『ドリトル先生と伊予のカワウソ』




                第十幕  まずはお茶を

 狸さん達は長老さんを先頭に人間に化けて先生にカワウソさん達のお屋敷に案内されました、一行はぞろぞろと松山の街の中を歩いていきます。
 その一行を見てです、街を行く人達は驚いて言いました。
「また多い観光客だなあ」
「何処から来たのかしら」
「修学旅行みたいだな」
「随分な数ね」
「ほっほっほ、観光客ではないぞ」
 長老さんはその言葉を聞いて笑って言いました、見れば長老さんは先生と一緒に狸さん達の先頭にいます。
「この街の古株じゃ」
「若くとも百年以上は住んでいる」
「そうした狸達だよ」
 他の狸達も陽気に言います。
「松山にも他の街にもね」
「いるけれどね」
「この街のことは隅から墨まで知っておる」 
 長老さんは飄々と笑いながらこうも言いました。
「それこそのう」
「では洋館の場所も」
「一回聞けばな」 
 こう先生にも答えます。
「わかったぞ」
「ではそちらで」
「うむ、宴じゃな」
 パーティーをこう言うのでした。
「カワウソさん達のおもてなしでじゃな」
「そうなります」
「ふむ。イギリスの宴か」
「そうですが」
「どの様なものかのう」
「あの、僕一回イギリスに行ったことがあるけれど」
 狸のうちの一匹がこう言ってきました。
「ネス湖にね」
「あのスコットランドの」
「はい、そこに行きました」 
 その狸さんは先生にすぐに答えました。
「ネッシーを見に」
「それで見られたのかな」
「いえ、残念ですが」
「ああ、見られなかったんだ」
「ネッシーは本当にいるんでしょうか」
「ううん、どうなのかな」
 ネッシーについてはです、先生は腕を組んで真剣に疑問に思う顔で答えました。
「いるかどうかというと」
「わからないですか」
「あまり生きもののいる湖じゃないんだよ」
 ネス湖はそうだというのです。
「水質の問題でね」
「あまり生きものの多い湖じゃないんですね」
「そうなんだ、だからね」
「ネッシーもですか」
「大きな生きものがいられるかというと」
 難しいというのです。
「川か地下で海とつながってるのならその可能性もあるけれど」
「じゃあネッシーは」
「あそこにいなくてもね」
「海から来ている可能性があるんですね」
「僕はそうじゃないかなって思うんだ」
 これが先生のネッシーについての考えでした。
「少なくともあの湖にいつもいるとは思えないよ」
「そうですか」
「恐竜かどうかもね」
 このことについてもというのです。
「難しいね」
「恐竜じゃないんですか」
「何か形がいつも変わるし」
 目撃例の度にです、このこともネッシーについて不思議なことです。
「そのこともね」
「そういえばそうですね」
 狸さんもネッシーについて調べています、それでこう言うのでした。
「ネッシーってそのことも不思議で」
「角があったりなかったりね」
「身体の色が変わったりとか」
「そうしたこともあるから」 
「恐竜じゃない可能性もあるんだ」
「恐竜のネッシーがいるかも知れないけれど」
「じゃあネッシーは一種類じゃないんですね」
 先生の今のお話にです、狸さんも気付きました。
「恐竜のネッシーもいるかも知れないし」
「他の生きもののネッシーもね」
「いるかも知れないんですね」
「うん、そうかもね」
 こう言うのでした。
「このことは中々わからないよ」
「ネッシーがいるかどうかも」
「僕はいると思うよ」
 一応はこう考えている先生でした。
「ただ、いつもネス湖にいる可能性は少なくて」
「一種類じゃないかも知れないんですね」
「そうだよ、ではね」
「はい、それではですね」
「今度ネス湖に行ったら」
 その時は、というのです。
「こうしたことも考えてね」
「ネッシーを探すといいんですね」
「そうしたらいいよ」
 先生はイギリスに行ったことのある狸さんに笑顔でこう言いました。狸さんも納得しました。そして、でした。
 この狸さんは長老さんにです、こう言うのでした。
「食べものはよくないですよ」
「よく聞くのう、そのことは」
「これといって美味しいものはないです」
「ウイスキーはイギリスじゃったな」
「はい、ウイスキーは本場ですけれど」
「それでもじゃな」
「食べものはよくないです」
 こう長老さんと他の狸さんにもお話するのでした。
「正直食べものでは苦労しました」
「まずいか」
「はっきり言いますと」 
 そうだというのです。
「そうです」
「では宴は期待せぬ方がよいか」
 長老さんは残念そうなお顔で述べました。
「仕方ないのう」
「そうですね」
「しかしじゃ」
 それでもとです、長老さんは狸さん達に言いました。
「わし等はな」
「はい、おもてなしですね」
「それですね」
「楽しい宴にしようぞ」
 こう言うのでした。
「鉄板の用意は出来ておるな」
「はい、もう」
「全部揃えました」
 狸さん達は長老さんに陽気に答えました。
「それに食材も調味料も」
「特におソース、塩、胡椒を」 
 そうしたものもというのです。
「場所も用意しました」
「何時でもです」
「よいぞよいぞ」
 長老さんは狸さん達の陽気な返事に笑顔で応えました。
「ではな」
「はい、皆で仲良く」
「楽しみましょう」
「そうしようぞ、例えあちらの味がわし等の味に合わずともじゃ」
 それでもというのです。
「わし等は手を抜かんぞ」
「最高の美味しいものをですね」
「出しましょう」
「山海の珍味を集めて懐石料理にしようとも思ったが」 
 それでも、というのでした。
「考えを変えてよかったか」
「そうですね、ああしたのもいいですよね」
「お客さんをお迎えするにも」
「ああしたお料理もいいですよ」
「絶対に悪くないですよ」
「うむ、最高の馳走の一つじゃ」
 その用意しているものもというのです。
「だからな」
「はい、明日はですね」
「僕達も」
「わしも腕を振るおう」
 ここでまた飄々とした笑顔を出した長老さんでした。
「久し振りにのう」
「長老さんお料理もですか」
「うむ、出来る」
 そうだとです、長老さんは加藤さんにも答えました。
「わしの趣味の一つじゃ」
「そうでしたか」
「うむ、ちなみに得意料理は蕎麦じゃ」
「たぬきそばですね」
「やはりこれは欠かせぬ」
 狸として、というのです。
「たぬきそばなくして何の狸生か」
「だからですか」
「自分で蕎麦を打って茹でてな」
「たぬきそばを召し上がられているのですね」
「そうじゃ」
 まさにというのです。
「時々作って食べておるわ」
「そうなのですか」
「そうじゃ、だから明日はな」
「長老さんもですか」
「腕によりをかけてな」 
 そうしてというのです。
「美味いものを作るわ」
「では頑張って下さい」
「そうする、明日はな」
「さて、そろそろ」
 動物達もいます、ポリネシアが先生の少し上を飛びながら言いました。
「見えてきたわよ」
「お屋敷がだね」
「ええ、先の方にね」
 あのイギリスのお屋敷が見えてきたというのです。
「少しだけれどね」
「ではもう少し歩けば」
「パーティーね」
「うん、楽しみだね」
「そうね、私達もね」
 ポリネシアも楽しそうにいうのでした。
「お茶を楽しめるわ」
「お菓子もね」
「そうそう、甘いものも」
 ガブガブとチーチーも言います。
「さて、今回はね」
「かなり楽しみだよ」
「ふむ、楽しみということはじゃ」
 長老さんは動物さん達のお話を聞いてふと思いました。
「案外味はよいのかものう」
「いいと思いますよ」
 先生は笑顔で答えました。
「期待されていいかと」
「そうなのか」
「まあまずはお屋敷に入られて」
「それからじゃな」
「そうです、まずはカワウソさん達とお会いしましょう」
「それでは」
「もうすぐだよ」
「あと少しで」
 今度はジップとダブダブが言います。
「お屋敷だよ」
「あの角を曲がれば」
 まさにその角を曲がればでした、後はお屋敷でした。そして実際にです。
 先生達一行はお屋敷に来ました、門から案内されてです。
 そうしてお庭に入るとです、老紳士と後ろに並ぶイギリスの執事さんやメイドさん、従者や庭師といった格好をして人間の服を着ているカワウソさん達が出迎えてくれました、見ればその数は。
「二百人かのう」
「それ位ですね」
「僕達と同じ位ですね」
 狸さん達も長老さんと先生一行の後ろに並んでいます、そのうえで長老さんに応えるのでした。
「大体ですね」
「数は」
「そうじゃな、しかも」 
 ここで長老さんはカワウソさん達を見て言いました。
「悪い人達ではない」
「そうですね、悪い気配はないです」
「そういうのは」
「この人達となら」
「仲良く出来ますね」
「そうじゃな」
 まずはこのことに喜ぶ狸さん達でした、長老さんを含めて。
「何よりじゃ、最大の心配は消えた」
「ようこそ」
 老紳士が笑顔で長老さんに応えてます。
「我が屋敷に」
「こちらこそはじめまして」
「こうして今回お会いしたのは」
「お互いのこれからのことじゃな」
「我々としましては」 
 老紳士は長老さんに気品のある笑顔でお話します。
「是非共友好的に親しい友人同士として」
「お付き合いをじゃな」
「したいのです」
「こちらもじゃ」
 長老さんは老紳士に穏やかな笑顔で答えました。
「是非共な」
「争わずにですね」
「わし等狸は遊ぶことは好きじゃ」
 それは、というのです。
「しかし喧嘩等はな」
「お嫌いですね」
「そうじゃ、大嫌いじゃ」
 そちらはというのです。
「だから仲良くやれればな」
「それに越したことはないというのですね」
「そうじゃ」 
 だからだというのです。
「それは貴方達もじゃな」
「私達もです」
 カワウソさん達もというのです。
「遊ぶことは大好きです」
「しかし喧嘩はじゃな」
「喧嘩は安易も生み出しません」
「そうじゃな」
「はい、ですから」
「お互いにな」
「友人になりましょう」 
 老紳士はこう言ってです、自分からでした。
 右手を差し出しました、長老さんも応えてでした。
 そうしてです、握手をしました。他の狸さんとカワウソさん達もです。
 お互いに笑顔で挨拶をしました、そうして。
 彼等は早速打ち解けました、先生はその狸さんとカワウソさん達を見て笑顔になりました。そうして言うことはといいますと。
「まずはこれでよしだよ」
「これからだね」
「問題なのは」
「友好的になってもね」
 それでもというのです、動物達に。
「まだそうなったばかりだから」
「これからね」
「それを深めていくんだね」
「ではね」
 それではと言うのでした。
「パーティーだけれど」
「もう用意は出来てるわね」
「そうだね」
 トートーとホワイティはカワウソさん達の後ろを見て言いました。そこにはもう沢山の白いテーブルかけをかけたテーブルと椅子があります。
 そしてです、そのテーブル達の上にです。
 もうです、お茶にティーセットがあります。その他にも。
 イギリスの朝食もあります、そういったものを見て言うのでした。
「では今すぐにでも」
「はじめられるね」
「それこそ」
 チープサイドの夫婦が言ってきました。
「それではね」
「私達も」
「では」 
 先生は動物達とやり取りをしながらでした、そして。
 長老さんと老紳士のところに来てです、こう言いました。
「それでは」
「はい、そうですね」
「今からじゃな」
「パーティーをはじめましょう」
「もう用意は出来ています」 
 老紳士は笑顔で答えました。
「それでは」
「そうですね、では」
「では皆さん」
 老紳士は皆に言いました。
「パーティーをはじめましょう」
「はい、それでは」
 こうしてでした、先生達も皆もでした。
 イギリスのパーティーを楽しむのでした、狸さん達はティーセットとイギリスの朝食を食べてびっくりしたお顔になって言いました。
「あれっ、美味しいよ」
「そうだよね」
「思ったよりもっていうか」
「かなりね」
「美味しいよね」
「そうだね」
 こうお話するのでした。
「紅茶もだし」
「ワインとかシャンパンもね」
「お酒美味しいよ」
「そうだね」
「しかも」
 尚且つというのでした。
「ティーセットもいいよ」
「ケーキもクッキーもね」
「スコーンもいい焼き加減で」
「エクレアとかシュークリームもね」
「サンドイッチもいい具合で」
「幾らでも食べられるよ」
「それで飲めるよ」
 こう言いながらでした、実際にです。
 狸さん達はティーセットを楽しむのでした。勿論昼食のメニューもです。卵料理やパン、そうしたものもです。
「朝御飯はいいんだ、イギリスって」
「そうみたいだね」
「何かこれだけだとね」
「凄くいいよね」
「イギリスは朝食の評判はいいのです」 
 老紳士もこう言います、長老さんと一緒のテーブルに座ってそうしたものをご自身でも楽しみながら。
「卵料理にしても」
「その様ですな」
 長老さんは目玉焼きを食べながら答えました。
「これもかなり」
「はい、ですから先生のアドバイスを受けて」
「こういったパーティーにされたのですな」
「そうです」
 まさにその通りというのです。
「そうしました」
「成程」
「それでなのですが」 
 ケーキとワインを楽しむ長老さんに尋ねるのでした。
「お味は」
「最高ですぞ」
「それは何よりです」
「お水はこの松山のものですな」
「はい」
「食材も」
「調味料もです」
 そういったものも全部、というのです。
「日本のものです」
「左様ですか」
「日本の食材でイギリスの料理を作ったのですが」
「よいですな」
「まことに。では今日は」
「楽しませてもらって宜しいでしょうか」
「是非」
 老紳士は長老さんに笑顔で答えました。
「その為に来て頂いたのですから」
「それでは」
「ではどんどん召し上がって下さい」
 ティーセットもモーニングも、というのです。
「遠慮なぞなさらずに」
「それでは、しかし」
 ここで、です。長老さんは甘いものとワインを楽しんでから言いました。
「ワインは洋菓子と合いますな」
「ケーキと、ですね」
「はい、他のものとも」
 勿論サンドイッチともです、長老さんはそうしたものを一緒に味わいつつ言うのでした。
「合います」
「ビールは違いますが」
「ワインは、ですな」
「特に赤でしょうか」
 こちらのワインの方がというのです。
「ケーキやクッキーに会うでしょうか」
「シュークリームにも」
「渋みがありますから、ワインには」
「だからですな」
「はい、お菓子にも合います」
「それは日本酒とは違いますな」
 お国のお酒とは、というのです。
「日本酒で甘いものは食えませぬ」
「そうなのですか」
「日本酒には辛いものです、しかし」
「しかしとは」
「わしもフランス料理の時に日本酒を飲むことはしませんぞ」
 そうしたことはしないとです、長老さんは笑って言うのでした。
「流石に」
「フランス料理にはやはりワインでしょう」
「それが礼儀ですな」
「正式な場では」
「それはわしも心得ているつもりです」
「というか日本ではそうしたことをする方がおられるのですか?」
「以前松山に東京から新聞記者が来たのです」
 長老さんは眉を顰めさせて老紳士にお話しました。
「リーゼントにして黒い服の若い男でしたが」
「新聞記者ですか」
「はい、その男が店の飯がまずいと怒鳴り散らしていまして」
「イギリスでそんなことは」
「日本でも滅多にいませんぞ」
 長老さんは眉を顰めさせてそうした人が日本人全体ではないと言うのでした。
「その様な下品な行動をする者は」
「それはそうですね」
「流石に無礼にも程度があります」
「幾ら味が会わなくてもですね」
「はい、それなら自分だけのことで済ませればよいのです」
 例え味が合わなくてもです。
「そこで店の中で怒鳴り散らすなぞ」
「営業妨害ですね」
「左様です、ですからわしもです」
 それで、というのでした。
「その新聞記者のところに縮地法で飛んで行って懲らしめてやりました」
「懲らしめられたのですか」
「化かして池を風呂に見せてです」
「そこに入らせたのですね」
「それも真昼間に」
「それが日本の狸さん達の懲らしめ方ですか」
「そうなのです、化かしてです」
 そうしてだというのです。
「懲らしめてやるのが我等です」
「ではその新聞記者は」
「真昼間に全裸で池に入っったのですから」
「警察に捕まりましたね」
「そうしてです」
 その結果だったというのです。
「その記者はそこから営業妨害の件やあらゆる悪事が公になりまして」
「警察に取り調べられて」
「新聞社を懲戒免職になりました」
「当然の報いですね」
「その記者がまた下品で」
「フランス料理の場で、ですか」
「牡蠣に合うからと言って日本酒を飲んだのです」
 ここでこのことをです、長老さんは老紳士にお話しました。
「非常に無作法ですね」
「全く以て」
 老紳士もこう思うのでした。
「それがインテリゲンチャですか」
「日本の新聞記者です」
「日本の新聞記者は随分と質が悪いのですね」
「このことはお気をつけ下さい」
 絶対に、という口調での言葉でした。
「この松山は観光地なので新聞記者やテレビ局の人間も多いので」
「彼等の質の悪い行動が多いのですね」
「そのことには」
「わかりました、しかし料理が合わないだけでお店の中で怒鳴り散らすとは」
 そしてフランス料理の場で日本酒を飲むこともです。
「酷いものですね」
「そうしたことを常に繰り返し偏向報道も常でした」
「まさにならず者ですね」
「残念ですが日本ではならず者が新聞記者や学校の先生になるのです」
「学校の先生もとは」
 このことにはです、老紳士はさらにびっくりしました。
「あの、それは」
「イギリスでは、ですか」
「教師といえばそれなりの地位にありますから」
「日本でもそうです」
「それでもですか」
「はい、ならず者がその地位にいて子供達を教えているのです」
「それは恐ろしいことですね」
 老紳士はこのことを聞いて唖然となって長老さんに応えました。シャンパンを飲みながらのお言葉です。
「では子供達におかしなことを教えたり暴力を振るったり」
「それも常ですか」
「セクハラも」
「はい、そうしたこともです」
「常ですか」
「そうなのです」
「恐ろしいですね、学校の先生に新聞記者がそうした人ばかりというのは」
 老紳士も唸るのでした。
「日本にも悪い部分はあるのですね」
「残念ですが。しかし」
「それでもですね」
「既に松山の街は歩き回られていますな」
「はい」
 このことについてはその通りだと答えた老紳士でした。
「毎日そうしています」
「どう思われますか」
「綺麗でしかも暖かいですね」 
 笑顔での言葉でした。
「人も」
「それもまた日本です」
「悪い人がいると共にですね」
「いい人もいます」
 そうだというのです。
「どの国でも同じだと思いますが」
「はい、イギリスでもです」
 カワウソさん達のお国でもというのです、勿論先生達の祖国でもあります。そのイギリスでもだというのです。
「悪い人がいれば」
「いい人もですね」
「います」
 老紳士は長老さんにはっきりと答えました。
「様々な人、そして妖精が」
「狸も同じですじゃ」
「いい狸さんと悪い狸さんがいますか」
「そうですじゃ。まあ我等八百八狸は」
「松山にそれだけの狸さんがおられるのですか」
「いや、これは四国全体の化けられる狸の数ですじゃ」
 それが八百八匹いるというのです。
「松山にはわしと何十匹かおるだけです」
「そうだったのですか」
「愛媛全体でこれだけです」
 今お屋敷の中にいてパーティーを楽しんでいるこの人達がというのです。
「二百程です」
「この方々は愛媛全体の狸さん達でしたか」
「左様です」
「わかりました、そうでしたか」
「はい、そしてそちらは」
「はい、我々は北アイルランドから来たのですが」
 老紳士はその生まれからです、長老さんにお話するのでした。
「ネイ湖からです」
「アイルランドですか」
「そうです、あの場所で一番大きな湖にいまして」
 北アイルランドの中で最も大きな湖です。
「そこに長い間暮らしていたのですが」
「日本に来られたのですが」
「よりよい水を求めまして」
「左様でしたか」
「日本の水はです」
 そのお水は、というのでした。
「やはりいいですね」
「確かに水は綺麗ですな」
「この松山でも」
「はい、非常に」
 だからだというのです。
「それでこの松山に来てです」
「定住されたいというのですな」
「そのつもりです」
「そうですか、しかし松山以外の場所には」
「最初は飛行機で東京に来ましたが」
「あそこの水が気に入りませんでしたか」
「それですぐに西に向かいました」
 そうしたというのです。
「西の方が水がいいと人に聞いたので」
「東京からすぐに」
「ですから東京のことは全く知らないです」
 すぐに去ったからです。
「まことに」
「そうしてですか」
「その西に行く時に」
 まさにその時にというのです。
「松山がいいと聞きまして」
「それでこちらに来られたのですな」
「そうです、実際に水はよく景色も綺麗で食べものも美味しく」
「定住されることを決められましたか」
「そのつもりです、我等はここに住みたいと思っています」
 このことは真剣なお顔で言う老紳士でした。
「貴方達とも仲良く」
「それは何よりですな」
 長老さんは老紳士の真剣なお顔での言葉に温厚な笑顔で答えました。
「では是非」
「是非とは」
「はい、こちらこそです」
「仲良く暮らしていきたいと」
「日本でもカワウソさん達も化けまして」
「我々の様に」
「はい、それで仲良くやっていたのですが」 
 それが、とです。長老さんはグラスでワインを飲みながらエクレアを食べてそのうえでこうも言ったのでした。
「いなくなったのです」
「その様ですね、日本で我々は」
「いなくなりました」
 実際に、というのです。
「残念なことに」
「では」
「はい、しかし」
「しかしですね」
「貴方達が来られたので」
 それで、とです。長老さんは言うのでした。
「嬉しいです」
「それが貴方のお考えですか」
「わしだけではありませんぞ」
 ここで長老さんは周りを見ました、すると。
 そこではです、狸さん達もカワウソさん達もとても楽しく仲良くしていました。まるで長年の友達同士だったみたいに。
 それで、です。長老さんは笑顔で言うのでした。
「我等のよいところはです」
「それは、ですね」
「誰とでもどういった相手か知ればすぐに仲良くなれるところですじゃ」
「だからですか」
「こちらこそです」
 彼等も、というのです。狸さん達も。
「仲良くして頂けるでしょうか」
「是非共。実は我等もです」
「カワウソさん達もですか」
「貴方達の様にすぐにではないですが」
 人見知りはするというのです、相手を。
「しかし」
「しかしですか」
「はい、仲良く出来ます」
 そうだというのです。
「次第に打ち解けて」
「ふむ、ではお互いだったのですな」
「お互いに相手がわかっていなかった、先生の仰る通りでしたな」
「まことに」
「では」
 それではとお話してでした、そして。
 長老さんも老紳士もお互いに盃を勧め合いティーセットとモーニングを楽しむのでした。そしてその中で。
 不意にです、狸さん達がこんなことを言いました。
「お昼なのが残念だね」
「そのことだけがね」
「夜だったら腹津鼓を打つのに」
「それが出来ないからね」
「それだけがね」
「残念だね」
「僕達もお昼に宴開くしね」
 このこともだというのでした。
「それは仕方ないね」
「また今度の機会にだね」
「やろうね」
「へえ、狸さん達って腹鼓打つんだ」
「そうだったんだ」
 ここでそのことを知ったカワウソさん達でした。
「それは面白いね」
「今度聴かせて欲しいね」
「僕達にしてもね」
「水芸があるし」
「夜の水芸がね」
「どうやらお互いに夜の芸があるんだね」
 このことを聞いてでした、狸さん達も納得しました。
「お昼だけじゃなくて」
「夜もなんだね」
「そうだったんだね」
「水芸はお昼と夜じゃ違うんだよ」
 カワウソさん達はこう狸さんにお話するのでした。
「お昼はお昼であるし」
「夜は夜でね」
「それはそれでね」
「楽しくね」
 そうしたものだというのです。
「夜にね」
「お互い見せようね」
「僕達もお昼の芸があるけれど」
 それでもとです、狸さん達も返します。
「今は何かね」
「大分飲んでるしね」
「飲み過ぎたからね」
「化けることもね」
「かろうじてだから」
 これは狸さん達だけではありません、カワウソさん達もです。
 どのカワウソさん達もかなり飲んでいます、それを見れば何とか人間の姿を維持していることは明らかです。ですから。
 お昼の芸も出せません、今はただです。
 お酒を飲んで美味しいものを食べています、そして。
 その狸さんとカワウソさん達を見てです、先生は笑顔で動物達に言いました。
「これでいいんだよ」
「こうして楽しむ飲んで食べてだよね」
「親睦を深めていくことが」
「そう、いいんだよ」
 こう言うのでした。
「芸を見せ合うこともいいけれどね」
「ただ楽しんで親睦を深め合うことも」
「そのことも」
「そう、いいんだよ」 
 そうだというのです。
「だから僕達もね」
「食べて飲んで」
「そうして楽しめばいいんだね」
「やっぱり三時はこれだよ」
 先生はにこりとしてミルクティーを飲みつつ言うのでした。
「紅茶だよ」
「お酒は飲まないの?」
 その先生にです、老馬が尋ねました。
「今は」
「お昼だからね」
 だからだとです、先生は老馬に答えました。
「今はいいよ」
「そうなんだ」
「お酒は夜だよ」
 その時に飲むというのです。
「だから今は紅茶を頂くよ」
「いつも通りだね」
「いや、このティーセットもモーニングも」
「美味しいよね」
「とてもね」
 老馬だけでなく動物皆が答えます。
「料理人の人の腕がいいんだね」
「そうだね」
「かなりね。素材も調味料もいいね」
 そのどちらもというのです。
「同じイギリスの料理でもね」
「本場より美味しいよね」
「ずっとね」
「何かね」
「味が違うよ」
「こっちの方が全然美味しいよ」
「イギリス料理でもね」
 お世辞にも美味しくないと言われているこのお料理でもだとです、先生はクッキーをお口の中に含んでから言いました。
「素材と調味料がいいとね」
「美味しいんだね」
「それにシェフの人の腕がいいと」
「そうだよ、それでね」
 如何にイギリス料理といえども、というのです。
「このお屋敷のお料理も美味しいんだよ」
「というか同じお料理でもこんなに美味しいなんて」
「日本って凄いね」
「神戸でもそうだしね」
「もう調味料が多くて」
「香辛料だって」
「イギリスではお塩とお酢とね」
 ダブダブが言います、お家のお料理を担当している。
「それと胡椒位ね」
「後は特に使わないよね」
「お砂糖は使うけれど」
「おソースとかもね」
「ちょっとだよね」
「物凄く種類が少ないよ」
 どの調味料も、です。
「けれど日本は凄い多いよね、調味料も香辛料も」
「お塩一つ取ってもね」
「お醤油にみりん、ダシを取る昆布や鰹節とか」
「本当に一杯あるよ」
「それだけ色々な味が出せるから」
 それでだというのです。
「お料理が美味しいんだよね」
「イギリス料理を作るにしても」
「そうなんだよね、イギリスにいるとね」
 どうかとです、また言う先生でした。
「そのことがわからなかったよ」
「けれど日本ではね」
「ティーセットの味も違うよ」
「朝御飯だって」
「パンの作り方もね」
「そうそう、それからしてね」
 どうかというのです、日本のパンの作り方一つ取っても。
「柔らかくて甘くて」
「麦がいいしね」
「ああいうことを見てもね」
「やっぱり違ういね」
「パン一つ取っても」
 動物達はサンドイッチも食べています、そのサンドイッチのパンの生地を食べても全く違うのです。それでなのです。
 動物の皆も喜んで食べて飲んでいます、そして。
 ガブガブがです、先生の足元から先生に尋ねました。
「明日はどうなるのかな」
「狸さん達のパーティーだね」
「うん、そっちはどうなるのかな」
「僕もわからないけれど」
 それでもとです、先生はティーセットのフルーツを食べつつ述べました。
「懐石料理ではないね」
「あの凄いご馳走はだね」
「お刺身は出ないかな」
 それも、というのです。
「けれど美味しいものが出るのは間違いないね」
「それは間違いないんだ」
「うん、だからね」
「明日も楽しめるんだね」
「そのことは間違いないよ」
「ならそれでいいよ」
 ガブガブはその丸い尻尾を左右に振って応えました。
「僕は美味しいものが食べれられるならそrでいいから」
「ガブガブらしいねえ、その辺り」
 チーチーはそのガブガブに笑顔で述べました。
「食いしん坊でね」
「駄目かな」
「いやいや、そうは言ってないよ」
「じゃあこれでいいよね、僕は」
「どっちかっていうとね」
「どっちかなんだ」
「そう、どっちかっていうとね」
 いいというのです。
「だってガブガブはガブガブだから」
「僕だからなんだ」
「ガブガブらしくて悪いことはないよ、けれどね」
「けれど?」
「ガブガブにもどうかっていうところがあるからね」
 それで、というのです。
「その分を差し引いたからね」
「だからどっちかになるんだ」
「そう、どっちかというとね」
 ガブガブらしくていいということになるというのです。
「完全によくはないけれどね」
「何か独特の言い方だね」
「僕が今思ったことだけれどね」
「そうなんだね、けれど明日楽しいならね」
「やっぱりそう言うんだ」
「うん、僕はそれでいいよ」
 全く構わないと答えるガブガブでした。
「明日は何が出るか楽しみだよ」
「ではね」
 ここでまた言う先生でした。
「今日はこうしてね」
「うん、紅茶やティーセットを」
「そしてモーニングをね」
「楽しもう、本当に美味しい紅茶だよ」
 飲みながら言う先生でした。
「何杯でも飲めるよ」
「そうですね、このミルクティーは」
 加藤さんも先生と一緒のテーブルの席にいて言います。
「絶品です」
「葉もお水もいいですが」
 先生も飲みつつ言います。
「ミルクもまた」
「いいですね」
「ううむ、日本のミルクは」
「如何でしょうか」
「まろやかな味ですね」
「イギリスのミルクと比べてですか」
「はい」
 先生は穏やかな笑顔で答えました。
「そう思います」
「左様ですか」
「はい、国が違うと同じものでもどうしても」
「味が違いますね」
「そもそも土壌と水が違いますので」
「牛が飲むお水にですね」
 それにとです、加藤さんも言います。
「そして草も」
「はい、その二つが違ってくるので」
「ミルクの味も違ってきますね」
「そういうことですね。日本は土もいいです」
 先生はシュークリームを食べつつ述べました。
「イギリスはチョークなので」
「あっ、イギリスの土はですね」
「硬いのです」
「ですからお水も硬水で」
「そもそも農業にもあまり適していなくて」
 イギリスの困ったところです、日本と比べると土地が痩せているのです。それがイギリスを長い間悩ませてきているのです。
「草もです」
「よくありませんね」
「そうです、ですから」
「ミルクも味が違いますか」
「この紅茶は日本のものです」
 完全に、というのです。
「日本の紅茶、病みつきになります」
「左様ですか」
「このシュークリームやケーキの麦は」
「国産ですよ」
 カワウソさんのうちのお一人が先生達に答えてくれました。
「日本の小麦ですよ」
「おお、そうですか」
「はい、日本にいるのなら日本のものがいいだろうと旦那様が仰って」
「それで日本の小麦を」
「はい、使っています」
 そうしているというのです。
「それでこの小麦がまた」
「絶品だと」
 加藤さんがカワウソさんに応えます。
「そうだというのですね」
「はい、とても」
「成程。それでは」
「このお料理はどれも食材も調味料も日本のものなので」
「それをですね」
「楽しんで下さい」
 笑顔で、です。カワウソさんは先生達に言ってくれました。そうしてなのでした。
 先生達もまたカワウソさん達のお屋敷でのパーティーを楽しみました、そして皆が心ゆくまで楽しんでからでした。
 パーティーが終わりました、長老さんは笑顔で老紳士に言いました。
「では明日は」
「はい、貴方達がですね」
「楽しんでもらいます」
「それでは」
 こうしてこの日は楽しくお別れをした狸さんとカワウソさん達でした、先生達も上機嫌で旅館に帰ることが出来ました。



顔見せ初日のパーティーは無事に終わったみたいだな。
美姫 「どうやら、互いに一番の懸念事項に関しては大丈夫みたいね」
だな。どちらも悪い子たちじゃないしな。
美姫 「お茶と話で結構、打ち解けられたんじゃないかしら」
次は狸たちのおもてなしだな。
美姫 「こちらはどんなご馳走を用意するのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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