『ドリトル先生の名監督』




               第一幕  相変わらずのサラ

 サラはこの時日本に来ていました、そのうえでお兄さんに対して眉を顰めさせてお説教みたいに言うのでした。
「兄さんもそろそろね」
「またその話かい?」
「何十回でも言うわよ」
 先生のお家でお茶を飲みつつ言うのでした。
「結婚よ」
「そうした頃だっていうんだね」
「そう、折角教授になって」
 そしてというのです。
「こうした立派なお家だって手に入ったから」
「仕事に収入、そしてお家」
「もうよ」
「結婚していい頃なんだね」
「というかね」
 それこそというのです。
「兄さん一生独身のつもり?」
「そう言われると」
「そのつもりはないでしょ」
「まあ僕もね」
 あまりはっきりしていない返事です。
「結婚はね」
「する気あるでしょ」
「そうだよ」
「それならよ」
「僕も結婚をなんだ」
「いい人いないの?」
「いないよ」
 このことははっきりとした返事でした。
「僕には」
「本当に?」
「うん、いないよ」
 先生はこう思っていますが。
 周りの動物達はです、そんな先生にやれやれといったお顔です。
 ですがその皆に気付かないままです、先生はサラに言うのです。
「残念ながらね」
「いても気付いていないんじゃないの?」 
 サラはそのものずばりという返事でした。
「兄さんのことだから」
「そう言うんだ」
「だって兄さん恋愛とか全く駄目だから」 
 このことをよく知っているサラです、伊達に妹ではありません。
「気付いていないだけじゃないの?」
「そんなことはないよ」
「どうだか、お見合いとかは」
「ううん、そうした話はね」
「来ないのね」
「うん、僕にはね」
「日本ならね」
 サラは今自分達がいるこの国のこともお話します。
「奇麗な人も多いし」
「だからっていうんだね」
「そう、兄さんみたいな人だと」
 それこそというのです。
「いい人が奥さんになってくれるわよ」
「スポーツは全然駄目で太っていてこの顔でもかい?」
「あのね、人は顔じゃないの」 
 それこそというのです。
「性格よ」
「性格なんだね」
「そうよ、それこそね」
 何といってもというのです。
「兄さん温厚で公平な紳士だから」
「それでなんだ」
「そう、普通によ」
「そうかな」
「そう、だからね」 
 先生の様な人にはというのです。
「兄さんには相手がいるわよ」
「昔からもてたことはないよ」
「何言ってるのよ、兄さん女の人にも人気あるわよ」
「そうなのかな」
「だから人柄でね」 
 そのことが見られてというのです。
「見ている人は見ているから」
「こんな野暮ったい人間もてないよ」
「だから人は顔じゃないの」 
 外見ではないというのです。
「何度でも言うわよ」
「今はじめて知ったよ」
「自分が女の人にも人気があるって」
「そうよ、あるのよ」
「それは初耳だよ」
「外見でもお金でもないの」
 ここでこうも言ったサラでした。
「そんなのが好きな女の人はまともな人じゃないから」
「悪い人だっていうんだね」
「そんな人はどうでもいいのよ」 
「じゃあ大事なのは」
「そう、いい人と結婚することよ」
「いい心の女の人とだね」
「ほら、日笠さんとか」
 かなり具体的に言ったサラでした。
「いいでしょ」
「いやいや、日笠さんは僕に興味ないよ」
「本当に?」
「絶対にね」
 自分ではこう思っている先生です。
「本当にね」
「そうかしら。まあとにかくね」
「結婚だね」
「そう、結婚を考えるのよ」
 それこそというのです。
「冗談抜きでそれこそね」
「ううん、それじゃあ」
「ええ、あとね」
「あと?」
「いや、日本はやっぱり美味しいものは多いわね」
 今度はこう言ったサラでした。
「イギリスはね」
「ああ、僕達の祖国はね」
「そっちはどうしても駄目だから」
「うん、そうだよね」 
「しかもヘルシーで」
 健康的にもいいというのです。
「いいわね」
「お陰で毎日美味しいものを食べてるよ」
「羨ましいわね」
「このお茶もね」 
 それもとです、サラは玄米茶を飲みつつ言うのでした・
「美味しいわね」
「そうそう、お菓子もね」
「お団子、お饅頭、ういろう」
 本日の三段セットはこうしたものです。
「違うわね」
「こっちも美味しいよね」
「ビスケットにしても」
 イギリスのものですが。
「こっちのビスケットの方が美味しいわね」
「ははは、イギリスは本当に美味しいものがないのかな」
「少なくとも日本には負けているわね」
「ビーフシチューにしてもだね」
「シチューもね」 
 サラ箱のお料理のこともお話しました。
「あれもね」
「日本のシチューの方が美味しいね」
「うん、和風シチューもね」
「お味噌汁?」
「いや、肉じゃがだよ」
「ああ、あのお料理ね」
「食材は一緒なんだよ」
 シチューと、です。
「お肉にジャガイモだからね」
「それで味付けは日本ね」
「そうなったんだよ」
「ビーフシチューが肉じゃがになるなんて」
「不思議だよね」
「全くよ、ただ本当にお料理も美味しい国ね」
 日本もというのです。
「兄さんそちらでも恵まれているわよ」
「うん、幸せ者だよ僕は」
「じゃあもっと幸せになる為に」
「そう、結婚もよ」
 それもというのです。
「わかったわね」
「それじゃあ」
「そう、絶対にいい人が近くにいるから」
 もう確信しているサラです。
「その人と一緒になるのよ」
「何か今回特に言うね」
「いつも気にしてるからよ」
 だからというのです。
「いいわね、それとだけれど」
「それと?」
「兄さんお相撲は観るのかしら」
「うん、観るよ」
 実際にとです、先生は妹さんに答えました。
「観るだけだけれど」
「そうなの」
「しないけれどね」
「まあ兄さん昔からスポオーツはしないわね」
「全然ね」
 こちらはです、先生は全く縁がありません。
 それで、です。こう言ったのです。
「スポーツは観るだけだよ」
「しないわね」
「うん、全然ね」 
 それこそというのです。
「そのことはサラも知ってるよね」
「このことはしろとは言わないわよ」 
 スポーツについてはです。
「だってしなくても構わないし」
「人それぞれだよね」
「確かに身体を動かした方がいいけれど」
「うん、人の身体はね」
「けれど無理してはね」
「散歩位はしてるから」
 あと乗馬です、いつも老馬に乗って登下校をしています。
「別にね」
「それはだね」
「そう、別にね」
「サッカーにラグビーも観るし」
 イギリスのスポーツもです。
「野球もね」
「最近よく甲子園行くのよね」
「そうなんだ」
 実際にというのです。
「中々楽しいスポーツだよ」
「観戦をするのも」
「かなりね」
「そうなのね」
「まあ相撲もね」 
 このスポーツもというのです。
「格闘技だね」
「そうね、スポーツというよりはね」
「お相撲は格闘技だよ、それにね」
「それに?」
「神事だね」 
 それでもあるというのです。
「お相撲はそれでもあるんだ」
「ああ、そういえば髷をしていて」
「土俵もだね」
「日本の神道の感じよね」
「そう、お相撲は神事でもあるんだ」
「ただの格闘技じゃないのね」
「もう一つの意味があって」
 まさにそれがというのです。
「神事なんだ」
「成程ね」
「うん、このことは覚えておいてね」
「わかったわ、神道にも通じているのね」
「そういうものでもあるんだ」
「そのこと面白いわね」 
 サラは先生の説明を聞いてです、腕を組んで考えるお顔になりました。食事をするその手も止めたうえで。
「お相撲は格闘技であるだけじゃない」
「そういうことなんだよ」
「成程ね、あとちゃんこは」
「あのお鍋だね」
「具は何なの?一体」
「具?決まっていないよ」
「決まっていないって?」
 サラは先生のお言葉に首を傾げるお顔になりました。
 そしてです、先生にこう尋ねたのでした。
「どういうことなの、それって」
「お相撲をする人、つまり力士さんが食べるものは」
「それはなの」
「全部ちゃんこなんだよ」
「あのお鍋だけじゃなくて」
「そう、力士さんが食べるものはね」
 先生はお茶を飲みつつサラにお話します。
「全てちゃんこと呼ぶんだ」
「そうなのね」
「だからあのお鍋もね」
「ちゃんこなのね」
「あれは力士さんの身体を大きくする為のお鍋なんだ」
 言うまでもなく力士さんは物凄く大きな身体をしています、その身体を作る為のお鍋だというのです。栄養をたっぷりと摂って。
「その時で入っている具は違うんだ」
「そうなの」
「作る人によってもね」
「じゃあお魚が入っていたり」
「お肉の場合もあるし」
「お野菜もなのね」
「うん、そのお鍋それぞれだよ」
 こうサラにお話します。
「まさにね」
「違うのね」
「そうなんだよ」
「そのことがわかったわ」
「鶏肉や河豚のものもあるしね」
「あら、河豚もなの」
「うん、そうしたちゃんこ鍋もあるよ」
 実際にというのです。
「これがまた美味しいんだ」
「河豚は美味しいわね」
「そう、あのお魚は美味しいよ」
「あんな美味しいお魚はね」
 それこそとです、サラも河豚について言います。
「そうそうないわ」
「イギリスにはないね」
「全然ないわ」
 それこそという返事です。
「鱈とか鮭はあってもね」
「河豚はないわね」
「河豚は毒があるけれど」
「だからちゃんと調理出来る免許が必要になっているんだ」
「それを持っていないと調理出来ないのよね」
「お店は開けないよ」
 そして河豚の調理師にはなれません。
「河豚についてはね」
「そこは厳しいのね」
「毒があるのは確かだからね」
「そうよね、けれど」
「そう、美味しいね」
 先生も河豚についてはこう言います。
「白身でね」
「そうね」
「その河豚もちゃんこになるんだ」
「そうなのね」
「そう、何でもね」
「力士さんが食べるものはちゃんこで」
「ちゃんこ鍋になるんだ」 
 お鍋ならというのです。
「何でもね」
「そう、あとね」
「あと?」
「河豚を食べたいのなら大阪に行くといいよ」
 サラに河豚の美味しい場所もお話します。
「あと山口とかね」
「山口も河豚が美味しいのね」
「そう、大阪は河豚の美味しいお店が結構あって」
「山口にもなの」
「そして名物にもなっているから」
 山口ではというのです。
「いいんだ」
「そうなのね」
「山口の下関という街に行くといいよ」
「大阪か下関ね」
「福岡にもいいお店が結構あるらしいよ」 
 こちらにもというのです。
「だからね」
「ええ、じゃあちょっと主人と一緒に行ってみるわ」
「どっちに行くのかな、それで」
「大阪にするわ」
 こちらの街にというのです。
「近いから」
「この神戸のお隣だしね」
「ええ、それに関西新空港でイギリスに帰るから」
「丁度大阪に行くね」
「だからね」
「大阪だね」
「そこのお店に行くわ」 
 サラはにこりと笑って先生に言いました。
「いいお店知ってるかしら」
「づぼら屋かな」
「づぼら屋ね」
「河豚料理なら何でも食べられるから」
「そうなのね、じゃあね」
「行って来るんだね」
「そうするわね」 
 お兄さんに笑顔で答えるのでした。
「是非ね」
「うん、楽しみにしておいてね」
「そうさせてもらうわね」
「それじゃあね」
「全く、河豚みたいな美味しいお魚は」
 それこそという口調での言葉でした。
「そうそうないわ」
「僕も最初食べて驚いたよ」
「不格好なお魚だけれど」
「美味しいのよね」
「これがね」
 実にというのです、先生も。
「僕も大好きだよ」
「兄さんと同じね、太っていても」
「中身はというのね」
「そう、いいから」
「ううん、僕は河豚なのかな」
「お魚で例えたらね」
 そうなるというのです。
「中身は凄くいいから」
「だといいけれどね」
「じゃあ今日はこれで帰るから」
 ここまでお話してというのです。
「それじゃあね」
「うん、またね」
「行きましょう」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、二人で。
 サラはご主人と合流して大阪に行くのでした、帰るついでに。
 そしてそのうえで、です。妹さんを見送った先生に動物の皆が言うのでした。
「まあね、サラさんもね」
「必死だよね」
「先生のことだしね」
「他ならぬお兄さんのね」
「だからね」
「けれどね」 
 やれやれといった口調での言葉でした。
「先生はねえ」
「本当にこうしたことはね」
「全く駄目だから」
「縁があっても気付かない」
「そうした人なんだよね」
「身近にそうした人がいても」
「だから僕はね」 
 先生は動物の皆にも言います。
「全然もてないんだよ」
「だから人気があるって聞いてもなんだね」
「サラさんから」
「それは信じてないんだ」
「そうなんだね」
「自分のことはわかっているつもりだよ」
 先生なりにです。
「僕は運動は全然駄目でね」
「女の人にはもてない」
「そう思ってるんだね」
「そうだよ、僕はスポーツと恋愛には縁がないんだよ」
 それも全くというのです、先生はご自身のことをあくまでそうした人間だと考えていてそのことに何の疑いも持っていません。
「そんなにね」
「やれやれだね」
「こんなのじゃ本当に結婚出来ないよ」
「神様も困るよ」
「折角先生の縁結びも考えているだろうに」
「神様ね」
 先生もちゃんと信仰心があります、イギリス国教会というプロテスタントの一派を信仰しているのはイギリス人らしいです。
「大切な存在だよ」
「じゃあちゃんとだよ」
「神様にもお願いしよう」
「結婚させて下さい」
「そうね」
「うん、わかってるけれど」
 それでもという返事でした。
「僕はそうしたお話はね」
「だから諦めないの」
 ガブガブがびしっと先生に言いました。
「そこでね」
「そうそう、諦めたら終わりだよ」
 トートーも今日は厳しい感じです。
「何もかもがね」
「全く以てそうよ」
 ポリネシアもいつもより厳しいです。
「先生の悪いところよ」
「全然縁がないって諦めるとか」
 チーチーも首を傾げさせています。
「そこから進まないじゃない」
「誰だって幸せな家庭を築けるよ」
「それこそね」
 チープサイドの家族の言葉です。
「だから先生もね」
「結婚のことを考えていくべきよ」
「サラさんの言う通りだよ」
 ホワイティは完全にサラの味方です、このことについては。
「本当に」
「いや、そこはちゃんとしないと」
 それこそとです、老馬も言います。
「幸せな家庭も築かないとね」
「先生なら大丈夫だから」
 ジップは先生のお人柄に太鼓判を押します。
「絶対にいい家庭を築けるよ」
「いい奥さん来てくれてね」
「先生に相応しい」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「そうなるから」
「安心して一歩踏み出そうよ」
「そうだね、結婚相談所に行こうかな」
 先生は皆の厳しい励ましを受けてこうも考えました。
「ここは」
「はい、駄目」
「どうしてそうなるのかな」
「そこで結婚相談所って」
「サラさんが聞いてたら呆れてたよ」
 それこそ完全にというのです。
「全く、そこでそう言うから」
「先生はこうしたことは駄目なんだよ」
「だから身近だよ」
「身近の状況を見ればいいんだよ」
「ううん、だからそうした人がいないんだよ」 
 あくまで先生の見たところです。
「僕にはね」
「だからそんなことはないから」
「先生が思ってる様なのじゃないから」
「もっと周りを見るの」
「そうすればわかるから」
「だといいけれどね、まあ君達がそう言うのなら」
 先生はわかっていないながらも皆の心についてはわかったのでこう言いました。わかることはわかる先生なのです。
「結婚相談所に行くのは止めるよ」
「そうそう、是非ね」
「そういうことはしなくていいから」
「もっと身近を見る」
「そうすればわかるよ」
「それじゃあね、それとだけれど」
 ここでまた言った先生でした。
「さっきサラとお相撲のお話をしたけれど」
「ああ、お相撲ね」
「力士さんのこととかお話してたね」
「ちゃんこのこととか」
「色々お話していたね」
「うん、最近どうもね」
 首を傾げさせつつ言うのでした。
「八条大学の相撲部に怪我が多いね」
「身体がぶつかり合うから怪我多いんだね、お相撲って」
「ラグビーとかアメフトと一緒で」
「そうなんだね」
「いや、そのことを考えてもね」
 それでもというのです。
「怪我が多いね」
「ううん、そうなんだね」
「相撲部の怪我人が多いんだ」
「どうにも」
「よく治療をするからわかるんだ」
 医学部の教授であり大学の保健医の一人でもあるからです。
「怪我人が多いってね」
「相撲部の人にだね」
「どうにも」
「そうなんだね」
「うん、どうしたものかな」
 それがというのです。
「心配だね」
「怪我が多いってね」
「それだけで問題よね」
「スポーツチームも怪我が多いとね」
「それだけで弱くなるから」
「まずは怪我をしないこと」
 先生ははっきりと言いました。
「それが第一だよ」
「スポーツ選手はね」
「格闘技の選手にしても」
「それが大事だね」
「やっぱり」
「そう、本当に怪我をしたら」
 それこそというのです。
「幾ら練習をしても幾ら凄い選手でもね」
「それだけで駄目だから」
「回復しても影響出たりするし」
「まずは怪我をしない」
「それが大事だね」
「相撲部についてもね」
 こう言うのでした。
「怪我が少なかったらいいね」
「というか原因あるんじゃ」
「やっぱり怪我をするにはね」
「どうしても」
「だから怪我人も多いのかな」
「そうかもね、そこが気になるね」
 先生にしてもというのです。
「相撲部に何かあるのかな」
「そうかもね、やっぱり」
「おかしな人がコーチとかね」
「そうしたのがあるのかな」
「やっぱり」
「うん、ちょっと聞いてみようかな」
 相撲部についてというのです、そしてです。
 そうしたお話をした後で、です。先生は今書いている論文を自分のお部屋に入って完成させました。そして書き終わった時にです。
 トミーが帰ってきてお食事となりました、今日の晩御飯はといいますと。
「お鍋だね、今日は」
「はい、鶏肉が安かったんで」
 それでとです、トミーは先生ににこりと笑ってお話します。
「これにしました」
「鶏の水炊きだね」
「そうです」
 見れば鶏肉がお鍋の中に沢山入っていてです、葱や白菜、茸類にお豆腐に糸こんにゃくと他の具も沢山です。
「それにしました」
「いいね、お鍋は」
「冬が一番美味しいですけれど」
「何時食べてもいいんだよね」
「夏にも」
「暑い中で汗をかきながらね」
 これが夏のお鍋の食べ方です。
「それで食べるのがね」
「いいですね」
「それも夏の楽しみ方だね」
「その一つですね」
「日本に来てそのこともわかったよ」
 先生はにこりとして言うのでした、勿論皆も一緒に食べています。
「お鍋の楽しみ方もね」
「鍋料理も日本のお料理の一つですしね」
「そう、凄くいいよ」
「それで最後ですけれど」
「お鍋の締めだね」
「何にしますか?」
「雑炊かな」
 先生はお豆腐を自分のお椀に入れつつトミーに答えました。
「最後はね」
「雑炊にしますか」
「うん、それだと皆も食べられるし」
「それじゃあ」
「おうどんやお餅もいいけれど」
 それでもというのです。
「今日は雑炊にしよう」
「それじゃあ」
「うん、皆で食べようね」
 その雑炊をというのです。
「楽しもう、ただ」
「ただ?」
「いや、この水炊きも力士さんが食べるとね」
 そうすればというのです。
「やっぱりちゃんこになるね」
「そうだよね、それはね」
「力士さんが食べると何でもちゃんこになるなら」
「それならね」
「この水炊きもちゃんこになるね」
「立派なちゃんこ鍋だね」
「そうなるね」
 先生は動物の皆に応えます。
「やっぱり」
「うん、そうだね」
「やっぱりそうだよね」
「力士さん達が食べるのならね」
「水炊きもちゃんこ鍋だね」
「立派な」
「うん、そうなるね」
 また言う先生でした。
「若し僕が力士ならね」
「あはは、褌締めてね」
「土俵に立ってだね」
「そうなればね」
「本当に力士さんになるね」
「うん、まあ僕はお相撲はしないけれど」
 実際にはです、観ることはしますが。
「観ることはするね」
「じゃあ力士さんじゃないね」
「実際にしないからね」
「それじゃあだね」
「先生が食べてもちゃんこ鍋にはならないね」
「水炊きも」
 今実際に食べているお鍋もです。
「ちゃんこにはならないんだね」
「逆に力士さんが食べたら何でもちゃんこ」
「それになるんだね」
「ソフトクリームもピザも」
「それこそ何でもだね」
「そうなるね、そう思うと不思議だね」
 先生もしみじみとして言います。
「力士さん達が食べたら何でもちゃんこになるのは」
「そうだよね」
「これも日本だけのことだね」
「いや、お相撲なんだね」
「そうなんだね」
「うん、本当に面白いよ」
 また言った先生でした。
「このことは頭に入れておくよ、僕も」
「そうだね、じゃあね」
「皆で水炊き食べよう」
「それもお腹一杯ね」
「そうしよう」
 こうお話してでした、この夜は皆で鶏の水炊きを食べました。そして次の日先生は登校してまずは研究室に入りました。
 そしてです、研究室に入って来た学生さん達のぼやきを聞くのでした。そのぼやきはといいますと。
「いや、広島最近」
「そうだよね」
「どうも怪我人多いね」
「そこが気になるね」
 こうしたことを言うのです、今日来たのは広島東洋カープのファンの人達です。
「やっぱり練習のし過ぎかな」
「うちのチーム猛練習が看板だけれど」
「その練習が過ぎるのかな」
「身体を痛め付け過ぎてるのかな」
「練習は必要だけれど」
 それでもとです、先生も言います。皆に紅茶を出しながら。時間はまだ八時で講義がはじまるにはまだ時間があります。
「それもね」
「やっぱり過ぎたらですね」
「よくありませんよね」
「怪我の元ですね」
「そうなりますね」
「うん、僕も広島の話は聞いてるよ」
 その広島東洋カープのです。
「それでやっぱりね」
「練習し過ぎですか」
「身体がそのせいで疲れてて」
「怪我につながってしまう」
「そうなんですね」
「それはあるね、だから練習した分は」
 その分だけというのです。
「アフターケアをしっかりしないと」
「マッサージとかですね」
「身体をほぐすべきですね」
「広島の選手はそれがないんですね」
「練習をしても」
「うん、まあね」 
 こうも言った先生でした。
「巨人に選手を掠め取られることもね」
「巨人いつもやるんですよね」
「あそこそういうことしかしないですから」
「自分のところの選手を育てないで」
「金にものを言わせて」
「そうだね、あれはよくないね」
 先生は人間として言いました。
「巨人はお金にものを言わせてるけれど」
「広島の選手も狙いますし」
「実際何人も取られてるんですよ」
「本当に頭にきますよ」
「あのチームには」
「僕が見てもそう思うよ、ただね」
 ここで先生はまた言いました。
「最近巨人はお金がなくなってきたのかな」
「あっ、補強しなくなりましたね」
「優勝出来なかったらいつも喚いてやってたあれが」
「ここ数年ないですね」
「しなくなりましたね」
「最近マスコミ不況だけれど」
 新聞も雑誌も売れなくなったのです。
「そのせいかな」
「親会社が弱ってきてるからですか」
「巨人も補強しなくなった」
「そうなったんですね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「もう巨人が広島から選手を獲ることはなくなるかな」
「お金にものを言わせてるとですね」
「そのお金がなくなった時に終わる」
「補強と称してスポーツを穢すことも」
「それも終わるんですね」
「邪道は邪道っていうしね」
 先生ははっきりしたお顔で言いました。
「正道には勝てないよ」
「じゃあやっぱりあれですね」
「練習するのが一番ですね」
「そうした意味で広島は正しいんですね」
「猛練習は」
「そう、ただね」
 練習すればいいというのではないというのです。
「その後のケアもちゃんとしないとね」
「マッサージとかストレッチとかして」
「トレーナーも充実させる」
「そうしないと駄目ですね」
「ヤクルトも怪我人が多かったね」
 先生はこのチームのことにも言及しました。
「毎年主力選手が怪我していたね」
「はい、あのチームも」
「毎年でしたよね」
「怪我人ばかり出て」
「そうなっていましたね」
「そのせいで最下位にもなっていたね」
 主力選手が怪我で長期離脱をしてです。
「そうなっていたね、けれどね」
「その怪我が減ったら」
「ちゃんと戦えて」
「それで、でしたね」
「優勝出来る様になりましたね」
「強くなりました」
「そう、やっぱり怪我をしないことだよ」
 猛練習をしてもというのです。
「広島もね」
「ただ練習に明け暮れるだけじゃなくて」
「その後も大事なんですね」
「ちゃんとしたものをしっかりと食べて」
「アフターケアもですね」
「トレーナーも充実させて」
 そうしたスタッフの人達もというのです。
「怪我をしないことだね」
「何といっても」
「それが大事ですね」
「怪我をしない」
「第一にそれですね」
「そう思うよ、怪我をしなくなったら」
 先生はかなり親身にです、広島ファンの学生さん達にお話します。
「広島も強くなるよ」
「巨人を負かして」
「あのチームを最下位に叩き落としてですね」
「優勝出来るんですね」
「そうなれるよ、僕も巨人は間違ってると思うから」
 先生は正しいことを正しい、間違っていることを間違っていると考える人です。だから巨人を好きではないのです。
「あのチームが優勝し続けて人気があって持て囃されることはよくないと思ってるよ」
「そうですよ」
「何で巨人なんか応援するんでしょうね」
「あんな独裁者がオーナーしているチーム」
「間違っていますよ」
「日本はいい国だけれど」
 先生は今度は悲しいお顔になって言いました。
「マスコミはよくないからね」
「巨人もマスコミが親会社ですしね」
「本当に何処かの独裁国家みたいですね」
「オーナーが将軍様で」
「やりたい放題ですね」
「本質は同じだね」
 巨人と世襲制の共産主義という独裁国家はというのです。
「そしてそれに気付かないで持て囃す日本のそうした面はね」
「よくないですね」
「やっぱり間違っていますよね」
「巨人なんかが正義みたいな言い方は」
「よくないですね」
「絶対の正義、絶対の悪はないにしても」 
 それでもというのです。
「間違っている、子供の教育によくない存在はあるから」
「巨人はですね」
「間違っていますね」
「そして子供の教育にもよくない」
「そうしたチームですね」
「そう、ああしたチームはヒールなんだ」
 そうであるべきだというのです。
「プロレスで言うね」
「そのヒールがヒーローなのが日本なんですね」
「何か倫理観がおかしいのも当然ですね」
 日本のです、学生の皆も言います。
「戦後の日本の倫理観はおかしいって言いますけれど」
「巨人が正義と思われているところにもですね」
「それが出ているんですね」
「僕はそうも思ってるよ」
 実際にというのです。
「やっぱり間違っているね」
「その間違いがずっと続いてきましたけれど」
「ようやく終わるかも知れないですね」
「巨人は間違っている」
「悪いチームですね」
「うん、僕も巨人は好きじゃないからね」
 先生の正しい倫理観から見てです、巨人が好きになれる筈がないのです。子供の教育に悪いようなチームは。
「ああしたチームよりもね」
「先生は阪神ですよね」
「阪神ファンでしたね」
「この前も甲子園に行かれてましたし」
「阪神お好きですね」
「うん、好きだよ」
 実際にというのです。
「あのチームは独特の華があるからね」
「じゃあその阪神にです」
「広島戦いますから」
「負けませんよ」
「絶対に」
「ははは、じゃあ優勝を争うことになるね」
 先生は学生さん達の強い言葉に笑って返しました。
「阪神と広島で」
「正々堂々と」
「そうなりますね」
「今年は広島優勝ですよ」
「久しぶりに」
「うん、巨人が優勝することは日本にとってとても不幸なことだけれど」
 それでもというのです。
「阪神や広島が優勝するのはいいことだからね」
「それじゃあですね」
「猛練習の後でケアもちゃんとして」
「広島の怪我人を減らして」
「やっていきますか」
「それがいいね、怪我はね」
 また言った先生でした。
「絶対によくないからね」
「本当に怪我をしないことですね」
「まずはそこからですよね」
「怪我をしないこと」
「そこからですね」
「そう、どのスポーツでもそうだけれど」
 野球に限らずというのです。
「野球もそうだね」
「昔は衣笠さんみたいな人いましたけれどね」
「衣笠祥雄さん」
「あの人は本当に怪我に強かったです」
「まさに鉄人でした」
「その人のことは僕も聞いてるよ」 
 先生は本当に野球にも詳しくなりました、それで広島の昔の選手のことも詳しくなっているのです。まだ黄金時代までですが。
「骨折しても試合に出てたね」
「凄い人だったんですよ」
「バッティングは折り紙付きで」
「守備もよくて足も速くて」
「いい選手でした」
「その人と山本浩二さんが主力だったね」
 その頃のカープはです。
「黄金時代は」
「僕達が生まれる前のことですけれど」
「凄い選手が二人いて」
「他の選手も揃っていて」
「物凄く強かったんです」
「だからまた」
 学生さん達は心から言います。
「広島強くなって欲しいですね」
「また黄金時代になって欲しいです」
「第二次黄金時代ですよ」
「猛練習で怪我をしない選手達による」
「そうだね、怪我がなかったら」
 先生も言います。
「広島は確かに強くなるよ」
「その時はですね」
「阪神と優勝争いましょう」
「先生阪神ファンですからね」
「虎と鯉の一騎打ちですね」
「そうなるね、ただ考えてみたら」
 先生は阪神と広島についてあることを思い出しました、それはどういったものであるかといいますと。
「クライマックスで阪神広島に結構負けてるよね」
「あっ、そういえば」
「うち結構クライマックス阪神に勝ってます」
「あとペナントでも結構」
「阪神に勝ってますね」
「何か相性悪いかな」
 先生はまた言いました。
「阪神は広島に」
「昔ヤクルトに弱かったんですよね」
「それも異常な位」
「巨人に負ける以上にヤクルトに負けてたそうですね」
「それで今は広島に負けていますか」
「どうしてかな」
 先生は腕を組んで首を傾げさせました。
「阪神は広島に負けるのかな」
「相性ですかね」
「いや、わからないですね」
「そこは」
「勝たせてもらってますけれど」
「今日は甲子園でその広島との試合だけれど」
 何とそうなのです。
「勝てばいいね」
「はい、広島が」
「勝って欲しいですね」
「そこでそう言われると辛いね」 
 先生は阪神ファンとして言うのでした、怪我のお話から試合のお話もしてそれから講義に出るのでした。



妹のサラが来日したみたいだな。
美姫 「例の如く、先生に進言するんだけれどね」
こと、恋愛に関しては先生は鈍すぎるな。
美姫 「まあ、それも先生らしい気もするけれどね」
確かに。後はどうやら野球にはまっているようだな。
美姫 「みたいね。さて、今回はタイトルからしてちょっと気になるんだけれど」
どうなるのか、次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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