『ドリトル先生の林檎園』




               第三幕  学会の後で

 先生は宿に入って温泉と晩ご飯の長野の山の幸をふんだんに使ったお料理と長野県のお酒を楽しんでからでした。
 発表する論文のチェックをしました、そうして一緒にいる皆に対して言いました。
「論文もね」
「いいんだね」
「間違いとかなかったね」
「それでちゃんと発表出来るんだね」
「うん、これならね」 
 まさにというのです。
「大丈夫だよ」
「先生はここには論文の発表で来てるしね」
「学会に参加する為に」
「だったらね」
「論文を忘れたら駄目だね」
「本末転倒だよね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「論文は絶対だったから」
「ちゃんとあってよかったね」
「じゃあ明日だね」
「論文を発表するんだね」
「そうするよね」
「そうだよ、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「面白いこともあるよ」
「面白いこと?」
「っていうと?」
「だからお蕎麦も食べて」
 そしてというのだ。
「木曽や上田や諏訪にも行って」
「ああ、そうだったね」
「長野県のフィールドワークもあったね」
「そっちもあったよ」
「じゃあそっちもしっかり見て回って」
「学ぶんだね」
「そうするよ、そして農業は」
 論文を発表するそちらはといいますと。
「長野県の林檎農園を見て」
「そっちもなんだ」
「しっかりと学んで」
「そしてだね」
「今後の学問に活かすんだね」
「そう考えているよ」
 実際にというのです。
「だからやるべきことは多いよ」
「何かいつもの旅行より盛沢山?」
「今回の長野県でのことは」
「そうなってる?」
「ひょっとして」
「そうだね、しかも長野県は広いから」
 このことからもお話する先生でした。
「移動も結構ね」
「大変だね」
「そうだよね」
「そのことも考えておかないとね」
「長野県は広いってことも」
「そのことも」
「そして盆地が所々にあるんだよ」 
 先生は地形のお話もしました。
「だから山と山を越えていかないと駄目だから」
「神戸より移動が大変だね」
「神戸は街自体には山がないからね」
「山が後ろにあるけれど」
「それでもね」
「そう、けれどね」
 それでもというのです。
「行き来していくよ」
「是非だね」
「そうしていくね」
「それで学問をしていくよね」
「今回も」
「そのつもりだよ」
 笑顔で言う先生でした、そうして次の日午前中から学会に出て論文を発表して他の人の論文を読んで発表を聞いてです。
 お昼は決まっていました、動物の皆と一緒にお蕎麦屋さんい入りました。
 そうしてまずはざるそばを食べて言いました。
「これはね」
「美味しいね」
「かなり美味しいね」
「これはいいね」
「素敵な風味でね」
「香りもいいし」
「コシも絶品だよ」
 動物の皆も笑顔で言います。
「いや、これはね」
「どんどん食べられるよ」
「ざるそばも何杯も」
「それで他のお蕎麦も食べられそうね」
「これから」
「ざるそばはおかわりするけれど」
 先生は笑顔で言いました。
「その後にもね」
「ざるそば以外も注文するね」
「その他のお蕎麦も」
「ざるそばの後で」
「そうするよ」
「いや、本場だけあって」
 チーチーはざるそばを笑顔で食べつつ言うのでした。
「見事な味だね」
「この味なら」
 ジップも言います。
「有名にもなるよ」
「これだけ美味しいとね」
 ガブガブも喜んでいます、食べながら。
「それも納得だよ」
「お蕎麦を麺にしたらこんなに美味しいってね」
 ホワイティの言葉はしみじみとしたものでした。
「そのこと自体が凄い発見だね」
「この風味もいいね」
 老馬もお蕎麦を器用に食べています。
「だから余計に美味しいよ」
「あとおつゆがね」
「ちょっと違うね」
 オシツオサレツはそちらに気付きました。
「関西とはね」
「そうだね」
「こっちのお蕎麦に合ってるつゆね」
 ダブダブはこう指摘しました。
「このそばつゆは」
「だから余計に美味しいんだね」
 トートーはダブダブに応えました。
「このお蕎麦は」
「薬味もいいわね」
 ポリネシアはこちらに注目しています。
「そちらも」
「いや、じゃあね」
「これからね」
 チープサイドの家族が最後にお話します。
「皆でお蕎麦を食べましょう」
「是非ね」
「そうしようね、それでおつゆは」
 先生はこちらのお話をしました、見れば先生はお蕎麦は噛んでそのうえでしっかりと食べています。
「関西のそばつゆとは違うよ」
「あっ、やっぱり」
「これはって思ったけれど」
「やっぱりそうだったんだ」
「そばつゆ違うのね」
「関西のものとは」
「そうだよ、東京の方もね」
 こちらのそばつゆのお話もするのでした。
「違うしね」
「何かあっちは辛いってね」
「よく言われるとね」
「関東のそばつゆは辛いって」
「そうね」
「そうなんだ、あとあっちではお蕎麦は噛まないのは」
 東京の方ではというのです。
「おつゆが関係しているんだ」
「おつゆの味でだね」
「噛まないんだ、東京だと」
「あちらだと」
「そうなんだ、東京の昔の江戸のそばつゆはおろし大根のお汁とお醤油でね」
 そうしたおつゆだったというのです。
「辛くてね」
「ああ、その組み合わせだと辛いね」
「大根のお汁とお醤油だと」
「そんなおつゆだったんだ」
「関西のと違うね」
「だから噛まずに」
 それでというのです。
「飲んで喉ごしを味わっていたんだ」
「そうして食べていたんだ」
「東京の方だと」
「あちらもお蕎麦が有名だけれど」
「それで噛まなかったんだ」
「そうだよ、けれど僕はね」
 先生はざるそばを粋ではなく上品に食べつつ言います。
「関西にいるから関西の食べ方になっているからね」
「噛んでるよね、お蕎麦」
「そのまま飲み込まないね」
「そうして食べてるね」
「うん、喉ごしは楽しむけれど」
 それでもというのです。
「お蕎麦も噛んでるよ」
「おつゆも違うしね」
「関西のおつゆはね」
「昆布使ってるから」
「そうしただしだから」
「お醤油も違うしね」
 肝心のこちらもというのです。
「だから噛んでいいしね」
「そうだね」
「そして長野のお蕎麦もだね」
「今食べてるけれど」
「噛んでるね」
「こっちのお蕎麦のおつゆは東京のものと違うから」
 それでというのです。
「もっとも僕は東京でもそうするけれど」
「噛むよね」
「イギリス人でも関西の人だしね」
「だったらだよね」
「お蕎麦は噛む」
「そうして食べるね」
「そうだよ、じゃあざるそばをもう一杯食べて」
 そしてと言う先生でした。
「その後はね」
「うん、別のお蕎麦だね」
「ざる以外のそれ食べるね」
「その後も」
「そうするよ」
 こう言ってざるそばを二杯食べてからでした。
 先生はせいろを食べてかけそばも食べました、温かいそのお蕎麦もとても美味しくて先生はまた言いました。
「いや、こちらもね」
「いいね」
「かけそばもね」
「こっちもいいね」
「美味しいね」
「そうだね、本当にいいお蕎麦はね」
 どうかというのです。
「ざるにしてもいいし」
「お汁に入れてもいい」
「そうだよね」
「お蕎麦そのものがいいから」
「そうなるよね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だからこのかけそばも美味しいんだ」
「そうだよね」
「じゃあこのお蕎麦も食べて」
「それでだね」
「楽しめばいいね」
「そうだよ、じゃあこちらも食べて」
 そしてというのでした。
「暫く松本市を歩いて」
「それからだよね」
「三時にはティータイム」
「今度は和菓子とお抹茶だね」
「三段のそれだね」
「三時にはそれを楽しもうね」
 皆に笑顔でお話してでした、先生はかけそばは二杯食べてお腹一杯になりました。そうしてでした。
 松本市を動物の皆でティータイムも交えて歩いていきましたがそこで、でした。
 動物の皆は街の周りの緑の山々を見て先生に口々に言いました。
「盆地って意味がわかるよ」
「その言葉の意味がね」
「こうして山に囲まれてるから」
「だから盆地なのね」
「そうだよ、平地がお盆に囲まれているとね」
 そうした地形ならというのです。
「お盆そっくりだね」
「そうだよね」
「まさにお盆そっくりだね」
「そしてそのお盆がね」
「地形にも言われるんだね」
「そうなんだ、あと高い場所の上に平地があると」
 この場合の地形はといいますと。
「台地というね」
「そうだよね」
「それが台地だね」
「そう言うよね」
「確かにね」
「それも台みたいな形の地形だからなんだ」
 そうした形だからだというのです。
「台地と呼ばれるんだよ」
「どっちも面白い名前だよね」
「言われてみると成程って思えるし」
「実際にその地形みたら納得出来るし」
「いい名前だね」
「そうだね、そして松本市はね」
 まさにというのです。
「盆地だよ」
「そして長野県はその盆地ばかりだね」
「盆地があちことに点在してるね」
「そうした地形だね」
「この県はそうなんだね」
「日本はそれぞれの都道府県で地形に特徴があってね」
 先生は松本市のその盆地の中を見回しつつ皆にお話していきます。
「長野県はところどころに盆地があるんだ」
「山々の中に」
「そうした地形で」
「それが特徴なんだね」
「そうだよ、お隣の山梨県は」
 こちらはといいますと。
「県自体が盆地だよ」
「あっちはそうなんだね」
「所々に盆地があるんじゃなくて」
「県自体が盆地だね」
「そうなんだね」
「それが山梨県だから」
 それでというのです。
「このことも覚えておいたら面白いよ」
「学問のうえでね」
「そうなのね」
「じゃあ僕達も覚えておくね」
「地理っていう学問だから」
「是非共ね」
「そうさせてもらうよ」
 動物の皆もこう答えます。
「先生と一緒なら何処でもだしね」
「望むところっていうかね」
「何処でも行こうよ」
「この長野県でもね」
「そうしていきましょう」
「そう言ってくれると僕も嬉しいね、あとこの長野県は」
 先生は目を細めさせてこんなこともお話しました。
「文学にも縁があるからね」
「へえ、そうなんだ」
「林檎やお蕎麦だけじゃないんだ」
「源平や戦国時代だけじゃなくて」
「他にもあるの」
「文学も」
「島崎藤村さんの出身地だよ」
 この人が生まれた場所だというのです。
「実はね」
「ええと、明治から昭和にかけて活躍した」
「あの人よね」
「あの人は長野県に生まれて」
 そうしてというのです。
「長野県を詩に詠ったり小説の舞台にしているよ」
「そうだったんだ」
「名前は聞いたことがあったけれど」
「長野県の人だったんだ」
「そうだったんだ」
「そうだったんだ、作家さんも出身地は出るからね」
 それはどうしてもというのです。
「作品にね」
「そういえば太宰治さんもそうよね」
「先生この前言ってたけれど」
「青森出身で」
「その青森のことが出るって」
「そうだよ、あの人は青森の津軽出身でね」
 それでというのです。
「その津軽に戻った時のことを書いていたり作品全体にね」
「影響が出ているんだね」
「青森で生まれ育ったことが」
「そのことが生きていて」
「作品にも出ているんだ」
「作家さんにもよるけれどね、特に出ているのは」
 出身地がです。
「やっぱり織田作之助さんかな」
「大阪のあの人だね」
「夫婦善哉の」
「あの人が一番出ているのね」
「出身地が」
「あの人はずっと大阪にいたからね」
 生まれ育ったその街にというのです。
「東京に取材に行った時に亡くなってしまったけれど」
「基本そうなのね」
「ずっと大阪にいた人で」
「大阪が作品に出ている」
「そうした人なんだ」
「大阪にいて流れ流れてで」
 そうして生きていってというのです。
「ある場所に落ち着く」
「それがあの人の作風ね」
「あの人の作品で」
「それでだね」
「舞台は大阪なんだ」
「そうだよ、僕はまだまだ日本文学は学んでいる最中だけれど」
 それでもというのです。
「僕達が読んできた限りだとね」
「あの人が一番出身地が出ているんだ」
「そうした人なのね」
「織田作之助さんは」
「本当に若くして亡くなったことが残念だけれど」
 それでもというのです。
「あの人の作品も面白いよ」
「先生色々な人の作品読んでるよね」
「日本文学の方も」
「それで知っているんだね」
「作家さんの出身地と出身地にどんな影響を受けているのかも」
「そうだよ、そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「島崎藤村さんもだよ」
「長野県出身で」
「やっぱり長野県のことが出ている」
「そうなのね」
「先生あの人の作品も読んでるのね」
「うん、幸い読むのは速いから」
 このこともあってというのです。
「それでなんだ」
「藤村さんの作品も読んでいて」
「どんな作品か理解していて」
「わかっているんだね」
「そうなんだ、中には問題のある作品もあってね」
 ここで微妙なお顔にもなる先生でした。
「色々言われてもきているよ」
「そうした作家さんもいるよね」
「太宰治さんもそうだったね」
「あの人は最後心中しているしね」
「それで藤村さんもなんだ」
「色々言われてもきているんだ」
「そうした人なんだ」
 動物の皆も思うのでした。
「長い間活動していたけれど」
「その中でだったんだ」
「問題作もあって」
「順調でもなかったんだね」
「あの人の作家活動は」
「うん、長野県の名家に生まれてね」
 藤村さんのその生い立ちについてもお話します。
「豊かな中で育ったけれど」
「それだけ聞くといい感じ?」
「名家に生まれたら」
「それだけでね」
「全然違うよね」
「けれど人の一生は家だけで決まらないよ」
 先生は真理もお話しました。
「その他の色々な要因が重なるね」
「それはね」
「言われてみればね」
「その通りだね」
「家だけで人生が決まるか」
「ご本人のこともあるしね」
「あと神様のお導きも」
 動物の皆もそのことはわかりました。
「色々な要素があるからね」
「人がどう生きるかは」
「人生がどうなるかはね」
「様々な要因があるね」
「そうだよ、だからね」
 先生は皆にさらにお話します。
「藤村さんも色々あった人生だったんだ」
「ふうん、そうだったんだね」
「ただ作家さんとして詩や小説を残しただけじゃないんだ」
「他にもなのね」
「色々あったんだ」
「前に姫路城に行って泉鏡花さんのお話をしたね」
 このことについてもお話する先生でした。
「皆覚えているね」
「ああ、湯豆腐が大好きで」
「生ものとか生水は絶対に口にしないで」
「極端な潔癖症でね」
「旅行の時にいつもアルコールランプを持っていたんだったね」
「あの人は個性が強かったけれど」
 そうした潔癖症な一面がというのです。
「藤村さんは人生で色々あったんだ、問題作もあるしね」
「何かお顔見たら普通に美男子だけれどね」
「眼鏡が似合う」
「今でも女の人に人気がある位な」
「そんな人だけれどね」
 皆は先生がスマホに出した藤村さんのお顔を見つつ言いました。
「長い人生で色々あって」
「そして問題作も書いていたんだ」
「そう思うと複雑な気持ちになるわね」
「どうにも」
「そうだね、日本にも差別があって」
 先生はその問題作について具体的なお話をしました。
「そのことを書いていたりするんだ」
「差別ね」
「それは何処でもあるね」
「残念だけれど」
「本当に何処でもあって」
「それで問題になってるね」
「そうよね」
「他にも書いているし」
 藤村さんはというのです。
「色々と話題になっているよ、嫌う人もいるし」
「色々なことがあって」
「それで問題作も書いてるから」
「それでなのね」
「そうなんだ、けれど長野県を代表する作家さんで」
 このことは間違いないというのです。
「今も地元では人気があるよ」
「今も読まれてるしね」
「文庫本出ているし」
「全集もあるし」
「文豪と言っていい人だけれどね」
「そうだね、あと実は」
 ここでこうも言った先生でした。
「長野県に生まれたことは事実でも」
「どうしたの?」
「何かあったの?」
「長野県の人でも」
「何かあったの?」
「生まれた場所は今は岐阜県に入ってるんだよね」
 長野県のお隣のその県にというのです。
「これがね」
「へえ、そうなんだ」
「そこは違うんだ」
「今は岐阜県生まれになるの」
「そうだったんだ」
「そうだよ、その藤村さんのことはまた機会があれば学んで」
 そしてというのです。
「僕達は今はね」
「長野県のあちこちを回って」
「学会が終わった後でもね」
「それで学んでいこうね」
「いつも通り」
「そうしていこうね、そして僕が旅行に出たら」
 ふとです、ご自身のことも思う先生でした。
「絶対に何かがあるね」
「というか先生が何処かに行ったら」
「かなりの確率でそうなるよね」
「絶対に何かが起こって」
「先生が関わるわね」
「京都でも愛媛でも沖縄でも北海道でもそうだったし」
 先生はこれまでの旅のことも思い出します、そのうえでの言葉です。
「だからね」
「今回もだね」
「長野県でも何かあるか知れないね」
「いつも通り」
「そうだね、その時は」
 いつも通り陽気かつ広い心で応える先生でした。
「僕も全力を尽くすよ」
「その時は僕達もいるからね」
「僕達も頼ってね」
「先生の力になるから」
「そうさせてもらうからね」
「うん、皆がいてくれるから」
 その皆にも言う先生でした。
「頼りにしているからね」
「それじゃあね」
「その時は頑張っていこうね」
「何があるかわからないけれど」
「その時も皆でね」
「是非共ね」 
 先生は皆に笑顔で応えました、そうして夜まで松本市をフィールドワークしてでした。その後で宿に戻ってです。
 長野県の土地のお料理、山菜や川魚や猪のお料理を皆と一緒に食べました。勿論長野のお酒もあります。
 そのお酒を飲みつつです、先生は言うのでした。
「いやあ、学問の後でお風呂に入って」
「その後の晩ご飯はね」
「やっぱりいいよね」
「特に旅行の時はね」
「こうしたご馳走が出るからね」
「余計にいいよね」
「そうだね、お酒を飲んで」
 さらに言う先生でした。
「楽しむのも旅の醍醐味だね」
「先生お酒も好きだしね」
 トートーが笑って言ってきました。
「余計にいいよね」
「先生もすっかり日本酒が好きになったね」
 このことはジップが指摘しました。
「あちこちの日本酒を飲む様になって」
「旅に行けば」
「その場所のお酒を飲んでるね」
 オシツオサレツが二つの頭で言います。
「いつもね」
「そうしてるね」
「そして愛媛でも長野でも」
 こう言ったのはホワイティです。
「楽しく飲んでるね」
「日本酒とは限らないけれど」
 老馬は日本酒で赤いお顔になっている先生を見ています。
「確かに好きになったね」
「イギリスだと飲んだこともなかったのに」
「それが今じゃね」
 チープサイドの家族はイギリスにいた時からのことを思い出しています、そのうえで家族でお話するのです。
「ウイスキーより飲んでるわね」
「日本酒をね」
「今も確かにウイスキーは飲んでるけれど」
 それでもとです、ガブガブも言います。
「日本酒とワインが主流になったかな」
「それで旅行の時は日本酒ね」
 ポリネシアが見ていてのことです。
「そちらが主流ね」
「飲み過ぎはよくないけれど」
 ダブダブはそこを言います。
「楽しむ分にはいいわね」
「だから先生も楽しんでね」
 最後に言ったのはチーチーでした。
「先生の適量でね」
「そうしていくよ、ただ僕は日本に来てから」
 やっぱり飲みつつお話する先生でした。
「夜以外は飲まなくなっているよ」
「前は朝からビール飲んでたわね」
「エールの場合もあったけれど」
「イギリスの他の人達と同じで」
「これイタリアやドイツやフランスもだけれど」
「お水代わりにしていたわね」
「それがなくなったよ」
 日本に来てこの国に住む様になってです。
「だからその分ね」
「健康的だね」
「健康的な生活になってるね」
「夜に飲むだけだから」
「そうなったね」
「間違いなくね、お酒を飲む量は全体では」
 どうなったかというのです。
「減ってるしね、カロリーや糖分の摂取も」
「イギリスにいた時より減ってるんだ」
「日本酒大好きになっても」
「そうなったのね」
「そうだよ、それは健康診断でも出ているから」
 数字の結果としても出ているというのです。
「僕自身意外に思ってるよ」
「まあフィールドワークにしょっちゅう出てね」
「そこで歩く機会も増えたし」
「歩くこと自体が運動だし」
「学校にも行ってるしね」
「それで朝から晩まで学問をして」
 そしてというのです。
「頭も使ってるし」
「頭使うのもカロリー消費だしね」
「学問に精出したら痩せるってそういうことね」
「頭で凄くカロリーを消費するから」
「そう、実は脳を動かすにはかなりのカロリーを消費するんだ」
 先生も皆にお話します。
「だから学問に励んでいるとね」
「それだけでかなりカロリーを消費して」
「その分痩せるのね」
「糖分は頭にいく栄養だし」
「そちらも消費されるし」
「そのこともあるね、どうも日本での生活は」
 こえまでのことも振り返って言う先生でした。
「僕にとって非常にいいね」
「物凄く変わったわよ」
「確かなお仕事にも就いてるしね」
「誰も来ない病院にずっといるよりもね」
「いい生活になってるわよ」
「僕達以外にもお友達が沢山出来たし」
「そうだね、だからこうしてね」
 今もというのでした。
「長野県でも楽しんでいるしね」
「こんなに変わるなんてね」
「先生の人生がね」
「何というか一変したわね」
「イギリスにいた時と比べたら」
「そうだね、本当に変わったから」
 それでという先生でした。
「僕も嬉しいよ」
「そうだよね」
「僕達も嬉しいよ」
「先生が幸せになって健康にもなったから」
「こんないいことはないわよ」
「何といってもね」
「そして後はね」
 皆はさらに言いました。
「結婚だね」
「先生にとって大事なのは」
「そのことだね」
「それがどうなるか」
「まああと少しだよ」
「先生のそのことも」
「だからいつも言うけれど」
 先生は猪のお肉を味噌漬けにして焼いたそのものを食べながらそうして皆に笑ってお話するのでした。
「僕は恋愛とは無縁だよ」
「だからいつもそう言うけれどね」
「先生は案外人気あるよ」
「女の人にもね」
「お友達じゃなくて」
「ちゃんとね」
「けれどもてたことはね」
 先生ご自身が思うにはです。
「生まれて一度もないよ」
「それも違うから」
「先生みたいな人は人気あるよ」
「性格がいいから」
「穏やかな性格だしね」
「紳士だし公平だし」
「こんないい人いないから」
 皆の方がずっとわかっています、先生がどんな人かです。
 ですがそれでもです、先生は言うのでした。
「太っていて顔も野暮ったくて運動神経ゼロでもかな」
「全然平気だよ」
「大丈夫だよ」
「そんな風でもね」
「何も問題ないよ」
「だから人は外見じゃないよ」
「心だから」
 だからというのです。
「というか外見先生より駄目で性格最悪でも結婚してる人いるよ」
「世の中には普通にね」
「そんな人もいるし」
「まあそんな人と結婚する人って同じレベルよね」
「たかが知れてるけれどね」
「類は友を呼ぶっていうし」
「そしてその論理なら」
 まさにというのです。
「先生はかなりいい人と出会えるね」
「というかもう出会ってるし」
「それならね」
「あと一息だから」
「本当にあと少しだよ」
「あと少しって全然だよ」
 先生だけが思っていることです。
「そんな人もいないよ」
「そう思っているうちは駄目だけれどね」
「先生はそこが駄目なんだよね」
「全く気付かないから」
「誰が何を言っても」
「それでもね」
「そう、僕達が頑張ればいいよ」
 皆は先生のあまりもの鈍感さにかえって団結しました。
「そうするしかないし」
「それならね」
「頑張っていきましょう」
「先生の結婚の為にも」
「あのことも運命の出会いだしね」
「運命ね、確かに僕の運命は」
 先生も感じてはいます、ただ感じているにしましてもそこはやっぱり先生なので皆が言うことには気付いていません。
 そしてです、皆にも言うのでした。
「日本に来て大きく変わったけれど恋愛は」
「どうしてもだね」
「縁がなくて」
「どうにもならない」
「そう言うんだ」
「そうだよ、僕は恋愛とは無縁だから」 
 本当にというのです。
「一生もてたことはないから」
「少しはもてるって思ったら?」
「それだけでも違うよ」
「先生より何もかもが駄目でもナルシストだっているのに」
「自分は凄いとかもてるって人いるよ」
「少しは自分を見たらって思うけれど」
「逆に先生は自分をいつも見て自己分析してるけれど」
 それでもというのです。
「もてないって勝手に思ってるから」
「まあ確かに運動神経はないけれど」
「それは事実だけれど」
「もてないっていうのはね」
「それは自己評価が低いよ」
「先生の勘違いよ」
「運動神経と外見からね」
 運動神経がなくて外見も野暮ったい、このことからというのです。先生がもてないと自分でも思っていることはこの二つからです。
 ですがそれでもです、先生はまた言ったのでした。
「その二つは大きいからね」
「全然小さいって」
「何度も言うけれどね」
「人間性格だよね」
「中身じゃない」
「先生いつも言ってるし」
「先生みたいにいい人いないから」
 動物の皆が太鼓判を押すことです。
「そんな人なのに」
「何でもてないのか」
「そこでそう思う方が不思議だよ」
「先生の自分を過信しないで謙虚なのはいいことだよ」
「それも先生の美徳よ」
「けれどその美徳も」
 どうにもというのです。
「自分自身の勘違いになるのね」
「やれやれよ」
「そんなのじゃ私達も苦労するわ」
「やれやれよ」
「けれど絶対に先生をもっと幸せにするから」
「今で充分過ぎる程幸せかな」
 先生は現状で満足しています。
「僕はね」
「さて、それはどうか」
「あえて言うけれど」
「幸せには際限がないよ」
「そして幸せは神様がもたらしてくれるじゃない」
「先生も神様が見ているから」
 それ故にというのです。
「先生には神様がもっといい幸せをくれるよ」
「今以上にね」
「だから結婚も」
「そっちも考えていこうね」
「ううん、幸せ過ぎて怖い位なのに」
 ここでこう言うのも先生です、やっぱり謙虚です。
「それでもかな」
「だからそこでそう言うのはね」
「先生の謙虚さや無欲さはいいことでも」
「それでもだよ」
「それで自分にはって思うと」
「かえってよくないよ」
「そういうものかな、分相応ってあるしね」
 その人それぞれのです。
「僕なんかがって思うよ」
「いや、違うから」
「そこはね」
「その人の努力と徳次第で幸せは沢山貰えるよ」
「手に入れてもいいじゃない」
「誰だってそうだし」
「先生だってね」
「そうかな、僕は」
 私大のお酒が回って本音が出ていますが本音も同じでした。
「どうしても自分はね」
「女の人にはもてなくて」
「結婚もしない」
「それも一生」
「そう思うのね」
「そうだよ、そしてそれでもね」
 恋愛に縁がなくて結婚しなくてもというのです。
「僕は幸せだしね」
「僕達がいてトミーや王子がいて」
「そして学問も好きなだけ出来て」
「美味しいものを楽しめて健康でもある」
「だからだね」
「充分過ぎる程幸せで」
「それでいいっていうんだ」
「そうだよ、今は充分過ぎる位幸せだから」
 これが先生の本音です。
「本当にいいよ」
「そうなんだ」
「やっぱりそう言うんだね」
「先生としては」
「今も」
「そうだけれどね、しかし」
 それでもとです、先生は皆に言うのでした。
「皆は違う考えだね」
「ずっと言ってる通りね」
「先生はもっと幸せを求めていいし」
「恋愛とも無縁じゃないから」
「もっと幸せを求めていこう」
「恋愛のことも前向きになって」
「ちょっとだけ周りを見ようね」
 これが皆のアドバイスでした。
「そうしたら気付くかもね」
「先生は確かにこうしたことは駄目でも」
「あの人も頑張ってるし」
「それならね」
「あの人とは誰なのか」
 このこともわかっていない先生です。
「またわからないこと言うね」
「そのわからないことが駄目だけれど」
「これは気付いていなくてもことを進める必要があるかしら」
「それならそれで」
「もう強引にね」
「僕達の間で」
 こうも思う皆でした。
「それならそれでね」
「やっていく?」
「それがいいかもね」
「先生がこんなのだと」
「もうね」
「皆のこうした時の話はわからないよ」
 本当にわかっていないのが先生です、素直に言うのも考えものでしょうか。
「これは」
「だからね」
「もうそこはね」
「僕達でやっていくかもね」
「トミーも王子もいるし」
「あとお静さんも知ってるし」
「先生のこのことについては」
 もう皆半分以上そのつもりになっています。
「先生が気付かなくても」
「それはそれでやってくしかないし」
「それならね」
「もうね」
 まさにと言うのでした、しかし。
 ここで、です。また言った先生でした。
「本当にわからないけれどじゃあね」
「ええ、とにかくね」
「僕達に任せることは任せて」
「そうしてやってくから」
「先生達が気付かなくても」
「それでもね」
「先生にとって悪いことじゃないから」
 このことは絶対にと言うのでした。
「僕達先生に悪いことしないから」
「先生は私達の一番のお友達じゃない」
「そして大切な家族でもあるから」
「そんな人に悪いことしないから」
「絶対によ」
「皆が僕に悪いことをするなんて」
 先生ご自身も思うことでした。
「絶対にないよね」
「そう、ないから」
「何があってもね」
「そんなことはしないわ」
「そのことは確かだから」
「わかってるよ、ただ皆が今言うことはわからないから」
 どうしてもでした、皆にとって残念なことに。
「そこは置いておいてね」
「はいはい、もうね」
「僕達に任せてね」
「きっと最後は幸せになるから」
「先生はね」
 結婚のことでもというのです、こうお話してでした。
 先生は自分にお話してくれる皆と一緒にいるのでした、この松本の街でも。








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