『ドリトル先生と森の狼達』




                        第十一幕  狼さん達を守ってくれるもの

 先生は日笠さんとお話をした通りにです、今度はその日笠さんと一緒に動物園の園長先生にニホンオオカミさん達のことをお話する為にです。
 また動物園に行きました、その時に研究室を出る時にたまたま研究室にいてお茶を飲んでいた王子が先生に尋ねました。
「先生、今緊張してる?」
「園長先生に会って狼君達のことをお話するからだね」
「うん、どうかな」
「いや、別にね」
「緊張していないんだ」
「特にね」
 こう答えた先生でした。
「していないよ」
「そういえば先生ってどんな時もね」
「緊張しないからね」
 それが先生の性格です。
「だからね」
「それでだよね」
「うん、今もね」
 特に緊張していないというのです。
「いつも通りだよ」
「それならいいよ」
 王子は先生のお言葉を聞いて笑顔で応えました。
「先生が緊張していないのならね」
「落ち着いているよ」 
 そうだというのです。
「とてもね」
「じゃあ今からお話して」
「そしてね」
「すぐに今度はだよね」
「学園長さんともね」
 この八条学園で一番責任がある人もというのです。
「お話することになるよ」
「大きな話になっているね」
「そうだね、やっぱりね」
「ことがことだからね」
「ニホンオオカミ君達のことだから」
 絶滅したと思われていた、です。
「だからこそね」
「国家単位のお話だね」
「まさにね、これからどうするのかはね」
「うん、日笠さんともお話して」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「決めたことなんだ」
「公表するんだよね」
「することになったよ」
 ニホンオオカミさん達の生存をというのです。
「ニホンオオカミ君達のことをね」
「そうなんだね、よかったよ」
「王子は公表すべきと思っていたんだね」
「やっぱりね」
 それこそと答えた王子でした。
「ことがことだからね」
「僕もです」
 研究室にはトミーもいます、トミーも先生にお話します。
「ニホンオオカミさん達のことは公表すべきだったと思います」
「じゃあいい判断だね」
「はい、こうしたことはやっぱり」
「学者としては義務だね」
 絶滅の有無を確かめて実在したのならば公表する、そのことがというのです。
「まさに」
「そうです、何といっても」
「調査の結果は全部公にしないと駄目だよねえ」
「学者としての義務」
「そうだよね」
「うん、学者は真実を人々に伝えてそして残す」
 先生もその学者として二人に答えます。
「だからこそだね」
「今回のことは本当に」
「正しいと思うよ、僕達も」
「そして後は」
「日笠さんのアドバイスに従ってね」
「そのうえで」
「狼さん達を守っていこうね」
 二人は先生に確かな言葉で言うのでした、そして。
 先生を送りました、先生はそのまま日笠さんと園長先生のいる動物園に向かいました。この時研究室うを出た時にです。
 今度は動物の皆にです、こう言われました。
「じゃあね」
「今から勝負の時だね」
「とはいっても先生緊張してないけれど」
「いつも通りだね」
「僕は真実をありのままお話するだけだよ」
 本当にそれだけだと答える先生でした、動物の皆にも。
「だからね」
「特に緊張しないで」
「リラックスしてだね」
「そのまま行くのね」
「いつも通りに」
「うん、そうしてくるから」
 こういつものお顔で言うのでした。
「それじゃあね」
「じゃあ帰ったらだね」
「いつも通りお茶だね」
「お茶を飲むんだね」
「お話は長くなるかも知れないけれど」
 お話することがすることだからです、先生もこのことは少し覚悟しています。 
 ですがそれでもです、先生は言うのでした。
「お茶はね」
「それはだね」
「用意していいね」
「いつも通り」
「お茶とお菓子だね」
「ティーセットを」
「今日は中華風でいこうかな」
 先生は今回のティーセットはそれにしようと言うのでした。
「中国茶とね」
「中国のお菓子で三段だね」
「そうするんだね」
「そうしようかな、今回は」
 皆にこうも言うのでした。
「桃饅頭や杏仁豆腐、ごま団子でね」
「中国のお菓子もいいよね」
「そちらも」
「うん、それじゃあね」
 こうしたお話をしてでした、そのうえで。
 先生はまずは日笠さんのところに行ってでした、それから動物園の園長室に向かいました。それからなのでした。
 園長室に入りました、そこは学校の校長室を思わせる感じでした。そして席に一人の落ち着いた感じの髪の白い初老の人が座っていました。
 その人に日笠さんと二人で挨拶してからです、先生はニホンオオカミのことをお話しました。
 そのお話を聞いてです、その初老の人園長先生は驚いて言いました。
「それは本当ですか」
「はい」 
 そうだとです、先生は園長先生に答えました。
「これが証拠です」
「これが」
「そうです」
 毛と写真を差し出したのです。
「調べて頂けますか」
「わかりました、しかし」
「しかし?」
「はい、私は秩父の方にいるのではと聞きましたが」
「あの辺りにも噂がありまして」
 日笠さんも園長先生に答えました。
「それで」
「それでなのですね」
「はい、そうです」
 まさにそれで、というのです。
「先生がそこの調査に行かれて」
「出会ったのですね」
「そうです」
「ドリトル先生のことは私も聞いています」
 園長先生もというのです。
「どんな動物達とも仲良くなれるという」
「そう言われているのですね、僕は」
「動物の言葉を理解して喋れますね」
「はい」
 その通りだとです、先生はこのことには答えました。
「そのことは」
「そのことは聞いていました、しかし」
「今回のことはですか」
「驚きました」
「ニホンオオカミさんのことは」
「とてもです」 
 それこそというのです。
「想像もしていませんでした」
「ですがこの毛と写真を調べて頂ければ」
「わかりますね」
「ニホンオオカミのものです」
 紛れもなくと、です。先生はまた答えました。
「それがはっきりします」
「わかりました、あとは」
「あとは」
「先生の今回の奈良県南部の生態系の調査報告自体を読ませてもらい」
 そしてというのです。
「そうしながら」
「その毛と写真の検証をですね」
「させてもらいます、少しお時間を下さい」
「わかりました」
「それまでは少しお待ち下さい」
 こうしてでした、園長先生はまずはです。
 先生の調査報告を読ませてもらいその間先生が差し出したニホンオオカミさんの毛と写真を科学的に検証することにしました。
 そのことをお話してからでした、先生と日笠さんは園長室を後にしました。お話は思ったより早く終わりました、先生が思っているよりも。
 それで日笠さんは先生にこう提案したのでした、戻る時に。
「あの、これからですが」
「これからとは」
「はい、時間がおありでしたら」
 こう言うのでした。
「動物園の中を見て回りませんか」
「これからですか」
「最近巡検もしているのですが」
 その動物園の中をというのです。
「勤務している人が順番で」
「それで日笠さんもですね」
「はい、これから動物園の中を見て回ります」
「動物に異変がないか、おかしな人が中にいないか」
「そうするのですが」
「そうですか」
「如何でしょうか」
 日笠さんは何気なくを装って先生に提案しました。
「これから」
「そうですか、しかし」
「しかしとは」
「実はこれからお茶の時間でして」
「あっ、確かに」
 日笠さんは先生のそのお言葉にしまった、というお顔になりました。
「そうでしたね」
「はい、ですから」
「研究室に戻られてですか」
「そこでお茶を飲みます」
 いつも通りというのです。
「そうしますので」
「だからですか」
「折角の申し出ですが」
 気付かないまま答える先生でした。
「今回はです」
「わかりました、失念でした」
「失念とは」
「いえ、お話に緊張して向かい」
 この辺り先生とは違います、先生はとにかく緊張しない人なのっで。
「それが終わってほっとして」
「そうですか、僕は緊張することがないので」
 それでというのです。
「ですから」
「それで、ですか」
「はい、そうなので」
「今回もですか」
「お話が長くなると思いましたが」
 しかしというのです。
「それがすぐに終わったので」
「お茶を時間通りに飲めることが」
「嬉しいです」
 そうだというのです。
「ではこれから」
「はい、お茶をですね」
「楽しんできます、ですが時間がある時に」
「また、ですね」
「巡検、パトロールにお誘い下さい」
「そうさせてもらいます」
 こうしてでした、先生は日笠さんの申し出を断って研究室に戻って中華風のティーセット、上段にはごま団子、中段には桃饅頭があり下段は杏仁豆腐とライチがあります。 
 そして中国茶です、そのセットを楽しみつつ先生は研究室にいる皆にことの次第をお話しました。ですが。
 最初に老馬がです、こう先生に言いました。
「今回も半分合格、半分不合格」
「そうなんだ」
「先生、お茶は何時でも飲めるよ」
「お菓子だってそうよ」 
 ダブダブも言います、まずはごま団子を食べている先生に。
「こちらもね」
「いや、お茶は決まった時間に飲まないと」
「御飯もっていうんだね」
 トートーも今回も少し呆れている感じです。
「決まった時間に食べないといけない」
「生活のリズムは守らないと」
「先生、そうは言ってもだよ」
 ジップも呆れています。
「そこは融通を効かせないと」
「いや、確かにそうだけれど時間を守れる時はね」
「折角日笠さんが誘ってくれたのに」
 かなりダイレクトにです、ポリネシアは言いました。
「今回も」
「そう、今回もね」
 ホワイティが言いました。
「先生半分不合格だから」
「合格は狼君達のことだね」
 このことは先生もわかります、ですが。
「不合格は何についてかな」
「そこがわからないのがそもそも駄目なんだよ」
 チーチーも指摘します、先生がわからずとも。
「全く、中国茶飲んでる場合じゃないよ」
「あれっ、こんなに美味しいのに」
「美味しいとかじゃなくて」
「お茶はこの場合いいんだよ」
 オシツオサレツは今回も前後の頭でお話します。
「二番目でいいから」
「連絡してくれれば日笠さんとのパトロール中に持って来るから」
 だからだというのです。
 最後にです、チープサイドの夫婦も主張しました。
「そこでお茶も一緒にって言わないのがね」
「先生がそもそも駄目なところよ」
「全く、今回も」
「日笠さんも大変だよ」
 王子とトミーはそれぞれの講義に出ていていません、先生はこの日は講義は午後からです。ですから午前中は時間があったのです。
 ですが先生は、です。
「何でかな」
「何でそこで断るのかな」
「本当にちょっとね」
「そういう手の本読んだら?」
「ゲームでもいいよ」
「ああ、日本にはそうしたゲームも豊富にあるね」
「そうした文化もある国だから」
 動物の皆だけでお話するのでした、先生と一緒にティーセットを楽しみつつ。
「だからね」
「是非ね」
「先生、ゲームもしよう」
「女の子と遊ぶゲームね」
「中にはちょっといやらしいゲームもあるけれど」
「純粋に女の子とデートしたりするゲームね」
「そうしのもしてみましょう」
 皆で先生に提案します、ですが。
 そう聞いてもです、先生は言うのでした。
「そうだね、ゲームも文化だしね」
「いや、文化は文化でも」
「それでもね」
「そこでそう言うのが」
「ちょっと」
「学者としては立派だけれど」
「先生ずっと一人のままだよ」
 動物の皆は今回も呆れるのでした。
「確かに僕達はいつもずっと先生と一緒だけれど」
「王子とトミーもね」
「けれどね、先生はお一人じゃないけれど」
 お友達は沢山いてもです。
「先生は一人のままだよ」
「このままね」
「ずっとそうなるよ」
「ううん、一人じゃないのに一人なんてね」
 先生はライチを手に取りました、下段の。
「矛盾している言葉だね」
「矛盾している様でしていないよ」
「それも全くね」
「先生がわかっていないだけで」
「私達の言葉は全く矛盾していないわよ」
「何一つね」
「そうなのかな、そういえば」
 ここでこんなことを言った先生でした。
「シューベルトは沢山の友人に恵まれていても孤独だった」
「ああ、音楽家の」
「あの人だよね」
「先生も時々聴いてるけれど」
「若くして亡くなった人だよね」
「あの人みたいじゃないよね、僕は」
 こう動物の皆に尋ねるのでした。
「別に」
「どうかな」
「僕達シューベルトさんのことはよく知らないけれど」
「近い?」
「そうかもね」
「実際ね」
「あの人とも」
 動物の皆は先生に対して考えつつお話しました。
「あの人とは細かいところが違うにしても」
「それでもね」
「先生もね」
「シューベルトさんとも近いかもね」
「実際のところね」
「そうかも知れないね」
「ううん、そうなのかな」
 先生は杏仁豆腐はスプーンで食べつつ応えました。
「僕は一人のまま」
「うん、一人のままね」
「そこがね」
「僕達も悩んでるんだよ」
「先生、この言葉の意味よく考えてね」
「先生はお一人じゃないけれど一人のまま」
「この言葉の意味をね」
 こう強く言うのでした。
「先生もね」
「春が遠いよ」
「周りは春でも先生の春は遠い」
「傍にあってもね」
「そうなるのかな」
 先生は中華風のティーセットを楽しみつつも首を傾げさせるのでした、そして数日後。今度は休日の三時にです。
 先生は今度はアメリカ風のティーセット、上段はアイスクリーム、中段はドーナツ、そして下段はシロップをたっぷりかけたパンケーキのティーセットをトミー、それに動物の皆と楽しんでいました。王子はお家でお客さんとお話しています。
 その時にです、先生は携帯から連絡を受けました、そのお相手は。
「これは園長先生、こんにちは」
「はい、先生こんにちは」
 園長先生はまずは挨拶からでした。
「教えて頂いた番号でしたが」
「はい、僕です」
「そうですね、検証の結果がわかりました」
「如何だったでしょうか」
「間違いなくです」
 それこそというのです。
「ニホンオオカミのものでした」
「毛も写真も」
「しかも生きている」
 間違いなく、というのです。
「そのニホンオオカミでした」
「そうですね」
「何度も検証しましたが」
 それも科学的にです。
「結果は同じでした」
「ニホンオオカミですね」
「つまりです」
「はい、僕の発見はですね」
「ニホンオオカミが生きている」
 この現実をです、園長先生はお話しました。
「世紀の発見です」
「世紀というのは」
「そのことはですか」
「はい、少し」
 先生はこの表現には謙遜して困った笑顔になるのでした。
「恥ずかしいですね」
「そういえば先生は謙虚と聞いています」
「謙虚かどうかわかりませんが」
「こうしたことを言われることはですね」
「苦手です」
 実際にと答える先生でした。
「ですから」
「それで、ですね」
「はい、ちょっと止めてもらいたいです」
「そういうことですね、わかりました」
 園長先生も電話の向こうで笑って先生に答えました。
「ではその様に」
「それでは」
「ではあらためてです」
「はい、本物とはっきりしましたし」
「それならですね」
「これからはですね」
「先生は公表されますね」
 ニホンオオカミの生存、それをというのです。
「やはり」
「そうさせて頂きたいです」
「日笠さんからお話を聞きました」
 既にというのです。
「それでは」
「はい、それではですね」
「学園長にもお話して」
「それからですね」
「ニホンオオカミを保護出来る様にしましょう」 
 園長先生もこう言うのでした。
「特別保護動物に指定して、そして」
「そしてですね」
「あの一帯を鳥獣保護区、希少鳥獣生息地に指定してもらいましょう」
「法律で」
「はい、ただニホンオオカミを保護するだけでなく」
 さらにというのです。
「その生息地区全体をです」
「法律で保護するのですね」
「はい」
 これが園長先生のお考えでした。
「これでどうでしょうか」
「素晴らしいですね、ただ」
「はい、それでもですね」
「法律を守る人もいれば」
「守らない人もいますね」
「それが問題ですね」
 先生はここまで考えているのでした。
「僕はそう思うのですが」
「密猟者や悪質な学者、マスコミですね」
「はい」
 まさにそうした人達がとです、先生も答えます。
「非常に」
「そうですね、そのことは」
「どうしましょうか」
「そのことについてもお話しましょう」
 園長先生は先生にあらためて言いました。
「日笠さん、学園長を交えて」
「そうしてですね」
「はい、万全な保護を」
「そのことをですね」
「決めましょう」 
 こうお話してでした。
 先生は園長先生から朗報とお話のことを受けました、学園長とのお話は明日になりました。そのことをお話してでした。
 先生はその場にいた皆にです、今の電話のことをお話しました。
「そういう次第だよ」
「はっきりしたんですね」
「うん、あの毛と写真がね」
 まさにとです、トミーに答えました。
「ニホンオオカミ君達のものだとね」
「はっきり証明されて」
「しかもね」
「狼さん達が特別保護動物に指定されて」
「そしてね」
「あの辺り自体もですね」
「うん、法律的に保護されるよ」
 そうなることもお話するのでした。
「素晴らしいことにね」
「そうですね、ただ」
「ただ、だね」
「問題は法律を無視する人達ですね」
「いるからね、どうしても」
「ほんの僅かですが」 
 それでもいることはいるのです、困ったことに。
「そうした人達に対してどうするのか」
「それが問題だよ」
「それで何かお考えは」
「うん、前から少し考えていたけれど」
 ここで先生が出す知恵はといいますと。
「迷信かな」
「迷信ですか」
「悪く言うとね」
 そうなる種類のものだというのです。
「あの辺りにある妖怪のお話だね」
「一本だたらっていう」
「あの妖怪のお話も出して」
 それにというのです。
「山の神様とかね」
「その立ち入ったら危ない場所に入ったらですね」
「出て来るっていうね」
「どっちも本当のお話じゃないんですか?」
「僕はそう思うよ」
 先生はこの所謂迷信を否定しませんでした。
「実際のものだってね」
「そう思われますよね」
「うん、妖怪の存在はね」
「否定出来ないものがありますね」
「何度も言うけれど僕達の知っていることはね」
 それこそというのです。
「この世のほんの少しのことだから」
「だからですよね」
「妖怪にしてもね」
「否定出来ないですね」
「そうだよ、ここで科学を出して頭から否定してもね」
 科学者でもある先生のお言葉です。
「それは非科学的じゃないよ」
「科学は万能かといいますと」
「この世に万能のものはないよ」
 そもそもというのです。
「だから科学にしてもね」
「万能じゃないですよね」
「そうだよ」
 こうトミーに答えるのでした。
「そう言うこと自体がね」
「科学的じゃないですね」
「今の時点の科学が全てか」
「絶対にそうじゃないよ」
「その科学にしても」
「まだまだ研究がされているんだ」
 現在進行形で、というのです。
「そうした学問だからね」
「全てが科学で説明出来なくて」
「妖怪もそうだよ」
「だからですね」
「科学を全てと思わない」
 決して、というのです。
「このことが肝心だよ」
「若し科学を万能と思うとそれでもう科学的じゃない」
「その時点での科学をね」
「そういう人いるね」
「日本にもイギリスにもね」
 動物の皆も言います。
「何かね」
「それでしたり顔でアニメの設定に突っ込み入れた本とかね」
「あのシリーズ売れたみたいだけれど」
「面白いの?」
「それで科学的なのかな」
「僕も読んだけれどね」
 そのシリーズをとです、先生は動物の皆に答えました。
「けれどね」
「ああ、その口調だとね」
「面白くなかったんだね」
「それで科学的でもなかった」
「そうなんだね」
「はっきり言って科学的じゃなかったよ」
 科学と言っても、というのです。
「もう二度と読むことはないよ」
「先生がそこまで言うなんてね」
「よっぽど酷い本なんだね」
「全然科学的じゃない」
「そんなシリーズなんだね」
「あの、ひょっとして」
 ここでトミーがそのシリーズについて言いました。
「何か面白くない本を書く天才と言われる人が日本にいるそうですけれど」
「その人かも知れないね」
「そうした才能もあるんですね」
「そうなのかな」
「ううん、そんな人がいるんですね」
 面白くない作品を書くことについて素晴らしい才能を持っている人がというのです。それを才能と言っていいかどうかはわかりませんが。
「世の中広いですね」
「確かにね、ただね」
「ただ、ですか」
「僕はあのシリーズはアニメや特撮を愛する人が書いたものじゃないと思ってるよ」
「じゃあどんな人が書いたんですか?」
「アニメや特撮を嘲笑する人が書いたんだ」
 そうしたシリーズだというのです。
「アニメや特撮を愛する人が読んで怒るのも当然だよ」
「だから嫌われているんですね」
「それも異常にね」
「現代の科学だけでアニメや特撮も」
「説明出来ないよ」
 それは無理だというのです。
「現代の科学を万能と思えば科学の進歩は止まるよ」
「じゃあその人の言うことは」
「科学、進歩を止めることじゃないかな」
「よくない考えですね」
「科学は進歩を目指す学問だからね」
「そうした人もいるんですね」
「科学を愛すると言う人達の中にもね」 
 先生はこのことを残念そうに言うのでした。
「あと勘違いとかも入っていたから」
「科学に対する」
「本当に科学的じゃなかったよ、空想科学と言う割には」
 到底、というのです。
「まあ僕はあのシリーズは二度と読まないよ」
「じゃあアニメとか特撮とか」
「そういうのを素直に観た方がいいんだね」
「そっちの方がずっと科学的」
「そういうことだね」
「そう思うよ、そうしたものを素直に観て」 
 そしてというのです。
「夢を膨らませる、ひねくれて観るんじゃなくてね」
「そうした人みたいに」
「そうしなくてだね」
「素直に純粋に観て」
「そうしてなんだ」
「うん、楽しんでね」
 そしてというのです。
「夢を膨らませてどうすれば実現出来るのか」
「それを考えること」
「そのことがなんだ」
「科学の第一歩」
「そうなんだね」
「そうだよ、科学は夢なんだ」
 そこからはじまるというのです。
「否定からはじめるものじゃないよ」
「それは生物学もですね」 
 ここでトミーは先生に今回のことをお話しました。
「そうですね」
「うん、ニホンオオカミ君達も」
「いないと頭から否定するんじゃなくて」
「ひょっとしたら、って思って」
「探すべきなんだ」
「否定は何も生まないですね」
「懐疑はいいよ」
 疑うことはというのです。
「果たしているのか、出来るのか」
「そして考えて進歩していくからですね」
「あのシリーズみたいに嘲笑したら何も生まないよ」
「面白くない本が生まれるだけですね」
「全くだよ」
「つまり僕の食事にもならない」
「そういうことだね」
 ここで言ったのはオシツオサレツでした。
「僕は紙も食べるけれど」
「本は紙で出来ているけれど」
「そんな面白くない本食べたらまずそうだね」
「面白い本なら食べても美味しいだろうけれど」
「そんなにまずいとね」
「とてもね」
「ははは、君にはちゃんとしたものを食べてもらうから」
 紙は、というのです。先生も。
「草をね」
「うん、実は草の方が美味しいんだよね」
「紙よりもね」
「確かに紙も食べられるけれどね」
「それでもね」
 オシツオサレツにとってはというのです。
「草の方が美味しいよ」
「そっちの方がね」
「僕もそうだし」
「山羊君や羊君もそうだよ」
 彼等もというのです。
「そっちの方がね」
「美味しいからね」
「それじゃあ」
「他のも食べよう」
 こうしたことをお話するのでした、二人で。
 そしてです、先生はこんなことも言いました。
「僕は否定しない様にしているんだ」
「そうした本を書く人と違って」
「そうなんだね」
「そうだよ、だからこそだと思うよ」
「今回もね」
「ニホンオオカミを見付けられたんだね」
「いるとは思っていなかったけれどね」
 それでもというのです。
「否定はしていないつもりだったよ」
「うん、確かにね」
「先生否定はしないからね」
「何があってもね」
「それはないね」
 こうしたことをです、お家でお話してでした。それからです。
 先生はです、日笠さんそして園長先生と一緒にです。八条学園の学園長さんのところに向かうのでした。
 その学園長さんについてです、日笠さんは学園長室のある建物に向かう途中で先生にこうお話しました。
「学園長さんにはもうお会いになられてますよね」
「はい、一度」
 そうだとです、先生は答えました。
「この学園に入った時に」
「そうですね」
「はい、ただ」
「その時だけですね、学園長さんとお会いしたのは」
「実は」
「八条学園、保育園から大学院までの最高責任者であり」 
 日笠さんはその学園長さんについてお話しました。
「動物園、水族館、植物園、博物館、美術館、図書館もです」
「学園内の施設のですね」
「全ての施設の責任者でもあります」
「学園全体のですか」
「最高責任者です」
 それが学園長さんだというのです。
「八条学園を経営している八条家の方で」
「八条家自体も」
「世界屈指の企業グループの経営家です」
「はい、イギリスにも進出しています」
 それもかなり大規模んいです。
「僕も名前を聞いていました」
「そうですね、そして今から」
「学園長さんにお会いして」
「ニホンオオカミのことについて動いてもらいましょう」
「動いてくれるでしょうか」
 先生は少し心配になって日笠さんに尋ねました。
「今回の件について」
「絶対に」
「絶対にですか」
「何しろ絶滅していたと思っていた動物が生きていたのです」
 それ故にというのです。
「これで動かない筈がありません」
「そうなのですか」
「学園長さんは学問のことに関して極めてです」
 かなりというのです。
「積極的に保護に動かれる方ですから」
「今回のこともですね」
「お話を聞かれたなら」
 その時点でというのです。
「動いてくれます」
「そうですか、それでは」
「はい、行きましょう」
 その学園長さんのところにというのです。
 こうしたことをお話してでした、先生達はその建物の中に入りました。そこは学園の大学の校舎の中にありました。
 その建物に入ってです、先生は今度はこう言いました。
「この建物も」
「一度入られてからですね」
「今まで入ったことはなかったです」
 そうだったというのです。
「医学部の方に主にいまして」
「そうですね、この建物に勤務しておられるなら別ですが」
「医学部にいるのなら」
「ここに来ることは滅多にありません」
「そういうものですね」
「私もです」
「勿論私もです」
 質素で事務的な、オフィスのビルを思わせる建物の中を進みながらそのうえで日笠さんも学園長さんも言いました。
「ここに来ることはです」
「滅多にありません」
「やはり動物園に主にいます」
「ここに来たことは今年で五回目ですか」
「あっ、五回目ですか」
 日笠さんは学園長さんの言葉を聞いて言いました。
「多いですね」
「そうですね、動物園の責任者として」
「ここに来られることも多いのですね」
「はい、責任者会議等で」
「大学や高等部それぞれの」
「月一度程度行われますので」
 その責任者会議がというのだ。
「それとです、他にも学園長さんに呼ばれたりして」
「そしてですね」
「ここに来ました」
 今年に入って五回というのです、今回も入れて。
「多いですね」
「それでも緊張します」
「学園長さんのところに行かれることは」
「温厚な方ですが」
 それでもというのです。
「やはり学園の最高責任者で」
「威圧感といいますか」
「まだお若いですが」
「何か人間として存在感が強いですね」
「そうした方なので」
「そういえば」
 ここで先生も言うのでした。
「僕も一度だけお会いしましたが」
「それでもですね」
「はい、本当に」
 それこそというのです、先生も。
「立派な方だと思いました」
「緊張はされなかったのですね」
「僕は緊張の方は」
 学園長さんとお会いしてもというのです。
「しないので」
「だからですね」
「はい、そこまでは」
「そうですか、緊張はされないのでしたね」
「そうした気質なので」
 何時でも、誰にでも落ち着いていて穏やかなのです。先生はそうした人なので学園長さんとお会いしてもだったのです。
「別にでした」
「わかりました、では」
「これからですね」
「最上階に行きましょう」
 建物にというのです。
「そこにある学園長室に」
「はい、では」
「これから」
 こうしたことをお話しながら先生達は学園長室に向かうのでした、この時学園長さんはこんなことを先生に言いました。
「ところで先生は植物学も」
「はい、論文を書かせてもらったり」
「そうですね、興味がおありですね」
「好きです」
 先生は微笑んで答えました。
「あちらの方も」
「そうですね、ではこの学園の植物園は」
「時間があれば」
 通っているとです、先生も答えました。
「動物園、水族館、博物館、美術館、図書館もそうですが」
「植物園もですね」
「行っています」
 そうだというのです。
「あちらも」
「そうですか、それでは好きなお花は」
「はい、色々ありますが」
「その中で一番は」
「薔薇も好きですし」
 まず挙げたお花はこれでした。
「桜も好きです」
「日本の花もお好きですか」
「桜は日本に来てからとりわけ」
「お好きになられたのですね」
「この学園にもかなりありますね」
 その桜がというのです。
「日本の至るところに咲いていますね」
「はい、実際にです」
「日本人は桜がお好きですね」
「日本人の最も好きな花はといいますと」
「桜ですか」
「何といってもこの花です」
 園長先生もこう言うのでした。
「まずは」
「そうですね、ですから」
「先生もよく見られていますね」
「何処でも」
 春、この季節になるとです。
「イギリスより遥かに桜が多くて。まさに桜の国ですね」
「ははは、桜の国ですか」
「そう言っていい位桜が多いです」
 それが日本だというのです。
「素晴らしいです」
「そうですか、桜の国ですか」
「僕が思うには」
「確かに。言われてみますと」
「日本は桜の国ですね」
「至るところに桜が植えられていますね」
 桜の木がです、これは八条学園だけでなくてです。他の学校でもそうですし勿論他の至る場所でも同じです。
「川岸でも何処でも」
「本当に至る場所に桜がありますので」
「桜の国ですか」
「紫陽花や藤、他の花も多いですが」
「何といっても桜だと」
「日本は」
 イギリスから来た先生の観たところです。
「そうした国です」
「成程、ではこの学園でも春は」
「まず桜を楽しませてもらっています」
 学園に来た時にはというのです。
「それぞれの季節でそれぞれの季節のお花をですが」
「楽しませてもらっていますか」
「いつも、そして植物園の中でも」
「お花をですね」
「他の植物も」
「そうですか、それは何よりです」
 動物園の園長さんとしてもというので、園長さんはそのことをとても穏やかな笑顔で先生にお話したのでした。
「あちらの園長は実は私の高校、大学の同期でして」
「そうなのですか」
「今でも親しく付き合っています」
「この八条学園の中で」
「そうしています、尚私は八条高校出身です」
 そして八条大学のというのです。
「あちらの園長もまた」
「それで今もですか」
「お付き合いしています、ただ」
「ただ?」
「彼は最近悩みがありまして」
「その悩みとは」
「実は結石でして」
 病気だというのです。
「それで困っています」
「ああ、尿道結石ですね」
「この歳になると」
「色々と身体もですね」
「困ってきます」
「健康第一ですね」
「本当にそうですね、僕も気をつけています」
 先生もというのです、こうしたことをお話してです。
 さらに先に進んでいきます、すると。
 ここで、でした、先生はこうも言いました。
「薬草も」
「あっ、今度はですか」
「それはどうでしょうか」
「そう来られましたか」
「薬学の資格も持っていますが」
「漢方の方も」
「しています」
 こちらが出来るのも先生です。
「それでなので」
「そちらの視点からも植物を観ておられますか」
「はい、そうしています」
 こうお話するのでした。
「そちらも、ただ」
「ただ、ですか」
「一つ思うことは」
 ここで先生が言うことはといいますと。
「薬学は一歩間違えますと」
「毒にもなりますね」
「毒と薬は紙一重です」
 その違いはというのです。
「お薬にもなりますが」
「毒にもですね」
「なります」
 それが薬学だというのです。
「僕も注意しています」
「薬害事件も起きますしね」
「日本でもですね」
「何度も起こっています」
「この大学には薬学の施設もありますが」
「漢方も出来ます」 
 とかくあらゆる学問の施設が揃っているのです、八条学園はそうしたことにかけても世界屈指の学園なのです。
「そちらも」
「はい、僕は薬学の研究もしていますが」
「そちらもですね
「注意しています、そして植物園に行って」
 そうしてというのです。
「そうしたことも学んでいます」
「ですか、ではあちらの園長にも宜しく言って下さい」
「そうさせてもらいます」
「そして病気のことも」
 その尿道結石もというのです。
「早く治せと」
「その様にですね」
「してきます」
 こうしたことをお話してでした、先生達は学園長さんのところに向かっていました、エレベーターで最上階まで行くと。
 窓から見える景色は天守閣から周りを観る様でした、先生がそう思いここで言うことはどういったものかといいますと。
「大阪城から観ているみたいですね」
「そこで姫路城と言ってくれると最高でした」
 日笠さんは少し苦笑いになって先生に答えました。
「兵庫ですから」
「あっ、そうですね」
「大阪城はやっぱり大阪のお城なので」
 日笠さんはそのことはこう言いました、先生の今のお言葉に皆少しリラックスしました。先生は最初からでしたが。



とりあえず、園長先生には話をしたと。
美姫 「こちらの方は問題なかったみたいね」
だな。で、今度は学園長と話をするみたいだな。
美姫 「こちらもすんなりと決まれば良いけれどね」
多分、大丈夫だと思うけれどな。
美姫 「一体どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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