『ドリトル先生と学園の動物達』




                第七幕  防犯カメラに映っていた人

 先生は動物の皆の歯を観て回っていました、本当に虫歯が多くて酷い子が一杯です。その治療の中で、です。
 トミーと王子はその日の診察を終えて一旦研究室に帰った先生にです、日本のお茶を飲みながらこうしたことを言いました。
「やっぱり虫歯はですね」
「素を絶たないと駄目だよね」
「その通りだよ、虫歯にならないことがね」
「まず、ですよね」
「重要だよね」
「虫歯はまずならないことだよ」
 最初からというのです。
「そしてなってしまったらね」
「その時は、ですね」
「早いうちの治療だね」
「そうだよ、そして今回はね」
「その虫歯になっている人が多い」
「そのことが問題だね」
「全くだよ、原因はわかっているよ」
 皆が虫歯になっているそれはです。
「お菓子だよ、とんでもなく甘い」
「誰かが動物園や水族館に投げ込んでいる」
「それですね」
「そうだよ、それだよ」
 まさにというのです。
「日本にはとてもない様なね」
「そうしたお菓子を誰が作っているか」
「まずはそれを突き止めないとね」
「そしてその人に言って」
「動物の皆にお菓子をあげることを止めてもらうんだね」
「そう、さもないとね」
 そのお菓子を作って皆にあげている人を突き止めてそうしたことを止めてもらわないとです、この問題はというのです。
「この話は終わらないよ」
「皆が虫歯になり続ける」
「そうなるんだね」
「そう、だからね」
 それで、というのです。
「早くその人を探さないと」
「はい、それじゃあ」
「早く見付けよう」
「そうしているんだけれどね」
 それでもと言う先生でした。
「その人が誰なのかね」
「まだ、ですね」
「わからないんだよねこれが」
「そうなんだよ、ただ」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「僕はこれでも世界中を回ってきたから」
 そうして世界中の食べものを食べてきたからというのです。
「それぞれの国のお菓子の甘さもわかっていたけれど」
「それで、ですか」
「あの甘さはっていうんだ」
「日笠さんが再現してくれたお菓子のあの甘さは」
 どういったものかといいますと。
「インドだね」
「インドのお菓子ですか」
「あのお菓子の甘さなんだ」
「インドのお菓子の甘さは凄いからね」
 もうそれこそというのです。
「僕もびっくりする位にね」
「そういえばね」
 ここで、です。王子が言うことはといいますと。
「日本に来て僕がおや、って思ったことは」
「お菓子の甘さだね」
「うん、甘さを抑えているんだ」
 そうしているというのです、王子が言うには。
「そう感じたよ」
「それが日本の甘さなんだよ」
「和菓子を食べた時に思ったんだけれどね」
「和菓子は甘くてもね」
「上品な甘さで」
 それで、というのです。
「風味の方が気になるかな」
「そういう感じだね」
「うん、だからね」
 それで、というのです。
「そんな。皆があそこまで酷い虫歯になる様な糖分は入っていないと思っていたよ」
「僕もそう思っていたよ、何度も言う様にね」
「そうだよね、先生も」
「粒餡は美味しいけれど」
 それでもというのです。
「甘さは優しいよ」
「そうだね、実際ね」
「それにこの八条学園は世界中から人が来ているから」
「インド人も結構いるね」
「そう、そうしたことを考えると」
「インド人が動物園や水族館に出入りしていてお菓子をあげていても」
「不思議じゃないね」
 こう王子に答えるのでした。
「そういうことだね」
「うん、そうだよね」
「だからね」
 それで、というのです。
「外国からの人と思ってね」
「いいんだね」
「それもインドの人じゃないかな」
 こう予想する先生でした。
「とはいっても見込み捜査とかはよくないけれどね」
「先生そういうことお嫌いですね」
「実際に好きじゃないよ」
 トミーにも答えます。
「冤罪とかあってはいけないことだからね」
「絶対に、ですね」
「自分が冤罪にあったらどうかな」
「はい、凄く嫌です」
「人種とか職業でそうしたことをするとね」
「大変なことになりますよね」
「実際でそれで酷いことも起こってきたからね」
 人間の歴史においてはです、先生はそうしたことも知っているからこそ今もそれはよくないと言うのです。
「だからね」
「自分が疑われた時のことも想像して」
「そうしたことはしてはいけないってね」
「そう思ってですね」
「したらいけないよ」
 見込み捜査はというのです。
「絶対にね」
「そういうことですね」
「そう、だから今回は」
「防犯カメラを観てですね」
「そのうえで調べよう」
 これがいいというのです。
「丁寧にね」
「それが一番ですね」
「何度も言うけれど見込み捜査は駄目だよ」
 このことは本当に注意している先生でした。
「それは冤罪の元凶だからね」
「それは絶対にですね」
「止めてそのうえで」
「調べていこうね」
 先生は二人に穏やかですが確かな口調で言いました、そのうえで。
 自分のお茶を飲んで、です。唸る様にしてこうも言いました。
「このお茶もね」
「美味しいよね」
「うん、かなりね」
 王子に対しても笑顔で答えます。
「これは何処のお茶かな」
「玉露だよ、僕の家から持ってきた」
「玉露っていうと確か」
「そう、上等のお茶でね」
 それに、でした。王子もまたそのお茶を飲みながらそのうえで先生にお話するのでした。
「京都のお茶だよ」
「あっ、そういえば京都は」
「観光地であるだけじゃなくてね」
「お茶でも有名だったね」
「宇治とかのお茶が有名でね」
 それで、というのです。
「そこのお茶を持って来たんだ」
「それで今こうして僕達も飲んでいるんだね」
「そうだよ、それでだけれど」 
 さらに言う王子でした。
「このお茶と合うお菓子は」
「何がいいだろうね」
「やっぱり和菓子じゃないかな」
 これが王子の勧めるお菓子でした。
「このお茶には」
「そうだね、言われてみればね」
「しかも京都のね」
 お菓子もこちらでした。
「上等の和菓子だよ」
「京都は和菓子も有名だったね」
「京都はお料理も凄いからね」
「ああ、鱧とかお豆腐の」
「それで和菓子もなんだ」
 それもだというのです。
「凄くレベルが高いんだ、けれど」
「けれどだよね」
「高いよ、値段も」
 王子は笑って先生とトミーにお話しました、京都のお料理のそうしたところもです。
「そちらもね」
「あまりいいことじゃないね」
 その言葉を聞いてです、トミーは困ったお顔になって言うのでした。
「それは」
「そうだね、神戸は食べものの値段安いよね」
「うん、そうだよね」
「大阪なんか特にね」
 お店のお料理の値段が安いというのです。
「安いよね」
「その通りだね、けれど京都はね」
「あそこは高いんだね」
「それもかなりね、京都で美味しいものを食べようと思ったら」
 それこそというのです。
「そうしたお店に行かないと駄目なんだよ」
「それはね」
 どうにもと返す先生でした。
「僕にとってもね」
「先生今は結構収入あるよね」
「いやいや、確かに教授にしてもらってね」
 そして、というのです。
「定期的な収入が得られたけど」
「それも結構な額でね」
「生活には困らなくなったよ、けれどね」
 それでもだというのです。
「節約はしないとね」
「駄目なんだ」
「そう、無駄使いをしたら」
 その時はというのです。
「ポリネシアに怒られるからね」
「ああ、ポリネシアは厳しいからね」
「そう、お金のことにはね」
「ダブダブもいるしね」
「ダブダブは余計にね」
 ポリネシア以上にです、何しろお家の家計を任せられているのですから。
 それで、です。先生も収入があってもです。
「無駄使いは出来ないんだ」
「ううん、じゃあまた京都に行っても」
「そんな高い場所には行けないよ」
 とても、という口調でした。
「それに僕もそうしたお店はね」
「合わないんだ」
「あまりね」
「僕にご馳走は似合わないよ」
 そうだというのです。
「普通のお料理でいいよ、むしろね」
「むしろだね」
「今ここにいるだけで」 
 日本にいると、というのです。
「充分過ぎると思うよ」
「そう思っているんだ」
「日本は食べるものがどれも美味しいからね」
 先生がこれまで住んでいたイギリスと比べればです、日本の食べものは驚く程美味しいというのが先生のお話です。
「もう充分過ぎるよ」
「そう言うんだ」
「そう、だからね」
「京都のお料理はだね」
「いいよ」
 これが先生の返事でした。
「別にね」
「そうだね、じゃあいいね」
「うん、京都のお料理はね」
「じゃあまた京都に行っても」
「別にいいよ、前も美味しいものは一杯食べたけれど」
「京都の料亭、物凄くレベルの高いところには行ってないね」
「そう、そしてこれからもね」
 先生は穏やかな笑顔のまま話します。
「自分から進んでは行かないよ」
「そう言えばそれが先生らしいね」
「僕らしいかな」
「飾らないし無理をしないからね」
 自然体が先生です、だから背伸びすることもしないのです。
「そういう人だからね」
「高い店にも行かないっていうんだね」
「言われてみればそうだよ」
「この大学の食堂のお料理はどれも凄く美味しいよね」
「そうですね、凄いですよね」
 トミーもその美味しさをいつも楽しんでいるので言うのでした。
「物凄く美味しいですよね、この大学の食堂は」
「そうだね、だからね」
 それで、というのです。
「僕は周りの食事で充分だよ、あと大阪だね」
「大阪は食べもの安いよね」
「あのたこ焼きやお好み焼きは最高だよ」
「ああ、あの二つだね」
「おうどんもいいし串カツもね」
「先生えらく大阪が気に入ったんだね」
「あそこはまさにね」 
 それこそというのです。
「地上の楽園だよ」
「それは幾ら何でも言い過ぎじゃないかな」
「僕もそう思いますよ」
 王子とトミーは大阪を絶賛する先生に笑って返しました。
「確かにいいところだけれどね、大阪は」
「物凄く親しみやすい街ですけれど」
「幾ら何でもね」
「地上の楽園は」
「いやいや、あそこまで人間味があってしかも食べものがどれも安くて美味しい街はないよ」
 先生は二人に笑みを返して言うのでした。
「だから本当にね」
「大阪は地上の楽園なんだ」
「先生はそう仰るんですね」
「そうだよ、あんな街は他にないよ」
「確かに独特だからね、大阪も」
「あんな街は他にないですね」
 二人もそう言われればという調子で返しました。
「いい街であることは確かだね」
「それもかなりね」
「そのことは間違いないね」
「いい街ではあるよ」
「それは先生と同じ考えです、僕達も」
「うん、だから僕は言うんだよ」
 先生はお茶を飲みながら笑顔でお話するのでした。
「大阪は地上の楽園だとね」
「人情があって美味しいから」
「それでなんですね」
「今度大阪城に行こうかな」
 大阪城は大阪の象徴の一つです、そしてイギリス人の先生から見れば。
「日本のあの独特なタイプのお城の勉強も兼ねてね」
「そういえば日本のお城ってユニークですよね」
 トミーが先生のそのお言葉に応えました。
「街を囲んでいるものは殆どなくて」
「平安京や平城京はそうだったけれどね」
「あと小田原もですね」
「そう、けれどね」
「殆どのお城はですよね」
「街を囲んでいないよ」
 他の国のお城と違ってです。
「言うならば領主の居城だね」
「山にあることが多いのも同じですね」
「うん、砦というのかな」
「日本では砦とお城の違いが曖昧みたいですね」
「他の国ではお城は街だよ」
 まさに同義語です、このことはイギリスだけでなく他の欧州の国々もそうです。そして中国やアメリカもです。
「アラビアでもそうだったね」
「バグダートもでしたね」
「日本はお城のことを考えてもね」
「独特ですね」
「この国は本当に物凄く独特だよ」
 お城も含めて、というのです。
「お茶だけじゃなくてね」
「そうそう、僕も驚いたんだ」
 王子も言うのでした。
「姫路にもお城があるよね」
「うん、あのお城はかなり綺麗だね」
「そう、けれどね」
 それでもというのです。
「あのお城を最初に見てびっくりしたよ」
「街が城に囲まれていないから」
「普通お城は街だからね」
 王子もこう考えているのです、先生達がそうした認識ではないのです。
「だからこれがお城かってびっくりしたよ」
「他の国では城塞都市だけれどね」
 街を壁で囲んで街全体をお城にしている場合はこう呼ばれます、それこそ日本以外の多くの国がこちらになります。
「日本は城下町だよ」
「お城の下に街があるから」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「そこもまた独特なんだよ」
「大阪も城下町ですよね」
「うん、そうだよ」
 その通りだというのです。
「あの街も城下町からはじまったんだよ」
「大阪城のですか」
「大阪城は最初豊臣秀吉さんが築城してね」
 先生は王子とトミーに大阪城のはじまりのお話もするのでいsた。
「そこに人が集まって」
「城下町が出来てですね」
「今に至るんだ」
「それがあの街ですか」
「ローマは一日で出来た街じゃないし」
 ローマは一日にして成らずです、先生はこのこともお話するのでした。
「そしてねそれは大阪もなんだよ」
「城下町からはじまったんですね」
「そうだよ、それでね」
「今みたいな大都市になったんですね」
「一度大坂の陣で焼けたけれどね」
 この時にお城も焼けています、豊臣秀吉の大坂城はこの時になくなっています。豊臣氏も滅んでしまいました。
「それでも復興してね」
「ああなったんですね」
「そうだよ、江戸幕府がもう一度お城を築いて人が戻ったんだ」
「あっ、そういえばそこで名前変わってるね」
 王子はこのことにも気付きました。
「大坂から大阪にね」
「そう、変わったんだよ」
「何か漢字が少し違うだけだけれど」
「名前が変わったのは確かだよ」
「大坂が大阪になって」
「今になったんだ」
「今の大阪は大阪だよ」 
 大坂でなく、というのです。
「大阪城なんだよ」
「それでその大阪城にもだね」
「行ってみるよ」
 先生はとても楽しみそうに言いました。
「あそこにもね」
「いいね、それにしても先生って本当に何にでも興味を持って学問として楽しむね」
「学者だからね」
 先生は王子の今の言葉にもにこりと笑って答えました。
「だからね」
「それでなんだね」
「やっぱり僕にとって学者は天職なのかな」
「そうかもね、学問を自然にするからね」
「こちらは得意なんだよ」
 運動は全く駄目でもです。
「だからね」
「天職だって思うんだね」
「そうじゃないかなとも考えるよ」
「じゃあ恋愛学は」
 王子は冗談でこうも言いました。
「どうかな」
「あっ、そっちはね」
 恋愛学にはでした、先生は苦笑いになって答えました。
「あまりというか全然だね」
「駄目なんだね」
「あんな難しい学問はないんじゃないかな」
「普通に出来ている人は多いよ」
「僕は違うんだよ」
 学者が天職だとしても、というのです。
「恋愛についてはね」
「ううん、今もそう言うんだね」
「誰ともお付き合いしたことはないし」
「告白とかは?」
「一度もないよ」
 そうしたこととも無縁でした、先生は。
「学生時代は本ばかり読んでいたしね」
「それはね」
「今もですよね」
 王子だけでなくトミーも言うのでした。
「それだとね」
「学生時代からそうだったんですね、先生は」
「本当にずっと本ばかり読んでいたね」
 それが先生の学生時代でした。
「子供の頃から」
「じゃあ先生の青春って」
「読書の青春だったんですか」
「それを言うと今も青春かな」
 今も本ばかりを読んでいるからです。
「そうなるかな」
「ううん、じゃあここはね」
「日笠さんと一度じっくりとですよ」
「お話してみよう」
「それがいいですよ」
 二人で日笠さんはどうかと言うのです。
「あの人交際している人いないし」
「勿論独身ですよ」
「しかも先生のことをお嫌いでないみたいだし」
「まさにですよ」
「ううん、自分ではそう思っていても」
 ここでもその奥手さを出す先生でした、学問にはとても積極的な先生ですが本当に恋愛については奥手です。
「違うってこともあるじゃない」
「相手は全然そう思っていない」
「そうしたことがですね」
「うん、あるからね」
 だからだというのです。
「僕はね」
「日笠さんにもなんだ」
「お声かけないんですね」
「いいと思うけれどね、あの人なら」
「性格いいですし美人さんですよ」
「お料理も出来てね」
「しっかりした人じゃないですか」
 つまり奥さんに相応しいというのです、先生にとって。
「だからと思うけれど」
「やっぱりですか」
「日笠さんにもお声かけないんだ」
「このままですね」
「結婚する気はあるよ」
 先生にとってもというのです。
 ですがそれでもです、やっぱり先生は奥手で。
「けれど声をかけることは僕にはね」
「ほら、そこでそう言ってね」
「前に出ないから駄目なんですよ」
「一歩進み出したら」
「また違いますから」
 このことには強く言う王子とトミーでした、ですがそれでもなのでした。
 先生の奥手さは変わりません、次の日日笠さんとお会いしてもです。
 完全にお仕事としてです、周りにいる動物達も王子やトミーと同じく困ってそのうえでなのでした。
 王子達と違いです、やれやれとなって言い合います。
「先生らしいね」
「うん、女の人に会ってもね」
「イタリア人みたいにはしないね」
「紳士ではあるけれど」
「サラさんにも言われているのに」
「結婚したいって言うのに、自分でも」
「相変わらずだね」
 奥手であることにやれやれとなるのでした。
「お仕事もあるのに」
「それで収入もあるし」
「先生みたいないい人いないのに」
「これだけいいもの持ってるのにね」
「先生だけが動かない」
「肝心の本人が動かないと」
「どうにもならないのに」
 本当にやれやれとなって言う彼等でした、ですが。
 日笠さんは彼等のお喋りを耳にしてです、先生に怪訝な声で尋ねました。
「あの、この子達は何と」
「はい、まあ色々と話しています」
「お喋りをしているんですか」
「僕のことで」
 そうしていると日笠さんにお話します、まさか先生に日笠さんに声をかけないことはどうかと言っているとは言えないので。
「何かと」
「そうですか、彼等の言葉で」
「お話しています」
「先生は動物の言葉がおわかりになられるのでしたね」
「はい」
 その通りとです、先生は日笠さんににこりと笑って答えました。
「教えてもらいましたので」
「教えてもらったのですか」
「この子にです」
 ポリネシアを手で指し示して言うのでした。
「そうしてもらいました」
「それで動物の言葉も理解出来るのですか」
「そうなりました」
 まさにというのです。
「そして喋れるようにもなりました」
「そうなのですか」
「誰でも言葉がわかって喋れるようになります」
「教えてもらえばですね」
「知れば誰でもです」
 それこそどんな人でもというのです。
「話して喋れます」
「では私も」
「どんな人もです」
「そうですか、それは凄いことですね」
「凄くはないですよ」
 先生は日笠さんの憧れのお顔と言葉に微笑んで返しました。
「僕でも出来たのですから」
「いえいえ、誰にも出来ません」
 日笠さんのお顔は憧れのままです、そのうえでの言葉です。
「とても」
「ですから教えてもらえれば」
「そうはいかないですよ、ただ」
「ただ?」
「先生がどういった方かまたわかりました」
 日笠さんは微笑んでこうも言いました。
「そのことは幸いです」
「幸いですか」
「はい、非常に」
「あっ、これは」
「そうよね」 
 二人共お話するのでした。
「そうだね、それじゃあね」
「このままいけばね」
「いよいよね」
「先生にもね」
「春が来るかな」
「僕は何時でも満足しているからね」
 先生はその動物の皆にこうお話しました。
「春ではあるよ」
「だからそうした春じゃなくて」
「人生の春にも色々あるじゃない」
「先生の春はまた別の春よ」
「僕達がここで言うことはね」
 それは、というのです。
「もっとね」
「もっと違う春よ」
「そこをわかってくれないと」
「困るの、私達も」
「そうかな、けれどね」
 動物達はこうも言いました。
「先生だから」
「どうなるやら」
「先生はのんびりしてるから」
「そこがいいところでもあるけれどね」
「こんなのじゃね」
「サラさんもやきもきする筈だよ」
 先生の妹さんのあの人の名前も出るのでした。
「あの人ってね」
「何かと世話焼きだから」
「だから余計になんだよね」
「先生のことが気になってね」
「時々日本に来ていることもあってね」
「今も直接言ってるね」
「また今度来るしね」
 そのサラがというのです。
「日本に来たら絶対に先生のところにも来るし」
「それで色々言うしね」
「特にこのことは」
「そうだよね」
「ううん、何かとね」
 ここで困ったお顔で言う先生でした。
「僕に言うけれど」
「だから、心配だから言うんだよ」
「僕達もサラさんと同じ考えだからね」
「先生、もういい歳なんだからね」
「そろそろね」
「本当に頼むよ」
「何か随分と」
 動物の言葉がわからない日笠さんは目を瞬かせて言うのでした。
「どの子も賑やかですね」
「ははは、僕のことを気にかけてなんです」
「それで言っているんですか」
「そうなんです、いい子達です」
「そうなのですか」
「ですからお気になさらずに」
 動物達は賑やかなことはというのです。
「悪いことは言っていませんので」
「だといいのですが、ただ」
「ただ?」
「何かどの子も」
 日笠さんは皆の視線を感じて先生に言います。
「私を見ていませんか?」
「あっ、気付いたんだ」
「結構鋭いね、この人」
「うん、意外とね」
「よく見ているよ」
「案外ね」
 動物達もこう言うのでした。
「これはやっぱり先生にいいね」
「先生ってのんびりしているから」
「それがかえって鈍感になっているから」
「だからね」
「先生には日笠さんがいいかもね」
「そうだね」
 こうお話するのでした、ですが。
 日笠さんがまたです、彼等を見て言いました。
「私のこと言ってませんか?」
「あっ、それはその」
「私の顔に何かついているのでしょうか」
 こう思った日笠さんでした、皆の視線を受けて。
「若しかして」
「特に付いていないですよ、何も」
「だといいのですが」
「はい、別に何も」
 先生はこう日笠さんにお話します。
「ですからお気になさらずに」
「だといいのですが、それと」
「それと、とは」
「はい、お話は変わりますが」
 日笠さんは先生にあらためて言いました、今度は真面目な感じです。
「防犯カメラを調べていたのですが」
「何かわかったのですか?」
「はい、動物達にお菓子をあげている人の中にです」
「怪しい人がですね」
「いました」
「それはどういった人でしょうか」
「はい、その人は」
 日笠さんは皆にそのことをお話するのでした、そしてです。
 いよいよ騒動の核心に近付いてきました、果たしてその人は誰でしょうか。



今日も今日とて診察を。
美姫 「本当に殆どの動物たちが虫歯なのね」
だな。それでも治療の方は進んではいるけれど。
美姫 「問題は元凶よね」
そこをどうにかしないと、また繰り返す事になるからな。
美姫 「今回、いよいよ犯人が……」
と、ちょっと思ったけれどそれは次回みたいだな。
美姫 「気になってしまうわね」
一体、誰が。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る