『ドリトル先生と学園の動物達』




                  第八幕  お菓子をあげていた人

 日笠さんは先生にです、防犯カメラに映っていた人のことをお話しました。
「動物園、水族館の両方の防犯カメラに映っていたのです」
「その人がですか」
「はい、その人ですけれど」
「あの、詳しいお話はです」
 先生にこうも言うのでした。
「その防犯カメラを観ながらの方がわかりやすいですね」
「はい、そうですね」
 確かにとです、先生も日笠さんの言葉に頷いて答えました。
「実際に観た方が」
「その通りですね、それでは」
 こうしてです、先生達は防犯カメラの映像をチェックする防犯対策室に入りました。そこで二人でなのでした。
 防犯カメラの映像をチェックしています、そして。
 先生はその映像を観てです、日笠さんに言いました。
「お菓子をあげている人の中に」
「いつも映っていますね」
「はい、本当に」
 映像を観ながら言うのでした。
「映っていますねこの人」
「着ている服に特徴があるのでわかりました」
「これはサリーですね」
 先生はその人の服を観て言います。
「この服は」
「サリーですか、この服の名前は」
「インドの女性の服です」
 先生はこう日笠さんにお話しました。
「民族衣装です」
「そういえば映画等でよく観ますね」
 日笠さんもその赤いサリーを見ながら先生に答えました。
「この服は」
「そうですね」
 見れば浅黒い肌の若くて綺麗な人です、その人が動物達にお菓子をあげているのです。サリーを着たその人が。
「この服はインドの民族衣装なので」
「では着ている人は」
「この人のお顔を見ますと」
 それに髪型、黒くて長い髪をインドの女の人の髪型にしているそれも観て言う先生でした。
「インドの方と思って間違いないです」
「インド人ですか」
「そういえばインドのお菓子ですが」
「甘いと。お話されていましたね」
「はい、それも相当に」
「確かに。あのお菓子を再現しますと」
 日笠さんは自分が作って再現したそのお菓子のことを言います。
「物凄い甘さでした」
「日本にはない甘さでしたね」
「試食して驚きました」
 その甘さにというのです。
「作っていてここまで甘くしていいのかとさえ思いましたし」
「それがインドのお菓子です」
「では動物達にお菓子をあげていたのは」
「そして虫歯の原因を作っていたのは」
「この人ですね」
「そうなりますね」
 先生は日笠さんの言葉に頷いて答えました。
「おそらくですが」
「そうですか、それでなのですが」
 ここでさらに言った日笠さんでした。
「この人は」
「インド人ですね」
「はい、それにいつもサリーを着ていて」
 赤いサリーです、防犯カメラに映っている時の服はどれも。
「それに若い方ですね」
「これだけの条件が揃いますと」
「どの方か突き止めることは楽です」 
 日笠さんは先生に確かな声で答えました。
「ここまでわかりましたら」
「そしてこの学園の関係者ですね」
「そう思っていいですね」
 日笠さんは先生にまた確かな声で頷きました。
「この学園の動物園、水族館に頻繁に来ていますし」
「そうですね、そのことも考えますと」
「ここまでわかれば」
 日笠さんは確かな声でまた言いました。
「それでしたら」
「その人を探すことは容易ですね」
「インドからの方を調べていけば」
 それで、というのです。
「わかります」
「それでなのですが」
 先生はここで言うのでした。
「この学園にインドから来られている方は」
「学生の方が一番多いですが」
「教員、職員の方もですね」
「おられます」
 そうした人もというのです」
「この学園には」
「左様ですね」
「はい、そしてその総数は」
 学園内のインド人の数はといいますと。
「あまり多くはないです」
「そうですか」
「はい、一番多いのはアメリカからの方で」 
 つまりアメリカ人です。
「次に中国からの方、そしてそれから台湾に東南アジア諸国にオーストラリア、ニュージーランド、ロシで」
「アジア系の国の方が多いのですね」
「中南米諸国からの方も多いです」
 そちらの国々からの人もというのです。
「八条学園は外国からの方も多いですが」
「全体の中でもですね」
「三割、いえ三割五分はです」
 日本以外の国の人だというのです。
「それから欧州各国となり」
「インドからの方は」
「実はあまりおられません」
「それは八条グループの活動と関係がありますね」
「どうしてもそうなりますね」
「八条グループは欧州にも進出していますが」
「基盤はあくまでアジア太平洋にあります」
 そこに八条グループの活動の重心があるのです。
「日本が拠点ですし」
「では僕は少数派ですか」
「イギリスからの方も確かにおられますが」
「そういえばあまりイギリス人がいません」
「そうなりますね」
 日笠さんもこのことを否定しませんでした。
「どうしても」
「そしてインドからの方も」
「学園内ではあまりおられません」
 いることはいるにしてもです。
「ですからどの方か確かめることは」
「容易ですね」
「これが本当にアメリカ人や中国人ですと少し骨が折れたかも知れません」
 学園内に結構多いからです。
「しかしインド人なら」
「それならですね」
「そうです、すぐに調べましょう」
「それでは」
 こうしてでした、すぐにです。
 日笠さんはその人が誰なのかを調べることにしました、その調べ方はといいますと。
「ここは人事部にお願いしましょうか」
「そちらにですか」
「人事部は学園内の全ての教師、職員、生徒を把握しています」
 その全てをです。
「ですからそこにお願いすれば」
「そうですか、それでは」
「インドからの方でしかも若い女性ならです」
「すぐにですね」
「見付かると思います」
「ではここまでくれば」
「はい、この人がどの人かわかります」
 それこそすぐにというのです。
「後は安心していいです」
「それでは後は」
「はい、人事部にもこの防犯カメラをお見せして」 
 日笠さんは先生に確かな顔でお話します。
「それから次の段階に移りましょう」
「それでは」
 こうしてでした。また一つの段階に進むことになりました。そのことがわかってそうしてそのうえでなのでした。
 日笠さんは先生にお顔を向けたままでこんなことも言いました。
「事態が進みましたし」
「いいことですね」
「はい、それでなのですが」
「それでとは」
「今夜ですが」
 何処か勇気を振り絞る様にして言う日笠さんでした。
「お暇でしょうか」
「?何かあるのですか?」
「いいバーを知っているのですが」
 こう先生に言って来ました。
「よかったら」
「あっ、今夜は」
「今夜はといいますと」
「論文を書かないといけないので」
 先生は申し訳なさそうに言うのでした。
「ですから」
「それで、なのですか」
「今夜は無理です」
「そうですか」
 そう言われてです、日笠さんはがっかりとしたお顔になりました。
 そうしてです、そのお顔でこう言いました。
「それは残念です」
「申し訳ありません」
「ではまた今度」
「今度ですか」
「そうです、またです」
 こう言うのでした、諦めないというお顔で。
「またお時間があれば」
「その時にですね」
「お願いします」
「はい、それでは」
「それで論文は」 
 日笠さんは先生にさらに言うのでした、やっぱり諦めていないお顔で。
「何処で書かれるのでしょうか。研究室でしょうか」
「いえ、自宅で」
「お家で、ですか」
「はい、パソコンを使って」
「若しもです」
 日笠さんはさらに言います。
「お気持ちが変わって」
「僕の気持ちがですか」
「論文を研究室で書かれるのなら」
 その時はというのです。
「私もお手伝いさせて頂きますが」
「研究室に来られてですか」
「はい、その時はです」
「医学の論文ですが宜しいのですか?」
「私に出来ることでしたら」
 その時は是非にというのです。
「何なりと」
「いえ、お家で書きますので」
 先生は一向に気付きません。
「ですから」
「そうですか、ではまた今度」
「はい、時間がある時にお願いします」
 先生はがっかりしている日笠さんを観て応えます、周りでそれを見ていた動物達はその先生と日笠さんを見てやれやれといったお顔になりました。
 そして、です。お家に帰ってから晩御飯を食べている時に先生に言うのでした。
「もう駄目」
「全然駄目だよ」
 まずはジップとチーチーが言います。
「先生何やってるんだよ」
「本当にこうしたことは駄目なんだから」
「あのね、そこでね」
「是非にって言わないと」
「これ以上はないチャンスだったのに」
「何やってるんだよ」
「?だって今夜は論文書かないといけないから」 
 今も気付かないままの先生でした。
「だからね」
「そうじゃないの」
「わかってないわね」
 ダブダブとポリネシアも言うのでした。
「だから、先生はね」
「そういうところが駄目なのよ」
「そもそも論文ってすぐに書かないといけないの?」
「今すぐになの?」
「それなら仕方ないけれど」
「そこはどうなの?」
「締切は一週間後だよ」
 これが先生の返答でした。
「あと半分あるから急がないとね」
「あと一週間なら問題ないよ」
「一日位書かなくても」
 ガブガブとトートーもやれやれでした。
「先生論文書き慣れてるし」
「一週間あったら書けるじゃない」
「今日位休んでもよかったよ」
「幾らでも時間あるじゃない」
「そこで何でそう言うかな」
「論文を優先させたのか」
「いや、論文は早いうちに書かないとね」
 先生はガブガブとトートーにも言うのでした。
「締切の三日前には」
「あのね、三日って」
「それはどうなのじゃ」 
 ホワイティと老馬も呆れ顔です。
「その前日でもいいじゃない」
「いつも三日前でなくともよいぞ」
「しかも気付いてないし、先生」
「全くな」
「これじゃあね」
「日笠さんが可哀想じゃな」
「だから何で皆そう言うのかな」
 どうしてもわかっていなくて言う先生でした。
「論文は大事なのに」
「人生論文よりも大事なことがあるよ」
「それこそね」
 チープサイドの夫婦も先生の手元から言います、ちゃぶ台のそこから。
「あのね、もっとね」
「もっとしっかりしないと」
「人生は学問だけじゃないよ」
「論文は締切間際でもいいのよ」
「一日位普通にやり繰りしないと」
「人生いいことにならないわよ」
「そうなのかな」
 首を傾げさせて返す先生でした。
「僕は学者だから論文は真面目に書かないとね」
「だから三日前に書き終えなくてもいいんだよ」
「別にね」
 最後にオシツオサレツが言いました。
「そんなのはね」
「皆の言う通り三日前じゃなくてもいいんだよ」
「前日で全然いいじゃない」
「何でそこでいつも通りするかな」
「だからそこはね」
「融通を利かせないと」
「僕は融通は考える方だと思うけれどね」
 少なくとも他のことには融通を利かせます、先生は杓子定規でも石頭でもありません。むしろかなり柔軟な人です。
 ですがそれでもです、先生はまた言うのでした。
「まだ足りないのかな、そういうところが」
「気付くこと」
「そこが問題だよ」
「先生のこのことについての融通はね」
「そこが大事なんだけれどね」
「そうなんだ、まあとにかくね」
 また言う先生でした。
「これからお風呂に入って論文書くよ」
「これは本当に大変だよ」
「日笠さんにアドバイス出来たらいいのに」
「私達でね」
「日笠さんも私達の言葉がわかって」
「それが出来たら」
「本当にいいのに」
「けれどこれで間違いないわね」
 ポリネシアの声がここで確かなものになりました、そのうえで言うことは。
「日笠さんはね」
「うん、そうだね」
「いい感じだよ」
「じゃあ日笠さんをね」
「応援しましょう」
「日笠さんはお付き合いで誘ってるだけだよ」
 やっぱり気付いていない先生でした。
「それだけだよ」
「だから先生はもっとね」
「こうしたことも学問だから」
「そっちの学問にも励んだら?」
「もっとね」
 動物達は先生にアドバイスするのでした。
「恋愛学」
「これだけ言ってもわからないことにびっくりしてるけれど」
「それでもね」
「試しに日笠さんに先生から声かけてみたら?」
「自分から女の人に声をかけるって?」 
 そうアドバイスを受けてです、先生は。
 ちゃぶ台のところに座ってお箸に鰯の煮付け、晩御飯のおかずを持ったままです。飛び上がらんばかりに驚いて言いました。
「それは紳士のすることじゃないよ」
「イタリア人は普通にするよ」
「イタリア人の紳士はね」
「フランス人もするし」
「それは紳士とか関係ないんじゃ」
「そう思うけれど?」
「それも紳士なの?」
 動物達は先生の今の言葉にも突っ込みを入れます。
「何か違うんじゃ」
「そこはね」
「どうにもね」
「先生の勘違いじゃないかな」
「いやいや、女の人には礼節を守ってだよ」
 先生の主張です、紳士についての。
「だからね」
「自分からはなんだ」
「声をかけないんだ」
「そんなことしないよ」
 とても、というのです。
「紳士はね」
「それ紳士かな」
「紳士はそうするのかな」
「違うんじゃないかな」
「ちょっとね」
「どうにもね」
 動物の皆は首を捻って言うのでした。
「何かね」
「先生だけじゃないの?」
「先生だけが女の人に声をかけないんじゃない?」
「それはさ」
「先生は確かに紳士だけれど」
 このことは間違いありません、先生が礼儀を失うことはありません。いつも温厚で公平で心優しく織田やな人です。
 しかしです、先生が女の人に声をかけないことが紳士かといいますと。
「紳士でも女の人に声かけるよ」
「そうして交際してるよ」
「女の人にも確かにマナーを守ることは大事だけれど」
「エチケットはね」
「けれどね
「エチケットを守っているのなら」
 女の人に対して無礼でなければというのです。
「別にね」
「声かけてもいいじゃない」
「迷惑をかけないと」
「先生誰にも迷惑かけないし」
「それならいいじゃない」
「声をかけても」
「そうかな、僕はね」
 ここまで言われてもです、どうしてもと返す先生でした。
「女の人にはね」
「声をかけないんだ」
「どうしても」
「そうしないんだ」
「絶対に」
「絶対にじゃないけれど」
 それでもというのです、先生は。
「いや、やっぱりね」
「紳士は女の人に自分から声をかけない」
「そういうものだっていうのね」
「僕は自分が紳士とは思っていないけれど」
「紳士でありたいと思っている」
「だからよね」
「うん、そういうことはしないよ」
 先生がこのことについて言うことは変わりません。
「これからもね」
「それじゃあずっと独身?」
 かなり率直にです、ダブダブは先生に問いました。
「先生は」
「いやいや、何時かはね」
「結婚したいっていうのね」
「そうだよ、その気持ちは変わらないよ」
「じゃあ自分から声をかけないと」
 ダブダブは先生を右の翼で指し示しつつ言います。
「私達は確かにずっと先生と一緒にいるけれど」
「奥さんを見付けてこそじゃよ」
 老馬も言います。
「本当に日笠さんならと思うのじゃが」
「それで皆で言うんだ」
「左様じゃよ、本当に積極的に行ってもらいたい」
 老馬も切実に思うことでした。
「学問だけでなく」
「皆の言う通りですよ」
 トミーも先生に言うのでした。
「先生も結婚しないと」
「トミーもそう言うんだ」
「イギリスのお家はもう売りましたし」
「完全に日本に住んでいるね」
「はい、日本での生活も落ち着いてきましたし」
「それではだね」
「そろそろですよ、安定したお仕事も収入も出来ましたから」
 もう条件が揃っているというのです、結婚に対して。
「もうここは」
「結婚だね」
「真剣に考えて下さいね」
「それじゃあだよ」
 先生は鰯で御飯を食べつつトミーに問いました。
「若し僕が結婚するとね」
「はい」
「そうしたらどうするのかな」
「どうするかといいますと」
「だから。トミーは今この家に住んでいるよね」
 問うのはこのことでした。
「僕が結婚したらこの家に奥さんを迎え入れることになるけれど」
「じゃあ僕は寮に入ります」
「大学の?」
「はい、そうします」
 あっさりとです、トミーは先生に答えるのでした。
「それだけですよ」
「あっさりしているね」
「先生の新婚生活を邪魔するつもりはありませんし」
「その時はなんだ」
「大学の寮に入るか、若しくは」
「アパートで一人暮らしだね」
「そうします、家賃はアルバイトで稼ぎます」
 そうして暮らすというのです、先生が結婚してこのお家を出てその時寮に入ることが出来なかった時はです。
「大学の方でアルバイトも紹介してくれますし」
「うちの大学はそちらにも力を入れてるしね」
「はい、ですから」
「寮かアパートで暮らすんだ」
「そうするだけです」
「そうなんだね」
「というかね、先生」
 チーチーがトミーの言葉を聞いた先生に言って来ました。
「トミーは先生より生活力があるから」
「だから大丈夫だっていうんだね、一人暮らしをしても」
「むしろ先生が世事に疎過ぎるんだよ」
 先生の欠点の一つです、とにかく世事のことには弱い人です。
「そうしたことについて」
「それでなんだ」
「そう、トミーのことは大丈夫だよ」
 例え一人暮らしをすることになってもというのです。
「先生と違ってね」
「先生はトミーの心配をしなくてもいいよ」
 ホワイティも先生に言います。
「トミーはしっかりしているから」
「それじゃあ」
「そう、先生は先生のことを考えないと」
「結婚なんだ」
「本当に真面目にね、先生の将来を考えてね」
「まあ次のチャンスがあったら」
 ガブガブは他の皆と比べていささかのどかに考えて先生に言いました。
「その時にだよ」
「応えればいいんだね」
「その時は論文なんて後回しにしてね」
 ガブガブもこう言うことは忘れません」
「いいね」
「それはなんだ」
「そんなのは何時でも書けるじゃない」
「締切三日前に書き終えなくてもいいんだ」
「締切直前でもいいじゃない」
「そう、書けばいいんだから」
 トートーもガブガブと同じ意見です。
「締切を破らなければいいんだよ」
「そういうものかな」
「締切破る人だっているし」
 こうも言うトートーでした。
「日本の漫画家さんにもいるみたいだし」
「そういうことはよくないんじゃないかな」
 締切三日前に書き終えることを信条にしている先生にとってはです、締切を破ることなぞ考えられません。
「ましてや下書きを載せるなんてね」
「ああ、そういう人いるね」
「確かにね」
 チープサイドの夫婦もお話します。
「締切守らない人もいれば」
「下書きだけ載せる人もいるね」
「どっちもどうかと思うけれど」
「そうした漫画家さんいるわね」
「日本人はしっかりしている人達ですけれど」
 それでもと言うトミーでした。
「中にはそうした人がいますね」
「どの国にも色々な人がいるよ」 
 先生はトミーにこう言いました。
「しっかりした人もルーズな人もね」
「日本人にもですね」
「うん、確かに日本人はしっかりした人が多いけれどね」
「中にはルーズな人もですね」
「いるよ」
 そうだというのです。
「それがそうした漫画家さん達だよ」
「そうなんですね」
「どっちが酷いかな」
「果たしてね」
 オシツオサレツは二つの頭で考えるのでした。
「締切破る人と下書き載せる人」
「そのどっちかかね」
「一体ね」
「その人達のどちらが問題かな」
「そうだね、どっちだろうね」 
 トミーはオシツオサレツに応えて言いました。
「果たして」
「そこは本当に難しいところだね」
 先生も食べながら応えます。
「どちらの人も困ったものだけれど」
「原稿落としたら駄目だよね」
「下書きのままもね」 
 また言うオシツオサレツでした、その二つの頭で。
「どっちもがっかりするし」
「読めなくても読んでも」
「そのどっちも」
「そうなるかな」
「やっぱり締切は破ったら駄目だよ」
 それは絶対にと言う先生でした。
「それでもなんだね」
「そう、もうそんな理由でお誘い断ったら駄目だよ」
「日笠さん絶対先生を悪く思ってないから」
「紳士から声をかけなくてもレディーには応えるの」
「相当な事情がない限りはね」
 時間に余裕のある論文位ではというのです、そして。
 皆で、です。先生にあらためて強く言いました。
「今度こうしたことで断ったら許さないから」
「怒るからね」
「二度としないこと」
「いいわね」
「うん、じゃあそうするよ」
 動物達に応えてそれならと返す先生でした。
「今度はね」
「頼むよ、そこは」
「折角なんだから」
「それじゃあね」
「次こそはね」
 こう皆で言ってでした、御飯を食べてです。 
 その後で、です。皆でデザートを食べました。先生はトミーが洗ってくれた巨峰の粒を食べつつです。そのうえで。
 その巨峰にも舌鼓を打ってです、こう言いました。
「ううん、いいね」
「この巨峰凄く美味しいですよね」
「甘くて食感もよくてね」
「そうですね、山梨の巨峰です」
「山梨だね」
「はい、あそこのものです」
 トミーもです、先生と一緒にその巨峰を食べつつ応えるのでした。
「山梨は葡萄が名産でして」
「それでこれだけ美味しいんだね」
「それぞれの場所で美味しい果物があるんですよ」
「日本にはだね」
「鳥取だと梨、和歌山は蜜柑、青森は林檎です」
 トミーは先生にそれぞれの名産を紹介します。
「奈良の柿もいいですよ」
「柿だね」
「これも凄い評判なんですよ」
「柿だね、ではね」
「今度はですね」
「柿を買って来てくれるかな」
 こうトミーにお願いするのでした。
「頼めるかな」
「わかりました、では次は」
「柿だね」
「それを買って来ます」
「柿もいいんだよね」
 日本に来てです、先生は柿の美味しさも知ったのです。
「あの果物も」
「日本は色々な果物があって」
「そのどれもが美味しいんだよね」
「そうです、この巨峰も」
「うん、美味しいんだよ」
 そうだというのです。
「本当に絶品ばかりだよ」
「土地がいいんでしょうね」
 日本のそこが、というのです。
「果物を作るにしましても」
「お米や野菜だけじゃなくてね」
「イギリスとは違って」
「イギリスはね、土地も水もよくないからね」
 日本と比べるとです。
「どうしてもね」
「果物もですね」
「日本程よくはないね」
「そうそう、桃もいいんですよね」
 ここでこうも言ったトミーでした。
「あれも」
「そうだね、日本の桃もいいね」
「果物も美味しいものばかりですよ」
 トミーは感嘆の言葉さえ出しました。
「日本は」
「甘いだけじゃなくてね」
「全体的に美味しいですね」
「うん、毎日食べられるよ」
「はい、ただ」
「ただ?」
「食べ過ぎますと」
 それこそ、というのです。その時は。
「太りますし」
「虫歯だね」
「それには気をつけて下さいね」
「うん、それはね」
 先生もトミーに応えてこう言います。
「毎日寝る前にはね」
「先生も歯を磨いておられますね」
「そうしているよ」
 今動物園、水族館で起こっている騒動は先生とて無縁ではありません。誰でも虫歯になる危険があるのですから。
「さもないと大変だからね」
「虫歯になりますと」
「そう、だからそれは忘れないよ」
 歯磨きはというのです。
「特に甘いものを食べたらね」
「よく磨かないと駄目ですね」
「虫歯にはまずならないことだからね」
 それで、というのです。
「今だってね」
「寝る前にはですね」
「歯を磨くよ」
 巨峰を食べつつ言うのでした、そして。
 寝る前に歯を磨いてでした、そうしてから。
 先生は学校に向かいました、それからこの日も動物園や水族館の動物達の歯を検診します。そうしてなのでした。
 一緒にいる日笠さんにです、昨日のことを尋ねました。
「防犯カメラに映っていた人ですけれど」
「はい、あの人ですね」
「何かわかったでしょうか」
「いえ、まだ詳しい調査はです」
 それはというのです。
「まだです」
「わかっていませんか」
「はい」
 そうだというのです。
「どうにも」
「そうですか」
「先程調査をお願いしたばかりで」
「ではその結果がわかるのは」
「今日中にはわかると思いますが」
「今すぐにはですね」
「もう少しお待ち下さい」
 こう先生に言うのでした。
「今日中ですので」
「わかりました、それでは」
「そういうことでお願いします」
 日笠さんは先生にこう答えました、少しがっかりとした様子で。
 そうしてでした、今度は自分から先生に言いました。
「ところで先生のお好きな食べものは」
「そうですね、何でもですね」
「どの食べものでもですか」
「美味しく食べます」  
 先生はレイヨウ達の歯を診察しつつ先生に答えます。
「どんなものでも」
「そうですか、どんなお料理でもですか」
「嫌いなものは特にありません」
「では特にお好きなものは」
「最近はカレーでしょうか」
「カレーライスですか」
「あれはいいですね」
 相当にというのです。
「美味しいですし栄養もありますし」
「幾らでも食べられますね」
「はい」
 先生は日笠さんににこりと笑って答えます。
「最近食堂でも食べます」
「どの様なカレーがお好きでしょうか」
「チキンカレー、カツカレーでしょうか」
「その二つですか」
「どのカレーも好きですが」
「その中でも特にですね」
「最近はこの二つがお気に入りです」
 そうだというのです。
「かなり」
「わかりました、カレーがお好きですね」
「特にチキンカレーとカツカレーです」
 また答える先生でした、ただ日笠さんがどうして先生に尋ねてきたのかは気付いていません。それも全くです。
「この二つです」
「カツカレーですね」
「あのカレーは日本独自ですね」
「イギリスにはありませんか」
「日本だけです、それで興味を以て調べたのですが」
 そのカツカレーについてです。
「あのカレーは戦後野球選手が考え出していますね」
「野球選手がですか」
「千葉茂という選手がいましたね」
「巨人のセカンドだった」
「あの人が考え出したものです」
 その人がというのです。
「洋食が好きでカレーとカツの両方を食べようと思って」
「それで考え出したのがですか」
「カツカレーです」
「カレーライスにカツを付けてですね」
「そうして食べたものらしいです」
 そうだというのです。
「どうやら」
「そうだったのですか」
「はい、イギリスにはないです」 
 カツカレーはというのです。
「他の国にも」
「日本だけですか」
「カツはイギリスにもあります」
 そして、でした。
「カレーライスも」
「元々カレーライスはイギリスから来ていますね」
「日本に」
「元々インドからイギリスに渡り」
「そして日本に入っています」
 これが日本のカレーライス伝来の歴史です、先生はこのことも学んでそのうえで知っているのです。
「そうして」
「その通りですね」
「はい、しかし」 
 それでもというのでした。
「一つ思うことは」
「それは?」
「日本のカレーライス程変わったものも」 
「ありませんか」
「イギリスのカレーとは全く違います」
 そうだというのです。
「そもそもイギリスのカレーは最初シチューでしたし」
「カレーシチューですか」
「海軍の水兵さん達がパンに付けて食べていました」
「そのパンが御飯となり」
「カレーライスになりました」
「そしてイギリスから日本に入って来て」
「日本独自のカレーが育ちました」
 そうなったというのです。
「あくまで日本独自のカレーです、特にカレー丼は」
「あれはまさに日本独自でしょうね」
「丼ですから」
 日本独自のものに他ならないというのです。
「まさに」
「そうですか」
「はい、素晴らしいですね」 
 先生はにこりと笑って日笠さんにこうも言うのでした。
「あのお料理も」
「カレー丼もお好きですか」
「そうです」
「日本独自のそれが」
「気に入っています」
 そうだというのです。
「また食べたいです」
「左様ですか」
「シーフードカレーもいいですね」
 このカレーも先生の好物でした。
「あちらも」
「シーフードカレーもですか」
「イギリスにはない食材ばかり。ふんだんに使っていますので」
「だからですね」
「シーフードカレーも好きです」
 そうだというのです。
「日本の豊かな海の食材をふんだんに使っていることが嬉しいです」
「海の幸お好きですか」
「イギリスは長い間あまりありませんでした」
 冷凍技術が発達するまではです。
「ですから余計にです」
「海の幸がお好きですか」
「いや、日本の海の幸は最高です」 
「だからですね」
「シーフードカレーも好きです、他の海鮮料理も好きですが」
「日本は海鮮料理が多いです」
 日笠さんは先生に笑顔でお話します。
「和食もそうですし」
「カレーに限らずですね」
「中華料理やイタリア料理も食べますし」
「スペイン料理もですね」
「はい、どの料理でもです」
「海のものを使ったお料理が多いのですね」
「何しろ我が国は四方を海に囲まれていますので」
 それで、というのです。
「海の幸には困りません」
「そういうことですね、しかしそれはイギリスもだったのですが」
「海の関係ですね」
「日本の海は色々な幸がありますが」
「イギリスの海は、ですか」
「日本に比べるとかなりです」
 そうしたものが乏しいというのです。
「いや、ですからシーフードカレーも」
「お好きなのですね」
「チキンカレー、カツカレーの次によく食べます」
「では今度如何でしょうか」
 日笠さんは動物の皆の予想通りです、先生にまた言いました。
「そのシーフードカレーを」
「ご馳走して頂けるのですか」
「はい、私はカレーが大好きで」
「作ることもですか」
「はい、好きです」
 それで、というのです。
「先生さえ宜しければ」
「そうですか、それでは」
「何時でもお声をかけて下さい」
 その時にというのです。
「シーフードカレーを作らせて頂きます」
「わかりました、それでは」
 先生は日笠さんに笑顔で応えます、そうしてでした。
 先生は動物達の虫歯の治療を続けていきます、ただその中で先生は日笠さんと皆が喜ぶことを約束しました。



犯人の特定も後少しだな。
美姫 「後は報告が来るのを待つだけね」
虫歯治療の方はもう少し掛かりそうだけれど。
美姫 「それにしても、先生は少し鈍すぎるわ」
だな。動物たち皆に言われても仕方ないと思うな。
美姫 「でも、日笠さんもめげずに頑張っているわね」
ああ。今度は一つの約束を取り付ける事までできたしな。
美姫 「肝心の先生は特に気にしていないみたいだけれどね」
ともあれ、もうすぐ犯人も分かるだろうし。
美姫 「どうなるのか楽しみね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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