『ドリトル先生の水族館』




                 第九幕  悪い子達

 先生が動物の皆を連れての水族館での診察は続いていました、この日は休日で先生が診察をしている中で、です。
 先生は水族館の中を歩いているとです、学生さん達に挨拶されました。
「先生おはようございます」
「今日はこちらですか」
「水族館にいらしてるんですね」
「うん、診察でね」
 先生は挨拶を返してから学生さん達に答えました。
「来ているんだ」
「遊びじゃなくて、ですか」
「お仕事ですか」
「それで来られたんですか」
「そうなんだ、それとね」
 先生はさらにお話するのでした。
「その中でダイオウグソクムシ君を観るけれど」
「ああ、あの」
「何も食べないっていう」
「あの生きものですね」
「深海にいるっていう」
「今日も食べていないそうだしね」
 先生は少し残念そうに言いました。
「何時食べるのか」
「そのことはですね」
「話題になってますよね」
「何時食べるのか」
「お腹空いていないのか」
「そうなんだ、ただ深海生物の診察は最後だから」
 水族館の生きもの達を診察して回ってです。
「それからだね」
「じゃあその最後の最後に」
「ダイオウグソクムシへの診察ですね」
「そちらですね」
「そのつもりなんだ。それにしても君達は」
 今お話している学生さん達を見てです、また言った先生でした。
「二人連れが多いけれど」
「はい、僕達デートなんです」
「水族館で」
「ここって学園内のデートスポットの一つなんですよ」
「動物園や植物園もそうですけれど」
「あと博物館、美術館、大学のキャンバス」
「そうしたとこと一緒なんです」
 学園内のデートスポットだというのです。
「だから休日になりますと」
「私達の他にもです」
「デートしてるカップルいますよ」
「他の学校からも来てますよ」
「そうなんだね、じゃあ今度妹にも勧めてみるよ」
 学生さん達の言葉を聞いてです、穏やかな笑みで応えた先生でした。
「ご主人と一緒に。来日した時にどうかってね」
「あの、それはいいですけれど」
「妹さんご夫婦にお勧めするのことは」
「ただ、ですね」
「そこで他に思われません?」
 学生さん達はここで先生に言いました。
「こう、ですね」
「一番大事な人がですよ」
「ここでデートすべきとか」
「そうした風には」
「一番大事な?そういえばトミーも王子も」
 そう言われてです、先生が思い付いたのはこの人達でした。
「そろそろそうしたお年頃かな」
「あの、そうじゃなくて」
「本当に思いませんか?」
「一番大事な人がです」
「先生にとっても」
「ここでデートもすべきだって」
「そう」
 学生さん達はかなり真剣に先生にお話します。
「どうですか?そういう風に」
「考えてみません?」
「そうすればです」
「いいことがあるかも知れないですよ」
「いいこと。何かな」
 先生は学生さん達のお話に腕を組んで首を傾げさせました。
「一体」
「まあそれはです」
「よく考えられて下さい」
「そうすればです」
「おわかりになられるかもです」
「何なのかな、とにかくここはデートスポットというのは」
 あらためて周り、水族館の中を見回して言った先生でした、
「本当みたいだね」
「はい、そうなんです」
「こうしてです」
「僕達もデートしてますし」
「楽しんでいます」 
 また笑顔で言った学生さん達でした。
「素敵な場所ですよ」
「色々な生きものが観られますし」
「グッズやぬいぐるみも売ってますし」
「お料理も美味しい」
「本当にいい場所ですよ」
「他の場所でもそうですけれど」
 動物園や植物園もというのです。
「デートに最適です」
「カップルでウミガメとかジンベエザメを観るのもいいんですよ」
「そうなんだね、じゃあそのことも宣伝すればね」
 先生は学生さん達に言われてこうしたことも言いました。
「余計に人気が出るかな」
「もうかなり人気ですけれど」
「今以上にですね」
「人気が出る」
「そうなるっていうんですね」
「そうなるかもね、とにかくデートもいいことだよ」
 先生はご自身のことに気付かないまま学生さん達に暖かい目でお話します。
「日本では昔から恋愛を和歌や物語にしているけれどね」
「源氏物語ですね」
「あのお話にしてもそうですよね」
「光源氏は須磨にいたことがあったけれど」
 こうしたこともです、先生は言うのでした。
「今だったらこの水族館にも来たかな」
「問題は誰と、でしょうか」
「あの人もてますから」
「自分でもお声かけますし」
「そうしたことでも凄い人ですよね」
「いや、僕とは全然違うね」
 こうも言った先生でした。
「そうしたところは」
「けれど先生も」
「実は、なんですよ」
「学園の女の人に人気ありますよ」
「独身の先生や職員さん達に」
 学生さん達は先生が知らない真実をお話しました。
「優しくて礼儀正しい紳士だって」
「親切な人だってことで」
「しかも公平で」
「素敵な人だって言われていますよ」
「ははは、お世辞はいいよ」
 笑って答えた先生でした。
「そうしたことを言われることは苦手だから」
「いや、本当にですよ」
「先生人気ありますよ」
「紳士ですから」
「立派な人ってことで」
 学生さん達はまだ先生に言うのでした。
「お人柄から」
「凄い人気なんですよ」
「これ本当のことですよ」
「先生好かれてますよ」
「いい人ですから」
「女の人達からも」
「いやいや、いい人というのはね」
 先生は温和な笑顔で、です。ここで哲学を出しました。
「それだけなんだよ」
「いい人であるだけ」
「それだけですか」
「そう仰るんですか」
「それ以外はないって」
「そうだよ、いい人というのは褒め言葉だけれど」
 それでもというのです。
「それだけなんだ」
「ただそれだけで」
「他には何もない」
「そういうものだってですか」
「先生は言われるんですね」
「優れた能力や立派な容姿がなくて」
 それで、というのです。
「カリスマもない。そういう人はね」
「いい人」
「ただそれだけですか」
「だから先生はですか」
「それだけだっていうんですか」
「そうだよ、だから僕はね」
 諦めているものでもシニカルなものでもありません、先生は温和な笑顔で学生さん達に対してお話するのでした。
「別に人気はないよ」
「そうかな」
「違うわよね」
 学生さん達は先生の言葉にいぶかしんでです、お互いに顔を見合わせてそのうえで自分達でお話をしました。
「先生はね」
「そういう人じゃなくて」
「いい人だけじゃなくて」
「学問も多くされていて」
「学者としても教授としても評判がよくて」
「そうしたことでもね」
 社会的評価もあるというのです、先生には。
「そのことも確かで」
「それに加えてお人柄もだから」
「ただいい人だけじゃね」
「ないから」
 それで、というのです。
「女の人達も馬鹿じゃないから」
「ちゃんと先生を見てね」
「それでだから」
「先生は本当の意味で人気があるわね」
「うん、どう考えてもね」
「そうよね」
「そう言ってくれるのは嬉しいけれど」
 それでもと言う先生でした。
「僕は生まれてからずっと女性には縁がないんだよ」
「だからですか」
「今も、ですか」
「そうしたお話はない」
「無縁だっていうんですね」
「そうだよ、デートはね」
 それこそというのです。
「全く考えてないよ」
「そうですか」
「そうしたことはですか」
「全く、ですか」
「関係ないですか」
「そうだよ、それに僕は一人じゃないから」
 結婚することはなくとも、というのです。実際先生の周りには今もいつも一緒にいる動物の皆が囲む様にしています。
「この子達がいてトミーや王子がいて君達もね」
「僕達もですか」
「いるからですか」
「そう、いつも一人じゃないから」
 むしろです、一人でいる時はおトイレやお風呂の時位といっていいのが先生です。それ程孤独とは縁のない人なのです。
「いいんだよ」
「結婚しなくてもですか」
「そうなんですね」
「よく言われるけれどね」
 結婚のこともお話した先生でした。
「周りからは」
「そうですよ、やっぱり」
「先生もいいお歳ですから」
「だからですね」
「本当にお考えになって下さい」
「結婚のことは」
「かなり前向きに」
 学生さん達も言います。
「きっといい人いますから」
「先生ならいい人と結婚出来ますよ」
「それで幸せになれます」
「絶対にそうなりますから」
 このことは間違いないからだというのです。
「お見合いとかもどうですか?」
「それでもいい人と出会えますよ」
「それか近くにです」
「どなたかおられませんか?」
「いないんだよ、これが」
 やっぱりこう言った先生でした。
「だから君達のお気遣いは有り難いけれどね」
「そうですか、けれどです」
「絶対にですよ」
「結婚して下さい」
「それで幸せになって下さいね」
「神様がそうしてくれるならね」
 これが先生のお返事でした、そうしたことをお話してです。先生は学生さん達と別れてそのうえで、でした。
 この日も診察をします、丁度日本近海のお魚さん達を診察してからです、次の場所に向かおうとしましたら。
 水族館の中を走り回っている子供達がいました、トートーはそうした子供達を見て首を少し左に傾げさせて言いました。
「ああした子は絶対にいるよね」
「うん、動物園でも植物園でもね」
 ホワイティがトートーに応えます。
「こうした場所はね」
「学校以外の場所でも」 
 それこそというのです。
「はしゃぐ子供はね」
「いるね」
「ちょっかいかけられない様にしないと」
「子供はすぐにそうしてくるから」
 チープサイドの家族もお話します。
「先生の周りにいて」
「離れないことね」
「離れたら子供達が来た時に厄介だよ」
「だからそうしよう」
「親御さん達が注意してるよ」 
 ガブガブは子供達の傍にいる男の人と女の人を見て言いました。
「怒ってるけれど」
「それでもね」
「うん、あまり聞いていないね」 
 子供達は、とです。ガブガブはポリネシアに言います。その子供達を見ながら。
「はしゃいでいるままだね」
「困ったことね」
「子供ってすぐにはしゃぐからね」
 老馬はこう言いました、先生のお傍で。
「何かと」
「そうなのよね、幾ら怒られても」
「中々なおらないんだよね」
「どうしてもね」
 ダブダブが老馬に応えます、それはもうわかっているという顔です。
 チーチーはです、少し困ったお顔になって言いました。
「僕達のところに来ないかな」
「来て吠えたりしたらかえって僕達が怒られるし」
 ジップはこのことが心配なのです。
「だからね」
「来られたらちょっとね」
「うん、迷惑って言えば迷惑だね」
「特に僕が目立ってる?」
「そうだろうね」
 オシツオサレツはここでも二つの頭でお話します。
「どうしてもね」
「そうなってるよね」
「目立つつもりがなくても」
「この二つの頭のせいでね」
「あっ、皆大丈夫だよ」 
 先生が子供達にちょっかいをかけられるかどうか心配している動物の皆にです、優しい笑顔で言いました。
「子供達には僕が注意するから」
「うん、先生がいるからね」
「僕達は安心出来るね」
「ああした子供達がちょっかいかけて来ても」
「それでも」
「そう、何かあっても」
 それでもというのです。
「僕に任せてね」
「僕達もね」
「ちょっかいかけられるの嫌だから」
「その時はお願いするね」
「子供達が来た時は」
「任せてね」
 こう皆に言うのでした、そしてです。
 先生は皆を安心させました、そのうえで診察の場に向かおうとしましたが。
 そのはしゃいでいる子供達がです、オシツオサレツを見て言いました。
「あれっ、あの山羊って」
「頭二つあるわ」
「じゃあまさか」
「あの山羊がね」
「オシツオサレツ?」
「噂の」
 こう言うのでした、そしてです。
 オシツオサレツだけでなくです、他の皆も見て言うのでした。
「他の子達もね」
「可愛いわよね」
「うん、豚さんもね」
「犬さんだって」
「うわ、こっちに来る?」
「ひょっとて」
「まさかと思ったけれど」
 動物の皆は子供達の言葉を聞いてぎょっとしました、ですが。
 先生はその皆の前に無言で、微笑んだままそっと出ました。そして子供達のご両親もでした。その子供達に注意しました。
「あの子達のところに行っちゃ駄目だ」
「あの人の家族なのよ」
「他の人の家族に悪いことをしない」
「お母さん達いつも言ってるでしょ」
 こう子供達に言うのでした。
「この水族館の生きものにもな」
「悪いことしたら駄目って言ってるでしょ」
「だからあの子達にもだ」
「何もしたら駄目よ」
「さもないとさっきよりずっと怒るぞ」
「はしゃいでいた時よりもね」
 強い顔で子供達に言うのでした。
「わかったな、それじゃあな」
「あの動物さん達に近寄ったら駄目よ」
「ちぇっ、面白くないな」
「折角珍しい生きものを見たのに」
「僕もっと近くに寄りたいのに」
「私も」
 子供達はご両親の言葉に不満なお顔になりました、ですが。
 お父さんもお母さんも許しません、それで子供達に言うのでした。
「言うことを聞かないと本当に怒るぞ」
「後でアイスも買ってあげないわよ」
「わかったらいいな」
「わかったらあっちでシャチを観に行くわよ」
「えっ、シャチ!?」
「シャチ観に行くの!?」
 シャチはこの水族館でも人気の生きものです、だから子供達もシャチを観に行くと聞いてすぐにそちらに関心を向けました。
「じゃあ行こう」
「今からね」
「いい子にしていたらな」
「じゃあこれからは悪いことをしないのよ」
「運、僕そうするよ」
「私も」
 子供達もすぐに応えました、そしてです。
 ご両親と一緒にシャチのコーナーの方に歩いていきました。その一部始終を見てでした、動物の皆は言いました。
「難を逃れたね」
「よかったね」
「先生がそっと守ってくれたし」
「親御さん達も止めたし」
「いや、よかったわ」
「本当にね」
「出来た親御さんだったね」 
 先生も言います。
「子供達が来たら注意するつもりだったけれど」
「うん、親御さん達がね」
「怒って止めてくれてね」
「それで難を逃れたから」
「本当によかったわ」
「子供を怒ることも必要だけれど」
 それでもと言う先生でした。
「ただ怒るだけじゃ駄目なんだ」
「どうして怒るのかだね」
「理由も言わないと駄目なのね」
「さもないと頭ごなしなだけで」
「子供達にとってもよくないのね」
「そうだよ、子供の人格は形成中のものでありそして人間なんだ」
 紛れもなく、というのだ。
「同じ人間でありおかしなことをするとおかしな影響を受ける」
「そのことを考えて」
「そしてなんだ」
「ちゃんと理由を説明して怒るべき」
「さっきの親御さん達みたいに」
「そう、他の人に迷惑をかけたらいけない」
 まずはこのことからお話した先生でした。
「それはエチケットだね」
「人としてのね」
「最低限のね」
「それが出来ないとね」
「そもそも駄目だし」
「そう、そして怒ると前以て言っていてどうして怒るかも話していたね」
 おやつのアイスを買ってあげないとです。
「そうしたことまで言って最後に僕達から注意の視線を外させた」
「そこまでしたから」
「流れるみたいに」
「だからいいんだね」
「あれで」
「凄くよかったよ、しかも暴力を振るわなかったね」
 このこともよかったと言う先生でした。
「暴力は本当に駄目だよ」
「それだけはね」
「幾ら親でもね」
「躾も必要だけれど」
「暴力は」
「そう、暴力はいい結果を残さないよ」 
 先生はこのことは絶対と言うのでした。
「絶対にね」
「子供を。暴力を振るわれた人を傷付けるだけで」
「しかも自分の負の感情を乱暴にぶつけてるだけだから」
「絶対によくないね」
「そうなんだね」
「うん、親でも学校の先生でも職場の上司でもね」
 そうした立場でもというのです。
「暴力はよくないよ」
「決してだよね」
「それだけは」
「それをしたらね」
「もうそれだけで駄目だね」
「僕は暴力を否定しているのはね」
 それはどうしてかとも言った先生でした。
「ただマイナスの感情を相手にぶつけていて相手を傷付けるだけだから」
「それでだね」
「先生は暴力を否定しているんだね」
「だから絶対に暴力を振るわない」
「誰でも」
「そうだよ、暴力は人を傷付けるだけなんだ」
 それに過ぎないものだというのです。
「最近はインターネットでも暴力を振るう人がいるけれどね」
「ああ、先生よく怒ってるよね」
「そうしたことをする人が」
「どうしてもね」
「いるよね」
「そう、いるから」
 だからだというのです。
「そんな人は僕は認めないよ」
「自分の子供に対して暴力を振るう人も」
「親として失格だって」
「先生はいつも言ってるね」
「人として間違ってるって」
「そうだよ、あってはならないものだよ」
 暴力を振るう人はというのです。
「そうしてはならないよ」
「さっきの親御さん達は暴力を振るわなかった」
「そのこともよかったね」
「暴力を振るうこともなかったから」
「本当にね、子供達に注意は必要でも」
 それでもというのです。
「そこに理不尽や暴力があっては駄目なんだ」
「そこも踏まえて注意しないと」
「子供によくないんだね」
「そうだよ、あのご両親はそのこともわかっていたから」
 だからとです、先生は穏やかな言葉で皆にお話しました。
「あの子達は今は賑やかだけれど」
「いい大人になる」
「そうなるんだね」
「なるよ、きっとね」
 先生のお顔は落ち着いたものでした、皆にこうお話してでした。
 次の診察場所に向かいます、見ればウミガメさんのコーナーの前で先程とは別の子供達がいてウミガメさん達を見ています。
 そしてです、こんなことをお話していました。
「足じゃなくて鰭なんだね」
「この亀さん達はね」
「海にいるからなんだ」
「海の中で泳ぐからね」
「足が鰭になってるんだね」
「面白いよね」
 こうしたことをお話していました。
「ずっとこの亀さん達見ていたいね」
「昔はね」
 ここで、です。子供達を引率している若い奇麗な女の人が子供達に言いました。
「この亀さん達よりもっと大きなウミガメさんがいたのよ」
「えっ、ウミガメさん達大きいけれど」
「もっと大きなウミガメさん達がいたの」
「そうなの」
「そうなの、四メートル位あったのよ」 
 そのウミガメさんの大きさはというのです。
「この亀さん達よりずっと大きいでしょ」
「ええと、四メートルって」
「どれ位なのかな」
「凄く大きいの」
「そんなになのね」
「その大きさはね」
 四メートルはどれ位かもです、先生は子供達にお話していました。先生はその様子を目を細めつつ見ながら動物の皆に言いました。
「ああした光景はいいね」
「子供達が生きものを見てね」
「それで先生が説明する」
「興味を持っている子供達にさらに」
「いい光景よね」
「そう思うよ、それでね」
 さらにお話した先生でした。
「あの先生は昔はもっと大きなウミガメ君がいたって言ったね」
「うん、そうだよね」
「四メートル位の」
「そこまで大きなウミガメさん達がいたってね」
「何なの、そのウミガメさん達って」
「四メートルもあったって」
「凄く大きいね」
 ウミガメさん達にしてはです。
「何時の時代のウミガメさんかな」
「今はもういないよね」
「それって一体」
「どんな亀さんなのかな」
「恐竜でね」
 先生は首を傾げる皆にお話しました。
「アーケロンっていうんだ」
「その恐竜さんがだね」
「その大きなウミガメさんなんだね」
「そうだよ、恐竜は爬虫類だね」
 先生は皆にこのこともお話しました。
「そして亀君達も爬虫類だから」
「そのアーケロンっていうウミガメさんは恐竜にも分類されてるんだ」
「そうなんだ」
「その恐竜は大きかったんだ」
 実際にというのです。
「今のウミガメ君達よりもね」
「四メートルもあったんだね」
「そうだったんだね」
「そうだよ」
 先生はまた皆にお話しました。
「あの若い先生がお話しているのは間違いなくアーケロンのことだね」
「ううん、若し今アーケロンがいたら」
「もっと大きな水槽じゃないと駄目だね」
「四メートルもあったら」
「それこそ」
「うん、とてもね」
 実際にと答えた先生でした。
「他の恐竜達もそうだよ」
「海にいる恐竜もそうで」
「陸にいる恐竜もね」
「水族館や動物園で飼おうって思ったら」
「大変だよね」
「大きいからね」
 皆もこの辺りの事情はわかりました。
「それに凶暴な恐竜もいそうだし」
「海だとエラスモサウルスとか」
「あと陸だとティラノサウルス」
「そうした恐竜もいるから」
「育てるのはね」
「凄く大変だね」
「僕達と恐竜が一緒にいたら」
 ここでこんなことも言った先生でした。
「面白いけれど」
「僕達は大変だよね」
「恐竜に襲われたりして」
「大人しい恐竜でも大きいからね」
「若し踏まれたりしたら」
 そのとてつもなく大きな足で、です。
「それでぺしゃんこだよ」
「そうなっちゃうからね」
「やっぱり恐竜と僕達が一緒にいたら」
「大変だよね」
 皆もです、恐竜の巨大さと恐ろしさを想像して言います。
「僕達こうしていられないかも」
「恐竜にいつも追い立てられていて」
「哺乳類も鳥類もね」
「ずっと恐竜の陰にいたかもね」
「恐竜がいる間はね」
 先生も言います。
「地球は実際ずっと恐竜が支配していたんだよ」
「そう言っていい状況だったんだね」
「巨大な恐竜達が地球のあちこちにいて」
「お空も飛んで海も泳いで」
「恐竜の支配する星だったんだね」
「そうだよ、人間の文明なんかお話にならない位長くね」
 恐竜達が地球を支配していたというのです。
「そうだったんだよ」
「恐竜って凄かったんだね」
「本当にね」
「その恐竜達がいたら」
「僕達はやっぱり」
「うん、こうしていられなかったかもね」 
 純粋にこう言った先生でした。
「僕もそう思う時があるよ」
「恐竜って格好いいけれど」
「何かロマンがあるけれど」
「僕達とはね」
「一緒に住めないかも知れないんだね」
「そう思う時があるよ」
 実際にというのです。
「恐竜についてはね」
「ううん、そうなんだね」
「恐竜と僕達は一緒にいられないかも知れない」
「そうかも知れなかったんだね」
「そうかもね、ただ僕もね」
 こんなこともお話した先生でした。
「恐竜には興味があるよ」
「そういえば先生ってね」
「恐竜の研究もしてるよね」
「八条大学の博物館は恐竜の化石も展示してるし」
「それもかなりね」
「恐竜にはロマンがあるから」
 皆にまたお話した先生でした。
「僕も研究しているんだ」
「さっきお話したアーケロンもそうで」
「他の恐竜もだね」
「そうだよ、海にはアーケロン以外にも沢山の恐竜がいてね」
 水族館の中にいるからこそです、先生は海の妖怪達のことお話しました。流石は恐竜の研究ををしているだけはあります。
「種類も多いんだよ」
「プレシオサウルスとかモササウルスとか」
「あとイクチオザウルスとかだね」
「そう、イクチオザウルスはイルカに似ているよ」
 その姿がというのです。
「今で言うと本当にね」
「イルカだったんだね、イクチオザウルスは」
「恐竜、爬虫類だけれど」
「そうだったんだね」
「そう、アーケロンは亀でね」
 大きな亀です、つまりは。
「そう考えていくと面白いね、恐竜は」
「うん、本当にね」
「一緒にいられないかも知れないけれど」
「それでもね」
「面白いんだよね、恐竜のお話を聞いているだけで」
「ロマンがあって」
「古代生物にはロマンがあるんだ」
 実際にというのです。
「もういないからこそ想像も出来るしね」
「いないからこそロマンがある」
「どんな暮らしだったのか想像するし」
「それでなのね」
「沢山の人が恐竜を好きなのね」
「他の生きものもね、あとね」
 そしてまたお話した先生でした。
「恐竜の前の生きもの達もそうだね」
「あっ、恐竜の前の時代もね」
「沢山の生きものが地球にいたね」
「恐竜の前は両生類が一杯いて」
「その前は陸地もなくてね」
「海ばかりで」
「お魚の時代だったね」
 皆は先生が以前お話してくれたことを思い出しました。
「そうだったね」
「恐竜より前の時代はね」
「そうした時代だったね」
「そうだよ、それで特にね」
 さらにお話した先生でした。
「カンブリア紀のころが凄かったんだよ」
「あっ、何かね」
「先生前にお話してたね」
「そのカンブリア紀には信じられない生きものが一杯いたって」
「どうしてこんな進化をしたのかわからない位」
「凄い生きものが一杯いたって」
「そうなんだ、その頃地球はまだ海しかなかったけれど」 
 それでもだったというのです、その海の中にです。
「そこに凄い生きものが一杯いたんだ」
「ええと、アノマロカリスとか?」
「無茶苦茶な形をしていて」
「訳がわからない位だったって」
「そうした生きものの時代だって」
「今も確かに色々な生きものがいるよ」
 現代もとです、先生は確かにお話しました。
「けれどね」
「カンブリア紀の頃に比べたら」
「それこそなんだね」
「もう些細なことだっていうんだね」
「そうだよ、あの頃の生きものの頃はね」
 そのカンブリア紀のことをです、先生はさらにお話しました。
「進化の中のテストともイレギュラーとも言われているんだ」
「どうしてこう進化したかわからない」
「それでなんだね」
「そうしたことを言われてるんだね」
「だからだね」
「そう言われてるし僕もそう思うよ」
 先生は皆と一緒に水族館の中を進みつつお話していきます。
「神が進化を考えておられたんじゃないかな」
「カンブリア紀の頃に」
「そうだったかも知れないんだね」
「この宇宙にある星は地球だけじゃない」
 こうもです、先生は言いました。
「太陽系だけでも銀河系だけでもない」
「実に沢山の星がある」
「それこそだね」
「そしてその星の中には生きものがある星もあるかも知れない」
「そう言うんだね」
「中には地球以前に生きものがいる星もある」
 こうも言った先生でした。
「神はその星でも進化を見ておられたかも知れないけれどね」
「この地球でも」
「そうなんだね」
「そうかも知れないんだ」
 またお話した先生でした。
「他の星でもこの地球でもね」
「神様もそうしたことするんだ」
「進化を見て守ることがなんだ」
「あるんだね」
「そうなんだね」
「そうかもね。恐竜もその進化の一つで」
 そして、というのです。
「僕達にしてもそうだろうね」
「神様が進化させている」
「そうかも知れないんだね」
「この地球にしても」
「そうも考えるよ」
 先生は神様の存在を否定していません、むしろ信仰はしっかりとしていて神学者でもあります。だからこう言ったのです。
「生物学もまた神の司るものだよ」
「先生そうも言ってるよね」
「まず神様があるって」
「この世の中には」
「それで僕達もいるって」
「それでカンブリア紀の生きもの達もなんだ」
 そのとても不思議な彼等というのです。
「神が創られたものなんだ」
「僕もだよね」
「そうだって先生言ってるね」
 オシツオサレツも言ってきました。
「神様が創ってくれたものだって」
「進化の中で」
「そうだよ、僕もそうだしね」
「あらゆる生きものが神様が創ってくれた」
「私達にしても」
 チープサイドの夫婦もお話します。
「それでこの世の中にいる」
「そうなんだね」
「僕の鼻もね」
「そして僕の目も」
 ジップとトートーが言うにはです。
「神様がよくしてくれた」
「そう進化させてくれたんだね」
「ダーウィンさんだったかな」
「昔の学者さんだね」
 ガブガブにです、ホワイティが言います。
「あの人の言ってることも」
「神様と矛盾しないんだよね」
「その進化を促す条件を用意されるのは神だよ」
 先生はこの広い範囲から言いました。
「皆にしてもそうだよ」
「僕が速く走られる様に」
「僕の手がよく動くこともだね」
 老馬とチーチーも言います。
「神様が進化を促してくれた」
「そうなんだね」
「何かダーウィンさんを神様がどうとかで言う人がいるけれど」
「そうでもないのね」
 ダブダブとポリネシアがお話します。
「そうなのね」
「矛盾していないのね」
「そうだよ、進化とそれを促す条件は全て神が用意されているからね」 
 だからだとです、また皆にお話した先生でした。
「矛盾していないんだ」
「神様とダーウィンさんも」
「そうなんだね」
「僕も学問をしていてわかったよ」
 そうしたことがというのです。
「ダーウィンさんの進化も神の中にあるんだ」
「成程ね」
「そうしたものなんだね」
「ダーウィンさんは神様を否定していない」
「そうなんだね」
「僕はこのことに気付いて驚いたけれど」 
 ふとです、先生はここでお話を変えてきました。
「日本では皆普通に考えているんだ」
「神様とダーウィンさんのことを」
「矛盾しないって」
「そうなの」
「そうしたものだって」
「最初からわかってるんだね」
「それこそダーウィンさんの進化論を聞いてね」 
 そしてというのです。
「もうすぐになんだ」
「神様とは矛盾していない」
「そうだっていうんだね」
「ここの国の人達は」
「普通に受け入れているんだ」
「うん、日本人の宗教観だとそうなんだね」 
 そのことからお話するのでした。
「普通に矛盾しないんだ」
「確か先生のお国でも大騒ぎだったんだよね」
「ダーウィンさんの進化論と神学で」
「神お否定するとかで」
「今も言い合ってるんだよね」
「ユダヤ教だと恐竜の存在を否定する人もいるよ」
 そうした人のこともです、先生は皆にお話しました。
「この世界は神が何千年か前に創られているからそれ以前の生物が存在する筈がないってね」
「そうした意見もあるんだね」
「聖書の考えに忠実に添って」
「そうしたことを言う人もいるのね」
「そうなんだね」
「そうだよ、こうした意見もね」
 先生は穏やかなお顔のまま言うのでした。
「いいんだよ」
「間違っていないんだ」
「恐竜がいないって言っても」
「それでもなんだ」
「いいんだね」
「うん、それも学説だよ」
 それもまた、というのです。
「だからいいんだよ」
「そうなんだ」
「それもなんだね」
「先生は否定しないんだね」
「学説の一つとして肯定するんだね」
「どんな学説も検証してもね」
 それでもともです、またお話した先生でした。
「否定はしないんだ、僕は」
「そうしたことはしないよね、先生って」
「何でも受け入れるよね」
「自分の考えはしっかり持ってるけれど」
「否定はしないんだね」
「否定をしたらそれで終わりだからね」
 だからだというのです。
「そうしたことはしないんだ」
「そういうことなんだね」
「まず受け入れる」
「そして学ぶ」
「それが先生なんだね」
「そうした人でありたいといつも思っているよ」
 だからだというのです。
「そうしたことはしないんだ」
「成程ね」
「そこがやっぱり先生だね」
「先生らしいね」
「器っていうかな」
「それが凄いのかしら」
「そう言われると恥ずかしいよ」
 それこそとです、先生は少し俯いて答えました。
「僕にしては」
「いやいや、それでもね」
「僕達はそう思ってるよ」
「だからいつも一緒にいるんじゃない」
「こうしてね」
「一緒にいてくれるのは嬉しいけれど僕はね」
 先生は、というのです。ご自身で。
「器は大きくないよ」
「そんなになの」
「大きくないのね」
「別になのね」
「そう言うのね」
「そうだよ、別にね」
 それこそというのです。
「そうした人じゃないよ」
「まあ戦士絵がそう言うのならね」
「それでいいよ」
「先生はそこでそうだって言う人じゃないし」
「謙虚さも先生」
「先生のいいところだから」
「そうありたいね」
 先生もいつもの穏やかな笑顔で応えるのでした、そうしたお話をしつつ診察も進めていってです、そうして。
 先生はこの日の診察を終えました、そのうえで一旦研究室に戻るとです。
 そこで、でした。動物の皆が先生に言いました。
「これでかな」
「全部終わった?」
「普通の生きものの診察は」
「それじゃあね」
「うん、いよいよ明日からね」
 まさにとです、先生も皆に応えます。
「深海生物への診察だよ」
「その凄い姿の」
「不思議な生きものへのだね」
「それがなんだね」
「明日からなんだね」
「本当にいよいよだね」 
 先生も言うのでした。
「彼等への診察だよ」
「特にダイオウグソクムシ」
「あの生きものだよね」
「今日も食べなかったそうだし」
「果たしてどうして食べないのか」
「そのことだね」
「彼自身とも話をしたいよ」
 是非にと言った先生でした。
「どうしてなのかね、だからね」
「先生も楽しみにしていたんだね」
「それがなんだね」
「いよいよなんだね」
「本当にいよいよだよ」
 先生も目を輝かせて言いました。
「彼とも会って話が出来るんだ」
「とにかく何年も食べないのはね」
「それがどうしてなのか」
「それが不思議だし」
「是非お話を聞きたいね」
「その他の皆ともお話がしたいしね」
 是非にというのです。
「だからね」
「じゃあね」
「明日からいよいよ」
「深海生物の皆への診察だね」
 動物の皆もお話してでした、そのうえで。
 今日はお家に帰ってでした、そこでゆっくりと休んでです。先生達はいよいよその深海生物達のコーナーに行くのでした。



生徒たちからも皆と同じような事を言われたな。
美姫 「それでもやっぱり自覚はしないみたいね」
みたいだな。まあ、ある意味それこそが先生という感じではあるけれど。
美姫 「今回は子供たちに悪戯されるかと思ったんだけれど」
何事もなくて良かったよな。
美姫 「そうよね。ちゃんと叱ってたしね」
だな。さて、いよいよ次からは深海生物か。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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