『ドリトル先生と和歌山の海と山』




             第八幕  空海さんのお墓

 高野山には日本の歴史上の有名な人達のお墓が一杯あります、そのお墓の中を回って先生も目を瞠っています。
「いや、知っていたけれどね」
「それでもだよね」
「色々な人のお墓があって」
「先生も驚いてるよね」
「そうだよね」
「うん、このお墓はね」
 ある神社の社みたいな建物を指し示して言う先生でした。
「井伊直弼さんのお墓だよ」
「あの幕末の?」
「殺された人だよね」
「桜田門外の変だったかしら」
「あの時に殺された人よね」
「凄く偉い人で」
「うん、大老さんだったんだ」
 当時の幕府で第一の実力者でした。
「その人のお墓だよ」
「へえ、この人のお墓もあるんだね」 
 ホワイティはしみじみとして言いました。
「何か時代劇じゃいつも悪役の人だよね」
「というか凄く悪い人だよね」
「そうよね」
 チープサイドの家族は時代劇での井伊直弼さんを言いました。
「偉そうで沢山の人を処刑して」
「物凄く悪い人だよね」
「何かふんぞり返っていてね」
 こう言ったのはトートーです。
「人の話は聞かないしね」
「聞かないも聞かない」
 ポリネシアもかなり否定的です。
「自分が絶対に正しいって人でね」
「もう日本を変えようとする人を片っ端から処刑して」
 ジップも否定的です、それもかなり。
「日本を潰すところだったね」
「そんな人のお墓もあるんだ」
 チーチーは嫌そうな目でお墓を見ています。
「ここには」
「意外っていうかね」
 老馬も時代劇の知識から言います。
「こうした人のお墓は別にいいんじゃ」
「そうだよね」
「僕達この人好きじゃないし」
 オシツオサレツも二つの頭でお話をします。
「あのお墓を見てもね」
「どうでもいいかな」
「こんな不人気な人そうそういないよ」
 ガブガブも駄目出しです。
「時代劇で討ち取られる時僕いつもやったって思うし」
「それ私もよ」
 ダブダブもでした。
「こんな人はどうでもいいかしら」
「凄い不人気だね」
 王子も動物達の言葉を聞いて思いました。
「井伊直弼さんって」
「日本の歴史上有数の不人気人物かな」
 トミーも井伊直弼さんについて思うことを言いました。
「この人は」
「そうだね、不人気過ぎてね」
 それこそと言った先生でした。
「殆ど死んでやったってなる作品ばかりだね」
「時代劇でも漫画でも小説でも」
「凄い不人気ですよね」
「源頼朝さんとどっちが不人気かな」
 日本の歴史においてというのです。
「一体」
「そこまで人気ないよね」
「本当に愛されてない人ですよね」
「この井伊直弼さんは」
「もう死んでも自業自得ですし」
「幕府を必死に護ろうとしたけれど」
 それがというのです。
「裏目に出てかな」
「安政の大獄でしたね」
 トミーが言いました。
「あの時に」
「そう、沢山の人を処刑したよ」
「志士の人達をですね」
「そうしたよ、吉田松陰さんとかね」
 まずはこの人を挙げた先生でした。
「橋本左内さんや頼美樹三郎さんとかね」
「本来は死罪になる人達ではですね」
「なかったんだ」
 幕府の評定所というところの判断ではです。
「けれどそれをね」
「井伊直弼さんはですね」
「幕府はいつも刑罰を軽くしていたけれど」
「井伊直弼さんは重くしていて」
「強引に死罪にしていったんだ」
「そうしたことを物凄く行って」
「挙句にね」
 例え幕府を守るつもりだったとはいえです。
「水戸藩の藩主さんに水戸藩の人達に怨みを買ってね」
「そうしてですね」
「殺されたんだよ」
 その桜田門外の変で、です。
「そして首を取られてね」
「今はここに眠っているんですか」
「確かお墓は他にもあるけれど」
 それでもというのです。
「ここにもあってね」
「眠ってるんですか」
「うん、ただ死んだ時もね」
 その時もだったのです。
「江戸、今の東京の人達にも全国の大名の人達にも凄く喜ばれていたんだ」
「江戸の人達にも嫌われていたんだ」
「本当に嫌われていたんだ」
「というか嫌われ過ぎでしょ」
「何ていうかね」
「どんなに嫌われているんだか」
 動物の皆もびっくりでした。
「何ていうかね」
「凄いね」
「嫌われ過ぎでしょ」
「死んで喜ばれるとか」
「そうはなりたくないよ」
「うん、僕もね」
 それこそと言った先生でした。
「そこまで嫌われる人なんてね」
「そうそう知らないよね」
「生きていた時から今まで嫌われるって」
「時代劇とかでも悪役ばかりで」
「世界でもそんな人すくないよね」
「あちこちの国にいるにしても」
「うん、それぞれの国で嫌われている人はいるよ」
 歴史上の人物の中で、です。
「所謂悪役の人達だね」
「日本でそうした人はね」
「この井伊直弼さんなんだ」
「あと源頼朝さんも」
「あの人もそうだけれど」
「双璧を為すね」 
 日本の歴史で嫌われている人達はこの人達だというのです。
「まさにね」
「だからね」
「そんな人のお墓見てもね」
「全然嬉しくないよ」
「時代劇の見過ぎかも知れないけれど」
「それでもね」
「じゃあ他の人のお墓を見て回ろうかな」
 皆があまりにも井伊直弼さんのことについてうよく思っていないのでそれで、でした。他の人のお墓を見ることにしました。
 それで、です。次に行った場所は。
「武田信玄さんのお墓だよ」
「あっ、戦国大名の」
「あの人ね」
「甲斐の虎と呼ばれてて」
「戦も政も凄い人だったね」
「そうだよ、戦国時代を代表する人の一人だよ」
 まさにというのです。
「この人はね」
「そうだよね」
「いや、この人ならいいかな」
「見ても嬉しいね」
「やっぱりこの辺り人気よね」
「歴史のうえでのね」
「そうだね、信玄さんは本当にね」
 先生も信玄さんのことを脳裏に浮かべつつお話します。
「人気があるよね」
「そうそう、凄くね」
「恰好いいしね」
「漢らしくて器も大きくて」
「日本にこうした人がいたんだって」
「そう思えてね」
 それでというのです。
「見ていて嬉しくなるよ」
「この人のお墓だって」
「いやあ、この人のお墓もあるんだ」
「凄いね」
「そうだね、そしてこちらはね」
 先生が次に紹介した人はといいますと。
「上杉謙信さんのお墓だよ」
「信玄さんのライバルのね」
「越後の龍だね」
「とても強かった信玄さんと互角以上に戦えた」
「毘沙門天の化身だね」
「その人だよ」
 まさにというのです。
「この人はね」
「ううん、恰好いいね」
「謙信さんもね」
「強くて正しくて恰好いい」
「謙信さんはそんな人よね」
「信玄さんも恰好いいけれどね」
 それでもと言う先生でした。
「謙信さんも同じだけだね」
「恰好いいよね」
「何か時代劇観ていて思うわ」
「信玄さんも謙信さんも恰好いい」
「どっちも応援したくなるわ」
「そうだね、僕が見てもね」
 先生にしてもです。
「歴史を学んでいてね」
「信玄さんと謙信さんはね」
「恰好いいよね」
「強いしね」
「それぞれタイプは全く違うけれど」
「そう、二人共タイプはね」
 それはというのです。
「見事なまでに違うよね」
「何ていうかね」
「水と火?」
「それ位違うよね」
「ライバル同士で」
「そんな風よね」
「それがかえっていいんだよね」
 まさに正反対だからというのです。
「信玄さんと謙信さんは」
「何度も戦ったしね」
「川中島で」
「それでも結局勝負はつかなくて」
「信玄さんも謙信さんもね」
「相手を倒すことは出来なかったんだよね」
「そうだったんだ、お互い強かったけれどね」
 信玄さんも謙信さんもです。
「けれどね」
「それでもだよね」
「結局決着はつかなくて」
「それでね」
「引き分けみたいな形になって」
「川中島での戦いは終わったんだね」
「そうだよ、沢山の武将や兵の人が倒れたけれど」
 川中島で何度も行われた戦いの中で、です。特に四度目の戦いでそうなったことは先生も知っています。
「それでも決着自体はね」
「つかなくて」
「信玄さんも謙信さんもそれからはお互いが戦うことはなかった」
「そうだったんだったね」
「そうだよ、それで謙信さんはお酒が好きでね」
 このお話もした先生でした。
「毎日凄く飲んでいたらしいよ」
「あっ、何か凄かったらしいね」
 王子も謙信さんについて言ってきました。
「謙信さんの酒好きは」
「そうだよ、もう毎日かなり飲んでいたんだ」
「それで陣中でもお酒を飲んでいて」
「欠かすことがなかったんだ」
「今もかな」
 お亡くなりになってからもと言った王子だった。
「謙信さんはあちらの世界でお酒を飲んでいるのかな」
「そうかもね」
「ううん、それじゃああちらでは信玄さんともね」
「仲良くだね」
「飲んでるかな」
「そうかもね、ライバル同士だったけれど」
 それでもでした、先生は信玄さんと謙信さんのことを脳裏に思い浮かべました、今度はお二人をです。
「お互い認め合っていた節があったし」
「実際にだね」
「だからね」
 それでというのです。
「あちらの世界ではね」
「仲良くだね」
「飲んでいるかもね、信玄さんも飲めたみたいだし」
「そうなんだ」
「うん、ただ織田信長さんはね」
 ここで、でした。先生は先に先にと歩いていって皆をその織田信長さんのお墓のところに案内してこの人のこともお話しました。
「実はお酒が飲めなかったんだ」
「それ意外だよね」
「甘いものが好きだったんだよね」
「何か飲みそうなイメージがあるけれど」
「信長さんこそ一番飲みそうなのに」
「それがね」
「信長さんは本当に飲まなかったんだ」
 お酒はです。
「下戸だったみたいなんだ」
「何か映画とかじゃよく飲んでるけれどね」
「中には黄金の髑髏で飲んでるよね」
「あれは引くよ」
「かなり怖い場面だよ」
「あれもなかったんだよ」
 黄金の髑髏でお酒を飲むこともです。
「だってあれもね」
「ああ、信長さんはお酒飲まないから」
「それじゃあ黄金の髑髏の杯とかね」
「作っても仕方ないよね」
「そうしたことをしても」
「そうだよ、実際はそうしたものも作らせてなかったみたいだよ」
 このお話は有名なお話でもです。
「実際の信長さんはそんなに残酷でもなかったしね」
「必要な敵だけ倒して」
「それでだったんだね」
「残酷なことはしなかった」
「そうだったんだ」
「当時としては普通だったかな」
 特に残酷ではなかったことは間違いないというのです。
「確かに怒ると凄かったけれど普段は家臣や民の人達のことをいつも考えていたし」
「そうだったんだ」
「何か実際の信長さんは時代劇とかと違うんだね」
「横紙破りってイメージあるけれど」
「ダークヒーローっていうか」
「また違うよ、確かに服装には凝っていてね」
 このことは間違いないというのです。
「南蛮風、西洋のものを取り入れた鎧を着ていてマントも羽織ってね」
「そうした風な格好のこと多いよね」
「信長さんは」
「それが恰好いいけれどね」
「信玄さんや謙信さんとは別の恰好よさよね」
「そう、けれどね」 
 先生は学んで知った信長さんの実像をさらにお話していきます。
「実際は本当にお酒は飲めなくてね」
「残酷でも苛烈でもなかった」
「そうした人だったのね」
「領民のことも大事にしていて」
「暴君でもなかったの」
「その逆で名君だったよ」
 そうした人だったというのです。
「善政で民には凄く慕われていたんだ」
「魔王とかじゃなくて」
「凄く怖い人って思っていたら」
「実は違ってて」
「領民に慕われていたんだ」
「そうだったんだ、本当にね」
 それこそというのです。
「悪い人じゃなかったんだよ」
「何かね」
 王子も信長さんについて思って言うのでした。
「僕は信長さんは曹操さんに似てると思っていたけれど」
「三国志のだね」
「うん、魏のね」
 中国の昔の人です。
「あの人に似てるかなってね」
「そうだね、僕もそう思うよ」
「自分の道を突き進んで恰好よくて」
「戦も政もよくて」
「そうしたところがね」
「お二人は似ているんだね」
「そう思ったよ、三国志や日本の戦国時代の本を読んでね」
 そうしてお二人をそれぞれ知ってというのです。
「そう思ったよ」
「そうだね、僕もね」
「似ていてね」
「欧州だと誰かなとかも考えたよ」
「欧州だと誰かな」
 信長さんや曹操さんみたいな人はです。
「アメリカだと結構いそうだけれどね」
「そうだね、我が道を行く人はね」
 そうした格好いい人はです。
「多少タイプは違っていても」
「アメリカには多そうだね」
「けれど欧州は強いて言うならね」
「ナポレオンさんかな」
「この人かユリウス=カエサルか」
「そうした人達だね」
「こうした人達がいるね」
 欧州ならというのです。
「恰好いい横紙破りでも前に進む人はね」
「やっぱりいるね」
「それぞれの地域や国にね」
「そうだよね」
「そしてそうした人達は大きなことをするね」
「信長さん然りね」
「だから恰好いいんだよ、ただ不思議なことは」
 信長さんのお墓を見ながら首を傾げさせた先生でした。
「ここに何故信長さんのお墓があるのかだよ」
「ここにっていうと」
「高野山にね」
 まさにこの山にというのです。
「それがわからないんだよね」
「確か信長さんってね」
「この高野山攻めようとしたのよね」
「比叡山焼き討ちは有名だけれど」
「高野山もだったよね」
「そう、まさにそうしようとした時に本能寺の変が起こって」
 日本の歴史であまりにも有名なこの事件が起こってとです、先生は動物の皆にこのこともお話しました。
「そうしてね」
「信長さんその事件で死んでるし」
「じゃあそれでなのね」
「高野山は焼き討ちされずに済んだのね」
「そうだったんだ」
「そうだったんだ、けれどね」
 それでもというのでした。
「信長さんのお墓があるよね」
「この山を焼き討ちしようとした人のお墓が?」
「考えてみれば不思議よね」
「どうしてあるのかな」
「訳がわからないよ」
「このお墓は長い間忘れられていたけれど」
 高野山においてです。
「こうしてあるからね」
「しかもだよ」
 王子はお墓の一番高い方を見て先生に言いました。
「信長さんのお墓凄い場所にあるよね」
「空海さんのお墓のすぐそこだね」
「本当にすぐそこじゃない」
 まさにというのです。
「ここはね」
「そうだよね」
 先生も王子に応えます。
「空海さんのお墓のね」
「この高野山を開いた」
「あるだけで不思議でね」
「しかも空海さんのもうね」
 それこそです」
「すぐ傍にあるなんて」
「どういうことなのかな」
「こんな不思議なことないよ」
 王子もこう言いました。
「このことがね」
「僕もだよ、どう考えても有り得ないし」
 高野山を攻めようとした人のお墓が高野山の中にしかも高野山を開いた人のお墓のすぐ傍にあることがです。
「今このことについて考えているけれど」
「どうしてなのかな」
「わからなくてね」 
 先生も深く思案しているお顔になっています。
「今調べているんだ」
「そうなんだね」
「歴史、宗教の両方からね」 
 その二つの学問からです。
「考えて調べているけれど」
「まだわからないんだ」
「どうしてもね」
「あの、しかもね」
 ここでさらに言った王子でした。
「信長さんって神も仏も信じていなかったよね」
「いや、そのことはね」
「あれっ、そうじゃなかったんだ」
「熱田神宮にはちゃんと参拝していたりするんだ」
「名古屋の方の神社だね」
「あそこにね。桶狭間の戦の前に参拝していたりするし」
 このこともお話した先生でした。
「織田家は元々神主の家だったしね」
「そうだったんだ」
「確かなお坊さんとはお話して敬ってもいるし」
「別に神仏を嫌ってはいなかったんだ」
「そうみたいだよ、ちゃんと敵の武将もそうした供養をしているし」
 仏教のそれで、です。
「僧兵や一向一揆とは戦っておかしなお坊さんは成敗しているけれど」
「普通の信者やお坊さんはなんだ」
「一切手を出していないよ」
「そうだったんだね」
「自分が神様になろうとしていたとも言われているけれど」
「それ日本じゃ普通ですよね」
 トミーも言ってきました。
「神道では」
「豊臣秀吉さんも徳川家康さんもなっているね」
「はい、神社に祀られて」
「他の歴史上の人達にしても」
「さっきお墓を見た上杉謙信さんにしても」
 この人もなのです。
「神様になってますよね」
「毘沙門天を深く信仰していた人だけれどね」
「仏様を」
「このことは日本では普通だしね」
 至ってです。
「そしてここにお墓がある人達は真言宗でない人が殆どだしね」
「そうなんですね」
「もうそこはね」
「日本ではですね」
「そんなに意識されていないよ」
 そうした状況だというのです。
「神仏を共に信仰している国だからね」
「このことはですね」
「特に意識しないでね」
 そうしてというのです。
「一緒にここで眠ってもらっているんだ」
「そういえば徳川吉宗さんのお墓もありましたね」
「うん、お祖父さんのお墓もね」
 吉宗さんのです。
「あるしね、それで信長さんにお話を戻すけれど」
「別にだね」
「無神論者ではなかったんですね」
「僕が見るところのね、安土城の石垣に墓石とかを使ったのは」
 それはといいますと。
「どうも霊的な結界にしたくて使ったらしいしね」
「そうしたものがあると信じていたから」
「だからですか」
「お城の霊的な結界に使う為になんだ」
「石垣に使ったんですか」
「あのお城の天主閣も様々な宗教的なものが内包されていたというし」
 今はないこの天主閣もというのです。
「信長さんは別にね」
「宗教を否定していた訳じゃない」
「そうした人だったんですか」
「そうみたいだよ、ただそれでもね」
 信長さんが宗教を否定しない人だとしてもというのです。
「高野山を焼こうとした人なのは事実でね」
「その人がここにいるのは」
「お墓があるのはね」
「確かに謎よね」
「しかも空海さんのお墓のすぐ傍に」
「これはどうしてなのか」
 動物の皆にまたお話した先生でした。
「本当に謎だよ」
「空海さん今も生きているんだよね」
「そうだよね」
 オシツオサレツはここでこのお話を出しました。
「お世話をする人もおられるし」
「即身仏になられても」
「じゃああそこでね」
 ホワイティは空海さんのそのお墓の方を見ました、高野山の墓地の中でも一番高いところにあって立派なそこにです。
「空海さんは今も暮らしているんだね」
「そして信長さんのお墓がここにある」
 ジップは信長さんのお墓を見ました。
「お身体は本能寺の変で焼け落ちたみたいだけれど」
「けれど魂はあるのよね」
 ダブダブは信長さんのお墓に信長さんの魂が休んでいると考えて言いました。
「あそこに」
「空海さんはどう思われているのかな」
 トートーはお二人のお墓を交互に見ながら考えています。
「このことを」
「空海さんの魂はここに今もおられるし」
 チーチーもこのことから考えます」
「ご自身の山を攻めようとした信長さんがすぐ傍にいても平気なのかな」
「凄くわからないよ」
「私達もね」
 チープサイドの家族も必死に考えていますがわかりません。
「どうもね」
「これは幾ら何でも」
「そもそも誰が信長さんのお墓をここに置こうって言ったの?」 
 ポリネシアも言います。
「一体ね」
「そうだよね、誰かな」
 老馬もそこがわからなくなっています。
「こんなことを言ったのは」
「謎が謎を呼ぶ?」
 ガブガブは何処かの時代劇みたいなことを思いました。
「まさにね」
「こんなに謎だらけなんて」
「凄いよね」
「まさかこんなに謎のことがあるなんてね」
「この高野山に」
「本当に考えれば考えるだけわからなくなるよね」
 先生はここでまた皆にお話しました。
「このことは」
「空海さんは凄い方でね」
「まさに日本の歴史上でも物凄く立派な人だけれど」
「けれどそんな人のお傍に高野山を攻めようとした人のお墓があるのは」
「凄いよね」
「このことはこれからも調べていくよ」
 先生もそうすると皆に答えました。
「僕もね」
「うん、先生の課題の一つよね」
「学者としての」
「じゃあこれからもね」
「高野山のことも勉強していくのね」
「そうしていくよ、じゃあとりあえず休める場所を探して」 
 今度はこんなことを言った先生でした。
「そうしてね」
「あっ、もういい時間ですね」
 トミーが先生のそのお言葉に気付きました。
「お茶を飲む」
「そろそろだよね」
「じゃあティータイムですね」
「やっぱりお茶は飲まないとね」
 先生にとってはです、本当にこの時間を忘れてしまうと先生としてはどうしようもなくなってしまうのです。
「僕は元気が出ないから」
「だからですね」
「お寺の人にもお話をしてね」
 お許しを得てからというのです。
「飲もうね、ただお寺の中だから」
「紅茶ではなくですね」
「日本のお茶のね」
 こちらのというのです。
「和風ティータイムになるかもね」
「そちらで、ですね」
「お寺にはお茶が付きものだよ」
 仏教のお寺にはというのです。
「どうしてもね」
「修行の眠気覚ましですね」
「その為に必要だからね」
 どうしてもというのです。
「お寺にお茶は付きものでね」
「この高野山でもですね」
「お茶はあるし」
 それでというのです。
「そちらになるかもね」
「そうですか、そしてそれもですね」
「いいね」 
 笑顔で言った先生でした。
「それもまた」
「そうですね、先生も僕達もそちらのティータイムも好きですしね」
「レモンティーでもよくなったしね」 
 つまりアメリカ式です、アメリカでは紅茶はミルクティーではなくこちらで飲むことが多いのです。
「中国風のもね」
「そうですよね」
「じゃあ今からね」
「高野山でもですね」
「ティータイムを楽しもうね」
 笑顔でお話した先生でした、そしてお寺の人とお話をしますとそれならとです。お寺の人はお茶とお菓子を出してくれたのですが。
 見事なお抹茶とぼた餅、三色団子に羊羹でした。その和風三段ティーセットを見てです。動物の皆もうっとりでした。
「いいね」
「和菓子もいいよね」
「見た目も素敵でね」
「食べても実際美味しいし」
「それじゃあね」
「今から皆で食べましょう」
「そうしようね」
 先生も笑顔です、そうしてでした。
 皆でそのお抹茶とお菓子を楽しみはじめました、先生はお抹茶を一口日本の作法で飲んでからこんなことを言いました。
「気分がすっきりするね」
「そうよね、お茶を飲むとね」
「日本のお茶もね」
「気分がすっきりしてね」
「元気も出るよね」
「だから毎日飲まないとね」 
 それこそというのです。
「僕は駄目なんだよ」
「日本のお茶でもだよね」
「お抹茶でもね」
「すっきりしてね」
「美味しいしね」
「元気が出てね」
「動けるしね」
「学問にも励めるんだよね」
 動物の皆も飲んで食べて楽しんでいます、そしてです。
 先生はお抹茶を飲んでこうも言いました。
「空海さんが山を開いた頃はお茶はね」
「あっ、とても高価だったね」
「日本でもどの国でもね」
「とても高いもので」
「今みたいに誰でも飲めるものじゃなくて」
「空海さんでもね」
「そうそう飲まれていなかった筈だよ」
 平安時代のはじめの頃はというのです。
「そもそも禅宗から広まったしね」
「お茶を飲むことは」
「仏教の修行の為でも」
「それでもだね」
「平安時代の頃にはまだ」
「ここは真言宗だしね」
「そんなに読んでいなかったみたいだよ」
 空海さんが開いた時はというのです。
「そうみたいだよ、けれど今はね」
「こうしてだね」
「皆お茶を飲んでるね」
「それも楽しく」
「そうしてるね」
「うん、修行の為でもなくてね」
 これとも違ってというのです。
「飲んでるよね」
「そうだよね」
「先生は趣味だしね、完全に」
「元気を出す為だけれど」
「生きがいの一つだからね、先生にとっては」
「僕が昔に生まれていたらどうだったかな」
 お茶が高くてとても飲めない時代にです。
「本当に」
「ううん、想像出来ないね」
「学問をしない先生も考えられないけれど」
「お茶を飲まない先生もね」
「考えられないわ」
「僕自身もだよ」
 羊羹を食べつつ応える先生でした。
「お茶がないとね」
「どうなるやら」
「その時の先生は」
「毎日飲んでるしね」
「ティータイムでなくてもね」
「一体何杯飲んでるかな」 
 一日にです。
「僕は」
「お酒を飲まない日はあるけれどね」
「お茶を飲まない日ないわね、先生」
「特に紅茶は」
「日本に来てから色々なお茶を飲む様になったけれど」
「お茶自体がないと」
 それこそです。
「どんなことになってたか」
「一切わからないわ、私達も」
「その時の先生は」
「学問とお茶がない先生なんて」
「それこそ」
 動物の皆もそうでした。
「あと僕達が周りにいないと」
「動物がね」
「皆がいないとね」
「先生はどうなのか」
「動物と縁がない先生もね」
「全然想像がつかないわ」
「そうだね、僕も本当にね」
 先生自身このこともでした。
「皆が傍にいてくれないとね」
「うん、どんな風か」
「僕達も先生がいないと駄目だしね」
「先生がいてこそね」
「色々楽しいしね」
「生活も出来るしね」
「僕もそう思うよ、若しもだよ」
 王子もお抹茶を飲んでいます、あとぼた餅もさっき食べていました。
「先生が学問ともお茶とも縁がなくてね」
「動物の皆もとだね」
「縁がなかったら」
 それこそというのです。
「先生じゃない別の誰かだよ」
「そうだよね」
「先生は日本にいても先生だよ」
 祖国イギリスを離れてです、そして日本文化に親しんでいて今では日本語を普通に喋っていてもです。
「けれどこの三つと縁がなかったら」
「僕じゃないね」
「そう思うよ」
「全くだね、皆もいてね」
 王子とトミーも含めて言うのでした。
「僕は僕になっているね」
「そうだね、ただ」
「ただ?」
「僕は縁があるものはあってね」
 先生は団子を食べつつお話しました。
「ないものは徹底的にないんだよね」
「スポーツかな」
「もうこれはね」
 それこそです。
「ないね、あと煙草やドラッグもね」
「ドラッグは問題外だしね」
「いつも皆に言ってるけれど」
「ドラッグの類はね」
「したらね」
 それこそというのです。
「身体も心も破滅するよ」
「そうだよね」
「だからこうしたものは縁がなくて本当にいいよ」
 こう王子にもトミーにも動物の皆にもお話しました。
「そして最後にね」
「ああ、女の人だね」
「うん、もうこのことはね」
 ご自身では何も気付かないままです、先生は達観した笑顔でお話をしました。
「どうしようもないからね」
「先生はもてないんだね」
「本当にもてないんだよ」
 断言した先生でした。
「そんな外見じゃないしね」
「人間心だけれどね」
「外面なんかじゃなくて」
「ましてや運動神経だけじゃない」
「そうなんだけれど」
 動物の皆はいつも通りこうしたことにはこう言う先生にやれやれでした。
「ちょっとだけでもね」
「先生が恋愛を知っていればね」
「高野山はそうした場所じゃなくても」
「気付いてくれたら」
「私達も一安心なのに」
「全くね」
「いやいや、本当に僕はだよ」
 それこそというのです。
「もてたことは人生で一度もないから」
「一度もなの」
「学生時代から?」
「そして子供の頃からも」
「ないの」
「ないよ、本当に」
 それこそ一度もという返事でした。
「これがね、僕に女の人はね」
「全く縁がない」
「もう他の何よりも」
「そう言い切るのね」
「気付かないまま」
「いやいや、自分のことだからわかってるよ」
 本当にご自身ではこう思っています。
「この外見でスポーツは全然駄目でね」
「やれやれね」
「これじゃあ進展が全くないのも仕方ないわ」
「先生が気付くのは何時か」
「もうここに信長さんのお墓があるのと同じ位の謎ね」
 それこそと言う動物の皆でした。
「わからないね」
「先生が気付かないのは」
「全く以てね」
「確かに器用な人じゃないけれど」
「家事は全然出来ないし」
 本当にこうしたことは出来ないです。
「器用さとも無縁だけれど」
「さっきお話に出なかったけれどね」
「いや、こうしたことに気付かないって」
「やっぱりね」
「問題あるわ」
「先生もっと見たら?」
「絶対傍にあるよ」
 先生の、というのです。
「もうすぐそこに」
「少し立ち止まって周りを見たら気付くよ」
「僕達も言ってるし」
「いつもね」
「だから僕は女の人にはもてないんだよ」
 先生の言うことは変わりません。
「サラは結婚したらって言うけれどね」
「このまま?」
「このまま結婚しないで」
「僕達と一緒にいるの」
「トミーや王子とも」
「皆には悪いけれどそうなるかな」
 独身のままだというのです。
「僕はね」
「まあ僕達はずっといるけれどね」
「先生と一緒にね」
「イギリスにいた時からそうだったし」
「これからもだけれどね」
「けれど先生のそうした考えは」
 動物の皆にしてみればです。
「どうかと思うわ」
「本当にね」
「もっと努力しないと」
「そっちの方も」
「人は興味がないと何もしようとしないけれど」
「どうしてもね」
「それでもね」
 皆はここで天才とは何かという先生と今回の旅の中でお話したことを思い出しました、そのうえでやり取りを続けるのでした。
「もっとね」
「そうしたことも努力しないと」
「どうしようもないわよ」
「恋愛のことなんかもね」
「努力してね、ちょっとは」
「先生の場合ちょっとでいいんだし」
「あれっ、ちょっとでいいって」
 皆のその言葉にかえって驚いた先生でした。
「僕の場合相当に努力しないと駄目なんじゃないかな」
「そうでもないわよ」
「そうそう、先生ならね」
「周りをちょっと見るだけでいいから」
「それで絶対にはじまるよ」
「そしてハッピーエンドまで一直線」
「そうなるわよ」
 皆は先生の周りの状況を知っているのでこう言えました。
 ですがそれでもとです、先生にあらためて言うのでした。
「だからね」
「縁結びのお願いしたら?」
「高野山はそうしたところじゃないみたいだけれど」
「そうしてみたら?」
「そうじゃなかったら少しは努力する」
「周りを少しだけ落ち着いて見回してね」
「僕は焦らなくて慌てない性分だけれど」
 先生の性格の特徴です、だからいつも冷静で落ち着いて物事への対応を取ることが出来るのです。このことは先生をいつも助けています。
「このことはいつも以上にかな」
「そうだよ」
「もっと頑張ってね」
「恋愛のこともね」
「そうしてね」
「高野山でこうしたお話をするとは思わなかったけれど」
 それでもと思った先生でした。
「まあ落ち着いてね、いつも以上に」
「そうして周り見てね」
「じっくりとね」
「そうしたらわかるから」
「先生はそれだけでいいの」
「そこから先生の恋愛がはじまるから」
 事情をよくわかっている動物の皆は言うのでした、ですが先生は気付かないまま戦士絵のその言葉に頷くのでした。そうして皆と一緒に高野山を巡っていくのでした。



高野山でもティータイム。
美姫 「皆と一緒に楽しんでいるようね」
良い事だ。
美姫 「次回も高野山かしら」
どうなるのか次回を待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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