『ドリトル先生と伊予のカワウソ』




               第二幕  松山に着いて

 先生達は港の船に乗り込んで松山に向かいました。そのお船の中から青い海と空、それに白い波と雲を見ながらです。
 ポリネシアはです、船の甲板のところからその海と空を見ている先生に尋ねました。
「先生、いいかしら」
「何かな」
「飛行機は使わなかったの?」
「あっ、そうだね」
「そういえばね」
 ジップとチーチーもポリネシアの言葉にそのことに気付きました。
「飛行機の方がずっと早いけれど」
「船なんだ」
「先生どうして船なの?」
「船にしたの?」
「うん、時間があったからね」
 先生は動物達にです、微笑んで答えました。
「それなら船旅を楽しもうって」
「そう思ってなんだ」
「それでなんだ」
「そうだよ、船にしてね」
 そして、というのです。
「行きはゆっくりと楽しんで」
「船旅を」
「それをだね」
「そうだよ、やっぱり旅はね」
 それはといいますと。
「船が一番じゃないかな」
「ゆっくりと行けるし」
「しかも景色も楽しめるし」
「だからなのね」
「船なのね」
「うん、それに船旅だと皆と一緒にいられるけれど」
 今の様にです。
「飛行機だと中々こうはいかないからね」
「僕達別のお部屋に入れられるからね」
「そうそう、倉庫にね」
 オシスオサレツもいます。彼は二つの頭でそれぞれお話をします。
「だからね」
「先生と一緒にいられないし」
「倉庫の中は殺風景で寒くて」
「嫌な場所よね」
「一緒にいられるのならいいけれど」
 それならと言う先生でした。
「船旅の方がいいからね」
「だからなんだね」
「先生はいつも船旅なんだね」
「船で旅をするのが好きなんだね」
「今みたいに」
「そういうことだよ。それじゃあね」
 先生は動物達にお話してです、そしてです。
 皆にです、その船の中でこうも言いました。
「じゃあ今はね」
「うん、今は」
「今はだね」
「船室に入って休もうか」
「お昼までは」
「そうするんだね」
「本でも読んでね」
 そうしてというのです。
「時間を過ごそう」
「ティーセットはあるの?」
 ダブダブは船の中でも食べることでした。
「そっちは」
「それは三時だから」
「あっ、そうだったね」
「それはまだだよ」
 先生は微笑んでダブダブに答えました。
「お昼を食べてからね」
「少し経ってからだね」
「紅茶は何時飲んでもいいけれど」
 こちらは、というのです。
「あの三段のセットは三時だよ」
「船の中でもだね」
「やっぱり僕はティーセットがないとね」
 どうしてもというのです。
「駄目だからね」
「そうそう、先生は幾ら日本に親しんでもね」
「ティーセットは絶対だよね」
「毎日三時にはね」
「ティーセットだよね」
「国籍が日本になってもね」
 それでもだというのです。
「それでもね」
「ティーセットはだね」
「どうしても」
「外せないね」
「そうなんだよ、僕はね」
 これだけはなのでした。
「紅茶とね」
「ティーセットだね」
「三時には」
「うん、ただ思うんだけれど」
 ここで、です。先生は考える顔でこう言ったのでした。
「日本のティーセットとイギリスのティーセットは全く違うね」
「同じメニューでも?」
「違うんだよ」
「うん、紅茶にしてもね」
 これ一つ取ってもというのです。
「お水が違うし」
「けれど葉は一緒だよね」
 ここでジップがこのことを指摘しました。
「香りは変わらないよ、セイロンだと」
「そう、お茶の葉が一緒でもね」
「それでもなんだ」
「日本のお水は美味しいんだよ」
 そこがまず違うというのです。
「軟水でね」
「そういえば日本のお水は」
「違うね」
「うん、柔らかいよ」
 こう表現するジップでした、日本のお水を。
「確かに」
「飲みやすいね」
「お肌にもいい感じだね、毛にも」
「そうなんだ、日本のお水はいいから」
「だから紅茶もなんだね」
「違うんだよ」
 その味が、というのです。
「それにミルクやお砂糖も」
「そういうのもなんだね」
「何もかもが違っているから」
 葉は同じでもです、その他のものがというのです。
「味もいいんだよ」
「そうだったんだね」
「そうだよ、面白いことにね」
「ううん、紅茶も全然違っていて」
「しかもね」
 さらに言う先生でした。
「ティーセットのスコーンやケーキもね」
「あっ、確かに」
「日本のだと」
 動物達も日本のケーキについてはこう言います。
「違うね」
「かなり美味しいよ」
「味が繊細でね」
「素材を活かしているよね」
「日本人は美食家なんだね」
 ここでこう言ったのはホワイティでした。
「食べていてそれがわかったよ」
「ホワイティは最近クッキーがお気に入りだね」
「日本のがね」
 まさにそれがと答えたホワイティでした。
「最近僕のお気に入りだよ」
「そうだね」
「うん、本当にいいよ」
 美味しいというのです。
「甘さがまた違うんだ」
「日本のものはね」
「クッキーはイギリスの食べものだったと思うけれど」
「日本のクッキーはね」
「僕にとってはイギリスのより美味しいかな」
「僕もそう思うよ。だからね」
 それでだというのでした。
「これからもね」
「日本にいても」
「日本のティーセットを楽しむ」
「そうするんだね」
「紅茶もね。それにね」
 ここでこうも言った先生でした。
「お抹茶もね」
「あっ、日本のお茶だね」
「あの緑色のお茶」
「あれもだね」
「先生最近お気に入りなんだ」
「最初飲んだ時はびっくりしたよ」
 その時のことを思い出してです、ここではつい苦笑いになった先生でした。
「どうもね」
「あのお茶苦いからね」
「お抹茶はね」
「紅茶よりもずっとね」
「凄い苦さだよね」
 動物達もお抹茶、日本のそのお茶についてはこう言うのでした。
「もうびっくりする位」
「コーヒーよりもまだね」
「苦いから」
「しかも日本人ってああしたお茶にはお砂糖入れないし」
「そう、僕も最初は飲んでびっくりしたよ」
 実際にと言う先生でした。
「あまりもの逃さにね」
「けれど今ではだよね」
「先生もね」
「あのお茶も飲むよね」
「お抹茶も」
「うん、飲むよ」
 実際にだと答えた先生でした。
「和菓子も好きだしね」
「何か慣れるとね」
「あのお抹茶もいいんだよね」
「美味しいし」
「飲むと目が覚めるし」
「僕はコーヒーよりも紅茶派だけれど」
 このことはイギリス生まれという以上にです、先生の相当な紅茶好きそのものが出ていると言えます。とにかく先生は紅茶が大好きなのです。
「それでも日本のお茶もね」
「好きなんだね」
「そうなったんだね」
「松山でもね」
 そこに着いてもというのです。
「紅茶を飲んでティーセットも楽しむけれど」
「三時にはね」
「それは絶対だよね」
「けれどね」
 それでもだというのです。
「お抹茶も出たらね」
「その時はだね」
「そのお茶も楽しむんだね」
「そうするんだね」
「うん、そうするよ」
 是非にというのでした。
「そして他のお茶もね」
「お抹茶以外のお茶も」
「そのお茶も」
「そう、楽しむよ」
 そうだというのです。
「梅茶も焙茶もね」
「というか日本のお茶って多いよね」
「何種類あるかわからない位にね」
「数えきれない位にね」
「あるよね」
 動物達も日本のお茶が何種類あるかわかりません、とにかく日本のお茶の種類が多いからです。どうしてもなのです。
「本当に」
「紅茶だけじゃないから」
「日本人ってイギリス人以上にお茶好きかもね」
「ひょっとしたらね」
「そうかも知れないね。皆色々なお茶を飲むからね」
 先生もこう言うのでした。
「紅茶も飲むしね」
「コーヒーだって飲むしね」
「あとココアも」
「紅茶一つでも一杯種類があるし」
「凄いよね」
「だからサラもびっくりしているよ」
 日本のそのお茶の種類の多さにです。
「僕にこれだけお茶の多い国はないって言ってるよ」
「そうだろうね、そりゃサラさんも驚くよ」
「日本のお茶は多いから」
「それは当然だね」
「本当にね」
「そうだね。さてまずはお昼だけれど」
 先生はこの時のことも言うのでした。
「何を食べようかな」
「オムライスとかどうかな」
 このお料理を勧めてきたのはチーチーでした。
「あれね」
「あのチキンライスをオムレツで包んだ料理だね」
「うん、あれはどうかな」
「いいね、あれは美味しいよ」
 オムライスについてもです、先生は唸る様にして言いました。
「まさかあんな食べ方があるなんてね」
「想像もしなかったよね」
「確かに日本人の主食は御飯だよ」
 ここがイギリスとは違います。
「けれどね」
「それでもだよね」
「うん、洋食でああしたチキンライスを作って」
「それをオムレツで包むなんてね」
 薄いオムレツで、です。
「誰も考えつかないよね」
「凄い発想だよ」
 もう手放しで褒める先生でした。
「そのオムレツの上にケチャップをたっぷりかけて食べるのがね」
「いいんだよね」
「日本人はアレンジの天才だよ」
 まさにというのです。
「あんなものを作られるなんてね」
「全くだよね」
「よし、決めたよ」
 先生はチーチーと話してでした、明るい笑顔で言いました。
「お昼はオムライスだよ」
「それだね」
「オムライス食べるんだね」
「うん、食べるよ」
 こう言うのでした。
「オムライスを食べられる面々の分を頼んでね」
「僕達はいつも通りだね」
「草だね」
「それだね」
 馬とオシツオサレツは自分達から言ってきました。オシツオサレレツはこの時も二つの頭でお話をするのでした。
「それも用意してくれているのかな」
「用意していなかったらお野菜でもいいよ」
「そっちでもね」
「君達の草は用意してもらっているよ」
 微笑んで、です。先生は馬とオシツオサレツに答えました。
「だからね」
「それじゃあだね」
「僕達はその草を食べて」
「船旅も楽しめるんだね」
「そうだよ、その辺りの手配はね」
「僕がしたよ」
 トートーが言ってきました。
「そこはね」
「そうなんだ、有り難うトートー」
「いつも悪いね」
「そうした手配をしてもらって」
「いいのよ。だって先生そうしたことには疎いから」
 とにかくです、世間のことには弱い先生です。
「トミーと一緒にしていたから」
「ああ、トミーだね」
「トミーも手伝ってくれてだったんだね」
「それでだったんだ」
 馬とオシツオサレツも納得しました、そうしてです。
 そうしたお話をしてです、先生達は船の中で食事やティーセットも楽しみました。そうして瀬戸内の中を進んでいってです。
 松山に着きました、ポリネシアが船内のそれを知らせるアナウンスを聴いて先生に言いました。
「先生、そろそろよ」
「うん、わかってるよ」
 先生はポリネシアに穏やかな笑顔で答えました。
「松山だね」
「ええ、着いたわよ」
「思ったより早いかな」
 先生はここでこうも言いました。
「松山まで着いたのは」
「そうかしら」
「うん、もっと時間がかかるかなって思ったけれど」
 それが、だったからというのです。
「早かったね」
「船が速かったのかしら」
「そうかも知れないね。さて、それじゃあね」
 先生はお部屋にかけてあった帽子を手に取って言いました。
「いよいよだね」
「松山ね」
「論文も発表してね」
「論文もちゃんとトランクに入れておいたわよ」
 ガブガブが先生こう言ってきました。見ればガブガブは先生の足元で羽根を広げています。
「あの封筒に入っていた分厚いのよね」
「そう、それだよ。ちゃんと日本語で書いてあったよね」
「封筒の表によね」
「そう、論文ってね」
「ええ、それも確認したわよ」
 この辺り流石はガブガブです、抜かりはありません。
「ちゃんとね」
「それじゃあ大丈夫だよ」
「行けるわね、これで」
「何しろ論文を発表する為に松山に来たんだからね」
「それならよね」
「論文がないと話にならないよ」
 それこそというのです。
「だから有り難いよ」
「それじゃあね」
「うん、それじゃあね」
「港に着いたら船を降りて」
「松山だよ」
 こう話してです、そしてでした。
 一行は全員で船から出ました、するとその船の前にです。
 一人の背の高いすらりとした人がいました、その人がです。
 穏やかで知的な笑顔で、です。先生達に声をかけてきました。
「ドリトル先生ですね」
「はい」
 先生は穏やかな笑顔でその人に答えました。
「そうです」
「お待ちしていました、私が先生の応対役を務めさせて頂く加藤という者です」
「加藤さんですか」
「Kです」
 ここで、です。加藤さんは笑って自分の頭文字を言いました。
「そう呼んで頂いても結構です」
「いえいえ、それは」
 そのKという呼び方はです、先生も知っていてです。 
 そうしてです、こう言うのでした。
「あまりいいとは思いませんので」
「心、ですね」
「はい、ですから」
「こころは悲しい作品ですからね」
「そうですね、読ませて頂きましたが」
「あっ、夏目漱石もですか」
「最近読ませてもらっています」
 先生は穏やかな笑顔で加藤さんにお話しました。
「日本語の勉強の為にも」
「素晴らしい。ドリトル先生は語学でも優れていると聞いていますが」
「いえ、それは」
「違うというのでしょうか」
「そうして褒めて頂くと」
 それは、というのです。
「恥ずかしいので」
「だからですか」
「はい、僕は褒められることが苦手です」
 こう加藤さんに言うのでした。
「ですから」
「そうですか」
「あまり褒めるということはです」
「しないで、ですね」
「そうされて下さい」
「わかりました、では先生」
 加藤さんは先生とこうしたやり取りをしてからです、あらためてでした。
 先生にです、動物達を見回してから答えました。
「彼等と一緒にですね」
「はい、常に一緒にいたいのですが」
「そのことはもう聞いていますので」
「それではですね」
「泊まる場所も手配していますので」
 先生が動物達と一緒に泊まるところもです。
「ご安心下さい」
「有り難うございます」
「ドリトル先生はいつも動物達ち一緒でなければならない」
「僕の場合はどうしてもです」
「そうですね、ですから」
「そうしたホテルを手配してくれたのですね」
「ホテルというか旅館ですね」
 そちらになるというのです。
「そlこに今からご案内します」
「申し訳ありません、何から何まで」
「いえいえ、当然のことなので」
 先生が動物の皆と一緒に泊まれる旅館の場所の手配はというのです。
「このことも」
「だからですか」
「そう、ですから」
 お気になさらずというのです。
「これは私の仕事ですから」
「それでは」
「はい、その旅館にこれから案内しますので」
「わかりました」
 先生は加藤さんににこりと笑ってです、そしてなのでした。
 皆でその旅館に入りました。そうして。
 その旅館に入ってでした、加藤さんは先生に和風のそのお部屋の中で座布団の上に正座して同じく座布団の上に正座している先生に言いました。
「明日論文の発表でして」
「はい、そうでしたね」
「先生には論文を発表して頂いてから」
「それからですね」
「そうです、そこからは特に予定がないで」
「自由時間ですか」
「この松山を楽しんで下さい」
 加藤さんは先生ににこりと笑ってお話しました。
「是非共」
「わかりました、それでは」
「それとです」
「それと?」
「今日は野球の試合もあるのです」
「野球の、ですか」
「坊ちゃんスタジアムで」
 この松山にある野球場で、というのです。
「そちらはどうでしょうか」
「野球の試合ですか」
「先生は八条大学の方ですよね」
「医学部にいます」
「その八条グループが経営している八条リーグの試合が行われるのです」
「あのリーグですか」
 八条リーグと聞いてです、先生は加藤さんに言いました。
「日本のもう一つのプロ野球である」
「そうです、そのリーグの試合がありまして」
「どのチームとどのチームの試合でしょうか」
「愛媛レッドソックスと讃岐ホワイトソックスのです」
 この二つのチームの、だというのです。
「試合です」
「そうですか」
「はい、観戦されますか」
「そうですね、面白そうですね」 
 先生は微笑んで加藤さんの言葉に答えました。
「それでは」
「はい、では」
 それではと言ってでした。先生はこの日はでした。
 その坊ちゃんスタジアムで野球の試合を観戦することにしました、勿論動物達も一緒です。その時にです。
 ふとです、加藤さんは先生にこう言いました。皆バックネットの席にいます。
「先生はイギリス生まれでしたね」
「はい、そうです」
「イギリスでは野球は」
「最近やっとです」
「やっとですか」
「はい、する人も出てきました」
「イギリスはサッカーやラクロスですね」
「それとラグビーですね」
 このスポーツもというのです。
「他にはテニス、それとクリケットですね」
「そうしたスポーツが盛んですね」
「そうです、ただ僕は」
「先生は、ですか」
「スポーツを観ることは好きですが」 
 それでもだというのです。
「することはです」
「苦手ですか」
「そうなのです」
 このことを言うのでした。
「どうにも」
「そうだったのですか」
「この体型ですから」 
 笑っての言葉です。
「することは苦手です」
「学生時代スポーツは」
「していません、全く」
 先生は笑って加藤さんにお話しました。
「苦手だったので」
「そうなのですか」
「体育の授業も」
 学生時代のそれもというのです。
「からっきしでした」
「ですが観戦はですね」
「嫌いではありません」
「それで野球も」
「イギリスでは観ませんでしたが」
 先生は今は日本にいます。日本では野球も盛んなので。
「今は観ます」
「そうですか。では」
「はい、今もここで」
「野球を観ましょう」
「それでは」
 こうお話してでした、先生は松山でまずは野球を観戦するのでした。試合は一進一退の状況でした。お互いに一歩も引きません。
 その試合を観つつです、加藤さんは先生にこんなことを言ってきました。
「実はこの松山にはです」
「何かあるのですか?」
「高校野球の名門もありまして」
「そうなのですか」
「松山商業といいまして。甲子園はご存じですね」
「日本の高校生の野球の全国大会が行われる球場でしたね」
 先生は自分が大学で学生さん達が教えてくれたことを加藤さんにお話しました。
「それでしたね」
「そうです、そこで何度も優勝している学校です」
「何度もですか」
「松山、いえ四国人は野球好きなんですよ」
 加藤さんはにこにことしながら先生にお話します。
「これが」
「だからですか」
「この松山にもそうした学校があります」
「成程、そうなのですか」
 先生は加藤さんのお話を聞いて勉強になりますというお顔で頷きました。
「神戸もそうですが」
「神戸といいますか関西もそうですね」
「阪神タイガースが人気ですね」
「ははは、関西はそうですよね」
「八条リーグでは兵庫タイガースや大阪バファローズ、西宮ブレーブスですね」
「そうしたチームが人気ですね」
「やっぱり阪神ですね」
 関西で野球といえば、というのです。
「大学でも阪神ファンの人がかなり多いです」
「わかります、関西は阪神ですね」
「愛媛ではどうなのでしょうか」
「やっぱり松山商業の関係で高校野球も人気ですし」
 それに、というのです。
「独立リーグに八条リーグもありますが」
「プロ野球の方は」
「広島ですね」
 このチームだというのです。
「広島東洋カープの人気が高いですね」
「あの赤い帽子のチームですね」
「そうです、赤ヘル軍団です」
 加藤さんは先生にとても楽しそうな笑顔でお話します。
「凄くいいチームですよ」
「そうですか、広島ですか」
「そうです、私もファンです」
「では地元広島では」
「もう完全にカープ一色ですよ」
 そうなっているというのです。
「カープこそが愛する存在です」
「そこまで人気があるのですか」
「関西での阪神に負けていないと思いますよ」
「いや、日本の神戸に入って驚きました」
「野球、特に阪神の人気にですね」
「黒と黄色で派手なチームだと」
 先生はその阪神を見て本当にそう思いました、何という派手なチームだとです。
「まさに虎だと」
「ユニフォームは黒と白で」
「ホワイトタイガーですね」
「ですね、ユニフォームは」
「あのユニフォーム格好いいですね」
 もうすっかり阪神に魅了されている先生です、お話するそのお顔もにこにことしています。
「今では僕も阪神ファンになっています」
「ははは、では敵同士ですね」
 加藤さんは先生が阪神ファンになっていると聞いて笑顔で言いました。
「私は広島ファンですから」
「そうですね、そうなりますね」
「負けませんよ、今年も」
「こちらこそです」
 こう笑ってお話しながらです、八条リーグの試合を観戦するのでした。試合は結局引き分けでした。その試合の後で、です。
 加藤さんは先生にです、球場を後にする時にこう言いました。
「先生の旅館は温泉宿ですので」
「あっ、そういえば部屋に露天風呂がありますね」
「お風呂はお好きでしょうか」
「日本に来てからです」
 まさにその時からでした。
「お風呂が好きになりました」
「イギリスではシャワーですね」
「はい、しかもそのシャワーも」
「対かイギリスではお水が硬水でしたね」
「そうです、ご存知でしたか」
「イギリスには行ったことはありませんが」
 それでもだというのです。
「話は聞いています」
「そうですか」
「そうです、それでシャワーを浴びてですね」
「泡は洗い落とさないんです」
 先生はイギリスでのシャワーの浴び方もです、加藤さんにお話します。
「タオルで拭くだけです」
「そうでしたね」
「しかし日本では」
「はい、お水は軟水で」
「それで、ですね」
「泡も洗い落とします」 
 加藤さんはこう先生にお話します。
「そうします」
「そうですね、日本では」
「そこもイギリスと日本の違いですね」
「ここまでお風呂を楽しむ国はそうはないかと」
「ドイツやハンガリーにも温泉はあるのでは」
「いえ、それ以上です」
 欧州のそうした国の人達よりもです、日本人はお風呂を楽しんでいるというのです。
「凄いですよ」
「そうなのですね」
「それで温泉に入ってですね」
「そうです、お酒も」
「日本酒ですね。何かすっかり親しんできました」
「そうそう、先生ご自身も」
 松山は夜も賑やかです、その人が多く明るい街の中を進みながらです。加藤さんは一緒に歩いている先生に顔を向けつつ言いました。
「日本人に見えますよ」
「雰囲気がですか」
「はい、何か浴衣が似合いそうですね」
「よく言われます」
 実際にというのです。
「浴衣が似合うと」
「そうでしょうね」
「はい、嬉しいですね」
「l着物とかは」
「実は家で甚平とか着ていまして」
「おお、それはそれは」
 加藤さんは先生が甚平を着るということを聞いてです、夜道の中でさらに明るいお顔になって言うのでした。
「かなりのものですね」
「日本ですか」
「はい、日本的ですね」
「そうですか、僕は日本人になってきていますか」
「相当に日本のことをご存知ですし日本語も」
 先生が使っているその日本語もというのです。
「相当に流暢ですね」
「まだまだ勉強中です」
「いやいや、言葉は一生のものです」
「一生学んでいくものですか」
「そうです、ですから」
「このことはですね」
「勉強中とかではないと思いますよ」
 こう先生にお話するのでした。
「とにかく先生の日本語は」
「これはですか」
「とてもいいと思います。日本人みたいですよ」
「そうですか、だといいですが」
「それで旅館に戻ったら」
「温泉ですね」
「それに今の時間ですと」
 加藤さんは自分の左手の腕時計で時間を確認して言いました。
「旅館の夕食も」
「それもですね」
「松山は海もありますので」
「海の幸もですね」
「はい、楽しんで下さい」
「お刺身でしょうか」
 先生は楽しそうな笑顔で言いました。
「それは」
「それもあるでしょうが」
 加藤さんはここで、です。先生のこのお料理の名前を出しました。
「松山寿司か鯛飯か」
「鯛飯ですか」
「どれかが出ると思います」
「鯛飯といいますと」
「まずは鯛を一尾そのまま焼きます」
「一尾をですか」
「はい、そうです」
 加藤さんは先生のその鯛飯のことをお話するのでした。
「それからお塩やお醤油で味付けをしてです」
「そこに御飯をですね」
「そうです、半炊きの御飯の上に乗せて」
 そして、というのです。
「そこからまた熱したものです」
「それが鯛飯ですか」
「そうです、松山寿司は瀬戸内海の小魚を使ったちらし寿司です」
 松山寿司のこともお話する加藤さんでした。
「他には蛸飯というものもあります」
「蛸ですか」
「はい、そうしたお料理もあります」
「何か色々ありますね」
「先生は坊ちゃんを読まれたとのことですが」
「あれで主人公が天ぷらそばを食べていますが」
 坊ちゃんの一場面の一つです。主人公が蕎麦屋を見つけてそこで天ぷらそばを食べたのです。
「三杯も」
「それもありますが」
「他にもですか」
「後はうどんも有名です」
「あちらもですか」
「この松山のうどんは讃岐のうどんとまた違いまして」
「ではそのおうどんも」
 先生は微笑んで加藤さんんい尋ねました。
「この松山にいる間に」
「召し上がられればよいかと」
「そうですか、では」
「はい、松山の料理もお楽しみ下さい」
「温泉、観光と共にですね」
「お仕事で来られましたが」
 それに加えてというのです。
「松山に来られたのは縁、でしたら」
「その縁を大事にしてですね」
「はい、楽しまれて下さい」
「それでは
 こうお話してでした、そうしてです。
 先生は旅館に入りました。そうして出て来たのは鯛のお刺身にでした。
 松山寿司でした、一緒に食事を摂ることになっている加藤さんが先生にお話します。周りには動物達も一緒です。
 小魚が何種類もです、上にまぶしてあるちらし寿司を見て言うのでした。
「これがです」
「松山寿司ですか」
「はい、そうです」
「かなり美味しそうですね」
「実際にかなり美味しいです」
 加藤さんは満面の笑顔で先生にお話するのでした。そしてその加藤さんを見つつです、動物達が先生に言ってきました。
「先生、松山寿司だけじゃないよ」
「お刺身も凄いよ」
「天麩羅もね」
 海老や烏賊に鱚にです。茄子や薩摩芋を揚げたそれもあります。その他にも海のものを使った色々なお料理があります。
「美味しそうだよ」
「幾つもね」
「かなり美味しそうだよ」
「このお料理は」
「そうだね、これが松山なんだね」
 先生も唸るお顔で動物達に応えます。
「それじゃあね」
「うん、今からね」
「このご馳走食べようね」
 馬とオシツオサレツにはとても質のいい草が用意されています。
「先生もその松山寿司を食べてね」
「お刺身もね」
「それではね」
 先生は動物達にも応えてです、そうしてでした。
 加藤さんと一緒に晩御飯を食べるのでした。お箸を取って最初はその松前寿司をお口の中に入れました。
 そしてです、こう言いました。
「これは」
「如何でしょうか」
「かなり美味しいですね」
 先生は満面の笑顔でお話しました。
「本当に」
「そうですか、それは何よりです」
「それではですね」
「この松山寿司も他のお料理も」
「召し上がられますね」
「そうさせて頂きます」
 こう加藤さんに言ってでした、そのうえで。
 先生は松山の海の幸を楽しみました、お野菜もです。お酒も飲んでいます。先生は松山の日本酒を飲んで言うことはといいますと。
「このお酒もですね」
「いいですね」
「美味しいです」
 先生はにこにことして飲んでいます、そのお酒を。
 そうしつつです、こうも言うのでいsた。
「幾らでも飲めます」
「そういえば先生はお酒は」
「いけます」
 おちょこに入れたお酒を飲みつつ加藤さんに答える先生でした。
「お話した通り日本酒も」
「それもですね」
「いける様になりました」
「そこも日本人ですね」
「イギリスにいた頃も色々な国を巡りました」
 そして冒険を経てきました、先生の冒険は動物達と一緒に様々なものを見て経験してきたのです。月に行ったこともあります。
「その中で色々なお酒を飲んできましたが」
「日本酒はですね」
「はい、そのお酒の中でもです」
 先生は飲みつつ言うのでした。
「日本酒はかなり美味しいです」
「先生に合っていますね」
「日本自体が僕を受け入れてくれたみたいで」
「それで、ですね」
「日本酒もです」
 このお酒もというのです。
「かなり美味しいです」
「だからですね」
「かなり飲めます」
「それは何よりです。しかし」
「それでもですか」
「後でお風呂に入りますので」
 お部屋の窓から見事な露天風呂が見えます、加藤さんはその露天風呂を見ながら先生にお話すうるのでした。
「今はお酒をです」
「控えてですね」
「その後でじっくりと」
「お酒はですね」
「楽しまれた方がいいかと」
「そうですね」
 先生も加藤さんのそのお言葉に頷きました。
「今は」
「お酒は逃げないですから」
「そうですね、お酒は」
「はい、逃げません」
 決してというのです。
「ですから」
「今はですね」
「お酒は控えられて」
「お風呂に入った後で」
「じっくりと楽しまれて下さい」
「そういえば」
 ここでお料理を見るとです、その中に。
 和菓子もあります、先生はその和菓子も見て言いました。
「デザートもありますね」
「松山は和菓子もいいのです」
「お菓子もあるのですか」
「はい、そうです」 
 加藤さんは先生にこのことをとても嬉しそうにお話します。
「そちらもよくて」
「美味しいものの宝庫ですね、松山は」
「少なくとも太ることが不安にはなりますね」
 美味しいものが多くて、というのです。
「では」
「はい、お酒は今は控えて」
「和菓子も楽しませてもらって」
「お風呂の後で」
「お酒を楽しませてもらいます」
「そうされて下さい」
 こうしてでした、先生はです。
 今はお酒を控えてです、お料理を楽しんででした。
 その後でお風呂を入りました、加藤さんは帰ってしまいましたが動物達と一緒です。先生はそのお風呂の中に動物達と一緒に入っています。
 その中で、です。先生にジップが言ってきました。
「先生、明日論文を発表したら」
「うん、後はね」
「これといってだよね」
「何も予定はないよ」
 そうだというのです。
「特にね」
「それじゃあ観光だね」
「いい機会だよ」
 先生にとってもというのです。
「松山を観る為にもね」
「そして松山のこともだね」 
 ジップはお風呂の中から先生に言います。
「勉強するんだね」
「勉強と観光はね」
「一緒のものだね」
「勉強、学問もね」
 それもだというのです。
「楽しまないとね」
「学ぶことは楽しむことだね」
「うん、そうだよ」
 まさにその通りだというのです。
「だから松山もね」
「この街の観光もだね」
「楽しんでね。観光は楽しい学問だよ」
「そういうことだね」
「それじゃあ」
 こうお話してでした、先生は皆とお風呂を楽しんででした。そうしてお部屋に戻って浴衣姿でお酒を楽しむのでした。
 赤ら顔で、です。先生はお酒を飲みながらにこにことして皆に言うのでした。
「いやあ、日本酒は本当にいいねえ」
「先生飲むね、今日も」
「それも楽しそうに」
「日本はね、お酒を飲む場所も色々だよね」
「パブやバーだけじゃないよね」
「居酒屋とか一杯あるよね」
 動物達は今も先生を囲んでいます、そのうえで先生に応えるのでした。
「誰でもどのお店に入ってもいいし」
「先生もね」
「そう、僕もパブに入られるんだよ」
 イギリスにいる時と違って、です。
「そこで楽しめるんだよ」
「けれど一番のお気に入りはね」
「今は居酒屋だよね」
「そう、日本酒だよ」
 まさにこのお酒だというのです。今も飲んでいる。
「これが一番いいよ」
「先生本当に日本酒好きになったよね」
「日本に来てから」
「自分でもそう思うよ」
 やっぱり飲みながら答える先生でした。
「こうしてね」
「今も飲んでだね」
「そうしてだよね」
「楽しんでるしね」
「日本酒を」
「ウイスキーよりも飲みやすいね」
 先生にとって日本酒は、というのです。
「だから今も飲むよ」
「ただね、先生」
 ここで、です。ガブガブが先生にこう言ってきました。
「明日は論文の発表だから」
「お酒はだね」
「程々にね」
 このことを言うのでした。
「それはわかってるわよね」
「そうだね、朝は早く起きてね」
「お風呂に入ってすっきりしてから」
「それからだね」
「お仕事に行くのよ」
 ガブガブは先生にお母さんみたいに言います。
「そうしてね」
「そうだね、早く起きて」
「朝にお風呂に入って」
「それで身体を綺麗にしてからだね」
「朝御飯を食べて論文を発表しに行くのよ」
「わかったよ」
 お仕事のお話もしてでした、先生は今はお酒を楽しむのでした。先生の松山での出会いはまだこれからです。



船で松山に到着。
美姫 「のんびりと船旅を楽しんだみたいね」
だな。論文発表は明日と言う事で、今日は旅館へ。
美姫 「温泉に食事と本当に楽しんでいるわね」
だな。皆も一緒に楽しんでいるみたいだし。
美姫 「その分、ガブガブがしっかりしているみたいだしね」
だな。明日は論文発表だけれど、他にもどんな出会いが待っているのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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