らしてね」
「お家に帰ったら家事は私達がするからね」
「先生は安心してね」
 ポリネシアとダブダブが言ってきます。
「それじゃあね」
「先生はお仕事に専念してね」
「僕はそういうことはてんで駄目だからね」
 自分でも家事のことは駄目だと言う先生でした。
「日本でも皆に助けてもらうことになるね」
「いいよ、だって僕達家族じゃない」
 ジップはその先生に笑って言いました。皆イギリスにいる時と同じで先生の周りに集まっています。そのうえで言ったのです。
「家族ならね」
「助けてくれるんだ」
「先生だからね」
 皆の大好きな先生だからだというのです。
「イギリスにいる時と同じだよ」
「楽しくやろう、楽しく」
 ガブガブも言ってきます。
「それじゃあね」
「そうだね、今見ただけだけれど日本もいい国みたいだし」
 先生はここで窓の外を見ました、そこから日本の綺麗な街が見えています。
 その街を見てです、先生は言うのでした。
「明るく楽しくね」
「うん、やっていこう」
「日本でもね」
 動物達も明るく応えます、そうしてです。
 先生達はお家に着きました、瓦の屋根の家が同じく瓦が上にある壁に囲まれていて木の門があります。そしてお庭はイギリスにはない木で一杯です。
 しかもお池まであってです。動物達はそのお池のあるお庭や広い一階のお家の中、お庭の端にある物置まで見てから畳のお部屋にいる先生に言ってきます。
「お風呂とおトイレは別だよ」
「ソファーとかはないよ」
「テーブルもないね」
「玄関で靴を脱いで入ってるしね」
「イギリスのお家とは全然違うよね」
「お池もあるし」
「うん、僕も一回りしてきたけれど」 
 先生も当然靴を脱いでそこにいます、畳の上に立って言うのです。
「どうして座ろうかなってね、まずは」
「あっ、これを下に敷いてね」
 先生と一緒にいる王子がここで四角くて厚い中に綿が入っているものを出してきました。それは何かといいますと。
「座布団をね」
「それも日本のものだね」
「そうだよ、これを下に敷いて座るんだ」
「日本では椅子はないんだね」
「和風のお家にはね」
 椅子はないというのです。
「ないよ」
「そうだね」
「そう、じゃあ座るにはね」
「うん、それを下に敷いて座ればいいね」
「座り方は。正座があるけれど」
 王子はまずはこの座り方をお話に出しました。
「それはね」
「難しいのかな」
「こう座るんだ」
 王子は畳の上に今持っている座布団を敷いてです、その上にです。
 膝を折り畳んで足の上にお尻を置いて座りました、それがというのです。
「これが正座なんだ」
「ううん、その座り方だと」
「慣れていないとちょっとしたら足が痺れるよ」 
 そうなってしまうというのです。
「そうなるよ」
「そういうのは」
「うん、特に先生は太ってるしね」
 王子は笑って先生の体型も見て言いました。先生の体型は相変わらずです。
「正座は余計に辛いね」
「だからその座り方はね」
「じゃあこうすればいいよ」
 王子は今度は身体の前に足を折り曲げて座りました、足首は股の間にあります。今度の座り方は随分楽そうです。
「これね」
「その座り方は楽そうだね」
「そう、こうして座ればね」 
 いいというのです。
「ずっと楽だよ」
「そうだね、それじゃあね」
「正座をしないといけない時もあるけれど」
 それでもだというのです。
「今はね」
「そうして座ってもいいんだね」
「正座は徐々に慣れていこうね」
「うん、じゃあね」
「後ね。お風呂だけれど」
 王子は今度はこのことをお話するのでした。
「日本ではもう皆が見たけれど」
「僕も見たよ」
「おトイレと別々だから」
「誰かが入っている時におトイレに行きたくなっても困らないね」
「しかも洗面所や洗濯機とは別の部屋になってるから」
 そこも違うというので、イギリスのお家ではお洗面所とおトイレとお風呂が一緒のお部屋になっているからです。
「誰かが歯磨きをしていても」
「お風呂には入られるね」
「それが出来るし。湯船に入るのがね」
「日本だね」
「うん、そうだよ」
 王子は先生達にお風呂のこともお話します。
「シャワーじゃなくてね」
「それで泡もだね」
「お湯で落とすからね」
「そうしないと駄目なんだね」
「そうだよ、日本ではね」 
「そのことは聞いてるよ、食器のこともね」
 ちゃんと泡をお水で洗い落とさないといけないということをです。
「僕もね」
「それじゃあいいよ」
「問題ないんだね」
「お湯に入ると疲れが落ちるから」
 このこともお話するのでした、先生に。
「楽しんでね」
「お風呂も楽しむんだね」
「そうだよ、日本ではね」
「成程ね、それじゃあね」
「後は買い物とかお給料のことだけれど」
 王子は先生にこのこともお話しました、そうして生活の細かいところまでお話してそうしてでした。
 先生にです、あらためて言いました。
「じゃあ今日はね」
「うん、まだ話してくれることはあるかな」
「日本のことはこれで終わりだよ」
 これで全部終わったというのです。
「少し早いけれど晩御飯食べよう」
「そうだね、それじゃあ」
「何か作るわね」
 ダブダブが言ってきました。
「そうね、目玉焼きでも焼くわ」
「いやいや、引越し祝いにね」
 ダブダブが台所に向かおうとしたところで、です。王子はそのダブダブにこう言いました。
「僕の方で用意させてもらうよ」
「あら、そうなの」
「お寿司をね」
 用意するのはそれだというのです。
「それを出させてもらうよ」
「日本の食べ物だね」
 お寿司と聞いてです、チーチーが言ってきました。
「あの有名な」
「そう、本場のお寿司をね」
 まさにそれをだというのです。
「今から注文するから」
「まさかもう本場のお寿司を食べられるなんてね」
 先生はそのことを夢みたいに言うのでした。
「信じられないよ」
「いや、ここは日本だからね」
「そのお寿司もだね」
「日本のお料理だから」
「普通に食べられるんだね」
「高めだけれどイギリスで食べるよりずっと安いよ」
「じゃあ量もだね」
「たっぷりと頼むからね」
 王子は先生の前に座ったまま明るくお話するのでした。
「そっちも楽しみにしてね」
「それではね」
「期待してるよ」
 先生も動物達もんこりとして応えます、ただジップにはドッグフードがポリネシアとトートーとダブダブとチープサイド達には稗が、チーチーには果物が、老婆とオシツオサレツには臭がたっぷりと様されました、ホワイティにはチーズです。皆がそれぞれ食べるものもたっぷり用意されました。
 先生と王子、それに王子のお付きの人達とガブガブがお寿司を食べるのでした。その注文されたお寿司はといいますと。
 イギリスのものと違います、程よい大きさに握られた御飯の上に様々なネタがやはり程よい大きさで置かれています、それが丸い大きな、外が黒で中が赤い入れものの中に置かれています。それもどのお寿司も綺麗に揃えられてです。
 そのお寿司達を見てです、先生は目を丸くして王子に言います。
「いや、これは」
「どうかな」
「綺麗だね」
「うん、日本ではこうしてね」
「食べものを並べるのもだね」
「綺麗にするんだ」
「イギリスとは全く違うね」
「いや、イギリスはね。こう言ったら悪いけれど」
 王子はイギリス料理の盛り付けについては苦笑いで言いました。
「よくないから」
「そうだね、イギリスのものはね」
「駄目だよ」
 こう言うのでした。
「お寿司もね」
「そうだね、イギリスのお寿司とは全く違うよ」
「味も違うから」
 肝心のそれもだというのです。
「それも楽しんでね」
「わかったよ、それじゃあね」
 そうしたことをお話してです、それでなのでした。
 皆でそのお寿司を食べます、先生はまずは卵を食べました。黄色い卵焼きが白い御飯に黒い海苔で付けられています。
 そのお寿司をお箸で慣れない動きながらも食べてみますと。
 先生はにこりと笑ってこう言いました。
「これは」
「美味しいね」
「うん、凄くね」
 こう王子に答えます。
「これはいいね」
「これが日本のお寿司なんだ」
「いや、イギリスのものとは全く違うね」
「本場のお寿司はね」
「違うよ、これだと」
 先生は卵のお寿司を食べながら言います。
「他のも期待出来るね」
「鮪もあるよ」
「鮪もだね」
「イギリスでは食べないお魚だけれどね」
「この赤いものだね」
 先生はお寿司の中にある赤いものを見て王子に尋ねます。
「これだね」
「そうだよ、これがね」
「鮪だね」
「これも美味しいから」
 その鮪もだというのです。
「食べればいいよ」
「うん、それじゃあね」
 先生は卵の次はその鮪を食べました、その鮪もです。
 凄く美味しいものでした、そして他のお魚も。
「平目も鯛も鮭も鰻も鯖もね」
「どれもいいね」
「あと巻き寿司もね」 
 それも食べてみるとです。
「いや、どれも美味しいね」
「そうだよね」
「このピンク色の薄いものも」
 盆の端にあるそれも食べつつ言うのでした。
「いいね」
「ああ、それはね」
 王子はそのピンク色の薄いものについても博士にお話します。
「生姜だよ」
「これが生姜なんだ」
「そう、日本では生姜をそうしても食べるんだ」
「成程、それは知らなかったよ」
「他にも色々な調理をしてね」
 そうして食べるというのです。
「身体にもいいから」
「食べていいんだね」
「生姜は食べて悪いことはないよ」
 むしろいいというのです。
「だからどんどん食べようね」
「生姜もね」
 こうお話してでした、皆で。
 お寿司を食べていきます、そしてなのでした。
 お寿司をたらふく食べた後で、です。先生は満足した顔でこう王子に言いました。
「いや、お寿司はね」
「本当にだよね」
「美味しいよ」
 こう言うのでした。
「本場はこうなんだね」
「そうだよ、それで日本にはね」
「日本には?」
「まだ美味しいものがあるから」
「イギリスにいる時に食べたすき焼きやこのお寿司以外にもだね」
「うん、あるから」
 だからだというのです。
「これからも食べようね」
「そうだね、けれど」
「けれど?」
「僕はまだ和食についてはね」
「あまり知らないんだ」
「ちょっと勉強してみようかなってね」
「それなら実際にね」
 王子は先生の言葉を聞いてにこりと笑って言いました。
「食べてみるといいよ」
「フィールドワークかな」
「学問にフィールドワークは基本だよね」
「うん、学問の分野にもよるけれど」
 それでもだというのです。
「それをしないと成り立たないよ」
「そうだよね、それじゃあね」
「日本の料理を知る為にも」
「そう、食べることが一番だよ」
 それが一番の勉強だというのです。
「食べるといいよ」
「そうだね、じゃあ何を食べようかな」
「何でも食べたらいいよ」
 王子はここでは何を食べればいいかは言わないのでした。
「本当に何でもあるから」
「何でもなんだ」
「僕も日本のお料理はいいのがあり過ぎてね」
 王子は嬉しい悩みといった顔でお話します。
「具体的に何を食べればいいかは」
「言えないんだ」
「美味しいものがあり過ぎるのも困るんだよ」
「何を食べればいいか迷って」
「このお寿司やすき焼きもいいし」
 それにだというのです。
「お刺身に天麩羅、あとおうどんも懐石料理もあるし丼ものとかね」
「ふうん、本当に多そうだね」
「丼にしてもね」
 一口で済むこれもだというのです。
「色々あるから。カツ丼とか親子丼とか牛丼とかね」
「本当に多いんだね」
「そう、多いから」
 だからだというのです。
「朝昼晩。いつも何を食べようか迷うんだ」
「三食共とはね」
「イギリスだとあれだよね。朝は目玉焼きとかとパンで」
「そんなところだね」
「お昼は適当で夜もね」
「あまり考えないわよ」
 ダブダブも言ってきます。
「メニューを適当に開いて栄養にいいのをね」
「作るだけだよね」
「そう、それだけよ」
 ダブダブは左の翼を手の様に上に挙げて言います。
「イギリスにいるとね」
「イギリスは食べものにこだわらないからね」
「自覚してるわ」
 ダブダブ自身もだというのです。
「イギリスのお料理なんてすき焼きとかお寿司と比べたらね」
「君もお寿司少し食べたしね」
 稗以外にです、このことは他の動物達も一緒です。
「それでわかったね」
「もう比べものにならないわ」
 そこまで違うというのです。
「イギリスのお料理とはね」
「僕今食べることにも満足してるんだ」
 王子もにこりと笑って述べます。
「だってどれも美味しいから。大阪なんてね」
「神戸の隣の都市だね」
 先生は大阪と聞いてこう答えました。
「日本で第二の大都市だというけれど」
「そう、西では一番大きな街だよ」
「そこに行くとなんだ」
「もう美味しいものばかりで。どのお店に入っても美味しいんだよ」
「ううん、ロンドンとは全然違うんだね」
「そうだよ、先生も落ち着いたら大阪に行ってね」
 そしてだというのです。
「食べるといいんだよ」
「そう、それじゃあね」
「食べるんだよ、日本にいたら。ただ」
「ただって?」
「日本人は少食みたいなんだ」
 王子はここで声のトーンを少し下げました、そして残念そうな顔になってそのうえでこう先生達にお話しました。
「出て来る料理はどれもね」
「少ないんだね、量は」
「先生は身体も大きいからね」
 ただ大柄なだけでなく太くもあります、先生の体型はそうしたものです。王子はそのことからもお話するのです。
「一品や二品じゃ足りないだろうね」
「じゃあメニューの数は沢山頼んで」
「そうして食べるといいかもね」
「わかったよ、そのこともね」
「食べるのならね」
 王子はまた言いました。
「たっぷり食べないとね」
「駄目だね」
「あと日本は食べるものだけじゃないから」
「文化も素晴らしいね」
「茶道も華道もあって」
 イギリスにいた頃に先生にお話しましたがここでも言うのです。
「それに武道もあって」
「剣道や柔道だね」
「先生はスポーツには興味がないけれどね」
「それもだね」
「そう、観てみるといいよ」
 それもだというのです。
「奈良や京都にも行ってね、そしてまずはね」
「大学だね」
「そう、八条大学にもね」
 先生が勤めるその大学にもというのです。
「明日にでも行って」
「働くのは何時からなの?」
 チーチーが先生にこのことを尋ねてきました。
「それは」
「一週間後だよ」
「そうなんだ」
「まだ少し時間はあるけれどね」
 少し早く着いたのです、日本に。
「その間に」
「学園自体も凄くいいところだから」
 王子は学園についてもお話します。
「行くといいよ」
「そうだね、それじゃあね」
 こうしたお話をしてなのでした。
 先生は日本での初日を過ごしました、その寝る時は。
 ベッドはありません、やっぱり畳の襖で区切られたお部屋の中にあるものを敷きました。それは何かといいますと。
「この綿を布で覆ったのがなんだ」
「お布団なんだね」
「これはまた随分変わってるね」
「ベッドに似てるけれどね」
 それでもだとです、動物達はそのお布団を奇妙なものを見る目で見つつお風呂に入ってからパジャマに着替えて寝ようという先生に言います。先生の頭にはナイトキャップがあります。
「それでも違うね」
「脚のないベッドだね」
「そんな感じだね」
「変わってるね、これも」
「寝るものもね」
「うん、どんな感じだろうね」
 そのお布団を敷いた先生も言うのでした。
「起きる時は畳むらしいしね」
「畳み方はもう王子から聞いたよ」
 チーチーが先生に言います。
「先生だとずっと敷いたままでいそうだから」
「そうかな、僕だと」
「だって先生だから」
 いい加減というかずぼらなところがあるからです。
「僕達でやっていくよ」
「何かそうしたところはイギリスにいた時と同じだね」
「当たり前じゃない、家族は変わらないんだから」
 ジップも言ってきます。
「それだとそうしたところは変わらないよ」
「そうなるんだね」
「そう、それじゃあね」
「それじゃあなんだ」
「生活のことは任せて」
 身の周りのことはというのです。
「お布団のこともね」
「そうか、それじゃあね」
「じゃあ寝よう」
 先生は皆に言いました、そして。
 ポリネシアにです、このことを尋ねました。
「ホースとオシツオサレツはどうしてるかな」
「厩もあるから」
 この広い家にはそうしたものもあるのです。
「そこで休んでるわよ」
「ううん、お家の中には入ることは出来ないんだね」
「蹄で畳が痛むから」
 だからそれは無理だというのです。
「それはね」
「そうなんだね、残念だね」
「けれどイギリスにいた時もね」
 彼等は厩の中にいたというのです、ですからこのことは仕方ないですし変わりがないというのです。このことは。
「同じだから」
「諦めるしかないね」
「そう、それじゃあね」
「ここにいる皆で寝ようか」
「そうしようね」
 こうお話してでした、そうして。
 先生はお布団の中に入って寝ました、他の動物達はその先生の周りに集まって寝ました。このことはイギリスにいた時と同じです。
 そして朝目を覚ますとです、先生は満足している顔で起き上がってから皆に言いました。
「皆起きてるかな」
「今起きたよ」
「博士の言葉でね」
「六時だよ」
 枕元に置いていた時計を手に取ればその時間でした、襖の間から淡い日差しが差し込んできています。
「いや、気持ちよく寝られたよ」
「お布団でもだね」
「よく眠れたんだ」
「ベッドの時と同じ様にね」
 そう出来たというのです。
「お布団もいいものだよ」
「そう、それじゃあね」
「これからはお布団でなんだ」
「寝るよ、じゃあ今から」
「どうするの?」
「まだ六時だけれど」
「朝御飯は」
「冷蔵庫にはまだ何もないわよ」
 ダブダブがこの事情をお話してきました。
「空っぽよ」
「ううん、じゃあどうしようかな」
「コンビニって場所に行ってみる?」
 ホワイティが言ってきました。
「そこで何か買う?」
「いつも営業している小さなスーパーだね」
「そう、そこに行ってね」
 何かを買おうというのです。
「そうしよう」
「よし、じゃあ着替えてね」
 先生はホワイティの言葉に頷きます、そうしてでした。
 お布団は自分で畳んでそうして着替えてです、皆と一緒にそのコンビニに行くのでした。しかしここでなのでした。
 先生にです、老馬が尋ねました。
「先生、コンビニの場所知ってる?」
「あっ、それは」
 先生も言われて気付きました、そのことに。
「言われてみれば」
「知らないんだ」
「ええと、地図だとね」
 幸い服のポケットの中に地図がありました、その地図を見てみると。
 ちゃんと書いてありました、どの場所に何があるのかを。
 そこにコンビニもあったのです、そしてなのでした。
 そこに行くことにしました、するとです。
 その道中です、一緒にいる動物達を見て道を行くサラリーマンや学生の人達が驚いて言うのでした。
「うわ、一杯いるな」
「頭が二つある山羊もいるし」
「あれがオシツオサレツか」
「八条動物園にいるっていうけれど」
「それかな」
「それなのかしら」
 皆特にオシツオサレツを見て言うのでした。
「まさか街で見るなんて」
「朝から凄いの見たな」
「あの人は外国の人かな」
「随分人のよさそうな人だけれど」
「どうした人かしら」
 注目の的です、オシツオサレツも先生に言ってきます、先生の傍に前の方の頭を持って来て二つの頭でお話するのでした。
「皆見てるよ」
「僕達をね」
「随分とね」
「注目されてるけれど」
「いいのかな」
「しまったね、まさか朝からこんなに人が多いなんてね」
 先生もこのことを苦笑いで言うのでした。
「予想していなかったし」
「ちょっと恥ずかしいかな」
「そうだよね」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「イギリスにいた時は皆僕達に見慣れてたけれど」
「日本じゃね」
「あまり見られるの好きじゃないし」
「どうしたものかな」
「そのうち皆見慣れるよ」
 先生はそのことは日本もだというのでした。
「だから暫くは注目されてもね」
「気にしないでいたらいいね」
「そうなんだね」
「そう、自然にね」
 そうしていけばいいというのです。
「そうしていこうね」
「そうだね、それじゃあ」
「先生の言う通りにするよ」
 オシツオサレツもそれで納得しました、そうして。
 皆でコンビニに着きました、けれどお店の中は動物は入ることが出来ないので先生だけが中に入りました。先生は何とか日本語を操りながらコンビニの店員さんに尋ねました。
「朝御飯になりそうなものを買いに来ましたが」
「あっ、それでしたら」 
 店員さんは若い男の人でした、お店の前に集まっている動物達をちらりと見てから先生に答えてくれました。
「お握りやパンもありますし卵もありますよ」
「卵もですか」
「はい、そうしたものもです」
 あるというのです。
「色々ありますけれど」
「それじゃあそのお握りにパンを」 
 買うとです、先生も答えます。
「それに卵も」
「ではですね」
「買わせてもらいます」
 こうお話してでした、そして。
 先生は自分だけでなく皆の分も買ってそのうえでお店を出ようとします、その時に店員さんにこう言われました。
「あの、お店の外の動物達ですけれど」
「皆僕の家族です」
 先生はこのことも日本語で笑顔で答えました。
「大切な」
「そうですか、多いですね」
「そうですね、気付いたらあれだけいます」
「オシツオサレツですよね、あれ」
 店員さんは特に彼を見ています、カウンターのところから。
「八条動物園にもいますけれど」
「珍しいですか」
「街で見るとは思いませんでした」
 こう言うのでした。
「いや、よくあんなの飼ってますね」
「彼も家族です」
 そのオシツオサレツもだというのです。
「仲良く暮らしてますよ」
「そうですか」
「そうなんです、それじゃあ今日は有り難うございます」
「はい、またいらして下さい」
 コンビニの店員さんと挨拶をしてでした。 
 先生はお店を出てそのうえで皆と一緒にお家に帰りました。そのうえでお家において朝御飯を食べますと。
 先生はお握りを食べて言うのでした。
「これはいいね」
「ええ。滅茶苦茶美味しいわ」
 チープサイドも彼女の家族と一緒にお握りを食べつつ応えます。
「こんな美味しいものがあるなんて」
「ライスはこれまで何度も食べているけれど」
「このお握りはね」
「最高だよ」
 右手に取って食べつつ言うのでした。
「日本にはこんな美味しいものもあるんだね」
「驚きよね」
「これがまた安かったんだよ」
「そうなの」
「そう、びっくりする位安いのに」
 それでもだというのです、黒い海苔の中に包まれている白い御飯を集めて作ったそれは。
「美味しいんだよ」
「日本人はいつもこんな美味しいのを食べているのかしら」
「そうみたいだね」
「サンドイッチも美味しいよ」
 ジップはそれを食べつつ目を丸くしています。
「このツナサンドって」
「サンドイッチも美味しいんだ」
「ツナってお魚だよね」
「そうだよ、鮪だよ」
 そのお魚だとです、先生はジップにお話します。
「鮪のことだよ」
「鮪は昨日のお寿司で食べたけれど」
「また違う味なんだね」
「これも美味しいよ」
 それも凄くだというのです。
「卵サンドもね」
「じゃあお昼はそれを食べようかな」
 先生は今はお握りを食べつつ言いました。
「そうしようかな」
「うん、先生も食べるべきだよ」
 あまりにも美味しいからです。
「そうしないとね」
「美味しいものは皆で食べないとね」
「そう、そうしないとね」
 駄目だとお話するのでした、そうして。
 皆で日本の朝御飯を食べます、卵はダブダブがお家の台所を使って作りました。そのお料理はといいますと。
 卵を研いで作ったものです、ただそれは。
 オムレツとは違いました、焼いてはいますが四角いです。先生はその四角いお料理を見てダブダブに尋ねました。
「それはお寿司にもあったよね」
「そう、卵焼きよ」
 それだというのです。
「日本の卵料理の一つよ」
「それを作ってくれたんだ」
「先生の本にあったじゃない」
 和食のメニューの本にだというのです。
「それで作ってみたの」
「そうだったんだね」
「食べてみて、どんなお味か」
 ダブダブは先生だけでなく皆にも勧めます。
「是非ね」
「うん、それじゃあね」
 先生はダブダブの言葉に頷きその卵焼きも箸に取って食べてみました。そのお味はといいますと。
 先生の代わりにガブガブがです、実に嬉しそうに言いました。
「こんな美味しいものってないよ」
「そうなのね」
「ダブダブも食べてみてよ」
 作った彼女もだというのです。
「凄く美味しいからね」
「そう、そうしてよ」
「それじゃあね」
 ダブダブはガブガブの言葉に頷きました、そして実際にです。
 右の翼で卵焼きを取って食べてです、こう言いました。
「本当に美味しいわ」
「そうだよね」
「オムレツとはまた違った味でね」
「美味しいね、これは」
「こんな美味しいものもあるなんて」
「日本はいい国だね」
「お料理のバリエーションが増えそうだね」
 トートーも卵焼きをついばみながら言います。
「そっちも楽しみだね」
「朝から満足しているよ」
 先生も笑顔です。
「じゃあこの気持ちのままね」
「大学に行くんだね」
「先生の新しい職場に」
「そう、行くよ」
 そうするというのです、まさに。
「たっぷり食べてからね」
「どれだけいるの?大学に」
「そうだね、夕方までかな」
 つまり日中の間だというのです。
「一日かけて見回るよ」
「そうするのね」
 ポリネシアは先生の言葉を聞いて頷きました。
「それじゃあお茶は」
「あっちでいただくよ、だから君達はね」
「ええ、ここでね」
 このお家で、です。動物達だけでだというのです。
「楽しませてもらうわ」
「そうしてね。さて」
 それではとです、先生は穏やかな笑顔で言いました。
「食べ終わったらね」
「後はね」
「歯を磨いて顔を洗って」
「行ってくるからね」
 八条学園、先生の新しい勤め先にだというのです。
「どうした場所かをね」
「よし、それじゃあね」
「見てきてね」
「そうするね」
 こうお話しつつでした、先生はお握りだけでなく卵焼きも食べるのでした。
「さて、日本の学校はどんなところか」
「そうしたこともだね」
「今から見に行くんだね」
「そうだよ、じゃあね」
 身支度を整えてだというのです、先生は朝御飯の後で勤め先になる学校に行くのでした。その八条大学に。



今回は来日初日と。
美姫 「殆ど、食べ物の話みたいね」
それぐらい違うって事なんだろうな。
美姫 「食べ物や住まいに関しては満足しているみたいで良かったわね」
だな。朝食も無事に済んだみたいだし。
美姫 「この後、学校に行くみたいだけれど」
それは次回かな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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