『ドリトル先生の林檎園』




               第十一幕  千曲川と川中島

 温泉街で楽しい時間を過ごした次の日先生は皆と一緒に優花里さん達とお話をした千曲川に向かいました。その道中にです。
 先生は皆にです、こうお話しました。
「千曲川の次はね」
「川中島だよね」
「うん、そこに行こうね」
 王子にも笑顔で答えます。
「そうしようね」
「そうだね、川中島もね」
「行ってみたかったしね」
「古戦場だからね」
「千曲川でも戦いがあったけれどね」
「ああ、そうだったんだ」
「そう、長野県を代表する川で」
 そうであってというのです。
「長野県ではかつてはね」
「島崎藤村さんの詩にあるだけじゃなくて」
「戦国時代にはね」
 あの川でもというのです。
「あそこで合戦もあったんだ」
「そうだったんだね」
「そしてね」
 さらにと言うのです。
「これが結構激しい戦いだったんだ」
「そう思うと感慨があるね」
「そう、そしてね」 
 先生は王子にさらにお話します、今は皆で王子のキャンピングカーに乗ってそのうえで向かっています。その中でのお話です。
「それもまた歴史だよ」
「千曲川の」
「そうだよ、そして川中島は」
「何といってもね」
「信玄さんと謙信さんが戦った」
「戦国時代屈指の合戦だったけれど」
「それが行われた場所だよ」
「今日はその川中島にも行くので」
 トミーも言います。
「楽しみですね」
「フィールドワークだよ」
「これもですね」
「そう、地理と歴史のね」
 この二つの学問のです。
「学問だよ」
「そうですよね」
「だから楽しみだよ」
「先生は本当に学問が好きですね」
「学問ならね」
 どういったジャンルの学問でもです。
「好きだよ」
「そうですよね」
「それでね」
「その学問をね」 
 まさにというのです。
「出来るからね」
「楽しみですね」
「うん、じゃあ今日もね」
「学問を楽しんで」
「そうして過ごそうね」
 先生は皆に笑顔でお話して皆もその先生と一緒に楽しくでした。
 千曲川に行きました、そうしてその川を見るとです。大きな川で水の量も多くて先生もこれはというお顔で言いました。
「これだけの川ならね」
「流域に住んでいる人も困らないわね」
 ポリネシアが先生に応えました。
「お水にはね」
「お水があると」 
 そうならとです、ホワイティが言いました。
「飲むものと農業に使えるし」
「生活用水にもなるから」 
 ダブダブはこちらのお話をします。
「いいのよね」
「そうそう、人は確かな量のお水があったら」
 それならとです、老馬も言います。
「暮らしやすいからね」
「この川なら」
 ジップもそのいい川を見ています、千曲川を。
「周りの人達は困らないね」
「堤防とか灌漑がしっかりしていたら」
 それならと言ったのはトートーです。
「余計にいいね」
「そういえば周りに水田も多いし」
「川の水を使ってるのね」
 チープサイドの家族はそちらを見ています、今皆がいる場所は周りに見事な水田が広がっています。日本でよくある風景の一つです。
「お米を作るにはお水が沢山必要だし」
「この川の水がそのそれだね」
「そう思うとこの川は命の川だね」
 ガブガブはしみじみと言いました。
「この辺りの人達の」
「ナイル川もそうだけれど」
「川は農業の源だしね」
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「生活も出来るし」
「千曲川もそうだってことだね」
「いや、こうした川は日本にも多いけれど」
 最後にチーチーが言いました。
「千曲川もだね」
「そうだよ、この川は今はちゃんと治水もされているし」
 見ればそちらもちゃんとしています、日本の他の川と同じく。
「こうしてね」
「しっかりとだね」
「この流域の人達の暮らしを支えているんだね」
「今も」
「そうなっているんだね」
「そうだよ、川は農業を生んで」
 そしてというのです。
「そしてね」
「文明もだよね」
「生むから」
「それでだね」
「この千曲川もだね」
「この辺りの人達の暮らしを支えているのね」
「今もね、しかしこの辺りの水田も」
 先生は川からその周りの水田達も見ました、そうして唸って言うのでした。
「いいね」
「そうだよね」
「随分質のいい水田だよね」
「この辺りの水田も」
「日本の他の場所の水田と同じで」
「こちらの水田もね」
「うん、日本の農業はやっぱりね」
 何といってもというのです。
「お米だよね」
「第一はね」
「今回は林檎やお蕎麦に触れているけれど」
「何といってもお米だよね」
「そこからはじまるね」
「日本人の心にはね」
 何といってもと言う先生でした。
「主食といえばね」
「うん、お米だね」
「確かにパンとかも食べるけれど」
「ジャガイモだってね」
「けれど主食は何か」
「そう言われたらね」
「お米だからね」
 こちらになるからだというのです。
「こうして長野県でもね」
「見事な水田があるのね」
「千曲川流域でも」
「そういうことだね」
「戦国時代はこの辺りでも戦いがあったと言ったけれど」
 このことについてです、先生はまたお話しました。
「戦国時代は実はそれぞれの戦国大名は農業や商業にも力を入れてね」
「戦ってばかりじゃなくてだね」
「政治にも力を入れていたんだね」
「そういえば織田信長さんもだよね」
「そして武田信玄さんも」
「信玄さんは特にね」
 この人はというのです。
「内政に力を入れていたからね」
「それで川に堤防を築いたんだよね」
「色々な作物とかを植えさせたり」
「金山も開発してね」
「それで豊かになったんだったね」
「そうだよ、そして江戸時代もね」
 この時代もというのです。
「どの藩も内政に熱心で」
「それでだね」
「こうしてだね」
「千曲川の方も立派な水田が続いていて」
「見事なのね」
「そうなんだ、林檎は明治以降だけれど」
 その頃から栽培をはじめたものでもというのです。
「お米はね」
「違うよね」
「昔からあって」
「それで開墾されていって」
「堤防とか灌漑もしっかりやって」
「豊かになったのね」
「そうだよ、そうなったからね」
 だからだというのです。
「今のこの水田地帯もあるんだよ」
「成程ね」
「これはいいことだね」
「戦国時代も戦ばかりじゃなくて」
「ちゃんと政治もしていたんだから」
「だから戦は続いていても」
 それでもというのです。
「立派な田畑が出来ていったんだ」
「それに日本の戦いは武士同士のもので」
 トミーが日本の戦いについてお話しました。
「人や田畑には殆ど被害が出なかったんですよね」
「うん、それどころか観戦さえもね」
 戦いをというのです。
「していたから」
「ちょっと離れたところで」
「関ヶ原の戦も近くの山でね」
 近所のお百姓さん達がそこに入ってというのです。
「観戦をしていたんだ」
「そうでしたね」
「そう、そしてね」
 それでというのです。
「軍勢もね」
「その民衆にですね」
「危害は加えなかったから」
 そうだったというのです。
「だからね」
「田畑もですね」
「危害はね」
 それはというのです。
「戦で踏み荒らされても」
「そうしたことはあっても」
「欧州とかね」
「ああした地域の様にですね」
「焦土にされることもなくて」
 それでというのです。
「酷くもならなかったんだよ」
「いいことですね」
「だからね」
 それでというのです。
「何処かのどかだったんだ」
「日本の戦国時代は」
「そして特に信玄さんはね」
 この人はといいますと。
「戦いよりも内政に熱心で」
「それで、ですね」
「この長野県も」
 当時は信濃といいました。
「しっかりと治めていたんだよ」
「そうした意味でも凄い人だったんですね」
「内政については」
 本当にというのです。
「むしろ戦い以上にね」
「熱心な人で」
「長野県も豊かになったんだ」
 信玄さんの時代にです。
「そうだったんだ」
「そうですか」
「こうした水田もね」
「開墾されて」
「増やしていったことはね」
 そうしたこともというのです。
「言うまでもないことだよ」
「立派な人だったんですね」
「政治家としてもね、だからね」
「今もですね」
「凄い人気があるんだ」
 そうなっているというのです。
「そうなっているんだ」
「天下を取れたかな」
 王子はここで信玄さんにこうも言いました。
「ひょっとして」
「うん、天下人になろうとしたかはね」
「わからないんだ」
「けれど信玄さんなら」
「天下人にもだね」
「なれる位の力量はあったよ」
 そうだったというのです。
「僕が見る限りね」
「だから信長さんも警戒していたんだ」
「そうなんだ、信長さんは信玄さんと謙信さんを凄く警戒していたんだ」
「二人共天下人になれたからだね」
「そこまでの力量があったからね」
 それだけにというのです。
「信長さんもね」
「警戒していて」
「色々備えもしていたんだ」
「どうにかする為に」
「そうだったんだ、ただ信玄さんと謙信さんに信長さんの改革性はあったか」
 このことはといいますと。
「かなり疑問だけれどね」
「ああした新しいものを生み出していくことは」
「ちょっとね」
 どうにもというのです。
「疑問だと言われているし僕もね」
「なかったと思うんだ」
「学んできてね」
 信玄さんそして謙信さんについてです。
「そう考えているよ」
「そうなんだね」
「けれど長野県をね」
「ちゃんと治めていたんだね」
「そのことは確かだよ」
「そうなんだね、それと」
 ここでまた言った先生でした。
「これからね」
「うん、川中島だね」
「あそこに行くだよね」
「次はね」
「そうだよね」
「そうしようね」
 動物の皆に笑顔で答えました。
「次はね」
「信玄さんのお話が出たし」
「丁度いいね」
「それじゃあ次は川中島」
「あちらに行きましょう」
 皆も先生に応えてそうしてでした。
 皆は実際に今度は川中島に来ました、そこは山の中に囲まれたかなり開けた場所でした。
 その中に入ってです、先生はまずは妻女山という山に入りました。そのうえで一緒にいる皆にお話しました。
「この山に謙信さんが陣を張ったんだ」
「まさにこの山で」
「そうしたのね」
「そしてそのうえで信玄さんと睨み合った」
「そうしたんだ」
「そうだよ、それは四回目のね」
 こうも言う先生でした。
「戦いの時で」
「ああ、川中島の戦いって何度もあったんだったね」
「五回あってね」
「それで四回目にね」
「凄い激戦になったんだったね」
「刃を交えたのは四回目だけだったわね」
「その四回目の戦いの時にね」
 まさにというのです。
「謙信さんはここに陣を置いたんだ」
「そうしてだったね」
「武田軍が啄木鳥の戦法を執って」
「それを謙信さんが見抜いて」
「早朝に正面から奇襲を仕掛けて」
「激しい戦いになったんだったね」
「謙信さんは戦いの天才で」
 まさにそう言うべき人でというのです。
「武田軍の意図を見抜いてね」
「そしてだったね」
「あえて正面から攻撃を仕掛けて」
「そうして戦ったんだったね」
「啄木鳥の戦法は要するに挟み撃ちでね」
 先生は戦術のお話もしました。
「山に後ろから攻撃をかけて」
「あっ、啄木鳥は木を嘴の先で叩くから」
「そうして虫を驚かせて木から出させて」
「そこを回り込んで食べるね」
「捕まえて」
「それでだね」
「啄木鳥の戦法も」
「そうだよ、敵を後ろから攻めて」
 そしてというのです。
「陣から出させて」
「そこを待ち受けて戦う」
「そうした戦い方だったんだね」
「そしてその戦い方をね」
「武田軍は執ったんだったね」
「けれど謙信さんは見破ったんだ」
 そうなったというのです。
「それが四度目の川中島の戦いだったんだ」
「凄いね」
「流石謙信さんかな」
「そこで一気に攻めて」
「そして信玄さんと一騎打ちになったんだったね」
「その時の銅像もあるから」
 この川中島にはというのです。
「次に観ようね」
「それじゃあね」
「次はね」
「そうしましょう」
 皆も頷きます、ですが。
 妻女山について皆思うのでした。
「この山に謙信さんがいたって思うと」
「不思議な気持ちになるね」
「どうにも」
「四百年以上昔でも」
「ここで戦いがあって」
「謙信さんもいたって思うと」
「本当にね」
 こう言うのでした。
「武田軍と上杉軍が戦って」
「激しい死闘が行われたって思うと」
「そうだね、この謙信さんも恰好いいんだよね」
 先生はこの人にも好意を見せました。
「信玄さんもそうだけれど」
「二人共でね」
「信長さんとはまた違った恰好よさがあって」
「信玄さんは深みがある?人として」
「それで謙信さんは何処か女性的で」
「戦いは強いけれど」
「二人共本当に違うからね」
 その個性がというのです。
「それもまた魅力だよね」
「それぞれでね」
「よくあんな二人が巡り会ったわ」
「ライバル同士で」
「あの時代に」
「まさに宿命だっただろうね」
 先生は謙信さんのことも信玄さんのことも思い言いました。
「お二人が出会ったのは」
「ライバル同士で」
「まさに龍虎相打つね」
「そして激しく戦ったのがここね」
「この川中島ね」
「そうなんだ、戦国時代の有名な戦場は他にも幾つかあるけれど」
 それでもというのです。
「川中島は関ヶ原や長篠と並ぶね」
「ああ、そうしたところと」
「僕達でも知ってるしね」
「戦国時代で有名な戦いだよね」
「あと桶狭間もそうだったね」
「あそこの戦いも有名だね」
「桶狭間の戦いは信長さんがその地位を確かにする戦いだったね」
 この戦いはというのです。
「そうした意味でも重要な戦いだよ」
「そうそう、あの戦いはね」
「織田信長さんが出て来た戦いだよ」
「天下にね」
「見事攻めてきた今川義元さんを倒した」
「まさに時代の変わりのはじまりだったね」
「そんな戦いだったね」
 皆もこの戦いについては知っています。
「そういえば先生名古屋も好きだね」
「愛知に言ったら桶狭間も行くよね」
「織田信長さんに縁のある場所も」
「そのつもりだよね」
「織田信長さんは坂本龍馬さんと並ぶ日本で有名な英雄だからね」
 それだけにというのが先生の返事でした。
「だからね」
「そうだよね」
「だったら名古屋に行ったらね」
「その時はね」
「名古屋の名物も食べて」
「それで信長さんに縁のある場所にもね」
「行きたいね、そして今はね」
 先生は皆にあらためてお話しました。
「こうしてね」
「川中島にも来たね」
「信玄さんと謙信さんがぶつかったね」
「まさにこの場所に」
「そうだよ、では次はね」 
 妻女山の次はというのです。
「二人の銅像のところに行こうか」
「信玄さんと謙信さんが一騎打ちをしている」
「その銅像のどころだね」
「今から行くのね」
「そうするんだね」
「是非ね」
 こう言ってそうしてでした。
 先生は皆を銅像のところに案内しました、するとその銅像は馬に乗って刀を抜いている謙信さんが座って軍配を構えている信玄さんに今まさに攻めようとしています。
 お二人のその雄姿を見てです、王子はこう言いました。
「絵になっているけれど」
「それでもだよね」
「これ本当にあったことかな」
「四度目の合戦で激戦になったことは事実みたいだけどね」
「総大将同士の一騎打ちとか」
「ないっていいたいんだね」
「うん、そんなの実際の戦いであるかな」 
 どうかと言う王子でした。
「戦国時代でも」
「武士は騎士と同じで一騎打ちもするけれどね」
「それが華だよね」
「源平の戦いではよくあったね」 
 平安時代末期のというのです。
「鎌倉時代でも」
「そうだよね」
「戦国時代というかその直後の安土桃山時代でもあったよ」
「あるにはあったんだ」
「黒田長政さんが朝鮮出兵で明の将軍を一騎打ちをして」
 そしてというのです。
「川の中で激しく組み合って」
「そこまでしてなんだ」
「ようやく勝ったって話はあるよ」
「そうなんだね」
「けれどね」
 それでもと言う先生でした。
「総大将同士の一騎打ちになると」
「そこまではだね」
「そうそうね」
 幾ら一騎打ちがあってもというのです。
「ないね」
「そうなんだね」
「上杉謙信さんは自分を毘沙門天の化身と思っていて」
「そのことは有名だね」
「若しくはその加護があると信じていた人で」
 それでというのです。
「自分が真っ先に敵に刀を抜いて馬に乗って突っ込む人だったんだ」
「勇敢だったんだね」
「自分が戦で死ぬとか怪我をするとかね」
「考えなかったんだね」
「アレクサンドロス大王みたいにね」
「あの人は凄いよね」
 トートーもこの人のことは知っています。
「まさに英雄だよね」
「あっという間に大帝国を築いたのよね」
 ポリネシアも言います。
「マケドニアから出て」
「ペルシャを倒してインドまで行くとか」
 しみじみとして言うダブダブでした。
「物凄いわよ」
「エジプトまで征服して」
「若くして亡くなったけれど」
 チープサイドの家族もアレクサンドロス大王についてお話します。
「あっという間にね」
「物凄い帝国を築いたわね」
「あの人は自分をアキレウスの生まれ変わりと思っていたから」
 だからと言う老馬です。
「戦いで死ぬとか傷付くとか思っていなかったんだったね」
「戦争の指揮も凄くてご自身も強かったし」
 ジップは先生からこのお話を聞いていて知っているのです。
「それでだったね」
「あの人も総大将だったけれど」
 チーチーは謙信さんとこの人を両方思っています。
「そうしていたね」
「普通はしないんだよね」
 ガブガブは普通の戦いのお話をしました。
「総大将自ら突っ込むとか」
「だから川中島でも」
「実際に総大将同士で一騎打ちをしたか」
 オシツオサレツは二つの頭で考えています。
「それはね」
「流石にないかな」
「確か謙信さん一騎で武田軍の本陣に入ったんだよね」
 最後に老馬が言いました。
「信玄さんのところに」
「実は謙信さんは一万以上の軍勢が囲んでいるお城に三十人もいない兵を連れて具足も付けずに乗り込んだこともあったよ」
 ここでこのお話もする先生でした。
「敵軍は驚いて道を空けたけれどね」
「うわ、それも凄いね」
「無茶苦茶するね」
「本当にアレクサンドロス大王みたい」
「そんなことする人日本にもいたの」
「一万以上の大軍に三十人以下で乗り込むとか」
「それも鎧も着けずに」
「それで突っ込んだよね」
 皆も驚きを隠せません。
「そんな人だったんだ」
「本当に毘沙門天みたいだよ」
「そりゃ敵も驚いて道を空けるよ」
「そんなことをする人には」
「だからこの川中島でも」
 その戦いでもというのです。
「本当にやったと言われても」
「不思議じゃないね」
「そして信玄さんと一騎打ちをしていても」
「それでもね」
「そうだよ、そんな謙信さんと戦える人は」
 それこそというのです。
「正面から出来るとなると」
「信玄さんだけだったのね」
「名将と言われた」
「あの人だけだったのね」
「他の人には無理だったんだ」
「信長さんも正面から自分が直接戦ったことはないよ」
 天下人になったこの日ともというのです。
「小田原の北条氏康さんも戦うのは避けたからね」
「あの人も強かったんだよね」
「北条氏康さんも」
「名将でね」
「あと政治もよかったんだよね」
「あの人は自分が謙信さんに勝てないと思っていたから」
 だからだというのです。
「それでね」
「戦いを避けてだね」
「お城に籠ったんだね」
「そうしたんだよね」
「そうだよ」
「あの人も強かったのに」
「それだけ謙信さんが別格で」
 そしてというのです。
「その謙信さんと戦えた信玄さんもね」
「別格だったんだ」
「この二人は戦いでは信長さんより上だったとされているよ」
 先生はこうお話しました。
「まさにね」
「家臣の人達も揃ってたんですよね」
 トミーは先生の武田家の家臣の人達のことを尋ねました。
「そうでしたね」
「うん、二十四臣といってね」
「そうでしたね」
「この人達も名将揃いでね」
「それで兵の人達も強かったから」
「武田軍は物凄く強かったんだよ」
「そうでしたね」
「そして上杉家も家臣の人達も揃っていて」
 謙信さんの方もというのです。
「兵の人達も強くて」
「どちらもですね」
「凄く強くて」
 だからだというのです。
「天下でね」
「最強とですね」
「なっていたんだよ」
 そうだったというのです。
「両方共ね」
「そしてどちらが最強かは」
「川中島の戦いは最後まで決着がつかなかったから」
「五回やってそれでも」
「そう、四回目は激しい戦で」
 そしてというのです。
「双方大きな損害を出したけれど」
「それでもですね」
「この戦いは引き分けだったしね」
「どっちが勝ったとはですか」
「武田が勝った、上杉が勝ったと言う人もいるけれど」
「先生はですね」
「多くの人が言う通りにね」
 戦いの判定はというのです。
「引き分けだったと思うよ」
「そうでしたか」
「あとこの戦いで啄木鳥の戦法を信玄さんに言ってね」
「あの人川中島で戦死してますね」
「うん、この人実在を疑われていたけれど」
「実はですね」
「実在人物だったんだ」
 本当にいたというのです。
「調べたらね」
「そうだったんですね」
「十勇士はモデルの人達がいたということで全員いたとね」
「あの人達はそう言えますね」
「うん、けれど山本勘助さんはね」
 この人達はというのです。
「モデルじゃなくてね」
「ご本人がですね」
「実在していたんだ」
「そうだったんですね」
「武田家は親族や譜代の人が多かったけれど」
 そうしたお家だったというのです。
「その中で活躍したんだ」
「武田家の軍師として」
「それで信玄さんを助けてきたけれど」
「川中島で、ですね」
「作戦の失敗の責任を取る形で命を賭けて戦って」
 そしてというのです。
「壮絶な戦死、討ち死にを遂げたんだ」
「壮絶な」
「物凄い戦い方だったと伝えられているよ」
「勘助さんも武士だったんですね」
「立派なね、武士は潔く自害するか」
「勇敢に戦って討ち死にする」
「そのどちらかが名誉だから」
 それでというのです。
「勘助さんは死んだんだよ」
「この川中島で」
「そうだったんだ」
「ここは勘助さんや多くの人の墓標でもありますね」
「そうでもあるんだ」
「そう思うと感慨がありますね」
「そうだね、じゃあ最後はね」
 川中島を出る時はというのです。
「ここで戦い死んだ人達に手を合わせようね」
「そうだね、冥福を祈ってね」
「もう何百年前のことでも」
「それでもね」
「手を合わせて」
「それで冥福を祈ろうね」
「仏教では生まれ変わるし神道では黄泉の国に行くけれど」
 動物の皆も言うことでした。
「仏教では死んでから六つの世界に行くし」
「極楽だったり地獄だったりするけれど」
「その死んだ後でね」
「穏やかに暮らせる様に」
「その為にね」
「そうしようね」
 是非にと言う先生でした、そしてです。
 皆は先生と一緒に川中島で戦って死んだ人達のご冥福を祈って手を合わせました。そうしてでした。
 その後で川中島を後にしました、そうしてまた温泉で楽しみますが先生は今はサウナに入っています。
 そこで一緒にいる皆に言いました。
「いや、今日もね」
「凄くいい学問になったね」
「千曲川に川中島を巡って」
「そうしてね」
「本当にいいフィールドワークになったわね」
「先生も満足しているわね」
「心からね」 
 実際にとです、先生は皆に答えました。
「そうなっているよ」
「そうだよね」
「この長野県でも色々巡ってね」
「そして食べて飲んで」
「人とも会って」
「最高だったね」
「うん、何か僕には」
 まさにというのでした。
「色々な出来事が来るね」
「出来事の方からね」
「そうなってるね」
「毎度のことでね」
「この長野県でもね」
「そうなってるね」
「そうだね、それと」
 ここでまた言う先生でした。
「明日にね」
「神戸だね」
「神戸に戻るね」
「いよいよ」
「そうなるね」
「そうなるよ、長い旅だったけれど」
 それでもというのです。
「遂にね」
「その長い旅もね」
「これで終わって」
「そうしてね」
「後はね」
「神戸に戻る電車か車に乗って」
「それで帰りましょう」
「それではね、ただそどうして戻るかは」 
 その神戸にです。
「わからないよ」
「そうなんだね」
「だったらね」
 ここで王子が先生に言ってきました。
「僕の車で帰る?」
「キャンピングカーでだね」
「そうする?」
「それでいいのかな」
「僕は構わないよ」
 王子は先生に明るく笑って答えました。
「というか先生と一緒なら僕もね」
「いいんだ」
「うん、トミーも一緒だしね」
 王子は彼も見て先生にお話します。
「だからね」
「それでなんだ」
「そう、いいよ」
 こう先生に答えるのでした。
「先生がいいならね」
「うん、じゃあね」
 先生は王子が言うならとです、それならと頷いてでした。
 そのうえで王子のキャンピングカーで皆と一緒に神戸に帰ることにしました、このことが決まってからでした。
 先生はサウナを出て水風呂に入って身体を冷やしてからです。今度は湯舟に入りましたがここで、でした。
 心の底からくつろいだ気持ちになって皆にこんなことを言いました。
「幸せだね」
「こうしてお風呂に入ってるとね」
「そう思えるよね」
「身体があったまってね」
「気持ちもほぐれて」
「それでね」
「ほっとするね」
 こう皆に言うのです。
「いつもながら」
「長野に来ていつも以上にお風呂入ってない?」
「殆ど湯治だよね」
「長野って温泉多いみたいだね」
「行く宿行く宿で温泉ある感じで」
「先生楽しんでるしね」
「うん、実際に多いみたいだね」
 先生もこう皆に答えます。
「ここはね」
「そうだよね」
「この長野県は温泉多いよね」
「これまで先生が行った日本では一番多い?」
「愛媛や北海道よりもね」
「勿論沖縄よりも」
「僕も日本の色々な場所を巡ってきたけれど」
 今動物の皆が言ったそうした場所にです。
「長野県はその中で一番温泉が多いね」
「奈良や和歌山よりもね」
「近畿は思ったより少ない?」
「あるにはあるけれどね」
「有馬とか城崎に」
「名所は結構あっても数では長野県かな」
 温泉のそれはというのです。
「やっぱりね」
「そうかも知れないね」
「実際先生こっちに来て毎日温泉だし」
「温泉尽くしって言っていい位だし」
「それじゃあね」
「先生もね」
「温泉尽くしになってるね」
 実際にと答えた先生でした。
「そこはね、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと」
「いや、長野県の温泉はそれぞれね」
 まさにと言った先生でした。
「違うね」
「うん、それぞれの持ち味があるよね」
「本当にね」
「そこは違うわね」
「温泉は温泉でも」
「それでもね」
「そう、その違いがまた面白いね」
 また言った先生でした、そうしてです。
 そうしたお話をしてでした、先生は湯舟を心から楽しんで身体も心もすっきりさせてでした。それからまたお酒を飲みますが。
 ふとです、先生は長野の山の幸である猪の鍋を食べつつしみじみと思いました。
「この長野県の幸ともね」
「これでだよね」
「お別れだよね」
「この日でね」
「そして明日は」
「神戸に向けて出発するから」
「食べ収めだね」
 皆もこう言って寂しく思いました、ですが。
 ここで、です。こうも言った先生でした。
「明日神戸に戻る前に」
「何かな」
「何かあるの?」
「先生としては」
「どうなの?」
「お蕎麦を食べたいね」
 こちらをというのです。
「それと林檎をね」
「明日は」
「その二つを食べて」
「そしてだね」
「長野県を後にしたい」
「先生としては」
「そうも考えているけれどどうかな」
 今は猪鍋、つまり牡丹鍋を食べつつ言うのでした、豚肉に似た味ですがもっと固くて匂いもきつめですがそれがまたいいです。
「これから」
「いいんじゃない?」
「それもね」
「最後の思い出にね」
「長野県を後にする時に」
「その時に」
「僕もいいと思うよ」
 王子も笑顔で答えてくれました。
「先生がそうしたいならね」
「いいんだね」
「うん」
 笑顔で答えてくれるのでした。
「それでね」
「じゃあね」
「そうですね」
 トミーも言ってきました。
「最後には」
「長野県の思い出にね」
「いいですね」
「お蕎麦と林檎をね」
「楽しんでそして」
「満足してね」
 そのうえでというのです。
「神戸に帰ろうね」
「そうしましょう」
「皆でね」
「それでね」
「長野県を後にして」
「神戸でもね」
「楽しく過ごしましょう」
「是非ね、本当に長野県のお蕎麦と林檎は美味しいよ」
 先生もすっかり魅了されています、この二つに。
「だから最後にね」
「黒いお蕎麦と赤い林檎をですね」
「両方食べようね」
 トミーにも言いました。
「是非ね」
「そういうことでですね、ただもう今の僕達は青い林檎は」
「主流じゃなくなってきているね」
「赤いものがそうなってきていますね」
「日本に来てね」
 すっかりと言う先生でした。
「そうなっているね」
「そうですよね」
「これも日本とイギリスの違いだね」
「小さな違いですけれど」
「このこともまた違うからね」
「頭に入れておくと面白いですね」
「そうだね、そういえば日本の歌でもあったよ」
 ここで先生が出した歌はといいますと。
「赤い林檎にって」
「終戦直後の歌ですね」
「あの頃の日本は食料不足だったけれど」
 敗戦の物資不足の中で食べものもなかったのです。
「けれどその中で林檎だけは沢山あったそうで」
「その林檎の歌にもですね」
「赤いとあるからね」
「日本では林檎はね」
「赤が主流ですね」
「そうだよ、そしてその赤い林檎を」 
 最後の最後にというのです。
「食べようね」
「そうしましょう」
 トミーは笑顔で応えました、そしてでした。
 皆は長野県を発つ前にお蕎麦と林檎を楽しむことにしました、長くて色々とあってとても楽しかった旅の最後に。








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