『ドリトル先生と奇麗な薔薇園』




               第八幕  雨と薔薇

 その日は朝から雨でした、それでトミーが先生に朝御飯の時に尋ねました。
「雨ですから」
「登校はだね」
「どうされますか?」
「晴れだと歩いて行ってるけれどね」
 いつもそうしています、先生はトミーに納豆をかき混ぜつつ答えました。
「雨だとね」
「いつもあれですよね」
「皆には雨衣を着てもらってね」
 先生達が着けてあげるのです」
「そうして行ってるけれど」
「それで今日もですね」
「うん、僕は傘を持ってね」
「そうしてですね」
「行って来るよ」
「わかりました、ただ」
「研究室に入る時はだね」
 先生もその時のことはわかっています。
「しっかりとね」
「動物の皆の足は拭きましょう」
「わかっているよ、そのこともね」
「はい、それじゃあ」
「今日も御飯を食べたらね」
「学校に行かれますね」
「それで講義もしてね」
「論文もですね」
 トミーから言ってきました。
「そちらも」
「うん、昨日で論文は脱稿したけれど」
「今日からは新しい論文の執筆ですね」
「それにかかるよ」
 先生はトミーににこりと笑って答えました。
「そうするよ」
「もう論文を書いて書いてですね」
「止まっていないね」
「そうなっていますね」
「うん、論文を書いているとね」 
 先生は納豆御飯を美味しく食べながらトミーに答えました。
「やっぱりね」
「学者としてですね」
「仕事をしているって気持ちになれるしね」
「論文からですね」
「色々と得られるものがあるから」
 だからだというのです。
「凄くね」
「やりがいがありますか」
「あるよ」
 実際にというのです。
「だからね」
「あらゆる分野の論文をですね」
「書いているんだ」
「そして発表していますね」
「そうしているんだ、それとね」
 ここでさらにお話する先生でした、大根のお味噌汁を飲んでからメザシを見つつ梅干しをお箸で摘みました。
「今度の論文は英文学だけれど」
「祖国ですね」
「僕達のね」
「誰の論文ですか?」
「トールキンだよ」
 この人の論文をというのです。
「そちらに取り掛かるよ」
「トールキンですか」
「イギリス文学と言っていいね」
「はい、もうイギリス文学の金字塔の一つを書いた人ですから」
「指輪物語を」
「ですからもうです」
「ファンタジーとか言って文学じゃないとかね」 
 そうした言葉はというのです。
「間違っていると思うよ、僕はね」
「だからですね」
「今度はトールキンについて書くよ」
「わかりました、そちらも頑張って下さい」
「いずれハリー=ポッターも書きたいしね」
 この名作についての論文もというのです。
「是非ね」
「わかりました、ただ」
「ただ?」
「ハリー=ポッターの映画ですが」
 映画のお話をするトミーでした、見ればトミーも納豆ご飯を楽しく食べています。その味はとても美味しいものです。
「何か食事の場面が」
「ああ、食堂でのだね」
「メニューが酷いと」
「そうした意見が出ているね」
「はい、日本では」
 どうしてもというのです。
「他の国でもですが」
「よく言われているみたいだね」
「何か我が国はどうしても」
「食文化ではね」
「よく言われないですね」
「映画に出ているものでも言われる位だからね」
 少し苦笑いになって言う先生でした。
「実際に日本に来て思ったよ」
「我が国のお料理は」
「メニューも味もね」
「どうにもですね」
「何しろ烏賊を食べることさえ知らなかったからね」
「烏賊はもう日本だと」
「普通ですね」
「そう、普通だよ」
 ごく普通に食べられるというのです。
「お好み焼きでも天婦羅でもお刺身でも何でもだね」
「普通に食べますね」
「そこからして違うからね」
「蛸も食べないですしね」
「そうそう、イギリスではね」
「そうした風ですから」
「お魚も鱈とか鮭をムニエルかフライにするだけだからね」
「こういうのもないですから」
 メザシを見て言うトミーでした。
「そう考えると」
「ハリー=ポッターの映画でも」
「出て来るお料理が質素というのも」
 かなり控えめに言うトミーでした。
「仕方ないですか」
「そうだね、何か映画の食べものもよりも」
「今僕達が食べている日本の朝御飯の方が」
「いいかもね」
 こうしたお話をしながらです、先生達は納豆御飯を食べてそうしてでした、そのうえでなのでした。
 先生は大学に行きました、そうして。
 一緒に来ている動物の皆の雨衣を取ってあげて足も拭いてあげてです、こう言いました。
「君達は今日はね」
「うん、ここでね」
「雨が降ってから」
「お部屋に中にいてだね」
「過ごしてね、そしてね」
 そのうえでというのです。
「食事の時はね」
「うん、その時はね」
「研究室から出るけれど」
「その時以外は」
「こうしてね」
 まさにというのです。
「是非ね」
「うん、わかったよ」
「その時以外はね」
「ここにいるから」
「おトイレは研究室がある校舎でするから」
「先生は安心して講義にも出てね」
 動物の皆もこう言います、そしてでした。
 先生達は今は一緒にいます、ですが。
 講義の時間になると一旦研究室を出て講義をしてです、また研究室に戻ってきたのですがここでなのでした。
 先生は皆にです、こんなことを言いました。
「いいものを見てきたよ」
「いいもの?」
「いいものっていうと」
「薔薇だよ」
 それがあるというのです。
「雨の中で咲いていたけれど」
「ああ、昨日言ってたね」
「そのお話してたね」
「それで今雨が降ってるから」
「それで」
「うん、雨が降ってるその中でね」
 まさにというのです。
「薔薇が咲いているんだ」
「あっ、じゃあね」
「先生観てきたら?」
「雨の中で咲いている薔薇をね」
「そうしてきたら?」
「いや、よかったらね」
 ここでこう言った先生でした。
「皆もどうかな」
「僕達も?」
「僕達もなの」
「一緒にどうかって」
「そう言うの」
「うん、どうかな」
 先生は皆にまた言いました。
「一緒にね」
「僕達は別にね」
 ホワイティが最初に先生に言いました。
「構わないけれど」
「雨衣着ればいいしね」
 チーチーも言います。
「足とか他にも濡れた部分は先生が優しく拭いてくれるから」
「だから雨の中に出てもいいけれど」
 ジップが続きました。
「僕達はね」
「けれどだよ」
「先生が雨衣を着せてくれて拭いてくれるから」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「有り難いけれど」
「それで大変だよね」
「先生の苦労を考えたら」
 老馬も心配して言います。
「ちょっとね」
「うん、僕達はここにいるから」
 ガブガブも先生を気遣っています。
「先生だけで観ていったら?」
「それでいいんじゃないかしら」
 ポリネシアもこう言います。
「先生だけでね」
「僕達はここにいるよ」
 トートーはガブガブと同じことを言いました。
「先生だけ行ったらいいよ」
「そうそう、楽しんできて」
「先生でね」
 チープサイドの家族も先生に言います。
「雨の中で咲く薔薇ね」
「それをね」
「私達はここでお昼寝でもするわ」
 最後に言ったのはダブダブでした。
「それはそれで楽しいし」
「とはいってもね」
 先生は先生だけでどうと言う皆にさらにお話しました。
「実はこの校舎から別の校舎に行く渡り廊下からね」
「ああ、あそこね」
「あそこからなの」
「観られるの」
「そうだったんだ」
「うん、あそこのすぐ近くに薔薇園があるね」
 まさにそこにというのです。
「そしてあそこから向こう側に洋館も見えるし」
「そういえばそうだね」
「あそこにも薔薇園あったし」
「洋館も観られるから」
「それじゃあ」
「皆で観に行こう」
 是非にと言うのでした。
「お昼休みにでもね」
「そうだね」
「それじゃあね」
「あそこから観られるなら」
「そうしましょう」
「是非ね」
 皆もそれならと頷きました、そしてです。
 皆は実際に先生と一緒にお昼御飯の後で渡り廊下の方に向かいました、その途中先生は皆にこんなことを言いました。
「今日の鱈のムニエルは最高だったね」
「うん、いい焼き加減でね」
「味付けもよかったよ」
「大きかったしね」
「最高だったわ」
「サラダも野菜がたっぷり入ったスープもよかったよ」
 先生はこちらもと言いました。
「本当にね」
「パンだってそうだったし」
「イギリス風のサンドイッチね」
「あれもよかったわ」
「そう、全体的にイギリスのお料理だったけれど」
 このお昼先生達が食べたものはそうでした。
「けれどね」
「ひょっとして」
「先生今朝トミーとお話していたけれど」
「ハリー=ポッターの映画で出ていたあれが」
「随分酷いって」
「うん、それがね」
 どういう訳かといいますと。
「日本で食べると」
「美味しかったね」
「同じメニューの筈なのに」
「何故か日本で食べると美味しい」
「不思議よね」
「メニューも問題だけれどそのメニューもね」
 先生はさらに言いました。
「日本だとね」
「美味しいってことだね」
「焼き加減や味付けがしっかりしてるから」
「それで」
「うん、そうだね」 
 まさにと言う先生でした、そして。
 先生はあらためてです、皆に言いました。
「それじゃあ今からね」
「うん、薔薇だね」
「薔薇を観に行くんだね」
「雨の中に咲いている薔薇を」
「そうしましょう」
 こうしたお話をしてです、そうして。
 皆で一緒に渡り廊下に来ました、するとそこのすぐ近くにある薔薇園に咲いている薔薇達がでした。
 降り続けている雨に濡れていてです、普段とは違った奇麗さを見せていました。それを見て動物の皆は思わず唸りました。
「これは」
「いいわね」
「晴れの日とはまた違ったよさがあるね」
「お花だけでなく葉や茎も濡れていて」
「棘までが」
 その全てがそうなっていてというのです。
「それもまたね」
「よしね」
「しかも遠くに洋館が観えるけれど」
 高等部のそれがです、遠くにありますが確かに観えます。
「薔薇と洋館が一緒に観られて」
「しかも雨の中でのそれが」
「ここで観られるなんて」
「思いも寄らなかったわ」
「学園のお花のスポットはね」
 先生は笑顔で皆にお話しました。
「全部チェックしていてね」
「それでなんだ」
「ここでなんだ」
「僕達にも見せてくれたんだ」
「そうなのね」
「うん、お花は見ても研究しても嬉しいから」
 それでというのです。
「それじゃあね」
「うん、観ましょう」
「今からね」
「じっくりとね」
「そうしようね、しかし日本の雨はね」
 その薔薇を濡らして飾ってる雨についてもお話する先生でした。
「イギリスの雨とはまた違ったね」
「奇麗さがあるね」
「何か銀色に澄んでいる感じで」
「この降り方もね」
 今は小雨です、霧雨というまではいかないですがそれでもしとしとと静かに降っている感じの雨です。
「いいね」
「お花を奇麗に濡らす感じで」
「お花を飾るだけじゃなくて潤している」
「そんな風でね」
「うん、とてもいいね」
 本当にと言った先生でした、そしてです。
 先生達はまた洋館を観ました、すると。
 その洋館を観てです、また言いました。
「こうした雨の中の洋館もいいね」
「そうだね」
「洋館の方もね」
「凄くいいね」
「趣があって」
「イギリスのお家もいいけれど」
 それでもというのです。
「雨の中でもね」
「イギリスは雨が多いしね」
「もう雨ばかりのお国だから」
「ロンドンなんかもそうだし」
「霧だって出るし」
 伊達に霧の都と呼ばれている訳ではありません、スモッグは出なくなりましたがロンドンの霧は今も有名です。
「霧のロンドンエアポートなんか大変よ」
「もう飛行機が出られるかどうか」
「そんな問題になるから」
「本当にね」
「そう、けれどね」
 それでもと言う先生でした。
「奇麗だね、けれどね」
「うん、けれどね」
「それでもよね」
「雨の中のイギリスのお家も奇麗ね」
「確かに」
「そして日本の洋館もね」
 こちらもというのです。
「凄く奇麗だね」
「独特の風情があって」
「本当に和歌にしたらいいかも」
「そうだね」
「そんな和歌があっていいかも」
「そうだね、インスピレーションがきたら」
 先生に和歌のそれがです。
「その時はね」
「うん、是非ね」
「先生詠んでね」
「そして僕達にも読ませてね、その和歌」
「待ってるから」
「そうさせてもらうよ」
 笑顔で応えた先生でした、そうして皆で雨の中で咲いている薔薇と遠くに観えている洋館の景色を楽しんでからです。
 研究室に帰りました、それから少し指輪物語と著者のトールキン教授についての論文を書いていますと。
 研究室にある人が入ってきました、その人はといいますと。
「あの、この大学の演劇部の者ですが」
「あっ、この前に」
「はい、植物園の薔薇園で稽古をしていた」
「その中にいたんですが」
「そうだったね」
「あの時はどうも」
 見れば小柄で童顔の女性です、背は一四五なくて小学生に見える位です。その服装も何処か子供みたいです。
「悠木といいます」
「悠木さんだね」
「文学部の二回生です」
 先生に自己紹介をしました。
「そちらでフランス文学を学んでいます」
「フランスというと」
「実は今度の舞台はベルサイユの薔薇をするんですが」
「あの作品は」
「漫画ですね」
「うん、日本のね。あっ、座って」
 先生は悠木さんが立ったままなのですぐにこう言いました。
「そうして」
「座っていいですか」
「うん、いいよ」
 悠木さんに笑顔で言います。
「そうしてね」
「そしてですか」
「お茶も出すから。丁度ね」
 笑顔でさらに言う先生でした。
「ローズティーもあるしね」
「ベルサイユの薔薇だからですか」
「そう、薔薇のね」
「お茶ですか」
「それを出させてもらうよ」
「すいません」
「お礼はいいよ、とにかくね」
 先生は悠木さんに研究室のテーブルに座ってもらってからさらに言うのでした。ローズティーは動物の皆が用意しています。
「ベルサイユの薔薇は」
「漫画ですね」
「うん、日本のね」
「舞台のことなので」
 部活のというのです。
「皆でお話をして」
「そしてだね」
「はい、この作品にしようとなったのですが」
「それで稽古をしていたんだね」
「この前の稽古では別の作品でしたが」
「ベルサイユの薔薇もなんだ」
「上演することになっていまして」
 それでというのです。
「稽古もはじめたのですが」
「迷っているのかな」
「はい、何かこうです」
 悠木さんは困っているお顔で先生に言いました、ここでローズティーが出ました。
「ベルサイユの薔薇らしい」
「そうしたことがなんだ」
「出せない感じがしまして」
「悩んでるんやな」
「何かです」
「もっとベルサイユのだね」
「あの豪奢な感じを出せたらと」 
 悠木さんは真剣に考えるお顔で言うのでした。
「考えているのですが」
「ううん、どうしてもね」 
 先生は悠木さんに答えました。
「難しいところがあるね、舞台だと」
「そうですね、漫画ではです」
「ベルサイユ宮殿を描いているからね」
 その背景にです。
「だからベルサイユにいるって感じがするけれど」
「そうですよね」
「けれどね」
「それが、ですね」
「うん、宝塚でもね」
 ベルサイユの薔薇を上演しているこちらではです。
「見事に舞台に再現しているね」
「そうですね」
「うん、けれどね」
「大学の舞台では」
「お金の事情でね」
「どうしても出来ないです」
「衣装はあるよね」
 そちらはとです、先生は悠木さんに答えました。
「そうだよね」
「はい、歌劇部との共有ですが」
「当時の貴族の衣装もあるからね」
「軍服もあります」
 オスカルが着ているあの豪奢なものもというのです。
「そちらは大丈夫ですが」
「それでもだね」
「肝心の舞台ですが」
「それだね、宮殿をだね」
「はい、それがです」
 どうしてもというのです。
「再現出来ないのですが」
「そうだね、それならね」
「何か解決案がありますか?」
「僕にそのことで相談に来てくれたんだよね」
「はい、先日のお話のこともありまして」 
 植物園の薔薇園のそれです。
「ですから」
「それで、だね」
「演劇部の顧問の先生ともお話をしていますが」
「そちらの先生はどう言ってるのかな」
「はい、先生は実はです」
 その先生のお話はといいますと。
「ここは抽象的にしようとです」
「言っているんだね」
「はい、あえて凝らずに」
「あれだね、ドイツの歌劇でも多い」
「ええと、確か」
 ここで悠木さんが言うことはといいますと。
「ワーグナーの作品でよくある」
「リヒャルト=ワーグナーのね」
 ドイツを代表する音楽家です、その作品はバイロイトという場所にある歌劇場で専門的に上演されています。
「ああいった感じでだね」
「そうしていこうかとです」
「そうだね、お金の問題はね」
「どうしてもありますから」
「それを忘れてはどうしようもないから」
 本当にお金は大事です、このことを放置したり忘れたりしては作品は動くことも何もあったものではありません。
 それで、です。先生も言うのです。
「だからだね」
「はい、今本当にです」
「お金のこととも相談して」
「考えていますが」
「僕hとしてへ」
 先生は悠木さんに穏やかなお顔で答えました。
「先生のお考えでね」
「いいとですか」
「うん、そちらの顧問の先生のね」
「抽象的なもので」
「そう、現代風といえばあれだけれど」
「舞台をあえて簡素にした」
「そうしたものでいいと思うよ、ベルサイユ宮殿なんてね」
 それこそというのです。
「物凄い豪奢な場所でね」
「再現するとなるとですね」
「物凄いお金がかかるからね」
「そうですよね」
「ベルサイユの薔薇は前にも上演してるのかな」
 先生は悠木さんにこのことも尋ねました。
「どうなのかな」
「はい、していますが」
「そうなんだ」
「はい、二十年位前だそうです」
「もう僕達がこの大学に来るずっと前だね」
「その頃のことですが」
 それでもというのです。
「上演しています」
「それじゃあその時は」
「はい、どうもその時もです」
「抽象的だったんだね」
「そうでした」
「そうだね、よく見れば宝塚の上演もね」
 ベルサイユのそれもです。
「舞台は抽象的な場合も多いね」
「そういえばそうですね」
「だからね、ここはね」
「もう抽象的でいいですか」
「お金のことを考えると難しいから」
 ベルサイユ宮殿の再現等はお金がかかるというのです。
「だから先生のお考えでいいと思うよ」
「そうですか」
「うん、ただね」
「ただ?」
「いや、主人公オスカルは薔薇といっても白薔薇でね」
 登場人物のことをお話した先生でした。
「そしてマリー=アントワネットは赤薔薇だそうだから」
「ベルサイユの薔薇の中で」
「そこはイメージすべきかな」
「薔薇をですか」
「タイトルにもあるしね」
「成程、それはですね」
「僕がちょっと思ったことだよ」
 こう悠木さんに言うのでした。
「今ね」
「植物学者でもある先生のですね」
「そうなるね」
「そうですね、では」
「僕は演劇や芸術の論文も書くけれど」
 こちらの論文もしっかりと書いている先生です。
「けれど専門家かというと」
「そうじゃないですか」
「演出家でも監督でも役者でもないよ」
 専門家ではないというのです。
「舞台を観ることは好きでもね」
「それでもですか」
「うん、専門家ではないからね」
「アドバイスだけですか」
「うん、ただね」
「お花をですか」
「効果的に使ったら」
 それが出来ればというのです。
「抽象的でお金をかけないものでもね」
「いい演出が出来ますか」
「そうじゃないかな」
「それじゃあ」
 悠木さんは先生の言葉に頷きました、そしてです。
 そのお話を聞いてからローズティーを一口飲んで言いました。
「そういえばマリー=アントワネットはカーネーションとも関係がありましたね」
「うん、そうだったね」
「それにジャガイモのお花をあしらったドレスを着たり」
「フランスにジャガイモを普及させる為にね」
 これはフランスの人達がジャガイモを食べてお腹一杯になる為のことでした。
「そうもしているよ」
「お花と縁が結構ありますね」
「当時のフランスはね、それにね」
「それに?」
「ベルサイユの薔薇の後の作品だけれど」
 それでもとです、先生は前置きしてお話しました。
「エロイカがあるね」
「同じ作者さんの作品でしたね」
「そう、ナポレオンを主人公にしたね」
 イギリス人である先生にとってはイギリスがとても苦しめられた強敵です、最後は勝つことが出来たにしろ。
 そうしたことも考えつつです、先生は悠木さんにお話しました。
「あの作品もあったね」
「ベルサイユの薔薇にもちらりと出ますね」
「そう、そしてナポレオンもだね」
「お花の逸話がありますか」
「皇后のジョセフィーヌも薔薇が好きでね」
 ナポレオンがこよなく愛したこの人もです。
「そして菫が好きでナポレオンもね」
「菫が好きですか」
「何しろ菫が象徴となっていた位だよ」
 そのお花がというのです。
「菫伍長と言われていた位で」
「そうだったんですね」
「とにかくね。お花をね」
 これをというのです。
「効果的に使うとね」
「いいですね」
「うん、そう思うよ」
「わかりました」
 悠木さんは先生のそのお言葉に頷きました。
「先生にお話してみます」
「そうしてくれると嬉しいよ」
「そうさせてもらいます」
 悠木さんは先生に笑顔で応えました、そのうえでローズティーを飲み終えてから研究室を後にしました。その後で。
 動物の皆は先生にこんなことを言いました。
「菫だったんだ」
「ナポレオンは菫が好きだったんだ」
「そうだったんだね」
「そうなんだ、それで本当に象徴になっていてね」
 菫がナポレオンのです。
「後で王政が復古した時に菫はフランスでは避けられていた位なんだ」
「そうだったんだ」
「そんなに菫と縁がある人だったんだ」
「派手好きなイメージがある人だけれど」
「軍服もあんなに青くて派手にしていたのに」
「ははは、軍服を言うと我が国もだね」
 先生は皆に笑って返しました。
「赤で派手だったね」
「あっ、そうだったね」
「デザインも豪奢でね」
「かく言うイギリスもね」
「派手だったね」
「そうだよ、他の国のことは言えないよ」
 軍服の派手さはというのです。
「そこはね」
「そうだね、今でもね」
「赤い軍服残ってるしね」
 チープサイドの家族がここで言いました。
「バッキンガム宮殿の衛兵さんとかね」
「グラスバンドのチームにしても」
「騎兵隊もそうね」
 ダブダブはイギリス自慢のこの兵隊さん達のことを思い出しました。
「儀礼的だけれど今も赤い軍服ね」
「やっぱりイギリスの色は赤かな」 
 ジップもこう言いました。
「軍服については」
「もう赤い軍服は儀礼的だけれどね」
 チーチーはこのことからお話しました。
「今も残ってるね」
「陸軍さんが赤でね」
 ポリネシアは陸軍以外の軍服も思い出しています。
「海軍さんはまさに青ね」
「ネイビー=ブルーだね」
 ホワイティが老馬の頭の上から言いました。
「その色だね」
「ネルソン提督も着ていたね」
 老馬はホワイティに続きました。
「あの色の軍服だったね」
「けれど陸軍で言うと赤は絶対だったね」
 トートーはきっぱりと言い切りました。
「当時はね」
「あの赤い軍服は今は儀礼的でも」
 それでもと言ったガブガブでした。
「フランスの青い軍服と対を為していたね」
「それで戦場でも戦ったね」
「ワーテルローでもね」
 オシツオサレツも歴史を語りました。
「我が国とフランスは敵同士でね」
「長い間戦争したんだよね」
「うん、今では協力することが多いけれど」
 それでもと言う先生でした。
「フランスとは長い間何度も戦争していたね」
「百年戦争とかね」
「欧州以外でも戦争していたし」
「フランスはオーストリアともずっと戦争していたけれど」
「イギリスともだったんだよね」
「あの国はどちらとより戦争をしたのかな」 
 フランスの歴史にも詳しい先生はふと思いました。
「イングランドから今に至る我が国と神聖ローマ帝国から至るオーストリアとね」
「プロイセンとも戦争していたけれどね」
「我が国とオーストリアとはしょっちゅうだったね」
「もう何度もね」
「戦争していたよね」
「そうだったよ、そしてお花の話に戻るけれど」
 ここでまた言った先生でした。
「フランス王家のお花は百合だったんだよ」
「確か盾の紋章でも使われていなかった?」
「そうよね」
「最初の王朝のカペー家の頃から」
「そうだったね」
「うん、そうだったよ」
 本当にというのです。
「白い百合がずっと王家のお花でね」
「国のお花だったんだね」
「ずっと」
「そうだよ、だからベルサイユの薔薇といっても」
 それでもというのです。
「薔薇が愛されていてもね」
「第一は百合だったのね」
「ずっとそうだったのね」
「日本の桜みたいかっていうと」
 そこまで絶対の位置にあったかといいますと。
「そこまではいかなかったと思うけれどね」
「日本人の桜への愛情は凄いから」
「もう何か違うから」
「特別な思い入れがあるから」
「春イコール桜っていう位に」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「あそこまではいかないと思うけれどね」
「それでもだったんだね」
「ずっと百合はフランス第一のお花だった」
「王家のお花だったのね」
「カペー家からヴァロワ家、ブルボン家になっていくけれど」
 フランス王家はこうお家が変わっていきました、とはいってもヴァロワ家はカペー家の分家筋でブルボン家はヴァロワ家の血縁だったのでずっとカペー家の血ではあります。
「それは変わらなかったんだ」
「百合はフランスのお花だった」
「そうだんあんだね」
「そうだよ、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「イギリスは薔薇だったんだよね」
「お花も違うのね」
「我が国とフランスは」
「そこもね」
「ちなみにオーストリアはエーデルワイスだよ」
 もう一国のフランスと長い間何度も戦ってきたお国はというのです。
「あのお花だよ」
「あっ、いいわね」
「エーデルワイスがお国のお花なんて」
「素敵ね」
「神秘的な感じがするわ」
「そうだね、あの国に合ってるね」
 エーデルワイスはオーストリアにというのです。
「エーデルワイスは」
「僕もそう思うよ」
「私も」
「オーストリアらしいよ」
「あの国にね」
「そうだね、そういえばね」
 ここでこうも言った先生でした。
「エーデルワイスはここにもあったね」
「日本に?」
「この国に」
「いや、この学園にもだよ」
 こう答えたのでした。
「勿論日本にもあるけれどね」
「ああ、そういえばね」
「植物園にもあったわね、エーデルワイス」
「あのお花も」
「高原に咲くお花だけれど」
 それでもというのです。
「この学園にもあるよ」
「そうだったね」
「じゃあまたエーデルワイスも観に行きましょう」
「そうしましょう」
 皆も笑顔で言います、そしてふとです。
 先生が窓の方を観るとです、これまでずっと降っていた雨がでした。
「止んだみたいだよ」
「あっ、そうなの」
「雨が止んだの」
「そうなの」
「うん、さっきまで降っていたけれど」
 朝からです、降り続けていたけれどというのです。
「遂にね」
「止んだんだね」
「そうだね」
「うん、止んだよ」
 実際にというのです。
「よかったよ、じゃあね」
「じゃあ?」
「じゃあっていうと」
「今度はね」 
 先生はローズティーのおかわりをしつつ皆にお話しました。
「雨上がりの薔薇を観に行こうか」
「あっ、そうね」
「止んだら止んだでね」
「濡れた薔薇を観るのもいいし」
「それじゃあね」
「観に行こう、雨上がりの薔薇達を」
「そうしましょう」
 動物の皆も先生のその提案に頷きました。
「折角だからね」
「雨を降る中の薔薇も観たし」
「今度は雨上がりの薔薇を観よう」
「そうしましょう」
 是非にと言ってです、そしてでした。
 二杯目のローズティーを飲んでからです、先生は動物の皆と一緒に雨上がりの薔薇を観に行きました。するとです。
 雨が止んで晴れてきているお空の下にお花だけでなく葉も茎も濡れたままの薔薇達があってその遠くにです。
 洋館があります、洋館の屋根も壁もまだ濡れていますが。
「ここからね」
「少しずつ乾いていくけれど」
「その乾く前のこの濡れた感じがね」
「いいのよね」
「そうだね、薔薇に残っている水滴も」
 そちらも観ている先生でした。
「風情があるね」
「詩的だよね」
「この雨上がりの薔薇と洋館も」
「それもね」
「これはやっぱりね」
 是非にと言う先生でした。
「和歌にしたいけれど」
「じゃあ書くの?」
「そうするの?」
「これから」
「としたいけれどね」
 ここで困った笑顔になる先生でした。
「それがね」
「うん、どうもね」
「それがだね」
「肝心のインスピレーションが来ない」
「そうなのね」
「そうだね、ただこの場面は覚えたから」
 頭の中に記憶として残ったからだというのです。
「インスピレーションがあったら」
「その時はね」
「和歌を書けるね」
「薔薇と洋館のそれが」
「雨上がりのね」
 まさにその時のというのです。
「出来るよ」
「じゃあね」
「その時は書いてね」
「僕達も待っているから」
「楽しみにしているからね」
「是非ね」
 こう答えた先生でした。
「いや、本当にね」
「書いてね、また」
「そうしてね」
「そうさせてもらうよ、しかし日本の薔薇と洋館の組み合わせは」
 この国にいて観るそれはというのです。
「ポエムにもなるけれど」
「和歌にもなる」
「そのどちらにもなる」
「素敵な場面ね」
「そうだね、どんな国のものがその中にあっても」
 それでもというのです。
「不思議と合って詩になるのが日本だね」
「そうね」
「じゃあ今からね」
「またお茶ね」
「その時間になったね」
「そうしようね、お茶は飲めば飲む程いいから」
 そうしたものだというのです。
「美味しいし身体にもいいからね」
「ビタミンあるし痛風にもいいし」
「他の成人病にもいいから」
「本当にいい飲みものよね」
「そうだね、だからまたね」
 さっきローズティーを飲んだけれどそれでもというのです。
「また飲もうね」
「今度はどんなティーセット?」
「今日はどんな風なの?」
「アメリカ風だよ」
 この国のものだというのです。
「レモンティーでね」
「それだね」
「じゃあセットもね」
「アメリカ風だね」
「うん、ドーナツにチョコバーに」
 それにというのです。
「アップルパイだよ」
「いいねえ、何かね」
「僕達も来日して色々なものを食べる様になったよ」
「ティーセットにしても」
「本当に変わったね」
 動物の皆も笑顔で言います、そしてです。
 先生達はそのアメリカ風のティーセットも楽しみました、そうしてからまた学問に励む先生なのでした。








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