『ドリトル先生北海道に行く』




                 第十幕  屈斜路湖にて

 先生達は屈斜路湖に着きました、まずは駐車場に車を停めてです。そこから皆で降りて山に囲まれたその湖を見ました。
 そのうえで、です。先生は動物の皆にこう言いました。
「今のところクッシーは見えないけれど」
「それでもだね」
「山に囲まれたこの湖も奇麗だよね」
「山の緑ち湖の青」
「その二つが一緒になっていてね」
「うん、とてもいいよ」
 実際にと答える先生でした、その目を細くさせて。
「景色も充分楽しめるよ」
「そうだよね、景色だけでもね」
「十分満足出来るね」
「それに周りにはちゃんとクッシーさんいるし」
「あちこちにね」 
 見れば先生のすぐ傍にクッシーの青に模型があります、お顔立ちが随分可愛らしくて愛嬌があります。
「建物の中にもあるし」
「やっぱりここはクッシーさんの湖なんだね」
「本当にいるかっていうとだけれど」
「僕達まだ会っていないけれどね」
「目撃例は二十世紀後半でね」
 先生は皆にそのクッシーのことをお話しました、湖を眺め続けながら。
「二十一世紀になってからはないんだ」
「そうなんだ」
「二十一世紀になったらなんだ」
「もうクッシーさん出て来てないんだ」
「人前には」
「そうなんだ、まあグーグルでずっと見たら」
 その時はといいますと。
「見られるかも知れないけれど」
「今はだね」
「目撃はされてないんだ」
「ここのところは」
「残念だけれどね、本当に恐竜だとしても」
 それでもというのです。
「まだこの湖にいるかどうか」
「それはわからない」
「そういうことだね」
「そうなんだ、謎のままだよ」
 クッシーが本当にいるのかどうかはです。
「ただ、ニホンオオカミもいたし」
「そうそう、奈良県にね」
「本当にいたよね」
「あれには驚いたね」
「本当にいたんだって」
 皆もあの時のことを思い出しました、まさか本当にあの場所にニホンオオカミがまたいたということにです。
「狐さんや狸さんもね」
「長生きして喋っていたり」
「あとはカワウソさんもね」
「日本に来てて」
「そうしたこともあるから」
「クッシーさんもね」
「否定出来ないよね」
 絶対にいないとです、断言することはというのです。
「だからだよね」
「クッシーさんもいるかもね」
「ひょっとしたら」
「それじゃあね」
「この湖を暫く見て」
「景色を楽しみながらね」
「クッシーさんを探そう」
 動物の皆もお話しました、そしてです。
 そうしたことをお話してでした、皆で屈斜路湖の周りを見て回りました。景色は確かに奇麗なのですがそれでもです。
 結局クッシーはいませんでした、そして。
 ジップはです、お鼻をくんくんさせて言いました。
「いないね」
「匂いがしないんだね」
「変わった匂いはね」
 ジップが今まで感じ取ったそれはです。
「全然しないよ」
「確かにそうだね」
 ジップと同じくお鼻が効くダブダブも言います。
「湖と木の匂いはいいけれどね」
「湖もね」
 ガブガブは湖をじっと見ています。
「奇麗で澄んでるけれど動きはないわね」
「水鳥君達はいても」
 トートーも大きな目で湖を見ています。
「大きな生きものはいないね」
「水面には出てはいないね」
 ホワイティは先生の頭の上から湖を見ています。
「山の方にもね」
「いないのかな」
 首を傾げさせて言ったのは老馬でした。
「今は」
「いやいや、そう諦めるのはよくないわよ」
 ポリネシアは老馬の背中から言います。
「この場でいないからっていうだけでね」
「そうだね、湖の底にいるとかね」
「そういうこともあるわね」 
 ここで言ったのはチープサイドの家族でした。
「だからね」
「もっとよく見ていよう」
「それに僕達のこれまでの旅は絶対に何かあったから」
 チーチーは旅のことからお話しました。
「ここでも何かあるかもね」
「そうそう、本当に何かあるよね」
「僕達の旅って」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「だからだね」
「今回もだね」
「さて、それでどうなるのかな」
 首を傾げさせて言う先生でした。
 そしてです、先生はさらに皆に言いました。
「それも楽しみに見て回ろう、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「何かあるの?」
「いや、妙に気になるんだ」
 先生も言うのでした。
「皆が言う通り僕達の旅は絶対に色々あるからね」
「だからなんだ」
「それでなんだね」
「今回の旅も」
「何かありそうなんだね」
「そうなんだよ、思えばね」
 また言う先生でした。
「今回の旅はこれまで平穏だったし」
「そろそろだね」
「何かが起こる」
「先生もそう思うんだ」
「予感ってことかな」
「そう思うんだよね、どうなるのかな」
 こんなことも言った先生でした、そして。
 この日のお昼はラーメンでした、先生は皆とラーメンを食べつつ言いました。
「北海道のラーメンもね」
「それぞれ違いますね」
 トミーもラーメンを食べつつ言います。
「それぞれ」
「地域によって、そしてね」
 それにというのです。
「それぞれのお店によってね」
「味がですね」
「違うね」
「そうですね、そして」
 それにと言ったトミーでした。
「やっぱり日本のラーメンはいいですね」
「うん、それが結論になるね」
「何度食べてもですね」
「食べたくなるね」
「不思議な食べものですね」
「全くだよ」
 先生も言います。
「そこがね」
「ええ、面白いです」
「全くだね」
「麻薬みたいですね」
「ははは、麻薬だね」
「そう思いましたけれど」
「確かにそうかもね」
 先生も否定しませんでした。
「ラーメンは病み付きになるからね」
「だからそうも思いました」
「言われてみればそうだね」
 その通りと返した先生でした。
「病み付きになることは同じだからね」
「そうですよね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「麻薬よりずっといいよ」
「ラーメンはですね」
「そう、こっちに病み付きになる方がね」
 麻薬よりもというのです。
「ずっといいよ」
「美味しいですしね」
「日本にはラーメンにとらわれた人もいるけれど」
 その心がです。
「それは楽しんでいるね」
「ラーメンのその魅力をですね」
「麻薬ではそんなことはとてもだよ」
「果ては破滅ですしね」
「確かにラーメンも食べ過ぎはよくないよ」
 このことはどの食べものです、食べ過ぎるとです。
「それでもだよ」
「ラーメンは麻薬よりもずっといいですね」
「僕もそう思うよ、それじゃあね」 
 ここで一杯食べ終えた先生はです、さらに。
 お店の人にです、注文しました。
「もう一杯下さい」
「はい、わかりました」
「これならもう一杯」
 是非にというのでした。
「そして三杯、四杯と」
「先生の食欲がまた発揮ですね」
「そうなったね」
「神戸に帰って体重測ったら」
「凄いことになりそうだね」
 笑いながらお話をした先生でした、ラーメンについても。
 そしてラーメンの後でまた湖を回ろうとしたら。
 急にです、先生達の前にでした。一人の年老いたアイヌのアットゥシを着た女の人がやって来ました。
 その人は先生を見てです、こう言いました。
「あの」
「はい、何か」
「貴方は動物達と一緒にいますね」
「それが何か」
「動物の言葉がおわかりですか」
「はい」
 その通りと答えた先生でした。
「教えてもらいまして」
「そうですか、それなら」
「それならとは」
「お話を聞いて欲しいことがありまして」
「お話?」
「はい、そうです」
 その通りという返事でした。
「貴方が動物の言葉がわかるとわかったうえで」
「と、いいますと」
「実はです」
 ここでアイヌのお婆さんはこうも言いました。
「私はアイヌの者で名前はシホレといいます」
「シホレさんですか」
「はい、この近くの村に住んでいるのですが」
「そうなのですか」
「はい、私も動物の言葉がわかります」
「それは自然と親しんでいるからですか」
「最近こうした人は減っていますが」
 シホレさんはこのことは残念そうに言うのでした。
「私達は自然と共に生まれ育ってきたので」
「だからですね」
「はい、動物の言葉もわかり自然の流れを感じ取れます」
 そうだというのです。
「それでこの辺りの動物達とも話が出来て世話もしているのですが」
「それで、ですか」
「実は一つ困ったことが出来まして」
「それは一体」
「私の知り合いに熊もいるのですが」
「熊、羆ですね」
「はい」
 その通りという返事でした。
「名前をウルといいますが」
「その羆さんがですか」
「非常に大きな身体でして」
「あまりにも大きいと」
 先生はそのことを聞いてすぐに言いました。
「冬眠も難しくなりますね」
「はい、そのことです」
「そうですか、やっぱり」
「実はウルは毎年冬眠に苦労していました」
 そうだったというのです。
「それで毎年洞穴を私と一緒に探していましたが」
「その洞穴がですか」
「遂に入られる穴がなくなりました」
「それは大変ですね」
 先生もお話を聞いて神妙なお顔になりました。
「何とかしないと」
「夏のうちに一緒に冬眠出来そうな洞穴を探していましたが」
「それが遂になくなったのですか」
「それで困っていまして」
「では」
「はい、お力を借りたいのです」
 是非にという言葉でした。
「貴方が動物の言葉がわかるのなら」
「彼の話を聞いてですね」
「私と一緒に考えて下さるとです」
「そうですか、では」
「はい、今からです」
 それこそというのです。
「ウルのところに来てくれますか」
「わかりました」
 先生は穏やかな笑顔でシホレさんの言葉に頷きました。
「それでは」
「有り難うございます、ではこちらに」
「はい、それでなのですが」
「それでとは」
「シホレさんはこの辺りの村に住んでおられるのですね」
「そうですが」
 シホレさんは先生の質問にすぐに答えました。
「生まれた時から」
「では屈斜路湖のことも」
「ずっと見てきています」
「ではクッシーのことも」
「私も見たことがありますが」
「ではやはり」
「あれは鮭ではないでしょうか」
 シホレさんこう先生に答えました。
「そう思いますが」
「鮭ですか、そういえば」
 ここで先生も思い出したことありました、それは何かといいますと。
「アイヌの伝承に大きな鮭のお話もありますね」
「今の尺で百メートル程の」
「神様の様な鮭ですね」
「それで全身が輝いていてです」
 そしてというのです。
「姿を現せば水面がお日様の様に輝く」
「そうした伝承もありましたね」
「アイヌ民族の古い伝承です」
「だからですか」
「私は鮭だと思いました」
 とても大きなです。
「そう思ったのですが」
「そうですか」
「水面を泳ぐ巨大な影を見まして」
「そういえば」
 先生がまた思い出したことはといいますと。
「本州にもタキタロウのお話がありますね」
「ああ、先生前に言ってたね」
「秋田県だった?」
「ある湖にいる」
「大きなお魚だね」
「うん、大きさは色々言われているけれど」
 先生は皆にもお話します。
「剥製もあって実在は確かだけれど」
「それでもなんだ」
「滅多になんだね」
「見られないんだね」
「そうなんだ、幻の魚って言われているんだ」
 そのタキタロウはというのです。
「だからね」
「鮭もだね」
「有り得るんだね」
「クッシーさんの正体は大きな鮭」
「その可能性もあるんだ」
「あの湖は生きものが少ないですが」
 シホレさんもそのお話をします、生まれた頃からこの辺りに住んでいるのでよく知っているのです。
「それでもです」
「鮭はですか」
「いますので」
「だから大きな鮭ですか」
「私はそう思いました」
「そうですか」
「はい」
 こう先生にも答えるのでした。
「そうだとです」
「そうですか」
「恐竜と思いもしましたが」
 それでもというのです。
「私はそちらだと思いました」
「鮭だとね」
「確かに恐竜よりも有り得るね」
「そうだよね」 
 動物の皆も言います。
「ここ寒いしね」
「恐竜だと辛いかな」
「恐竜は爬虫類だしね」
「多分だけれどね」
「それじゃあね」
「冬なんかここにいたら」
 その場合を考えるとでした。
「ないね」
「どうもね」
「それはね」
「ないかな」
「ネス湖も寒いね」
 先生もまた言いました。
「そうだね」
「そうそう、スコットランドはね」
「イングランドよりも北にあるし」
「山も多いし」
「そう考えたらね」
「ネス湖もいないかな」
 そのネッシーはというのです。
「寒い場所に恐竜がいるか」
「そう思うとね」
「やっぱりね」
「いないかな」
「だから恐竜よりも」
 先生も腕を組んで考えるお顔で言いました。
「昔鯨とかアザラシとかね」
「そうした生きものの方がだね」
「有り得るんだ」
「蛸とかにしても」
「まだなんだ」
「恐竜がいた時代は地球全体が暖かったんだ」
 実はそうだったのです。
「ジュラ紀や白亜紀はね」
「そうだったんだね」
「だから恐竜も元気に生きられた」
「そうだったんだね」
「爬虫類はどうしても寒い場所が苦手なんだ」 
 それが何故かもお話した先生でした。
「恒温動物はね」
「ああ、体温を調整出来ないから」
「自分の身体で」
「それで寒い場所での活動は苦手なんだよね」
「爬虫類や両生類は」
「そうだよ、鳥類や哺乳類は変温動物でね」
 先生は自分達のお話もしました。
「自分の身体で体温を調整出来るけれど」
「恐竜さんだと出来ないんだ」
「爬虫類だから」
「この辺り違うんじゃないかって説もあるけれどね」 
 その爬虫類はというのです。
「恐竜も変温動物だったんじゃないかってね」
「そうした説もあるんだ」
「何かその辺り諸説あるんだね」
「学者さんの言うことって同じ生きものについても色々だけれど」
「あれこれ説が出るけれど」
「そうなんだ、そうした説もあるよ」
 恐竜は実は変温動物だったのではないかというのです。先生がお話するにはそうした説もあるというのです。
「けれど基本的にね」
「恐竜も爬虫類だから」
「やっぱり寒いのは苦手で」
「この湖にいるかっていうと」
「疑問なんだ」
「この湖の性質もあるし」
 お水が酸性であり生きものの住みにくい湖だということもというのです。
「恐竜かな、クッシーは」
「じゃあ鮭の方が?」
「シホレさんの言う様に」
「そっちの方がなんだ」
「有り得るんだ」
「そうだろうね、アイヌの伝承であったし」
 大きな鮭のそれがです。
「有り得るかな」
「鱒や他のお魚というお話もありますね」
 そのシホレさんも言ってきました。
「中には」
「そうですね」
「本土にもそうしたお話があります」
「あります、熊のお話もです」
 それもでした。
「ありますよ」
「そうなんですね」
「年老いた熊が妖怪になったりとか」
 先生はシホレさんにそうしたお話もしました。
「そんなお話もあります」
「熊が妖怪にですか」
「鬼熊といいまして馬や牛を襲う様になります」
「そうしたお話ならアイヌにもあります」
「実際にもですね」
「この北海道では」
「あの事件ですね」
 先生は緊張したお顔になってシホレさんに尋ねました。
「苫前の」
「あの事件は私達も聞いています」
「北海道では知らない人はいないとか」
「大和の人も私達もです」 
 アイヌの人達もというのです。
「聞いています、私も子供の時に聞きました」
「あっ、言ってたね先生」
 チーチーが気付きました。
「昔そんなことがあったって」
「うん、羆が村を襲ってね」
 トートーはチーチーに応えました。
「何人も死んだって」
「熊一匹でなんだね」 
 老馬も驚きを隠せません。
「何人も殺されるなんだ」
「普通ないわよね」
 ガブガブもそれはちょっと、と言うのでした。
「そこまで酷い事件は」
「ジェヴォダンの野獣も数年かかってだったから」
 こう言ったのはホワイティでした。
「一日とかそんなのでそこまで犠牲になるのはないよね」
「ううん、相当怖い羆だったんだね」
 ジップも怖いものを感じています。
「あらためて思うと」
「というかそんな熊実際に今いたら」
 ポリネシアが言うにはです。
「すぐに退治されるわよね」
「仕方ないね」
「そうしないとね」
 チープサイドの家族もそれは仕方ないと言います。
「沢山の人が死ぬから」
「それもね」
「それって本当に鬼熊だよ」
 ダブダブは先生が言ったその妖怪のことをお話に出しました。
「というかもっと怖いよ」
「羆は大きいっていうけれど」
「ツキノワグマさんよりもね」
 オシツオサレツも言うことでした。
「そこまで凶暴だとね」
「銃がないとどうにもならないね」
「その村では銃がなかったので」 
 だからと言ったシホレさんでした。
「どうしようもなかったそうです」
「肝心の銃がなんだ」
「なくてなんだ」
「そこまでのことになったんだ」
「犠牲者は七人、八人とも言われています」
「一匹で八人」
「そこまでなんだ」
「それはまた凄いね」
「無茶苦茶な話だね」
 動物の皆も驚愕することでした。
「それはまた」
「かなり怖いね」
「無茶苦茶じゃない」
「一匹の羆に八人もって」
「確か一九一五年のことだったね」
 先生は西暦から言いました。
「この事件はね」
「あれっ、百年位前のことなんだ」
「十九世紀のことかって思ってたら」
「案外近いね」
「そうだね」
「その頃はまだ北海道もね」
 この地域自体がというのです。
「そんな感じだったんだ」
「怖い羆もいて」
「それでなんだ」
「人も襲われていた」
「そうだったんだね」
「うん、移住した人達の開拓村もね」
 それもというのです。
「粗末なもので家も小さくてね」
「熊も防げなかった」
「そうだったんだ」
「僕達が今住んでいるお家はお屋敷だよ」
 神戸で先生達が住んでいるそのお家はというのです。
「立派なね」
「うん、確かにね」
「立派な日本のお屋敷だよね」
「奇麗な和風のね」
「頑丈でいいお屋敷だよね」
「その頃の開拓村のお家はね」
 それこそというのです。
「小さくて台風が来たら吹き飛ぶ様なものだったんだ」
「じゃあ寒かっただろうね」
「北海道でそんなお家だとね」
「そうだろうね」
「勿論だよ、皆凍えていたんだよ」
 それこそというのです。
「冬にはね、そしてその冬になんだ」
「その羆が来て」
「そんなことになった」
「そうなんだね」
「大抵の羆は冬眠します」
 シホレさんもそのことは確かだとお話します。
「ですが」
「それでもだね」
「あまりにも身体が大きくて」
「入られる穴がなくて」
「それでなんだ」
「そんなことになったんだ」
「羆は怖いよ」
 それこそというのです、先生も。
「冬眠出来なかった場合は特にね」
「そうした羆にならない為にも」
 シホレさんのお言葉はかなり切実です。
「ウルにはです」
「はい、冬眠出来る穴をですね」
「用意したいのです」
「冬は食べるものもないですし」
「余計に心配になります」
 このことまで考えているシホレさんです。
「ですから先生にお願いしています」
「わかっています、では参りましょう」
「お願いします」
「それで先生」
 ここで言って来たのは王子でした。
「一つ気になることがあるんだけれど」
「何かな」
「いや、僕達今こうして北海道の山の中にいるよね」
「うん、こうしてね」
「木とか草が本州と少し違うね」
「うん、同じ日本でもね」
 それでもというのです。
「やっぱり違うんだ」
「北海道は」
「北海道は生物学、植物学では日本でもね」
 それでもというのです。
「少し違う面白い場所なんだ」
「確かにそうだよね」
「日本自体が生物学的に面白い国だけれど」
「北海道はその中でもだね」
「面白いよ」
「似ているけれど」
 それでもというのです。
「少し違う、そこがいいんだよ」
「先生的にも興味深いんだね」
「北海道はね」
「食べもの的にもだね」
「ははは、そうだね」
 先生は食べもののお話には笑って乗りました。
「もう最高だね」
「本当に太りそうだね」
「全くだよ」
「そういえば先生は」
 シホレさんも先生を見て言いました。
「随分と立派なお身体ですね」
「そうですか」
「背が高くて恰幅がもあって」
「太ってはいますね」
「適度な感じかと」
 その太り方がというのです。
「ですからいいかと」
「だといいですが」
「お人柄もいいですし礼儀正しい方ですから」
 シホレさんはもう先生のそうした性格を見ています。
「女の人にももてますね」
「いえ、それは全然です」
 それはとです、すぐに笑って返した先生でした。
「ないですよ」
「そうですか?」
「はい、女性にもてたことは一度もないです」
「そうは思えないですが」
「先生がそう思ってるだけなんだ」
 動物の皆がシホレさんに囁きました。
「これがね」
「あら、そうなの」
「そうだよ、もう先生はね」
「確かにこんないい人いないけれど」
「それでもね」
「全然なんだ」
「自分では気付かないんだ」
「何があってもね」
 皆はシホレさんに先生のこのことをお話するのでした。
「僕達が見る限り普通に先生もててるよ」
「だってこんないい人いないから」
「人柄でもてるんだ」
「今もそうだけれど」
「先生を好きな人いるんだ」
「けれどなんだ」
 そうした人がいてくれてもなのです。
「先生自身はね」
「もう全然なんだ」
「もてないと思ってるんだよ」
「困ったことに」
「そういえば」
 シホレさんは先生の温和なにこにことしたお顔の相を横から見ました、そのうえであらためて言いました。
「そうした感じよね」
「うん、わかるでしょシホレさんも」
「先生と恋愛は無縁なんだ」
「先生が気付かないからね」
「相手の人がともかくとして」
「そうみたいね、けれどこの相は」
 シホレさんは先生のお顔をさらに見て動物の皆に囁きました。
「とてもいいから」
「じゃあ何時かはなんだ」
「先生もなんだ」
「幸せになれるんだ」
「そうしたお相手も出来るんだ」
「そうなるわ」
 シホレさんは先生のお顔の相を見つつ言うのでした。
「こんないい相の人はいないから」
「そうなんだね」
「じゃあその時を楽しみにしておくよ」
「先生の結婚式」
「僕達も参列したいね」
「そうしてね、本当にね」
 それこそとです、また言ったシホレさんでした。
「この人は幸せになれるわ」
「今で充分幸せとも言ってるけれどね」
「先生って欲ないから」
「とにかく無欲な人なんだ」
「お金にも地位にも興味がなくて」
「執着もないのよ」
 そうしたもの全てがというのです。
「これといってね」
「昔から」
「無欲なのはいいことよ」
 シホレさんもそのことは美徳と答えます。
「欲はあまりにも強いと災いになるから」
「そうそう、そうした人いるよね」
「物凄く欲張りな人」
「そうした人と比べたら」
「先生はずっといいよね」
「ええ、ただあまりにも無欲だと」
 その場合はといいますと。
「自分が知らないうちに損もするわよ」
「それそのまま先生なんだよね」
「先生の無欲さは極端だから」
「本当にこれといって執着しないで」
「お金も立場もね」
「昔から食べられればいいって人で」
「しかも世事には本当に疎くて」
 それこそご自身では何も出来ないのが先生です、家事やそうしたことはスポーツと同じだけ苦手なのです。
「僕達がいてね」
「やっとどうにかなる」
「そんな人でね」
「恋愛についても」
「そして他のこともなんだよね」
「その損を損と思わないのも無欲だから」
 シホレさんのお言葉はかなり広くて大きいものを見ているものでした。
「いいのだけれど」
「それで幸せに気付かないのはね」
「私達も心配なのよ」
「先生には幸せになって欲しいから」
「是非ね」
「このことがどうなるのか」
 シホレさんが言うには。
「これから次第ね」
「先生は自分では気付かないから」
「僕達がどうするか」
「そういうことかな」
「いえ、それはね」
 どうかと返したシホレさんでした。
「皆よりもよ」
「僕達よりも?」
「っていうと?」
「トミーや王子かな」
「それかサラさんか」
「神様のお導きだね」  
 これが第一とです、シホレさんは言うのでした。
「何といっても」
「ああ、縁結びのね」
「恋愛の神様だね」
「日本にはそうした神様も多いし」
「それならだね」
「アイヌにもそうしたお話はあるから」
 だからとです、シホレさんはここでも皆に囁きました。
「私からもお祈りしておくわね」
「うん、お願いね」
「シホレさんからも宜しくね」
「先生が幸せになれます様に」
「そちらでもね」
「そうするわね、若し私も亭主がいなかったら」
 こんなことも言うシホレさんでした、冗談交じりに。
「そしてあと四十幾つは若かったら」
「先生にだね」
「声をかけてたんだね」
「こんないい人はいなくてしかも」
 先生についてさらに言うのでした。
「この人は周りも幸せにする人だから」
「そうなんだ、僕達もね」
「先生といつも一緒にいて幸せだよ」
「何か先生と一緒にいるとね」
「それだけで幸せになれるんだ」
「不思議な位ね」
「この人は幸せを自分の中で生み出して」
 そしてというのです。
「周りに与えてくれる人よ」
「まさに福の神なんだね」
「日本で言うと」
「本当にそこまでの人なんだね」
「周りを幸せにするまでの」
「とても福々しい気を一杯出していて」
 そしてというのです。
「それを皆に与えてる人ね」
「素晴らしいね」
「そんな人なんだね」
「じゃあね」
「僕達もこれからもね」
「先生と一緒にいて」
「幸せになれるのね」
 動物の皆もそのことを教えてもらって笑顔になるのでした。そのうえで彼等の中で楽しくお話をするのでした。
「じゃあきっと日笠さんも」
「先生と一緒になれば」
「幸せになれる」
「そうなるんだね」
 日笠さんのこともお話するのでした。
「けれどこれはね」
「神様がしてくれることで」
「僕達がどうかしても」
「その力は限られている」
「神様なんだね」
「神様のお力だね」
 このことも思うのでした。
「じゃあ是非共ね」
「神様には助けてもらわないと」
「そして先生を幸せに」
「是非共」
「お願いしましょう」
 神社や教会にお参りしてです。
 そうしたお話を動物の皆がしているとです、ふとです。
 ここでトミーは先生にです、こうしたことを言いました。
「山の中を見回していますと」
「うん、穴はね」
「これといってですね」
「ないね」 
 こう言ったのでした、先生も。
「いい穴が」
「はい、穴自体が少なくて」
「これではね」
「冬眠は」
「難しいね」
「はい」
「ツキノワグマならいけるけれど」
 本州や四国にいるこの熊ならというのです。
「羆はね」
「身体が大きい分」
「それも難しいね」
「そうですよね」
「本当にツキノワグマは小さいんだ」
「熊としてはですね」
「相当にね、けれどやっぱり熊だから」
 このことは言い加える先生でした。
「近寄る際は気をつけないといけないよ」
「そのことはですね」
「羆と違って犠牲になった話は聞かないけれど」
 それでもというのです。
「大怪我をした話はあるからね」
「何十針も縫った人いますよね」
「だからツキノワグマでも気をつけないといけないんだ」
「熊は熊ですね」
「そう、大怪我をしたら元も子もないからね」
「そういうことですね」
「羆だと余計にだよ」
 あらためて言う先生でした。
「気をつけないといけないんだ」
「近寄る際はですね」
「そうなんだ、それでだけれど」
「穴はですね」
「ないね」
 このことをまた言った先生でした。
「それだけの穴が」
「羆の入れそうな穴が」
「本当にないね」
「ましてやかなり大きいそうですから」
「はい、ウルはです」
 シホレさんも先生達に応えてきました。
「本当に大きな熊で」
「普通の羆よりもですね」
「大きいです」
 こうトミーにも答えるのでした。
「倍はあります」
「普通の羆のですか」
「そうなると」
 先生もそれだけ大きいと聞いて言いました。
「羆嵐位にですか」
「はい、本当に」
「ではそれだけ大きいとなりますと」
「冬眠の穴に困りまして」
「そうですね、あまり穴が多くない山ですし」
「これまでは何とかなっていました」
 シホレさんはこれまでの事情もお話しました。
「ただ。その穴が今年は塞がってしまいまして」
「それはどうしてですか?」
「梅雨の雨で小さな土砂崩れでしたが」
「その土砂崩れで、ですか」
「穴が塞がってしまいまして」 
 そのせいでというのです。
「そのたった一つの冬眠出来る穴もなくなってしまいました」
「わかりました」
 その辺りの事情もと答えた先生でした。
「そういうことですか」
「はい、それで先生と皆さんをお見掛けしてです」
「声をかけて下さったのですね」
「そうです」
「それではですね」
「これからウルのところに案内しますので」
「お願いします」
「もう少し進めばです」 
 山の中をというのです。
「おいで下さい」
「それでは」
「こちらです」 
 シホレさんは皆を山の中にと案内していきます、そしてでした。
 先生達は次第に山の奥にと入っていきました、そのとても大きな羆が待っている山の奥に奥にとです。



残念ながら、クッシーは見れなかったようだな。
美姫 「先生が居るから出てくるかもと思ったけれどね」
謎は謎のままに。
美姫 「今回は本人も言っているけれど」
珍しく平穏だな。
美姫 「先生たちも何もないって驚いてるぐらいだしね」
次回がどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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