『ドリトル先生と森の狼達』




                       第九幕  熊さんとのお話

 先生は朝起きてです、まずは。
 朝御飯の後でガムを噛んでこう言いました。
「これで歯はよし」
「ガムで汚れを取る」
「そうしてるからね」
「いいだよね」
「歯垢とかも取るから」
「そうだよ、これは軍隊でもやっているけれど」
 食べた後にガムを噛んで歯の汚れを取る方法はです。
「いいね」
「歯磨きになるんだね」
「そうだよね」
「そうだよ、歯は綺麗にしないとね」
 お口の中はというのです。
「すぐに虫歯になるからね」
「虫歯怖いからね」
「一旦なると厄介なんだよね」
「それに磨かないとすぐになるから」
「治療しても歯は元に戻らないから」
「だからいつも奇麗しておかないといけないんだよね」
 歯のある動物の皆が言います、それでなのです。
 先生も歯のある皆もガムを噛んでいます、それでお口の中を奇麗にしているのです。歯の汚れを取ってです。
 先生は皆にです、こう言いました。
「僕は歯科医でもあるから言うけれど」
「虫歯には気をつける」
「そうだよね」
「動物園や水族館で前大変なことにもなったよね」
「虫歯は万病のもと」
「風邪と一緒で」
「だからだよ」
 まさにそれでだからです。
「僕も気をつけているんだよ」
「虫歯だと寿命が縮まるっていうし」
「集中力も落ちてね」
「安眠も出来ない」
「痛みとかのせいでね」
「そう、だから虫歯にはまずはならない」
 そのことに注意してというのです。
「そしてなったらすぐに治療する」
「酷いことにならないうちに」
「すぐに治療してだよね」
「大事にならない様にするんだね」
「学問にも影響が出るんだ」
「そうだよ」
 先生は皆に真面目にお話します。
「だから動物園や水族館の虫歯の時もね」
「先生真面目に動いていたんだね」
「皆の歯の治療の為に」
「そうしていたんだね」
「日本のCMで歯が命という言葉があったらしいけれど」
 かなり前のCMではあります。
「その通りなんだよ」
「あれは確か芸能人は、だったね」
 王子が言いました。
「そうだったね」
「うん、このことはね」
「芸能人だけじゃないね」
「誰でもなんだよ」
 人も動物もというのです。
「歯は大事にしないといけないんだ」
「絶対にだね」
「そう、歯がなくてもね」
 歯のない鳥達もというのです。
「お口の中は奇麗にしておかないと駄目だよ」
「私達もなのね」
「歯がなくてもだね」
 その鳥であるダブダブとトートーが応えました。
「お口の中はいつも奇麗に」
「清潔にしないと駄目なんだね」
「そういうことね」
 ポリネシアも言います。
「お口の中は歯がなくても奇麗に」
「ちゃんと毎日ゆすいだりしてね」
「わかったわ、そのことはね」
「いつも守ってるよ」
「先生が言ってる通りね」
「そういうことでね、風邪と虫歯は万秒の元」
 先生はこうも言うのでした。
「しっかりと奇麗にしないとね」
「特に甘いものを食べた後は」
 トミーもガムを噛みつつ言います。
「奇麗にしないと駄目ですね」
「糖分は歯に悪いからね」
「だから余計にですね」
「甘いものを食べた後は歯を磨く」
「さもないと虫歯の元ですね」
「そうなんだよ、このことは御飯やパンも同じだよ」
 主食に入るこういったものもというのです。
「澱粉で糖分が多いからね」
「そういえばお菓子はあれだね」
 ここで王子が気付きました。
「お米や麦から作るね」
「主食と同じだね」
「主食があってそこから余ったみたいに作るから」
「お砂糖はなくても作られるね」
「うん、だからなんだね」
「そう、御飯やパンを食べてもね」
 そうしたものを食べてもというのです。
「お菓子を食べた時と同じくね」
「歯は奇麗にしておく」
「そうしないと虫歯になるよ」
「御飯やパンも危ないんだね」
「そうなんだよ、とにかく歯は奇麗にね」
 とにかくというのです。
「だから今もね」
「こうしてガムを噛んで」
「それで歯の汚れを取って奇麗にして」
「そういうことだね」
「歯磨きが出来なくても」
「そうだよ、じゃあこれからね」
 ガムを噛みながら皆でテントを収めています、皆でやればすぐですが先生の動きは皆の中で一番遅いです。それでも真面目にしていますが。
「熊君のところにいこう」
「ツキノワグマのだね」
「それで熊さん達のお話も聞いて」
「そしてだね」
「熊さんの生態系も知るんだね」
「そうするよ、ツキノワグマも面白い生きものでね」
 先生は生物学者として目をきらきらさせて語ります。
「研究のしがいがあるんだ」
「ツキノワグマもなんだ」
「面白い生きものなんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、日本の他の動物の皆と同じでね」
 ツキノワグマもというのです。
「面白いんだよ、ただ普通の熊に比べて小さいから」
「ああ、日本の他の生きものと同じで」
「森の中にいるからなんだ」
「この山の森の中で」
「それでなんだ」
「小さいんだ」
「そうだよ、比較的小型の熊なんだよ」 
 それがツキノワグマだというのです。
「狼や狐、狸と同じくね」
「狐さや狸さんと同じなら」
 チーチーがここで言うことはといいますと。
「化ける?」
「日本の狐さん狸さんって化けるからね」
 トートーはチーチーのその言葉に頷きました。
「だからだね」
「熊さんも化けるのかしら」
 ダブダブもそのお話に入りました。
「やっぱり」
「僕達犬や猫君もこの国じゃ普通に妖怪変化になるしね」
 ジップは猫のお静さんのことも思い出しました。
「歳を経るとね」
「松山じゃそれで仁左衛門さんと色々あったね」
 ガブガブはこの時のことを思い出しました。
「化ける狸さん達と」
「川獺さん達はイギリスから来てたけれどね」
 ホワイティが言うにはイギリスから来た生きものもです。
「それでも日本の生きものの方が化けるわね」
「というか日本の生きものって誰でも化けてるわよ」
 ポリネシアの見たところです。
「穴熊さんだって鼠さんだってね」
「そういえば鳥もね」
「姑獲鳥っていう妖怪もいてね」
 チープサイドの家族はこの妖怪を知っていました、先生が持っている日本の妖怪の本に載っていたのです。
「それで鳥から人間になるんだよね」
「あの妖怪もね」
「中国から来たって書いてあるけれど」
「日本の妖怪にもなってるね」
「馬や牛が言葉喋るとかあったね」 
 老馬も言います。
「人の頭を持っている牛とか」
「そうそう、件だった?」
「そんな妖怪もいるね」
 オシツオサレツは老馬の言った人の頭を持っている牛が何かを知っていてそれでこう応えたのです。
「動物が化けたり妖怪になったり」
「しょっちゅうの国だからね」
「あっても不思議じゃないね」
 それもとです、先生も応えます。
「熊が人に化けたりするのも」
「やっぱりなんだ」
「日本じゃそれが普通なんだ」
「妖怪になったりとか」
「それも普通なんだね」
「この国はイギリス以上にそうした話が多いからね」
 動物が人になったりするお話がというにです。
「人と他の生きものの境目が少ない国だから」
「僕達と先生みたいに」
「垣根が少ないんだ」
「だから動物が生きものになったり」
「そんなことがあるんだね」
「あと人間が動物になる話も多いよ」
 逆もまたというのです。
「そちらもね」
「山月記ですね」
 トミーは先生のお話を聞いてこの作品を出しました。
「中島敦の」
「そう、あの作品は中国が舞台だけれどね」
「日本にそうしたお話の下地があるから生まれた作品ですね」
「そうだよ」
「人が動物になったりもですか」
「日本じゃ結構あったりするんだ」
「成程、そこも面白い国ですね」
 トミーは先生とのお話からしみじみと思うのでした。
「本当に」
「そうだよ、だからね」
「それで、ですか」
「熊君達も歳を経ると妖怪にもなったりするよ」
「やっぱりそうなんだ」
「じゃあ熊も人になったりとか」
「そうしたこともあったりするんだ」
「日本だと」
「まあこの山奥のツキノワグマは違うかな」
 先生はこうも言いました。
「そうした話はこれまでなかったし」
「その熊さんもだね」
「別に人間に化けたりしない」
「そうなんだね」
「この国も」
「そうかもね、とにかく行こう」
 是非とお話してです、そのうえで。
 先生達はテントを収めてから先に進みました、それから。
 山奥を進みました、するとジップがお鼻をくんくんさせて言いました。
「いるよ」
「熊君達がだね」
「三匹いるよ」
 それだけだというのだ。
「大きい熊にね」
「子熊が二匹だね」
「その匂いがするよ」
 ジップは匂いからこのことをわかったのです、そしてです。
 先生は先の方にです、こう声をかけました。
「熊君達いいかな」
「おや、気付いたのね」
「僕達のことに」
「気付いたの」
「君達に会いに来たんだよ」
 先生は声がした方に自分から言いました。
「お話しにね」
「ふうん、そうなのね」
「じゃあお母さん、今からね」
「お話してみる?」
「銃の匂いはしないし」
「危険な香りはしないよ」
 子熊らしき二匹の声がお母さん熊に言っていました、まだ声だけですがそれがわかるやり取りでした。
「それじゃあね」
「お話してみよう」
「そうね、人だけれど」
 それでもとです、お母さん熊の声が言いました。
「この匂いは危険なものじゃないよ」
「ドリトル先生だよ」
 王子が熊の声がする方に言いました。
「僕達は先生と一緒にいる人間と動物達だよ」
「あら、ドリトル先生なの」
「先生のことは聞いてるよね」
「ええ、噂でね」
 そうだとです、お母さん熊の声が王子に答えました。
「聞いてるわ」
「それじゃあね」
「あのドリトル先生ならいいわ」
 お母さん熊の声は安心しているものでした。
「私達の味方だから」
「それじゃあね」
「今からそっちに行くわね」
「うん、じゃあね」
「僕達もね」
「確かにいい匂いね」
 子熊達の声がしてです、お母さん熊の声も言うのでした。
「匂いで敵か味方ってわかるからね」
「そうだよね、悪い人からは悪い匂いがして」
「銃というか火薬の匂いってあるからね」
「ええ、前に教えたけれどそうした匂いがしないから」
 だからだというのです。
「それじゃあね」
「ここは先生とお話しよう」
 こうしてでした、お母さん熊がです。
 二匹の子熊を連れてです、そのうえで先生達の前に出て来てそのうえで先生達に挨拶をしてからでした。
 先生にです、あらためてお話をするのでした。
「私達のことを聞きたいのね」
「うん、いいかな」
「何でも聞いて、こうしてお話も出来るし」
 熊の言葉で、です。
「先生が聞きたいことをね」
「それじゃあね。君達棲家はあるね」
「いい洞窟があるわよ」
「そこで冬眠もしていたね」
「この子達も産んだわよ」
 子熊達をいとしげに見てです、お母さん熊はお話しました。
「それで今もそこで暮らしているの」
「それは何よりだね」
「ええ、ここはいい場所よ」
「食べものもあるんだね」
「たっぷりとね、ただね」
「ただ?」
「ここの蜂は少し手強いのよ」 
 蜂についてはです、お母さん熊は笑ってお話しました。
「どうもね」
「スズメバチがだね」
「そう、強いのよ」
「大変なんだね」
「どうもね、けれどこの子達に蜂蜜は食べさせてあげられているわ」
「それは何よりだね」
「蜂の子も食べさせられているわ」
 蜂蜜だけでなくというのです。
「そちらもね」
「それは何よりだね」
「人も本当に滅多に来ないしね」
「それも何よりだよね」
「私達にとってはね、狼さん達とも仲良くやってるし」
 先生がお会いした彼等ともというのです。
「悪いことはないわ」
「それは何よりだよ」
「お陰で太りそうよ」
 お母さん熊は笑ってこうも言いました。
「子供達もね」
「そんなにいい場所なんだね、ここは」
「何か森の入口の方は昔は荒れてたみたいだけれど」
「そのことも聞いているんだ」
「少しね、けれど位まは違うって」
「随分よくなったよ、そのことは皆から聞いてるよ」
「そうなのね、やっぱり」
「森は悪くなることもあればよくなることもあるよ」
 その両方があるというのです。
「この森もそうだよ」
「じゃあ私達が住んでいるこの場所も」
「悪くなったりするんだよ」
「それは困るわね」
「僕達も気をつけてるけれどね」
「お願いね、先生は私達の友達と聞いてるわ」
「僕もそうありたいと思っているよ」
 先生も答えました。
「是非ね」
「じゃあね」
「うん、微力ながらね」
 この他にも色々とお話してでした。
 先生は熊さん達のこともお話から調べてです、そして。
 熊さん一家と別れました、その時にふと先生は思いました。
「野生の熊なら」
「野生の?」
「野生の熊なら?」
「何かあるの?」
「野生で」
「いや、野生の熊がいる場所なら」
 そこならというのです。
「ここに来る人も減るかな」
「ああ、熊を怖がって」
「それでだね」
「ここに来て荒らしたりするマスコミの人も減る」
「狼さんを調べるとか言って」
「そうなるかな」
 こう言うのでした、動物の皆に。
「これも知恵の使い方だね」
「人が怖がる話をして近付けさせない」
「幽霊話を出してその場所に人を寄せないとかあるしね」
「それを野生動物でもする」
「そうするんだね」
「野生の虎やライオンがいる場所に迂闊に進む人はいないよ」
 それこそ滅多にというのです。
「だからね」
「それじゃあ」
「野生の熊さんの話は公にするんだね」
「だから迂闊には入ったら危ない」
「そうした話も広めて」
「それがいいかもね」 
 こう言うのでした、ですが。
 ここで王子がこのことを言いました。
「それとね」
「それと?」
「この辺りに山の神様の話があったね」
「ああ、その話だね」
「迂闊に入ると祟られるとか」
「この辺りにもそういう話があるんだよ」
 実際にとです、先生は王子に答えました。
「あとね」
「妖怪だね」
「そう、この辺りにはその話もあるんだよ」
 実際にというのです。
「一本だたらのね」
「その特定の日に封印が解けて山に入れば血を吸われるっていう」
「その妖怪もね」
「この辺りに話があるんだ」
「奈良県と和歌山県の境だからね」
「それ本当の話のかな」
「真相はわからないけれど実際にそうした話があるよ」
 先生達が今いる奈良県と和歌山県の境にはというのです。
「この辺りにはね」
「その話も使えるかな」
「迂闊に山に入れば襲われる」
「その話が広まれば」
「ここまで来る人減るよね」
「ことの真相は不明でもね」
「使えるね」
 先生は確かなお顔で、です。王子に答えました。
「じゃあその話もね」
「広めようね」
「そうしよう、まあそうした話を迷信って言って信じない人もいるけれどね」
「いるね、無神論というかね」
「科学を万能って思う人もね」
 科学でこの世のあらゆることを説明出来ると主張している人がです、先生はそうした考えは持っていないです。
「いるね」
「そうした人はどうすべきかな」
「そうだね、そうした人はね」
 是非にと言う先生でした。
「そうした人へのやり方があるよ」
「あるんだ」
「うん、とにかくあらゆる手段を使ってね」
 そのうえでと言う先生でした。
「ここに迂闊に人が入られない様にしよう」
「狼さん達を守る為に」
「公にすべきかどうかも迷っているけれど」
「そのことなんですけれど」
 今度はトミーが先生に言ってきました。
「ニホンオオカミさんのことを公にするかどうか」
「そのことをだね」
「誰かに相談しますか」
「僕達で考えるよりは」
「そうした方がいいかも知れないですね」
「そうだね、そうしたお話は」
「ここでお話しても仕方ないですね」
 トミーも先生に言います。
「神戸に戻ってからですね」
「大学にね」
「お話すべき人はおられますよ」
「日笠さんだね」
「はい、あの人ならです」
 トミーは笑顔で応えます、先生もそのことは同じですが違うところがありました。その違うところはトミーは日笠さんのことも考えていますが。
 先生はニホンオオカミさん達のことを考えています。そのことだけを。
 その違いはトミーは気付いています、そして。
 先生にです、さらに言うのでした。
「じゃあ日笠さんと」
「うん、お話をしてみるよ」
「そういうことでお願いします」
「それじゃあね」
 先生はあくまで狼さんのことを考えていますが。
 その先生にです、動物の皆も言いました。
「先生、日笠さんはいい人だから」
「とてもね」
「だから何かあったらね」
「こうした時でもね」
「お話したらいいよ」
「何でもね」
「是非すべてきだよ」
 トミーよりもさらに発展させた様に言うのでした。
「そういうことでね」
「先生ならではだよ」
「いいね、じゃあ」
「日笠さんを頼りにしてね」
「何でもね」
「そうしないとね」
 気付かないまま応える先生でした。
「あの人は立派な人だから」
「ただ立派なだけじゃない人だよ」
「学者さんとしても人としてもね」
「先生をあらゆることで助けてくれるよ」
「色々なことでね」
「そうだね、いい人だよ」
 こうは答えても勿論気付いていない先生です。
「とてもね、ああした人と一緒になれる人は幸せだね」
「いやいや、そこでそう言うとね」
「ちょっとね」
「先生はね」
「本当に駄目だね」
「何が駄目なのかな」
 先生は呆れる皆に穏やかな声で尋ねました。
「僕のことだよね」
「そうだよ、他ならないね」
「先生ご自身のことよ」
「全く、先生はね」
「こんないい人いないのに」
「本当にね」
「困った人よ」
 皆さらに言います。
「春は遠いわね」
「先生にとってね」
「果たして春は何時になるか」
「来ないなんてことになったら」
「どうしたものかしら」
「春?今が春だよ」
 先生は皆が言うことを全くわからないまま応えます。
「いいよね、日本の春は」
「その返事だけでね」
「皆力が抜けるから」
「先生の悪いっていうか抜けてるところ?」
「不得意なものは徹底的に不得意だから」
「何も出来ないのよね」
 家事にしてもこうしたこともです、とにかく先生は苦手な分野についてはこれ以上はないまでに駄目です。不得意そのものです。
 このことは特にです、とにかく気付かないままです。
 先生は皆にです、こう言うのでした。
「さて、後はね」
「うん、これからだね」
「これからどうするかだね」
「熊さん達からのお話も聞いたし」
「後はどうするか」
「調査を続けるのかな」
「植物も調べてるけれど」
 そのうえでというのです。
「他の動物の皆のお話も聞きたいね」
「うん、じゃあね」
「これからもね」
「じっくり調べよう」
「これからも」
「あと少しだけれどね」 
 それでもというのです。
「この辺りを調べよう」
「はい、じゃあ」
「このまま続けようね」
 トミーと王子も応えます。
「紅茶もお菓子もまだ数日分ありますし」
「そうしたのがあるうちはね」
「先生は動けますし」
「まだいけるね」
「うん、僕はどうしてもね」 
 先生はお茶とお菓子と聞いてこう言いました。
「ティータイムにお茶とお菓子がないとね」
「どうしてもだよね」
「動けないよね」
「先生の弱点」
「ティータイムは絶対にお茶とお菓子」
「その二つがないと駄目だよね」
「それもお菓子は三段だよ」 
 最近は和風もいけますがお菓子は三段ティーセットでないとどうにも元気が出ないのです、先生にとっては。
「それがないと」
「クッキーやビスケットでもね」
「そうしたものがないと」
「先生は動けなくて」
「調査も出来ないね」
「そう、だからね」
 それでとです、先生は動物の皆にも応えました。
 そしてです、先生は皆に笑顔で言うのでした。
「じゃあ今日もお茶の時間になればね」
「お茶だね」
「そしてお菓子だね」
「その二つを楽しもうね」
「今日も」
「そうしよう、何処でもお茶は飲まないと」
 先生にとっては本当に絶対のことです、このことは。
「お菓子も楽しまないと」
「先生は動けない」
「調査も出来ないからね」
「十時と三時には」
「その時はね」
 ティータイムというのです、こうしたことをお話してでした。
 先生達は調査を続けました、そしてティータイムになると当然の様にお茶とお菓子を楽しみました。ここで。
 先生達は足元を見ました、すると。
 そこには蟻がいました、ダンゴムシも。物陰からです。
 出て来てそして動いています、クッキーの食べカスを拾って運んだりもしています。
 その虫達を見てです、ホワイティは言いました。
「春になると虫も出て来るね」
「そう、その虫の調査もね」
 先生はホワイティに応えました。
「僕達の調査のうちだよ」
「そうだよね」
「うん、僕も今回の調査で見ていたけれど」
 森の中の虫達をです。
「この季節はまだ蚊も少ないから有り難いね」
「そういえばいてもね」
「そうよね」
 チープサイドの家族が先生のそのお言葉で気付きました。
「あまりいないね」
「夏よりもずっと少ないね」
「森の中には多いけれどね」
「それでもだね」
「そう、日本では春はまだ少ないんだ」
 蚊がとです、先生は皆にお話しました。
「夏に沢山出て来るんだ」
「先生結構蚊に刺されるからね」 
 チーチーはこう先生に言いました。
「いつもね」
「うん、どうしてもね」
「先生太ってるから汗かくからだね」
 ジップは先生がどうして蚊に刺されやすいかわかっていました。
「蚊は汗や呼吸にひかれるから」
「そう、汗や呼吸に含まれている二酸化炭素にね」
 先生もジップに応えてどうして蚊が人に寄って来るのかということもお話しました、先生は昆虫学にも詳しいのです。
「ひかれるんだよ」
「先生汗かくし身体が大きいから息の量も多いからね」
 ガブガブも言います。
「どうしても蚊が寄って来るんだね」
「困ったことにね」
「だから蚊取り線香は欠かせないのね」
 ポリネシアは日本の夏の風物詩を出しました。
「夏には」
「あれはいいものだね」
「うん、ペープマットよりも先生はそちらだね」
 今度はトートーが言いました。
「夏は買い置きもしてるし」
「好きなんだ、実際にね」
「風情があるからね」
 ダブダブはどうして先生が蚊取り線香がお好きなのか知っています、そこに先生が住んでいる日本があるからです。
「夏に相応しい」
「日本の夏のね」
「だからなんだね」
「先生は蚊取り線香なんだね」
 オシツオサレツも二つの頭から言うのでした。
「夏はね」
「蚊帳も使うし」
「蚊帳もいいよね、最近使う人が減ったけれど」
 先生は蚊帳もお好きです、夏はこの中で寝ることがお気に入りなのです。
「あれもいいよ」
「うん、蚊は厄介だけれど」
 老馬にとってもです、蚊はいいものではありません。
「蚊取り線香や蚊帳があると凌げるね」
「そうだね、そしてその蚊は夏なんだ」
 日本ではというのです。
「日本の夏はじっとりとした暑さと蚊が困るんだよね」
「けれど今はだよね」
「蚊があまりいないから」
「いいね」
「まだずっと少ないから」
「熱帯だと何時でもいるんだよね」
 先生にとっては困ったことにです。
「そして怖い病気も伝染してくるから」
「マラリアだね」
「ああした病気ですよね」
 王子もトミーもそうした病気が何かわかっていました、蚊に刺されると痒くなるだけではないことが怖いのです、
「マラリアにかかると」
「もう大変ですから」
「あれは注意しないとね」
「蚊のことでも特に」
「日本でも日本脳炎があるからね」
 この病気もとても怖いのです。
「注意しないとね」
「蚊は怖いね」
「軽く見ていられないですよ」
「小さくて血を吸うだけじゃない」
「痒いだけじゃないんですよね」
「そうだよ、アフリカでもそうだね」
 王子に尋ねた言葉です。
「アフリカにもジャングルがあるから」
「蚊じゃなくて蠅も怖いしね」
 王子は真面目なお顔で先生にこの虫のこともお話に出しました。
「アフリカは」
「そうだね」
「うん、本当にね」
「日本では蠅はそうしたことはないけれど」
 蚊はというのです。
「怖いからね」
「だから予防接種もするんですね」
「子供が」
「そう、日本脳炎のね」
 子供が皆やらされるそれです、日本脳炎に罹ってしまったら大変なので学校で皆に駐車をするのです。子供は嫌がりますが。
「僕も小学校でやってるね」
「子供凄い嫌がるそうですね」
「泣く子もいるっていうけれど」
「注射が好きな子供はいないよ」
 それこそ一人もというのです。
「あれはね」
「うん、僕達だってね」
「日本に来てから注射される機会多くなったけれど」
「それはね」
「好きになれないね」
「どうもね」
「実際はそんなに痛くないけれど」
 注射されてもです、ちくりとするだけで一瞬で済みます。本当に七秒もかかったりしない軽いものでありますが。
「先が尖っていて刺されるからね」
「それがどうしてもね」
「怖いんだよね」
「ぶつけるよりもずっと痛くないのに」
「それでもね」
「どうしても怖いんだよね」
 それが注射だというのです。
「あれはね」
「何度されても抵抗あるね」
「というか日本って注射多くない?」
「僕達もやたらされて」
「予防接種ばかりしていない?」
「うん、日本では多いね」 
 確かにとです、先生も答えます。
「人も生きものもね」
「何かとね」
「皆にするよね」
「先生もしてるし」
「ちゃんとね」
「日本人は病気は事前にと考える傾向も強いんだ」 
 これも日本の考えだというのです。
「だから僕達も予防接種を受けることが多いんだ」
「何かとなんだ」
「予防接種受けるんだ」
「子供達も」
「注射は一瞬だけれどね」 
 それでもというのです。
「病気に罹ったら下手をすると一生後遺症が残るから」
「凄い熱とか出て」
「それでよね」
「大変なことになるから」
「それでなんだね」
「僕も子供達に注射してるよ、その時の僕はね」
 先生が思うにはです。
「とても怖い人に思われてるかな」
「子供達にね」
「鬼とか悪魔とか」
「そうした感じかな」
「そうした風に思われてるだろうね」
「そうだろうね、それは困るね」 
 先生にしてみればです。
「これも子供達の為だからね」
「蚊に刺されたりして日本脳炎にならない為に」
「是非しないといけないからね」
「そのことはね」
「仕方ないね」
「いや、それでもね」
 怖がられる先生にしてはです。
「僕としてはね」
「怖がられるのが嫌だよね」
「避けたいよね」
「先生にしても」
「注射をしてくる怖い先生とか」
「夢に見られたりとか」
「うん、絶対にそうした風に夢に出たくないね」
 子供達の夢の中にです、注射をしてくるとても怖い役柄ではというのです。先生にしてもいいものではないからです。
「ヒーローとかいう柄でもないけれど」
「悪い先生ってね」
「僕達には想像出来ないけれど」
「それでも注射される子供達にとっては怖いから」
「そんな風に夢で出ているのかも」
「特撮ものの悪役みたいに」
 皆先生に言うのでした。
「その医学を悪いことに使う先生」
「悪の科学者とか?」
「先生科学にも造詣あって科学の論文も書くし」
「子供達の中じゃ悪役かも」
「それも子供達を笑顔で追いかけて注射するね」
「最高に怖いお医者さんかもね」
「だとしたら嫌だな、もっといい役で出たいよ」
 子供達の夢の中にです。
「せめて町の小さな病院のお医者さん位で」
「それイギリスにいた頃の先生じゃない」
「そのまんまだよね」
「あの時みたいな感じでいいんだ」
「偉いノーベル賞貰う様なお医者さんじゃなくて」
「それ位でいいんだ」
「いいよ、僕は賞とか勲章には興味がないしね」
 先生はこうしたことにも無欲です、お金にも無頓着で着るものにもこだわりません。先生にこうした欲はあまりありません。
「そんな賞もいいし」
「偉い人にもなりたくない」
「だからなんだ」
「子供達の夢の中でもそれ位でいい」
「そうなんだね」
「うん、僕はそれ位でいいよ」
 町のお医者さんでというのです。
「別にね」
「うん、それも先生らしいね」
「実際にね」
「町のお医者さんだったし、実際に」
「それでね」
「そうだよね、まあ僕は怖がられなかったらいいよ」 
 本当にこのことは切実です、先生にとっては。
「注射で」
「しないといけないしね、注射は」
「病気にならない為にも」
「だから先生にしてもね」
「義務みたいなものだね」
「お仕事だけれどね」
 義務と言えば義務になるというのです、お医者さんとしての。
「だからしているよ、自衛隊でも注射をすることは多いしね」
「軍隊で注射はね」
「もう欠かせないですよね」
 今度は王子とトミーが言いました。
「予防接種は」
「学校以上にですよね」
「多いね」
「そうですよね」
「うん、そうだよ」
 実際にとです、先生も二人に答えます。
「集団生活だし何かと色々な場所に行くこともあるからね」
「だから予防接種もしていて」
「そこはしっかりしていますね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「軍隊についてはね」
「日本では自衛隊だけれど」
「自衛隊もそこは同じですね」
「予防接種は徹底している」
「そうですね」
「そうなんだ、むしろね」
 ここで先生がお話する自衛隊の予防接種はといいますと。
「世界でもかなりそういうのがしっかりしているかもね」
「世界の軍隊の中でも」
「予防接種がですか」
「衛生管理が徹底しているから」
 自衛隊はというのです。
「だからね」
「成程ね」
「自衛隊は特になんですね」
「僕の見たところね、まあ僕は軍隊には縁がないけれど」
「うん、先生はね」
「軍隊とか警察には」
 王子とトミーも先生にこう言います。
「縁がね」
「ないですね」
「そのことはね」
「もうどう見てもです」
「銃もね」
 それもなのです。
「持つこともないし」
「そうだね、先生は」
「そうした組織とはこれからも関わりはあまりなさそうですね」
「無縁ではないにしても」
 それでもとうのです。
「あまり深くは関わらないだろうね」
「従軍医師とか」
「そういうことはですね」
「お話も来ないだろうね」
「むしろイギリスにいた時に来ていれば」
「今こうしてここにいないですね」
 日本にです。
「そっちのお仕事をしていて」
「教授さんにもなっていないですね」
「絶対にね、やっぱり僕は軍隊には縁がないよ」
 深くはです。
「それが僕だよ」
「というかね」 
 王子がここで言うことは。
「先生が軍服を着たりブーツ履いたり。銃構えたりベッドメイクとか」
「想像出来ないね」
「全然、先生らしくないよ」
 もう想像も出来ないです、王子にも他の皆にも。
「それじゃあね」
「僕もそう思うよ」
 笑って応えた先生でした、そうして虫も見ながらお茶を楽しむのでした。先生の森の調査を続けながら。



とりあえず、熊とも話をして。
美姫 「日本狼に関しては、どうするのかは一旦、戻ってからって事になったみたいね」
だな。まあ、先生が居るから悪いようにはならないと思うけれど。
美姫 「どんな案が出るかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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