『ドリトル先生と京都の狐』
第一幕 王子の誘い
王子は日曜に先生のお家で先生達と一緒に午後の紅茶とティーセットを楽しみながらこんなことを言いました。
「ねえ、皆次の日曜は暇かな」
「日曜だけでなく土曜日もだよ」
お家の中の居間のちゃぶ台を囲みながら皆で楽しんでいる中で、です。先生はにこりと笑って一緒にいる王子に答えました。
「その日もね」
「じゃあ余計に都合がいいね」
「都合がいいっていうと」
「先生京都にも興味があったよね」
王子はここでこの街の名前を出してきたのでした。
「そうだよね」
「うん、何時かは行ってみたいと思ってるけれど」
「その何時かは今度の土曜と日曜でいいかな」
「それはまた急だね」
「急じゃないよ、この神戸から京都はね」
王子は紅茶を飲みつつ先生にお話します。
「すぐ近くじゃない」
「あっ、そうだったね」
「そういえば」
ここで先生と一緒にちゃぶ台を囲んでいる動物達も気付きました、実は先生達が今住んでいる神戸と京都はすぐ近くの間柄なのです。
それで、です。王子もこう言うのです。
「電車ですぐだから」
「京都に行くのはすぐだからだね」
「行ってみたらどうかな、僕も一緒にね」
「そういえばね」
「そうだよね」
ここでダブダブとガブガブがお互いにお話をします。
「トミーももうすぐ来るし」
「来週の月曜にね」
「だったらね」
「次の土曜と日曜には」
トミーとも一緒に行けるというのです、王子は二匹のお話も聞いてでした。あらためてこう先生達に言いました。
「よし、じゃあトミーとも一緒にね」
「京都だね」
「旅館も用意しておくよ」
王子はそこも手配するというのです。
「向こうのね」
「あれっ、神戸と京都は近くじゃないの?」
ジップは王子の今の言葉にこう問い返しました。
「だから行くのに旅館は」
「すぐに戻れるのよね、京都に」
ポリネシアも王子に尋ねます。
「そうよね」
「うん、そうだよ」
「それでどうして旅館に泊まるの?」
「必要ないんじゃないの?」
「いやいや、日帰りで二日行くと疲れるからね」
だからだとです、王子は紅茶を飲みつつ彼等にも答えるのでした。
「だから向こうで宿をとってね」
「それでなんだ」
「京都をじっくりと」
「一度や二度来て回りきれる場所じゃないけれど」
「それでもだね」
「泊まってじっくりと」
「うん、そうしようよ」
こう皆に言うのでした。
「そうして京都を楽しもう」
「そうだね。今はお金にも困っていないしね」
先生は大学教授として決まった、しかも多くのお給料を貰える様になっています。ですから今ではお金にも困っていないのです。
だからです、王子のお誘いに乗ってこう言えたのです。
「旅館に泊まってね」
「それでだね」
「皆で」
「ただ。動物達は泊まれるかな」
先生はこのことが気になりました。
「それはどうかな」
「旅館の方には僕が話しておくよ」
動物達のこともだというのです、王子は気さくな笑顔で言うのでした。
「だから皆のこともね」
「気にしなくていいんだ」
「普通に京都に行けるんだね」
「そうだよ。ただ電車にはね」
神戸から京都に行く電車の中ではといいますと。
「そこのことは」
「車で行くとか?」
チープサイドのご主人はこう言ってきました、横には奥さんがちゃんといます。
「そうする?」
「そうしようかな。お馬さんやオシツオサレツも乗れる大きな車で」
「京都から神戸までそれで行くんだね」
チープサイドのご主人はまた言います。
「そうするんだね」
「そうしようかな、車はあるから」
その大きな車もだというのです。
「皆でね。キャンピングカーでね」
「随分大掛かりだね」
「メンバーが多いとそうなるよ」
王子は今度はジップに答えました。
「どうしてもね」
「そうなるんだね」
「うん、とにかくね」
「京都にはだね」
「皆で行こう、トミーも来るから」
それでメンバーがさらに増えるというのです。
「賑やかになるね」
「京都名物は何なの?」
ホワイティは王子に食べもの、京都の美味しいものについて尋ねました。
「一体」
「うん、お豆腐かな」
「お豆腐がなんだ」
「そう、京都はお豆腐が有名なんだ」
それが美味しいというのです。
「ホワイティはお豆腐は好きじゃないだろうけれど」
「味はいいけれど」
それでもだとです、ホワイティは王子の言葉に困った顔になって答えました。
「それでもね。固くないから」
「かじられないからだね」
「物足りないよ」
鼠としてはです、そうだというのです。
「飲むみたいな感じかな」
「じゃあ飲むと思ってね」
「そうして味わえばいいんだね」
「ホワイティの場合はね」
「じゃあそうして楽しむね」
ホワイティはこう王子に答えました、そしてです。
王子はさらにです、京都の美味しいものについて皆にお話しました。
「他にも鱧とかすっぽんとか。京都のお野菜に料亭のお料理に」
「随分美味しいものが多いのね」
「そうだよ、ただ高いよ」
王子はトートーにも答えます。
「京都のお料理はね」
「宮廷料理みたいなものかしら」
「そんな感じだよ、京都は神戸や大阪と違って美味しいものを食べようと思ったらお金を沢山出さないといけないんだ」
それが京都のお料理だというのです。
「けれど僕がいるし」
「それに先生も今ではね」
「お金もあるからね」
「そう、だから気にしなくていいよ」
お金のことはだというのです。
「全然ね」
「そうなんだね、それじゃあ」
「京都のお料理もね」
「楽しめるよ、じゃあ来の日曜ね」
「うん、京都だね」
「そこだね」
「皆で行こうね」
王子は紅茶とティーセットを楽しみながら先生達と一緒に京都に行くことを約束したのでした、そうしてです。
トミーも遂に日本に来ました、トミーは空港で博士達の出迎えを受けて満面の笑顔でこう皆に言うのでした。
「やっと日本に来ました」
「うん、待っていたよ」
先生はにこりと笑ってトミーに応えました。
「本当によく来てくれたね」
「じゃあ僕は今から」
「僕達の家で一緒に住むんだよ」
「そうですよね、じゃあ」
「日本でもね」
イギリスにいる時と同じ様にというのです。先生はトミーに笑顔で述べます。
「一緒に楽しくやろう」
「はい、それじゃあ」
トミーも笑顔で応えます、そうしてでした。
トミーを含めた一行は王子の執事の人が運転するキャンピングカーで空港のある大阪から神戸の八条町に向かいます、そのキャンピングカーの中で、でした。
トミーは窓の外の景色を見ながら先生達にこんなことを言いました。
「先生、今僕達がいる街が大阪ですよね」
「うん、そうだよ」
温和な笑顔で、です。先生はトミーに答えます。
「この街がね」
「日本で二番目に大きな街ですよね」
「ロンドンよりもまだ賑やかかもね」
「へえ、ロンドンよりもですか」
「人の数はどうだったかな」
これは人口についての言葉です。
「多かったかな、ロンドンより」
「じゃあ本当に凄い街なんですね」
「ロンドンとは全く違う街なんだ」
二階建てのバスやビッグベン、ロンドン橋はないというのです。もっと言えばバッキンガム宮殿も赤い軍服の衛兵さん達もです。
「大阪はね」
「商業の都でしたね」
「水の都ともいってね」
「川が多いんですね」
「そうだよ、僕も遊びに行ったけれど」
「いい街ですか」
「賑やかでね。あと道頓堀という場所があって」
先生は王子にこの場所のこともお話します。車から見える景色はその都度変わっていきます。まるで映画を観ている様に。
「そこは野球のチームが優勝したら飛び込むそうだよ」
「あっ、日本はサッカーより野球でしたね」
「そうだよ、野球の方が人気があるよ」
「イギリスでは最近はじめましたけれど」
ドイツもです、欧州でもやっと野球が知られる様になっているのです。
「日本ではサッカーよりも人気ですか」
「ラグビーやラクロスよりもね」
「国によって好きなスポーツが違いますね」
「そうだよ。あと武道もあるよ」
「日本のですね」
「剣道や柔道」
先生は具体的にそうしたものを挙げていきます、皆キャンピングカーの中でお茶を飲みながらそれぞれ座ったり寝そべったりしてお話をしています。先生とトミーは席に向かい合って座ってお茶を飲みつつお話をしているのです。
その中で、です。先生はその剣道や柔道について言うのです。
「日本の、本当に独特の」
「剣道はフェシングとは全然違いますね」
「全く違うよ、八条大学にもフェシング部もあるけれどね」
「剣道部がですね」
「あるよ、それで剣道部の方が盛んなんだ」
「そうなんですか」
「いい先生が教えてくれているしね」
剣道の先生もだというのです。
「皆楽しんでいるよ」
「いい先生もいるんですね」
「うん、ただ日本はね」
「日本は?」
「とてもいい国だけれど学校の先生はね」
どうかとです、先生は日本の学校の先生については顔を曇らせてこう言うのでした。
「よくない人も多いね」
「人を教えて導かないといけないのにですか」
「随分とおかしな先生が多いね」
イギリス人の先生から見てもだというのです。
「日本の先生はね」
「それは八条学園もですか?」
「いや、あの学園は大丈夫だよ」
「そうですか、それは何よりですね」
「うん、けれどね」
それでもだというのです、日本全体では。
「本当におかしな先生が多いから」
「それが問題ですね」
「そうなんだ、そのことは気をつけておいてね」
「わかりました」
「他のものは素晴らしいよ」
「人も景色もですね」
「歴史あるものも多くてね。あと今週の日曜には」
先生はここでトミーにもこのことをお話するのでした。
「正確に言うと金曜の夜から京都に行くよ」
「あの歴史ある街にですね」
「うん、行くよ」
そうするというのです。
「トミーも一緒に行くよね」
「いや、日本に来ていきなり京都なんて」
それはどういうものかとです、トミーは目を輝かせて先生に言います。
「夢みたいですよ」
「けれど夢じゃないよ」
「僕が京都に行くことはですね」
「そう、夢じゃないよ」
先生は紅茶を飲みながらにこりとしてトミーにこのことをお話するのでした。
「だから楽しみにしておいてね」
「はい、それじゃあまずは」
「八条学園に入ってね」
「そうして学園生活に慣れていって」
「とはいっても一週間じゃそれ程慣れないかな」
先生は自分のことも踏まえてです、それは難しいかというのでした。
「まだね」
「そうですよね、一週間じゃ」
「けれどとてもいい学校だから」
「慣れればですね、僕も」
「楽しめるよ」
その学園生活をだというのです。
「だから心配しないでね」
「そうですね、それに日本でも先生達と一緒ですから」
「そう、僕達もいるから」
「何の心配もいらないよ」
他の国でも知っている、親しい人達がいるとです。それだけで全く違います。それはトミーも同じなのです。
「だから楽しくやろうね」
「お家に着いたらね」
トートーが言ってきました。
「皆でお鍋よ」
「お鍋?日本の」
「そう、河豚鍋よ」
「えっ、河豚ってあの」
「そう、あのお魚よ」
日本で食べるそのお魚だというのです。
「毒yがあるけれどね」
「その毒はだね」
「ちゃんと除いてるから」
だから河豚を食べても平気だというのです。
「安心してね」
「毒のない河豚は普通に凄く美味しいよ」
ガブガブがこう言ってきます。
「安心してね」
「うん、それじゃあ楽しみにしているよ」
「あとお箸は大丈夫?」
ダブダブはトミーがお箸を使えるかどうかを尋ねてきました。
「そっちは」
「うん、ちゃんと練習してきたよ」
「だったら大丈夫だね」
「ただ。お箸はね」
どうかとです、トミーは日本の食器については困った感じの顔になって言います。そのお顔にどうかというものが見えます。
「あまりね」
「嫌いとか?」
「そうなの?」
「ううん、使い方が難しいね」
トミーが言うのはこのことでした。お箸の使い方はというのです。
「フォークやナイフよりもね」
「僕も慣れるまで時間がかかったよ」
先生もお箸についてはこうトミーに答えます。
「そして他の日本の文化や習慣にもね」
「慣れるまではですか」
「時間がかかったよ」
そうだったというのです、先生も。
「随分とね」
「そうだったんですか、先生も」
「うん、例えば日本ではお家に入る時に玄関で靴を脱ぐし」
「それでお家の中では和風のお家では椅子がないんですよね」
「テーブルもね。ちゃぶ台というもので」
「その周りに座布団を敷いて座るんですよね」
「おトイレとお風呂場は別々になっていて」
このこともお話する先生でした。
「シャワーで済ませずに湯船の中のお湯に身体を入れることが多いんだ」
「物凄く暑い時以外には」
「そう、それで身体を温めて疲れを癒すんだ」
「日本のお風呂ですね」
「そう、あと身体を洗っても」
「シャワーや桶に汲んだお茹で泡を石鹸の泡を洗い落とすんですよね」
「そうだよ、そのまま拭かないんだ」
イギリスでは泡は洗い落とさずにタオルで拭くだけです、けれど日本ではそうすることも違うというのです。
「あと食器もね」
「泡をですね」
「洗い落とすからね」
「そこも違いますね」
「そう、そして寝る時も」
「ベッドではなくて」
「お布団だよ」
それで寝るというのです。
「毎日敷いて畳んで。時々は干して」
「色々本当に違いますね」
「日本とイギリスはね。お料理だけじゃないよ」
「そうですか」
「そう、そして細かいところはね」
「おいおいですね」
「わかってくるから」
こうしたお話をしながらでした、先生はトミーと一緒に日本のお家に向かうのでした。そしてそのお家でトミーを歓迎する河豚鍋を皆でお腹一杯食べることになりました。
その河豚を食べてです、トミーは目を丸くさせてこう言いました。
「あっ、本当に」
「美味しいでしょ、河豚は」
チーチーが言ってきました、彼もやっぱり河豚を食べています。
「イギリスにはないよね」
「イギリスはお魚の種類が少ないからね」
トミーはイギリスの魚料理を思い出しました、フィッシュアンドチップスはありますがそれでもだというのです。
「鮭と鱈位しかないから」
「けれど日本ではね」
「河豚があるんだ」
「他にも一杯あるから」
「それでその他のお魚も」
「どれも美味しいよ」
チーチーはにこりと笑いながらトミーにお話します。
そしてです、お鍋の中の白菜やお葱、お豆腐に糸蒟蒻や茸についてもです、チーチーはトミーにお話します。
「このお野菜とかもね」
「そうだね、僕もそういうのを食べてるけれど」
トミーのお椀に既に入っています。
「とても美味しいね」
「美味しいものばかりだよ」
「日本はだね」
「この河豚鍋だけじゃないから」
「いい国だね。イギリスはね」
「食べものはね」
どうかとです、ジップが言うには。
「お世辞にもよくはないから」
「そうだね、こんなに美味しいものはないよ」
「フィッシュアンドチップスもね」
それもだというのです、イギリス料理の代表であるこれも。
「イギリスのものより美味しいよ」
「あれっ、そうなんだ」
「うん、日本のフィッシュアンドチップスの方がね」
「そういえば紅茶も」
トミーはこのお家に来るまでに先生達と一緒に飲んだ紅茶のことも思い出しました。
「随分と美味しかったね」
「そうだよね、お水がいいしね」
「イギリスのお水よりも」
「お茶の葉自体もね」
「いいんだね」
「そうだよ、いいんだよ」
そうだというのです。
「しかも一緒に食べるティーセットもね」
「日本の方がいいんだ」
「そうなんだ」
「お料理については本当に違うから」
例えそれが同じメニューだとしてもだというのです。
「日本とイギリスはね」
「ううん、何か日本にいたら」
どうなるか、トミーはこのことはジョークを含めて言いました。
「太るかも」
「あっ、それはないよ」
ここで先生がこうトミーに言ってきました。
「太ることはね」
「ないんですか?」
「日本のお料理はイギリスのものよりカロリーが少ないんだ」
「そうなんですか」
「そう、この河豚鍋にしてもね」
これもだというのです。
「カロリーは少ないよ」
「こんなに美味しいのですか」
「そう、それでもね」
「ううん、お野菜も一杯入っていて」
「栄養があってね」
「しかもカロリーは少ないんですか」
そう聞いてです、トミーはびっくりして言うのでした。
「和食は凄いですね」
「そのことは調べていなかったのかな」
「はい、実は」
そうだったというのです、トミーは。
「そうでした」
「そうだね、けれどね」
「それでもですね」
「そう、日本は色々なお料理があるから」
だからだというのです、中には。
「カロリーが高いお料理もあるからね」
「そこは注意しないと駄目ですね」
「日本は世界中のお料理が集まっている国だからね」
「それは本にも出ていましたね」
「そうだよ、だからその中にはね」
カロリーが高いお料理もあるというのです。
「そこは気をつけてね」
「わかりました、太らない為にはですね」
「もっとも僕は最初から太っているけれどね」
先生は自分のことにはです、笑ってこう言いました。
「だからこれ以上太らない様にしているんだ」
「そうですか。じゃあ僕は」
「スポーツは何をするんだい?」
「ラグビーは」
「あっ、日本には階級もないから」
この辺りイギリスは厳しいのです、庶民はサッカーをして上流階級はラグビーをすると決められているところがあります。
ですが日本ではどうか、先生はトミーにこのこともお話します。
「皆ラグビーもポロも出来るよ。乗馬もね」
「庶民でもですか?」
「うん、誰でもどんなスポーツが出来るんだ」
「それはいいことですね」
「誰でもパブでもバーでも行けるし」
イギリスはここも日本と違います、庶民はパブに上流階級はバーに行くものと分けられているのです、ですが日本ではそこも違うというのです。
「僕もどっちも行くよ」
「ううん、日本はそうなんですね」
「皇室の方々はおられるよ」
「けれど階級はないんですね」
「確かに所得の差はあるけれど」
それでもだというのです。
「誰でもそこで飲んで食べられるお金さえあればね」
「出入りしていいんですね」
「そうだよ、そういう国だよ」
「またえらく自由ですね」
「自由というかお国柄の違いだね」
そうなっているというのです。
「日本はそうしたことにはこだわらないんだ」
「成程、だから僕もラグビーが出来てバーにも行けるんですね」
「歌舞伎も観られるよ」
日本の伝統文化もお金さえあればというのです。
「歌劇だってね」
「庶民でもですね」
「普通に観られるからね」
「いや、夢みたいです」
「夢じゃないよ、日本だよ」
日本ではそうだというのです。
「そこは覚えておいてね」
「わかりました」
トミーは先生のその言葉にも頷きました、そしてです。
そうしたお話をしながら河豚鍋を食べてです、その後で。
お鍋の具が何もなくなっておつゆだけになったところでそのお鍋に御飯を淹れてです。そこにお醤油とといだ卵を入れますと。
忽ちのうちに雑炊が出来ました、その雑炊を見てです。
トミーはです、こうも言うのでした。
「オートミールとはまた違って」
「これが雑炊だよ」
「そうですか、雑炊ですか」
先生に応えて言うのでした。
「これが」
「知ってるよね」
「はい、御飯のお料理の一つとして」
「日本では鍋ものの時は最後にこれを食べるんだよ」
先生はトミーにこのこともお話するのでした。
「おつゆを使ってね」
「へえ、面白いですね」
「おつゆには栄養がたっぷり残っているから」
煮たそのお魚やお野菜のものがです、沢山出ているのです。
「それを食べる為にもね」
「いいんですね」
「じゃあトミーも食べて」
先生は雑炊を皆のお椀にそれぞれ入れながら言います。
「美味しいよ」
「はい、それじゃあ」
トミーもその雑炊を受け取りました、そのうえで。
御飯を食べるのとはちょっと違った食べ方で食べるとです、そのお味は。
「うわ、これも」
「美味しいよね」
「はい、凄く」
先生に目を輝かせて答えました。
「こんなに美味しいなんて」
「思わなかったかい?」
「オートミールも美味しいですけれど」
「オートミールとはまた違ってね」
「はい、美味しいです」
こう言うのでした。
「お鍋ってただお魚やお野菜を食べるだけじゃないんですね」
「そうだよ、最後のこの雑炊もね」
「食べるものなんですね」
「そうなんだ、だからね」
「はい、後は雑炊まで食べて」
実際に食べています、その熱くて美味しい雑炊を。
「それで、ですね」
「そうだよ、栄養をちゃんと摂って」
「日本での生活を」
そうなるのでした、そしてです。
お鍋を食べ終えてからでした、皆で後片付けをしてです。お鍋やお椀までちゃんと日本の洗い方で洗ってからでした。
先生はくつろぎながらトミーに言うのでした。座布団の上にあぐらをかいて座ってテレビを観ながらそうするのでした。
「さて、これからはね」
「はい、休憩ですね」
「テレビを観るなりしてね」
「休んでいればいいですね」
「後ね」
他にもだというのです。
「ゲームもあるよ」
「テレビゲームですか」
「あとインターネットも繋いでおいたから」
もうそれもしたというのです。
「色々と調べられもするよ」
「用意がいいですね」
「うん、あとね」
その他にもだというのです。
「本はね」
「英語の本ですよね」
「それも学園には一杯あるし」
「あっ、それはいいですね」
「学園の中の本屋さんにもあるから」
「へえ、それは凄いですね」
「駅前にもね」
そこにもだというのです。
「六階建てのビルの本屋さんがあってね」
「そこにも英語の本が一杯あるんですね」
「英語以外の本も一杯あるよ」
「ううん、凄いですね」
「八条学園は留学生も多いからね」
トミーの様な人がです、大勢いるというのです。
「だからね」
「英語の本にも困らないですね」
「あと日本語に慣れてきたら」
「日本語の本もですね」
「読んでみるといいよ」
先生は温厚な笑顔でトミーにお話します。
「日本語の本も面白いから」
「というと先生もう」
「うん、最近日本語の本も読んでいるよ」
「凄いですね、もうですか」
「面白い本が多いよ」
「日本人は読書も好きなんですね」
「イギリス人以上かもね」
日本人の読書好きはというのです。
「そのことは」
「そうなんですね」
「結構色々な場所で、電車の中とかでもね」
「日本人は本を読んでいるんですか」
「そうしているよ、待っている間は本を読んでいるかお喋りをしているか」
日本人はそうしているというのです。
「若しくは疲れていたら寝ているか」
「ううん、じゃあ相当に」
「日本人は本を読んでいるよ。漫画の場合も多いけれどね」
「その漫画もですよね」
「そう、馬鹿には出来ないよ」
漫画についてもです、先生は言うのでした。
「面白いしタメになるんだよ」
「漫画もまた文化だからですね」
「そうだよ、面白い小説も多いしね」
「それとアニメも」
「面白い文化が多い国だよ」
それが日本という国だというのです。
「昔の文化と今の文化が一緒にある国なんだ」
「長い歴史の中にある文化が」
「そう、一緒にある国なんだよ」
「そこもイギリスより凄いかも知れないですね」
トミーも座布団に座っています、そのうえでなのでした。
腕を組んでです、こう言うのでした。
「今と昔の文化が一緒にあるというところも」
「しかもね」
「しかもですね」
「日本の文化だけじゃないから」
「イギリス文化もありますね」
「フランスもドイツもイタリアもね」
他の欧州の国々の文化もあるというのです。
「その他のものもね」
「あるんですね」
「そう、あるよ」
そうだというのです。
「スペインもロシアもね」
「欧州の主要な国が全部ですか」
「アメリカ、中国、インドとね」
「欧州以外の国々のものもですか」
「何でもあるよ、ロンドンにも負けないよ」
「それも国全体がですね」
「そうなんだよ。僕達が今いる神戸も君が最初に来た大阪も」
その街もだというのです、大阪も。
「様々な国の文化と日本の今昔の文化がね」
「一緒にあるんですね」
「だからいいんだよ。そして京都も」
先生は週末にトミーと一緒に行くその街のことも言います、そこもです。
「今昔の文化が一緒にあるんだよ」
「特に昔の文化がですね」
「僕もはじめて行くけれど楽しみだよ」
見れば先生の目も輝いています、まるで小さな男の子が遥か彼方へ冒険の旅に行く様にです。先生がこれまで行った多くの不思議な場処に行く前になる目でした。
「どんなところかね」
「本当に楽しみですよね」
「まずは京都」
最初はという感じでの言葉です。
「それから大阪もじっくり行って」
「そしてですね」
「それから奈良や伊勢も行きたいね」
「行く場所は多いですね」
「高野山にもね」
和歌山のあのお寺にもというのです。
「行きたいね」
「行きたい場所が多いですね」
「全くだよ、困ったよ」
困ったと言いながらもです、先生はにこにことしています。
「日本は素晴らし過ぎるよ」
「素晴らしいものが多過ぎますね」
「そうなんだよね、この国は」
「美味しいものが一杯あって」
「様々な文化があってね」
先生の様な学者さんは困ってしまうというのです、見るべきものに学ぶべきものが本当にあちらこちらにあってです。
「困るよ、何年かかっても勉強しきれないかもね」
「じゃあ日本に定住したこともですね」
「よかったと思うよ」
イギリスからです、就職を縁に住めたことがだというのです。
「僕にとっても動物達にとってもね」
「イギリスとはまた違ったよさがあるよ」
「とてもいい国だよ」
ここで動物達も言ってきます、厩の中に戻った老馬とオシツオサレツ以外の皆が先生の周りに集まってくつろいでいます。
「日本はね」
「落ち着けるしね」
「物凄く騒がしいと思うんだけれど」
日本という国のことを聞いたらです、トミーはそう思えて仕方ありませんでした。様々な文化が全部一緒にある国ですから。
「違うんだね」
「そうだよ、今だって落ち着けてるしね」
「落ち着けるものもある国なんだよ」
「そうだよ、だからね」
先生も動物達と一緒にくつろぎながらまたトミーにお話します。
「日本にいるのならね」
「存分にですね」
「そう、楽しんで落ち着いてね」
「わかりました、じゃあ明日から学園にも行って」
「学園生活も楽しむんだよ」
「わかりました」
そうしたお話もしてでした、トミーはこの日はお風呂に入って休みました。そのうえで次の日は日本の朝御飯を食べました。
朝御飯も美味しいです、ですが。
その中にある糸をひいたお豆を見てです、トミーは困った顔になって先生に言いました。
「あの、これが噂の」
「うん、納豆だよ」
「そうですよね、これが」
「美味しいよ」
笑顔で言う先生でした、他のメニューはお味噌汁にお漬物に卵焼きです。そうしたものは美味しいのですが。
それでもです、その納豆だけはでした。トミーは困ったお顔で言います。
「けれどこれは」
「駄目かな」
「これ本当に美味しいんですか?」
こう言うのでした。
「匂いも凄いですよ」
「いやいや、匂いもね」
「これもですか」
「慣れると美味しく感じられるから」
だからだというのです。
「トミーも食べるといいよ」
「先生はもう納豆は」
「食べられる様になっているよ」
実際にです、先生は納豆のパックを開けてそこにお醤油とからしを入れてかき混ぜています。それを自分の御飯の上にかけています。
「御飯ととても合うんだよ」
「そうなんですか」
「そうだよ、これがね」
「腐ってませんよね」
「ヨーグルトと同じだよ」
「じゃあ発酵させたものなんですね」
「やっぱり腐ってるって思ったね、トミーも」
先生はトミーの今の言葉に笑って言いました。
「やっぱりね」
「だって本当に匂いが」
発酵したのではなく腐っているのではないのか、トミーは納豆の色や引いている糸まで見てそのうえで思ったのです。
「そうした匂いですから」
「そうだね、けれどね」
「腐ってるんじゃなくて発酵させてるんですね」
「だからヨーグルトと同じだよ」
「それでしたら」
そう聞いてです、そしてなのでした。
トミーも先生が納豆をとても美味しそうに食べているのも見てそれで自分もなのでした。食べてみようと決意しました。
それで食べてみます、先生と同じ様にして。すると。
その味にです、目を見開いてこう言いました。
「あっ、これは」
「美味しいね」
「はい、とても」
こう言うのでした。
「美味しいです」
「そうだよね、納豆はね」
「匂いは凄いですけれど」
「その匂いも慣れているとね」
「美味しい臭いに感じられるんですね」
「そうだよ、それに納豆は大豆だから」
お豆であることは見ただけでわかります。
「身体にも凄くいいから」
「食べるべきなんですね」
「うん、僕も最近よく食べているよ」
「それじゃあ先生最近は」
「前よりも健康になったよ」
にこにことしての言葉です、見ればお顔の色がかなりいいです。お肌もつやつやとさえしている位です。それが今の先生です。
「この通りね」
「そうですか、納豆のお陰ですね」
「納豆以外にも身体にいいものを食べているからね」
「このお味噌汁に梅干もね」
「そういったのも身体にいいよ」
ここで、です。動物達も朝御飯を食べつつ言ってきます。見れば皆もお味噌汁や卵焼き、納豆を食べています。勿論御飯もです。
「だからトミーもね」
「そういったのも食べてね」
「うわ、酸っぱいね」
トミーは今度は梅干を食べました、そのうえで顔を思いきり顰めさせています。
「これはまた」
「けれど美味しいでしょ」
「身体にもいいからね」
「これも食べるべきなんだね」
「そうだよ。どんどん食べてね」
「健康の為にもね」
そうして欲しいとです、皆でトミーに言うのです。
トミーはお味噌汁も飲んでです、ここでも美味しいものを食べたお顔で言います。
「いや、これも美味しいね」
「朝から凄いでしょ」
「美味しいものばかりだよね」
「日本人って朝からこんなに美味しいものを食べているんだね」
トミーはそのこともです、夢であるかの様でした・
「何て凄いんだ」
「イギリスも朝御飯はいいんだけれどね」
先生は自分達の祖国のことは少し苦笑いになっています。
「三食朝御飯だったらね」
「そのこと他の国の人には散々言われますね」
「勿論三時にはティーセットがあるから」
「それは欠かせないですね」
「僕の研究室に来ればね」
それでだというのです。
「一緒に楽しめるよ」
「先生の研究室ですか」
「医学部の校舎にあるよ」
先生の勤務先のそこにだというのです。
「そこに来ればいいよ」
「僕も医学部ですしね」
「日本の学生さん達も面白いよ」
「その人達もですね」
「いい加減な様でしっかりと締めるところは締めているから」
「日本の大学生は勉強しないっていうのは」
「いやいや、それがね」
実はです、違うというのです。
「普段はそうでもやる時はやるんだよ」
「そうなんですか」
「人生の勉強もしているし。トータルで見ればね」
「日本の大学生もですね」
「馬鹿に出来ないよ」
そうだというのです。
「彼等が勉強していないというのは一面でしかないんだよ」
「それじゃあ他の日本人と同じで」
「彼等も勤勉だよ」
「馬鹿に出来ないですね」
「誰だって馬鹿にしたらいけないけれどね」
そうすれば損をするのは自分です、その馬鹿にしている人は実は、というのは世の中でとてもよくあることだからです。
「日本の大学生もだよ」
「そうなんですね、じゃあ僕も」
「日本の大学生達と一緒にね」
「楽しく学ぶべきですね」
「お酒も飲んでね」
そちらも楽しんで欲しいというのです。
「そうしてね」
「お酒ですね」
「そう、お酒もね」
そちらもです、楽しんで欲しいというのです。
「僕もよく飲むよ」
「へえ、先生がお家の外でお酒よ」
「八条町は日本の中でもとてもよく飲む場所でね」
それでだというのです。
「僕もここではね」
「お家以外の場所でもですか」
「そう、飲んでいるんだ」
そうしているというのです。
「日本酒もね」
「あっ、それもですか」
「そう、飲んでいるよ」
「日本のお酒は」
「お米から作ったお酒でね」
「美味しいって聞いていますけれど」
「僕に合っているよ」
先生が飲んでみると、というのです。
「あのお酒もね」
「それはいいですね」
「お酒は合う合わないがあるからね」
人によって飲めるお酒と飲めないお酒があります、このことは舌だけでなく体質のこともあって合わないお酒は中々飲めません。
「けれど僕はね」
「日本酒はですね」
「合うよ。トミーはエールだったね」
「あれが好きです」
「エール、日本じゃビールしかないけれど」
「あっ、そちらも勿論」
飲めるとです、トミーは明るく笑って答えます。
「大丈夫ですから」
「そうだね、じゃあ若し日本酒とかが飲めなくても」
「それでもですね」
「ビールがあるから」
それを飲めばいいというのです、飲めない時は。
「安心していいよ」
「わかりました、それじゃあ」
「それに飲む場所でのお料理もいいから」
「そこの食べものもですね」
「うん、楽しむといいよ」
「わかりました」
「それと。僕はどうもね」
先生はここで苦笑いになりました、そのうえで言うことは。
「歌は苦手だけれど」
「そういえば先生歌は」
「うん、自信がないんだよね」
困った苦笑いになってです、首を傾げさせながらのお言葉です。
「どうにもね」
「殆ど歌われませんね」
「音痴なんだよ」
自分で言うことです。
「だからね」
「歌はですね」
「うん、カラオケもあるけれどね」
そうしたお店はというのです。
「僕は歌わないよ」
「そうですか」
「とにかく夜も楽しめる国だから」
お酒にカラオケにというのです。
「朝も昼も夜もね」
「はい、楽しくやらせてもらいます」
笑顔で応えるトミーでした、そのうえで。
トミーは納豆も梅干も美味しく食べて日本のはじめての朝を過ごしました、そして学校でもとても楽しく過ごすのでした。京都に行くまでの間も楽しんでいます。
トミーが来日したみたいだな。
美姫 「こちらも日本食を気に入ったみたいで良かったわね」
だな。生活する上で食事は大事だからな。
美姫 「本当よね。今回はトミーと先生の京都旅行の話になるのかしら」
さて、どうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。