『ドリトル先生と京都の狐』




              第六幕  お薬を作って

 先生達は霊薬の素を全て手に入れました、それからすぐにでした。
 長老の縮地法で母娘のお家に行きました、すると娘狐が先生達に笑顔で尋ねてきました。
「まさかと思いますけれど」
「はい、そのまさかです」
 先生はその狐に笑顔で答えました。
「後は作るだけです」
「そうですか、有り難うございます」
「すぐに出来るからのう」
 長老も先生に穏やかな笑顔で応えます。
「待っておいてくれな」
「そのお薬を飲めばですね」
「すぐに治る」
 お母さん狐の結核は、というのです。
「では待ってくれ」
「わかりました、それでは」 
 こうしてです、先生達は狐のお家の台所に入りました。そのうえですぐに霊薬の素を全て細かく刻んでからすり潰して混ぜていきました。
 お薬は順調に出来ていきます、先生のその見事な手際を横から見てです。
 先生は目を瞬かせてです、こう言うのでした。
「先生は薬の調合も出来るのじゃな」
「はい、そうなんです」
 先生は素を混ぜて潰していってお薬を作りながら答えました。
「こうして」
「そうか、薬剤師でもあるのか」
「そちらの資格も持っています」
 そうだというのです。
「医師と獣医とそれと」
「三つも持っておるのじゃな」
「そうなんです」
「凄いのう。しかしじゃ」
「しかし?」
「そんな先生がイギリスでは貧乏だったのか」
 そこまで色々な資格と腕を持っていて尚且つとても素晴らしい人だというのです。先生が生活に困っていたことが長老にとっては不思議だったのです。
 それで、です。首を傾げさせて言うのでした。
「そこがわからぬ」
「ああ、それはですね」
「先生は世間のことに疎いですから」
「病院の中に鰐がいたりでしたから」
「それでなんです」
 ここで動物達が長老にお話してきました、ここでも先生と一緒にいるのです。それでトミーと一緒に先生のアシスタントをしているのです。
「患者さんが怖がって」
「それで誰も寄りつかなくなったんですよ」
「妹さんも呆れてお嫁に行っちゃいましたし」
「それでなんですよ」
「イギリスじゃ先生ずっと貧乏だったんです」
「宣伝もしませんし」
「宣伝もねえ」
 このことについてはです、先生は微妙なお顔で言いました。
「僕はそういうのが苦手だからね」
「そうそう、だからね」
「先生って世渡りとか知らないからね」
 下手なのではありません、知らないのです。先生はそうしたことには本当に造詣がありません。とてもいい人なのですが。
「それでなんだよね」
「いつも貧乏だったんだよね」
「患者さんが来てくれなくてね」
「それでなんだよね」
「ふむ。事情はわかった」
 長老も先生がイギリスでどうして経済的に困っていたのかがわかりました。そういうことならというのです。
「それならな」
「おわかりですよね、先生が困っていた理由が」
「そういうことなんですよ」
「先生って本当に世の中のこと知らなくて」
「家事も全然出来ないんです」
「それは困るのう」
 長老は動物達の言葉にしみじみとして述べました。
「しかし日本では大学教授になってじゃな」
「収入は安定しています」
 先生から長老に答えました。
「今は」
「よいことじゃ。ではな」
「はい、それではですね」
「今の仕事を励まれることじゃ」
「僕もそうしていこうと思っています」
「仕事に励まれよ」
 今の様にというのです。
「頑張るのじゃ」
「わかりました、それでは」
 こうしたお話をするのでした、そしてです。
 そのお話の中でもお薬を作る先生でした、すると薬膳用の鉢の中で綺麗な緑色のお薬が出来上がりました。長老はそのお薬を見て言いました。
「これで完成じゃよ」
「ではこのお薬をお母さんに差し上げれば」
「胸の病は治るぞ」
 結核、それがだというのです。
「だからな」
「はい、今すぐ持って行って」
 こうしてでした、先生はすぐにでした。
 今もお布団の中で横たわっているお母さん狐のところに向かいました。お母さん狐は娘狐に枕元で正座で座ってもらっています。そのうえで人間の姿で寝ています。
 ですが先生がお薬を持って来てくれたのを見てです、笑顔で言うのでした。
「先生、作ってくれたんですね」
「はい、それではこのお薬を飲んで下さい」
「そうすればですね」
「胸の病は治ります」
 先生は明るい笑顔でお母さん狐に答えました。
「ですから」
「それで、ですね」
「そうです、すぐに飲んで下さい」
「この薬を飲めば労咳なぞ一発で治るぞ」 
 先生の左隣にいる長老もこうお母さん狐に言います、ですがそれだけでなくです。
 そのうえで、です。こうも言うのでした。
「すぐに元気になるのじゃ」
「はい、それでは」
「元気になって母娘で楽しく過ごすのじゃぞ」
 長老はお母さん狐に優しく言います、そしてなのでした。
 先生はお母さん狐にそのお薬を差し出しました、お母さんも受け取ってです。
 すぐに飲みました、すると顔色がみるみるうちによくなって。
 胸がすうっとしました、その感触を確かめてから言いました。
「本当に何か」
「治りましたか」
「これが霊薬の力なんですね」
「そうみたいです、僕もはじめて作ったお薬ですが」
「凄い効用ですね」
 結核が本当に一瞬で治ったのです。
「先生、有り難うございます」
「いえ、僕は」
 ここでも謙遜して言う先生でした、本当にとても謙虚な人です。
「何も」
「そう仰るのですね」
「そうです、ですから」
 お礼はいいというのです、そうしてなのでした。
 狐はお礼は言いませんでした、ですが無言で頭を深々と下げてから先生にあるものを差し出してきました。それは何かといいますと。
 お菓子です、先生はそのお菓子を見て狐に尋ねました。
「あれ、これは」
「はい、おたべです」
「京都のですね」
「そうです、京都のお菓子です」
 京都名物のお菓子です、おたべはよくお店でも売られています。
「母を助けて頂いたので」
「ですからお礼は」
「いえ、言葉のお礼だけがお礼ではありません」
 それでだというのです。
「ですからどうか」
「受け取って欲しいと」
「そうしてくれますか」
 こう先生に言うのです、そしてです。
 その他にも出してきました。それはといいますと。 
 茶器です、茶器を一式出してきて言うのでした。
「これもどうぞ」
「これは日本の」
「そうです、茶道に使うものです」
「おう、これはよい茶器じゃ」
 長老はその茶器を見て言いました。
「かなりの価値があるものじゃな」
「父が使っていたものでして」
 狐は長老にも応えます。
「長い間使っていませんでしたが」
「その茶器をじゃな」
「先生に」
 お礼に差し上げるというのです。
「受け取ってもらいたいのですが」
「いや、悪いです」
「悪くはありません」
 やっぱりこう言う狐でした、そこには確かな意志があります。
「ですから」
「だからですか」
「狐はお礼はちゃんとします」
 このことは絶対にというのです。
「無礼はあってはなりません」
「そうですか、それでは」
「どうぞ」
 こうしてでした、先生にその茶器一式が渡されました。長老はその茶器を見つつ先生にお話するのでした。
「先生は茶道の経験はおありかな」
「いえ、実は」
 それはとです、先生は長老の問いに素直に答えました。
「殆どありません」
「左様か」
「イギリスのお茶なら」
「ティータイムじゃな」
「そちらでしたら」
 嗜みがあるというのです。
「毎日三時には飲んでいます」
「左様か。しかし日本の茶道もな」
「よいものですね」
「だから楽しんでくれ」
 その茶道もというのです。
「是非な」
「そうさせてもらいます、そちらも」
「お茶はよい」
 イギリスのものも日本のものもとです、長老はお茶について語りはじめました。
「わしも大好きじゃよ」
「長老さんもですか」
「そうじゃ、茶は好きじゃ」
「あっ、それではお茶を淹れます」
 狐もここでこう言ってきました、お母さん狐はすっかり元気になっていてお布団を自分で畳んでしまっています。
 そのうえで、です。こう言うのでした。
「玄米茶でいいですか?」
「おお、玄米茶か」
「はい、それでいいでしょうか」
「茶なら何でもよい、しかし悪いのう」
 長老もこう言うのでした、謙虚な笑顔で。
「茶を出してもらうとはな」
「いえ、お気遣いは無用です」
「狐は申し出は受けるものだからじゃな」
「そうですよね」
「そうじゃ、それが狐じゃ」
 長老は狐の言葉に頷きました。
「だからじゃな」
「おはぎもあります」
「おお、尚よいな」
 長老はこのことにも笑顔で応えました、それでこう言うのでした。
「おはぎはよいのう」
「棟梁がお好きだと聞いていますので」
 用意したというのです、そのおはぎを。
「ですから」
「有り難い、では今から皆でな」
「玄米茶におはぎを」
「丁度よい時間じゃ」
 壁の時計を見るとです、本当にいい時間でした。
 それで、です。その玄米茶とおはぎが出てでした。
 皆でその二つを楽しみます、お母さん狐もそのおはぎをぱくぱくと食べて自分の娘に笑顔でこう言うのでした。
「やっぱりおはぎはいいねえ」
「お母さんも好きだしね」
「ええ、いいわ」
 とてもだというのです。
「元気になったから余計に」
「おはぎが美味しいのね」
「全くだよ、健康第一だよ」
「健康だからこそね」
 おはぎも他の食べものも美味しいのです。お母さん狐も娘狐もにこにことしています。そして王子もそのおはぎを食べて言います。
「いや、日本のお菓子はいいよ」
「うん、美味しいよね」
「何ていうか穏やかな甘さだよね」
「ほんのりとした感じでね」
「いいよね」
 動物達も明るい笑顔でこう王子に応えるのでした。
「お茶とも合うしね」
「この玄米茶ともね」
「玄米茶も美味しいし」
「最高の組み合わせだよ」
 彼等も楽しんでいます、そしてです。
 そのおはぎとお茶を楽しんでいる中で先生もこう言います。
「日本のお茶は本当に一杯あるね」
「そうですね、イギリスだと紅茶しかないですけれど」
 トミーも飲んで食べています、そのうえで先生に応えます。
「日本のお茶は種類も多いですね」
「僕はやっぱり紅茶が好きだけれど」
「日本のお茶もですね」
「好きだからね、どのお茶も」
「ではティータイムは」
「いや、その時はね」
 普段はというのです、ティータイムの時は。
「三時は。今日はともかくとして」
「普段はですね」
「やっぱりティーセットじゃないと」
 このことはどうしてもだというのです。
「これはこだわりだよ、僕の」
「三時は紅茶と三段のティーセットですね」
「うん、それだよ」
 その組み合わせが先生のこだわりだというのです、だからそれはというのです。
「三時は」
「ではそれ以外の時は」
「日本のものもいいね」
「それじゃあ今度からは」
 トミーは先生の言葉を受けて述べました。
「日本のお茶とお菓子を淹れますね」
「頼むよ、そちらもね」
「最近三時は大抵学校で過ごされていますね」
「だからその時はね」
 どうしているかというのです、学校でのティータイムは。
「研究室か喫茶店で飲んで食べているよ」
「そうされてますよね」
「八条学園にはティーセットを出してくれる喫茶店もあるから」
「そこでもですか」
「あと研究室には冷蔵庫も入れたよ」 
 こちらの用意もしたのです。
「そこにいつもケーキやサンドイッチ、あとエクレアもあるよ」
「僕達もいつもお邪魔してね」
「先生と一緒に楽しんでるよ」
 先生達もそうしているというのです。
「そうしてね、いつも先生と一緒にティータイムを楽しんでるよ」
「そうしているんだ」
「ふむ、ティータイムのう」
 長老はそのお話をおはぎをパクパクと食べつつ述べました。
「英国ならではじゃな、ただ」
「ただ、ですか」
「そこでそうなるんですね」
「わしはイギリスはそれだけで充分じゃ」
 ここでこう言った長老でした。
「あと朝御飯とな」
「そうですか」 
 トミーが長老のそのお言葉に応えます。
「じゃあ長老さんはやっぱり日本のお料理がですね」
「好きじゃ、特にな」
「揚げですか」
「やはりそれは外せぬ」
 もうこれは絶対だというのです。
「狐じゃからな」
「狐は揚げですね」
「それがなくてはな」
 とてもだというのです。
「我等は駄目じゃ」
「そうですか、日本の狐はとにかく揚げなんですね」
「大好物じゃ、しかしイギリスにはのう」
「揚げはないですからね」
「そもそも豆腐自体がない」
 長老雨はこのことは困ったお顔で言うしかありませんでした、イギリスに揚げがないのは当然ですがそれがだというのです。
「ではのう」
「困るんですね」
「左様、あと東国に行っておったが」
 日本の東の方です、そちらはどうかといいますと。
「あちらもちと味が違う」
「そうなんですよ、東の方は」
「どうにも」
 母娘もこうお話するのでした、先生達に。
「味が尖っていまして」
「お醤油が違うのです」
「あとだしも」
「全然違いまして」
「うん、日本の東の方はね」
 そちらの味はどうかとです、王子も言うのでした。
「味が濃い、それも大阪と違ってね」
「尖ってますよね、味が」
「そうなってますね」
「そうだよね、うどんでもね」
 王子がお話に出すのはこれでした。
「だしが辛いんだよね」
「物凄く黒くて」
「墨汁みたいですね」
「インクを入れているのかと思ったよ」 
 実際にです、王子はこう思ったのです。東京の方のおうどんを見て。
「何なのかなってね」
「しかも味がのう」
 長老はまた言うのでした、困ったお顔で。
「合わんわ」
「そうです、本当に」
「東国の味は」
「そもそも東の方は長い間荒れておった」
 長老は母娘に応えながらこんなことも言いました。
「江戸が出来るまで国の外れじゃった」
「そういえば日本の歴史では」
 どうかとです、先生も言います。
「長い間、江戸時代まで関東は日本の中心ではなかったですね」
「中心はあくまでここじゃった」
「京都ですね」
「都だったここがな」
 まさにです、日本の心臓だったというのです。京都は長い間。
「そうじゃった」
「そうでしたね、かつては」
「東はのう、鎌倉もあったが」 
 それでもだというのです。
「本当に何もない草ぼうぼうの田舎じゃった」
「東京もですね」
「あそこは何もなかったわ」
 東京は最初はそうだったというのです。
「家康さんが大きな城を築くまではな」
「今の皇居ですね」
「帝がおられるな、しかし皇居もな」
 かつてはとです、長老はしみじみとした口調で言うのでした。
「長い間ここにあったのじゃ」
「京都にですね」
「いや、もうない」
「ない、ですか」
「そうじゃ、もうない」
 だからだというのです。
「帝はあちらに行かれた」
「残念です」
「この街の誇りでしたが」
 母娘もこう言います。
「東京になぞ何があるのか」
「あの様な場所に」
「どうも京都の狐さん達は東京が嫌いみたいだね」
「そうだね」
 トミーは王子の言葉に応えました、三人の口調からこのことを察したのです。
「どうもね」
「あちらは」
「東京が好きな京都の者はおらん」
 長老はこのことをはっきりと認めました、その通りだというのです。
「そこは大阪や神戸も同じじゃ」
「つまり関西全体がですか」
「東京を嫌いなんですね」
「地域対立というものじゃな」
 長老はこのことはわりかし客観的に述べました。
「それは」
「ですがどうも」
 ここで先生が言いました。
「イギリス程強くはないですね」
「イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズじゃな」
「その四つの地域の対立が」
 イギリスでは、というのです。
「今も頭の痛い問題なんです」
「元々は別々の国じゃしな」
「そうです、イギリスは」 
 正式名称はグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国といいます、この国の地域対立は日本以上なのです。それがどうしてなのか先生はとてもよくわかっているので長老にも困ったお顔でお話するのです。
「四つの国でした」
「それが一つになった」
「非常に仲が悪いままです」
「大変じゃのう、実に」
「スポーツをする時は完全に別々ですから」
 サッカーやラグビーの時はです、本当にそれぞれの地域に分かれます。オリンピックの時は違うにしても。
「日本ではそうしたことはないですね」
「大阪と東京で分かれるのはのう」
「ないですね」
「考えられん」
 それはとてもというのです。
「まあ野球では巨人とそれ以外じゃがな」
「野球ではですか」
「うむ、巨人は関西では嫌われておる」
 野球についてはそうなっているというのです、日本では。
「東京のチームということもありな」
「そこには地域対立もありますが」
「しかし本当にイギリス程ではないからのう」
「それはいいことですね」
「イギリスも困っておるのじゃな、そのことで」
「はい、とても」
 特にアイルランド問題で、です。先生は正直な人なのでそのことを否定しません。
「中々解決しません」
「時間をかけてじっくりと進めていくしかないのう」
「そうですね、しかし日本でも地域があり」
「それぞれ思うところはある」
「そうですね、では」
「それではじゃな」
「はい、これからですが」
 先生は玄米茶を一口飲んでまた言いました。
「神戸に戻りまして」
「先生の生活に戻るのじゃな」
「そうします」
「よいことじゃ。そういえば神戸にもな」
「神戸にもとは」
「狐達がおってな」
 長老は目を細めさせて神戸の狐のことをお話するのでした、ここで。
「その棟梁がおってな」
「その棟梁の方も長老さんと同じくですか」
「そうじゃ、九本尻尾じゃ」
 即ち九尾の狐だというのです。
「千年生きておるな」
「そうなのですね」
「大阪にも奈良にもおる。近畿の各府県に一匹ずつな」
 九尾の狐がいるというのです。
「三重や滋賀、和歌山にもおるぞ」
「本当にそれぞれの府県にいますね」
「兵庫の棟梁は神戸の八条学園が家じゃ」
「そこは」
 八条学園と聞いてです、先生だけでなく他の皆もはっとしました。まさにその場所こそがだからなのです。
「僕が今勤めている場所で」
「ほっほっほ、そうじゃな」
「そうです、奇遇ですね」
「姫路城も家にしておるがな」
「あの白い綺麗なお城ですね」
「あそこは兵庫の妖怪変化全体の棟梁がおられるのじゃ」
 その姫路城にはそうした方がいるというのです。
「姫様がな」
「ティターニア女王みたいなのかな」
 トミーは姫路城の姫様のことを聞いてこの人をすぐに思い浮かべました。
「真夏の夜の夢も」
「イギリスではそうなるかのう」
「やっぱりそうなんですね」
「そうじゃ、とにかくな」
「兵庫県の妖怪変化の棟梁は姫路城にいて」
「そして九尾の狐はな」
 今は八条学園にいるというのです。
「姫様に遠慮するという意味でもそこにおるのじゃ」
「わかりました、では縁があれば」
「会ってみるのじゃ」
「はい、そうですね」
 そうしたことをお話してでした、そのうえで。
 先生達は最後に長老と明るくお話しました、ですが。
 時間は常に進んでいます、時間を止めることは人間にも妖怪にも出来ません。それで長老もこう皆に言いました。
「それではのう」
「はい、もうですね」
「そろそろ京都を発って」
「また会おうぞ」
 こう皆に言いました、そしてでした。
 皆は長老達と分かれて車に乗りました、そのうえで京都から神戸に戻りました。
 お家に着いた時はもう夜でした、先生はお家に入ってから皆にほっとしたお顔で言いました。
「やっと帰って来たね」
「はい、そうですね」
 トミーもそうしたお顔で先生に応えます。先生達をお家まで送った王子は自分の洋館に帰っていきました。
「やっとですね」
「そうだね、それじゃあ晩御飯は食べたから」
 車の中で、です。もう食べているのです。
「お風呂に入って寝よう」
「そうしましょう」
「明日からまた仕事だね」
 先生は笑顔でこうも言いました。
「頑張ろう」
「先生、寝巻きは」
「これだよ」
 パジャマでjはなくです、日本の甚平とズボンです。柿の葉の色のとても渋い落ち着いた色の服です。それを着るというのです。
「これを着てお布団で寝るよ」
「それじゃあまた明日」
「うん、明日ね」
 こうしてお風呂に入ってそれでゆっくりと休んでなのでした。先生達は日常生活に戻りました。そして数日後。
 また日本にサラが来ました、この時も先生のお家に来て紅茶とティーセットを楽しみながら先生達のお話を聞きます。
 そのうえで、です。こう言うのでした。
「日本の狐とイギリスの狐は全然違うわね」
「うん、本当にね」
「化けるのね」
 しみじみとした口調で言うサラでした。
「そうなのね」
「そうだよ、妖力があってね」
「人間に姿を変えられて」
「そう、長老さんがいてね」
「しかも尻尾がね」
 座布団に座っているサラは自分のお尻の方を見ました、この日もとても古風なビクトリア時のドレスを着ていますが。
 そのお尻の方を見てです、こんなことを言いました。
「増えるのね」
「長く生きているとそれだけね」
「増えるんだよ」
「成程ね」
「それで千年生きているとね」
「九本ねえ」
「そうなるのが日本の狐なんだ」 
 先生もサラにお話します。
「面白いだろ」
「そうね、童話みたいね」
「ははは、サラも日本の狐のお話に興味を持ったみたいだね」
「ええ、とてもね」
 その通りだと答えたサラでした。
「しかも揚げが好きで」
「そこもイギリスの狐と違うね」
「全くね、けれど」
「それでもだね」
「ええ、実は最近主人が和食を気に入ってきて」
 サラは自分のご主人のお話をここではじめました。
「何度も日本に来ているうちに」
「じゃあその揚げもね」
「今度作ってみるわ」
 こうお兄さんである先生に答えました。
「そうしてみるわ」
「そうしてみるといいよ、とにかくね」
「ええ、京都を満喫してきたのね」
「とてもね。楽しかったよ」
「それじゃあ私も今度ね」
 サラは微笑んで言いました。
「京都に行ってみるわ」
「そして楽しんでくるといいよ」
「私も狐に会えるかしら」
 先生達が会ったその狐にです。
「そうなれるかしら」
「ううん、どうかな」
「それはなの」
「ちょっとわからないね」
 先生はティーセットのスコーンをお口の中に入れつつ妹さんにお話しました。
「そこまではね」
「そうなのね」
「そう、けれどそれでもね」
「京都はなのね」
「楽しめるよ」
「それじゃあ私はね」
 サラは期待するお顔になっています、そのうえで言うことはといいますと。
「映画村に行きたいわ」
「あっ、時代劇の撮影で使う場所だね」
「実は時代劇好きなのよ」
「へえ、意外だね」
「特に忍者がね。子供達も忍者が大好きだから」
 それでだというのです。
「私も行ってみるわ」
「そうするといいよ、それじゃあね」
「兄さんも今度行ってみたら?」
 その映画村にというのです。
「面白そうじゃない」
「そうだね、今度京都に行った時はね」
「行ってみるのね」
「そうしようかな」
 こう答えた先生でした。
「時代劇もいいしね」
「そうでしょ、如何にも日本で」
「うん、それにしてもサラも」
「私が?どうしたの?」
「随分変わったね」
 サラそのお顔、イギリスにいた時と変わらず童顔で可愛らしいお顔を見ての言葉です。
「日本に親しんでるね」
「いや、それはね」
「それは?」
「兄さん程じゃないわ」
「ああ、僕はね」
「もう完全に日本人じゃない」
 そう見えないのはそれこそ髪の毛や目の色だけです。
「服装だって」
「この服だね」
「日本人にしか見えないわ」
 今の先生は洋服を着ています、ですがその洋服はイギリスの洋服ではありません。日本人がデザインして日本人が着ている洋服です。サラはその洋服を見て言うのです。
「本当にね」
「そこまで馴染んでるかな」
「馴染み過ぎよ、スーツは着てるの?」
「うん、学校ではね」
 それは守っているというのです、今も。
「先生としてね」
「だといいけれど」
「けれど普段はね」
 ラフな格好だというのです、ノーネクタイの。
「こうしているんだ」
「それで食べるものもなのね」
「そう、紅茶とティーセットは欠かさないけれど」
 それでもだというのです。
「お米が主食でね」
「お味噌汁も飲んですのね」
「うん、そうしてるよ」
 そうして日々を過ごしているというのです。
「和食はとても美味しいね」
「さっきも言ったけれど主人もね」
 サラはまた自分のご主人のお話をしました。
「最近和食が好きだけれど」
「それでもなんだ」
「やっぱりイギリスのお料理をよく食べるわ」
 そうなっているというのです、サラの方は。
「イギリスにいるしね」
「そうだね、イギリスにいるとどうしてもね」
 イギリスのお料理を食べるものです、その国にいればその国のものを多く食べる様になるのは当然のことです。
 だからサラのご主人もそうなっているのです、ですが。
 先生はです、日本にいるので。
「その辺りは兄さんと違うから」
「けれど僕はその中でもだね」
「馴染み過ぎてるわよ」
 その域に達しているというのです。
「本当に生粋の日本人みたいよ」
「それは面白いね」
「それだけ日本が気に入ったのね」
「そうだよ、そのことはね」
 先生も否定しません。
「僕もいいことだと思っているよ」
「私にとってみれば羨ましいわ」
「羨ましいんだ」
「そこまで色々なものに馴染んで自然に楽しく過ごせる兄さんがね」
 とてもというのです。
「羨ましいわ」
「まあ僕は色々な国を回ってきたしね」
「月にも行ったわね」
「あの時は色々あったね」
 あの時のことも笑顔でお話する先生でした。
「いや、よかったね」
「よかったのね」
「とてもね。それとね」
「それと?」
「また言うけれど」
 この前置きからです、サラがここで言うことはといいますと。
「兄さん日本にそこまで馴染んでいるのなら」
「日本人の女の人とだね」
「そう、結婚したら?」
 今日もこう言うサラでした。
「そうしたら?」
「ううん、それ狐の長老さんにも言われたよ」
「いい?私も結婚したし」
 自分のことからも言うサラでした。
「兄さんもよ」
「いい人を見付けてだね」
「そう、結婚するのよ」
 例え何があってもという口調で、です。サラは先生に強く言うのでした。
「人間は結婚してこそよ」
「そこからはじまるっていうんだね」
「そうよ、まさか一生独身でいるつもり?」
「いや、それはね」
「縁だっていうのね」
「そうだよ、縁だからね」
 それでだと言う先生でした。
「僕がしたいって思っていても」
「じゃあ兄さん結婚する気あるの?」
「いや、それは」
「ほら、ないでしょ」
 このことをここぞとばかりに指摘するサラでした。
「そんなのだからまだ独身なのよ」
「ううん、何かそんな気が起こらなくて」
「確かに家事は動物の皆がしてくれてるわ」
 特にこのことについてはダブダブが活躍してくれます、ダブダブは今はお庭に干していた洗濯ものを皆と一緒にしまっています。
「それでもね」
「奥さんは必要だっていうんだね」
「そうよ、奥さんを迎えて子供も出来て」
 今のサラみたいにです。
「それで幸せになってこそよ」
「人生だね」
「そうよ、そのうえでよ」
 やっと人生だというのです。
「わかったわね、早いうちにね」
「結婚して」
「そう、いいわね」
「ううん、どうなのかな」
 その難しいお顔で言う先生でした。結婚のことになるとどうしても足が止まる先生でした。そうしてなのでした。
 今はお茶を飲んで、です。こう言いました。
「何をすればいいかな」
「何かって。お見合いなり結婚相手を探すサイトなり一杯あるわよ」
「お見合いねえ」
「誰か紹介してもらったらいいじゃない」
 とても現実的な言葉でした、他に説明もいらないまでの。
「王子様も言ってるでしょ」
「よく言われるよ」
「それでどうしてなのよ」
「だからどうもね」
 足が止まるというのです、このことについては。
「努力しないといけないかな、このことも」
「そうよ、何でも努力あってこそよ」
「そういうものなんだね」
「私だってね、家庭のことと主人の会社のことと」
 その二つのことでだというのです。
「どっちも毎日必死に考えてね」
「そしてなんだね」
「そう、努力してるから」
 それでだというのです。
「これでもね」
「よく日本にも来てるしね」
「飛行機でね」
 それで来ているというのです、日本に。
「移動のお金は八条グループが出してくれてるの」
「そうしてもらってるんだ」
「そうなの、八条グループって気前がいいから」
 そうしたことも出してくれるのです。
「それは助かってるのよ」
「移動のお金も馬鹿にならないからね」
「そこを出してくれてるし」
 しかもだというのです。
「いいグループよ」
「僕が聞いてもそう思うよ」
「何はともあれ私も頑張ってるつもりだから」
 またこう言うサラでした。
「兄さんもいいわね」
「わかったよ、そっちも何とかするよ」
「そうしてね。それと」
「それと?」
「日本ってどうもね」
 ここで、です。サラは微妙なお顔になってこう言ったのでした。
「いい国だけれど一つ気になることがあるの」
「日本のことで?」
「そうなのよ、湿気が多いでしょ」
「ああ、梅雨は特にだね」
「夏もね」
 それでその湿気がというのです。
「どうしても気になるのよ」
「イギリスも雨が多いけれどね」
「イギリスとはまた違うのよ」
 日本の湿気はというのです。
「異様にじめじめして、暑く感じて」
「それで木造の家が出来たんだよね」
「それが駄目なんだね」
「私としてはね」
 そうだというのです、サラの場合は。
「そこが駄目なのよ」
「そうなんだ、じゃあ」
「日本に住むのはね」
 それはどうもというのです。
「私は抵抗があるわ」
「僕は気にならないけれどね」
「私は気になるの。湿気は苦手なのよ」
「そうなんだね」
「そう、そのことがどうしても気になるわ」
「そのことは仕方ないね」
 先生にしてもです、そのことまでは言うことはしませんでした。元々誰かにあれをしろこれをしろと言う人でもないですし。
「馴染めないことは誰にでもあるよ」
「そうでしょ、とにかくね」
「結婚のこともだね」
「考えておいてね」
 結婚のことは強く言うサラでした、先生に。
「それはいいわね」
「わかったよ、僕には一番大変な努力だね」
「それでもしないと」
 逃げずにです。
「何にもならないから」
「独身でいてもいいことjはないね」
「ないわ」
 きっぱりとした口調でした。
「全くね」
「そういうものなんだね」
「そう、子供もいてこそよ」
 伴侶だけではありませんでした。
「人生なのよ」
「僕が父親にねえ」
「何かずっと子供みたいなところもあるけれど」
 サラから見ればです、世の中のことに全くもって疎い先生はどうしてもそう見えるのです。とてもいい人なのですが。
「それでもよ」
「結婚して子供も出来て」
「皆であれこれありながらも」
 それでもだというのです。
「幸せに過ごしてこそよ」
「人生なんだね」
「まあ兄さんはもうね」
「もう?」
「そう、いい歳だから」
 それで余計にというのです。
「早く見付けてね」
「やれやれ、本当に皆から言われるね」
「それだけ皆兄さんのことを心配しているのよ」
 勿論サラもです、こう言ってなのでした。
 サラは今は先生達と一緒に日本で仲良くお茶を楽しみました。自分も何時か京都に行って楽しもうと思いながら。


ドリトル先生と京都の狐   完


                              2014・1・16



お母さん狐の病気が治って良かったな。
美姫 「本当よね。霊薬というぐらいだからかしらね、効き目も早かったわね」
だな。でも、完治したのは良い事だ。
美姫 「そうね。それにしても、九尾の狐がまだ他にもいるのね」
しかも、先生の通う学園にな。
美姫 「そのうち、ひょっこりと出てくるかしら」
それもちょっと楽しみだな。
美姫 「その辺も含めて楽しみにしてますね」
ではでは。



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