『ドリトル先生と学園の動物達』




              第十幕  インドからの留学生

 先生は日笠さんにです、この日は動物園の中で動物達この日はキリン達の歯を観ながらそのうえで言いました。
「体重を測ったのですが」
「あっ、それはいいことですね」
「いいことですか」
「体重と脂肪率をチェックしてです」
 そのうえでというのです。
「日々の健康を管理することは重要ですので」
「だからですね」
「はい、先生が体重をチェックされることはいいことです」
「脂肪率もですね」
「そうです、それでなのですが」
 今度は日笠さんから先生に尋ねました、先生のお手伝いをしながら。
「体重と。脂肪率も測られましたね」
「脂肪率も体重計に出ていましたので」
 それで、と答える先生でした。
「そちらもチェックしました」
「それでどうだったでしょうか」
「驚きました」
 先生は目を丸くさせて日笠さんに答えました。
「体重も脂肪率も減っていました」
「それはいいことですね」
「日本来て食べる量が増えたというのに」
「それで体重と脂肪率が減ったことについてですか」
「かえって驚いています」 
 そうだというのです。
「どうしてなのか」
「食べる量は増えたのですね」
「そのことは間違いないです」
 先生もしっかりと自覚していることです、このことは。
「日本のお料理はとても美味しいので」
「だからですね」
「はい、しかし」
 それでもだというのです。
「それでかえって痩せたので」
「不思議ですか」
「そうです、ただ」
「ただ?」
「それで痩せるとは」
 先生はそのことが信じられないのです、それで日笠さんにも言うのです。それがどうしてかということをです。
「わかりません」
「それはですね」
「日笠さんにはおわかりですか」
「日本のお料理、和食はカロリーが少なくヘルシー傾向にあります」
「ヘルシーでもあるのですか」
「お豆腐やお野菜のお料理が多いですね」
「はい、洋食にしても」
 先生も言われて頷きます。
「多いですね、何かと」
「そうしたお料理ばかりなので」
「美味しくてついつい食べてもですね」
「お菓子もです」
 それもだというのです。
「幾ら多く食べてもです」
「それでもですか」
「イギリスのお料理よりもカロリーが少なくお野菜も多いです」
「そういえば」
 ここで先生も気付きました、イギリスのお料理について。
「イギリス人は日本人よりも肥満が問題になっています」
「肥満率が高いですね」
「アメリカや中国、オーストラリアやブラジルもですが」
 こうした国々も肥満が問題になっているみたいです。
「イギリスもです」
「食べるもののカロリーが高く」
「糖分もですね」
 そちらもなのでした。
「イギリスのお菓子は日本のものより甘いです」
「それで糖分もですね」
「多いですね」
「そうしたものを食べていて」
「しかも先生はイギリスにおられた頃は」
「患者さんが少ない病院でした」
 そこの院長さんでした、もっと言うと少ないというよりもです。動物達が一杯いるので人が来ない病院でした。
「その結果暇で暇で」
「動くこともですね」
「なかったです」
「しかし今は」
「日本に来てからは。仕事があって」
 それで、と自分から言う先生でした。
「家と大学を日々行き来して」
「そして講義に出られて大学内を歩き回っておられますね」
「何かと。出張もあります」
「その分運動になっていますよ」
「確かに。言われてみれば」
 そうだとです、先生も頷きます。
「そうなりますね」
「そうですね」
「そういうことですか。僕は日本に来て食べるものが変わって」
「それに運動する量も増えたので」
「痩せたのですね」
「体重と脂肪率が減ったと思います」
 食べる量が増えてもです。
「そうなったと」
「そうでしたか、そういうことですか」
「先生にとっていいことですね」
「確かに。悪いことはありません」
 先生もご自身で言うのでした。
「お陰で健康になった気がします」
「体重と脂肪率が減ってですね」
「見ての通り僕は太っています」
 先生は誰もが見ても太っています、太り過ぎというところまではいきませんがそのお腹は立派なものです。
 それで、です。先生は言うのでした。
「実は結構心配だったのですが」
「その心配がですね」
「減りました、嬉しいことです」
「それは何よりですね」
「全くです、それでは」
「それではですね」
「これからも日本のお料理を楽しませてもらいます」
 こう日笠さんにお話するのでした。
「是非」
「そして働かれてですね」
「それを運動とします」
「それは何よりです。健康ですと」
 それならというのです。
「その分長生きできますので」
「だからですか」
「そうです、健康を維持して下さいね」
「わかりました、そうさせてもらいます」
 先生は日笠さんに笑顔で応えてそうしてでした。
 日笠さんにです、こうも言うのでした。
「では今日のお昼も」
「お弁当を作ってきました」
 先生が食堂で食べますと言う前にでした、日笠さんはすかさずといった勢いで先生に強い声でこう言いました。
「如何ですか?」
「お弁当ですか」
「焼き鮭とお野菜の佃煮、ほうれん草のお浸しにデザートに林檎を入れた」
「主食は御飯ですね」
「そうです、如何でしょうか」
「和食ですね」
 先生は日笠さんのお話を聞いてまずはこう言いました。
「それを僕の為にですか」
「作り過ぎたので」
 それで、というのです。
「先生にもどうかと思いまして」
「僕が召し上がって宜しいのですね」
「是非」
「それではお言葉に甘えまして」
 先生は日笠さんに応えてでした、そのうえで。
 そのお弁当を頂いて食べます、そうして一緒に食べている日笠さんに対してにこにことしてお話しました。
「美味しいです」
「それは何よりです」
「確かに。イギリスのお料理と比べて」
「カロリーが少なくてですね」
「お野菜も多くて」
 それで、というのです。
「ヘルシーですね」
「そうですね、とても」
「あまりカロリーや糖分が高いものを食べ過ぎますと」
「太りますね」
「そうなりますので」
 特に先生みたいにスポーツをしない人はです、とりわけそうなってしまいあmす。
「和食はとてもいいのです」
「そういえば日本の方は太っている人が少ないですね」
「あっ、少ないですか」
「イギリスと比べて。それに」
 先生は自分と同じ献立のお弁当を食べている日笠さんにお話します。
「その肥満の度合いもです」
「イギリスの方が凄いのですね」
「そうです」
「そうですか、ただ日本も」
「太っている人はですか」
「多いと思いますが」
「いえいえ、日本の太っている人はです」
 先生から見ればというのです、このことは。
「イギリスから見れば普通ですので」
「そこまでイギリスでは太っている人はですか」
「太っています、アメリカの肥満がそうですね」
「国は違えどですね」
「アメリカ人の肥満から見れば日本人の肥満は」
 それこそとお話する先生でした。
「肥満になりません」
「そこまで違いますか」
「それは和食故ですね、そして僕も」
「痩せられたと」
「和食はいいのですね」
 こうも言う先生でした。
「日本のお料理自体が」
「健康的だというのですね」
「そう思います、僕は栄養学等には造形がなかったですが」
「これからはですか」
「少し考えてみようと思います」
「左様ですか、やはり健康であるべきだからですね」
「そうです、食べられればいいという訳ではないですね」
 先生が来日してから至った考えの一つです。
「そうなりますね」
「それはその通りですね」
「左様ですね」
「では先生」
「はい」
「これからも何かあれば」
 その時はというのです。
「お弁当を作らせて頂きますので」
「美味しくて健康的なお弁当をですね」
「お任せ下さい。お料理は私の趣味の一つでもあります」
「それは素晴らしいことですね」
「ですから苦にはならないので」
 趣味であり楽しんでいるから、というのです。
「何かあれば何時でもお声をかけて下さい」
「それでは」 
 こう応えてでした、そのうえで。
 先生は日笠さんのお弁当を美味しく頂くのでした、その後で一旦研究室に帰った先生からです。そのお話を聞いた動物達は。
 前足や手、翼を叩かんばかりに喜んで、です。それぞれ言うのでした。
「よし、これはいいね」
「いい流れだよ」
「やっぱり日笠さんで決まりかな」
「先生にはね」
「そうかもね」
 こう言うのでした。
「日笠さん本当にいい人だよ」
「先生の本質に気付いてくれてるしね」
「しかも優しくて料理上手」
「これなら申し分ないよ」
「日笠さんならね」
「先生の面倒を見てくれてるよ」
「先生ときたら世事のことは全くだからね」
 とにかくそちらはてんで駄目なのが先生です、それこそ洗濯機のボタンを押すことすら怪しい位なのです。
「そうした人でもね」
「日笠さんがいてくれたら」
「僕達もほっと出来るよ」
「あの人なら」
「先生、チャンスよ」
 ポリネシアもここぞとばかりに先生に言います。
「千載一遇のね」
「日本の諺だね」
「そうみたいね、そして今は実際にね」
「僕にとって千載一遇だっていうんだね」
「動いたら?」
「うん、動くべきだね」
 チーチーも先生に言いました、それも真面目に。
「ポリネシアの言う通りだよ」
「日笠さんが僕のことを好きだろうから」
「そう、先生から声をかけて」
 そして、というのです。
「お付き合いをはじめるべきだよ」
「ううん、だから僕はね」
「自分から声はかけぬか」
「そうしたことはね」
 先生は老馬にも言います。
「紳士としてはどうかと思うから」
「やれやれじゃな、それではな」
「あの、本当にこんなチャンス滅多にないよ」
 ガブガブも先生に言うのでした。
「本当にね」
「千載一遇だね」
「そう言うべきじゃない、これを逃したら」
 それこそ、と言うガブガブでした。
「先生、チャンスはないかも知れないよ」
「そうかもね。少なくともね」
 ジップも参戦してきました。
「先生これまで女の人と縁がなかったよね」
「うん、そちらはね」
「だからだよ、先生の紳士としての考えは聞いたけれど」
 それでもだというのです。
「ここは自分から行ったら?」
「僕が一番出来ないことだけれど」
「スポーツと並んでだね」
「どっちも苦手だよ」 
 それこそというのです。
「そうしたことはね」
「先生は鈍感じゃないけれど」
 ホワイティもこのことはわかります、先生は決して鈍い人ではありません。相手の気持ちは普通にわかる人です。
「奥手だからね」
「もてたこともないよ」
「それで戸惑っているの?」
「その気持ちもあるね」
 実際にとです、先生はホワイティに答えました。
「実際に」
「そうなんだね」
「ううん、僕から声をかけることは」
「どうしても」
「無理なんだね」
 オシツオサレツが二つの、身体の前後にある頭からお話します。
「やれやれ、それじゃあ」
「日笠さんはもう一押しかな」
「日笠さん自身が頑張らないとね」
「駄目なのかな」
「日笠さんの気持ちも考えたら?」 
 ダブダブは先生に厳しく言いました。
「先生も」
「日笠さんの気持ちに」
「そう、日笠さんは女の人だから」
「ここはっていうんだ」
「殿方から声をかけるべきでしょ」
 先生のお考えと正反対のことを言うのでした、ダブダブはあえてそうしたのです。
「やっぱり」
「そうなるのかな」
「そもそも何で先生はお声をかけないのよ」
 ダブダブはまた厳しく言うのでした。
「先生と日笠さんがお知り合いになってからこうしたことばかり言ってるけれど」
「皆先生が心配だからね」
 TOTOもその大きな目で先生を見つつ言うのでした。
「それも真剣にね」
「だから僕に今も言うんだね」
「そう、先生を思うからこそ」
「私達も言うのよ」
 チープサイドの夫婦の声も真剣なものです。
「もっとね」
「積極的にならないと」
「本当にこの機会を逃したら」
「次は何時か」
「わかったものじゃないから」
「だから言うのよ」
「若しもね」
 ポリネシアもこれまで以上に強く言いました。
「日笠さんが心移りなんかしたら」
「その時は」
「私達皆本気で怒るからね」
 ポリネシアだけではありません、皆が先生を真剣な眼差しで見て言うのでした。
「わかったわね」
「だからそうならないうちに」
「今のうちにね」
「日笠さんをしっかりとね」
「その手に持つのよ」
「いいよね、そのこと」
 こう強く言うのでした、しかし当の先生はです。
 動物の皆の言葉を聞いて頷きながらもです、やはりマイペースでした。そのマイペースさのまま言うのでした。
「そこまでしないと駄目なんだね」
「そう、駄目なのよ」
「さもないと怒るから」
「これ本気だよ」
「もう先生もいい歳なんだし」
「結婚のことも考えないと」
「結婚して」
 それで終わりではありません、むしろ結婚してからなのでした。
「子供も出来てね」
「皆で幸せな家庭も築いて」
「幸せにならないと」
「駄目だから」
 皆はここまで考えているのでした、そして。
 午後にです、先生はです。動物達が後ろにいる中で。
 今度はヘラジカを診察する前にです、こう言いました。
「あの、日笠さん」
「何でしょうか」
「若し宜しければ」
 こう前置きして声をかけるのでした。
「今度僕と」
「先生とですか」
「はい」 
 ここで言おうとしたところで、でした。二人のところにです。
 大学の人事の人が一人来てです、こう言ってきました。
「あの、日笠さん」
「はい、あのことがですね」
「わかりました、ですから」
「すぐに行かせてもらいます」
 日笠さんが人事の人に応えました。
「人事部まで」
「それでお願いします」
「先生、わかったみたいです」
 日笠さんは先生のお話を聞く途中でその先生に言うしかありませんでした。
「虫歯の元凶であるお菓子を作っている人が」
「そうなのですか」
「先生はこのまま診察を続けて下さい」
 ヘラジカ達のそれをというのです。
「私は人事部に行きますので」
「そうですか、それでは」
「すぐに戻ります」
 喜びと焦りが混ざっている声でした、今回の騒動の元の人が見つかった喜びと早くその人が誰か確かめたい焦りです。
「ここでお待ち下さい」
「ではその間に」
「この子達の診察と治療をお願いします」
 ヘラジカの皆を見てのお言葉です。
「そうされて下さい」
「はい、それでは」
 先生も応えてでした、そのうえで。
 日笠さんは人事の人と一緒にすぐに人事部がある校舎の方に向かいました。そうして残った先生はといいますと。
 診察を再開しました、ですが。
 その先生にです、動物の皆は残念そうに言うのでした。
「またね」
「チャンスがあるわよ」
「今のチャンスは小さなチャンスだから」
 先生が直面しているチャンスの中ではです。
「すぐにまた来るから」
「その時はね」
「またね」
「勇気を出してね」
「そうするよ、けれど本当に」
 先生は強張った様な、そして真っ赤にもなっている顔で皆に応えます。
「緊張したよ」
「先生こうしたことははじめてだから」
「女の人に自分から誘いをかけることは」
「だからだね」
「それで余計にだね」
「こんな緊張したことはないよ」
 今まで生きてきた中で、というのです。
「怖い位だったよ」
「そこは人によるみたいだね」
「本当にイタリア人だと平気な人多いからね」
「だから先生はね」
「このことは本当に苦手なんだね」
「苦手も苦手」 
 それこそ、というのです。
「大の苦手だよ」
「だよね、けれどね」
「頑張ったね、先生も」
「それもかなり」
「頑張ったかな」
 先生は自覚のない感じで皆に応えました。
「だといいけれど」
「まあね、ただ」
 ここでジップが先生に言います。
「一つね」
「ただって?」
「先生はこれで安心しかねないから」
 ジップが言うのでした。
「気をつけてね」
「もっと動けっていうんだ」
「無理をしたらね」
 それならというのです。
「誰でもそこから動きにくいから」
「そこで余計に気力と体力を使って」
「先生は相当頑張ったから、だからね」
「ううん、僕が動かなくなるっていうんだね」
「そこは気をつけてね」
 くれぐれもという口調の言葉でした。
「先生もね」
「ここはあえてもっと頑張って」
「そう、日笠さんにも声をかけてね」
「そうしないと駄目か」
「絶対にね、あえてね」
「あえてね」
「僕達も出来ることならフォローするから」
 皆にとって先生は掛け替えのない人です、これは当然のことです。
「頑張るんだよ」
「助けてくれるんだ、僕を」
「当たり前じゃない、先生は僕達の家族だよ」
「それならね」
「助け合うのが当然じゃない」
「先生にはいつも助けてもらってるし」
「それならね」
 絶対にというのです、そうしてでした。
 先生はまた日笠さんにお声をかけようと思うのでした、そうしたお話をしてそのうえでなのでした。
 戻って来た日笠さんにです、こう言われました。
「防犯カメラに映っていた人のことがわかりました」
「どなただったのでしょうか」
「サリー=ジャイプルさんという方です」
「この学園の関係者の方でしょうか」
「はい、インドから来られた方でした」
「予想していた通りですね」
「はい、インドからです」
 この国からというのです、日笠さんも。
「留学生として来られました」
「そうでしたか」
「そしてです」
 日笠さんは先生にさらにお話します。
「八条大学で宗教を学んでおられます」
「宗教学の方ですか」
「何でもインドでは代々ヒンズー教の司祭のお家の方とのことです」
「バラモンにあたりますか」
「カースト制度ではそうなりますね」
 インドの社会にある階級制度です、この制度はそのまま職業分化にもなっていて一口では言い表せないものがあります。
「確かに」
「そうですね、それでなのですか」
「仏教を主に学んでおられるとのことです」
「日本の仏教をですね」
「インドの大学で優秀な成績を収めて日本でも学ばれているそうです」
「そうした方なのですね」
「はい、非常に真面目な方で」
 日笠さんは先生にさらにお話します。
「趣味はお菓子作りとのことです」
「何か今回のお話の要因が揃っていますね」
「そうですね、本当に」
「全くですね、それでこのサリー=ジャイプルさんがですね」
「はい、そうです」
 まさにというのです。
「この人がお菓子を。動物達にあげていました」
「そういうことですね」
「それではです」
「はい、すぐにですね」
「この人に会いましょう」
 日笠さんは先生に強い声で言いました。
「そして動物達にお菓子をあげるのを止めてもらいましょう」
「さもないと皆が虫歯になり続けて困り続けますからね」
「是非共」
「それでは大学のですね」
「宗教学部の方に行きましょう」
 このことも決めてでした、そして。
 先生と日笠さんは大学の宗教学部に向かうことになりました、しかし。
 そこにジャイフルさんはおられませんでした、宗教学部のある教授さんがお話するにはです。
「とても研究熱心な方で」
「では今はですか」
「ここにおられずに」
「学園内の図書館や博物館に赴かれて学ぶこともあれば」
 それにというのです。
「フィールドワークにもよく行かれます」
「そうなのですか」
 先生は教授さんのお話を聞いて応えました。
「大学の外の」
「そうです、奈良や京都にもよく行かれます」
「では今は」
「いえ、今は神戸におられますよ」
 そうした場所には行っていないというのです。
「そうなのです」
「そうですか、では今はどちらに」
「神社にも行かれていまして」
「学ばれているのは仏教だけではないのですね」
「最初は仏教だけを学ばれていたのですが」
 それが、というのです。
「日本の宗教は仏教だけではありません」
「神道もありますね」
「我が国の宗教はこの二つの宗教が融合して出来てきました」
「それが日本の宗教の大きな特徴ですね」
「そうです、それでジャイフルさんもです」
 あの人もというのです。
「神道も学ばれているのです」
「そちらもですか」
「もっと言えば神道以外の宗教も学ばれています」
「といいますと」
「天理教等も学ばれています」
 こちらの宗教もだというのです。
「本当に学問に熱心な方です」
「何か先生みたいですね」
 そのお話を聞いてです、日笠さんは先生を思い出してその先生を見つつ言うのでした。
「その辺りは」
「僕みたいですか」
「どうも」
 こう言うのでした。
「そんな感じがします」
「どの辺りが僕に似ているのでしょうか」
「はい、学問に熱心で多くの学問に関心があるところを」
「先生のお話は聞いています」
 教授さんもです、先生に微笑みを向けてお話します。
「医学だけでなく動物学や文学、歴史学とあらゆる学問に精を出しておられますね」
「いえ、それは」
「それはなのですか」
「僕はただ興味があることを学んでいるだけです」
 ただそれだけに過ぎないというのです。
「ですから」
「そうした大層なものではないと」
「そうです」
 こうお話するのでした、教授さんに。
「ですから」
「だからですか」
「はい、そうしたことを言われると」
 どうにもというのです。
「恥ずかしくなるので」
「わかりました、では」
 もうお話しないとです、教授さんは先生に温和な笑顔で応えました。そうしてでした。
 教授さんはあらためてです、先生にお話しました。
「そしてジャイフルさんはです」
「あの方は今はどちらに」
「いつも居場所を伝えてくれる方なので」
 都合のいいことにです、先生達にとって。
「今は八条神社におられます」
「この町で最も大きな神社ですね」
「あの神社は大きな神社でして」
 それこそ日本でも屈指の大きさです、住吉大社程の。
「お寺もありまして」
「それでなのですね」
「はい、そうです」
 教授さんは先生にお話します。
「あちらで学ばれています」
「神道も仏教も」
「そうですか、しかし」
「しかしとは」
「神社の中にお寺があることは」
「神宮寺です」
「考えてみれば凄いことですね」
 先生はこのことについても言うのでした。
「日本ならではですね」
「そうですね、他の国ではありませんね」
「そうです、ですから」
 それでだというのです、先生は。
 それでなのです、あらためて言いました。
「僕にとっても興味があるものです」
「宗教学にもですか」
「関心があります」
 先生ならではのお言葉です。
「それでは八条神社に赴き」
「そうしてですね」
「ジャイフルさんとお話すると共に」
「八条神社、日本の宗教についてもですね」
「学ばせて頂きたいと思っています」
「ではそのことも踏まえて」
 日笠さんは微笑んで先生に言いました。
「八条神社に行きましょう」
「それでは」
 こうお話してでした、そのうえで。
 先生達は大学を出て八条神社に赴くことにしました、トミーと王子も同行することになりました。勿論動物達も。
 そして出発する時にです、トミーは先生に尋ねました。
「まだ八条神社に行かれたことは」
「あったよ」
 そうだったというのです、先生はトミーに答えました。
「けれどね」
「何度もですね」
「本も何度も読めばその都度新しいことがわかるしね」
「それにですね」
「そうフィールドワークもね」
 そちらもだというのです。
「同じ場所を何度も通って観てこそね」
「新しくわかることがあるんですね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「また八条神社に行くこともね」
「楽しみにされているんですね」
「そうなんだ」
 先生はこうトミーにお話するのでした。
「このこともね」
「そしてですね」
「うん、ジャイフルさんとも会って」
 そうしてというのです。
「動物の皆にお菓子をあげることを止めてもらうよ」
「そのこともですね」
「さもないとね」
 それこそというのです。
「皆が虫歯で困り続けるからね」
「だからこそですね」
「それは止めてもらうよ」
 是非にというのです。
「さもないとね」
「このまま大変なことが続きますからね」
「虫歯は怖いんだよ」
 先生はこのことがとてもよくわかっています、伊達にお医者さんではありません。
「万病の元なんだよ」
「風邪と一緒ですね」
「そう、風邪も注意しないといけないけれど」
「虫歯もですね」
「注意しないといけないんだよ」
 それが虫歯だというのです。
「だからね」
「ここは何としてもですね」
「そうだよ、皆の歯を治すのと一緒に」
「その元もですね」
「止めてもらうんだ」
 皆にお菓子をあげることをです。
「だからこれから神社に行くんだよ」
「さて、今度はね」
 ここで言うのは王子でした。
「神社に行くけれど」
「うん、どうしたのかな」
「神社には馬がいるよね」
「あの神社にはね」
 いるとです、先生は王子にこのことも答えました。
「白い馬がいるよ」
「白馬だね」
「他の馬もいるけれど」
「白馬は一番有名なんだね」
「白馬は神道では神聖なものとされているんだ」
 白が神聖な色とされているが故にです、白馬は神道ではとても神聖な動物として大事にされているのです。
「他には狐や蛇もね」
「蛇もなんだ」
「うん、白蛇もね」
「日本の神道では神聖なんだね」
「そう考えられて信仰されているよ、それにね」 
 さらにお話する先生でした。
「人間もだよ」
「白い人もなんだ」
「そう、大事にされるんだよ」
「白い人っていうと」
「白人ではないよ」
 先生は微笑んで王子に答えました。
「僕達の様なコーカロイドではなくてね」
「完全に白い人なんだ」
「白い肌で赤い目、髪も真っ白なね」
「白子かな」
「そう、動物達も同じだけれど」
「アルビノだね」
「そうした人もだよ」
 神道ではというのです。
「大事にされるんだよ」
「完全に白い人も」
「多くの文化、宗教で白は神聖な色とされるけれど」
「神道でもそれは同じで」
「そう、白いものは大事にされるんだよ」
「そういえば狐も」
「うん、その生きものもだよ」
 先生は王子にです、神社に向かうその途中でお話するのでした。
「白いと大事にされるんだよ」
「狐っていうとね」
 王子は狐と聞いてこう言いました。
「悪戯ばかりするってイメージがあるけれど」
「日本だとそうだね」
「うん、そうした生きものなのに」
「白いとね」
「大事にされるんだ」
「そうなるとね
「白いってそんなに凄いんだ」
 王子は先生のお話をここまで聞いてでした、しみじみとしてお話しました。
 そしてなのでした、あらためてこうも言いました。
「白ね、僕も白は好きだけれど」
「王子は白い服をよく着るね、そういえば」
「うん、白は清らかなイメージがあるから」
「そう、清らかに思えるね白だと」
「だから神道でも大事にされるのかな、白は」
「神道は浄める、そして清らかであることが物凄く大事なんだ」
 穏やかでタブーの少ない宗教です、ですがこのことには物凄く厳しいのです。
「だからね」
「白が清らかだから」
「大事にされるんだよ」
「要するにいつも綺麗にしていろってことかな」
「そういうことだよ」
「成程ね、そういうことだね」
「そうだよ、ただね」
「ただ?」
「一つ大事なことはね」
 そのことはといいますと。
「浄めと反対に穢れ、汚いことはね」
「嫌われるんだ」
「いつも身体を綺麗にすることも求められるから」
「じゃあお風呂は」
「うん、それもいいことだよ」
 それもだというのです。
「身体を綺麗にするからね」
「それじゃあ」
「うん、いいことだよ」
 こう言うのでした。
「それも浄めだから」
「身奇麗にすることなんだ」
「そうだよ、まあ今はね」
「ただジャイフルさんって人にお会いするだけだから」
「そこまですることはないよ」
 具体的に言うとお風呂に入ったりすることはです。
「普通に行けばいいよ」
「じゃあね」
「うん、行こうね」
 こうしたこともお話した先生でした、そして。
 日笠さんは先生にです、こうしたことも言いました。
「しかし先生は」
「何でしょうか」
「日本の宗教にもお詳しいのですね」
「宗教学にも関心がありまして」
「それでなのですね」
「学んでいます」
 そしてです、先生は日笠さんにこのことをお話しました。
「イギリスにいる時も神学を学んでいました」
「神学、キリスト教のことをですね」
「欧州では神学は絶対に避けて通れません」
「学問をされるうえで、ですか」
「はい、絶対に」
 それこそです、何があってもというのです。
「これはです」
「まさに全てのはじまりなのですね」
「僕は医者ですが」
 つまり医学者です、博士号も持っています。
「ですが医学もです」
「神学からはじまっているのですか」
「欧州ではです」
「それもなのですね」
「そうです、まずはです」
「神学からはじまり」
「他の学問が生まれてきました」
 欧州の学問はまさに神学からはじまっていてです、医学もそうだというのです。
「勿論音楽もそうですし」
「芸術もですね」
「文学、哲学、法学、理学、数学と」
「理系もですか」
「神学の影響が強くあります」
「そこは日本とは違うのですね」
「日本の学問も宗教学がありますね」
 先生は日笠さんに返しました。
「しかし仏教や神道も」
「神学程強くはないですね」
 欧州のそれよりはと答えた日笠さんでした。
「とても」
「やはりそうですね」
「哲学はどうしても宗教と関係がありますが」
 人について考えていくものだからです、このことについては東西を問いません。日本もまた然りなのです。
「ただ、日本は儒学もあります」
「中国の学問ですね」
「それも入っていますので」
「キリスト教が全ての源流ではありませんね」
「そのことは間違いないです」
 仏教や神道もそこまで強くはないというのです、日本においては。
「正直に申し上げまして」
「そうですね」
「私達日本人から見ればです」
「欧州の学問はですか」
「キリスト教の影響の大きさに驚きます」
 これが日本人である日笠さんが見た感想でした。
「まことに」
「日本と欧州で学問も違いますね」
「音楽もまずは教会からですね」
「そうです、欧州の今の音楽は教会からはじまっています」
「オルガンもオーケストラも」
 楽器もです。
「全てがです」
「神からですか」
「それで僕から見ますと日本の学問は自由に思えます」
「自由ですか」
「キリスト教の影響、一つの宗教の影響がないので」 
 そのことから言う先生でした。
「そうも思います」
「本当に欧州ではキリスト教の影響が大きいのですね」
「まさに全てと言っていいまでに」
「そして先生も」
「神学も学んでいます」
 今もというのです。
「そちらの論文も書かせてもらっています」
「神学の論文もですか」
「そうなのです」
「では牧師さんになることは」
「いえ、その資格はありません」
 聖職者の資格はというのです。
「国教会にしてもカトリックにしても」
「ただ論文を書かれているだけですか」
「博士号は持っていますが」
 それでもというのです。
「しかしです」
「聖職者にはなれないのですね」
「神への信仰はあるつもりですが」
「聖職者にはですね」
「なれません」
「それはこれからもですね」
「あっ、八条大学の宗教学部では」
 先生はこの大学の学部のことも思い出しました。
「聖職者の資格もですね」
「はい、取得出来ます」
「キリスト教に関しても」
「牧師も神父もです」
「資格を手に入れられるのですね」
「そうです」
 まさにその通りだというのです。
「だからいいのです」
「他の宗教もですね」
「そうです、仏教の各宗派に神道に天理教に」
「本当にそれぞれですね」
「この学園はまた特別です」
 そして宗教学部もというのです。
「あらゆる宗教、宗派を勉強出来ます」
「それは確かに独特ですね」
「そう思います、私も」
「日笠さんもですね」
「この大学にいても何とも思わなかったのですが」
 それでもというのです。
「他の大学の話を聞いて違うと思いまして」
「それで、ですか」
「はい、非常に参考になりました」
「左様ですか、それで先生は」
 こうもお話する日笠さんでした。
「神学は学ばれてもですね」
「聖職者の資格はですね」
「そうです、そこまではです」
「わかりました、それでは」
 日笠さんは先生のお言葉を聞いてこんなことも言いました。
「神父さんもですね」
「あちらはカトリックですね」
「はい、先生はカトリックではないですね」
「国教会です」
 イギリス国教会がです、先生の信仰している宗教だというのです。
「とはいってもあまり教会にも行っていませんね」
「日本に来られてからは」
「日本には国教会の教会はありませんね」
「あまり、ですね」
 ないと答えた日笠さんでした。
「プロテスタントの教会はありますが」
「プロテスタントにも宗派がありますからね」
「ルター派、カルヴァン派にですね」
「国教会もあります」
 先生が信仰しているその宗派です。
「かえってカトリックより様々です」
「そうですね、我が国ではよくプロテスタントと一括りにされるので」
「国教会の教会はですか」
「それだけというものはないです」
「そういえば教会の神父さんと牧師さんも」
「同じ様に考えられています」
 日本ではです、日笠さんは先生に日本のキリスト教の事情もお話するのでした。
「我が国では」
「違うものだとはですか」
「知らない人も多いです」
「そうですね、日本は」
「元々キリスト教に縁が薄いですし」
 このこともあってというのです。
「どうしても」
「その辺りの事情はわかっていましたが」」
「はい、では先生は今は」
「通っている教会ですか」
「どちらに通っておられるのでしょうか」
「国教会の教会がないので」
 困った笑顔で、です。先生は日笠さんに答えました。
「お家でお祈りをする位です」
「そういえばお食事の前も」
「頂きますではないですね、僕は」
「お祈りをされていますね」
「それが信仰ですので」
 だからだというのです。
「そうしています」
「そうですね」
「日本の頂きますも信仰ですね」
「食べることへの感謝ですね」
「日本は八百万の神への信仰の国なので」
 神道です、この信仰です。
「神道の神々への信仰が出ていますね」
「そうなりますか」
「そう思います、それでは」
「はい、それではですね」
「事件の解決にですね」
「いよいよ取り掛かれますね」
 日笠さんはこのことにも笑顔で応えました、そのうえで。
 これからの打ち合わせもしました、動物園と水族館の虫歯の騒動はいよいよ終わりに近付こうとしていました。



動物たちに背中を押されまくり、ようやく先生自らが動こうとしたというのに。
美姫 「タイミングが悪かったわね」
まあ、でも自分から動いたというのは一歩前進と見て良いかと思うが。
美姫 「そうよね。これで前よりは動く事の抵抗も少しは和らいでいると思うし」
まだチャンスはあるはず。
美姫 「でもその前に今回の虫歯騒動の犯人ね」
だな。ようやく誰なのかも分かったし。
美姫 「いよいよご対面かしら」
どうなるのか、次回を待っています。
美姫 「待っていますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る