『ドリトル先生と学園の動物達』




                   第一幕  園長さんのお願い

 ドリトル先生が日本に来てもうかなり経ちました、そのことをご自身の研究室においてお茶を飲みながらしみじみとしてです、王子とトミーに言うのでした。
「最初はどうなるかって思ったけれど」
「それでもだよね」
「今、ですよね」
「うん、日本に馴染めてきてね」
 そしてというのです。
「美味しいものも沢山楽しんでいるし」
「日本が大好きになったんだね」
「もうずっとここにいたいよ」
 王子にこうまで言うのでした。
「本当にそう思うよ」
「僕の提案はよかったみたいだね」
「そう思うよ、王子には感謝しているよ」
 日本に来ることを勧めてくれてお仕事まで用意してくれた王子にです。
「お家まで用意してくれてね」
「そんなことはお安い御用だよ、何しろ先生だからね」
「僕だからなんだ」
「先生にはずっとお世話になってるから」
 アフリカに行った時からです。
「あれ位は当然だよ」
「そう言ってくれるんだね」
「勿論だよ、けれど先生は最近ね」
「最近っていうと?」
「お医者さん、人間相手のそのお仕事ばかりだよね」
「ううん、京都で狐さんを看たりしたけれどね」
 言われてみればでした、先生も日本のお抹茶を和菓子と一緒に楽しみながら王子に応えます。王子とトミーもお抹茶と和菓子を楽しんでいます。
「言われてみればね」
「獣医さんのお仕事はしていないよね」
「しかもお医者さんといってもね」
「先生だよね」
「うん、今の僕は教授だからね」
 八条大学医学部のです。
「だからね」
「どうしてもだよね」
「うん、教授の仕事ばかりで」
「人を診ることも」
「なくなっているよ」
 先生は王子に言われて自分でもこのことを思い出しました。
「本当にね」
「そのことが寂しいのかな」
「そうだね、僕はイギリスでは病院を持っていたからね」
「あそこにはもう別のお医者さんが入ったよ」
「ああ、そうなんだ」
「そうなったんだ」
「ううん、我が家は今は他の人のお家なんだね」
 このことを知って思うところも出た先生でした。
「そうなんだね」
「それを言えば先生の今のお家もだよ」
「前は他の人の家だったんだね」
「そうだったんだよ」
「そうして家も巡っていくんだね」
 先生はこのことにも感慨を覚えるのでした。
「そうなんだね」
「そうだね、まあとにかく今の先生はね」
「人の病気を診てはおられないですね」 
 トミーも言ってきました。
「あくまで教授で」
「ここの大学の先生は往診はしないからね」
 あくまで大学の先生に徹するのです。
「八条病院はまた別だからね」
「だからですよね」
「うん、日本に来てから往診はしていないよ」
 先生もご自身から言います。
「ずっとね」
「往診したいと思いますか?」
「診てもらいたいっていう人がいればね」
 その時はというのです。
「是非にだよ」
「動物の皆もですよね」
「家族は何かあると診ているよ」
 ジップやガブガブ達はというのです。
「それでもその他にはね」
「診てはおられないですか」
「何か今の僕はね」
 自分を振り返って言う先生でした、日本に来てからのご自身を。
「学校の先生だね、完全に」
「いい先生って評判だよ」
 王子が先生ににこりと笑って言いました。
「とてもね」
「そうなんだ」
「優しくて穏やかで公平だってね」 
 先生のいいところです、全部。
「それに教え上手だって」
「教え上手かな、僕は」
「そう思うよ、先生の話はわかりやすいから」
「だからなんだ」
「うん、先生はいい先生だよ」
 王子から見てもというのです。
「こんないい先生いないよ」
「だといいけれどね」
 先生は少し笑って王子に応えました。
「やっぱり嫌われるより好かれる方がいいからね」
「ずっとね」
「進んで嫌われたい人はあまりいないんじゃないかな」
 こうも言う先生でした。
「誰だって好かれたいよ」
「僕もそう思うよ」
「僕もです」
 このことは王子とトミーもでした。
「本当にね」
「好かれる方がずっといいですよね」
「嫌われてもこっちが嫌な気分になるだけだから」
「何もいいことないですからね」
「だからね、僕もね」
「好かれる方がずっといいです」
「僕もだよ」
 先生もなのでした。
「好かれているのなら有難いよ」
「そのことは安心していいよ」
「そうだね。それとね」
 ここで、でした。王子はお抹茶を飲みながら話題を変えてきました。今度の話題は何かといいますと。
「動物園だけれど」
「この学園の動物園だね」
「何か獣医さんの一人がね」
「どうかしたのかな」
「一週間程休暇を取るそうだよ」
 このことをです、先生とトミーにお話するのでした。
「どうやらね」
「ああ、そうなんだ」
「うん、そう聞いたよ」
「そうなんだ、じゃあその人がいない間は」
 その一週間の間はです。
「他の獣医さんが大変かな」
「何かあればね」
「何もなければいいね」
 しみじみとして言う先生でした。
「動物もデリケートだからね」
「そうそう、人間と一緒でね」
「皆そうですよね」
 トミーも言うのでした。
「動物達も僕達と変わらないよ」
「怪我をすれば病気になります」
「虫歯だってなるし」
「何かと大変ですよね」
「ましてやこの大学の動物園はね」
 先生はさらにお話するのでした。
「大きくて沢山の色々な種類の動物達がいるからね」
「水族館もあるしね」
「本当に沢山の動物がいますよね」
「だからその動物達を診るとなると」
「一人休んでいたら」
「何かとですね」
「獣医さんも多いよ」
 この学園の動物園はというのです。
「設備も整っているけれど」
「それでもだね」
「普段は一人足りなくても大丈夫だけれど」
「何かあれば」
「うん、風邪とかが流行ったらね」
 そうなったらというのです。
「困るかも知れないね」
「そうなるんだね」
「うん、その場合はね」
 ここでこう言った先生でした。
「及ばずながら僕もね」
「いいの?大学のお仕事があるよ」
「それでもだよ、時間を見付けてね」
 そうして、というのです。
「協力させてもらうよ」
「そこが先生だね」
「僕らしいっていうんだね」
「うん、困っている人や動物を見たら放っておけない」
「そこが僕らしいんだね」
「とてもね、じゃあその時はね」
「頑張らせてもらうよ」
 透明な屑の中に餡子が入っている水まんじゅうを食べながらです、先生は王子に対して答えるのでした。
「是非ね」
「そうなることはですね」
「可能性は何時でもあるからね」
 先生は微笑んでトミーにも答えます。
「だからね」
「心構えはしておくんですね」
「何でも心構えをしておくとね」
「いざという時にですね」
「うん、動けるからね」
 それもすぐにです。
「いいんだよ」
「そういうことになるんですね」
「そうだよ、だからだよ」
「いつも心構えはしておくことですね」
「そうしておいたらいいんだよ」
「そういえば先生のこれまでの旅は」
 トミーだけでなく王子も一緒に行ったことがあります、勿論動物達もです。
「何時何があるかわかりませんでしたね」
「だからね、僕はいつも何があってもいい様にね」
「想定はされてるんですね」
「少しだけれどね」
 微笑んでこうも言うのでした。
「何しろ僕はのんびりしているからね」
「少しですか」
「そうだよ、少しだよ」
 少しだけ心構えをしているというのです。
「後はのんびりしているよ」
「つまり余裕を持っているんですね」
「あはは、そう言うと随分いいよね」
「先生は穏やかですからね」
「いやいや、のどかなだけだよ」
 自分ではこう言う先生でした。
「僕の場合はね」
「そうですか」
「そうだよ、余裕があるとかじゃないよ」
 こう謙遜して言うのでした。
「僕の場合はね」
「そうなるんですか」
「そうだよ、そんなことはないよ」
 笑ってトミーにお話します。
「大層なものではね」
「ここでこう言うのも先生だけれど」
 王子はその先生を見て微笑んでいます、そのうえでのお言葉です。
「持ち味だよね」
「僕のだね」
「うん、いい持ち味だよ」
 こう先生に言うのでした。
「とてもね」
「そうだね、先生はこうした人だからだよね」
 トミーもその王子に応えます。
「皆に好かれるんだよね」
「そして頼みごとに来るんだよ」
「そうなんだね」
「それで後はね」
 王子は笑って言いました。
「お嫁さんだけだね」
「いや、その話は止めてくれるかな」
 お嫁さんの話題にはです、先生は苦笑いで返しました。
「僕はそちらはね」
「いないんだ」
「確かに何時かはって思ってるよ」
「それでもなんだ」
「うん、そちらはね」
 どうしてもというのです。
「縁がないからね」
「けれど先生は女生徒の人達にもね」
「人気があるのかな」
「あるよ」 
 実はというのです。
「先生はね」
「そうだったんだ」
「物凄く優しくて公平でね」
 王子は何故先生が学園の女生徒達に人気があるのかお話しました。
「しかもセクハラしないから」
「セクハラしないのは当然だと思うけれど」
「それはそうだけれどね」
 それでもだというのです。
「先生は紳士だからね、誰にでも優しくて温厚な」
「それでなんだ」
「先生の性格を見てね」
 女生徒達もというのです。
「好きなんだよ」
「そうなんだ」
「相当馬鹿な人でもない限りその人の性格を見るよ」
 誰でもです。
「外見だけじゃなくてね」
「僕の性格もまた」
「そう、だからね」
「女の子達は僕のことを好きでいてくれてるんだ」
「それはいいことだね」
「まあ先生はね」
 ここでまた言う王子でした。
「女の子にも人気があることは確かだよ」
「そうなんだ」
「先生確かに人気がありますよ」
 トミーも先生に言います。
「女性の職員さん達にも先生達にも」
「何時の間に人気者になっていたのかな、僕は」
「先生が来られて暫くしてからですね」
 この八条学園に、というのです。
「先生がどういった方か知られる様になって」
「そうしてなんだ」
「はい、先生がどういった方か知られる様になって」
「僕の気付かないうちに」
「どうも人間ってあれですね」
 ここでこんなことも言うトミーでした。
「気付かれないうちに好かれたり嫌われたり」
「その内面を見られて」
「そうなるみたいですね」
 こう言うのでした、先生に。
「やっぱり人って見てるんですよ」
「だから僕も女の子達に人気があるんだ」
「丁渡先生独身だしね」
 王子が笑って先生にこのことも言いました。
「いいお相手を見付けようよ」
「そうすべきかな」
「絶対にね、もういい歳だし」
「いや、いい歳どころか」
 自分で笑って言う先生でした、このことは。
「もう僕も中年だからね」
「そう、それなら余計にね」
「結婚しないと駄目なんだね」
「そうだよ、ちゃんとね」
「相手を見付けて」
「そうしてね」
 こう先生に言う王子でした、トミーも王子のその言葉に頷いています。先生は大学のお茶の時間にこうしたお話をしていました。
 そしてです、そのお話の後でなのでした。
 先生はお家に帰ってそうして動物達に大学で王子とトミーに言われたことをお話しました、トミーはお風呂に入っていてこの場にはいません。
 そのお話を聞いてです、まずはダブダブが言いました。
「そうよ、先生もね」
「早く結婚しないとだよね」
「駄目よ、いつも言ってるじゃない」
 ダブダブは先生の傍で羽根をばたばたとさせながら言うのでした。
「早く結婚しなさいって」
「それでなんだ」
「先生一生独身でいいの?」
 ダブダブの言葉はかなり真剣です。
「それで」
「いや、そう言われるとね」
「そうでしょ、よくないわね」
「だからなんだ」
「そうよ、結婚してからがね」
「うん、人生のはじまりだよ」
「私達もそうだったのよ」
 チープサイドの夫婦も言ってきました。
「それまでは幾ら楽しくて充実しててもね」
「まだ完全じゃないのよ」
「だからね」
「先生も早く結婚するのよ」
「ううん、人気があることはいいけれど」
 それでもと言う先生でした、どうにもというお顔で。
「ただね」
「先生から声をかけることはないからね
 ガブガブが先生のお傍で言います。
「はにかみ屋さんだから」
「そもそも先生って女の子とお話したことあるの?」
 トートーが木の足掛けから先生に言ってきました。
「学生時代から」
「ううん、それがね」
「ないんだ」
「あまりね、そういうことは得意ではないからね」
 実に先生らしい返事でした。
「そうしたことはね」
「やっぱりね」
「どうも女の子とお話することはね」
「それが駄目だと思うけれどね」
 トートーも先生のそうしたことがわかっていますがそれでも残念で言うのです。
「そこでね」
「声をかけて」
「そうしないとね」
「だから先生は性格は問題がないから」
 こう言ったのはポリネシアでした。
「少し仲良くなれればね」
「そうそう、先生ならね」
 チーチーも言います、その長い手を動かしながら。
「絶対にいい人と一緒になるよ」
「悪い人と結婚したら駄目だけれどね」
 ジップはこのことを心配するのでした。
「世の中悪い人も多いから」
「それは僕もわかっているつもりだけれど」
 先生はこれまでの人生からジップに答えました。
「それでもなんだね」
「そう、先生は女の人には疎いから」
「患者さんでなら接しているけれどね」
「患者さんとはまた違うから」
 今度指摘したのは老馬でした、お庭でオシツオサレツと一緒にいてお顔をぬっと出して先生に言うのでした。
「気をつけてね」
「患者さんとして接するのと伴侶として考えるのと」
「また違うからね」
「それでなんだね」
「結婚相手はいい人をね」
 このことは絶対、というのです。
「さもないと困るのは先生だよ」
「僕自身が」
「いい奥さん、いい旦那さんでないと」
 結婚するのなら、です。
「大変なことになるよ」
「うん、僕もそう思うよ」
 ホワイティも言ってきました、先生が皆と一緒にいるちゃぶ台の上から先生に対してお顔を向けてそのうえで。
「ずっと一緒にいるんだから」
「そう、僕達みたいにね」
「いい相手を見付けてね」
 チープサイドの夫婦がまた言ってきました。
「先生ならいい人と巡り会えると思うけれど」
「それでもね」
「相手はしっかりと見てね」
「そうして選んでね」
「先生の為にもね」
「そこは絶対よ」
 この夫婦が特に強く言うのでした、そして。
 オシツオサレツもでした、お庭から先生に言います。
「人は少し見ただけではわからないから」
「じっくりと見てね」
「その内面をよく見極めてね」
「そうして決めるんだよ」
「性格が悪かったりしたらね」
「絶対に諦めてね」
「性格の悪い人はやっぱり駄目だね」
 このことも言う先生でした。
「世の中ってね」
「そうそう、絶対に」
「性格が悪い人っているから」
「そうした人とはね」
「結婚しない方がいいから」
 このことは絶対にと言うのです、オシツオサレツも。
「サラさんみたいな人でもいいと思うけれど」
「あの人みたいならね」
「確かに口五月蝿いけれど」
「あれでいい人だからね」
 ここで先生の妹さんのあの人のお名前が出るのでした。
「ちゃんといい奥さんやってるし」
「会社だってご主人助けて切り盛りしてるし」
「お母さんとしてもしっかりしてるし」
「あの人みたいならいいと思うよ」
「確かにサラはね」
 先生もオシツオサレツの言葉を受けて言うのでした。
「いい奥さんで母親だね」
「そうそう、あの人みたいな人ならね」
「奥さんにしてもいいよ」
「あの人ならね」
「問題ないわよ」
 動物達も先生にサラみたいな人ならと言います。
「あれで口五月蝿いところがないとね」
「本当に問題ない人だけれど」
「まあそのことを入れてもね」
「サラさんはいい人よ」
「かなりね」
 だからだというのです。
「先生、結婚するならサラさんみたいな人とかね」
「考えてね」
「是非ね」
「そうしてね」
「そうだね、とにかく僕も結婚しないとね」
 いけないとはわかっている先生でした。
「そしてその人を幸せにしないと」
「先生なら幸せに出来るから」
「そのことは問題ないよ」
「お仕事もお家もあるし」
「性格も円満だから」
「後は先生が相手の人を見付けてね」
「結婚するだけだよ」
 まさにそれだけだというのです。
「だから頼むわよ」
「先生そうしたことも頑張ってね」
「そうして幸せになってね」
「絶対に」
「ううん、何とかね」
 先生は考えるお顔で甚平さんの袖の中で腕を組んで言います、日本の服が本当に似合っています。まるで日本で生まれた人みたいに。
「女の人ともお話しようか」
「まずはそれが第一歩だね」
「先生にとってはね」
「そこしっかりとしてね」
「ちゃんとね」
 動物達も言うのでした、彼等にとっても先生には早く結婚して欲しくてそれで切実に言うのです。そうしてでした。
 次の日です、先生がいつも通り出勤して大学の講義をしてそれからご自身の研究室で研究をしているとです。 
 扉をノックする音がしました、先生がどうぞと答えますと。
 黒髪を後ろでお団子にしてまとめた眼鏡の女の人が来ました、お顔立ちは切れ長の黒い瞳に高めのお鼻、それに小さい紅色の唇にです。
 桃色のお肌、すらりとした背に膝までのスカートのスーツ、それにストッキングという格好です。スタイルはかなりよくてハイヒールも似合います。
 その綺麗な人が来てです、先生に言うのでした。
「あの、私は日笠という者ですが」
「日笠さんですか」
「日笠瑞穂といいます」
 下のお名前も名乗りました。
「八条動物園の職員です」
「動物園の、ですか」
「はい、医療を担当しています」
「といいますと」
「獣医です」
 八条動物園に勤めている、というのです。
「それを勤めています」
「そうなのですか、獣医さんですか」
「そうです、それでなのですが」
「ええと、立ち話も何ですね」
 ここで、でした。先生は今自分達が研究室の扉を挟んで立ったままでいることを意識しました、そうしてなのでした。
「お茶を飲みながらお話しませんか?」
「お茶をですか」
「長いお話になりますね」
「はい、実は」
 その通りと答える日笠さんでした。
「そうなります」
「そうですね、それでは」
「お茶を飲みながらですね」
「お話しましょう、実はいい紅茶がありまして」
 先生は温厚な笑顔で日笠さんに言うのでした。
「如何でしょうか」
「紅茶ですか」
「そうです、日本のお茶もありますが」
 今は、というのです。
「いい紅茶がありますが」
「そうですか、それでは」
 日笠さんも微笑んで先生に応えます。
「ご馳走になります」
「では」
 こうお話してでした、そのうえで。
 先生は日笠さんに研究室の中に入ってもらいました、そうして紅茶とお茶菓子のシュークリームを出しました。そうしてでした。
 テーブルに向かい合って座って紅茶を飲みながらです、日笠さんに尋ねました。「
「それで今回こちらに来られた理由は」
「はい、実は今動物園で問題が起こっていまして」
「問題、ですか」
「水族館でもですが」
 そちらもだというのです。
「少し前に動物達の定期検診をしまして」
「その結果ですか」
「虫歯が多かったのです」
「虫歯ですか」
「はい、虫歯は人にとっても動物にとってもよくないですね」
「その通りです」
 お医者さんとしてです、先生は日笠さんに答えました。
「虫歯は万病の素です」
「そうですね、虫歯自体も危険ですし」
「痛みますし」
 それこそいつもです。
「しかも虫歯の穴からバイ菌が入って」
「そのことも危険ですし」
「集中も出来なくなります」
 歯の痛みで、です。
「挙句は寿命にも関わって」
「おまけに悪化しますから」
「一刻も早い治療が必要です」
 虫歯を放置してはならないと言うのです。
「人でも動物でもそれは同じです」
「だからです」
「動物達の虫歯の治療をですね」
「すぐにしたいのですが」
「そういえば今動物園では」
「実は人手が足りないのです」
 多くの動物達の虫歯を治療するには、というのです。
「普段なら問題ありませんが」
「虫歯になっている動物達が多く」
「それも予想よりも遥かにです」
 多くて、というのです。
「治療が必要なのですが」
「人手が足りず」
「ドリトル先生は獣医の資格もありますね」
「はい、診られるのは人だけではありません」
 先生は温厚な笑顔で日笠さんに答えました。
「イギリスでも獣医もしていました」
「ですからお願いに来ました」
 日笠さんは先生にあらためて言いました。
「先生に助けて欲しいのです」
「動物達の虫歯の治療をですね」
「そうです」
 まさにそれでというのです。
「お願い出来るでしょうか」
「はい、それでしたら」
 先生は微笑んで日笠さんに答えました。
「喜んで」
「引き受けて頂けるのですね」
「勿論です、動物の皆が困っているのなら」
 虫歯で、です。
「及ばずながら」
「有り難うございます、先生が助けて下さるのなら」
 それならとです、日笠さんはそれまで深刻なものになっていたお顔をj晴れやかなものにさせて言うのでした。
「百人力です」
「いえ、それは言い過ぎでは」
「言い過ぎではありません、先生のお話は聞いています」
「僕のですか」
「はい、獣医としての先生も」
「イギリスにいた時の僕も」
「先生のことは動物園でも有名なのです」
 日笠さんはそのぱっと明るくなったお顔で先生にお話するのでした。
「とてもお優しい名医として」
「あっ、そうだったのですか」
「そのことはご存知なかったのですか」
「実は」
 そうしたことには疎い先生です、ご自身の噂等については。
「僕は動物園でも有名だったのですね」
「とても。それでなのですが」
「お受けさせて頂きますので」
 動物園の動物達の治療をです」
「是非共」
「わかりました、では明日からお願いします」
「明日からですね」
「今日はお願いに来ただけなので」
「これで、ですか」
「帰らせて頂きます、それと」
 ここで日笠さんはこうも言うのでした。
「この紅茶ですが」
「はい、如何でしょうか」
「とても美味しいですね」
「妹のご主人が経営している会社のお茶でして」
「そうなのですか」
「美味しいですね」
「はい、とても」
 日笠さんも笑顔で答えます。
「これはいい紅茶ですね」
「それは何よりです」
「先生はイギリスから来られていますね」
「はい」
 その通りと答える先生でした。
「そうです」
「ではイギリスにおられた時から」
「いつも飲んでいます」
「そうですか」
「そしてお茶菓子は」
 こちらはといいますと。
「三時にはです」
「ティーセットですね」
「それが欠かせません」
 これは絶対に忘れません、先生は三時には絶対にティーセットを楽しまないと気が済まないのです。ただ。
「ですが最近ティーセットもです」
「飲めないのですか?」
「いえ、趣向を変えて日本のものにしたりしています」
「日本のティーセットですか」
「お抹茶や番茶を和菓子です」
「和菓子のティーセットですか」
「お饅頭やお団子の三段セットです」
 これを楽しむ時もあるというのです。
「それもまたいいものです」
「そうですか、そうしたティーセットもですか」
「好きです」
「日本のティーセットとは面白いですね」
 日笠さんは先生のそのお話を聞いてお顔を明るくさせて答えました。
「イギリスのものだけではありませんか」
「日本のお茶も美味しいので」
「それを楽しまれることもですか」
「あります」
「左様ですか」
「いや、日本のお茶も美味しいですね」
 先生は日笠さんに笑顔でお話しました。
「しかも様々な種類があって」
「そうですね、日本で飲まれるお茶の種類は多いですね」
 日笠さんも言います。
「本当に色々とあります」
「紅茶だけではなく」
「はい、色々とあります」
「それがです」
 まさにというのです。
「僕にとっても嬉しいのです」
「日本の色々なお茶を飲めることがですね」
「素晴らしいです」
 実に、というのです。
「それで日本のティーセットもです」
「召し上がられていますか」
「時々ですが」
「そうですか、では夏は」
「冷やした麦茶もいいですね」
「私はそれが大好きでして」
 冷やした麦茶が、とです。日笠さんは紅茶を飲みつつ笑顔で応えました。
「夏はあれに限ります」
「日笠さんは冷やした麦茶がお好きですか」
「夏は」
 まさにそれだというのです。
「それと冷やした紅茶もです」
「日本ではペットボトルでも売っていますね」
「紅茶だけではありませんが」
 日本の様々なお茶もそうして売られているのです。
「ペットボトルのお茶も沢山あります」
「ああしたお茶も美味しいですね」
「先生は本当にお茶がお好きですね」
「はい、そうです」
 その通りだと答える先生でした。
「日本のお茶もまた」
「左様ですか、お茶がお好きですか」
「これがないと生きていられない位にです」
 好きだというのです。
「好きです」
「そうですか、実は私もです」
「日笠さんもですか、この呼び方でいいでしょうか」
「はい、どうぞ」
 微笑んで、です。日笠さんも先生に答えました。
「その呼び方でお願いします」
「それでは」
 こうしたお話も入りました、そのうえで。
 日笠さんはあらためてです、先生に言うのでした。
「では明日から」
「わかりました、時間があればすぐに」
「動物園に来て頂けますね」
「そうさせて頂きます」
 ここでもこう答える先生でした。
「是非共。虫歯は本当に早く治療しないと駄目ですからね」
「そうですよね、よく話は聞きます」
「放っておいていいものではありません」
 それは決して、とも言う先生でした。
「それでは」
「お待ちしています」
「その様に。それと」
「それと?」
「虫歯には甘いものがですね」
 それが、ともです。先生は日笠さんに笑ってお話しました。
「大敵ですね」
「そうですね、確かに」
 日笠さんも先生の今のお言葉に笑って応えます。
「甘いもの、糖分は歯の大敵ですね」
「ですから僕もです」
「歯磨きはですね」
「気をつけています」
 こうお話するのでした。
「いつもそうしています」
「それはいいことですね」
「まずは歯磨きですよね」
「そうですね、甘いものを食べることはいいとして」
「問題はその後です」
「磨かなければなりませんね」
「何でも。聞いたお話でした」
 今度は日笠さんから先生にお話します。
「手塚治虫という漫画家をご存知でしょうか」
「日本の有名な漫画家ですね」
「そうです、あの人は甘いものがお好きでしたが」
「あまり歯を磨かなかったのですね」
「あまりにも多忙でそうだったらしくて」 
 その結果、というのです。
「歯が悪かったそうです」
「左様ですか、やはり甘いものを食べたら」
「どうしてもですよね」
「はい、磨かないと」
 歯磨きを忘れてはいけないというのです。
「いけませんね」
「本当にそうですね」
「しかし、本当に」
 首を傾げさせもする日笠さんでした。
「急に虫歯が増えたのです」
「動物達に」
「はい、歯のある動物達の中で」
「原因はわからないですか」
「今それを調べようという話になっています」
「左様ですか」
「はい、おそらくすぐに調べることになると思います」
 その虫歯が増えた原因をというのです。
「そうして虫歯をなくそうと」
「そうですね、病気には何でも原因がありますから」
「その原因を究明してこそですからね」
「治療法がありますので」
 虫歯も減らせるというのです。
「ですから」
「それで、ですね」
「原因を究明しましょう」
 こうしたお話になったのでした、そうして。
 そのお話をしてからです、l日笠さんは先生の研究室を後にしました。そのうえでまた新たなお話がはじまるのでした。



先生もかなり日本に馴染んでいるみたいだな。
美姫 「良いわね」
だな。生活にも慣れてきているし。
美姫 「医者としてのお仕事が殆どないのが少し残念そうだけれどね」
だな。で、今回は珍しく先生も結婚について考えたみたいだけれど。
美姫 「その次の日に訪ねてくる女性という事でちょっと期待したんだけれどね」
結婚じゃなくて獣医としての方のお話だったな。
美姫 「今回は動物園の動物たちを診る事になるみたいね」
さて、一体どんなお話になるのか。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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