『ドリトル先生と二本尻尾の猫』




                 第二幕  お酒屋さんのお姉さん

 先生はトミーに紹介してもらったお酒屋さんにです、老馬と一緒に向かいました。お仕事が終わってから老馬に乗ってです。
 大学からとことこと向かいます、その時に。
 老馬がです、先生にこんなことを言いました。
「ねえ、昨日のお話だけれど」
「結婚のことは勘弁してくれよ」
「それはまた言うけれど」
「今は違うんだ」
「うん、先生猫のお話をしてたじゃない」
 ここで老馬が言うのはこのことについてでした。
「化け猫とか猫又とか」
「ああ、あのことだね」
「今の日本の猫はね」
 丁渡町を馬に乗って行く先生の横のお家の壁のところに猫がいました。黒に近い灰色の虎毛のよく太った猫です。
 老馬はその猫を見てです、先生に言いました。
「あの猫にしても」
「尻尾が長くてだね」
「今は一本に見えるね」
「そうだね」
「ああ、ドリトル先生じゃないか」
 ここでその猫も壁の上から先生に言ってきました。
「こんにちは」
「あっ、僕のことを知ってるんだ」
「この町の猫や犬で先生のこと知らない人はいないよ」
「そうなんだ」
「そうだよ、先生は僕達の中で名士だよ」
「おや、僕が名士なんだ」
「僕達とお話が出来る数少ない人間だからね」
 それでというのです。
「僕も先生のことを知っているよ」
「そうだったんだね」
「うん、それとね」
「それと?」
「さっき僕の尻尾が一本って言ったけれど」 
 猫は先生にこのことを言ってきました、先程の老馬とのお話についてです。
「僕は普通の猫だから」
「尻尾は一本だね」
「猫又じゃないよ」
 そこは断るのでした。
「猫又はまた別だよ」
「そうなんだね」
「いることはいてもね」
 それでもだというのです。
「僕は違うから」
「まあ普通生きものに尻尾が二本あったら」
 老馬も言います。
「目立つしね」
「だからそこは化けてなんだ」
 それでとです、猫は老馬にも言葉を返します。
「猫又は隠しているんだけれどね」
「見破る方法はあるのかな」
「驚いたりして変身が解けたらね」
 そうした時はというのです。
「文字通り尻尾が出るよ」
「何かそこは狐や狸と一緒だね」
「変化だからね、猫又も」
「成程、そういうことなんだ」
「そうだよ、それと」
「それと?」
「僕達猫は結構すぐに驚くから」
 これは猫の特性です、猫は好奇心が旺盛でいつも面白そうなものを探しています。そしてそれを見てすぐにびっくりするのです。
「変身もね」
「解けやすいんだね」
「むしろ狐や狸よりもね」
「へえ、そうなんだ」
「流石に千年生きた九本尻尾にもなると違うけれどね」 
 そこまで至ると、というのです。
「普通の猫又はね」
「すぐに驚いて」
「うん、変身が解けてね」
 そして、というのです。
「文字通り尻尾が出るんだ」
「その二本の尻尾が」
「そうなんだよ」
「それでだけれど」
 先生は老馬に猫又のことをお話した猫に尋ねました。
「君は猫又に会ったことがあるのかな」
「あるよ」
 実にあっさりとした返事でした。
「何度もね」
「そうなんだ」
「うん、僕はこの家の猫だけれど」
 猫はここで自分が今上にいる壁の内側にお顔をやりました、そこには奇麗な少し大きめのお家があります。
「この辺りにもいるよ」
「へえ、そうなんだ」
「うん、それでその猫はね」
 ここで猫がさらに言おうとしたところで、です。
 猫は不意にです、こう先生に言いました。
「御免御免、時間だよ」
「時間?」
「うん、うちの坊ちゃんが帰って来る時間だよ」
 だからだというのです。
「迎えに玄関まで行って来るよ」
「そこは僕達と一緒だね」
 老馬は猫ににこりとしてその猫に言います。
「先生が一人で出た時はね」
「そうそう、玄関まで行ってね」
「迎えるんだね」
「そうしてくれたら喜ぶから」
 だからというのです。
「僕もね」
「そうするんだね」
「そうだよ、じゃあ悪いけれど」
「うん、またね」
 先生がにこりと笑ってその猫に応えます。
「ここを通った時はね」
「僕がいればね」
「お話をしよう」
「先生はね」
 それこそというのです。
「僕達皆が知っているから」
「何かあれば」
「うん、お話をしよう」
 こう先生に言ってでした、猫はひらりと壁の下、お家の方に降りてです。そのうえでお家の玄関の方に向かいました。
 その猫を見送ってからです、老馬は先生に言いました。
「残念だけれど」
「うん、猫又のことはね」
「詳しく聞けなかったね」
「そうだね、けれどね」
 それでもと返す先生でした。
「この八条町にもいるみたいだね」
「猫又がね」
「そういえばこの町には」
 先生は考えるお顔になって述べました。
「妖怪変化もね」
「いるね」
「特に八条学園には」
「そうそう、気付いてる人もいるね」
「あそこはかなり妖怪が多いよ」
「色々な妖怪が出入りしているね」
「そして住んでいるよ」
「あの、何歳かな」
 老馬はここで考えるお顔になって述べました。
「百五十歳だったかな」
「あの博士だね」
「うん、あの博士の周りはね」
「妖怪が集まっているね」
「そしてあの博士も多分」
「身体的にはね」
 それこそとです、先生もそこはわかっています。
「妖怪になっているね」
「そうだよね、けれど妖怪もイギリスの妖精も」
「そう、心だよ」
「心は僕達と変わらないね」
「魔物ではないよ」
「妖怪と魔物は違うね」
「化けものって言葉があるけれど」
 その言葉はと言う先生でした。
「あれはね」
「姿形のことじゃないんだね」
「心だよ、心が化けものになると」
「僕達も人間もだね」
「そう、化けものになってしまうんだ」
「心なんだね」
「心が僕達と化けものの違いだよ」
 それこそ決定的な、というのです。
「心が魔物になってしまっては駄目なんだ」
「それで人間でも動物でもなくなるから」
「残念だけれど」
 ここで先生は哀しいお顔になるのでした。
「そうした人もいるんだ」
「そして動物も」
「その心が魔物になった人が」
「化けものにね」
「人を化けものと罵る人こそが」
「化けものになっていることも」
「あるんだよ」
 やっぱり哀しいお顔で言う先生でした。
「差別や偏見、憎悪によってね」
「化けものになるんだね」
「欲があまり深かったりするとね」
「というかね」
「というか?」
「先生はそうしたものがないから」
 偏見やそうしたものはというのです。
「欲も深くないから」
「そうかな」
「うん、化けものにはならないね」
「なりたくないね」
 それこそというのです。
「そうした存在には」
「そうだよね、心がそうなったら」
「どうしようもないから」
「うん、人間でなくなりたくないよ」
 先生は自分自身にも言い聞かせるのでした。
「僕は皆と一緒にいたいからね」
「化けものになったら駄目だよね」
「そうしたら君達と一緒にいられないよ」
「あれっ、そうなるの?」
「少なくとも人間としてはね」
 その心がそうでなくなればというのです。
「そうなるよ。例えば今まで慕っていた肉親を化けものと罵る人はどう思うかな」
「よくないと思うよ」
 老馬は先生にすぐに答えました、お酒屋さんに向かう道中で。
「それは間違ってるよ」
「そうしたことはよくないね」
「うん、絶対にね」
「僕はそうしたことはしたくないよ」
「サラさんに?」
「皆にだよ、例え君達がどうなってもね」
「僕が馬からライオンになっても」
 老馬はこう例えを出しました。
「そうなってもかな」
「うん、外見だけだよね」
「あと食べるものはお肉になるけれど」
「君は君だよ」
 その心はというのです。
「僕の友達のね」
「老馬だね」
「そうだよ」
 まさに彼に他ならないというのです。
「それでどうして手の平を返すのかな」
「先生は心を見ているんだね」
 ここでしみじみとして言った老馬でした。
「それが出来るって凄いよ」
「凄いかな」
「うん、凄いよ」
 心から先生に言った言葉です。
「そこがね、普通の人には中々出来ないから」
「そうは思わないけれど」
「そこをそう思えることが凄いんだよ」
「僕が?」
「うん、凄いよ」
「僕は自分が凄いとは思わないけれどね」
「自分で自分を凄いと思う人はそこまでだよ」
 この人生訓もです、老馬は先生にお話しました。
「先生は違うから」
「凄いのかな」
「本当にね、さて」
 ここまでお話したところで、でした。
 先生と老馬の前、住宅地の中に一軒のお酒屋さんが見えてきました。そのお酒屋さんを見てそうしてでした。
 老馬は先生にです、こう言いました。
「あのお店だよ」
「そうだね、あのお店だね」
「名前も合ってるしね」
「間違いないね」
「じゃああそこに入って」
「うん、お酒を探すんだね」
「焼酎をね」
 まさにそのお酒をというのです。
「探しに行くよ」
「そうだよね」
「うん、どんな焼酎があるかな」
「じっくり探してね。僕はお店の前で待っているから」
「そうしてくれるかな」
「うん、待っているよ」
 こう言うのでした。
「そうさせてもらうよ」
「じゃあ早く済ませるよ」
「いいよ、ゆっくり選んで」
 そこはと返す老馬でした。
「立ったまま寝ているから」
「おや、そうしてなんだ」
「うん、待っているよ」
 そうするというのです。
「だからね」
「それでなんだ」
「うん、先生はゆっくりお酒を選んでね」
 こう言ってでした、老馬は先生をお店のところまで乗せて行きました。そうしてそのお店の前で、です。先生は馬から降りましたが。
 お店からすぐにです、先生が入る前にです。
 白いエプロンに丈の長いえんじ色の服と赤い上着を着た若い女の人が出て来ました。髪の毛は赤くて後ろにまでお下げにして束ねています、とても長くて腰のところまであります。
 目は少し吊っていて瞳は縦長の感じです、お顔は丸めでお口は唇は薄くてです。
 真ん中で上になっていて両走は下に下がっています、その若い女の人がです。
 先生にです、こう言ってきました。
「いらっしゃい、先生」
「えっ、貴女は」
「はい、この店の従業員です」
 こう名乗ってきました。
「お待ちしていました」
「僕のことを知っているんですか」
「はい、よく」
 そうだと答えるのでした。
「知っていますよ」
「あれっ、おかしいですね」
 先生は女の人の言葉に目を丸くさせて言いました。
「僕は貴女のことを」
「ご存知ないですか」
「はい、ですが」
「私は知ってますよ」
 背の高い先生を見上げてにこりとして言うのでした。
「それもよく」
「そうですか」
「はい、それでここにいらした理由は」
「お酒を買いに来ました」
 すぐにです、先生は女の人に答えました。
「焼酎を」
「あっ、焼酎をですか」
「美味しい焼酎を探しています」
「焼酎でしたら」
 それならとです、女の人は先生に笑顔で答えました。
「ありますよ」
「どの銘柄ですか?」
「沖縄産でして」
「沖縄ですか」
「はい」
 こう先生にお話するのでした。
「五十年前にあそこに行った時に見付けまして」
「五十年!?」
 先生も老馬もです、女の人の今の言葉にです。
「五十年ですか」
「そんな前に」
「そうですよ」
 女の人は先生だけでなく老馬にもお顔を向けて答えました。
「結構前ですけれどね」
「五十年が少し前」
「そうなの」
「そうですけれど何か」
 ここでもです、女の人は老馬にも答えました。
「違いまして」
「いや、まあ」
「そう言うのなら」
「それで焼酎は」 
 女の人はあらためてです、先生に言いました。
「その沖縄の黒糖焼酎がいいのです」
「鹿児島のものではなくて」
「鹿児島もいいですけれど」
「沖縄のですか」
「はい、沖縄の黒糖焼酎がです」
 焼酎の中では、というのです。
「私はお勧めです」
「そうなんですね」
「沖縄の地酒もいいですけれど」
「それでもですか
「私のお勧めはこちらです」 
 こう先生にお話して勧めます。
「お魚にもよく合います」
「お刺身にして」
「そうです、あとウナギにも」
「エラブウナギですね」
 どういったウナギかはです、先生はすぐに察してこの生きものの名前も出しました。
「あれですね」
「そうです、エラブウミヘビです」
「沖縄の郷土料理で」
「あれとも合いますよ、沖縄はハブも美味しいですけれど」
「ハブもですか」
「こうして捕まえて」
 女の人はここで、でした。急に。
 右手をです、さっとまるで猫が前足を出すみたいな動きで出しました。見れば手の形も猫の足みたいにしています。
「それで食べちゃうんです、その後で焼酎を」
「あの、今の動きは」
「それって」
 ここでまたおかしなことに気付いた先生と老馬でした。
「その」
「その動きは」
「何か」
 先生も老馬もかなりおかしいと考えだしました、そして今度はです。 
 先生達のお顔の周りにです、不意に。
 虫がぷうんと飛んできました、別に何をするのでもないのですが先生達の周りを飛んできました。するとです。 
 女の人は虫を見てです、何故か。
 お顔をそちらにしきりに向けて虫に頭の動きを合わせてです、暫くして。
 うずうずとしだしてでした、瞳を縦にさせて。
「にゃっ」
 虫にその両手を出して捕まえようとしました、その動きを見てです。
 先生ははっきりと確信してです、女の人に言いました。
「貴女は猫ですね」
「あれっ、わかりました?」
「わかります、一連のお言葉や行動を聞きますと」
 それで、というのです。
「どう見ても猫、それも」
「猫又ですね」
「違いますか?」
「いやいや、流石先生ですね」
 こう言ってです、女の人は。 
 お身体の周りにどろんと白い煙を出してです、瞬時に。
 後ろ足で立った猫になりました、身体の大きさは猫のものになりましたが着ている服はそのままです。赤毛のとても可愛らしい外見です。
 見れば尻尾は二本です、先生も老馬もその尻尾まで見て言いました。
「やっぱりね」
「猫又だったね」
「五十年って聞いてまさかと思ったけれど」
「案の定」
「流石は先生、鋭いです」
「いや、君がね」
 むしろ猫又の方がと返す老馬でした。
「うっかりっていうか」
「おやおや、そうかしら」
「そうだよ、というか君の正体はわかったけれど」
「ばれちゃったわね」
「ばれても何もしないよね」
「殺すとか?」
「口封じでね、そんなことするのかな」
 老馬は猫又をじっと見てこのことを尋ねました。
「若しそうだとね」
「許さないっていうのね」
「僕はともかく先生にそんなことはさせないよ」 
 老婆は猫又に強く言うのでした。
「絶対に」
「そういえば貴方先生のお友達だったわね」
「とても長いね」
「だからこそなのね」
「僕だけじゃないよ」
 それこそというのです。
「皆がそんなこと許さないから」
「そうよね、やっぱり」
「正体の口封じとかで」
「そういえば日本の化け猫も」
 ここで先生も言いました。
「正体がばれたらその相手を」
「殺すよね」
「こうしたお話は世界中にあるけれどね」
「日本の化け猫もなんだね」
「うん、だとしたら」
「そんな物騒なことはしないわよ」
 猫又は笑ってそれは否定しました。
「秘密を守ってくれる相手には何もしないし。喋りそうなら」
「そうした人にはどうするのかな」
「私達の記憶を消すから、妖力を使って」
 そうしてとです、馬にお話するのでした。
「だからね」
「正体を知ってもなんだ」
「殺したりしないわよ」
 そのことは保証するのでした。
「悪い奴は懲らしめるけれどね」
「だといいけれどね」
「だって私達も人間と一緒に暮らしてるのよ」
 人間に化けてです。
「それだったらね」
「人間が嫌いじゃなくて」
「そう、私なんてここの四代前のご主人のところに里親に出されてなのよ」
 そうしてというのです。
「前の前の戦争の時にね」
「第一次世界大戦の頃かな」
「そう、あの頃に来て」
「それからなんだ」
「ずっとここでお世話になってるのよ」
「それで生きているうちにだね」
「気付いたら長生きしていたのよ」 
 この辺りは結構適当な感じだとです、先生と老馬は思いました。
「いや、それで妖力が備わっていてね」
「尻尾も二本になって」
「猫又になっていたのよ」
 そうなっていたというのです。
「いやあ、猫生もわからないわね」
「そういう問題かな」
 老婆は猫又の楽しそうにお話する様子を見て述べました。
「随分適当だね」
「そうかしら」
「僕が聞く限りね」
「それでご家族は皆私のこと知ってるのよ」
「君が猫又だって」
「ええ、それで代々大事にしてもらってるわ」
「それは何よりだね」
 老馬もそれはいいことだと返します、ですが。
 猫又にです、こうも尋ねました。
「それでだけれど」
「何かしら」
「君の名前は何ていうのかな」
「私の名前ね」
「うん、あるよね」
「あるわよ、その四代前のご主人がつけてくれたのよ」
 猫は老馬に胸を張って答えました。
「ちゃんとね」
「どんな名前かな」
「お静っていうの」
「お静?」
「そう、いい名前でしょ」
「百年前からその名前になったのね」
「そうなのよ、付けてもらった瞬間にいい名前だって思ったわ」
 まさにその瞬間にというのです。
「ご主人にはそのことも感謝しているわ」
「その時のご主人に」
「そこから前の戦争やら後のゴタゴタやら地震もあったけれど」
「今もだね」
「こうしてここでお世話になっているのよ」
 こう先生と老馬に言うのでした。
「それで時々ね、こんな元の姿になって」
「それで僕と一緒に」
「そう、先生を見てたのよ」
「それで僕のことを知ってたんだ」
「先生は有名人だから」
 猫又のお静さんもこう言うのでした。
「この町の犬と猫は皆知ってるわよ」
「そうみたいだね」
「そうよ、公平で気さくで優しい人ってね」
「そうした評判なんだ」
「そうよ、皆に優しいね」
 そうした評判だというのです。
「こうしてうちに来てくれたのも何かの縁ね。宜しくね」
「うん、こちらこそね」
 先生は屈んで、でした。そのうえで。
 お静さんに右手を差し出します、するとです。
 お静さんも右の前足を差し出して、でした。それで握手をして挨拶をしました。そうしてその挨拶が終わってからでした。
 お静さんは人間の姿に戻ってです、こう言いました。
「じゃあ焼酎はね」
「うん、沖縄のそれだね」
「あれがお勧めだから」
「今このお店にあるんだね」
「だからお勧めしてるのよ」
 それでと答えるお静さんでした。
「先生にね」
「そういうことだね」
「実は私お酒が好きで」
 お静さんはこのこともです、先生達にお話しました。
「ご主人にどのお酒がいいのかアドバイスさせてもらっているの」
「それで僕にも」
「そう、買ってね」
「そうさせてもらうよ」
「そういうことでね」
 こうしてでした、先生はお店の中に入りました。お店の中には焼酎だけでなく日本酒やビール、ワイン等様々な種類のお酒があります。お店の中は外観から感じられるイメージよりもずっと広くて奇麗にお掃除されています。
 そのお店の中に入るとです、お静さんは先生にその沖縄の焼酎を差し出してです。先生にこう言ってきました。
「はい、これよ」
「そのお酒がだね」
「私が一番のお勧めよ」
 まさにその焼酎こそがというのです。
「期待してもらって結構よ」
「じゃあ買わせてもらうよ」
 こうして先生はその焼酎を買いました、そして。
 その焼酎を手にお店を出てからでした、お店の外で待っていた老馬がお店の外まで見送りに来たお静さんに尋ねました。
「ところで君って」
「何かしら」
「好きな食べものは」
「お魚よ」
「ああ、やっぱり」
「あとキャットフードね」 
 そちらも好きだというのです。
「鮪のね」
「猫らしいね、その辺りは」
「それとお酒なのよ」
「随分好きみたいだね」
「趣味はお酒を飲むことと寝ることよ」
 この二つだというのです。
「どっちも楽しんでるわ、いつもね」
「そんなに寝るんだ」
「暇ならずっと寝てるわよ」
「そこは本当に猫だね」
「そうでしょ、猫は寝るものよ」
「寝る子という言葉から猫になったという説があるね」
 先生がこのことをです、老馬にお話します。
「それ位猫はよく寝るからね」
「そうそう、寝ることは最高よ」
 お静さんは先生のお言葉ににこにことして応えます。
「あんな気持ちがいいことはないわ」
「僕も寝ることは好きだけれどね」
「そうでしょ、ただね」
「ただ?」
「最近あまり寝てもいられない場合もあったりして」
「お店のお手伝いで?」
「いやいや、こっちは 猫又になった時からだから」  
 特にというのです。
「全然気にならないわ」
「それじゃあどうしてかな」
「まあね、ちょっとね」
「ちょっと?」
「長いお話になるから」
 それで、と返したお静さんでした。ここで。
「また機会をあらためて」
「それでだね」
「先生のお家とお仕事先はもう知ってるから」 
 その二つはというのです。
「本来の姿になった時に街のあちこち巡ってるから」
「じゃあその時になったら」
「お邪魔していいかしら」
「何時でもいいよ」
 先生は微笑んでお静さんのお願いに答えました。
「僕でよければね」
「何でも言っていいのね」
「うん、僕に出来ることならね」
「そうさせてもらうわね」
「そういうことでね」
「ええ、それにしても先生って」
 今度はお静さんから先生にこんなことを言いました。
「イギリスから来られたのに」
「日本人みたいだっていうのね」
「ええ、皆から言われてるわよね」
「言われるね、本当に」
「日本語も凄く上手だし」
 それにというのです。
「日本のことも知っててその仕草もね」
「日本的だっていうんだね」
「そうなの、全部ね」
 それこそというのです。
「日本人みたいよ」
「そうなんだね」
「ええ、こうしたことってお肌や髪の毛の色じゃないのよね」
「そういったものは外見だけだよ」
 それだけの違いでしかないとです、先生もお静さんににこりとしてはっきりと答えます。
「中身は違うから」
「そうよね」
「僕はそうした考えだよ」
「その通りよ、先生はむしろね」
「むしろ?」
「他の日本人の多くの人よりもね」
 先生を見てにこりとしてお話します。
「日本人的よ」
「そこまでなのかな」
「そうよ、私が見たところね」
「そう言われることが本当に多いね」
「というか先生が日本に来られたのは」
 それこそというのです。
「もう運命ね」
「それこそというのね」
「ええ、だから私にも会えたのよ」
 お静さんは先生ににこにことしてこうしたこともお話しました。
「私としても嬉しいわ」
「そうなんだね」
「これからも日本にいるのよね」
「そうだね、もう仕事もお家もここにあるから」
 先生もこうお静さんに答えます。
「そのうち国籍もね」
「日本になのね」
「そうしようかなって考えてるよ」
「そこまで日本がお好きなのね」
「日本もイギリスも大好きだよ」
 これは先生の偽らざるお考えです、先生はどちらの国も大好きでそれこそ心から愛しています。
「食べものはこちらの方がだけれど」
「あら、イギリスの食べものは好きじゃないのね」
「味はね、どうしてもね」 
 そこはとです、先生はどうしても苦笑いになりました。
「何ていうか」
「日本の方がよね」
「美味しいね」
「いや、私も先代のご主人と一緒にイギリスに行ったけれど」
 お静さんは苦笑いになってイギリス料理のこともお話します。
「あれはね」
「口に合わなかったかな」
「正直最初の一口でね」
「駄目だったんだ」
「フィッシュアンドチップスだって」
 イギリスの代表的なお料理の一つであるこれもというのです。
「駄目だったわ」
「そうだったんだね」
「それは先生もなのね」
「うん、ティーセットもね」
 先生が三時にはいつも食べているこちらもです、先生はこの三時のティーセットをお口にしないとどうしても駄目なのです。
「日本で食べる方がね」
「いいのね」
「最初食べて驚いたよ」
 日本のティーセットをというのです。
「こんなに美味しいのかってね」
「というかティーセットはイギリスが本場でしょ」
「本場でもそれでもだよ」
「美味しいのは」
「うん、日本の方だよ」
「そう言うのね」
「それに日本は他のお料理も美味しいから」
 そのことも含めてというのです。
「料理は日本だね」
「我が国の方が美味しいのね」
「僕はそう思うよ」
「それは何よりね、じゃあまた」
「うん、またね」
「顔を出させてもらうわ」
「何時でもね」
「じゃあお客さんが来ない様だったら」
 お静さんは微笑んでこんなことも言いました、
「招こうかしら」
「その妖力で」
「とはいっても怖いものじゃないわよ」
 このことはしっかりと言うお静さんでした、そして。
 右の手をです、お顔の横に置いて猫の前足の形にしてです、招く様にして。
 動かしてです、こう言いました。
「こうしてね」
「あっ、招き猫だね」
「そうよ、私jはこのお店の招き猫でもあるのよ」
 このことも言うのでした。
「だからね」
「お客さんに来て欲しい時は」
「こうしてお招きするのよ」
「便利だね、その力は」
「それで私が化け猫になってからは」
 それこそというのです。
「もうね」
「それこそだね」
「そう、お店が繁盛してるのよ」
「文字通りの招き猫なんだ」
「そういうことよ、私はこのお店の招き猫よ」
 自分からも言うのでした。
「まあ今日は先生が来られるまではそこそこ繁盛していたから招かないでもいいけれど」
「繁盛するに越したことはない」
「そういうことよ」
 老馬にも答えます。
「だからお招きしようかしら」
「お店の為に頑張ってるんだね」
「当たり前よ、お店にお客さんが来てくれないと」
 それこそと返すお静さんでした。
「ご主人達も私も」食べられなくなるでしょ」
「君もなんだ」
「そう、私もよ」
 他ならぬお静さんもというのです。
「困るからよ」
「普通にお池とかでお魚食べれられるよね」
「まあね、妖力を使って獲ることも出来るから」
「それでもなんだ」
「だって。お金がないとキャットフードは食べられないわ」
「君はそちらの方が好きなんだ」
「特に鮪のね」
 またこのキャットフードのことを言うのでした。
「あれが食べられないから」
「それでなんだ」
「何よりもご主人達が困るじゃない」
「そういうことなんだね」
「そういうことよ、だからなのよ」
「君はお客さんを招くんだね」
「そうよ、ただ妖力を使うとその分お腹が減るのよね」
 こうしたことも言うのでした。
「それでね」
「その分だね」
「食べてるのよ」
「お魚とかキャットフードを」
「そうしてるの」
「そうなんだね」
「そして夜はお酒を飲んで寝てるの」
 大好きなこの二つをというのです。
「時々起きるけれどね」
「猫は夜行性だからね」
 先生が猫のこの習性を指摘しました。
「だからだね」
「そうよ、まあ夜も寝るけれど」
「夜行性なのにね」
 老馬は猫又のその言葉にあえて突っ込みを入れました。
「やっぱり寝るんだね」
「だって猫は寝る子よ」
 先生のお言葉をそのまま使って老馬に返します。
「だからね」
「夜も寝るんだ」
「そうなのよ、私もよく寝るわよ」
「じゃあ今は?」
「ちょっと起きてるの」
 そうした状況だというのです。
「お店のカウンターのところで寝ていてね」
「僕達が来たから?」
「そう、気配を感じたからよ」
 今は人間のお顔なのでお髭はない筈ですが何故かお髭を生やしている感じで老馬に誇らしげなお顔で言うのでした。
「起きたのよ」
「妖力で?」
「妖力と勘よ」
「ああ、猫の」
「そう、猫の勘は凄いのよ」
 そのことを胸を張って言うのです。
「もうお店に入る人が近くに来るとね」
「わかるんだ」
「その瞬間にね。しかも私は猫又だから」
「そこに妖力も加わって」
「余計にわかるのよ」
 普通の、彼女から見ればまだ若い猫達よりも早く、というのです。
「そうなのよ」
「成程ね、だから僕達が来た時に出て来たんだ」
「そういうことよ」
「その事情はわかったよ、じゃあ」
「また会いましょう」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 先生達はこの時は猫又さんとお別れしました、そうしてなのでした。
 焼酎を手に意気揚々としてお家に帰りました、そのうえでお家でその焼酎を飲んで心から楽しみました。
 その時にです、先生は一緒にいるトミーに猫又のことをお話しました。するとトミーは目を瞬かせて先生にこう言いました。
「やっぱり先生は縁がありますね」
「妖怪と言われる人達とだね」
「はい、何かと」
「そうだね、猫又のことをお話したら」
「早速会ったからね」
「はい、ですから」
 それでというのです。
「やっぱり縁がありますよ」
「そうなるね」
「はい、本当に」
 先生にお話します。
「そしてですよ」
「うん、何かありそうな感じだね」
「先生って妖怪さんとお会いしたら」
「頼まれるね」
「色々と」
「それも縁なのかな」
「そうですね、ただその猫又さんは」
 先生がお会いした猫又さんについてもです、トミーは言うのでした。
「代々ですよね」
「うん、お酒屋さんのご主人に飼われているよ」
「そうなんですね」
「そうだよ」
「人間と妖怪が一緒に住んでいるんですね」
「イギリスでもあるね」
「はい、童話でもありますね」
 トミーはここである童話を思い出しました、その童話はといいますと。
「長靴を履いた猫ですね」
「そうだよ、ケット=シーもだね」
「そうですね、そして日本の猫又も」
「そうだよ、人間と一緒に住んでいるんだよ」
「そうなんですね」
「あの猫又さんにしてもね」
 飼い猫としてです、お酒屋さんにいてそのうえで仲良く暮らしているのです。
「そうなんだよ、ただね」
「ただ?」
「あの猫又さんも僕に何か話がありそうで」
「後日、ですね」
「うん、ありそうだから」 
 それでというのです。
「また会いに来るってね」
「言ってるのね」
「そう、だから」
 それでというのです。
「気になるね」
「猫ですから自分からひょっこり来ますね」
「そうなるね、本当に長靴を履いた猫みたいに」
「そうなるだろうね」
「じゃあその時に」
「直接お話を聞くことにするよ」
 こうしたこともお話しました、そしてでした。
 先生達は今はです、その焼酎を飲みました。おつまみはこの日は鮭のお刺身でこちらもかなり美味しかったです。



話をしていたら、まさにその猫又に出会ったな。
美姫 「何やら、悩みがありそうな感じだったけれど」
先生に何か相談やお願い事をしに来るかな。
美姫 「来そうよね」
いつ頃現れるかな。
美姫 「意外とすぐだったりしてね」
一体、何を話に来るんだろうか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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