『ドリトル先生と悩める画家』




                 第二幕  美術館で出会った人

 先生が王子と一緒に美術館を巡った日の夜です、トミーは先生に晩御飯の時にこんなことを言いました。
「あの美術館も凄いですよね」
「規模も大きくてね」
「色々な芸術品がありますね」
「だから見応えがあるんだ」
 先生は晩御飯を食べつつトミーに答えました、揚げとエリンギやしめじ等をとろりと炒めたものにほうれん草のお味噌汁と若芽と胡瓜の酢のものが食卓にあります。
「あそこもね」
「図書館、博物館、鉄道博物館もあって」
「動物園、水族館、植物園、劇場とね」
「八条学園は本当に設備が充実していますね」
「敷地が桁外れに広いしね」
 そうしたものが全てあってそのうえでキャンバスもあるのですから。
「だからね」
「美術館もですね」
「広くてね」
「色々な芸術品がありますね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「ああしてね」
「それで今日は王子、動物の皆とですか」
「行っていたんだ」
「浮世絵を観て」
「他のものも観ていたよ」
 浮世絵以外の芸術作品もというのです。
「そちらもね」
「ルネサンス時代の芸術作品も」
「それもね」
「確かボッティチェリもありましたね」
「ボッティチェリの作品は結構紛失してるけれど」
 先生はこのことはとても残念なお顔で言いました、晩御飯は美味しいですがこのことは残念に思うのでした。
「奇跡的に紛失を免れて世に隠れていた作品がね」
「発見されてですね」
「あの美術館にあるんだ」
「何点も」
「そう、ボッティチェリ自身が燃やそうとした作品を心ある人が密かに守っていたんだ」
 そのルネサンスの時代にでる。
「それが手に入ってあそこに保管されていて」
「他にもですね」
「ローマが無茶苦茶になった時も」
 当時の戦乱の中で、です。ローマも戦争に巻き込まれたことがあったのです。
「何とか芸術作品を守った人がいて」
「そうした作品もですね」
「あそこにはあるんだよ」
「それもかなり」
「あの美術館にはそうした作品が多いんだ」
「何とか守られた作品が」
「ボッティチェリにしてもね」
 トミーにこのことをお話するのでした。
「他にもあるよ」
「そう思うと凄いですね」
「そうだよね」
「それで今日はそちらを巡られたんですね」
「とても楽しかったよ」
 先生は学者さんとして言いました。
「また行って芸術学を楽しみたいね」
「うん、いいことだよ」
「そのこと自体はね」
 チープサイドの家族が言ってきました、動物の皆はこの時も先生と同じお部屋で一緒にいます。本当にいつも一緒に仲良く暮らしています。
「そしてもう一歩ね」
「先生も踏み出すべきね」
「どう?今度は二人でね」
 老馬は先生に笑顔でアドバイスしました。
「美術館に行ってきたら?」
「私達は留守番してるわよ」
 ポリネシアも気を利かせます。
「研究室なりお家でね」
「そうそう、たまには二人でね」
 ダブダブもわかっています。
「行ってきたら?美術館でも」
「美術館は最高のデートスポットの一つっていうし」
 ホワイティは他の皆よりはっきりと言いました。
「いいんじゃないかな」
「そうそう、美術館だけじゃないけれどね」
 トートーは学園内の他の施設のお話も入れました。
「あそこが一番いい場所かな、お二人で行くには」
「先生、どうかな」
 ジップは先生にじかに尋ねました。
「今度はお二人でね」
「悪くないと思うわよ」 
 ガブガブの口調はお母さんみたいでした。
「ここで新たな一歩よ」
「まずは踏み出さないとね」
「先生からもね」
 オシツオサレツも思わせぶりな口調です。
「だからね、ここはね」
「先生の方からとか」
「ほら、先生の近くにおられるよ」
 チーチーが最後に言いました。
「ちゃんとね」
「二人?僕はいつも皆と一緒じゃないか」
 先生は皆のその言葉にきょとんとして返しました。
「二人だけって言われても王子もトミーもね」
「いや、僕じゃないですよ」
 トミーは先生の今のお言葉に慌てて言いました。
「僕でも王子でもないですよ」
「じゃあサラかな」
「何でサラさんですか?」
「だって時々日本に来ているからね」
 そうして先生とお会いしているからというのです。
「だからね」
「サラさんでもないですよ」
「じゃあ誰かな」
「というかそんなのですと」
 流石にトミーも返事に困りました、お箸を動かしているその手も止まっています。トミーも先生もお箸を上手に使っています。
「大変ですね」
「大変?」
「はい、あの人が」
「あの人って誰かな」
「まあそのうち気付いて下さい」
「そのうちなんだ」
「僕も是非って思ってますから」
 トミーもわかっています、あの人のことは。
「ですから」
「それでなんだ」
「先生も頑張って下さいね」
「一歩かな」
「そう、一歩です」
「何の一歩かわからないけれど」
 先生は今もわかっていません、ですがそれでもこう答えました。
「とにかく僕も頑張るね」
「そうされて下さい」
「そうするね、あとだけれど」
「あと?」
「今日のデザートは何かな」
 先生はトミーにこのことをここで尋ねました。
「それで」
「桃があります」
「あっ、桃なんだ」
「はい、それでいいですよね」
「うん、いいね」
 桃と聞いてです、先生は笑顔で応えました。
「日本の桃はとても美味しいからね」
「それをお召し上がり下さい」
「デザートにね」
「明日は枇杷があります」
「その果物だね」
「今日どっちも安かったんで買ってきました」
「桃も枇杷も」
 先生は再び笑顔で応えました。
「そうだったんだ」
「しかも新鮮だったので」
 こちらもどちらもでした。
「買ってきました」
「それはいいね」
「ではですね」
「うん、是非ね」
「まずは桃ですね」
「それを食べさせてもらうよ」
 先生は今は晩御飯を食べていますがデザートのことも楽しみにするのでした、そうして今は御飯を食べるのでした。
 この日先生は実際に桃を食べてから歯を磨いてです、お風呂にも入りました。それからは暖かいお布団で朝までぐっすりと寝ました。
 そして次の日です、講義を終えた先生は研究室に戻ろうとしましたがここでその先生に声をかけてきた人がいました。その人はといいますと。
「あっ、来てくれたね」
「昨日お話したらね」
「あちらからね」
「そうしてくれたね」
 動物の皆はその日笠さんを見て笑顔で言い合いました。
「これが日笠さんなんだよね」
「自分から来てくれるんだよ」
「先生はいつもの調子だけれど」
「日笠さんの方からね」
「だから皆いつもそんなこと言うね」
 先生は皆の楽しそうな言葉に首を傾げさせるばかりでした。
「日笠さんに何かあるのかな」
「何かあるから言ってるんだよ」
「昨日も今もそれまでもね」
「勿論これからもだよ」
「先生に言っていくよ」
「何を言うのかな、一体」
 先生だけは首を傾げさせるばかりです、ですがそんなお話をしている間に日笠さんが先生のところに来てでした。笑顔でこう言ってきました。
「あの、今お時間ありますか?」
「はい、お昼までは」
 先生は日笠さんに笑顔で答えました。
「午後は論文を書きますが」
「そうですか、お昼まではですか」
「時間があります」
「それでは美術館はどうですか?」
 先生にこうお誘いをかけるのでした。
「一緒に行きませんか?」
「美術館ですか」
「はい、今日からゴーギャンの展覧会がありまして」
「ゴーギャンの」
「それでどうかと思いまして」
「僕にお誘いをかけてくれたのですね」
「はい」
 その通りという返事でした。
「どうでしょうか」
「先生、行こうね」
「時間あるからね」
 動物の皆は先生が日笠さんに返事をする前に一斉に言いました。
「昨日行ったからとか言わないでね」
「折角日笠さんがお誘いをかけてくれたから」
「行こうね、絶対に」
「そうしようね」
「いや、最初から断るつもりはないよ」
 それはとです、先生は皆に答えました。
「人のお誘いを断ることはよくないよ」
「そうそう、それだよ」
「その心意気だよ」
「先生もわかってるじゃない」
「じゃあいいね」
「今から日笠さんと一緒に行こうね」
「そうさせもらうよ、では」
 先生は皆に応えてからです、日笠さんにお顔を向けてあらためてお返事をしました。帽子を取って一礼してからです。
「宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」 
 日笠さんも笑顔で挨拶を返しました。
「ご一緒に」
「それでは」
「よし、これで一歩達成」
「何度目かの一歩かわからないけれどね」
「じゃあ今からね」
「日笠さんと宜しくね」
「うん、また行こうね」
 先生は皆にも声をかけました。
「宜しくね」
「えっ、僕達も?」
「何でそこでそう言うの?」
「私達もって」
「そこでそう言うなんて」
「本当に先生は」
「あれっ、僕達はいつも一緒じゃないか」 
 先生は呆れる皆にきょとんとして言いました。
「何でそれでそんなこと言うのかな」
「いや、だからね」
「ここはお二人でないと」
「そうでないと意味ないから」
「何かね、本当に」
「先生はこうしたことについては」
「駄目過ぎるわ」
「何が駄目かわからないけれど今から行こうね」
 何もかも、本当に全くわかっていないまま応えた先生でした。
「美術館に」
「僕達もだね」
「そうしてよね」
「ええと、ゴーギャン?」
「あの人の絵を観るのね」
「ゴーギャンもまた偉大な画家だからね」
 完全に学者さんとして言う先生でした。
「観る機会があるなら逃してはいけないよ」
「学者さんとしてはね」
「そうだよね」
「まあね」
「それはね」
 皆もこのことは否定しません。
「いいと思うけれど」
「観ること自体は」
「けれどね」
「人間それだけじゃない」
「そこもわかってくれないと」
「だから何がわかっていないのかわかってくれないとなのか」
 また首を傾げさせる先生でした。
「僕には全くわからないけれど」
「はいはい、もういいから」
「美術館に行きましょう」
「仕方ないからご同行させてもらうよ」
「今日もね」
「そうさせてもらうから」
 本音は違ってもそうすると答えてです、皆は先生と一緒に日笠さんのお誘いを受けてこの日も美術館に行きました。
 そして美術館に入ってゴーギャンの絵を観てです、日笠さんは先生の微笑んで言いました。
「この独特のタッチがです」
「いいのですね」
「ゴッホとはまた違った」
「それがいいですね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「この人の芸術はタヒチですね」
「はい、あの島に住む様になってからです」
 まさにとです、先生は日笠さんに答えました。
「開花しました」
「本格的にですね」
「それまでも才能を発揮していましたが」
「本格的な開花は」
「それからでした」
 まさにというのです。
「あの南国の島がです」
「ゴーギャンの芸術を開花させて」
「こうして残っています」
「何か観ていますと」
 日笠さんはゴーギャンのその絵を観ながらまた言いました。
「タヒチを確かに感じますね」
「いい島ですよね」
「先生はあの島にも」
「行ったことがあります」
「そうですか」
「いい島ですよ」
 先生はタヒチ島自体についてもです、日笠さんにお話しました。
「木々も海も奇麗で」
「南国ならではの」
「非常に素晴らしい気候です、食べものも美味しいです」
 南国のそれもというのです。
「非常に」
「そうですか、実はまだ行ったことがないですが」
「そうなのですか」
「一度行ってみたいですね」
 先生を見てにこりと笑って言うのでした。
「そう思っています」
「そうですか、ではです」
「はい、その時はご案内して下さい」
「タヒチの名所をですね」
「何かと」
「わかりました、その時はです」
 先生は日笠さんの今のお誘いに笑顔で応えましたが。
「友人として案内させて頂きます」
「友人、ですか」
「はい、そうです」
「そうですか」
 残念そうに言う日笠さんでした。
「今の私達は」
「それが何か」
「いえ、頑張ります」
 こう返すしかありませんでした。
「そうさせてもらいます」
「頑張るといいますと」
「いえ、私がです」
「そうされるのですか」
「そうします」
「ねえ先生」
 ここでまた皆が言ってきました。
「今のもアウトだからね」
「全然駄目よ」
「今のお言葉もね」
「なってないから」
「またそう言うけれど何がかな」
 わかっていないままのお返事でした。
「だから僕にはわからないよ」
「そうだろうね、先生は」
「もうそれはわかってるから」
「こっちもわかってて言ってるからね」
「覚悟は決めてるからね」
「何十、何百と言おうってね」
 それこそです、動物の皆は先生に言います。そしてです。
 そうしたことをお話しながらです、先生達はゴーギャンの絵だけでなく他の絵も観ていきまいsた。そしてです。
 そうしたお話をしつつです、先生はふとです。
 難しい、そのうえ暗いお顔のお顔で絵を観ている人に気付きました。あちこちの絵を観て回っていますが。
 その人を観てです、先生は言うのでした。
「あの人は何か」
「あれっ、暗いお顔した人いるよ」
「あの人何かな」
「何か悩んでる」
「そんな感じ?」
「ひょっとして」
「悩んでるね」
 また言った先生でした。
「あの人は」
「何やってる人かな」
「色々な絵を観て回ってるけれどね」
「気になるね」
「何をしている人か」
「熱心に観ているね」
 観て回っている絵のどれもです。
「勉強しているみたいに」
「結構若い人だけれどね」
「学生さんかな」
「ひょっとして」
「そうした人かな」
 こう言うのでした、そしてです。
 その人を観るのでした、ですが。日笠さんがここで先生に言いました。どうもこの人はその人に気付いていないみたいです。
「次は彫刻のところに行きますか」
「彫刻ですか」
「はい、彫刻の方に」
「わかりました」
 先生は日笠さんにお顔を向けて言ってきました。
「それじゃあ」
「この美術館は彫刻もいいですから」
「そうなんですよね」
「では」
「はい、今度はですね」
「彫刻を観に行きましょう」
 こう言ってです、そしてでした。
 先生も動物の皆も今度は彫刻のコーナーに行きました、そうしてその人のことを今は視界から離してしまいました。
 それから彫刻も観て回りましたが。
 お昼の時にです、先生はお昼御飯に食堂でスパゲティを食べていましたが今も一緒にいる動物の皆がその先生に言ってきました。
「さっきの人だけれど」
「美術館にいた」
「あの人何かな」
「何ていうかね」
「悩んでる感じだったね」
「そうだったね」 
 先生も応えます、スパゲティはボロネーゼです、オリーブオイルと大蒜も効いていて量も普通のお店の二人分はあります。このスパゲティにパン、そしてサラダと鶏肉をからりと焼いたものが先生の今日のお昼です。デザートは無花果です。
「どうも」
「画家さんなのかな」
 ダブダブは考えてから言いました。
「やっぱり」
「そうじゃないかな」
 ジップはダブダブのその言葉に頷きました。
「だからああして絵をずっと観てたんじゃないかな」
「色々な絵を観ていたね」
 チーチーはこのことを言いました。
「本当にね」
「それもかなり悩んでいる感じだったね」
 ホワイティもこのことが気になっています、皆はそれぞれの御飯を食べていてホワイティはナッツをかじっています。
「苦しい感じで」
「スランプ?」
 トートーはふと思いました。
「あの人は」
「スランプで絵を観ていたのかな」
 老馬は自分の隣にいるトートーの言葉を受けました。
「いい絵が描けなくて」
「自分の思う様な絵とか」 
「そうした絵をかな」 
 オシツオサレツは芸術家という人達のことを考えました。
「描きたいのかな」
「けれど描けなくてなのかな」
「それで悩んでて美術館にいたのかな」
「そうかも知れないわね」
 チープサイドの家族は麦の粒を一粒一粒食べつつお話します。
「これだっていう絵が描けない」
「それで苦しんでるのかしら」
「妙に気になるわね」
 ガブガブは食べつつ考えるお顔になっています。
「あの人のことが」
「悩んでいるのならそれから解放されたらね」
 最後に言ったのはポリネシアでした。
「いいのだけれど」
「そうだね、芸術はね」
 この分野についてです、先生はこう言いました。
「僕は自分では描いたり造らないからね」
「そうそう、先生は芸術はそうだね」
「研究して論文を書いてるけれど」
「実際に描いたりとかはね」
「しないよね」
「うん、そうした絵心はないんだ」
 ご自身でも言います。
「描かない訳でもないけれどね」
「それはスケッチだよね」
「先生のはそちらだよね」
「学問に必要だから描くだけで」
「生きものとかをね」
「僕のそれは芸術じゃないよ」
 先生のスケッチ、それはというのです。
「浮世絵でもゴーギャンでもないよ」
「そうそう、あくまで学問で」
「生きものの身体の仕組みとかを描くだけで」
「外見とかね」
「風景とかも描くけれど」
「それだけだね」
「そうだよ、あと写真も撮るけれど」
 そちらもなのです。
「あくまで学問の中のことで」
「芸術じゃないね」
「そこは違うよね」
「だからだね」
「芸術の為に描くのとは違う」
「そうだよね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「ああしたことはね」
「ちょっとだよね」
「先生とは縁がないよね」
「どうしても」
「そうだよね」
「うん、僕の芸術学は実践じゃないよ」 
 本当にこのことを言う先生でした、まずはそのたっぷりとあるスパゲティを食べています。のびるとよくないからです。
「論文、机上のことと言うべきかな」
「実際に絵を描かないから」
「だからだね」
「そう、芸術は実践してこそだよ」
 何といってもというのです。
「これは音楽でもそうだね」
「そうそう、歌も演奏もね」
「そちらもだよね」
「まずやってみる」
「やってからだよね」
「何といっても」
「そうだよ、実践しないと批評家でしかないんだ」
 先生はご自身も含めてこう言いました。
「僕も然りね」
「先生も批評家なんだ」
「そうした人だっていうのね」
「実践をしない」
「そうした立場だって」
「うん、公平に観て学問として考えているつもりでも」
 それでもというのです。
「僕は芸術学、それに体育学ではそうだね」
「先生スポーツは全くだからね」
「馬に乗れるけれど」
「乗馬も乗ってるだけだしね」
「本当にそれだけだから」
 実は先生の乗馬は老馬以外は乗れないのです、そして駆けたりすることも出来ないのです。乗って降りるだけなのです。
「スポーツについてはね」
「知識と理論はあっても」
「実際に身体を動かすことは出来ない」
「そうだよね」
「自転車に乗れても競技にはとてもだよ」
 それこそというのです。
「こちらもね」
「乗馬だけじゃなくてね」
「先生はスポーツについてはそうだね」
「とりわけね」
「むしろ芸術以上に出来ないかな」
「そうだよ、僕は芸術もスポーツも観て考えて論文を書くだけだよ」 
 まさにそうしただけだというのです。
「実践は出来ないからね」
「じゃああの人が画家さんでも」
「どうしたらいいとかは言えないんだね」
「そうなんだね」
「そうだよ、ただ知識はあるつもりだから」 
 それは備えているというのです。
「それをお話出来るかも知れないけれどね」
「そうなんだね」
「先生は学者さんだから」
「学者さんとしてお話出来る」
「それはなんだね」
「うん、これはお料理でもだね」
 先生はスパゲティを食べ終えました、そして今度はトマトとレタス、それに胡瓜と豆苗が入ったサラダを食べます。ドレッシングはオニオンです。
「知識はあるけれど」
「実際に作るとなると」
「先生家事も駄目だから」
「トミーが全部してくれているからね」
「そうしたことも」
「そう、そちらもだよ」
 お料理だけでなくお掃除やお洗濯もです、先生はこちらの知識も備えていて掃除機等は修理も出来ますが。
「出来ないんだよね」
「学問としての知識はあっても」
「実践出来るかどうかは違う」
「芸術もスポーツも」
「そしてお料理も」
「お料理も芸術だしね」
 先生はお料理をそちらに含めたうえでお話を続けます。
「芸術は本当に実践出来る人が第一で実践出来る人じゃないとわからないことも多いよ」
「そういうものなの」
「スポーツと一緒で」
「独特の学問なのね」
「そうなのね」
「そうだよ、あの人がどんな人かわからないけれど」
 それでもとも言う先生でした。
「あの人はあの人だけにしかわからないものを抱えているのかも知れないね」
「若し画家さんなら」
「その立場の人なら」
「そうなのかも知れないの」
「そう、若しかしたらね」
 こう言うのでした、お昼を食べつつです。先生はサラダも食べて鶏肉も食べてです、そしてパンと無花果も食べました。
 そのうえで、です。食堂を出てからまた皆に言いました。
「お料理も芸術でね」
「さっき言ってたよね」
「その通りなんだね」
「そうなんだね」
「そうだよ、だから作られる人はね」
 そのお料理をです。
「芸術家でもあるんだ」
「そうなんだ」
「何か芸術って色々あるんだね」
「描くだけじゃなくて」
「お料理もなんだね」
「彫刻もそうだし書道もそうだしね」
 こちらもというのです。
「書くこともだよ、ひいては文学もだし」
「へえ、色々あるんだ」
「芸術と一口に言っても」
「そうなんだ」
「そうだよ、芸術の世界も広いんだ」 
 他の世界と同じくというのです。
「そのことも頭に入れておいてね」
「うん、わかったよ」
「芸術と一口に言っても様々」
「そうなんだね」
「うん、陶器だってそうだしね」
 先生がいつも愛用しているティーカップもです。
「立派なものは凄く高価だしね」
「そういえばそうだね」
「茶器なんか凄いよね」
「日本の茶器とかね」
「とんでもない値段ね」
「国宝にもなっているし」
「そうしたものだから」
 だからだというのです。
「広いってことはわかっておいてね」
「うん、わかったよ」
「広いんだね」
「芸術と一口に言っても」
「それでも」 
 動物の皆も頷きました、そうしてでした。先生はその皆と一緒に研究室に戻って少しお休みして午後の講義に出ました、そのうえで。
 先生はお家で夜も論文を書いていてです、笑顔で言いました。
「よし、書き終えたよ」
「今回の論文もですね」
「うん、そうなったよ」
 トミーに笑顔で応えました、パソコンの前で。
「無事にね」
「それは何よりですね」
「では次の論文にかかるよ」
「すぐにですか」
「うん、今度は社会学のね」
「本当に色々な分野の論文を書かれていますね」
「学者ならね」
 このお仕事をしているのならというのです。
「やっぱり論文を書かないと」
「それも色々な学問をされていたら」
「それぞれの学問の論文を書かないとね」
「駄目なんですね」
「しっかりと研究をしたうえでね」
 そのうえでというのです。
「書かないとね」
「学者なら論文を書け」
「そういうことだよ、学問は日進月歩だしね」 
 それで、です。先生は実際に次の論文を書きはじめて言うのでした。
「いつも書いていくよ」
「頑張っていますね」
「日本に来てからね」
「そうなりましたね」
「イギリスにいた時は」
 先生は書きつつあの頃のことを思い出しました。
「そうじゃなかったね」
「はい、色々な学問をされてましたけれど」
 イギリスにいた時からこのこと自体は変わっていませんでした、やっぱり先生は生粋の学者さんなのです。
「けれど」
「それでもでしたね」
「うん、どうしてもね」
「発表の機会もなくて」
「どうしてもね」
「残念なことに」
「病院も患者さんは誰も来なくて」
 何しろ何時どんな生きものがいるかどうかわからないからです、そんな病院に来る奇特な患者さんは滅多にいません。猛獣も普通にいたりしますから。
「寂しいもので」
「論文を発表する状況でもなかったですね」
「むしろサーカスをやったり郵便局をやったり」
「そういうことばかりで」
「論文を書いてもむしろ」
「そういった方ばかり忙して」
 そしてだったのです。
「こんなに論文を書いてね」
「学者さんとしての生活も」
「今みたいじゃなかったよ」
「そうでしたね」
「そう思うと日本に来てよかったよ」
 先生の今のお言葉はしみじみとしたものでした。
「いや、本当にね」
「そうですね」
「ちゃんとした収入もあるし」
「そのことも大きいですね」
「うん、しかもね」
「こうして論文も書けて」
「よかったよ」
 こう笑顔で言うのでした。
「本当にね、ただね」
「ただ?」
「イギリスにいた時も楽しかったね」
 患者さんが誰も来なくてアフリカや月に行ってサーカスを開いていたその時も決して悪くなかったというのです。
「あの時も」
「それはそうですね」
「悪い暮らしじゃなかったよ」
「はい、どうも先生はです」
「僕は?」
「何処にいても周りに人や色々な生きものに囲まれていて」
 そしてというのです。
「環境にも満足出来る」
「そうした人だっていうのかな」
「はい、そう思います」
 こう先生に言うのでした。
「先生は」
「だといいけれどね」
「はい、先生の無欲さとどんな場所にもすぐ馴染めるので」
 そうした資質もあってというのです。
「そうだと思います」
「だといいけれどね」
「論文もいい論文を書ければですね」
「いいと思っているよ」
「世に認められたいとか権威とかは」
「いい評価を受けたら嬉しいけれどね」
 それでもというのです。
「そうしたことには興味がないよ」
「そうですよね」
「何かそうした欲はね」
「先生はないですね」
「お金もね」
 そちらもなのです。
「これといってね」
「沢山はいらないですね」
「必要なだけあればいいから」
「そちらも欲はありませんね」
「今で充分だよ」
「むしろ充分過ぎますか」
「そう思ってるよ」
 お金についてもというのです。
「溜め込んだり財産を築こうとかは」
「ないですね」
「資産家になることも」
 そうしたつもりもなのです。
「ないね」
「むしろお金については一番ですね」
「欲がないね、ただね」
「はい、十時と三時には」
「お茶を飲みたいね」
 これだけはというのです。
「やっぱりね」
「それだけはですね」
「外せないね」
 笑って言う先生でした。
「どうしても」
「そうですよね」
「やっぱりね」
「これだけは」
「ないと駄目だよ」
「先生はそうですね」
「ティータイムにはお茶を飲む」
 十時と三時にです。
「そしてティーセットも楽しむ」
「そうしてないとはじまらないですね」
「欠かしたことはないよ」
 それこそです。
「一度もね」
「飲まれる様になってから」
「そうだよ、特に三時はね」
「欠かせないですね」
「そう、三時はね」
 何といってもです、先生は。
「お茶を飲むよ」
「何があっても」
「最近は色々な国のお茶も飲んでるけれどね」
 そしてお菓子も楽しんでいます。
「飲むこと自体はね」
「変わらないですね」
「そうだよ、日本のお茶に中国のお茶に」
「アメリカも」
「コーヒーも飲むけれど」
「三時はお茶ですね」
「コーヒーよりもね」
 本当に先生は三時にはなのです。
「お茶だよ」
「そういえばイギリスにおられた頃コーヒーは」
「殆ど飲まなかったね」
「そうでしたね」
「それも変わったね」
「はい、確かに」
「三時はお茶でもね」
 先生はイギリスにいた頃はずっとお茶でした。それもミルクティー一本だったのです。それが日本に来てコーヒーも飲む様になりました。
「時々飲んでるね」
「変わりましたね」
「うん、本当に」
 ご自身も言います。
「そうなったよ」
「日本に来られてから」
「日本は色々な飲みものがあるからね」
「イギリス以上に」
「コーヒーもよく飲まれるからね」
「それで先生もですね」
「メインは変わらないけれど」
 先生はお茶派です、本当にこのことは変わりません。だからティータイムはいつもお茶を飲んでいるのです。
「そちらも飲む様になったね」
「そういえば前ウィンナーコーヒーも飲まれてましたね」
「そうしていたよ」
「学園で」
「大学の喫茶店で飲んでいたね」
 そのウィンナーコーヒーをというのです。
「美味しかったよ」
「ホットコーヒーの上に生クリームを乗せていて」
「生クリームの甘さがコーヒーに入ってね」
「美味しいんですね」
「うん、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「コーヒーの熱さも保たれるんだ」
「クリームが膜になって」
「それもかなりいいよ」
「僕はウィンナーコーヒーは飲まないですが」
 トミーは先生のお話を聞いてこう言いました。
「ウィンナーティーは好きになりました」
「あれだね」
「はい、日本に来て」 
 紅茶の上に生クリームを乗せたものです、ウィンナーコーヒーの紅茶版と言っていいものでやっぱり生クリームの甘さがお茶に入ります。
「そうなりました」
「僕もあのお茶好きだね」
「じゃあ明日のティータイムにどうですか?」
「ウィンナーティーだね」
「ふとそう思いましたけれど」
「じゃあね」
 先生もトミーに笑顔で応えて言いました。
「そうさせてもらおうかな」
「はい、それじゃあ」 
 トミーは笑顔で応えました、そうしてお風呂に入りに行きました。先生は論文を書き続けて夜になるとお布団に入って寝ました。そして朝までぐっすりでした。
 朝にです、先生はトミーと動物の皆に言いました。
「さて、今日もね」
「うん、楽しくね」
「やっていこうね」
「朝御飯も食べて」
「そうしてね」
 動物の皆が先生に笑顔で応えました。
「まずは御飯だね」
「気持ちよく食べて行こうね」
「それでね」
「今日も楽しく」
「そうしようね、さて今日の朝御飯は」
「久し振りに欧州風にしてみました」
 トミーが先生に笑顔で言ってきました。
「トーストとオムレツです」
「あっ、そちらなんだ」
「はい、それとフルーツです」
「果物もあるんだ」
「林檎とオレンジ、バナナです」
 この三つだというのです。
「スライスしましたからどうぞ」
「いい組み合わせだね」
「飲みものは牛乳です」
 トミーは朝のそれのお話もしました。
「トーストはバターを塗って食べましょう」
「いいね、御飯の朝もいいけれどね」
「パンもですね」
「懐かしい感じがしてね」
 それでというのです。
「有り難いよ」
「イギリスにいた時はずっとパンでしたからね」
「日本に来てから変わったけれどね」
「はい、御飯がメインに」
「本当に日本に馴染んでね」
 先生はちゃぶ台のところにある座布団の上に座りながらにこにことして言います、その仕草はすっかり日本人のものになっています。
「御飯が大好きになったけれど」
「それでもですね」
「パンを食べることもね」
「いいですよね」
「うん、しかも日本のパンはね」
 先生は自分の前に出されたそのパンを見てこうも言いました、こんがりと焼かれたとても美味しそうな二枚のトーストをです。
「これまた美味しいんだよね」
「はい、どのパンも」
「メインの主食じゃない筈なのにね」
「凄く美味しくて」
「楽しめるよ」
 食べてそうしてというのです。
「本当にいいものだよ」
「じゃあそのパンを皆で食べましょう」
「そうしようね。あとオムレツは」
 もうオムレツも置かれています、黄色いとても大きなオムレツです。
「プレーンオムレツだね」
「そうです」
「じゃあケチャップをかけて」
 そうしてというのです。
「楽しく食べよう」
「皆で」
 こうしてです、皆で楽しく食べてです。一日をはじめるのでした。



先生〜。
美姫 「流石に日笠さんが可哀想になってくるわね」
まあ、それも先生らしいと日笠さんもある意味、思っていそうだが。
美姫 「だとしてもね。動物たちももうちょっと踏み込んでも良いかもね」
確かにな。まあ、でもこれに関しては仕方ないというか、やっぱりらしいって感じてしまうな。
美姫 「そうね。今回はどうなっていくのかしら」
次回も待っています。



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